――ミッドチルダでの動乱は扶桑皇国航空部隊に編隊空戦とズームアンドダイブ戦法を普及させるきっかけとなった。それは百戦錬磨のドイツ空軍の前に通常の格闘空戦にこだわった飛行隊があえなく壊滅することが日常茶飯事となり、無線による連携を活用して空戦した航空隊は全員生還してくる事例が当たり前となったからだ。

「うーむ。航空隊のここ数週間の損耗率が高いな。しかも古参兵勢。やはり格闘戦至上主義的風調がまずいな」

「古参兵は乗り慣れた軽戦闘機を好む傾向が強いけど、ドイツ軍のような百戦錬磨の編隊空戦の熟練者の前じゃ赤子のようなものだもの。これで零式艦戦の退役は決定的になったわね」


ある日、黒江と武子はミッドチルダ沖海戦からの数週間の間に生起した海軍航空隊の空戦記録にため息をつく。紫電改を装備する部隊は重戦闘機に理解がある若手で固められていたり、各戦線帰りの歴戦搭乗員を含めていたりする搭乗員編成なために、報告されるキルレシオは五分五分である。しかし、無駄に飛行時間が多いだけの者がいたりする部隊は零式艦戦を未だ保有しており、多数に攻撃され、撃墜されていく事例が多く報告されている。(なお、元来、扶桑皇国軍は正式な撃墜王制度は取っていなかったが、扶桑海事変の際に国威発揚と戦意高揚、ウィッチ補充も兼ねて、撃墜王制度を陸軍主体で取り入れた。導入の際には海軍が『海軍航空隊にヒーローはいらない』と反発したが、他国と歩調を合わせる必要が生じた事、黒江が歴史改変のために手渡した、『大日本帝国陸海軍の顛末』の情報で、改革派が国民の心を掴むために撃墜王を宣伝する事の必要性を痛感したなどの理由で、撃墜王制度が出来たのだ。こうして、間接的に後の空軍で陸軍出身者が主導権を握る手助けを三羽烏はしたのだ)

「ジェットの開発を推し進めていくにはおあつらえ向きの時勢だぞ、フジ」

「ええ。敵は必ずジェットを出してくる。ガランド閣下もそれを憂慮なされていたわ。何を出してくると思う?」

「そうだな〜262や183はもうこっちでも試作されたり、配備され始めてるのは知ってるだろうから……。意表を突いて史実の他国機を作る可能性もある。それも第二世代機以降の……連邦軍の見解だと、『ドラケン』あたりが怪しいそうだ。こっちはカールスラントやリベリオン製のノックダウン生産で技術育成中だし、橘花や火龍はコピーだから投入できんし……前途多難だな。」

肩を落とす黒江。この時期、扶桑皇国内地ではジェット戦闘機の開発が進められてはいた。メッサーシャルフMe262のライセンス生産機とも言える『橘花』及び『火龍』は確かにジェット戦闘機の体裁は整っているが、カタログスペックの時点で橘花は262に及ばないし、火龍は橘花よりはマシ程度な性能。ストライカーも稼働率が本土でさえ不安定であるという。感触としては悪くなかったのだが……。



「少佐。連邦軍より新しいISが二機搬入されましたが、いかがなされますか」

「よし、見てみよう。スペック表は届いているのか?」

「ハッ。これが武装などの取扱説明書です」

「ISって確か、あなたが昔、見せてくれたあの兵器の事よね?」

「そうだ。正式名はインフィニット・ストラトス。元は別世界で実用化されたものだけど、ある時に未来世界に持ち込まれた事で注目された。今は試作機を色々と作ってる段階だ。不安定なジェットストライカーの代わりにはちょうどいい」



スペック表を見てみると、一機は色々と冒険してみたらしく、サイコフレームとサイコミュシステムを組み込んで、小型化したフィン・ファンネルを搭載したらしい。箒と鈴によると、『ブルー・ティアーズみたいだ』とのことだ。だが、ブルー・ティアーズとの違いはファンネルは本体が端末と別行動して攻撃する事が可能という事である。νガンダムやキュベレイなどの機体を見てもわかるが、本体が別行動できるというのはとても便利な事だ。ファンネルを囮に、本体で攻撃するなどの戦術バリエーションが選択肢になるからだ。しかしファンネル一式を動かすには高い空間認識能力などが必要不可欠である。黒江はこの時点で誰に宛てがうか決めた。それは他ならぬ……。




