宇宙戦艦ヤマト編その13『波動砲の存在とは』


――アースが実用化し、普及させしタキオン波動収束砲はサンザー・イスカンダルの遺産であり、アースの軍事力のシンボルであった。タキオン粒子を用いるため、ガイアがサレザー・イスカンダルと結んだ条約には引っかからない。それに目をつけた芹沢虎徹はアースとの軍備規格統一を目論んだ。また、口約束とはいえ、ガイア・ヤマトクルーにとっては調印した条約であり、無効にしないという大義名分も成り立つ――


――アースがイスカンダル救援を行うより数ヶ月前のこと、帰還途上のガイアヤマトは初めて、アースを観測した。アースから見て、火星を通り過ぎたあたりだ――

――ガイア・ヤマト――

「あれが我々の地球の対になるもう一つの地球か…!」

「正確には、彼らこそがこの次元における本来の地球人だ」

「どういうことです、真田さん」

「我々も元々はこの世界の住人だが、何らかの現象でここ数百年は別次元に転移していた。だから、ここ数百年で知られるのと別の空域に位置するようになったというのは、我々のいるべき次元に戻り、アースの対になる軌道に戻っただけだ」

「アースは我々の地球の双子星なんですか」

「恐らくはな。地球は生物が生まれた星としてはありふれた進化を辿った。双子星であっても不思議ではない。アースにはその昔の反地球同様に、我々と同じ人物が同じような人生を歩んでいる」

「同じような歴史も?」

「うむ。我々とは別のガミラスと戦い、白色彗星帝国という国家と戦ってきた。アースのほうが苛烈な内輪もめも経験している分、軍隊は百戦錬磨だ」

「それじゃ、別のヤマトも?」

「アースの軍事力のシンボルとして君臨しているそうだ。ただし、構成される前提技術は我々の理論と別のタキオン粒子学に基づいている。一種の多元宇宙論の一説、時空の可能性分岐で割と近い所で分岐した可能性世界が合流し損ねて多重存在化したのがアースとガイアと仮に呼称される我々の太陽系に置ける現状と考えるべきなのだろう」

「アースは我々のイスカンダルとは別のイスカンダルから?」

「うむ。サンザー太陽系に位置するイスカンダルからタキオン粒子学を提供され、ガミラスを一隻で滅ぼし、その後はタキオン粒子を前提にしての航宙艦を進水させ、波動砲艦隊を構成するに至ったらしい」

「波動砲艦隊…」

「アースはここ6年以内に内輪もめと防衛戦争を立て続けに経験し、地球環境に大きな被害が起こっている。オーストラリアはその16パーセントを内輪もめで喪失しているそうだ」

「内輪もめ!?」

「うむ。アースでは地球連邦とそれに反対するコロニー居住者達の紛争が絶えず、ある戦争でコロニーをオーストラリアへ弾頭のように直撃させた。推定される破壊力は6万メガトンだそうだ」

「爆心地は!?」

「シドニーとキャンベラがすっぽり入る。その地殻変動で両都市は完全に消滅、途中で分離した破片がパリを消し飛ばしたそうだ」

アースではコロニー落としでダブリン、シドニー、キャンベラ、パリが完全に消え失せ、比較的に被害が少ない東京が首都機能を受け持っていた。それに言及する。

「通常、オニールの島三号は燃え尽きるのだが、それを覆す形で三つの街はこの世から消え失せた。外壁が頑丈だったのだろう。その戦争で主力として使われたのが、レーダーを撹乱するM粒子とMSという人型兵器だ」

「アースはロボット工学が?」

「我々の10年先は行っている。我々のコンバットアーマーやラウンドバーニアンと似通うが、宇宙と地上の双方で使える点で優れている。我々のラウンドバーニアンは宇宙開発競争時代の船外活動機が発達したものだが、モビルスーツは人型作業重機を戦闘用に手直ししていった末に成り立っている」

「アースはそれらを戦争の主力に?」

「諸兵科連合の概念も進んでいて、MSは宇宙戦闘機のサポートを受けつつ戦うドクトリンになっている。アースの地球連邦軍は宇宙を海と考えているからな」

「スーパーロボットも?」

「我々とは別のものが存在する。ゲッター線や光子エネルギーを動力にするロボットが向こうにはある」

ゲッターエネルギーはガイアに早乙女博士がいない故に実用化は見送られ、光子力は机上の空論とされてきたようである。ただし、光子力についてはガイアヤマトがいない間に目処が立ってはいたが。

