黒江綾香は新暦75年のミッドチルダに扶桑海軍主力を呼び寄せた。全てはドイツ海軍に対抗するため。指揮官として経験不足な八神はやてを補佐すべく、
便宜上、「観戦武官」としての身分だが、機動六課を事実上取り仕切っていた。
無論、機動六課の部隊長補佐たる「グリフィス・ロウラン」などは黒江の能力に疑問を呈したが、
それら反対意見は黒江が長年培ってきた部隊運営能力を示すことで封じ込めた。
なのはとフェイトは黒江自身が師の一人である故、全幅の信頼を寄せており、それが六課の人員達に黒江のことを認めさせる材料となっていた。

「少佐、これが本日の事務書類です」
「ああ、分かった」

黒江ははやての補佐役として事務書類をテキパキと処理していた。505などの数多の部隊に所属していた経験上、
こういう事務関係の仕事も手馴れているので、黒江一人のおかげで効率は以前よりアップしていた。

「……‥問題はドイツ海軍がどう出るか、だな」
「ドイツ海軍ってあんまり強いってイメージないんですけど、どうやったんです、実際のところ」
「そうか、お前らには第二次大戦中のUボート最優先の海軍しかイメージないんだったな。
第一次大戦の時は英国に次いで、世界二位の海軍力を持ってたのは意外に知られていないんだよな。
今回の敵は主にこの時のドイツ海軍が保有していた大海艦隊に第二次大戦中の艦を加えた混成編成だ。近代空母も確認されている」
「空母?日本とかと違って、ドイツは空母持ってなかったはずなんやけど……?」
「奴らは何でもありだ。空母作った世界から呼び寄せたんだろう。グラーフ・ツェッペリンとペーター・シュトラッサーの2隻の正規空母を主力に、
ヴェーザー級軽空母も数隻いる。艦載機はBf 109T。これはウチらの紫電五三型で対処する手はずになってる」
「日独の空母決戦っつうわけか……信じられへん、このミッドチルダで第二次大戦中みたいな事が起るなんて」

はやてはミッドチルダで第二次大戦をそっくりそのまま再現したかのような戦が起るという事に運命のいたずらを感じた。
第二次大戦中に起こった空母決戦はいずれも日米の二大海軍が起こしたもの。
はやては`日本海軍`が味方といっても、自身は史実の戦争末期のマリアナ沖海戦とレイテ沖海戦での圧倒的な負け戦の印象が強い故か、
扶桑海軍への拭えない不安を垣間見せた。いくら日本海軍が無敵だった時期があったといっても、どうしても信じられないのだろう。
黒江は扶桑海軍が史実での常勝期の日本海軍と同等の平均練度を持つ事を知っているので、
はやてに大丈夫だと告げると、論より証拠の論理で、この日に偵察航海に出る「第二水雷戦隊」、その旗艦の阿賀野型軽巡洋艦3番艦「矢矧」に観戦武官として乗艦させた。

−乙巡「矢矧」 艦橋

「ようこそ八神二佐。私が本艦−矢矧−の艦長「原為一」大佐だ」
「八神はやてです。お世話になります」

はやては黒江と共に第二水雷戦隊と矢矧の首脳陣に挨拶する一方で、内心はまさか自分が旧軍の巡洋艦、
それも大和の最後の出撃に同伴し、没したはずの「矢矧」に乗艦する事になった事に不思議な感情を抱いていた。

(これが旧海軍の栄光を担った船……それも大和を守って果てたっう……私の時代にはもうこの世にないはずの船なんや……なんか不思議な感じやで)

その後、はやては士官用の部屋に案内されたが、元の世界で見た自衛隊の護衛艦より圧倒的に居住性が悪い事に驚いていた。
何せ日本海軍は個艦性能の優越を是非としているので、居住性はある程度犠牲にされている。
何せ寝床がハンモックなのだ。ベットなどない。はやては正規軍人として、
こういう経験があるなのはや同じような生活に慣れたフェイトと違って、ハードな訓練はあまり受けていないので、これは堪えた。

「ハ、ハンモック……べ、ベッドは、ベットないんか……?」
「日本の軍艦は基本、戦闘力重視で、居住性なんて二の次だから我慢しろ。これでもいい方に入るんだぞ。
ベットで寝たいんなら大和型戦艦に乗るしか無い。長門だってこれだぞ」
「嘘ぉ……だから自衛隊の船は居住性いいんやな……」