「フジ、お前がコレを使え。お前の能力、空間認識系だろ?」

「わ、私が?ちょっと自信が……」

「なあに、動かしてみればすぐに分かる。格納庫へ行こうぜ」

格納庫に行くと、真新しいISが二機置かれていた。一機は至って普通の機体だが、もう一機はHi-νガンダムを思わせるシルエットの配置のスラスターを持つ機体だが、ウィングガンダム型の空戦力重視のものである。しかしよく見てみると、フィンファンネルが翼部パーツに見えるように偽装されている。本来はブルー・ティアーズの映像データを基にファンネルの開発ノウハウで弱点を補強したもの、いわば改良型を搭載するはずだったが、それの開発が遅れたために、急遽、小型化されたフィン・ファンネルが搭載された。


「これが……!」

「名前は決まってないそうだから、お前が名付け親になってやれ。どーせ隼だろ?」

「な、なんでそれを……」

「いつものことだろ。キ43の性能向上にご執心だったし、ライブマンのスカイファルコンに乗ってみたいとか言ったそうじゃねーか」

「……」

ニヤニヤしながら言う黒江。武子は赤面する。武子は10代の頃から鳥の隼が好きで、自身が関わったキ43の国民向け愛称が『隼』になった事に小躍りして喜んだという証言が残されていたし、ライブマンの面々からそのエピソードを聞いていたのだろう。纏ってみると意外に動かしやすい。直に一時移行も起き、(地球連邦は一次移行を迅速化させる事に成功。これで戦力を確保している)これでこの機体は武子の専用機となった。この機体は基本的には原型機の赤椿との差異はサイコミュ兵器周りと射撃兵装くらいなので、ある意味では原型機との差異がもっとも少ない機体だった。ただしアーマー周りが小型化されているが。

「私のも展開すんからテスト飛行してみようぜ」

「ええ」

テスト飛行コースは協議の結果、連合艦隊が制海権と制空権を握っている区域を一周する事になり、その範囲で各種空戦機動をテストする事になった。

「ん……足の自由が効くから、いざという時に格闘空戦に入っても攻撃手段が多いのはいいわね」

「ああ、ストライカーはぶつけると破損する危険があるから不味いが、こいつは蹴りを入れられるからその分はいいさ」

「あなたのそれ、昔とずいぶん違うわね?改良されたの?」

「自己進化とアーマー部とかの小型化の成果さ。可能性はまだ未知数だしな。戦闘経験も増えてるしな」

「なるほどね」

と、話していると、下方に護衛の水雷戦隊を率いて近代化後初の練習航海中の戦艦甲斐が見える。近代化で大分艦容が変化しており、大和型特有の塔型艦橋と煙突、マストが無ければ別艦と勘違いしてしまうほどだ。真新しい未来兵装が映え、戦艦特有の主砲塔と一見して対照的だ。ここで、正式な改大和型戦艦の第二改装スペックを記そう。



――改大和型戦艦第二改装 

・全長298m 幅42m(50口径46cm砲の全門斉射に耐えうるためと防御力強化のために拡大)

・機関出力 210000馬力(COGAG方式ガスタービン)

武装 四五式46cm砲三連装九門(46cm砲は未来世界製であるが、欺瞞のために扶桑ではこう呼称。元来は扶桑製のモノが搭載される予定だったが、波動カートリッジ弾を撃つためには未来の超合金が必須要件であったために変更された)VLSは複数の個所に設置、CIWS及びRAM多数、ボフォース40ミリ機関砲(射撃管制装置連動&VT信管化済み)複数

速度、公試32ノット(過負荷時34ノット)

電探 艦載多機能レーダー(未来世界製)

これは海戦から帰還後、甲斐が先行して受けた第二改装で、信濃と比べてもより高度に未来化したといって良い。大和と信濃も時間ができ次第、この改装にすることが内定している。(大和については航空戦艦化も検討されているとの事)

「機銃を自動化して、ミサイルを取っつけただけであんなにスッキリするの?なんかずいぶん心伴いわね」

「高角砲と旧式の機銃を全部取っ払って、その上でCIWSとVLSを盛ったかんな。防空能力は比較にならないほど上がっている。一見して火力下がったから、大砲屋は副砲取っ払うのに反対したそうだが、副砲に戦艦の主砲弾が万が一にも飛び込む危険性があるのを危惧されて黙ったそうな」

