――ミッドチルダで改装を受けた信濃と甲斐。その性能は今や姉達とは比較にならない。速力は換装により32ノットへ増大し、煙突は大型化し、旧副砲塔付近の吸気口が拡大されているなどの改装の結果、全長が拡大されて293mとなった。簡易というには規模が大きいようだが、先行して到着して作業にあたった連邦軍の工作部曰く『本式のCICを設置したいが、それでは半年以上の工期を要するので、今回は断念した』との事なので、ギリギリで簡易に入るらしい。しかし、信濃と甲斐では未来武装導入具合が異なり、甲斐の方がより20世紀す英語の軍艦に近い。出発までにミサイル装備の強化と艦首・艦尾の装甲強化も行われた結果、満載排水量が切りが良い85000トンヘ増大している。その両艦は同じく改修された巡洋艦「能代」率いる護衛水雷戦隊と山口機動部隊から分派された軽空母「千代田」「千歳」を伴って撤退作戦『ケ号作戦』の囮艦隊として抜錨した。その様子を確認したナチス潜水艦「U-2612」は司令部指令により、安全深度からゆっくりと追尾しつつ、各種データ集計に勤しんでいた。







――U-2612 艦橋

「敵は順次、後世の機関へ換装を進めているようです。ノイズが1940年代の蒸気タービンとは明らかに異なります」

「やはりな。大和型を伴う艦隊にしては足が速いと思った」

「魚雷をぶち込みますか?」

「撃ては本艦の存在を知らせることになる。ましてや連合艦隊旗艦の護衛艦隊だ。迂闊な行動をすればやられるだけだぞ。本艦の任務は友軍と協力して、ビスマルクに添えつけたフランス式主砲と改大和型のデータ収集なのだ」



艦長は大和型を護衛する艦隊が高練度艦だと踏み、勇む部下を抑える。総旗艦直属艦隊であれば近代化も高度に行われているであろう事を畏れているようだ。彼等は深く静かに潜航し、信濃率いる艦隊の動向を探った。







――軽空母「千代田」

千代田は史実の最終状態である軽空母の艦容を見せていた。更なる改装も行われており、油圧式カタパルトが装備され、大戦後期の大型機の発艦が可能となっている。艦載機は紫電改が13機、彗星爆撃機が12機、彩雲偵察機が5機である。これに一個小隊ほどのウィッチが付属する。そこに圭子が機動六課のヴィータと今は自分の直属の部下となったティアナを引き連れて乗艦していた。










「で、今のテメーは扶桑陸軍の人員扱いなんだって?なんでだよ!?元々はこっちの人間じゃねーか!」


ヴィータは自らの直属の部下でもあったティアナの現在の帰属先が機動六課でなく、扶桑陸軍である事にありありと不満を漏らす。行方不明扱いだったとはいえ、代わりの人員を手配せずに待っていたというのに、『別の組織に所属換えました』と言われれば不満を爆発させるのも無理かしらぬことであった。


「まぁまぁ。無事に帰ってきただけでも良しとしなさいな。ティアだってあなた達のことを嫌いでウチに入ったわけじゃないんだから」


圭子がなだめる。軍志願後のティアの心情は圭子が一番良く知っているからで、アフリカでウィッチとして戦う事に罪悪感を見せるティアナを諭す事もあった。なので、フォローしたのだ。それでもヴィータは憮然とする。

