――ミッドチルダに展開した扶桑海軍航空隊の紫電改。軽空母には旧型の零式艦上戦闘機五二型も配備されており、それらは各地の航空戦に駆り出され、メッサーシュミットと戦火を交えていた。

『ブォォォッ』とレシプロ機特有のエンジン音が響き、ハ43エンジンが唸りをあげる。扶桑海軍の新主力機の任に暫定的に就いた山西航空機製局地戦闘機『紫電改』。これは零式艦上戦闘機がティターンズの出現で急速に旧式化した事、正統後継機の烈風の生産遅延への対応策であり、目的はずばりティターンズが投入する高性能レシプロ戦闘機への対抗。紫電改はこの時点で必要十分な性能を備えており、会議でも満場一致で緊急生産され、瞬く間に配備された。史実ではエンジン不調、工作精度の低下などの要因で時速594km〜620km程度の速度しか発揮出来ず、確かに米軍に一矢は報いたもの、米軍最新鋭機の前にいささか押され気味なのは否めなかったが、扶桑皇国は大日本帝国よりも数倍に工業力が進歩しており、二流メーカーと坂本美緒が揶揄する山西航空機でも、製造した航空機の性能は安定しており、改良が進んだメッサーシュミットBf109相手にも対等に戦える性能を備えていた。


「あれが扶桑海軍の戦闘機……」

「そう。あれが紫電改。私が未来の地球で住んでた国の航空技術が生み出した最後の実用戦闘機」

スバルは管理局の最新式ヘリであるJF704式ヘリコプターで任地に向かっていた。このヘリコプターは管理局のヘリコプターの中では最も高性能であったが、メッサーシュミットBf109の後期型相手にはいささか劣速であり、対魔導対策が施されたMG151機関砲は防ぎきれないため、戦闘機の護衛は必須であり、翔鶴所属の航空隊が護衛についていた。


「こいつは並の戦闘機なら振りきれる機動力を備えているはずなのに、逆に護衛されるなんて……なんかなぁ」

六課でヘリパイロットとなったばかりのアルト・クラエッタは管理局最新鋭のヘリがもよや時代展なレシプロ戦闘機に狩られる側となっている事を嘆いていた。だが、メッサーシュミットの速力はこのJF704式を上回る事は認めている。だが、魔導師でなく、質量兵器である戦闘機に護衛されるというのは、どうも管理局のヘリパイロットとしてはぶーたれたい光景らしい。


「まぁまぁ。紫電改は強い飛行機だからアテにしていいよ」


スバルは紫電改の武勇伝を知っていた。何十倍もの米軍に立ち向かい、米軍に大日本帝国海軍航空隊の最後の意地を見せた伝説を。それだからこそ、アテにしているのだろう。それと空戦性能に関しては完全に紫電改がメッサーシュミットに優っているというのも知っているからだろう。

「あの戦闘機のこと、やけにアテにしてるね」

「そりゃまぁ……。おとーさんのご先祖様が住んでた国のモノってところもあるけど、アテにしていいと思うよ。見てくれは古臭いかもしれないけど、心意気は下手なジェット戦闘機時代のパイロットより良いから」

スバルは紫電改に乗っている搭乗員の服装や装備などが時代がかっているのは気にしなくてもいいとスバルは言う。実際、第二次世界大戦中に対Gスーツなどを実用化できたのは米国だけであるし、扶桑皇国陸海軍はまだ試作段階に留まっている。そのため扶桑軍の飛行服は第一次世界大戦当時からさほど変わり映えのしないものだ。違うのは高高度用の酸素マスクが備えられていることくらいだ。


「でもスバルがいきなり三尉なんて、驚いたよ」

「今回の事件で士官級の奴らが内通して裏切ったりしたからね。あたしのはその対応策だって」

スバルは上層部が軒並み死亡、中堅士官層がナチス側に就いて時空管理局を裏切った、などの理由で士官級が不足している事による措置で特進し、三尉に任じられた。これは無事が伝えられたティアナも同様であり、二人はいつの間にか士官へ特進していたのである。この辞令は向こうの世界へ赴いているフェイトを通してティアナにも伝えられたという。扶桑海軍の艦載偵察機”彩雲”の強行偵察による空撮写真によれば、首都の主要な建物にはナチス政権当時のベルリンの如く、ナチスの党旗やマークが、元・時空管理局関連施設にはドイツ国防軍の軍旗が翻り、垂れ幕が垂れ下がるのが確認されている。