「ミサイルってそんなに万能なの?」

「戦争が何度も起きる度に発達してるから、色々と開発されていった。副砲の代わりには十分さ、即応性もあるし。もちろん過信は禁物だがな」

――ミサイルは最盛期には砲に代わる主兵装として期待された。が、幾多の戦争の結果、『数ある兵器の一つである』と結論され、ミノフスキー粒子登場後は必中性が失われた事もあり、『ビームが効かない相手への保険』として運用されている。それで白色彗星帝国やガミラス相手に思わぬ成果が出たとも記録がある。

「ドイツ軍も海上での航空戦がこちらに分があるのはわかってるだろうし、航空戦を挑むようなバカはしないだろう。第一、奴らはモルヒネ中毒のデブ国家元帥殿のおかげで固有の航空隊がないし」

「でも、空軍軍人だって、訓練すれば空母への着艦はできるようになる。洋上航法も覚えれば十分に空母に乗れる」

「お前は相変わらず石橋を叩いて渡るな」

「慎重にすぎることはいい事よ。でもなんで駆逐艦に近代化を?艦隊決戦には不要なような?」

「潜水艦だよ、潜水艦。奴さんの主力潜水艦は最低でもXXI型だ。うちらの時代では最高性能を誇り、リベリオンのソナーだろうが、殆ど探知できない水中行動力を誇る。未来じゃミサイルの発達で駆逐艦と巡洋艦の区分分けも曖昧になったから、甲巡と乙巡の近代化は模索中だからめんどい。だから駆逐艦が優先された。そうして、うちらの世界じゃ建造が中止されていたものが成果上げてるから、カールスラントの連中、顔面蒼白だそうだ。何せスカパ・フローでの自沈は無かったからな」


――そう。ドイツ軍はスカパ・フローでの自沈で太海艦隊の主力を失い、大抵の世界では潜水艦技術を重視した。その集大成がXXI型である。ウィッチ世界では水上戦闘艦と輸送艦が優先されたため、机上の計画に留まっていた。が、皮肉なことに、実際に完成した実物が自分達に牙を抜いたために有用性が痛感された。だが、1944年時の実際の帝政カールスラントの潜水艦技術は史実でのVII型からIX型を作れる程度に留まっており、XXI型を建造可能な水準では無かった。そのIX型すら潜水艦の必要性が薄かったがために満足に整備されていないという有様。地球連邦軍はそこに商機を見出し、扶桑に続き、ノイエカールスラントの建造ドックの整備とインフラ整備、軍艦の建造を請け負った。これは未来世界のメカトピア戦争で荒廃した旧・ドイツ地域の復興に必要な予算確保も兼ねた公共事業の側面もあり、インフラ整備などに民間企業もかなり参画した。H42級からグラーフ・ツェッペリン級(天城型からの改装購入艦ではなく、新造)、XXI型に至る軍艦は1945年に完成した海軍工廠(史実ではリオ・デ・ジャネイロ海軍工廠に相当)で建造されているという。これは皮肉とも言える事例であった。

「でも今のカールスラントには大海艦隊時代の軍艦はほとんどない。運命って怖いわね」

「だが、変える事もできる。あの時のようにな」

「そうね。今度こそは、あの剣術教えてよね。あの時は聞きそびれたし」

「飛天御剣流のことか?後でな。私もあれについては修行中なんだけどな。念の為に聞くが、身体鍛えたか?」


――そう。黒江は飛天御剣流については修行中の身である。負荷も大きいので、今の鍛えた肉体(若返り後のほうが筋肉量などの点で飛天御剣流を普段でも撃てる条件が揃っている)でようやく生身で撃てる。武子には『あの時』に条件は伝えているはずなので、鍛えてはあるだろうが、念の為に確認を取る。

「もちろんよ。大変だったんだから。療養中もそれだけは欠かさなかったわ」

「まっ、本来は私達のような『組織に属している人間』が扱っていいものとは言えないんだがな」

「でも『苦難から人を守るため』という点なら当てはまるわ。そのための力を持つことは悪いことじゃないわ」


飛天御剣流の理は『どの組織にも派閥にも属さず、如何な権力に与しない』というものだが、国家という概念が明確化した明治以降の時勢ではそれは必ずしも貫き通せなくなった。それに緋村剣心が若き日の幕末期に長州派に加担してしまった事例がある。以前にフェイトに付き添った際に、第13代比古清十郎が自分達に苦言を呈したのを思い出す。

