――ハルトマンらはミッドチルダ動乱に参戦、メッサーシュミットBf109と異世界同国同士の空戦に入っていた。

「シュトゥルム!!」

ハルトマンがシュトゥルムを敵機への直接攻撃に転用したのはこの時が初めてだった。が、今回は相手がエーリッヒ・ルドルファーという百戦錬磨の練達の士だったので、当てられなかった。咄嗟に急降下で避けられたからだ。ほぼ垂直に近い急降下。プロペラ機では音速を超えてしまうと制御不能になって墜落する危険があるが、それをやってのけたのだ。

「くっ!」

「フラウ、やめなさい!」

「今回ばかりはミーナのいうこと聞けないよ!」

ハルトマンも追う。ミーナに諌められるが、お構いなしである。ハルトマンとしては珍しく熱くなっている。急降下制限速度ギリギリまで追うつもりだ。それを確認したルドルファーはハルトマンを誘うかのように急降下を続ける。

(時速690……720!740!)

ルドルファーは速度計を確認しながら引き起こしのタイミングを図る。戦闘機はこういう時に隙が生じる。ストライカーユニットに劣る点といえるが、彼には関係ない。戦いを愉しむことこそが本義なのだから。超低空までくると、水平飛行に戻し、市街地を駆ける。ただし航続距離の関係で空戦はあと数分が限度だ。


「ハルトマン、俺を相手にするには君はまだ青いな」

「なっ!?」

「空戦の肝というものを教えてやる」

DB605L改エンジンが吠え、機体を急上昇させる。太陽を背にしてのループだった。これは彼がいた世界の日本軍パイロットから教わっていた技能だった。K型改の上昇力及び運動性はドイツ軍系レシプロ航空機としては傑出している。それを利用したループだった。

「そんなっ!?」

ハルトマンにとって、これが背後を取られた初めての事例だった。模擬戦ではあれど、エースとして高名になってからの実戦では初めてだった。動揺そのものは一瞬であったが、ルドルファーにとってはそれで十分であった。ハルトマンのストライカーユニットの翼を吹き飛ばすこと。対シールド弾(魔力を中に充填し、命中時に魔力を炸裂させる事でシールドを弱め、弾頭を貫通させる仕組みの弾丸)を満載したMG131機関銃を撃つ。弾丸の炸裂時、ハルトマンは咄嗟にシールドを後方に貼ったが弾頭は見事にハルトマンのシールドを弱体化させ、目標である片翼をぶっ飛ばして、バランスを崩させたのだ。

「ッ!?」

バランスを崩したもの、ハルトマンはなんとか旧市街地の道路に不時着する。これはハルトマンの技能だから可能な事だ。




「馬鹿な、あの程度の弾丸をハルトマンが防げないはずが!?」

「フフフ、我々を甘く見たようだなゲルトルートお嬢さん」

クルピンスキーはルドルファーがハルトマンを撃墜したのを確認するとバルクホルンに勝ち誇るように言う。

「さて君達同様にコイツも航続距離が短いんでね。そろそろ退かせてもらう」

空戦を楽しんだ元撃墜王達は機体の燃料の関係で戦いを打ち切り、帰還していった。ミーナは爆撃機の攻撃を主に阻止するのを目的に動いているので、結果的にハルトマンが独断で動いた事は功を奏した。が、ミーナはミーナで大変だった。

「やっぱり対爆撃機戦闘訓練不足が響いてるわね……どうも人が乗ってる爆撃機を撃つのって嫌な感じがするけど……そうも言ってられない!」

そこには人同士の戦争を経験して来なかった彼女らの苦悩があった。そう。ウィッチが人同士の戦争に関わったのは近代以前の話である。軍隊組織にウィッチが組み入れられた時期には人同士の戦争という考えが半分廃れていた。大国による世界統一が進み、五大国が世界の半分以上を統治するようになった時代に於いては世界大戦などという言葉は生まれないはずだった。が、ティターンズがやって来た事で歯車が狂い、人同士の戦争という行為にウィッチが駆り出される事になった。これに拒否反応を示して軍を抜けるウィッチは世界各国で続出しているが、ミーナ達は軍籍を離れようとはせず、戦い続ける道を選んだ。だが、それでも心の何処かにつっかかりがあるのには変わらない。