「そりゃわかってるよ、だけどな。一言くらい連絡をだな……」

「そりゃ無理だって。タイムパラドックスとかの関係もあって、あなたに知らせるのは無謀すぎたんだし」

「……ふーんだ」

「あとでラムネとアイスおごるから、ね?」


やはり大人らしく振舞っていても、外見相応の子供っぽさを残しているようで、ヴィータは拗ねてしまう。それを上手くあしらいながらなだめるのは流石に圭子の年の功だ。

「ケイさん、ストライカーの整備してきます」

「それじゃあたしも行くわ。今回は海軍のだしね」

今回は圭子も通常のストライカーユニットでの出撃となった。コードネーム『レーバテイン』と呼称されるパワードスーツは基地施設での装着が前提なために艦に持ち込むのは無理があるからだ。黒江のようにISを装備する手もあったが、慣熟訓練期間が取れない関係で今回は見送られた。ましてや今回の主役は『戦艦』であり、『空母やウィッチ』ではない。その関係でストライカーでの出撃と相なったのだ。二人のストライカーユニットは今回は洋上航行の都合上、海軍の紫電改である。航続距離では疾風が勝るが、機動性では紫電改が勝る。そのため海軍の強い勧めで紫電改にしたのだ。整備の勝手が違うとは言え、陸軍の伝統に則って自分でも整備を行うようにしていた。格納庫に行くと、実機に混じってストライカーユニットとしての紫電改が整備状態で置かれていた。












――格納庫

「マ43の調子はどう?」

「ハッ、過給器の部品を取り替えて試験運転待ちの状態であります」

「ご苦労。一応他のプラグとかの摩耗も見てみるが、いいな?」

「構いませんよ」

扶桑皇国の工業力は大日本帝国比10倍を誇るが、それでも下請けの町工場に至るまでの品質管理が普及しているとは言いがたい側面があり、黒江は以前にそれで酷い目に合っている。それを愚痴るのを知っていたので、圭子はプラグに至るまでの部品を自分の目で確認することを日課にしていた。

「ふむ……製造場所は山西の直属工場……流石に精度がいいわね。合格っと」

圭子は自機の構成部品の精度が規定以上に良いことにご機嫌となる。扶桑皇国は大日本帝国より圧倒的に工業力が発達してはいるものの、町工場に至るまでに品質管理の概念は浸透しておらず、黒江がメカトピア戦争時に味わったような『カタログ性能の7割にも行かない性能しか出せない』個体が流通してしまう事があり、圭子もそのような個体で苦労したのは一度や二度ではない。なので部品精度や製造工場の刻印などをチェックしてしまうのだ。幸いにも今回、二人に宛てがわれた機体は山西最初の大規模工場である『姫路製作所鶉野工場』で造られたもので、しかも『当たり』の個体であった。



「良かったですね、鶉野工場製の個体で」

「ええ。これが宝塚製作所とか甲南製作所製の個体ならエンジントラブルとか揚力の不均衡を心配しちゃうもの。紫電がロールアウトした時に坂本達世代に不評買ったのそれが原因だしね」













そう。現在、扶桑皇国海軍航空行政で一躍トップメーカーの一角に食い込んだ『山西航空機』は元来、飛行艇及び水上機専門メーカーであった。それが強風や零式水上観測機などの小型水上機が時代遅れとなり、今後の需要が見込めない事を見込んで陸上機分野に進出したという経緯を持つ。坂本ら世代には『飛行艇専門メーカーがぽっと出で戦闘機やストライカーユニットなど作れるはずがない』と不評であり、紫電の配備が半年遅延するという事態も起こった。圭子達陸軍から見ればその経緯は実に『バカバカしい』のだ。

「はい。お恥ずかしいかぎりです。すっかり世代間闘争の様相呈してましてね……」

竹井や松田のように一撃離脱戦法と編隊空戦を重視するエースも多いが、古参兵の中では少数派である。そのおかげで世代間闘争が勃発してしまった。最近は戦局の様相が不利に傾いたため、海軍航空隊内の若手と古参兵の発言力の割合が逆転しつつある。それが紫電改系統の主力化なのだ。


「武井や松田、若本とかは若手の擁護に回ったから坂本の立場は悪くなったと聞くが、本当なのか?」

「ええ。オフレコなのですが、坂本少佐の立場は非常に悪いのです。ご本人が聞いたら卒倒しかねないほどに……上層部は坂本少佐を一線から遠ざけようとしているのです。343空で松田少尉とイザコザ起こし、報告書が基で紫電の配備を遅延させたのが問題視されまして……501での階級も大尉へ降格させようという話も出てまして」