――比古さんは強かった。示現流免許皆伝の私をまるで赤子の手をひねるように……雲鷹も通じなかった……。

比古清十郎は相当に手加減した状態でさえ、黒江とフェイトを圧倒するポテンシャルを見せた。しかも衣服のマントが当人曰く『10貫』の重さで、筋肉を逆さに反るバネ付きとの事。それで本気の二人を『捻った』のだ。黒江の最大奥義である雲鷹も軽くいなされ、九頭龍閃で倒された。ウィッチとしての力を発動した状態でさえ、防御すら不可能な飛天御剣流の技に感服したのを回想する。

――明治11年 某所

「長く生きてると面白いことに巡りあうもんだ。バカ弟子づてで俺を知ったらしいが、まさか西洋でいうところの『魔女』とはな」

「長く生きてると……って……あなた何歳なんでですか?」

「43だ。それがどーした」

『よ、よ、よ……よんじゅうさんぅぅッ!?』

明治時代において、43歳は十分に年長に入る。平均寿命が20世紀後半以後の時代より遥かに短かった故の事だが、比古清十郎の容貌はどこから見ても20代後半にしか見えないほどに若々しいもの。二人は内心で『波○使い?』『石○面じゃね?』と思ったのは言うまでもない。

「お前らは確かに常人より遥かに疾い。……が、俺からすれば鈍亀だな」

それは誇張などではない。当時のフェイトのソニックフォームの更に上の速度の身のこなしを見せ、黒江の乾坤一擲の一撃を軽く躱した彼からすれば、十分に二人は鈍亀なのだ。飛天御剣流は陸の黒船と例えられるというが、実際に体験して分かった。

「本来、飛天御剣流は如何な組織にも与しない自由の剣だ。組織に属しているお前らが扱っていいものではない。」


そう。黒江は扶桑陸軍、フェイトは時空管理局に属している身である。本来であれば飛天御剣流の理に反している。それ故に苦言を呈したのだ。だが、人間嫌いと弟子の緋村剣心が語っていたので、この時の二人の扱いは異例とも言えた。

「だけど……剣心さんもそうですけど、守りたい人達のために力を振るう事は悪いことですか?いくら強い力があったって……私利私欲のために使えば、暴力でしかありませんよ」

フェイトが反論する。ソニックフォーム姿で、ボロボロであったが、眼光は執務官としてのそれであった。それを見据えていたらしく、比古は微笑する。

「青臭いが、面白い事を言う。多少なら教えてやってもいいが、条件がある」

「条件?」

その条件とは、なんと彼の普段の稼業である陶芸を手伝うことであった。表向き、新進気鋭の陶芸家『新津覚之進』として生活している故であった。その言通りに二人は対外的には『住み込みのお手伝いさん』とされた。彼の陶芸作品を好事家らに売りに行かされたり、作品を作るのを手伝う傍ら、剣の教えを乞う生活が数ヶ月ほど続いた。数ヶ月なのは、二人が元々剣術の基礎ができている、才覚のために技の体得が早かったなどが要因である。奥義習得は一子相伝である都合上、習得はしなかったが、二人は後に偶然ではあるが、それそれが奥義と気づかぬままに再現に成功。結果的に習得することになる。




「あれ、大変だったんだぜ?見切りの目利きも鍛えないといかんし、身のこなしだって相当トレーニングしたんだぜ?おまけに戦いにも参戦して、死ぬかと思ったし……」

途中から愚痴になっている黒江。確かに人同士の斬り合いを経験していなかった故に、幕末の動乱を経験した緋村剣心らと比べて経験が劣るのは事実だったからだ。

――元・新選組の斎藤一さんからは『犬娘』って言われちまったし……あの人の牙突は凄かった。だけど、あの時点でもう既婚者で、少なくとも長男が生まれてるんだよなぁ…。そうには見えなかったけど。

元・新選組三番隊組長の斎藤一の姿は世界によって差異がある。少なくとも緋村剣心がいた世界での彼は無愛想で、子持ちとは思えないほど一匹狼的な性格をしていた。新選組の一員であった事が誇りであるようで、明治になって大日本帝国の時代となった後も隊旗を守っているほどである。とても警視庁に奉職しているとは思えないほどの人間であった。だが、剣術は間違いなく強い。黒江の雲鷹がお遊戯に見えるほどの破壊力の平突きが必殺技で、なんと黒江のシールドをそれで貫いたのだ。しかも一度目の現役時代で言えば、最盛期の強度で固定されたシールドをである。これには心臓が止まりかねないほどにショックを受けたのを思い出す。