「ゲッター線?」

「我々は危険性から実用化を見送ったが、アースはある天才科学者が制御に成功し、動力を製造した。それを積むロボットがゲッターロボだ」

ガイアの真田志郎はアースからの資料を見せる。マジンガーやゲッターロボのものだ。その破壊力は群を抜いているものだ。

「これが?」

「すでにアースはゲッターロボを第3世代にまで進化させている。建造用途も完全に戦闘用になり、武器一発で街を消し飛ばせる」

ゲッターロボはガイア真田の言う通り、ゲッターロボGからは戦闘用として作られ、真ゲッターロボではついに単機で街を消し飛ばせるほどになっている。Gのビームで金剛型宇宙戦艦の艦首衝撃砲を超えるという。

「ゲッターロボはゲッターエネルギー炉が進歩を遂げるにつれて強力になった。初代ではそれほど取り立てて強力ではないが、二代目で性能が飛躍した」

ゲッターロボ、ゲッターロボG、真ゲッターロボ。基礎設計そのものはゲッターロボGで完成し、以後はその設計がアークでも使用されている。ただし、真ゲッターロボ以降は関節の自由度が増し、卍固めが可能となっている。(ドラゴンは初代の延長線上なので、関節の自由度は意外に低い)

「その最大性能は?」

「未知数だそうだ。ゲッターエネルギーをどんどん高めると、未知の現象が起こるが、アースはそれを承知で性能を上げていったからな」

「こちらでの研究は?」

「過去に行われていたが、制御を受け付けなくなる臨界点が恐れられ、放棄された。真ゲッターロボはその想定されし臨界点を超えた数値のエネルギーでも稼働する」

真ゲッターロボはガイアが恐れた臨界点を超える高濃度ゲッターエネルギーで初めてポテンシャルを発揮する。それを前提に設計されたのだ。ゲッターエネルギーについては、ガイアではゲッターGを作れるかどうかの水準で止まったのに対し、アースではゲッターエンペラーになるために研究が絶え間なく続いているのだ。

「どういうことですか」

「アースはなにかに取り憑かれたようにゲッター研究に邁進しているんだ。その副産物で輪廻転生についても研究が進んでいる」

「輪廻転生!?」

「それを突き詰めていけば、死んだ人物のコピーを作れるようになるそうだ。意識の保存すら実験段階にあるそうだ」

意識の保存は30世紀には実用化されている技術であり、それを23世紀に持ち込んだグレートヤマト。元々は宇宙四大頭脳の真田志郎(アース)の培った知識をデータベースにしようとした過程で実用化した。それを完璧な状態で行使できるのがゲッターエンペラーであり、巴武蔵を模した指揮官を大量に用意するほどだ。元々、23世紀中に脳の記憶を取り出して閲覧できる程度にまでなっていくのを、700年分の進歩を先取りする事で、自我意識の保存に踏み込んだのだ。意識のクローンへの移植。あるいはコンピュータに移植する。30世紀のアルカディア号の中枢大コンピューターに大山敏郎(キャプテン・ハーロックの親友)が肉体の死とともに魂をコンピュータに移植させたことでも証明されている。