「あちゃー……あいつの悪い癖が出たか。こりゃあの手を使うしかないか」

「少佐、あの手とは?」

「対上層部強硬派用の一手よ。坂本は自分の行為が自分の政治的立場を悪くしてる事に気づいていない。あの子は良くも悪くも実直な軍人で、政治的な駆け引きには無縁だから。あたし達が動く必要があるってこと。ティア、そっちは?」

「こっちもOKです」

この時期は扶桑の暦で昭和19年12月末。この頃、501再結成が協議されていたのだが、坂本の素行がここのところ『功績を帳消しにしかねない』ほどに悪く、343空でイザコザ起こし、間接的に機種配備に悪影響を及ぼしたのでたので異例の『降格処分』も検討されていた。これは501再結成の際に与える士気の低下を勘案して見送られたが、坂本の立場が危ういのには代わりない。圭子は手を回し、親友の一人である智子を地球連邦軍のツテで『連邦軍人』として501に送り込む妙案をこの時に思いつく。507統合戦闘航空団隊長を勤めていた経歴を持つ智子を送り込んで坂本の擁護者を増やす算段である。ミーナも上層部の大半から少なからず疎まれており、坂本を擁護すれば今の立場を追われる可能性がある。その話を派遣前にエルヴィン・ロンメルから聞いていた圭子は501を守るための妙案として、『智子送り込み作戦』を武子や黒江の協力のもとに構築・立案。エルヴィン・ロンメルやパットンの代理で指揮を執るオマール・ブラッドレーや連邦軍のエイパー・シナプス、ジョン・コーウェンなどの幕僚達と共謀し、智子を501の『強力な助っ人兼弁護人』として送り込む。そう。翌年に501に智子が派遣された裏にはこういう事情があった。



「これで一応いつでも動ける。あとは向こうの電探とこっちのフェーズドアレイレーダーの勝負だな」


信濃と甲斐には扶桑原産の第二次大戦レベルの電探に換えて、23世紀最新鋭のミノフスキー粒子対応のフェーズドアレイレーダー、それに連動した射撃指揮装置が取り付けられている。それに伴って探知距離は長い。ビスマルクに同等の技術力の電探が無ければ先に捕捉可能である。両艦に水上観測機は積まれていない。時代遅れとなったことから、ヘリコプターへ切り替えられたからだ。そのためウィッチ運用は空母へ一任された形だ(水上機&ウィッチ射出用カタパルトが信濃率いるこの艦隊の大型戦闘艦の全てから撤去されていたからでもある)。そのためウィッチは観測機の全てと護衛戦闘機の任務の一部を負担する事になった。



















――ビスマルクは潜水艦からの通報に従って、直ちに抜錨。新式主砲のテストと対改大和型の威力偵察も兼ねて、扶桑海軍の誘いに敢えて乗る形で出陣した。

「艦長、僚艦も全て出港。扶桑艦隊との接敵地点に向かいます」

「うむ。今回は威力偵察だ。本艦は知っての通り、『新しい旧式艦』である。本艦に配属されている人員の中には『冷や飯食い』と嘆く者も多いだろう。だが、本艦は仮にも我が国を飛躍させた『鉄血宰相』殿の名を冠する船だ。その名に恥じない働きをしなければならん」





ビスマルク艦長は自艦の性能がかつてアドルフ・ヒトラーらが宣伝したような『ヨーロッパ最強』などではない、『時代に取り残された艦』というのを自覚していた。その証拠に大抵の世界での戦果は『フッド撃沈』のみで、この艦の元いた次元でも最終的には『二線級』の扱いを受けていた。

「各員に告ぐ。本艦の今回の主敵はかつての同盟国であった日本が誇る『世界最大最強』の名を欲しいままにした大和型戦艦である。この艦は18インチ砲を備え、装甲防御も当然ながらそれに対応している。とても本艦の攻撃力でそれを破壊するのは無理だ。たとえヴィシーフランスから分捕っておいた1935年型正38cm・45口径砲のコピー品であろうと。だが、一定の打撃は与えられる。各員は奮起せよ」