「でもあの軍隊って地球じゃとっくの昔に負けて滅んだんだよね?なんでミッドチルダを襲えたの?」

「ナチ公ども、つまりナチスドイツは第二次大戦で世界に戦いを挑んで、負けたの。だけど世界各地に生き残りが潜んで、再起の時を待った。ミッドに来れたのもたぶんその時に技術を鍛えたためかもね」

「ふぅん」

「な、何その顔」

「いやあまさか食いしん坊のスバルがねぇ。そんな事いうなんて」

「色々あったんだよ、いろいろ」

スバルは少女時代のなのはを魔改造をしてきた。その結果、なのはが剣術を始めるなどの影響を与えた。そして軍隊で同じ釜の飯を食った仲である。今では少女時代のなのはの色々なところを知っており、フェイトと同レベルなほどになのはの私生活を知っている。そのため帰還直後はなのはから真っ先に口止めされたとか。しかし軍隊に属したせいか、以前より態度に落ち着きが見られるようになり、他の連中に驚かれたのは言うまでも無い。


「はやてさ……八神部隊長は頑張ってるけど、事態が事態だから、経験不足で統率力が追いついてないところあるんだよね。まあしゃーないな。これって経験だから」

スバルははやての指揮能力や統率力はまだまだだと評した。実戦経験がなのはとフェイトに比べて低い故に生じている事だと言うのを理解しているからだ。

――いつだったか。なんかの格言で優秀な参謀は訓練で作れるが、優秀な指揮官は実戦でしか生まれないとか何とかアムロ大尉から聞いたっけ。

スバルははやては改めて客観的に見ると、高い素養を持ち合わせている反面、精神的に脆い側面もあると思っていた。仮面ライダーストロンガーこと、城茂ははやてをこの郊外へ連れてくる過程でその側面を見ぬいたらしく、
なのは達に「アイツの精神的フォローはしっかりしてやれ。ああいうのは抱え込んじまう質なんだからよ」と忠告している。なのははそういう茂の荒っぽさの中に見せる優しさになのはは人間的魅力を感じ、今でも茂を慕っている節がある。スバルは事態の容易ならざる事は知っていたが、地球で猛威を振るった悪を薙ぎ倒してきた歴代の仮面ライダー達の存在が戦線に一種の清涼剤的役割を果たしているためか、不思議とそれほど深刻には考えていなかった。







――ミッドチルダの旧首都はナチス・ドイツ軍によって完全に制圧され、名前を『ノイエゲルマニア』と変えられ、インフラを修復した上でナチスドイツ軍のミッドチルダにおける足がかりとされた。そこに一人の将官が派遣され、地方行政府の責任者を兼任する形で着任した。

「総員、傾注!!エーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥閣下に敬礼!!」

「ご苦労。諸君。ここからが次元世界における我が大ドイツの第一歩である。忘れもしない1945年のあの米英やイワンの酒飲みの手下である露助の前に膝をつき、屈したあの屈辱の日から幾星霜の日々をよく耐え忍んでくれた。年月の内に人であることを捨てた者も大勢いるだろう。が、その屈辱もここまでである!『あの方』のご意志のもとにここに我らが帝国を築くのだ!!」

「ジークハイル!!」



ドイツ国防軍きっての知将と謳われ、ドイツ軍の頭脳と名高いエーリッヒ・フォン・マンシュタイン元帥。彼もまたドイツ軍人としての意地を最後まで捨てなかった将官の一人。そしてミッドチルダに陸軍の機甲部隊を送り込んだ張本人でもある。そして彼らはミッドチルダの住民にその威容を見せ付けるかのように、各種戦車を始めとする機甲部隊、空軍のメッサーシュミットBF109を動員しての盛大なパレードを執り行った。



――ドイツの軍歌をバックミュージックに、キュラキュラとキャタピラの音が響き、上空ではプロペラの轟音がけたたましく空気を揺るがす。そして一糸乱れぬ兵士たちの行進の軍靴。まるで映画のような光景だが、これらは現実に起こっている事なのだ。そしてそれらは第二次世界大戦直前のドイツで行われたナチスの党大会を想起させる光景。ミッドチルダ首都クラナガンの住民は時空管理局に代わる新たな支配者に恐怖を抱くと同時に、腐敗した魔法至上主義者達が立場を無くす分、マシかもしれないという考えも同時に飛び交っていた。実際、魔力を持たない者達が実権を持てば、蔓延る差別も消えるかもしれないからで、むしろ管理局の敗北は歓迎される傾向にあった。