「意識の保存?」

「あまり褒められた技術ではないが、アースでは、一度実用化された技術が戦争で失われた例がかなりある。それを防ぐために実用化されたそうだ」

「それほどの戦争が過去に?」

「おおよそ22世紀前半期からの長い大戦でそれまでの文明が崩れ、再構築した文明がアースで今栄える文明だそうからね」

ガイア真田が言う、再構築されし文明は23世紀に存在するアースの文明であり、時空融合などの影響で本来は別の平行世界で実用化されるはずの技術までも取り込んで、軍事面ではその前より強くなった文明を指す。ただし、民生分野ではかなり変容を余儀なくされ、ドラえもん時代の名残りはタイムマシン程度であるが、自己製造はまだできていない。これは根幹になる技術が統合戦争の混乱で失われたからで、タイムマシン技術や空間歪曲技術(どこでもドア)などは反統合同盟により散逸させられたため、その元構成国はかなり肩の狭い思いをしている。また、癌や脳卒中など、いかなる病気にも効くとされた『ウルトラスペシャルオールマイティーワクチン』はドラえもんが持っているものを元に、再実用化を目指しているが、スペースコロニー居住者から反対されている。地球連邦は『かつて持っていたロストテクノロジーの復活にすぎない』との見解だが、ネオ・ジオンは禁断の領域だと反発している。そのいたずらな反対こそ、ジオンが総帥のシャアにさえ『もって数十年』と揶揄される理由だ。また、既存宗教からも反対されているが、かつては末期癌にも効く特効薬として使われていた事実がある。22世紀前半期には宇宙放射線病が宇宙救命ボートの実用化で問題になり始めていた頃なので、探検家に重宝されていたのだ。そのため、再実用化にこぎ着けた23世紀前半からは『海軍』の軍人なら補助が出て、予防接種ができるのである。仕組みとしては異常がある細胞を健康状態に修復するというものだが、がん細胞すら制御し、正常に戻してしまうために万能薬とされたのだ。宇宙ガンと称される宇宙放射線病も、この再実用化で植物状態の沖田十三(アース)に試験的に投与したら、たちまちに健康状態に戻ったほどだ。これは万能薬の証明にもなったが、医学の進歩的には踏みとどまるべきだとする意見も根強く、沖田十三は重要人物(ヤマト艦長かつ、地球連邦宇宙艦隊の総司令になり得る人物)だからこそ、ドラえもん提供の純正品が投与されたのだ。

「アースは内輪もめが激しいそうだ。外宇宙時代を迎えても、地球圏でくだらない小競り合いを繰り返している。我々よりある意味、一つにはまとまっていないのだ」

ガイア真田の言う通り、アースはスペースノイドとアースノイドの対立が依然として、外宇宙の脅威より現実的脅威として論じられている。それに呆れるようなまとめ方である。実際にそうなので、アースとしては耳が痛い。そのアースでは、智子がある映像を黒江に見せていた。



――アース 呉宇宙軍港周辺の軍人用保養施設――

「俺に見せたいもの?」

「この前、竹井んとこに人事異動の通達に行ったでしょ?その時の映像よ」

それは中島錦の魂の出自が通算で三代目のプリキュアに当たることが判明した際の映像で、のび太が美琴に見せたのと同じものだ。怪異の攻撃で負傷した中島錦がスックと立ち上がり、どこかで見たようなアイテムを空中元素固定で作り、『プリキュアメタモルフォーゼ!』と叫んだのだ。黒江は飲んでいたコーラを思い切り吹き出してしまった。

「ブフォ!!ま、マジィ!?」

「マジよ。天姫なんて衝撃のあまり放心状態よ」

「これ、キュアドリームじゃん!えーと、確か三代目の!バッチリ変身してるし!予想外だった…てっきりさ、あのガキの声質からして、エウレカセブンかと」

「リーネが美遊になりそうだから、圭子は睨んでたわよ。でも、この線だと、芳佳もキュアハッピーになれそうだし、フェイトはキュアブロッサムに…」

「そうなると、キュアラブリーは衣笠か、イムヤだなぁ…それと506のジェニファー・デ・フランクはキュアピーチ…キリがねぇぞ。セシリアも初代になれそうだろ、そうなっちまうと」

「うーん。その辺は士に調査してもらいましょ。この場で推測しあっても切りがないし。でも、この技、どう思う?」

「?」

『プリキュア!シューティングスタァァ!』

錦本来のハスキーボイスではない、普段より高めの声色での必殺技の発声、シャインスパークを思わせる『ピンク色のエネルギーを纏っての突撃。圭子が過去にシャインスパークを使用していたので、既視感に溢れている。

「うーん。発想がシャインスパークだな。あん時の事を覚えてんのほとんどいねぇけどな、今は」

「竹井はすぐにわかったし、ドッリオ少佐もシャインスパークって名前までは知らなかったけど、似た技を圭子がやってたのは聞いてみたみたい」

錦、もとい、キュアドリームが見せたプリキュアシューティングスターが描く軌跡は真シャインスパークに似ていた。錦はこの時、完全に中島錦ではなく、プリキュア5のキュアドリーム/夢原のぞみになっていた。声色が普段より高めになっていたからで、立ち合っていた智子を差し置いて、完全に主役である。シャインスパークは本体だけUターンして離脱するが、プリキュアシューティングスターは炸裂の瞬間に相手をぶち抜いてから、体を量子化から再構成している。この時、504の移籍作業のため、黒江の命で智子についてきていたある幹部自衛官はこういった『これ、シャインスパークじゃない。V-MAXのレッドパワーだ、ル・カインだ』と。その同僚が『それを言うならザカールだろ?』と突っ込んでいる。