「自分の強さを過信するなよフジ。力に溺れれば、もっと上の力に滅ぼされる事になる」

「ええ。だから私は鍛錬を続けてきたのよ。無双神殿流を超えた次元に行くために。そして……私が弱いってこともよくわかってるつもりよ」

呉空襲で教え子を失い、我を忘れて突撃してしまった事で『自分の弱さ』を自覚した彼女は自分を鍛え直す意味で『事変』で黒江たちが使った『飛天御剣流』を調べたが、手がかりはなく、かつての智子が言った言葉通りに『再会できる』年を待って、話を持ちかけたのだ。

「お前ほどの腕なら基本動作を身につけるのは容易いだろう。だが、そこからが大変だぞ」

「いいわ。今ならどんなことでも耐えられる」

「お前……」

武子は教え子を守れなかった悔恨を自分の糧にし、あのような事態を再来させない決意を持ち、それ故に飛天御剣流を求めた事を示唆する。ISであの超人技を繰り出すには、機体の反応速度のタイムラグを無くすことが必要である。そのために地球連邦はMS用に造られたサイコフレームやバイオセンサーを応用して追従性能を上げた。機体の反応速度は理論上、箒や鈴以外の他の代表候補生の駆る第三世代ISよりも上の性能である。そんな彼女達を見つめる目があった。海中にいるUボートである『UボートXXI型のU-3048』であった。戦後技術で改良されており、限界深度は20世紀後半の海上自衛隊の潜水艦レベルである。そのために静粛性は高い。そのレベルの潜水艦を探知可能なソナーを備えた艦艇の数がない扶桑の穴を突いた戦術で、見事に扶桑皇国海軍の隙を付き、動向を逐次、報告していた。




――U-3048

「フム……大和型の改修型のテスト航海と言ったところか」

この艦の艦長はギュンター・プリーン大佐。Uボートエースの一人である。行方不明とされていた彼であるが、実は極秘に改造手術を受けており、改造人間となっていた。その容姿は死亡したとされる1941年当時のそれを保っていた。無論、現在の所属組織は正確に言えば最大派閥のバダンだ。(改造人間になった際に昇進している)


「艦長、いかがなされます」

「動向を探るのが目的だ。とりあえず今の深度を保ちつつ追尾せよ」

「ハッ」

プリーンは自艦を扶桑皇国海軍駆逐艦に探知されないギリギリの距離を保つように操艦する。ミッドチルダ沖海戦で大和型の性能を把握しきれなかった故に、データ集計を行っていた。彼らの把握している『史実の大和型』は27ノットほどの速度が最大速度だが、ミッドチルダ沖海戦の時に甲斐が常時29ノットで航行していた事、現在は更に高速を発揮している事から機関の換装を受けたと推測する。

「機関を換装したようだな。さしずめガスタービンだな」

「核融合炉ではないと?」

「核融合炉では地球連邦はともかく、ww2の日本では手に負えん。ガスタービンならばなんとかできないことはない」

「なるほど」

「上にいる蚊トンボ共の小手調べを空軍にさせろ。司令部に打電だ」

彼らの打電は司令部へ伝わり、空軍が出動した。機種は格闘空戦も可能なジェット戦闘機である『サーブ 32 ランセン』の性能向上型。一説によればナチスの第二世代ジェット機が設計の原案ともされる同機は納入されて間もなかったが、テストも兼ねて投入されたのだ。



――とある飛行場

「コイツをさっそく使用すると?」

「ああ。空中機動力のテストも兼ねている。米英のヤーボー共はISに粉砕されたというが、それは人の身体がマシンポテンシャルについていけないからさ」

「よし、行くぞ!」

そう。IS世界の戦闘機が衰退した原因はISについてこれない事と火力不足である。しかし改造人間であればマシンポテンシャルを限界まで発揮可能である。ナチスはそれを改造人間を載せる事で解決した。耐久限界が高い強度の金属で機体を作り、耐G性が人間の限界を超える改造人間を載せればISにも追従できる機動性を確保できる。そこを突いたのだ。二人のISのレーダーがその機影を捉えたのは、それから約、15分ほどが経過した時だった。


「ん?レーダーに反応?データ照合……こ、コイツは……ランセンだとぉ!?」

「ランセンって確か……!」

「ああ、スウェーデンのサーブ社が産んだジェット戦闘機で、データ通りなら超音速機だ。まさかデザイン的に酷似したのがあるとは言え、コイツを作ってくるたぁ……トゥンナンには見向きもしないなんて、ナメてやがる!」

