――扶桑連合艦隊はミッドチルダで初の対人実戦を味わった。その結果、ネウロイ戦で不要の長物扱いされた魚雷が活躍し、電探の有効性が改めて認識された。それとドイツ式防御方式の弱点も発見された。信濃と甲斐が実戦で戦艦を沈めたという報に戦線は沸き立ったが、対人戦で課題を残した戦いなのは代わりはなかった。そんな中で黒江は阿武隈の副長が下痢を起こして任務不能となったため、尉官では荷が重い任務を、木村中将や艦長除いて最先任なのと一応、宇宙軍で連邦海軍式訓練を受けていたために引き受ける事となった。これは中尉以下の尉官では副長任務に耐えられないという結論を木村中将が出したためで、司令部が旗艦指揮権を私物化するわけには行かない故の結論だった。(軽巡洋艦の艦長は大佐。副長は中佐、もしくは少佐が任じられる)

「右舷に大岩!でかい!」

「取舵30度!」

「とーりかーじ!」

この時点で艦の操艦は木村中将が直々に取っていた。艦長が赤レンガでの執務が長めの将校で、操艦経験の不足を露呈したからだ。木村中将の操艦はまさに神業と言ってよく、阿武隈を手足のごとく操る。無論、いくら日本艦艇が荒天に強いと言っても、軽巡洋艦阿武隈は5570トン程度の排水量しかない。荒海に翻弄され、揺れが大きい。なので、はやてはこともあろうか船酔いを起こしていた。

「うえっ……おええええ〜!」

エチケット袋に盛大に吐くはやて。次元航行艦は飛行機に近い感覚の乗り物で、揺れはほぼない。だが、旧帝国海軍艦艇に乗り込むというイレギュラーは大きかった。自分の時代には消滅して久しい軍隊の軍艦。日本海軍の船は揺れに強いと言われていたが、荒海に翻弄され気味の同艦の揺れに胃袋が根を上げたのである。

「情けねー。そんなんじゃ船の指揮なんて出来ねーぞ」

「次元航行艦は飛行機みたいな感覚やから、こういう純然たる船とはまた違うんですわ……よく平気ですね……普通、陸軍軍人は船に酔うって聞いてるんですけど……」

「私は普段から釣り行くから、船に慣れてるんだよ。右に揺れようが、左に揺れようが、前に揺れようが関係ねー」

黒江は重度の船酔いを起こしたはやてに呆れる。はやては時空管理局でいうところの陸の人間であるが、艦艇指揮もこなせるように教育を受けたエリートコースまっしぐらの人間だ。そして今、情勢的にはやてが一個艦隊を指揮する可能性も生じている。これは海からの離反者が複数生じ、艦隊指揮に堪えうる能力を持つ佐官級が不足している現実問題から来るもので、下手するとフェイトまでが艦艇指揮に駆り出される可能性があるほどの窮乏ぶりなのだ。そんな状態な故、木村中将はやてに艦橋の出入りを許可した面がある。阿武隈は着々と救出地点へ向かいつつあった。僚艦とともに濃霧を突き進む様は、まさにキスカ島撤退作戦の再現であった。