――やっぱり心の何処かで躊躇ってるの?私は……

トリガーを引く指が重く感じられる。頭で割り切ろうとしてもやっぱり体は正直だとミーナは思う。しかし討たなければ敵は友を殺すかもしれないのだ。祈るように機関銃の引き金を引く。スツーカが防弾が弱体なのは変わらないらしく、タンクに引火し、炎上する。搭乗員が落下傘で降下するのを確認し、別の機体を狙う。

「敵の数は……そんなに多くない。やはり追撃だからかしらね」



戦場に姿を見せている旧ドイツ軍航空機の数は多くない。64戦隊の主力と機動六課が来たらオーバーキルになる。攻撃の阻止と護衛には十分だが、全員を動員するほどではないだろうが、ハルトマンが機体を失うほどの手練が護衛についているとなれば、油断は禁物だ。

「ん……いいタイミングね」

飛行第64戦隊と機動六課がやって来た。ミーナはそれらを配下に収め、空戦を継続する。が、ナチス側はこれに動じず、更なる部隊を送り込む。それは……。







――ナチス空軍 前線飛行場


「ご苦労。ハルトマンを落したそうだな」

「あの弾丸はウィッチに有効だ。上層部に増産を具申してくる」

「分かった。それじゃ今度は俺達の番だ。行ってくる」

ルドルファーにこう切り返すのはドイツ空軍の撃墜王の一人のハインリヒ・エールラー。史実ではB-24爆撃機に突入して果てたはずの人物である。彼の場合は突入した瞬間に次元転移して生き長らえていた。彼はバダンに参加した撃墜王としては古参に属し、その過程でFw190シリーズにも搭乗したらしく、今回はそのシリーズのTa152の更なる改良型のテストらしい。

「大型化してるな?」

「元からでかいのを戦後に作った高高度用エンジンを搭載するために弄ったからな。殆ど改設計したらしい」

その戦闘機、「Ta152-H-4」とも言うべき機体は胴体部分は戦時中のTa152とほぼ変わりないが、エンジンがユンカース・ユモ213タイプの更なる改良型になっているために出力が2500馬力を超え、カタログスペックではP-51Hをも凌駕する性能を備える。排気タービンの実用化に成功したために14000mでさえ1500馬力を発揮する。





「原型機に近い主翼だな」

「排気タービン積んだからな。余り高高度飛行に特化しすぎた設計しないでよかったそうだ」

排気タービン搭載により高高度性能が終戦時連合軍航空機に伍する、あるいは凌駕する水準の性能となったために中高度以下での飛行性能を犠牲にする必要が無くなったのか、主翼はFw190とTa152初期型の中間程度の設計で落ち着いている。

「旋回性能は日本軍機に近い水準だ。これでウィッチの奴らに目に物見せてやるさ」

乗り込み、エンジンを始動させる。この戦闘機は高高度ではウィッチに対して絶対的な優位を誇る。元々米国や英国機の重火力に耐える重防御を持つため、いくら魔力強化で初速を強化した所で並の機関砲では打ち抜けない。問題は魔導師のみだ。

「では行ってくる。テオ、カバーは頼む」

「了解した」

エールラーは第二次大戦時からの相棒であるテオドール・ワイセンベルガーとともにTa152で編隊を組む。他の機体とともに一個中隊を組んで、高高度へ上昇。11000mを保って戦場へ向かった。




























――戦場へ現れたTa152はストライカーでは上昇困難な高度11000mから急降下して現れ、機動六課と64戦隊に帯同していた紫電改を数機ほど血祭りにあげる。紫電改の爆発を目撃した一同はその敵機に驚愕した。

「なんだあのプロペラ機は!?」

「フラック…いえ、フォッケウルフだわ!」

「いや、ただのフォッケウルフでもない!噂に聞く最終発展型のTa152だ!見ろ、形が違う!」

高度11000mから悠然と現れたその戦闘機がどの形式であるが、未来滞在中の黒江や圭子には判別がついた。それこそはクルト・タンク技師が終戦間際に作り出したフォッケウルフシリーズの最終発展型であるTa152。一部ではレシプロ最強とも謳われたカタログスペックを誇ると未来の情報で記されている。