ナチスが送り込んだジェット機は史実においては、スウェーデンが完成させる超音速機であった。しかも史実のスペックより強化されている模様で、速度はマッハ1.5を超えている。映像で機影を確認すると、旧ドイツ軍カラーに塗りたくっているランセンが写っている。よく見てみると、スウェーデン空軍が過去に使っていたものとは細部に違いがあり、独自に改良を施したのが伺える。

「妙よ。たった二機しかいないわ」

「さしずめテスト代わりなんだろ。おそらく工場じゃラインが構築され始めてるだろう。メッサーK型からいきなりこれじゃ紫電改や烈風は愚か、橘花や火龍持ちだしたところで役に立たん!技術史的に飛びすぎだろ!」

そう。ナチスは戦後の世界からやって来ているために戦後の戦闘機も作れるのだ。戦後世代の戦闘機を作り始めたという事は、扶桑軍航空戦力殲滅に本腰を入れはじめた証でもある。正面から対抗可能な戦力を発揮可能なのは自分たちのみ。速度を上げて艦隊に累が及ばない空域で空戦を挑んだ。


「やはり改良されてやがる!フジ!気をつけろよ!」

「分かってる!」

この時に二人が使用した火器はメタルアーマーが使用するハンドレールガンをダウンサイジングして歩兵サイズに小型化したものだった。これは一年戦争以前からの歩兵装備が旧式化し、コスモガンは高価で普及が遅れているというお涙頂戴的な窮状な地球連邦陸軍が急遽開発し、西暦2201年に入って制式採用された銃。汎用性の高さから対空機関砲としても使用可能で、ISで使用する事はその用途に入っていた。威力面は高初速と高性能炸薬などの要因で高いが、機構が複雑になった代償でマガジン一個辺りに入る弾薬数が減少しているという欠点がある。それをよく認識している二人は予備のマガジンを多めに持って行くことで対応していた。



「手馴れてる……!やはり熟練者が乗ってるわね」

武子は自分の射撃をいなすランセンの動きが洗練されたものであることを一目で見抜く。ジェット戦闘機は一般にその速度のために『レシプロ機より旋回半径が大きくなる』とされる。だが、ジェット機としては明らかに異常な旋回半径を見せ、普通ならGでパイロットが気絶しかねない機動でもパイロットは平然と操縦している。

「いや、熟練者でも動きが尖すぎる……まさかこいつらVF-27と同じ!」


黒江は敵機の射撃を避ける動きに既視感を覚え、叫ぶ。その動きがかつて、ギャラクシー船団が使った可変戦闘機『VF-27』が見せたものに似ていたからだ。マシンポテンシャルを限界近くまで引き出せるサイボーグは通常のパイロットでは不利である。バダンはパーフェクトサイボーグという技術で、脳以外の機械化に成功している。それを持ってすれば自己の身体で飛行が可能で、耐G能力に制限は無くなる。これはバダンの技術がギャラクシー船団をも遥かに超えている故の事だ。すれ違う時にキャノピーを見ると、心肺機能が強化されている証拠に、酸素マスクをつけていない。


「やはり奴らはパーフェクトサイボーグになっている!見ろフジ!この世代なら標準装備の酸素マスクつけていない!」

「何ぃ!?」

戦闘機において、耐Gスーツが飛躍的に進歩を遂げたのは凡そ21世紀半ばからのことである。学園都市の非人道的処置無しに、それまでの耐Gスーツがおもちゃのような性能を備える物が日本で完成し、以後はパイロットスーツから酸素マスクの姿が消えた。しかしそれでもVF-19らが現れた時代に限界を迎えたが、EX-ギアやISCの登場で更なる次元へ向かった。黒江が驚愕したのは、可変戦闘機よりはるか以前の時代の設計のはずの機体を酸素マスク無しで悠々と動かしているという点だ。



「来るぞ!ミサイルだ!」

ランセンのハードポイントからミサイルが放たれる。二発という数は雨霰のように撃ちまくる可変戦闘機と比較するとショボく感じるが、ISに自信満々で撃つ辺り、威力は史実よりはるかに上と見ていいだろう。二人はチャフとフレアを同時に散布し、回避行動に入る。

「たしかアレが設計された段階じゃサイドワインダーもスパローもまだ生産開始段階のはずよね!?」

「ああ、後期型で積んだけどな!機銃は確か史実と同じスペックなら……30ミリだ!」

「さ、30ミリ!?」

「ガトリング砲が普及する以前は大口径砲を積むか、多く中口径を積むか模索されていたのさ。結局、ガトリング砲やリボルバーカノンが積まれるようになったが、あいつのはリボルバーカノンのはずだ!従来型のストライカーで出てたら蜂の巣のところだぜ」

