――ナチス残党は戦後はナチの名を捨て、ヒトラーの更に上位の指揮者たる大首領の命に従って雌伏の時を待った。その内に次元航行技術を手に入れた。これにより彼等は多次元宇宙論を世界のどこよりも早く実証、各世界に生き残った同志らと連携し、戦力の立て直しを何十年かをかけて行った。この内の20年には新Z計画の施行を行なっており、H級戦艦やグラーフ・ツェッペリンなどの一部大型艦艇はこの際に建造されたものである。年代に換算すれば1950年代から1970年代の事である。完成後も発展した軍事技術を反映しながら改良を重ねてきており、ミッドチルダへの実戦投入時には装甲面を中心に性能向上がなされていた。彼らがミッドチルダへの侵攻を決意した背景には弾丸に魔力を充填する技術を確立させたという技術的成功があった。密度の高い魔力を接触時に炸裂させて魔力的、物理的の双方からバリアジャケットを撃ちぬく。これはジェイル・スカリエッティなどの各世界にいる技術者達が数十年単位で実験を繰り返した末の成果であり、サイボークやアンデット化と並ぶ革命として、ナチス残党勢力の強力化を推し進める要因となった。

――ミッドチルダ ナチス占領地域 行政府


「マンシュタイン元帥殿、ミッドチルダ中央区の再編を完了致しました。明日、午前0時を以って“ノイエゲルマニア”と改名し、正式に統治を開始します」

「ご苦労。では市内の視察を行おう。準備したまえ」

「ハッ」



ミッドチルダ中央区は完全にナチスの占領下に入り、占領統治をミッドチルダ新暦75年の9月15日付けで正式に開始した。市内の行政府や管理局関連施設にはナチスのシンボルである鉤十字が翻り、市民に混じって、ドイツ軍兵士らが闊歩する。かつての第3帝国時代のベルリン市を想起させる光景の再現は、市内から逃れる管理局敗残局員に自らの敗北を、救援に訪れている、ナチスの存在を知る者らにはナチスの復活を確かなものとして実感させた。マンシュタインの統治そのものは、かつての戦訓を生かしての、住民らの権利を保証し、民主政治を重んじるものだった。これによって住民の反発は抑えられ、数カ月後には確固たる地盤を築くことに成功する。かつての同盟国であった大日本帝国が行なった宣撫工作を参考にした手法による統治は成功し、ミッドチルダ中央区は完全に管理局とミッドチルダ政府の手から離れ、『独立国家』化したのであった。




















――圭子は今回の飛行64戦隊の出撃には同行せず、智子が未来世界から持ってきたウィッチ用の新装備の搬入手続きを行なっていた。これは財政難の地球連邦軍が『ISより簡便に調達可能な戦闘用パワードスーツ』として、ISをベースにコンセプトをより戦闘特化に変更した上で、各方面から持ち込まれた技術と現時点での地球連邦の技術を組み合わせて生産したもので、一号機の開発コードネームはレーバテイン。(開発プロジェクト内での仮称の一つが定着してしまったとか)。外観はISに近いが、『四肢が小型化されている』、装甲の割合がISよりも多い』などの違いがあるらしい。この時の段階ではまだ頭部付近の装甲が完成しておらず、取り敢えずヘッドギアで済まされているとの事だ。

「智子、何よ。そのアンダースーツは?」

「開発者の趣味らしいわ。向こうで機体のテスト引き受けてたから着てんのよ」


圭子が驚く。智子の服装はまるで、21世紀頃の日本にあったアニメだか、ゲームだかで見たようなアンダースーツだったからだ。(開発者曰く、エヴ○ンゲリ○ンのアレではないそうである。開発チーム曰く、某戦術機の出てくるゲームからアイデアが出たとのこと。外見上はそのデザインをそのまま拝借したもので、全体的に動きやすそうなデザインである。配色は赤と白のツートンカラー。これは智子の要望に合わせたかららしい)

「施設での装着型?スーパー戦隊のスーツや宇宙刑事ギャバンとかシャリバンのコンバットスーツみたいな転送型じゃないのね……随分と大掛かりじゃないの。これじゃ逆に不便じゃない?」