――臨時隊舎に帰還したはやてはその軍事パレードの中継に憤った。まるでナチス政権全盛期のように、一糸乱れぬ兵士や兵器を見せつけるかのように見せつける様ははやてを憤慨させるのに十分だった。

「あんな大砲担いだ重戦車じゃ管理局の戦車じゃ歯が立たないんや……所詮は第二次大戦の時の米軍のM4シャーマンをミッドチルダの技術でコピーしただけやからな」

はやては管理局の保有する戦車が、次元漂流者が持ち込んだ、第二次大戦当時の連合国で使用された中戦車の『M4中戦車』をコピーして、魔法が使えない人員用に極秘に配備したものであると見抜いていた。はやての地球では主力戦車が登場して既に3世代以上を数える。そのため第二次大戦当時の代物にしか見えない管理局の戦車に内心、不安を感じていた。その不安は見事に的中したことに悔しさを露わとする。

「所詮、M4中戦車は大戦中は一部の改造型でもない限り、どんなに頑張ってもティーガーTはもちろん、パンター、W号戦車後期型にもタイマンで劣勢だからな……。しかも写真見る限り製造初期型じゃねーか。これじゃ歯が立たないのも無理は無いよ。死ねって言ってるもんだぜ」

はやての補佐に回っている黒江はその事をよく知っている。未来で戦史を読みあさったり、実際にティターンズが駆逐する光景を見てきた故に、管理局の戦車がドイツ軍の重戦車群に鎧袖一触で敗れ去ったのも無理はないと冷静である。ただし、あまりの悲惨さに、「なんだってM4の初期型なんかをコピーしたんだ?」と頭を抱え、通常兵器の整備にリソースを割かない管理局の体質を疑問視した。

「たしか管理局の戦車のスペック表があったな?」

「はい。確か……あ、これです」

グリフィス・ロウランが管理局の戦車について書かれている資料を黒江に差し出す。製造されていた年代の関係か、それなりに古い写真も含まれている。写真で見てみると、改めてM4中戦車をまるまるコピーしたという感が否めない。しかも戦訓で小手先の策が施されてる前のモノのようで、砲塔を見てみると、初期製造型の75ミリ砲搭載型のようである。これではドイツのティーガーやヤークトティーガーに歯が立たないのも無理は無いとため息をつく。


「何々?製造年代は新暦40年代の末頃……その時に当時のトップが人員不足を補う一環で漂流者達が持ち込んだ管理外世界の戦車をコピーする形で製造させた。が、空陸戦魔導師が年々、強力になる過程で製造そのものが疑問視され、10年あまりで製造が打ち切られた。つまりそこから改修も更新も検討されないまま使い続けられたって事か?」

「そうなります」

「戦時じゃなかったからギリギリセーフだが、これが戦時中なら思い切り戦争に負けてるところだぞ……」

「ええ。それは運用部隊から繰り返し意見具申はされてます。ですが、歴代のトップはそういう通常兵器の充実を軽視し、予算を与えなかったようです」

「哀れだな、それって」

グリフィスのこの言葉に黒江は時空管理局のある意味では陸の哀れさに同情した。ミッドチルダは日本やイギリスなどのように海軍大国と言えるだけの次元航行艦隊を有しており、それが管理世界やテロリストなどへの戦争抑止力となっている面が強い。ミッドチルダ政府もその面を重視してきた節があり、予算配分表を見てみると明らかに海のほうに予算が潤沢に回されている。これでは陸から敵視されてもしかたがないと呆れもした。

「この間の戦いで全滅した陸士部隊は、『我々陸士部隊は敵を恨まずして次元航行部隊を永遠に恨みつつ玉砕ス』……なんて通信を残したっつー話や。今回の事件で次元航行部隊の発言力は相当に低下したと思う。お飾りだったのかって各管理世界から批判が物凄いんやて。全く……動いておけば言い訳もたったつーに」

「だが、終わったあとで言ってみても後の祭りにすぎんのは上が一番良く知っているはずだ。今のままじゃ周りから白眼視されるのは目に見えているしな」

「これからますます厳しくなるつーに……上の連中は!」

はやては戦局は厳しいというのに満足な動きを見せない時空管理局の上層部に対し怒りを隠せないようだった。大勢の陸士を見殺しにし、首都にいた国民すら切り捨てた上層部が許せないのだ。拳が怒りののあまりプルプルと震えている。普段温厚なはやてをすらここまで怒らせる時空管理局の上層部を黒江は心のなかで詰った。次元航行艦隊はその後、その責任を行政府に追求され、トップ数人の首が飛んだという。