はやてのその嘆きは当たらずしも遠からずと言ったところだが、実際、旧軍艦艇の居住性は大和型戦艦を除けば悪い部位に入る。
ヴィータやシグナムが見たら憤慨間違い無しの居住性の悪さ。しかし古きよき軍艦である矢矧ではこれでもいいほうなのかも知れない。

黒江は既に慣れっこのようで、ハンモックで寝ている。はやてはこうなれば一蓮托生だと言わんばかりにハンモックに乗っかり、しばし仮眠を取った。

 

 

−それから数時間くらい経っただろうか。水兵が2人をたたき起こしにきた。戦闘配備になるとの事だ。

「何、戦闘配備だと?敵艦でも見つけたのか」
「ハッ、アドミラル・ヒッパー級重巡洋艦のようです。他は護衛のZ5型駆逐艦
もいるようです。司令長官はお二人に艦橋に上がるようにとのことです」
「分かった」

この時期の第二水雷戦隊司令長官は木村昌福(きむら まさとみ)中将。
キスカ島撤退作戦を成功させた事で有名な武人。黒江ははやてを伴って艦橋に上がる。
彼と対面する事ではやては`司令長官とはなんたるものか`を学ぶことになる。

 

艦橋では木村中将以下の幕僚等が双眼鏡で敵を視認していた。

「フム、アドミラル・ヒッパー級の射程はどの程度かね」
「射程は並の戦艦に匹敵します。もうそろそろ撃ってくるでしょう」

木村中将はこの報告にも落ち着いた表情を崩さない。いくら最大射程で撃とうが当たる確率は低いし、
ドイツの水雷装備は日本(扶桑)の誇る酸素魚雷には及ばない事を承知している故であった。

「司令長官はどうしてそんなに落ち着いているのですか?実弾が飛んでくるんですよ?」

はやては公の場では関西弁を使うのは控えている。ミッドチルダで関西弁が通じない可能性を考慮に入れての事で、
それは日本海軍の提督らに対しても同じであった。木村中将ははやての懸念を一蹴するように言う。

「二佐、そういえば君の時代では砲撃戦は廃れているのだったな」
「は、はい」
「心配せんでいい。砲撃戦というのは闇雲に撃っても早々当たるものではない。たとえレーダー射撃でも、だ。
弾同士の干渉、空気抵抗、炸薬の年数によって命中率と破壊力は変わる。
ただ飛ばせばいいというものではないのだ。敵さんもわかっとるよ」

「敵艦との距離、25000!!あっ、敵艦、発砲!」
「来たな」

この時、ドイツ側水上部隊を率いていたのは「ギュンター・リュッチェンス」中将。
史実ではビスマルクと共に果てた(正確には艦橋が破壊された際の戦死)男。彼は水上部隊を率い、日本海軍(扶桑海軍)第二水雷戦隊に戦いを挑んだのである。

アドミラル・ヒッパー級の20cm砲弾が矢矧の周囲に至近弾として着弾。矢矧の艦体を激しく揺さぶる。
それは艦隊同士の砲撃戦を初めて味わうはやてには驚きの連続であった。

「き、きゃあああっ!?」
「落ち着け、この程度でビクつくな」

はやては床が激しく揺れるせいか、立つのもやっとと言う有様である。対して黒江は遠洋の移動の際に海軍の世話になることも多かったせいで、
もはや慣れっこである。日本刀を杖代りに地面に立たせ、微動だにもしない。

アウトレンジ攻撃されているというのに第二水雷戦隊幕僚らは落ち着いた様子である。

「敵は我が方よりワンランク上の甲巡だな」
「ええ。ですが、取っ組み合いなら我が方に部があります」
「ああ。乙字運動、密に!九三式魚雷の発射準備急げ!!横腹を見せたところに叩きこむぞ!!」

日本海軍必殺兵器「九三式魚雷」。その破壊力は第二次大戦中の魚雷では随一。戦艦であろうが一点に4、5発当てれば沈没する。
連撃は大和型戦艦でもないかぎり持ちこたえる事は困難を極める。矢矧の切り札は正にこれであった。

矢矧は味方駆逐艦の盾になるかのように、敵甲巡の砲撃を一手に集めていた。ジグザグに動き、砲弾を巧みに命中させない。
21000になれば矢矧の砲も応戦可能となる。だが、その前に魚雷を命中させなくては活路は無い。
木村中将はアドミラル・ヒッパー級が横腹を見せるのをひたすら待った。