「第一世代の試作型だからそんなもんよ。転送型にするかを最後まで揉めたんだけど、確実性と量産を考えて、施設での装着型で落ち着いたの。転送タイプはコストかかるし、第一に、今の連邦の技術だと安定性が確保できないからってのもあるんだけど」

智子のいう事はもっともである。安定性の低い新技術と安全性や保守性が高い既存技術を天秤にかけると、行政側は後者を取る場合が古今東西、見受けられる。連邦軍は迅速な自軍への量産配備と友軍への売り込みを目論んだらしいのが分かる。

「魔力を稼働動力に使用可能で、それで豊富な武装、か。個人の好みに合わせられるって寸法ね」



「ええ。私はいつもの通りに白兵戦寄りの武装選んだけど、射撃兵装も豊富に作ってあるそうよ。各国のウィッチに合わせられるというのが謳い文句だもの」

智子はいつもの通りに腕には日本刀を持っている。格好が格好なので、明らかに『出る作品をどこか間違った人』にしか見えない。が、説得力はある。

「量産前提って事は二号機とか三号機があるの?」

「今のところは制作途中の三号機と、予備機として二号機があるわ。二号機は射撃戦寄りのセッティングしてあったから使おうと思えば使えるわよ」



智子の言う通り、今回はテストを兼ねて、それぞれ異なるセッティングがされた機体が用意されており、調整作業中であった。しかし使うにはこのアンダースーツを着なければならない。性能はいいのだろうが。羞耻心をくすぐってしまうデザインだ。羞耻心のほうが勝って、着るのを躊躇うものが続出するのが目に見えるようだ。

「それ着るのかぁ……年考えるとちょっとなぁ」

「まぁ、気持ちは分かるわ」

「黒江ちゃんならノリノリで着るだろうし……うぅ〜〜ん。こ、こうなったらやるしかない!案内して」

「OK」



圭子は実年齢が20代後半に達している。肉体的に若返ろうが、精神的に着る勇気が出ないのだろう。しかし黒江ならノリノリで着るだろうし、目の前に智子という実例がいる以上、陸軍新三羽烏の一角を担うと自負する自分が着ないわけにはいかない。覚悟を決めた圭子は智子に案内され、更衣室で色違いのアンダースーツを着込む。

「ん……意外に動きやすいわねこれ」

「そういう事。武装はこのメモに書いてあるから目通しておいて」

「分かった」




メモに書かれているパワードスーツの武装は以下の通り。(試作段階なため、本来の計画の一部のみが完成しているのみである)

・魔力媒介の変換動力のハンドレールガン(口径は12.7ミリ。2201年当時の連邦軍次期正式アサルトライフルと弾薬は共通)

・大規模目標破砕用榴弾砲(120ミリ口径。反動をブースターと補助込みでギリギリ相殺可能な最大口径を開発チームが計算した結果だが、半分趣味が入っている。長距離射撃には砲身延長パーツを取り付けて使用する。対艦及び建造物破砕用なため、連射性は低い部位に入る)

・狙撃用ライフル(15ミリ口径。VF用に近年普及しているスナイパーライフルのダウンサイジング品で、貫通力に優れる)

・散弾銃(近接用であるが、室内戦闘などで真価を発揮する)


・各種ミサイル(これは使い捨てのオプション装備。MSで言えばガンダム試作三号機のコンテナミサイルにあたる)

・高周波振動機能搭載の刀剣類(これはコズミック・イラから持ち込まれたMSである、インパルスの搭載武装を解析した過程で生まれた副産物。魔力伝導率が高いエネルギー変換装甲を刀身部に使用。威力面は2201年における学園都市製パワードスーツを使用者ごと一刀両断可能との事だ。日本刀タイプの他、ダガータイプやショーテルタイプ、クレイモアタイプ、サーベルタイプなどが用意されている


・溶断破砕マニピュレーター(俗に言うシャイニングフィンガーの類。格闘戦得意な者向けのオプションである)

現在のところはこれらが使用可能な武装である。このメモを読み終えた圭子の感想は辛辣なものであった。子供が自分で作った玩具を見る大人のように若干、呆れが表に出ている。

「考えついた武器を取り敢えず作ってみたー的なラインナップね……需要に答えようとして逆に空回りしてるみたいな感じ」

「あ、やっぱり?あたしもそう思ってるんだけど奴さんはノリノリなの。また増やすとか言ってたわ」



「本当?金のムダ使いにならなけりゃいいんだけど。これで採用されなかったらどうするつもりだ?まったく……。人工知能制御の人サイズのMSでも作ったほうが安上がりだと思うんだけど」

