――ミッドチルダにて実現した、日独戦艦対決。戦闘は威力に優れる扶桑側が優位に進めた。

「あ、艦長!敵艦の第三砲塔が派手にぶっ飛びました!」

「よし、よくやった!これで敵艦の攻撃力は半減だ!」

ビスマルクの後部第三主砲塔の砲身が吹き飛ぶ。46cm砲弾が天蓋に着弾し、主砲天蓋の220m装甲をぶち抜き、バーベット部も問答無用でぶち抜き、人員ものとも第三砲塔を破壊せしめたからだ。誘爆しないのは即座に注水作業が行われたからか。信濃艦長の阿部大佐はこれでビスマルクにかなりの損害を強いたと確信。更なる統制射撃で息の根を止めんと砲撃を続ける。そして艦橋に46cm砲弾が命中し、ビスマルクは戦闘継続能力を一時的に失い、甚大な損害を被った。

「副長戦死!艦長負傷!」

「どうする!?」

「こうなれば死に土産を頂く!取舵いっぱい〜!!各砲塔は当てずっぽうでいいからとにかく撃ちまくれ!」

ビスマルクは遥かに格上の相手である大和型戦艦に必死に挑んでいた。だが、大艦巨砲主義の精鋭である大和型戦艦相手ではほぼ為す術なく艦橋への直撃を食らってしまい、早々に艦隊指揮統制能力を失った。無事な各砲塔が射撃を継続したものの、その精度は大きく低下してしまった。しかし当たれば大和型にも出血を強いる事は可能だ。そこを狙い、近距離戦に打って出る。ビスマルクは純粋な船としては完成当時の大和型より優れた点があり、格上の砲を食らいまくってもなお、浮かんでいるという驚異的抗堪性を見せる。そして長門型の装甲を穿つフランス式主砲の威力が遂に信濃に炸裂した。轟音とともに弾切れとなったミサイルランチャーを吹き飛ばし、CIWSを二個巻き添えで破壊し、火災を発生させる。

「火災発生!」

「ダメージコントロール急げ!損害はどうか」

「CIWSが二基と空のミサイルランチャーを一基損失しました。しかし戦闘継続には問題ありません」

「流石に大和型戦艦だ、頑丈だな。長門型や紀伊型よりも対弾性が増している」



阿部大佐は平行時空に於いての自分と信濃が魚雷一発で轟沈したという記録が未来世界において存在する事を半ば自嘲するように言う。彼が空母でなく、本来の姿である戦艦として竣工した信濃の艦長に志願した背景には『判断ミスで乾坤一擲の切り札を失わせた』別世界の自分の名誉を挽回し、また、そのせいで『無能』と未来のマスメディアによって貼られている自分へのレッテルを払拭せんとする涙ぐましい事情があり、積極的に攻勢に出ているのは戦果を以ってマスメディアを黙らせたいという思惑も入り混じった複雑な心境から来ていた。そして幾度か被弾するものの、ビスマルクの攻撃に耐えて見せる。無論、信濃と言えども無傷でなく、CIWSなどを失っており、甲板上には残骸が散乱している。それでも砲撃力が衰えないのは、強化された装甲とダメージコントロールの賜物だった。

「ミサイルの残弾は?」

「十分ですが、戦艦相手には有効打には」


「……砲撃長、一式徹甲弾の水中弾効果を狙えるか?」

「至近距離に着弾出来れば発生しますが……?」

「この状況で駆逐艦にとどめの雷撃させるのは危険すぎる。喫水線下に大穴さえ開ければいい」

「分かりました」





伝声管はデジタル通信機器が故障、あるいは電源喪失した際のフェイルセーフとして残されており、扶桑皇国海軍軍人達は扱いが手馴れている分、デジタル機器に慣れるまでの間は今までどおりにこちらを主に使用していた。実際、耐衝撃性などは高めているが、被弾時の故障を『厄介である』と見ており、彼らが砲撃戦時の意思疎通を伝声管で主に使う理由となっている。