ISで出撃していたので、その機銃でも落とされる心配はないが、ストライカーであったら初速そのものは741 m/sと遅いが、 発射速度は毎分最大で1700発を誇るので、シールドで防ぎ切れる火力ではない。防弾板もあくまで第二次大戦レベルの機銃用である。黒江はそれで安堵したのだ。チャフとフレアに惑わされずに向かってくるミサイルを撃ち落とす。

「野郎ッ!フジ、続け!」

加速して、三度目のアプローチをかける。一機に対して集中攻撃をかけるという寸法だが、敵もさるもの。ラダー操作で僅かに機体を動かし、火線の直撃を逸らし、機銃を撃ち返す。

「くぅっ!」

30ミリ口径の弾丸がISの防御を叩く。幸い、両機共に赤椿がベースであるため、エネルギーの回復機能があるので、エネルギーの心配はいらないものの、いい感じはしない。

――ランセンなんて大層なもんを作りやがって!普通はメッサー262とかだろ!?って、私もすっかり馴染んだな……あそこに。

黒江は考えていて、考えがロンド・ベルの荒くれ者に毒されている事に苦笑する。ロンド・ベルにはエゥーゴではネェル・アーガマやアーガマに乗っていた者、デラーズ紛争を生き残ったが、その後に疎んじられた派閥の者などが復活し、多数派になったレビル率いる改革派の手で集められた。実戦経験者が多数故に最強で、スーパーロボットも原則的にロンド・ベルに任せられるため、自然と荒くれ者揃いの部隊になった。ブライトは年がら年中、胃痛と戦っているのもそのせいだ。ロンド・ベルに高級装備が優先的に与えられるせいで、整備兵の育成が大変だからだ。

「相手方は航続距離的問題でそろそろ引き上げるはずだ。最後の接敵をかけるぞ!」

「分かった!」

戦闘機には、航続距離が長い機種と短めの機種がある。ランセンは基本的にスウェーデンでの迎撃用に開発されたので、アメリカ製の戦闘機より航続距離が短かった。無論、改良は施してはいるだろうが、戦闘行動半径は米軍機より小さくなるはずだと踏む。航続距離が作戦を立てる上で問題にならなくなるのは、可変戦闘機やブラックタイガー登場以後の時代なので、20世紀後半時の設計であるランセンはその縛りがあるはずだと。それはナチス側も認識していた。

「スウェーデン野郎どもの機体は航続距離がやはり短いな。燃料が心ともなくなってきたぞ」

「元々が迎撃機だからな。メッサー社にレポート出すぞ」

彼らの軍用機は、持ち込んだ物も多いが、戦中のドイツ企業が戦後も軍用機分野で命脈を保った世界軸の企業が製造したりもしていた。ミッドチルダで固定翼機やヘリコプターを製造していた工場はそれら企業に接収されて傘下となり、今では地球製軍用機の製造が行なわれる様になったという。ちなみにランセンはメッサーシュミットが製造したとの事で、その点は戦中の計画機の発展形であることが分かる。

「行けっ!」

武子は武装の一つである刀からエネルギーを打ち出す。原理は箒の空裂と同様だ。戦闘機相手にこの種の武装を試したのはこの時が始めてであった。しかし直撃寸前にバレルロールで避けるという驚異的見切りでハードポイントを切り落とすに留まった。

「直撃をとっさに避けたか……やるわね。ん、引き上げるようね」

「燃料がギリなんだろ。追撃する必要はない、元のコースに戻んぞ」

「OK。エネルギーの射出速度が遅いわね。この機能は空対空には使えないわ」

「自己進化でその内改善されんだろ。これはこういう兵器さ」

ISには自己進化機能がある。他には赤椿には束が無段階移行システムを組み込んでおり、それでパーツの自己開発も行なわれる。23世紀の地球連邦はその解析に成功し、二人の機体にもシステムが組み込まれているため、経験を積めば武器を含めて性能強化が行なわれる。箒の赤椿も、前世代機に当たる、鈴の甲龍もそれは例外ではない。