使う側としては武器を多くされても覚えきれないから、出来れば必要最小限でいいのだが、開発側としては『どんな任務にも対応できる汎用性』をアピールする狙いがあるらしい。『万能兵器化したMSの人サイズへのダウンサイジング』でも狙っているとしか思えない武器のラインナップの無駄な充実ぶりに圭子はそう言う。智子は地球連邦政府と軍には強烈な“人工知能制御兵器アレルギー”があると補足する。

「しかたがないけど、あの世界には強烈な兵器の自動化へのアレルギーがあるのよ。一時はモビルドールっていう種類の自動制御化されたMSや無人戦闘機が持て囃されたけど、科学者や指導者の間で“自らの手を汚さない戦争なんてTVゲームと変わらない”ってもっともな考えがあった。もっとも、考案者には“戦争で人が死ぬのは嫌だから機械にやらせればいいんだ”って考えがあったようだけど、名だたる組織や国の指導者や大科学者、はたまた武道家までが否定に回った結果、モビルドールや無人戦闘機が主力機になる根は完全に摘み取られ、以後は化学兵器とかと同義に分類されちゃったわけ」

モビルドールや無人戦闘機などの自動制御兵器は電子工学が長足の進歩を遂げた20世紀後半以降、研究されてきた分野である。戦争が国家総力戦となった第一次世界大戦以後、兵器の発達で有に100万を超える人間が容易く死ぬようになり、銃後の安全すら保つのが困難になった。特に第二次世界大戦で確立された航空戦力による戦略爆撃がそれを加速させ、第二次世界大戦後の世界に反戦運動を起こさせ、根付かせた。そんな思想を持つ科学者と、戦争による人的資源損失を嫌う軍閥との思惑が一致し、22世紀の最新電子工学がモビルドールやゴースト無人戦闘機を生み出した。だが、その思惑はあくまで“戦争をするなら人間が手を汚してでもすべきだ”とする多くの者達の手で否定され、その度に凍結と再開が繰り返されてきた。大昔の航空機におけるミサイル万能論のように。兵器の自動制御化に疑問を持ち、否定していた人物としては彼等が有名であろう。一人はシャッフル同盟のキング・オブ・ハートであった東方不敗マスターアジア(彼の出自はシュウジ・クロスという日本人との未確認情報がある)。彼は生前に弟子であったドモン・カッシュと対決した際にこんな一言を残している。『我が身を傷めぬ勝利が何ををもたらす!?所詮はただのゲームぞ!!』と。もう一人は連邦軍の軍閥の一つであった“OZ”の最高指導者であったトレーズ・クシュリナーダ。彼も東方不敗マスターアジアと同じ観点からか、彼自身の美学からか、『礼節を忘れた戦争は殺戮しか産まない』と発言した。今の連邦軍良識派へ彼が与えた影響は計り知れない。科学者では、アナザーガンダムの開発者らも生前に自動化する戦争を否定していた。それら人々が身を以て否定した事で、モビルドールの開発は中止された。開発資産は拠点防衛兵器に活かされる形でなんとか生き延びた。ゴーストも補助兵器の名目で命脈は保った。(ちなみにモビルドールを考案した科学者は自身の思惑が名だたる人物らに完全否定された事を悲観し、抗議の遺書を残し、自殺したという)こうして自動制御兵器の主力化という考えは連邦軍の中で完全にタブー視されたというわけだ。

「なるほどね、確かにその人達の言うことは一理あるわ。殺しあうにも人同士でしたほうがまだ道理に叶ってる。でも人が死ぬのを嫌がる心理が無人兵器を造らせる……矛盾って奴ね」




そう。二つの相反する考えが生み出し『モノ』は闘争という目的に使われる道具でしかない。だが、人は『人の血が通う』道具での闘争を望むし、人間として戦うことを渇望する。これはナチス残党の一派「ミレニアム」の指導者「少佐」がサイボーグというバケモノとしして生きていても、あくまで己は人間であると自負している、連邦政府の切り札の一つ「HELLSING機関」が誇る吸血鬼“アーカード”が『バケモノを倒せるのは人間しかいないし、人間にしか出来ない』と考えている事からも明らかである。だからこのパワードスーツのように、制御を人の手に委ねる兵器が造られ続けるのだ。