「ビスマルクの喫水線下を狙え!仰角、方位修正、撃てぇ!」

――信濃と甲斐の第12斉射の一式徹甲弾が水中弾となり、喫水線下の船体に大穴を開けた結果、ビスマルクは遂に傾斜を強め、ゆっくりと海底へ消えていった。それにはなんと数十分を要し、最後の意地を見せた。また、扶桑側に救助された乗員も多岐に渡った。船体が完全に海中に没した瞬間、ビスマルクと運命を共にした者達と、格上の相手に敢闘した鉄血宰相への敬意を払う意味で、敵味方問わず艦上で敬礼した。ここに日独戦艦対決第一ラウンドは大和型戦艦の勝利に終わったのである。近くの海域で様子を観察していたUボートは『ビスマルク撃沈ス。我が方の予想通りである』と予定調和であるかのような打電を海軍本部へ打電。レーダー元帥もビスマルク沈没の報に『残念であるが、我が方の予想通りだな……。日本側へ捕虜の扱い方の徹底を求めるように打電せよ。運命を共にした乗員へ黙祷!』と発言したという。要するに、ビスマルクを大和型戦艦の威力偵察のための捨て駒に使用したわけである。これはビスマルクの船体設計が『改バイエルン級』と揶揄されるほどに旧式な事と、大和型戦艦に匹敵する性能を備えるH級戦艦が続々竣工した故の措置である。阿部大佐はこの戦功を無電で小沢へ報告。小沢はビスマルク撃沈に浮かれる阿部大佐を諌め、『勝って兜の緒を締めよ』と信濃宛てに返電したという。






――はやては艦内で伝えられた陸軍部隊の奮戦に逆に驚いていた。日本陸軍はイタリア以下の装備しか持たない弱体軍隊との認識を持っていたので、ヨーロッパを蹂躙した実績を誇るドイツ軍と渡り合うのが信じられないようだ。木村中将は『別の歴史において敗北を喫した後の時代における国民の軍への認識』を垣間見、陸軍に同情した。


(哀れなものだ。陸さんは未来人から少なからず迫害に近い侮蔑を受けていると聞いていたが……ここまでマスメディアの作ったイメージが浸透しているとは。このようないたいけな少女にここまで言わせるのもマスメディアの残酷さ故か)

「陸さんを侮っているよ、二佐。戦車師団は我が方の中でも選りすぐった兵を集めておる。然るべき装備さえあれはドイツ軍にも引けはとらんよ」

木村中将は戦後日本人が陸軍を『暴走した末に国民を見捨てた悪どい組織』との認識を持っていると黒江から聞かされてはいたものの、『猫も杓子も陸軍を悪の軍団扱いする』のには流石に同情せずにはいられなかった。何せ自分たち海軍は『海上自衛隊という形で戦後再建に成功、一定の市民権を得た』からいいが、表向き、『陸軍は過去に葬り去りました。陸自は血を受け継いでおりませんからご安心を』と政治家が答弁するほど悪と断じられ、地球連邦軍の歴史によれば、国防陸軍が21世紀に再建されても、『陸上自衛隊が拡充改組した組織で、旧陸軍とは関係ございません』と当初はパフォーマンスせざるを得なかったという事実があるという。史実の愚行を指摘され、失脚した陸軍高官はかなりに登る。すでに扶桑海事変の失態で立場を失っていた陸軍を更に追い詰める結果となった、二度目の粛清人事。結果的に優秀な司令官らが選抜され、軍行政の改善と過激派の排除に成功した。だが、良い側面ばかりでなく、未来人による情報の弊害も少なからず発生した。それは史実では中国戦線に相当する、元・大陸方面軍の将兵らである。彼らはは地球連邦のマスメディアから『暴走しそうな関東軍の連中』のレッテルを貼られ、殆ど謂れ無き迫害を受けた。軍がマスメディアの圧力に抗しきれずに僻地送りになってしまった者、情報が知れ渡り、周囲のあまりの手のひら返しに耐えられずに軍を去った者も多かった。しかし、戦果と模範的行動で大陸方面軍経験者の名誉挽回を図る将兵もまた存在し、練度が高い彼らは激戦区に送られた戦車師団に進んで転属を志願し、ミッドチルダへ来訪していた。その事実を踏まえての擁護を行った。




「司令、この先は浅いです。座礁の危険性がありますが?」

「馬鹿者、座礁が怖くて浅海の行動などできるか。自分の操艦に自信が無いのかね、艦長?」

「は……赤レンガにずっといましたから、艦隊勤務はこれで久しぶりなもので……10年くらいぶりで……」

「うぅむ……それでは仕方がない。言った通り、操艦を儂が預かろう。機関全速」

「全速ですか!?」

「荒れている以上、機関出力を落としていては流される危険性がある。見張りは厳にせよ」



次いで、肝心な場面で冷や汗タラタラな阿武隈の艦長の告白に、思わず操艦を引き受けた木村中将だが、艦隊勤務一筋である彼はここでも見事な操艦を披露した。荒海、しかも岩だらけの浅い海域を5500級の阿武隈でくぐり抜けていく様は圧巻の一言。小沢からも『木村君は操艦の名手だよ』と高く評価されている通りの腕前であった。