「各機散開!シグナム二尉とヴィータ三尉は爆撃機を!黒江少佐と加東少佐達はフォッケウルフを!私はハルトマン中尉の救出に向かいます!」

「了解!」

ミーナは攻撃力に優れる機動六課のメンバーの内、シグナムとヴィータを爆撃機撃墜に、対戦闘機にウィッチに充てた。だが、なのはや黒江達を含む精鋭メンバーを以ってしても彼らには苦戦を強いられた。






――プロペラ機特有のプロペラが回転する音とエンジン音が空に響き、往年のドイツ空軍(Luftwaffe)最盛期の技量を特と見せつける。機体特性は高高度戦闘機でありながらも機敏な編隊空戦を披露した。


「ふむ。さすがは管理局のエース。妨害がなければ悠々と高度10000mまで上がってくるか」

テオドール・ワイセンベルガーは愛機に魔導師(なのは)が追従してくるのをキャノピー越しに確認する。魔導師は個人個人で機動力や火力に差があるというのを把握していた。そして魔導師が管理局の手練として知られるなのはであると再確認する。

「例のエース・オブ・エースか……遊んでやるか」

操縦桿を目一杯引いて急上昇、短い半径で宙返りし、なのはの背後を取る。これは一瞬の出来事で、なのはもレイジングハートも反応出来なかった。

「なのは、後ろだ!!」

「えぇっ!?」

圭子の言葉にハッとして振り返る。すると一瞬の隙をついて背後を取ったTa152が絶好の射撃位置を占位している。これにはさしものなのはも青ざめた。ただでさえ航空機を薄紙のように撃ち抜ける30ミリ機関砲がさらに対魔導師用に改良されたような代物なら如何に自分のバリアジャケットとて防げる保証はないからだ。



「来たっ!」

30ミリ機関砲がなのはの周囲を囲むように火を噴く。ハルトマンのシールドを貫いたというが、どこからどう見ても普通の機関砲にしか見えない。

(マスター、弾丸に魔力反応があります)

(やっぱり洋さんが言ってた通りか……弾丸に魔力を込める事で魔導師やウィッチへの打撃力を確保してるんだ)

なのははレイジングハートのこの進言で筑波洋が言っていた事の確証を得た。皆にこの事を通達する。





「なっ!?マ弾が効かない!?」

加藤武子が牽制の一式十二・七粍機関砲を撃つが、重防御を誇るTa152には通じずに弾かれる。これに武子は驚く。武子の一式十二・七粍の弾丸には新型の炸裂弾頭である、通称“マ弾”が装填されていたからだこれは“ホ5”20ミリ砲よりも数が多いホ103の威力強化策として、緩やかに開発されていたのを地球連邦軍の強い進言で開発スケジュールを大幅に早められて作られた新兵器だったからだ。


「ああ、言わんこったない!だからせめてホ5は持ってけと言ったろうがドアホぉ〜!」

黒江は武子がキ43V、つまり隼三型の装備にホ103を持っていった事に“そんな装備で大丈夫か”と突っ込みを入れていたが、案の定となったことに思わずドアホと言ってしまう。

「しょうがないじゃない、敵の防弾装備がここまでなんて思わなかったのよ」

武子は黒江のこの一言に冷静に返す。これくらいの突っ込みには慣れたからだ。

「お前なぁ……今度から未来情報に目を通しておけよな。いいか?フォッケウルフ系列ってのは防弾装備がメッサーなんかとは桁違いな戦闘機なんだよ。だから私やヒガシは30ミリ持っていってる。今度から覚えておけよ」

黒江と圭子は戦地や任務の必要性上、武子より遥かに1940年代以降の重爆撃機や重戦闘機迎撃戦の経験が豊富である。そのため軽装備の武子に助言したのだが、当人が戦闘機相手ならホ103で十分として発進してしまったため、後の祭りになってしまった。最もフォッケウルフ系列が出てきてくるのは不測の状況であったため、武子の過失とは言えない。