「そういう事。……で、武器セッティングはどーすんの?」

「あたしは射撃重視でいくわ。お前と違って格闘戦はあんまやりたくないから」

圭子はどちらかと言うと、個人としては射撃の方が得意である。機動兵器を使う時は白兵戦も積極的に行うが、銃を使う戦闘のほうが『しやすい』とは本人の談。小学生なのにエースであった自分よりも銃の腕がいいのび太へライバル心を持っているらしく、最近は銃のトレーニングに励んでいるとか。





「よく言うわ。ゲッタードラゴン乗ってる時はノリノリでダブルトマホーク振り回してるくせにぃ〜〜」

「あ、あれはあれ、これはこれよ!」

「はいはい」

圭子は1945年以降はスーパーロボットに惚れたらしく、ゲッターロボG(竜馬達の機体とは別機)のドラゴン号とゲッタードラゴンをもっぱら乗り回していた。それを指摘され、顔を赤らめる。智子もいつの間にか、友人をからかれるくらいのユーモアは身につけていたらしい。二人は件の格納庫に行き、武装を視察する。






――格納庫

「こんなの本当に撃てんの?戦車砲を手持ち武装に直したような代物じゃないの」

圭子が訝しむのも無理は無い。それはどう考えても手持ち武装として使うには大型すぎる代物だったからだ。

「ああ、こいつは折りたたみ式なんで意外にコンパクトですよ。これはフルで展開して、砲身延長パーツ受けた状態なんで大きく見えるだけですよ」

武器整備を担当する整備兵はそう説明する。現在は射撃形態+砲身延長パーツ装着済みなので大きく見えるだけで、携行する際はコンパクトに収まると。


「ただし反動でかいんで、基本的には空戦時には対艦戦闘、陸戦における大規模目標破壊にしか使えないですよ」

「随分と大層ね。この武器の試射はしてるの?」

「いえ、それが……まだなんです」

「なにィ!?もう一回言ってくれ」

「だから試射してませんって」

「ああ〜〜!科学者のクソボケナス共〜!使うこっちの身にもなってみろってんだ!」

圭子は思わず叫んでしまう。試射さえ未完了の武器を納入するなど古今東西あっただろうか。太平洋戦争敗戦直前の日本帝国軍でさえもこの過程は省いていない。それを省くなど、それこそ使う側に危険を冒させるのと同じである。

「まぁ使ってみればバランス調整のコツが分かるんで、なんでもいいから一回は撃ってみて下さい」

「どうなっても知らんぞ……」

圭子はもうこうなると何も言えなくなった。しかし、彼女の知る由もない話であるが、開発陣にはある意味で世界の存亡が双肩にかかっていた。このパワードスーツの実用化が急がれている背景には、ウィッチの世界の地球の宿命からくる要望があるからだった。時とともにベテランウィッチが引退し、育成完了したばかりの新兵がその代わりに送られてくるという宿命が連合軍内で今更ながら深刻な問題になっているからであった。戦争が長引いて激化するに従って、各国の陸戦・空戦ウィッチ共に不足しがちになり始めていたが、ティターンズが1944年中に、欧州やアフリカ、アジアの各大陸のウィッチを多く輩出する地域を抑えてしまったことで、各国の新規ウィッチの大増員が難しくなった事が拍車をかけた。折しも、問題がもっとも深刻だったのが扶桑皇国だった。皇国が危機に陥った扶桑海事変の終結から既に7年近くが経過。それまで戦線の中枢を担ってきた熟練者らは高齢化により次第に減少。軍の平均練度は低下の一途を辿った。ティターンズの襲来で戦争が人同士の戦争の様相を呈してきた事で、人同士の殺し合いを恐れて、軍を自主的に退役するウィッチも続出し、悪循環に陥った。これはどの国でも見受けられた現象だが、大国の中では比較的人口が少ない扶桑には致命的になりかねない一大事。接触後、一連の地球連邦軍の提案や作戦に一番乗り気であったのが彼等なのは、お家の止むに止まれぬ事情が一番深刻であったからであった。(このパワードスーツ開発の暁には採用する予定の数ヶ国の中で一番の大口注文をしているのが扶桑皇国であるのがその表れであった。)