「司令長官、撃たれ続けてると味方の士気が……」
「いやこれでいいのだ、二佐。耐えぬき、隙を見せたところに必殺の一撃を叩きこむ。これが我々の`海の戦だ`」

はやての進言を木村中将は退ける。第二水雷戦隊司令長官としてのカンに頼るような発言だが、的を得ていた。
旧軍の人間たちの豪胆さに、はやては舌を巻く思いであった。
そして、敵がこちらの必殺のタイミングたる「横腹を見せた」時、木村中将は下令した。

「艦長!」
「魚雷、発射ヨーイ!!てぇ――っ!」

矢矧の旋回式魚雷発射管がアドミラル・ヒッパー級に向けられ、四連装2基、つまり8門の魚雷が同時に発射される。
音響追尾魚雷は扶桑海軍はまだ導入していないので、「数撃ちゃ当たる」の図式で8本の魚雷が向かう。
途中で3本ほど自爆したもの、5本はそのまま直進していき……。

 

 

 

―アドミラル・ヒッパー級

「艦長!魚雷です!!馬鹿な、速い!!」
「噂の`Spear Lange`だ!!回避運動、急げ!!」

リュッチェンス中将は日本海軍が大戦で用いた酸素魚雷の事は知っていた。史実では彼は日本が戦端を開く前に戦死したが、
彼がいた世界では大戦が5年遅く始まり、枢軸国海軍が連合国海軍に国の敗北前の意地で大打撃を与えて条件付き降伏(日独双方)に持ち込めた。
そのため酸素魚雷の事を知っていたのだ。回避運動を急がせ、4本は避けたもの、運悪く一発が命中する。

轟音が響き渡り、水柱が舞い上がる。アドミラル・ヒッパー級は防御に不安があり、日本の酸素魚雷が一発でも当たれば致命傷にもなり得る。
だが、彼等は人ではなくなっているので、強引な応急修理も可能ではある。その点も大きく、リュッチェンス中将はダメージコントロールを命じ、
なんとか航行可能な範囲内のダメージに留めた。

「損傷は?」
「装甲をぶち抜かれましたが、なんとか応急修理しました。浸水も止まりましたが、戦闘継続は出来ません」
「ウム。潮時か。全艦に打電!この場から離脱する。戦果は?」
「敵駆逐艦3隻を大破せしめました」
「まあ上出来か」

日本の駆逐艦は重雷装艦が多い。が、防御力はダメージコントロールに優れた米国などの軍艦に劣っている。その点を突き、駆逐艦同士の戦では
勝ったといえる。リュッチェンス中将はまずまずの成果を上げ、引き上げていった。

 

 

 

 

 

 

-矢矧 艦橋

「うぅむ……駆逐艦の防御力不足はやはり問題だな」
「ええ。こうも裏目に出るとは」

木村中将は配下の艦隊の内、駆逐艦に予想外の損害が出た事に思わず唸る。扶桑海軍最精鋭の第二水雷戦隊ではあるが、
構成艦の一部は1930年代初頭頃の竣工艦が含まれ、ネウロイの脅威が顕現化した時勢では旧型に属する。ネウロイへの生存性の問題か、
大型艦艇が重視されがちな扶桑海軍では割と軽視され、未だに第一次ネウロイ大戦後の「ワシントン軍縮条約」の制約下で整備された
吹雪型駆逐艦は愚か、睦月型駆逐艦、峯風型駆逐艦までもが残置している有様。最新鋭艦の「陽炎型駆逐艦」及び「夕雲型駆逐艦」、
「秋月型駆逐艦」は主に大和型戦艦などの護衛に回されており、第二水雷戦隊に在籍している艦は多くない。
損害を受けた艦はそんな旧型艦だ。

「閣下、やはり我が国特有の弱点が出ましたね」
「ウム。我が国の駆逐艦設計思想を改めさせる必要があるな、少佐」
「ハッ。すぐに艦政本部に連絡させましょう」

矢矧から打電された予想外の損害を重く見た扶桑海軍は建造中の次世代型駆逐艦(史実の戦後世代たる、はるかぜ型護衛艦に相当)に、
研究中の装備を装備させる事を決定。奇しくも史実の海上自衛隊に近い設計思想となった艦が生まれていく事になる。