――時空管理局の本星配置部隊はこの時には徹底抗戦派と永遠の命を得てナチス(バダン)の配下として生きる恭順派に別れた。前者は純粋にこの次元世界を守るという使命感や理想に燃えている者や、なのはたちのように内部改革をするために組織に残っている者らである。後者は一向に当初の理想を実現しようとしない(とはいうものの、世界の実情を鑑みたり、組織の実情を勘案した結果だが)組織に愛想を尽した者、立場的に普通の方法では立身出世が望めないために戦争を起こしてその状況下で立身を狙う野心を持つ者、病気にかかって、管理局の技術では治療不能で余命宣告を受けてもまだ生きたいと望む者、地上本部の待遇に不満がある者などがバダンの甘い誘惑に乗せられ、多数の装備と共にバダンに加入した。その割合は地上本部局員の七割と次元航行艦隊の四割に達する。この人員的損失は慢性的に人手不足である時空管理局の威信を失墜させかねない。そこで人員不足を補う名目で、ミッドチルダ政府は地球連邦などからの兵器購入を決意した。これは魔力を持たない局員でもある程度の訓練を積めば戦力化が可能という軍事的利点を重視したからだ。ウィッチ世界からストライカーユニットを購入し、地球連邦からは小銃などの火器を購入した。その見返りがウィッチ世界や地球連邦への魔導師部隊の派遣や技術提供である。この時の決定には賛美両論が生じたが、時空管理局の本星であるミッドチルダでの不祥事が公になれば、100年近くの月日をかけて築き上げた秩序はほころび始める。それを恐れたミッドチルダ政府は各世界のメディアに強力な報道規制を引き、プロパガンダに慣れている地球連邦の協力のもとになんとか他世界への説明を成している。このため、ミッドチルダ政府は時空管理局の組織再編を決意する。彼らも今回の事件で『自分達は偶然にも他国より優れた文明を持てたに過ぎない存在』であると強く自覚したのだろう。そして地球連邦軍との共同戦線が次元世界へ発表されたのはちょうどこの日の深夜であった。


――本局 とあるホール

本局にも対外向けに記者発表を行うための設備は整えており、地上本部が陥落したという事実をパニックになる前に発表し、住民からの次元航行艦隊への不満を抑えたいという思惑の下に事態の公表に打って出た。実際に逃げ延びた住人に局員が私刑されて殺害されるという悲劇も発生しており、今回は海側の責任者である大将(元帥は諸外国の軍同様に名誉職に近いため、大将が最高責任者となる)と地球連邦軍側の最先任である古代進が当事者としてメディアの質問に答える事となった。



「大将閣下、今回の事件で局は次元航行艦艇を出し惜しみしたと専らの噂ですが、どうなのでしょうか」

「敵の戦力を測りかねていたがために、出動を躊躇ったことが、結果的には地上本部の陥落を招いてしまった。そのところは本官の不徳の致すところで、誠に申し訳ありません」

このように質問が出され、それに答えていく次元航行艦隊、ひいては本局を束ねる大将。マスコミの罵詈雑言は凄まじく、彼自身が内心で『無責任な輩めが』と罵るほどのものだった。実際にメディアが煽るだけ煽っておいて、負けると被害者面して振る舞うなどと言った事は古今東西の戦争で見られたが、時空管理局に対する次元世界のメディアもその類型に当てはまったようだ。


「ではここで、共同戦線を張る事になった地球連邦軍の古代進中将をご紹介します」

マスコミ一同が注目する。20代前半の若者にしか見えない古代の風貌に誰もがどよめく。いくら次元世界が子供のうちから就業可能な世界とはいえ、20代で組織の中枢にいても不思議でない地位になった事例は無い。古代はまず官姓名を名乗って、自分が宇宙戦艦ヤマトの艦長代理であると説明する。同時にここでヤマトの艦歴が映像で説明される。地球での史上最大最強を謳われた水上艦を前身にして生み出された初のタキオン粒子機関「波動エンジン」搭載艦であり、幾多の敵を退けた地球の象徴的艦であることを。砲塔を持ち、水上艦をそのまま浮かべた『古めかしい』姿であるヤマトが、ここ10年ほどで急激に台頭してきた地球連邦政府の象徴となっているのには驚きらしい。

「小官は単なる一高級将校に過ぎない身です。英雄視はされておりますが、実のところは単なる一人の若輩者です」

古代にしては謙遜している一言である。年の割には老成していると思わせる口ぶりだが、実のところは本質的には10代後半当時と変わらぬ血気盛んな側面が残っている。艦長代理でありながら、旧式化したコスモゼロでコスモタイガーを率いて出撃したのもザラである。島や真田からは『お前も最近はTPOを弁えるようになったな』と笑われていたりする。兄の守(地球連邦軍軍令部参謀)曰く、「進は両親が死んだ反動で激情的になった。昔は虫も殺せない奴だったんだが」との事だが。