「しょうがないわよ、圭子。ウチらの世界のウィッチからはMSと戦える力を求める声が上がってるんだから。あたしやあなたみたいに機動兵器を扱える技能があるウィッチは限られてるし、大半のウィッチには高度になりすぎた23世紀の機械への抵抗感が拭えないって声も出てる。だからストライカーユニットのように直感的に動かせる未来兵器が求められてる。開発陣だって大変よ。殆ど『無い物ねだり』に等しい要望を軍やウィッチから寄せられてるんだから。日本海軍並だってボヤいてたわよ。開発チームの副主任」



「無い物ねだり、か……。確かに武子もこの前、ニコンのデジカメ貸したら一枚取るのにも四苦八苦してたっけ」

智子達は任務の必要上、未来の家電や電子機器を扱えるようになるしか無かったために必死で勉強したし、扱えるようになった。だが、彼女達のように未来文明の利器を未来人同様に扱えるウィッチは実は少数派。多くのウィッチは未来の文明の利器の前に大苦戦を強いられている。例えばバルクホルン。彼女はパソコンを見ただけで頭にお星様が浮かび、デジカメや電子レンジさえも動かせない機械オンチで、現在はなのは達に教えを請いている。加藤武子も初めて未来文明に触れた時、卒倒するほどのショックを起こした。それを居合わせた黒江に散々にからかわれたのがよほどカチンと来たらしく、待機中は未来の家電や電子機器に関するハウツー本を読みふけっているという。

「綾香の奴、行く時にそのことで武子を散々おもちゃにしたのよ。散々にいじられたのがカチンと来たらしくて、給料を半分使ってAmaz○nでハウツー本買いまくってたわよ。操作と手続きやらされたわ。おかげであたしの部屋が本だらけよ」

智子も武子に頼まれては断り切れなかったのか、Amaz○n(23世紀でも存続しているらしい)の大きな買い物をやらされた事を圭子に報告する。代金は武子持ちにしてもらったが、置き場所に困り、未来世界での自宅の一室占領されそうになったため、一部は近くのアパートを借りた、元同僚のエリザベス・f・ビューリングや、二件先の隣に越してきた迫水ハルカの邸宅に置かしてもらったとの事(もちろん、智子はハルカにものを頼むのを渋ったが、ビューリングに“いい加減にしろトモコ!ウチにはこれ以上置けんぞ!私を雪崩で殺す気か!?”と凄い剣幕で怒られたためにビューリングにアイデア絞ってもらい、やむなく頼んだとの事)

(貸し倉庫借りればいいんじゃ……まっ、このさいそれはいうまい)

普通に貸し倉庫借りれば万事解決だと圭子は考えたが、智子の名誉のために心に置いておくことにした。

「そう言えばお二方、コイツを扶桑海軍が陣風との愛称で採用を検討しているのはご存知で?」

「初耳ね。海軍はコイツを甲戦として使いたいのかしら?」

「そうらしいです。乙戦だと空軍に取られると思ってるんじゃないですか?縄張り意識もいいところですね」

「空軍では陸軍飛行戦隊のやり方が是非とされて海軍航空隊の気風は殆ど無くなる予定だからそこが気に入らないんだろう。海軍は“お固い”からなぁ」

海軍は空軍の設立に伴い、空母艦載機部隊を除くすべての基地航空隊を移換する事になってる。人数としては海軍航空隊の方が多数派であるが、気風はフランクな陸軍飛行戦隊となる事に不満の声を上げる高官も少なくない(大西瀧治郎中将がその一人。しかし彼の評判は特攻隊と戦闘機無用論の一件で未来世界での評判は最悪。未来世界から派遣された少佐に“大西、お前は座ってりゃいいんだ!余計なことを言うなよ。お前らのせいで太平洋戦争にボロ負けしたんだからな”と面と向かって罵倒され、ノックアウトされる事件が起こったとか)

「大西瀧治郎中将が反対者の一人なんだけど、あの人かわいそうよ。“こっちでやってない”事で断罪されて公の場で面と向かって散々に罵倒された挙句にプロレス技で骨を数本折られたそうよ」