「どうだね二佐。水上艦同士の取っ組み合いを味わった気分は」
「は、はい。私の時代とは全く違っていて、まるで映画か何かを見てるようでした」
「はははっ、映画か。確かにエレクトロニクスを前提にしての噴進弾による戦が当たり前な時代の生まれの君には伝声管などが残っている
我々の戦は古めかしく見えるのだろうな」
「い、いえ、そんな」
「よいよい。たしかな事なのだからな」

木村中将は呵呵と大笑する。生まれ、生きる時代が100年近く隔てる人間同士のありえないこの会話。
はやては司令官に必要なものが何かを改めて自覚し、戦闘終了から数時間後、黒江と共に甲板に出て木村中将と共に釣りをした。
(ただしはやては見るだけ)

「少佐、ここでは何が釣れるのか」
「ハッ、地球からの移民が相当数の生き物(魚、動物、鳥類とわず)を持ち込んだらしく、地球とそんなには変わりないそうです」
「呵呵、それは傑作だ」

木村中将と黒江は甲板から釣り糸を垂らし、待つ。すると……。

「少佐、かかってますよ!」
「わかっとるわ!!おっおっ、コイツは大物だぞ!」

黒江はいつの間にか周りに湧いていたギャラリーの歓声を背に針にかかった獲物を釣り上げようと意気込む。手応え良し、
長年の経験から言って大物だと直感。釣竿を操り、手繰り寄せる。だが、獲物は激しく抵抗。引きずられる。

「テメ、このっ……逃がすかぁっ!!」

黒江も負けじとウィッチとしての力を発動させ、逃すまいと奮闘する。すると獲物の姿が一瞬見える。

「マ、マグロじゃねーか!で、でかい!!地球の数倍あるぞ!?」
「あれはミッドチルダに根付いたクロマグロの親戚ですよ!」
「な、なにぃ〜!?」
「元は地球からの移民が持ち込んだんです。ミッドチルダの海は環境いいからなんかで、代を重ねるごとに大型化したとかで……」
「んなアホな!?見たところ9m以上あるぞ!?」

黒江ははやての助言に思わずツッコむ。だが、大きい獲物ほどやりがいがある。

「少佐、焦るな。相手が疲れるのを待て!」
「了解です!」

黒江は木村中将のアドバイスを実行する。扶桑陸軍航空隊きっての「釣りキチ」を自他共に認める自分としてはプライドが疼く。
この光景に、はやては思わず(釣◯キチ三平見てる気分や)とため息をついたとか。

 

 

 

 

-さて、ナチス・ドイツ軍が侵攻した事に、呉に大打撃を受け、再建途上の扶桑海軍のみがなけなしの戦力を割いて遠征軍を派遣している
のでは面目が立たぬと連合軍の間では協議がなされた。カールスラント相当のナチス・ドイツが相手なのだから、カールスラントが
率先して軍を派遣せよとの結論に達した。カールスラント海軍は史実のナチス・ドイツ同様に脆弱であり、兵力に余裕がある空軍に
白羽の矢を立てられた。

それで来訪することになったのが……。

「これは閣下……。は?、はっ……」

ミーナはハルトマン、バルクホルンとともにカールスラント奪還戦に従事していたもの、ある日、この電話により
アドルフィーネ・ガランドより呼びだされた。

「閣下、今日は何でしょうか。
「ウム、まずはこれを見てくれ」
「これはビスマルク……?いえ、細部が違う……それにあの鉤十字は……」
「`ビスマルク`だよ。ただしナチス・ドイツのだ」
「ナチス・ドイツ!?それって……!」
「そう。我が国のもう一つの姿にて、`総統閣下`の作り出した褐色の狂気。それの残党が我が友邦に侵攻したと通達が入った。
彼等は海軍艦艇で都市を薙ぎ払い、降下猟兵で制圧を行なっている。ナチス・ドイツは我々のあり得た姿だ。
このままではカールスラントの信用問題にもなる。向こうでは第二帝政は第一次世界大戦を起こしている上、
第3帝国は第二次世界大戦を引き起こしたんだ、それで我らのことはあまり信用されていないってわけだ」
「そんな!いくら同じような歴史の国だからって……」
「軍は信用しているようだが、政治屋たちや財界人が侮蔑しているんだよ。特にユダヤ系は総統閣下の狂気の犠牲になったからな……」