「箒達に連絡取って、シュヴァルム戦法の訓練を始めよう。これでシュヴァルムを組めるだけの数が揃ったからな」

「あの子たち、すぐに突っ走りやすいっていうけど、大丈夫?」

「素養はある。そりゃ性格的問題だから、治せるさ」

編隊空戦に理解が無いと言われる日本軍(扶桑軍)だが、ドイツ(カールスラント)びいきであった陸軍は編隊空戦法を大々的に取り入れ、練度が下がった大戦後期も海軍と違って、一敗地に塗れる事は少なかった。黒江達は欧州で空戦してきたのと、未来世界での経験で単機空戦と編隊空戦の利点をよく理解しているため、考え方は欧米空軍と同じ域に達しており、単機空戦を至上と考える坂本と対照的であった。坂本が軍内で人望を失い、黒江らが人気を拡大したのは、後に設立された空軍で彼女らが高級将校となったことと、時代の趨勢が昔ながらの単機空戦から編隊空戦へ移行していった故だったかもしれない……。








――扶桑皇国海軍空母「大鳳」

ミッドチルダで空母艦隊を束ねる事になった新鋭空母「大鳳」。扶桑皇国海軍では初の37000トン級正規空母で、装甲空母として大いに期待されたのだが、リベリオンが総合性能が上であるエセックス級航空母艦を量産したことで、その意義が薄れてしまった。姉妹艦の建造も中止された(改大鳳計画ががスーパーキャリアである龍鶴型の調達に切り替えられたため)ため、艦隊編成上の事実上は翔鶴型の准同型艦扱いされていた。大鳳を派遣したことで、扶桑皇国海軍は主力の過半数をミッドチルダに派遣したことになった。

「大鳳か……あんま縁起いい空母でもないんだけどな」

「そういえばこの艦はマリアナ沖海戦で撃沈されているのだったな、なのは」

「ええ。扶桑だと飛行甲板は装甲鈑みたいですね。私達の世界だと木製飛行甲板なんですけど」

なのははロンド・ベルに復帰する形で従軍した箒と再会し、大鳳に着艦して雑談を楽しんでいた。大鳳は未来世界では「運に見放された空母」として知られており、なのはとしては好きでは無いようだった。扶桑で建造された同艦はなのはや箒の世界の同艦と仕様に差異がある。日本帝国海軍は装甲空母としての仕様をある程度妥協しており、装甲範囲が飛行甲板全長の3分の2であるなどの性能であった。扶桑製は全面的に飛行甲板が装甲甲板となっており、油圧式カタパルトが初装備である。



「やあ。どうだね本艦の乗り心地は」

「菊池大佐」

艦長の菊池朝三大佐が甲板に姿を見せ、二人は敬礼する。この頃になると箒もすっかり軍隊生活に慣れたため、きれいな帝国海軍式(連邦宇宙軍は宇宙艦隊の再建が進んだ2201年以降、日本帝国海軍式の敬礼を組織再編の際に取り入れた)敬礼ができるようになっていた。

「上は大鳳型を自主建造の次期空母のテスト艦代わりにしたいらしくな、近々改装を施す予定だそうだ」

「するとアングルドデッキと全面的に甲板の耐熱処理化を?」

「そうだ。元々、将来的に橘花を積む予定で部分的に耐熱処理はしてあったんだが、F8Uを積むことが決議されたからアングルドデッキ化を伴う大改造を施す予定が立てられた」

「それってかなりの時間いるんじゃ?」

「最低で一年は戦列を離れる。ジェット機に適応するための改造だし、レーダーその他も未来装備に変えるからな。その前のご奉公だよ」

大鳳は扶桑が誇る新鋭『大型空母』でも、ジェット機空母としてはいささか小型にすぎるというのが問題で、大改装で全長を延長し、せめてエセックス級並みの性能にしようという涙ぐるしい努力が伺える。また、スカイホーク以上に搭載量に優れる、『ブラックバーン バッカニア』も導入しようとする動きがあり、既にライセンス取得への交渉が開始されたという。

「帰ってきたばかりですまんが、管理局の部隊から救援要請が来ている。信濃と甲斐はその陽動で出撃が決まった。君たちはその陽動の後方支援だ。やれるかね?」

「おまかせ下さい」

と、自信満々に答えるなのは。制空権確保には自信があるのはさすがと言うべきか。箒はメカトピア戦争で組んでいたが、見ない間にすっかり自信をつけたのだとほのぼのする。

「なのはの後ろは私がカバーします。なのはとは何度か組んでいるので」

「うむ。頼むぞ」




こうして第二次管理局部隊救出作戦の段取りはその日の夜に信濃で行なわれた各軍合同会議で決議され、『帰還したばかり』のなのは達もその作戦に組み込まれた。公式記録上、地球連邦軍製ISが実戦で使われた初期の事例として記録される事になる。箒に取っては久方ぶりの大規模戦闘、鈴にとっては初の『戦争への参加』であった。 



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