「そこだ!!」

黒江は今回、四式疾風と五式三十粍機銃の組み合わせで空戦に臨んでいた。武子からは敢行弾数の低下を指摘されたが、ジェット戦闘機搭乗者(可変戦闘機乗り)である彼女は一発あたりの破壊力の増大のメリットを選んだのである。照準はウィッチ用の武器で当たり前に用いられているテレスコピックサイトを廃し、視界確保を目的にレーザーサイトに独自に改造していた。これは未来世界での実戦の経験によるものだ。30ミリ砲特有の重い発砲音が響き、なのはの背後にいるTa152を狙う。レーザーサイトと黒江の経験による照準補正も相まって命中弾を出す。が、これも大して効果を挙げない。


「フフフ。このTa152H-4の防弾装備が日本軍の30ミリ程度で音を上げるものか」

ワイセンベルガーは愛機の防弾装備に自信を覗かせる。ドイツの優れた冶金技術で作られた防弾装備は冶金技術に劣る日本軍の機銃を弾き返すからだ。30ミリが当たったというのに、20ミリが掠った程度の認識であるのがそれを頷けている。

「5番機、小煩いフロイライン共にアレを見舞え」

「了解」

R4Mロケット弾を敢行する機が横合いからロケット弾の弾幕を見舞う。1000mから24発を同時に発射され、黒江と武子を襲った。


「あ、R4M!?フジ、急いで迎撃するぞ!アレが当たったらB-17も木っ端微塵に吹き飛ぶ!!」

「わ、分かった!」

二人は必死に迎撃した。ロケット弾の半数はなんとか迎撃に成功したが、その半数は当たってしまう。シールドで破片と爆風は防いだが、さすがに疲労してしまう。

「さすがにLuftwaffeを支えた奴らだ。手馴れてやがる。こりゃネウロイ相手のほうがまだ楽だぜ」

「ええ。ネウロイの行動にはパターンがあるから分かればカモにできるけど、こいつらは人間だもの。経験がない分、こっちが不利ね……」

武子は自らを含めたウィッチの大半がなのはら魔導師と比べても対人戦の経験が薄い事を自覚していた。対するドイツ空軍側は最も航空戦が大規模に行われた第二次大戦の実戦をくぐり抜けてきたエースがぞろり揃う。ネウロイは怪物であるが、ドイツ空軍は人の手で統制された近代的軍隊である。場数を踏んでいくしかナチス側に追いつけないのが実情だ。

「フフ、どうすんだ?ここから逃げ出すか?」

「冗談。こう見えても私は扶桑海の隼ってありがたくない異名持ってるのよ?ちょっとは後輩たちにいい所見せないと示しがつかないわ」

その時の武子の眼光は派遣される直前までの意気消沈したそれでなく、往年の撃墜王“扶桑海の隼”としての鋭いそれであった。やはり戦う内に血が騒いだのだろう。なんだかんだ言って戦う者としての性なのだろう。

「言うねぇ。なんだかんだ言って闘争心が戻ってきたじゃねーか」

「いつまでも落ち込んでたら死んでいった教え子達に顔を合わせられないから。それに昔、あなたや智子が見せてくれた“アレ”みたいにかっこ良く決めたいしね」

「覚えてたのか……あの事」

黒江は武子が言ったこの一言に思い当たるフシがあった。それは扶桑海事変中に黒江達が行った、ある事に由来する。それがどういうものなのかはこの場で語るべきではないだろう。






















――別の地では扶桑陸軍戦車第一師団とドイツ機甲師団の前哨戦が行われようとしていた。扶桑陸軍はここ5,6年で機甲師団を慌てて整備した軍隊である。それは扶桑海事変当時に権力の中枢にいた東条英機のせいで戦車や陸戦ウィッチは歩兵の支援という認識が陸軍上層部の間で一般化しつつあったのが、ユーラシア大陸側の領土喪失という大損害を被った事で根底から否定され、更に他国の機甲師団の活躍、更にはティターンズの諸兵科連合部隊の威力が原因である。機甲師団の整備が急がれた背景には扶桑陸軍の南洋島喪失に伴う資源喪失への恐怖と、別世界の自分たちが行った施策で国土が焦土になった歴史を持つ地球連邦軍の日本人系兵士によるあからさまな蔑みの目に耐えられずに鬱病になってしまう将校が続出した事による対策だ。