「本艦、ヤマトはあなた方ミッドチルダを救うべく派遣されました。私達が来たからには百万の味方を得たと同義と考えて結構です」

――ヤマトは戦歴からその言は的を射ていた。ヤマト単艦で優に並の練度の空母機動部隊を返り討ちにできるし、その気になれば惑星や彗星をも破滅させられる力を持つ。そのヤマトに膝をつかけかけた相手はただ一人、ズォーダー大帝だけだ。古代の自信のもとはヤマトが大規模近代化された事によるもので、そのポテンシャルは新鋭艦にも劣らぬ水準に押し上げられていたからだ。ではその新生ヤマトを説明しよう。




――ドックに投錨している宇宙戦艦ヤマト。その威容は前身である、大日本帝国海軍軍艦『大和型戦艦』の面影を色濃く残す。改装の際の偽装も兼ねて露出した残骸内部から改造したからだ。(その改装の際に取り外したモノは海事博物館でレプリカの大和の横で展示されたり、この頃に発掘された戦艦武蔵の残骸の修復の参考に使われたりしている)内部構造は大和型戦艦の艦内構造を改善したようなもので、幾度の改修の後も基本構成は同じである。違うのは艦内に食料・弾薬・戦闘機や砲身などの消耗品を生産する施設がある点だ。波動エンジンはイスカンダル星の最新最強であったモノを継続して装備しているが、地球が波動エネルギー理論を理解していくに連れて性能改善が行われた。メカトピア戦中からテストされていたスーパーチャージャーが装備されたのもその一環だ。これにより波動砲のチャージ時間短縮と威力向上が両立され、ワープと波動砲の連続使用も可能となり、新鋭艦に伍する機関性能となった。レーダーも新型へ交換され、索敵性能もアップした。主砲や副砲は実体弾発射を元から想定された新型へ交換され、ミサイルも新型弾頭へマイナーチェンジされている。艦載機は新塗装の新コスモタイガー第二期生産型及び、先行試作された次期戦闘機『コスモパルサー』を主体に、可変戦闘機や可変MSを搭載する構成で固定された。艦載機搭乗員の定期異動などでおよそ半数が新規搭乗員となっていたものの、平均練度は白色彗星帝国時の70%の高さに達していた。これはメカトピア戦や残党狩りで訓練生も実戦に駆り出されることが多くなっていたせいである。その中で最高の腕を持つのが新規搭乗員の一人である加藤四郎である。白色彗星帝国戦で戦死した加藤三郎の実弟で、操縦センスは兄ゆずりで、兄の正統後継者として、古代にも期待されるホープである。艦載機隊隊長は坂本茂が教導隊へ転出したために空席になり、古代が臨時で兼任している。その二番機に指名されるあたり、加藤の腕を買っているのが伺える。その他、主に生存性を重視した改造が施されたヤマトは不沈艦の評判に相応しい性能を得たと言える。(ちなみになのはやフェイトが知るアニメと比べるとサイズや武装に差異があり、下部にも砲塔が設けられている。これは人型機動兵器の台頭でサイズその他に設計変更が行われたためである)











――ヤマトの様子を確認しに訪れた武子とガランドはその威容に圧倒されていた。自分達の時代の戦艦がそのまま宇宙時代に蘇ったとしか言い様がない艦容、扶桑戦艦を改造したと一目で分かる意匠、歴戦の勇者と言える参戦証のペイント……まさに戦艦大和の後身である事を示している。

「私が宇宙戦艦ヤマト技術班長の真田志郎です。お待ちしておりました、アドルフィーネ・ガランド閣下、それと加藤武子大尉」

「よろしくお願いする、技師長。貴官がヤマトの実質的な副長というのは本当かな?」

「ハッ。自分は艦長代理らに比べて一回り上の年代ですので、初代艦長の沖田十三提督からは若いもののストッパー役を期待されておりました。今では影の艦長だの言われておりますが」

「技師長、なぜこの船は戦艦大和の姿を受け継いだのですか?」

武子の質問に真田が答える。

「本艦は戦艦大和の残骸をベースに宇宙戦艦に仕上げたものでね。切羽詰まっていたから一から作る時間が無かったのだ。幸いなことに、我々の世界における戦艦大和は左右均等に魚雷を食らい、弾薬をほとんど対空戦で使い果たした状態で沈み、目立った損傷がない状態だったので、それを母体にしたのだ」