「うーん。こりゃ完全に見せ場取られたな?」

「ええ。もう形無し。ま、本人は覚えていなかったけど、一時的な表層化ね」

しかし、その流れでバッチリ名乗りからの必殺技と、ヒーローのお約束は果たしており、竹井もびっくりのG化の兆候だった。しかし、この映像はしばしの間は秘匿され、ミーナへの査問の際に使われることになる。また、ミーナはこの流れで、ガランドに『九条ひかり/ シャイニールミナス』の線が疑われたが、西住まほであった。世の中、そう甘くはないのだ。


「リーネは美遊・エーデルフェルトの自我が徐々に目覚めて?」

「ええ。多分、ビューリングがあたしの僚機として派遣される手筈になったから、負い目を感じて、前世の記憶に自分を委ねたいんでしょう。前史であの子は太平洋戦争には行かなかったのを悔やんでたもの」

「あれな。どうしてだ」

「血で血を洗う戦争に怯えたり、人を殺せないからでしょうね。でも、それがあの子を終生、追い詰めた」

「だからって、もっと過酷な生き様だった美遊・エーデルフェルトの記憶に全てを委ねるのか?」

「芳佳の側にいるためなら、リネット・ビショップなんて名前は投げ出すわよ、あの子。そのくらいの感情を抱いていたわ。公言しなかっただけで」

「うーむ……それがリーネにとっての約束の土地なのか?」

「ええ。元々、家では目立たないポジションだったし、芳佳といる時だけがあの子には喜びだったわ」

その通り、黒田の行いで完全に覚醒した後は芳佳が角谷杏、星空みゆき/キュアハッピーの要素に目覚めていくのに対し、リーネは完全に美遊・エーデルフェルトとして生きることを選び、リネット・ビショップとしての生をかなぐり捨てる事となる。8人の兄弟姉妹の真ん中であったため、執着が無かったのも関係している。ただし、母親のミニーに真実を告げるのは、ガランドの役目であった(ブリタニア空軍に影響力を行使できる)が。ガランドはこの役目はかなり骨を折ったようで、菓子折りを持参し、本人の手紙を手渡すなど、リーネの意志である事を強調して望むが、激怒したミニーにかなりどやされ、当時の海軍提督である『アンドルー・カニンガム』に泣きつき、彼に擁護してもらったという。また、その護衛についていた若松による物理的説得もなされたという。なお、リネットの妹のキャサリン・ビショップ(リネットのすぐ下の妹。リネットの後継を目されていた)が消息不明とされたリネットの後釜として、戦争が激しくなり、家計が思わしくなくなった父親に軍隊へ行かせられた事がわかると、美遊の姿ではあるが、リネットとして面会し、彼女にビショップ家の名跡を守るように言い聞かせ、妹を説得している。これが妹へ姉としてできる最後のことであった。キャサリンはその後、姉達の後を継ぎ、空軍で栄達。空軍高官にまで登りつめ、歴代のビショップ家ウィッチでの出世頭となる。成長後は姉に生き写しになり、姉の頼みで影武者を度々演じたという。また、栄達後は美遊を副官とする姿が知られるが、それは姿を変えた姉と一緒にいたいからであり、この時のゴタゴタがキャサリンに精神的ショックを与えたのは事実だ。