「ほれ。書類はやっといたから、後は提出するだけだぞ」

「あ、ありがとうございます」



――黒江は自らの事務処理能力を見せつける形で機動六課のロングアーチの人員の人心を掌握した。無論、黒江の実力を知るスターズやライトニングの各隊長であるなのはとフェイトは全幅の信頼を寄せているが、ロングアーチの面々は戦いの実力はともかくも、事務処理能力を疑問に思った。が、本格復帰後も陸軍航空審査部に籍を残している黒江にとって事務処理はなんのその。瞬く間に書類を何十枚単位で書いてしまう。そのため、事務方にとっても大助かりであり、無事、機動六課に受け入れられたというわけである。
















――空戦は今日も熱く繰り広げられていた。

「いいか、日本は手強い相手だ!!アメ公相手に4年間ガチで戦った国はあそこしかないからな。気をつけてかかれ!」

「世界は違うが、まさか元々は同盟国だった日本と刃を構える日が来るとはは。面白いぜ」

「が、Bf109じゃ航続距離的に不利は否めんぞ。今度、上に航続距離がマシなFw190シリーズの配備を申請しようぜ」

ドイツ空軍将兵らは無電で日本軍機と殺り合う日が来るとは、とおどけあう。しかし用兵側としては、Bf109を初めとするドイツ軍機は基本的に一撃離脱戦法、つまりDive and ZooM戦法を前提に設計されている機体である。互角の速力があるのなら、無類の運動性を誇る日本軍機には、『フォッケウルフ Fw190』系列のほうが多少なりとも相性はいいと踏んでいるのだ。基本的にDive and ZooMを重視するドイツ空軍も、日本軍機の運動性の良さを羨望しているのだろう。そして、次の瞬間、彼らは上空の優位を生かし、一気に紫電改編隊に襲いかかった。


「来たか!ナチ共め!」

扶桑海軍航空母艦の飛鷹所属の紫電改隊はメッサーシュミットBf109の襲来に素早く対応した。すぐに日本軍機特有の運動性の良さで銃撃を回避。空戦フラップを活用してすぐさま背後を取る。

「もらったぞ!!」

紫電改は20ミリ機銃四門の大火力でメッサーシュミットを蜂の巣にしていく。そして運動性の良さを行かして敵の攻撃を回避する。が、
いいところを見せたのは編隊長のみで、あとは隊長の動きについてこれないようなヒョッコに過ぎず、ヨタヨタな動きを見せている。そこをドイツ空軍は漬け込んだ。紫電改の最大の武器は翼内に四門備えた20ミリ機銃である。零式艦上戦闘機のそれが敢行弾数の少なさ、命中率の低さから熟練者には不評の声が多く聞かれたが、これは零式艦上戦闘機のあまりにも軽量化しすぎて脆い機体構造などが災いしての事で、元々局地戦闘機として設計されている紫電改は頑丈な機体構造を持っており、二〇粍二号機銃五型へとグレードアップされたことと相成って敢行弾数、命中率が改善されている。そのため熟練搭乗員でなければその真価を発揮しきれない零戦より、扱いに慣れれば生存率が格段に良くなった紫電改のほうが若手搭乗員らに好評だった。大火力は元々は局地戦闘機であった事による重戦闘機的性格がある故の光景だが、欧米の機体と比べると軽武装気味である。メッサーシュミットBf109の後期型には30ミリ砲であるMK 108 機関砲が搭載されているからだ。そして案の定、紫電改と言えども、その圧倒的な火力には耐えられず、主翼を叩き折られ、炎上しながら落ちていく機体が出てくる。

「う、うわああっ!!」

30ミリ砲であるMK 108 機関砲の掃射をまともに食らった機体がまた一機撃墜される。主翼を叩き折られ、見るも無残な様相を呈し、錐揉み状態に陥って落ちていく。


「あれが噂の30ミリ砲かよ、紫電改をまるで紙飛行機みたいに落とすとはな……ああ、5式30ミリ機銃が間に合えば」


紫電改隊の隊長は『MK108』機関砲の圧倒的火力に思わず肝を冷やす。零戦より圧倒的に頑丈な紫電改を更に一発で落とせるのは30ミリ砲の面目躍如であるからだ。扶桑でもジェット戦闘機用に五式三十粍固定機銃の開発が進められ、局地戦闘機の雷電、先行生産された烈風に試験的に搭載されているが、搭載機の配備は本土防空部隊に優先されており、空母機動部隊は後回しとされている。それ故、実戦で30ミリ砲を使えるドイツ空軍が羨ましいのだ。