「前方、左に大岩!」

「面舵30度!」

阿武隈の船体スレスレに岩が通り過ぎて行く。レーダーと見張り員の報告を基に適宜、前進しつつ旋回していく阿武隈。僚艦もそれに続く。まさに『月月火水木金金』との言葉を後世に残した海軍の面目躍如であった。はやてはまたも木村中将の神業的操艦に舌を巻く。


(私達の世界の歴史でもキスカ島撤退作戦を成功させ、ミンドロ島沖海戦も勝ったっていう人……流石や。お手本にしたい人やで……)

はやては改めて『史実』の木村中将の功績を思い返す。戦況には影響は与えていないが、戦史に残る活躍を演じた、旧海軍の水雷戦隊司令官。管理局の艦艇を預かるであろう立場のはやては参考にせんとばかりにしっかりとこの場の様子を頭に叩き込んでいった。





























――ロンド・ベル隊は表立って参戦はまだしなかったが、バダンに合流していたジオン軍残党を宇宙で極秘裏に迎え撃っていた。


「ジオンの奴らは俺たち連邦を叩くためならナチ残党とも手を組むってか?冗談きついぜ!」

ロンド・ベル所属のRGM-122『ジャベリン』小隊がMS-06R-1『高機動型ザクU』と交戦に入っていた。母艦はロンド・ベル第一群に新たに配備された主力戦艦改級戦闘空母『ジブラルタル』。彼らは白色彗星帝国戦役以来の猛者であるが、対するジオン軍側も一年戦争以来の歴戦の勇士で固めていたらしく、性能差を腕でカバーする戦いを見せ、一進一退の攻防を見せる。ジャベリンのジャベリンユニットが一機を戦闘不能にすれば、高機動型ザクの質量による格闘戦でジャベリンの頭部を握りつぶし、バックパックにザク・バズーカを叩き込んで撃墜する荒業も見られた。ジャベリン側は小回りの良さと火力で押す戦法を取っていたが、高練度の大型MS相手の格闘戦は質量的に不利が否めないためにジム・ライトアーマーよろしく、一撃離脱戦法を取っていた。小型かつ高推力なジャベリンは高機動型ザクをも上回る速度を出せるためにうってつけであり、大昔の米軍を想起させる編隊戦を展開していた。



「へっ、個人単位で強くても連携がなって無いぜ!ジオンさんよぉ!」

ジャベリン隊の隊長は高機動型ザクをビームライフルで狩りながら毒づく。彼の言う通り、旧ジオン軍は所謂『個人の技量に頼る軍隊』であったため、最終的に連邦の編隊戦闘に敗れた。アナベル・ガトーやジョニー・ライデン、シャア・アズナブルのような一騎当千の撃墜王達は確かに圧倒的に強いが、彼らだけで全体は支えられない。その証拠に一年戦争でのソロモン戦やア・バオア・クー戦で連邦はジオンを打ち破っている。それが連邦軍の自信であった。














ジオン側の母艦であるムサイ後期型では、波動エンジン艦である主力戦艦級には絶対に勝てないのを知っているのか、MS相手の支援攻撃程度に留まっている。現に、ショックカノンの一射でムサイの一隻が船体をまるごと貫かれて轟沈している。

「まったく……ドイツ繋がりでジオンとドンパチするとはな。因縁ってのはわからんな」

ジオン公国軍はドイツ軍を意識したらしく、MSの造形や軍服などが昔年のドイツ軍を思わせるものが多数あった。しかもその元になったドイツ国防軍と戦争しに来たと思ったら、ナチスシンパかつ、ジオン軍に加わっていた者達がいるのだから、世界は狭いものだ。そして高機動型ザクの緒戦能力の限界からか、比較的短期間で相手方は引き上げた。空母といえども戦艦級の攻撃力を誇る連邦側の威力に恐れをなしたか、それとも波動エンジン艦がいたのは予想外であったのか。この日のロンド・ベル隊の戦果は高機動型ザク2機とムサイ級軽巡洋艦一隻と、そこそこであった。ジオン軍にまで吸血鬼信奉者がいる事を報告されたブライトはこれまた頭を抱えたとの事。



