「まー、あの家、ウィッチがポコポコ生まれるから、リーネが代わりはいるって心境になるのも無理ネーな」

「すぐ下の妹が軍に入れられたって、ロンメルから連絡あったもの」

「大家族だと、こういう時に後味悪いんだよな。親はすぐに下を代わりに使うから」

「あそこ、商売が傾いて、それで軍隊からの給金に親父が頼ったみたい」

「扶桑相手の商売でも傾いたか」

「いいえ、リベリオン相手らしいわ」

「あー…」

ビショップ家は商人であったが、リベリオン相手の商売で痛手を被ったらしい。21世紀の大手企業が進出したことでの弊害をここで黒江は知ったわけだ。ビショップ家はこの時期、家がリベリオンへの投資に失敗して大損しており、それを補うために3人目のウィッチを送り込んだが、不本意な軍志願であったらしい。そのため、美遊はキャサリンの現役中は影に日向に助け、栄達させる事に成功する。家が傾いた理由が黒田が経営を始めたファンドの逆張りをし、惨敗したのが原因であり、黒田の商才とビショップ家の山が外れたことの証明であった。黒田はメタ情報と裏を取る確実な投機で儲けており、ビショップ家は史上稀に見る大惨敗を喫してしまい、そこもキャサリンを無理矢理軍に行かせた理由だった。黒田は軍人として栄達しつつ、ダイ・アナザー・デイ直前に当主就任が内定してしまい、婿を探していた両親をがっかりさせていたが。

「邦佳はメタ情報で儲けて、もうじき当主継承よ。あの子、アナハイムとサナリィにも出資するって」

「あいつ、川滝がここ最近の出費で泣いてるから、アナハイムとサナリィに出資しようって腹か?」

「これでクラスターガンダムとアナハイム系は容易に回せるわよ」

「五式の利益で儲けて…いないか?川滝」

「三式二型がボツったから、設備投資が無駄になったらしいわ」

「日本は飛燕装備の部隊を泣かす気か?」

「前線から無理に回収したらしいわよ、日本の防衛省」

「どうしてだ」

「飛ぶと壊れる三式より、五式だけを作れってメーカーの技術屋に怒鳴りつけたとか」

「あほかー!」

当時、三式戦は1800機を超える生産数であったが、日本が各地から輸送空母で回収させたため、前線から苦情が舞い込むのが毎日であった。当時、二式戦はすでに三型が生産中止、二型もラインが閉じられていた、四式戦闘機は機体の再設計で製造ラインが遊んでいたし、一式戦は水エタノール装置の調整に手間取っていた。工場から出た三式の首なし機体は当時、既に600機に達していた。工場から道路まで延々と600機の首なし機体が鎮座する異常事態は陸軍を悩ませた。本来は三式二型用に用意した機体だからだ。しかし、日本は空冷エンジン至上主義であるのか、三式二型の生産を許可しなかった。その流れで具現化したのが金星エンジンでの空冷化である。これは史実のハ140の惨状を理由にした日本の指示による空冷化であった。これはDBへの載せ替えが横行していたのを無くそうとしてのものだったが、扶桑の工業力に不安があったからだ。また、川崎重工業がDBを飛燕に載せる事を非推奨とした事も理由であった。これは日本では独自設計だが、扶桑ではメッサーシュミットの情報を元に規格統一されていたことによる認識の違いだった。この認識の相違が悲劇となった。川崎重工業が分解してみると、エンジン部周りはメッサーシュミットと共通設計になっていた事が判明したが、もはや引っ込みがつかないため、一端回収し、新造の五式を送り込むことで誤魔化す事にしたのだ。既存の機体も回収して、順次、空冷化してしまっているからだ。