そう。彼等がかつて、ヴィシーフランスから得て、戦後の潜伏期間にコピーと改良・製造ノウハウを身につけた1935年型・正38cm45口径砲はフランス海軍が使用した場合のカタログスペックでは改装後の長門型戦艦のバイタルパート部をも貫通するとされている。最もドイツ軍の戦後の調査では『すぐ故障起こるから実測はそれより低下する』とされ、ドイツ式の改良が施された。その結果、1960年代初頭にショッカーに行わせた射撃テストでは『貫通力は340ミリを確実に貫通、故障は飛躍的に減少』との計測が出ている。過剰な貫通力を抑え、稼働確実性を重視した改良が施されたのである。

「度のうち、レーダーは三次元レーダーを持つ向こうのほうが優れている。もうじきすれば捕捉されるだろう。戦闘配置につけ!」



ビスマルクは戦闘態勢に入る。僚艦の駆逐艦・巡洋艦らを引き連れて、強大な扶桑艦隊に挑む。鉄血宰相の名を冠しながらもヴェルサイユ体制による技術断絶により『遅れてきたバイエルン級』としてしか生まれいでる事ができなかった不遇の艦は今、世界最大最強の誉れ高き大和型戦艦に悲壮な海戦を挑もうとしていた……。































――そしてその数時間後、信濃のレーダーがビスマルク艦隊を完全に捕捉。扶桑艦隊は第一撃として対艦ミサイルを打ち込む事を選択。駆逐艦らを航行不能にするためだ。装甲がある分、ミサイルが直撃しても一撃轟沈は難しい。それは未来世界での統合戦争最末期、強固な装甲が施されたイージス艦を反統合同盟が撃沈するのに何発ものミサイルを撃ち込んだという実例がある。ジオンが一年戦争中に行った通商破壊、ガミラス・白色彗星帝国戦役の戦訓によって地球連邦軍は『ミサイルは強力であるが、頼りきりはNG』と結論付け、砲熕装備と共存させる方法で艦艇の武装を構築した。それは宇宙戦艦だけでなく、水上艦艇にも適応された。それは友軍艦艇の改装であっても例外で無く、信濃らはミサイル装備と砲熕装備をバランスよく備える23世紀型水上戦闘艦として生まれ変わった。


「対艦ミサイル、発射しまーす!」

かつて高角砲や40ミリ機銃群が置かれていた艦中央部に設置されたVLSから対艦ミサイルが複数発射されていく。扶桑海軍の人員はミサイルを艦に抱えている事に恐れを感じているようだが、それは砲弾や魚雷も同じこと。因みにミサイルなどの先進機器の操作はオブザーバーとして乗艦している連邦海軍の人員が行っている。数秒後には駆逐艦や巡洋艦らに複数が対空砲火をくぐり抜けて命中し、駆逐艦が4隻ほど落伍していくのがレーダー上で確認された。

「駆逐艦を複数落伍させることに成功も、巡洋艦はなおも健在。ビスマルクと生き残った駆逐艦隊で突撃を敢行していきます」

「面白い。甲斐へ打電。『我ニ続ケ』」

「ハッ!」

信濃と甲斐が複列陣の先頭に立ち、ビスマルクへ50口径46cm砲を向ける。その作動原理は主に電動式となっている。砲塔が新造される際に宇宙艦の設計ノウハウを使って作ったためで、信濃と甲斐以降はこの方式になっている。悪い言い方をする扶桑海軍造船官曰く、『国運を担う連合艦隊旗艦を地球連邦軍のおもちゃにされた』との事だが、実際に武蔵までの水圧式に比べると迅速に作動した。空母からは護衛と観測を兼ねて圭子達が発艦する。