「各員、日本のヒヨコ共を揉んでやれ。ただしあまり遊ぶなよ」

「了解」

速力、運動性能などの機体スペックではは紫電改にやや優位があるもの、ドイツ空軍側は東部戦線や西部戦線などを生き残ってきた猛者どもで固められており、スペック差を腕で補った。メッサーシュミットBf109は設計時の都合で航続距離が短いのが最大のネックなのは彼ら自身、よく知っていたからだ。航続距離の長い日本軍機と違い、ドイツ軍機は基本的に空戦ができる時間は限られているからだ。この瞬間にも、すれ違い様に紫電改に30ミリ砲が打ち込まれ、炎上しながら墜落していく。比較的腕が悪い者の機体が集中的に狙われた。紫電改隊は30ミリ砲で追い散らされ、その結果、分散して応戦するしか無かったのもあって分が悪かった。未熟な若手を中心に落とされ、見るも無残な惨敗を喫した。



――これが初めてメッサーシュミットBf109と紫電改が本格的に刃を交えた空戦であった。紫電改の損失が7機なのに対し、メッサーシュミットは隊長機が奮戦して落とした3機のみ。明らかな惨敗に終わった。が、この戦訓は後々に紫電改の更なる性能改善に役立てられる事になり、防弾装備や速度を改善した紫電改六型として結実する事になる。



――連合艦隊旗艦 戦艦武蔵 艦橋

「そうか、航空隊は惨敗か。まあ実質的にはこれが初陣だ。頑張ったほうだな」

「ええ。練度の差は機体では中々埋められないという事ですな」



小沢治三郎中将は矢野志加三参謀長と空母部隊からの戦果報告を話し合う。いくら訓練しても実戦では不測の事態は起こりえるのだから仕方ない事である。ましてや他国との戦闘機との空戦は実質的には今回が初めてである。搭乗員は責められるものではない。むしろ奮戦を褒め称えるべきだ。そこに偵察機からある一報がもたらされた。

「長官!偵察機より入電!!」

「内容は?」

「ハッ。敵大海艦隊主力、出港ス。我、これより敵情確認のため、敵艦隊を追跡ス……です。位置はこの港より150カイリの海上の模様」

「どうしますか、長官」

「レーダーの挑戦は受けて立つ。全艦出撃!」

「ハッ!」

小沢治三郎のこの指令は直ちに軍港で待機中の全艦に伝えられ、武蔵を中心とした水上打撃艦隊が、あのおなじみの音楽をバックに勇躍、出港する。武蔵を先頭に、信濃、陸奥がそれに続く。

「連合艦隊が……出撃する……凄い、これが世界三大海軍を謳われた往年の日本海軍…!」


はやては隊舎から戦艦武蔵や戦艦陸奥などの名だたる往年の連合艦隊の雄が一糸乱れぬ動きで抜錨するのを見守りながら思わず敬礼してしまう。よく見てみると武蔵の第一艦橋から小沢以下の首脳陣が軍港に向けて敬礼しているのがわかる。



――それは地球ではとっくのとうに滅び去った日本海軍がどんなものなのか、はやてに改めて思い知らせた。そして、その報は角田覚治中将を通してなのはにも伝えられた。

「一尉、こちらは角田覚治だ」

「角田閣下、どうなされたんです?」

「連合艦隊主力がドイツ海軍主力の出撃に呼応して抜錨した。日向の無事を確認しだい、連合艦隊主力の援護に回ってくれたまえ。連合艦隊主力の援護についている航空戦力は軽空母が中心で、いささか不安がある。念には念を入れて、君に援護を依頼したいのだ」

「わかりました!」

なのはは角田からのこの依頼を引受け、日向の無事を確かめるべく、更に速力を上げる。
なのはの心配をよそに戦艦武蔵は抜錨し、大海原へ出港する。




――戦艦武蔵。大和型戦艦二番艦にして、生涯を通して、姉である大和の影武者を演じ続けた船。それは三番目の妹かつ、本来の通りに戦艦として生まれた信濃を従えて、本来、そうあるべき『戦う船』として、ドイツ海軍の誇るH級戦艦に挑もうとしていた……。『大艦巨砲は未だ滅びず』。大海原を征く大和型戦艦二隻の偉容はまさにそれを示していた。



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