「日本はなんて?」

「エンジン周りはメッサーシュミットと同じ設計になってるのに気づいたけど、もう引っ込みがつかないから、首なし機体を五式にして補填するって」

「アホー!マヌケー!!」

「あんたがコンペで採用させたキ100の初陣がこんな形でとはね」

「全く、四式戦は再設計の手間がかかるから、手っ取り早く飛燕を揃えようとしたら、これだもんな」

元々、扶桑は1942年度までに設計された新型戦闘機は折しも、クロウズの絶頂の頃であったため、ウィッチ支援機の体裁が強かった。その申し子が疾風であった。一応、戦闘機としての用途を果たせるようにいくつかの燃料タンクを弾倉に変えられるように設計してあったが、機銃規格が変わったので、無意味となった(ホ5の採用による)。20ミリ砲の搭載と防弾装備のさらなる充実も要求されたため、当初の航続距離はスポイルされた。また、日本側は疾風の性能向上よりも、『実績』のある紫電改の改善に熱心であるというのも、長島には屈辱であった。疾風の史実での立場を考えれば、仕方がない事でもあったが、烈風が戦闘爆撃機として使用される見込みなのも、宮菱も想定外である。日本はベアキャットを異常に恐れており、既に初期生産が始まったジェットである、旭光と栄光に傾倒している。F-86は航続距離こそ後世から見れば、それほどではないが、Me262の倍以上は飛べる。また、後退翼と胴体内蔵式のエンジンの恩恵で、運動性能はメッサーの比ではない。空戦性能は日本系レシプロ機の異常な運動性には及ばないが、総合的には勝っている。元自衛隊系パイロットを義勇兵として動員できることからも、日本は傾倒していた。また、史実1964年の五輪でのブルーインパルスの功績もあり、扶桑でなんとか生産可能な最高性能機と見込んでいたからでもある。

「でも、セイバーって航続距離短いって聞いたわよ、実機」

「アホ、そりゃターボジェットなんだから、ターボファンより効率悪いの当たり前だ」

「あ、そだっけ」

「ああ。ファントムの代までターボジェットなんだよ。作戦用に小型のターボファンに載せ替えるのは具申したが、強度計算の手間の問題があって難色を示された」

ターボファンエンジンに載せ替えて使用することを黒江は具申したが、設計が古いセイバーにターボファンを載せるより、より世代の新しい戦闘機を用意すべしという反対論もあり、難色を示されたと告げる。そもそもF-15/F-2ら現行世代の派遣を政治的判断で見送ったのは防衛省自身だが…。

「米軍がラプターをこれ見よがしに送って来たんだが、あれで防衛省は喧々囂々だ。メンツ論が再燃した」

「メンツぅ?」

「ああ。国会でも問題になったから、今更、F35に機種変更したいとさ。ふざけてやがる。20世紀から21世紀前半の戦闘機は機種変更に数週間はいるんだぞ、全く。バルキリーの時代みたいにポンポン乗り換えが効かねぇのに」

「いっそのこと、バルキリーに乗せちゃえば」

「アホ、空自の整備班が現行のビームガンポッド装備型を…」

「だから、VF-11以前のやつよ。あれなら21世紀とエンジン以外は差が少ないっしょ」

「もうちょい安全牌とって、VF-1Exにする。あれなら21世紀の空自の手に負えるはずだ」

こうして、黒江が作戦中に現地調達という形で認めさせたのが、VF-1EXとセイバーフィッシュの配備である。F-4EJ改が経年劣化でボロボロになっている事を鑑みて、防衛省も認めざるを得なかった。タブレットを手に取り、新星インダストリーに連絡を入れようとしたが、そこに統括官としての副官からのメールが届いていた。それは。


「ゲ!もう最悪だ〜!義勇兵を今から集め始めないといけないやん!クソぉ、誰だよ、生え抜き扶桑兵の参陣を規制したのー!」

黒江は愚痴るが、日本側が未熟な若者を死なせるのを嫌がり、その代わりの人員を教官級から少なからず宛てるのにも反対された兼ね合いで、黒江は義勇兵をわずかの間に2000人から3000人は確保せねばならないと愚痴る。黒江はこの後の東二号作戦の頓挫もあり、とんだ災難を背負い込む事になり、予想されし慰労金がとんでもない金額になり、物議を醸したという。しかし、日本側の勘違いが招いた混乱であるのは確かである。日本はあ号作戦の悲劇を恐れ、飛行時間800時間超えのパイロットのみを要求したが、パイロット/ウィッチともに扶桑海以来の古参兵でもないと、そこまでいかない。参加基準の緩和を求めるのは当然の帰路であった。

「こりゃ2000年代だけじゃ、とても賄えねぇ。昭和後期からも集めねぇと数が揃えられない」

「そんなに?」

「空母着艦技能付きまでとなると、2000年代までいくと、そんなにいねぇよ。昭和後期の頃に行かねえと確保できねえ」


黒江の言うように、日本軍がまともに空母を運用できたのは、戦争中は41年から44年6月までで、その生存者を探すのは、年代を1950年代以前まで拡大しないと集められない。