「『敵大戦艦級、発見。方位………度……』」

超視力を発動させた圭子が双眼鏡と併用して観測を行う。それに従って信濃と甲斐の主砲塔と砲身が動く。そして有効射程距離に入った瞬間に二艦の主砲が火を吹いた。神の咆哮と疑わんばかりの凄まじい轟音が響き渡り、一式徹甲弾が飛翔する。カタログスペック上ではアイオワ級のバイタルパート部を容易くぶち破れるとされる50口径46cm砲弾は真っ直ぐビスマルクへ向かっていき……。
















――ビスマルクはいきなり至近弾を浴びた。40000トンの巨体が激震し、悲鳴を挙げる。

「至近弾です!装甲に一部亀裂!浸水発生!


「ダメコン急げ!さすがは日本軍!初弾から至近弾を出すとは……こちらの有効射程はまだか!?」

「まだです!最大射程で撃てば無駄弾を出すだけです!」

「ええい!回避運動、厳に!」






次弾は夾叉範囲に落ち、高々と水柱を上げる。ビスマルクは必死の回避運動を見せるが、圭子の観測によって正確な照準修正を見せる信濃と甲斐の18門の46cm砲の蜘蛛の巣に捕らわれていく。そしてついに一弾がビスマルクのバイタルパートをぶちぬく。


「被弾!」

「被害状況知らせ!」


「前部甲板をぶち抜かれました!敵弾は内部で炸裂、内部を破壊せしめるも、弾薬庫への引火は無し!死傷者なし!」

「不幸中の幸いか……これが大和型の威力なのか……」

艦長はビスマルクが改装の際に装備した新型装甲の改良型ヴォタン鋼を容易くぶち破る大和型戦艦の威力に戦慄する。だが、ビスマルクの新型主砲であれば長門型のバイタルパートをぶちぬく能力を持つ。なんとか有効射程まで持ちこたえ、一撃見舞う。それまでは我慢だ。

この時、ビスマルク艦隊と信濃率いる第一艦隊は日本海海戦のごとき様相を呈した。信濃側は勢いと、未来製自動装填装置の威力で、46cm砲を間隙をほとんど置かないで撃ちまくっているのに対し、ビスマルク側はバカスカ撃たれ、圧倒されている。ついにビスマルク側も有効射程に達する。この時の互いの距離は34500まで縮まっていた。




「敵艦、発砲!」


「敵の有効射程に入ったぞ!各員構えろ!来るぞー!」

第一弾は信濃の周囲に着弾するも、至近弾ではない。だが、予想よりも水柱が大きい。阿部俊雄大佐はビスマルクとの撃ち合いに嬉々としながらも部下らを落ち着かせるのを忘れない。これは別の歴史で空母となった信濃を自身のミスで失わせた事への反省によるものだろう。

「艦長、ドイツの照準も正確ですな」

「うむ。次は夾叉されるだろう。木村さんの水雷戦隊はどうだ?」


「木村閣下の水雷戦隊はただいま濃霧を突っ切って目的地へ向かっております。2時間前の打電によれば絶好の突入日和だそうです」

「さすがは木村さんだ。必ず成功するだろう。こちらもあの鉄血宰相殿をぶちのめして武功を上げ、小沢司令長官に彼奴の首を献上しなくてはな」

阿部大佐の意志が宿ったのごとく信濃は吠える。この時は連合艦隊司令部は乗艦していない。時空管理局本局に招かれ、今後の作戦会議を行っているからで、連合艦隊司令長官旗は翻っていない。しかしながら『連合艦隊旗艦』が赴いた戦で負けは恥である。なんとしても勝利をもぎ取らければならなかった。第10斉射が発射され、ビスマルクの脇腹めがけて飛翔する。この時の距離は28000。連合艦隊が想定する『決戦距離』である。これ以上接近されれば如何に換装された装甲であろうと大落角弾の危険が生じると踏む阿部大佐はこの28000から32000の距離を維持するように全艦に通達。ビスマルクと砲撃戦を続けた。