――空母から帰還した圭子はその日の内にブライトからの呼び出しを受け、ヤマト型三番艦『シナノ』の艦長室を尋ねた。


「加東圭子少佐、入ります」

「久しぶりのところを悪いな少佐。こちらも色々と大変でな」

「お察しします」

「単刀直入に言うが、不味いことに、旧ジオン軍のものを持ち込んだと思われる軍備も彼らに確認された」

「ジオン軍の!?……という事はモビルスーツが?」

「そうだ。MS-06R……俗に言う高機動型ザクが確認された。下手をすれば宇宙戦になる。あれは宇宙戦用だからな…しかもあれは熟練者で無ければまともに扱えない機体だ。私は相当な熟練者達と見ている」

高機動型ザクはゲルググ出現前のジオン軍のモビルスーツの中では最高レベルの実力を誇り、連邦軍の恐怖の的となった。だが、同時に大きな弱点も抱えていた。ゲルググにも匹敵するポテンシャルと引き換えに推進剤の消費が大きく、戦闘可能時間が後代のMSより短いのだ。生産コストも大きく、癖のあるMSとなってしまった。生産コストと性能バランスがいいリック・ドムが主力に選ばれた要因はその癖の強さが上層部に嫌われたからだ。

「そんなのが不死身の化け物になってMSに乗ればヤバイじゃないですか!」


「そうだ。こっちがいくら強力なガンダムタイプを揃えて、量産型も新型で固めようが、乗るのは『人間』だ。機械的ポテンシャルの限界まで性能を出せる向こうのほうが優位なのは否めん……」

そう。いくらアムロたちと言えど『人間の肉体的限界』に挑んだ例はあまり無い。元から人間の限界に挑戦しているスーパーロボット乗りたちはその点大丈夫だが、多くはMS戦のような高機動戦闘はあまり経験がない。その点がブライトの頭が痛いところだ。

「VF-Xなどに頼んで共同訓練をしてもらっているが、どうも新ゲッターチームは練度不足が否めなくてね」




一文字號をリーダーとする新ゲッターチームは結成から間もない『できたてホヤホヤ』のチームである。竜馬達と違い、恐竜帝国や百鬼帝国との戦闘実績が無く、ネオゲッター自体もできたてホヤホヤの機体であり、そのポテンシャルはおおよそゲッターGと同程度と隼人は言うが、ブライトは慎重なところもあり、ネオゲッターの投入を迷っているのだろう。

「旧チームに比べると経験不足ですからね。ゲッターに乗れる分、凄いのは事実ですが」

「うむ。熟練者は甲児に鉄也、それに獣戦機隊くらいなものだ。あいつらに連続出撃させるわけにもいかんからいずれは初陣させるが、どこがいいと思うか」

「威力偵察の際にやらせてみたらどうでしょう。そこで確認して、本格投入を考えると」

「うむ。それがいいな。戦況は聞いているが、小競り合いが続いているようだね」

「海では大和型があるこっちが優位ですが、空と陸は五分五分です。……いや陸は奴さんの得意テリトリーですから若干押され気味です」

「ドイツ軍は昔から『陸の王者』だったからな。陸軍が弱小な近代日本ならよく健闘しているほうだ」

「は、ははは……」






そう。ヨーロッパを蹂躙したドイツ軍は戦史に残る戦車群の生みの親である。もし、航空優勢を維持できていれば無敵であり続けられたやもしれぬと言わしめたほど陸軍の精強さに定評があった。それ相手に扶桑陸軍は奮戦していると言っても、歴史的に『近代期の日本陸軍は近代戦では弱小』なのを知る未来人らは扶桑陸軍を『数合わせ』としか見ていない。実際に陸軍の練度や装備が欧米列強より一歩劣るのを知る圭子は思わず苦笑する。

「それと上からの通達で君用のISが搬入されたから、後で確認してくれ」

「わかりました」





圭子も戦闘前にISを使用申請していたが、今回は見送られた。しかし今後に備えて機体自体は搬入されていたようだ。圭子のオーダーはどちらかと言うと、箒や鈴の知るタイプで言えばシャルロット・デュノアのものに近く、真田志郎や結城丈二らも射撃よりの汎用型の感じで仕上げたという。素体は黒江と同じく『赤椿』である。つまりこれは赤椿を基礎に地球連邦のISは発達していくことの暗示であった。この作戦には箒と鈴も参加しているとの事だが、シナノ艦内に彼女たちの姿はない。ブライト曰く、ミッドチルダ各部の強行偵察に出向いているとの事。







――箒は既に本格的に戦争に参加し、経験も豊富だが、鈴は本格的実戦の経験はロンド・ベル隊の基準では『まだまだ浅い』部位にある。そこで再度の転属でロンド・ベルに復帰したコウ・ウラキが長機として二人とともに行動しているという。圭子はISの事を二人から聞きたいのだが、二人がシナノに帰還したのは翌日の正午であったとか。



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