(これはもちろん、因縁をつけてきた連邦軍の方が悪いので一部、“先祖の恨みを晴らす”の名目で集団リンチなどの私刑を行った兵士らは連邦軍軍法会議で銃殺刑を含む厳罰に処された。リンチの被害者には史実で特攻隊員を隔離してリンチしたと知られる倉澤清忠少佐が含まれており、連邦軍憲兵隊に発見された時、彼は両腕複雑骨折、膝の半月板損傷、内臓破裂した悲惨な状態に成り果てており、うわ言で“俺が何をしたというのだ……!?”と繰り返していたとか。)








「全く……未来情報ってのも善し悪しだぜ。第6航空軍の倉澤少佐なんて向こうの世界でした事を理由に集団で私刑にされて病院の集中治療室から出てこれないって噂だぜ」

「ティターンズの奴らもB-29の搭乗員を人間扱いしてなかったなんて話、聞くぜ?嫌になるぜ」

「向こうにしてみれば俺達陸海軍は“馬鹿で腐れ脳ミソ軍隊”、B-17や29の奴らは“大量虐殺と国宝損失の元凶”だってよ。第二次世界大戦って戦は聞けば聞くほど嫌になるぜ」

五式中戦車改に乗る兵士らは噂話を言い合う。それはお互いに潜む不和の要因であった。連邦軍の兵士には扶桑陸海軍に対する蔑みが少なからずあるし、扶桑陸海軍には自分たちの行なってきた施策を否定される事への妬みがある。だが、連邦軍が行った施策で改革に成功した側面があるため、過半数の人員は友好関係の維持を望んだ。そのため協議の結果、軍規の順守などを条件に条約が結ばれたという。

「まぁあいつらのおかげで外国の中戦車に伍する性能の戦車が手に入れられたんだ。その辺は感謝しないとな」

「だな」

この時の扶桑皇国陸軍戦車師団の編成は新鋭の五式中戦車改(実質的には61式戦車)、五式砲戦車、一式半装軌装甲兵車、装甲工作車を主軸にした近代的な編成であった。これは新兵器の実験も兼ねてのものであったが、ドイツ軍に一応は対抗可能であった。



「敵戦車、発見!」

「気をつけろよ、ティーガーUがいたらこんな中戦車なんぞ一発でオジャンだ」

「幸いW号のH型のようだ。あれなら血祭りにできる。やるぞ」

この五式中戦車改はほぼ61式戦車と同性能だが、装甲厚及び機動力は上である。そのため今までの中戦車の域を出ないW号戦車は有に撃破できると踏んだのだ。MBT第一世代の技術で作られた五式改は独自仕様として、自衛隊61式にはなかったジャイロ式砲身安定装置が装備されたので行進間射撃での命中率が劇的に改善されている。不意打ちを狙い、砲戦車と共に一斉に斉射した。弾種は徹甲弾だ。




降り注いだ105ミリから90ミリの砲弾は斥候中のドイツ陸軍戦車中隊を痛撃した。砲弾もドイツ製装甲を撃ち抜ける強度がある新型が充当されていたため、W号戦車H型の正面装甲を撃ちぬいた。

「日本軍の砲撃です!奴らは61式戦車を持ちだしてきました!」

「61式だと!なんとか近づけ!いくらジャイロ式砲身安定装置でも限界はある!それと本隊に打電だ!」

W号戦車隊はあくまで斥候役なので数は多くない。90ミリ砲搭載の61式(彼等にはそう見えた)には性能的に立ち向かえるとは思えないが、戦車戦練度は上であることへの自信からか、全車で加速し、一列の体形を維持しながら扶桑陸軍に挑む。