――こうして開始されたミッドチルダ北部沖海戦。小競り合いとは言え、戦艦同士が火花を散らす海戦である。その様子を初めてみたヴィータは第二大戦型の戦艦同士の砲撃戦というものを垣間見、圧巻の一言であった。

「すげぇ〜〜!これが戦艦同士のガチンコかよ……じっちゃん達が若い頃はこんなのがガチであったんだよなぁ……なんで廃れちゃったんだ?」

「大艦巨砲主義は金かかりますからねぇ。飛行機の行動半径の大きさと攻撃力の大きさ、汎用性の大きさが砲撃戦に特化しすぎた戦艦よりコストパフォーマンスに圧倒的に優れてたんで、坊ノ岬沖海戦で大和が沈んだのと、ミサイルの発達が止めになって、再興するのは宇宙戦艦の時代までおあずけです」


「ミサイルっのは味気ねーよなぁ。ボタン押せば命中なんて」

「だからミサイルがミノフスキー粒子で花形から滑り落ちたんですよ。ミサイル全盛はミノフスキー粒子の登場で終わりましたから」

「なーるほどなぁ。しかしお前、なんか前より前向きになったな?」

「アフリカで生き残って来ましたから。これでも10機撃墜してるんですよ。エースの端くれですから」

「そっか。昔は5機落とせば撃墜王認定されたかんな……」

ヴィータは魔導師としての自身の存在意義を見い出せず、焦っていた頃のティアナとはまるで別人のように覇気にあふれる、『ウィッチとしてのティアナ・ランスター』に多少の寂しさを感じたようだ。武器こそクロスミラージュを使い続けているようだが、バリアジャケットは展開しておらず、ウィッチとしての戦闘服である巫女装束と小具足姿で、しかも使い魔と契約しているようで、動物の尻尾と耳が出現している。



――でもよ、なんで見るからに日本人じゃねーティアナが日本軍相当の軍隊に入れたんだ?まぁ、どうせケイさんやアヤカさんがどーにかしたんだろうがな。

ヴィータは扶桑軍内で高い政治的発言力を持つ圭子や黒江なら人事局をちょろますこと位余裕だと睨む。実際には智子も多少口添えしている。ティアナが扶桑陸軍に入隊した裏には『新三羽烏』の政治的働きが絡んでいるのであった。観測任務を遂行する圭子を見て、ヴィータはそう思った。









――信濃艦隊がビスマルクを引きつけている隙に木村昌福中将麾下の臨時水雷戦隊は荒海の濃霧のミッドチルダ北部へ突入する。奇しくもその陣容は『阿武隈』を旗艦としている事からもキスカ島撤退作戦とバッチリ合致し、状況までもが酷似していた。


「提督、濃霧であります」

「うむ。この辺は荒いと聞く。場合によっては俺がもらうぞ」

「ハッ」

木村中将は艦長に提督である自分が自ら操艦する場合もあると断りを入れつつ、5500トンの巨体を翻弄せんと荒ぶるミッドチルダ北部の海を見据える。ハンモックナンバーこそドンケツだが、才覚にあふれる彼の落ち着きように、観戦武官兼時空管理局側の代表として乗艦するはやてに改めて海の男というものを嫌と言うほど見せつける。

(うっぷっ!ああ、船酔いしたぁ……。5000トン以上ある船を揺らせるここの海も凄いのにみんなケロリとしとる……やっぱり海軍の人たちは船酔いしないんやなぁ)

はやては揺れとほぼ無縁な大艦、それも次元航行艦の指揮は取った事はあるが、荒海の荒波を突っ切る水上艦艇は乗った経験はない。地球でフェリーや豪華客船に乗った程度だが、荒天での安定に優れる旧軍艦艇をして、『右に揺れ、左に揺れる』揺れるこの海に、はやての三半規管は悲鳴を上げる。そんな海にさえ動じない旧軍人の鍛えようにはやては羨望の目を向ける。はやてが彼等の高みに到達するには少なくともあと最低でも5年の月日を必要とした…。

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