「最悪、戦後直後の頃に行かないと、空母の指揮官級は揃わん。後世になるにつれ、一兵卒しかいなくなるしな」

「つか、撃墜寸前に拉致っちゃえば」

「その手もあったな。空母はこれで賄えるだろう。陸は空自出身でもいいからな」

黒江はこうして、タイムマシンを用いた拉致も含めて、義勇兵を確保していく。また、黒江が21世紀で懇意の戦友会の会員たちは公的な第一次募集に全員が応募したとか。

「まず、21世紀で公的な応募を厚生労働省にも声をかけて、手づだってもらう。軍籍関連の書類はあそこが所管だしな。それから非合法に移る」

「あ、また鳴ってるわよ」

「?…えぇ?保安庁の尻拭いをしてくれだぁ?国土交通省の管轄だろ」

また、海上保安庁がやらかした不手際が扶桑に負担を強いたという失態の尻ぬぐいも事実上、黒江が仲介したので、ますます再建が後回しになり、海保は始まって以来の冬の時代を迎える。特に、高い予算をかけて再改装した三笠をオリジナルにできるだけ戻して売れという事になってしまったことの引き金を引いたのは保安庁トップなのだ。三笠は日本にも現存するが、装備は戦後に復元されたレプリカであり、扶桑の初代三笠を強引に買い入れるのも無理からぬ事ではある。しかし、海援隊が長らく使用していたため、オリジナルの部品はかなり減っているのだ。副砲や補助砲もオリジナルのものでなく、1920年代以降の備品に換装されている。主砲が辛うじてオリジナルである程度だ。また対空装備があるなど、かなり手が入れられており、それらを撤去していくなど、いくら坂本協会でも負担が大きすぎる。日本側は映画撮影用も兼ねた稼働する記念艦にしたい意向であり、そのためにオリジナルでない追加武装を撤去したいのだが、法律的に電探は積まないとまずい。そのため、電探と音探は21世紀の民間用のものに変え、通信設備も21世紀の民間船水準に変える事で妥協され、日本に現存するものより程度がいい上、砲塔が稼働するために大々的に式典が行われたという。また、その更に沖に、扶桑海軍から退役した長門が後日に繋留されるため、三笠公園は名を『三笠・長門公園』と改めたという。扶桑の長門はビキニ環礁に横たわる日本の長門と違い、M動乱まで第一線任務に用いられ、ポケット戦艦を圧倒せしめた実績もある武勲艦だ。退役時は招致が呉と横須賀で争われたほどだ。自走可能、砲塔稼働可能な良好な状態で退役したため、21世紀の時代にちょっとした話題を呼んだ。『つい最近まで旗艦だった』名残りも残されていることから、記念撮影が盛り上がったという。戦争前半期の第一線級戦艦としての形が保たれての保存は評判が良く、戦争がなく、円満に退役できたら?を実現したといえよう。扶桑は既に第一線の戦艦を大和型に切り替えていたから実現したが、陸奥のスクラップ行きの選択は嘆かれたとも。また、完璧な状態で長門が繋留された事で、艦艇研究者の間での研究が盛んになり、ビスマルクの評判が下がったという。(逆に言えば、最強の旧世代戦艦の異名を長門が得た証明であるが)