それには地球連邦政府の政治家達や財界のカールスラント、つまりドイツへの不信や不快感が露骨に現れていた。
地球連邦政府や財界にはユダヤ系の有力者たちもかなりいる。
特に財界の筆頭のアナハイム・エレクトロニクス社のCEO「メラニー・ヒュー・カーバイン」は23世紀に於ける超大物。ユダヤ系であるため、
ヒトラーが民族に行った蛮行を嫌悪しており、別世界のカールスラントへの援助にも露骨に不快感を示したという。
そのため悪評が先行している感のカールスラント上層部はそれを払拭するためにナチス・ドイツ征伐へ部隊を派遣する事を決定したのだと、
ガランドはミーナに告げる。

「皇帝陛下は我が空軍に白羽の矢を立てられた。海軍は弱体だが、空軍は自他共に認める精強な軍隊だ。私がその派遣部隊の指揮官に任じられ、
好みの部隊を造れと直々に勅諭が下された。貴官を呼んだのはそれが理由よ」
「私にその部隊に入れと?」
「そういう事だ。`精鋭部隊`を造れという至上指令でな」
「待って下さい。閣下はもう引退なされたはずでは」
「ところがどっこいなんだ、これが。私の顔をよく見ろ」
「はっ……?え、えぇ〜!!反則ですよ閣下〜!」

ガランドはミーナに派遣部隊-第44戦闘団-への編入を要請した。率直である。
しかも言われたよく通りに、ガランドの顔を見てみると……なんと、肌のハリが自分と同等、いやそれ以上にツヤツヤかつハリがあるのだ。
これは噂の処置をガランドが受けた事を意味した。

「ハッハッハッ、どうだ中佐!14の時の姿に戻った私は!」
「か、閣下……」

そう。ガランドはこの時期(1945年現在)の`処置`の推奨年齢の15から16歳よりも、
(黒江の事例の反省から、第3陣以降はだいたい15歳を目安にするようにした)若い14歳にいつの間にか若返っていたのだ。
ミーナは呆れと言おうか、なんとも言えない気持ちであった。

-そういえば電話の声がいつもより若々しいと思ったのよね……。

ミーナはため息をつくと、ミッドチルダ派遣部隊への編入を一応了承。バルクホルンやハルトマンにもこの話を伝えた。
ハルトマンは当初は嫌な顔をしたが、向こうでの自分に当たる存在「エーリヒ・ハルトマン」が辿った運命を知っていたので、験担ぎも兼ねて
了承した。(それとバルクホルンの僚機は自分であるという考えもあるが)

-それと……

扶桑皇国 陸軍航空士官学校 

「加藤中尉、入れ」
「失礼します」
「呉の事件からもう半年となったが、大丈夫かね」
「はい。ご心配をおかけしました」

加藤武子の憔悴ぶりは陸軍内でも話題になり、一時は引退さえ囁かれるほどであった。だが、彼女の更なる師の江藤敏子が復帰し、
傷ついた武子を優しく慰め、立ち直るきっかけを与えてくれた。(他には無二の親友である智子の叱咤激励もあるが)
現役ウィッチとして完全復帰後の隊はまだ正式には決まってないが……。

「上からの通達だ。君を本日より大尉に任ずる。64戦隊の隊長格が中尉では不便であろう」
「えっ?ちょっと待って下さい。最先任は黒江少佐、もしくは加東少佐では?」
「2人とも君を推薦してきてな。それに扶桑海の時は殿下の名代として指揮を取ったであろう。そのためだ。
それに君と少佐達は戦友同士なのだ。そうかしこまる必要はないぞ」

この時期の航空士官学校校長は徳川好敏中将。この世界では織田政権時代からの名家であり、未来世界では元幕府将軍家に連なる家柄の人物。
陸軍航空の発展に功があり、爵位を持つ。加藤武子があの事件以来、世話になった人物の一人でもある。
彼は上層部に了承をとり、武子を大尉へ昇進させた(上は`扶桑海の隼`と言われた武子の名声を再利用する狙いがあったので了承した)

「は、はい。でもどうしてですか?」
「うむ。海軍主力がミッドチルダへ行っているのを知っているかね?」
「はい。黒江少佐……綾香から電話で」
「君にはそこに赴任するように参謀本部が決定を下した。明日に出発の予定との事だ」
「了解しました」

武子はこの決定の裏に、実は黒江や圭子の策略があると気づくのは当人らに出会ってからである。
少なくともこういう政治的駆け引きに関しては黒江達の方が一枚上であった

 

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