「ああ、それそっちでゴシック誌のネタにされてましたよ。『連邦軍少佐A、特攻隊司令の大西瀧治郎中将を罵倒の末にエルボー、ラリアット、シャイニングウィザードでノックアウト』って。大西中将、全治数ヶ月の大怪我だそうですよ」

「多いのよねぇ。日本人系の軍人のこの手の事件。憲兵が取り締まりしてるんだけど、減らないのはどうしてかしらね」

「こう言っちゃなんですけど、日本海軍のほうが特攻隊とかおおっぴらにやったし、戦略ミスしまくって戦に負けたって歴史的事実がありますから。21世紀以降になって『実は海軍も陸軍と同じような多くのポカをしてたんじゃね?』って研究が進んだから海軍にも怒りの矛先が向くようになったんです。大西閣下もお気の毒に。ベットから起きれないとかもっぱらの噂ですから」

それは史実の第二次大戦で敗北した側であった国の軍隊が後世の人々によって否定されてしまう事の表れであった。特に日本は最後まで連合国に抗い、刀折れ矢尽きた最悪の状態で降伏したという歴史的背景がある。未来の日本にはそのような状況に追い込んだ軍人らへの反感が未だ残っており、そのために厳密には同一人物ではないと理解していても、やってしまうのだろうと圭子は目星をつけた。される側としてはたまったものではないが、する側はそれこそ“コノウラミハラサデオクベキカ〜!”的なノリだから質が悪い。無くなればいいのだが……。整備兵と思わぬ話題で盛り上がった二人だが、パワードスーツを装着し、武装のテストを行う。この時の二人の装着時の姿は頭部装甲が未完成状態なため、臨時のヘッドギアで済ませているので、『スーツがマブ○ヴで、パワードスーツはIS』と言う表現が的を射ている。なのは達がこの姿を見ればそう表現するだろう。


「こいつ、本当に撃てるのか?」

「さぁ。試射さえしてないんで」

「ったく……!」

愚痴りながら試験場に置かれている模擬標的に向けて榴弾砲を構え、発射態勢に入る圭子。トリガーを引き、轟音が響く。圭子はパワーアシストを最大にし、魔力も発動させ、踏ん張る。だが、120ミリ砲の反動はそれでも抑えきれず、ひっくり返ってしまう。

「うわっ!くそっ、使い勝手悪い武器押し付けやがって……命中したか?」

「バッチリど真ん中ですよ。さすがは扶桑海の電光ですね」

テスト担当のオペレーターからの報告に安心するが、本人としてはまだまだらしい。嬉しそうなオペレーターの声とは裏腹に、圭子の声はいつもと変わらなかった。

「昔取った杵柄だけどね。だけど……こんなんじゃまだまだあの子には届かない。どんな武器でも百発百中にならないと……」



圭子はかつて、飛行第一戦隊のスナイパーであった。扶桑陸軍飛行戦隊一の銃の使い手とも自負していたが、それを上回る命中率と近接戦闘での大立ち回りを平然とのび太はやってのけた。俗に言うガン=カタの類だ。普段の運動神経ダメダメぶりからは想像だにもしない立ち回りを演じるのび太の姿に圭子は驚きと羨望、そして仄かなライバル心を抱いた。最近はガン=カタの練習ををこっそりしているらしいと噂。上空では智子が刀剣類の切れ味をリモコン操縦に改造された零戦52型相手に試している。

「はぁっ!」

零戦以上に小回りが効き、なおかつスピードもマッハ1.2は出る。感触としてはジェットストライカー以上に扱いやすく、全ての点で良好だ。そう智子は感じ、剣を振るう。


――空戦での小回りの良さもいいみたいだな。おっ、智子のやつ、張り切ってるな。

圭子は智子の機動を更に鋭くするスーツの威力にうれしさを感じ、微笑んだ。これなら高機動タイプの魔導師にも対抗可能と想われる。速度性能は抑えられているらしいが、それでも必要にして十分だ。このパワードスーツはテストがその後も重ねられ、1945年8月の段階で501統合戦闘航空団にも回されることになる……。









あとがき

今回のパワードスーツ関連のアイデアはDRTさんからご提供されたアイデアを基に、アレンジを加えて使用させていただきました。DRTさん、ありがとうございました。909



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