「やれやれ。海軍省が長門の日本への提供を呉や横須賀の招致を押し切って実行するのに、水指すなぁ…保安庁め」

「ま、長門を提供する理由、向こうはわからないんじゃない?」

「大和がポンポン作られてるから、わかんだろ。ウィンウィンだろ。向こうは大戦型戦艦の現物が得られる、こっちは超大和や大和に買い換えられるからな」

「日本は稼働するなら、長門を再利用したいって意見があるそうよ」

「ま、護衛艦よりでかいしな。自前で戦艦持ちたいんだろうさ」

「でも、反対論があるみたいね」

「貴重な戦間期型だからな。どーせこれからラ級作るし、大和型を一隻レンタルする案を海自に出したそうな」

「レンタル?」

「自前で作れるほど、21世紀の日本は金も技術もないからな。燃料費と主砲の弾丸をこっち持ちなら、財務省も折れるさ」


これらを経ての日本に取っての大誤算は、この時に生え抜き扶桑兵の参陣を規制したのが理由で扶桑での内乱が起こることだろう。

「さて、これで内乱は確実だな。錦がキュアドリームになったのは僥倖というべきか?」

「でしょうね。あと数人は芳佳やシャーリー、場合によれば、フェイトで賄えると思うわ」

「喜んでいいのかわかんねーな」

「とにかく、これで錦が完全にキュアドリームになれば、100万の兵士を味方につけたも同じよ。いくらあたしらが一騎当千でも、全部の戦域はいっぺんには支えられないし」

「たしかにな。東二号作戦は多分潰れる。教官級を前線に出すのを特攻と勘違いするだろうし。その時になれば、俺らを知ってる世代の野郎どもが来てくれるさ」

「で、あの子達は呼ぶの?」

「声は一応かけといた。調はこっちで呼び寄せるが、あいつは教育が必要だ。なのはに任せる」

黒江はこの時、ミスを犯した。なのはを買いかぶっていたのだ。なのははティアナ・ランスターの場合と同じような事を立花響にやってしまう。その尻ぬぐいをする羽目になるのだ。なのはは教育に気質が向かないとされ、黒江たちも気をつけていたが、いくらなんでも転生した以上、同じミスはしないだろうとし、任せたのだが…。一方の響は響で、ガングニールへの重度の依存が原因で、蛮勇と言える行為に動いた結果、なのはに残酷な光景を見せつけられてしまう。乖離剣エアの前にはガングニールは通じない。エルフナインが危惧したように。ガングニールを心の拠り所にする響は、ガングニールをグングニルの名を喪失したマガイモノと、邪神エリスに扱われた事に強く反発していて、エリスを『キャロル・マールス・ディーンハイムを乗っ取った、神を名乗る存在』と捉え、キャロルを救おうとしたが、ゲイ・ボルグにガングニールの力を超えられる形で昏倒させられ、結局、知らぬ間に黒江達が倒していた。その後の動乱は天秤座の童虎により、話し合う前に、一瞬で鎮圧されてしまった(廬山百龍覇で一撃)。聖闘士とそれに匹敵する力を持つ兵器が動乱を鎮圧したことは、シンフォギアの存在意義が問われてしまう、居場所を失ってしまうと危惧し、情緒不安定気味であった。また、次の動乱での敵であるサンジェルマン達を話し合う云々以前に、童虎が一瞬で倒してしまったことは、話し合った上で拳をぶつけるという信念を持つ響の反発を呼んだ。その色々なフラストレーションが響にあったのも事実だ。また、黒江や調との間に溝ができてしまった事に思い悩み、二人とどう向き合えばいいのかと考えるのも彼女らしい。こうしたフラストレーションが溜まっていたことが、なのは、ガイちゃん、調の三者の荒療治を呼び込んだのは事実だ。特に、響が乖離剣を見せつけられても、自分の正義と信念を貫くために抗った事はなのはに問題行為をさせたのである。

『ガングニールを失ったのは貴女の責任、何故、修復出来るうちに降参しなかったの?こちらはギアを壊しても貴女自身にはダメージを入れない様に戦っていたの解る?』

なのはは青年になると、こうした他者から見ると、冷酷非情にも取られる台詞回しをハッタリで用いる。『貴女は限界を見極めること、限界を超えるためのビジョン、己をあえて曲げる柔軟さが足りない。そのためにも、少し……頭冷やそうか』と続けた事は流石に攻め過ぎだと青年のび太に叱責されている。(響も後でやんわりと怒られている)なのはは口が足らない上、自信を打ち砕くような教導であることから、反発も買いやすく、教導官としての評判は可も不可もないとされる。黒江に切歌が『どうして、どうして、あそこまでする必要があったんデス!?これじゃただの、只のねちっこいイジメじゃないデスか!!』と抗議した事で、事を知った黒江が『あの馬鹿、やらかしたな!』を顔色を変えたという。(なのははお説教を黒江、青年のび太、ドラえもん、上官のアムロに食らったとか)


――こうして、黒江達が色々な問題に向き合う中、唯一のミスは立花響への対応を『前科』のあるなのはに任せた事だろう。結局、なのははこのミスでメンタル面の教育には向かないことを確認され、なのはは教導隊を辞するとまで落ち込むのである。フェイトの説得で思い留まるが、メンタル面の教育は辞退するようになったという。また、それ以後、メンタル面の教育はフェイトに任せるようになったとの事で、フェイトから容姿の変更の術を習い、フェイトに遅れること一週間で小学生モードになり、黒江の言いつけで一週間のウィッチ宿舎の従卒勤務を申し付けられたという。



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