「撃て!」

轟音と共に牽制の75ミリ砲が着弾し、5式改の周囲を爆煙が包む。

「行進間射撃行けるな?いくら61式でも側面に回り込めば撃破できる!」

「了解!こちとら東部戦線生き残って来てるんだ、にわか仕込みの日本人共とはワケが違うぜ!」

W号H型の隊長車は他の車両より練度が高く、東部戦線帰りの兵士だったため、動きが桁違い。履帯によるドリフトを披露、5式の側面に周りこみ……。
























――ミッドチルダへワープした宇宙戦艦ヤマトと僚艦らは極秘に時空管理局の領域へ向かい、本局のドックへ投錨していた。

「宇宙戦艦ヤマト艦長代理、古代進中将です」

「時空管理局、リンディ・ハラオウンです。ヤマトのみなさん、ようこそミッドチルダへ」

ヤマトがやって来るというのは掴んでいるであろうバダンの裏をかくためにリンディ・ハラオウンはレビル将軍と協議し、ヤマト達の到着を伏せる事にし、ヤマトとその友軍を時空管理局本局に投錨させたのだ。

「我々がやって来たというのは味方はまだ知りません。我々の世界に“敵を欺くにはまず味方から”という言葉がありますが、これで行きます」


古代は白色彗星帝国戦時までの功績で中将にまで上り詰めた。暗黒星団帝国との独自判断による戦闘の事は藤堂軍令部総長の一言で不問とされたため、引き続き艦長代理の任についていた。

「よろしいのですか?英雄と謳われるあなた方の存在を味方に隠したままで」

「一部の者のみには通達が行っていますが、兵達に漏れればバダンの戦略に影響を与えます。どうせ向こうは私たちのことを警戒しているでしょうし、ブラフのためにも当面は一部だけの機密です」

コーヒーを飲みながらリンディにそう漏らす古代。実は古代、老成した立ち振る舞いとは裏腹に圭子や黒江より年下である。が、艦長代理故の風格はリンディをも圧するほど。そのためか、ヤマトの武勇を知るリンディは古代に対し敬意を払って接していた。

「まだ信じられませんよ。あなた方の船の前身があの戦艦大和とは」

「ヤマトは坊ノ岬沖海戦で果てた大和をベースにして改造して生まれた艦ですから。結構無茶したと聞いていますよ」

そう。坊ノ岬に沈んだ大日本帝国海軍戦艦、大和はドラえもんの世界の未来世界では2190年代中盤にガミラス帝国の攻撃から逃れるための移民船のベースと偽装を兼ねて残骸を利用して宇宙船へ改造された。イスカンダルの波動エンジンが手に入ったと同時に宇宙戦艦へ更に変更。艦内に各種工場があったり、食料製造施設がヱクセリヲン級以上に充実している理由は元々は移民船だった時の名残だ。

「確かに相当無茶ですね。沈没船を宇宙戦艦に仕立て直すなんて。莫大な費用がかかりそうですし」


「当時は切羽詰まっていましたからね。元々移民船だったおかげで最初から宇宙戦艦として作られた次世代の波動エンジン艦よりむしろ頑丈に出来てますよ」

ヤマトが各戦役で最強・無敵を謳われた理由をぶっちゃける古代。ヤマトは移民船として利用する前提で建艦が進められていたために後の量産型主力戦艦である“ドレッドノート”級よりも質が高い硬化テクタイト版がその他の超合金との多重空間装甲を成しているための賜物でパラメータでヤマトの性能を表すと、防御力が抜きん出ていると説明する。これは的を射ており、実際にドレッドノート級が白色彗星帝国戦時に戦没率が7割を超えたのに対し、ヤマトは猛攻撃にも耐え切り、乗組員の過半数を失いつつも帰還したのがそれを証明した。

「それで今に至るわけです。」

「なるほど。波乱万丈ですね」

「前身の頃を含めたら戦歴でギネスブックに載るレベルですよ、ヤマトは」

思わずそう漏らす古代。それは戦った戦の回数と戦歴が特異である故にそう言われている。大日本帝国の戦艦としては成績を残せなかった鬱憤晴らしと言わんばかりに、宇宙戦艦として生まれ変わった後は“地球連邦の愛と勇気の象徴”、はたまた“宇宙の良心”と謳われるシンボル的役割を担う戦艦として、銀河連邦の諸外国に認知されている。

「時が来たらヤマトはあなた方とともに戦います。それまでは貴方方に不自由を強いることになりますが、いま暫くの辛抱を。」

ヤマトが戦線に加われば単艦で戦局を変えうるだろう。だが、それ故においそれと姿を現せない苦悩が古代たちにはあった。それを察したリンディは古代に緑茶を薦めた……。



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