そう。大和の残骸は大抵の場合は弾薬庫誘爆や機関の水蒸気爆発などが重なりあった結果、船体中央部は完全に吹き飛び、後部がひっくり返った状態で海底に眠っている。しかし次元世界の中には幸運にも往時の面影を残した状態で海底に沈んだ世界があった。ヤマトに改造されたのもその可能性が実現した世界の産物だ。そして前世の鬱憤を晴らすかのように、ヤマトは無敵の宇宙戦艦として君臨している。元々は自衛能力がある移民船として計画されていた名残りで、装甲厚も後の主力戦艦級を凌ぎ、カタログスペック上ではより新型であるアンドロメダ級にも匹敵する。(これは短期間で数を揃えることを重視した主力戦艦級故の脆さがある事の表れであった。)数度の改装後に完成した姉妹艦のシナノはヤマトの航空運用能力面を拡張したものである。元々、軽空母並であったヤマトの航空運用能力を拡張すれば『空母の航空打撃力と戦艦の攻防性能』を両立させられると踏んだ地球連邦軍はテストケースとして、シナノを造船したのだ。

「母体である大和とはサイズが桁違いにされています。例えば、この艦内工場。食料品から弾薬、はたまた艦載機や武器の砲身や銃身などの消耗品をここで製造します。ただし資材を補給する必要があるのには代わりはないので、航海の際には途中で資源が発見された惑星から採集します」

「宇宙には我々の知る金属と全く違う特性を持つものがあるはずだ。そういう時にはどうしているのか?」

「既存の金属と組み合わせて新合金を製造します。その中で実用に耐えると思われるものはヤマトの強化などに使い、その後に地球にデータを送り、資源輸送船団を組織し、製造ノウハウを確立させます」

「なるほど。宇宙をそれこそ飛行機感覚で飛び回る時代なりの事情があるということか」

ガランドは宇宙という空間を飛行機同様の感覚で飛び回る技術力を得た世界にはそれなりの苦労があるのだと関心を寄せる。工場では、試作機の範疇であるコスモパルサーの製造ラインを確立させようと技師達が機器を操作して、コスモタイガーの製造ラインの一部を改変している様子が確認できる。コスモパルサーは試作の段階故に、自己製造可能な設備がある艦では独自に設計改変が施されるケースが多かった。パルサーの仕様が固まるのはそれから約4年以上の月日を必要とし、パルサーはマルチロールファイターとしてのコスモタイガーの後継者として完成されるに至る。

「次にここが格納庫です」

「これが未来の宇宙船の航空運用設備……凄い……」

武子はヤマトの格納庫に圧倒される。自分の知る空母の風景と基本は変わっていないものの、機の翼が折りたたみ式(新コスモタイガーの第二期生産モデルからは波動エンジン空母機動部隊の再建も目処がついたので、艦載機仕様はそこでの運用を前提に主翼部に設計変更が施された)で、折りたたまれた状態で駐機されている近代的空母の光景は武子を驚嘆させる。彼女が空母に乗艦したのは若手時代の1938年頃の事で、その頃の空母艦載機は史実戦間期レベルの固定脚機。主翼折りたたみとはまだ無縁(零式で実現はしたものの、その頃には欧州にいた彼女に取っての空母艦載機への認識はそこで止まっていたのである)であった頃から引き込み脚機に転換される時期には既に欧州に派遣されていた彼女に取って、いきなり主翼が折りたたみ式で、レシプロを通り越してジェット戦闘機の整備光景を目の当たりにしたのだから、当然であった。

「やはり私の読みは当たっていた。将来的にこうなると思っていたが……」

ガランドのほうは、自分が日頃から提言している『ジェット機がレシプロ機に取って代わる』光景に改めて感動したようだ。ガランドは同期や将軍らから異端児扱いもされている。それは未知のジェットエンジンという分野ににとりつかれているからで、ベテランウィッチの多くがレシプロ機を求める中、ジェット研究を推し進めさせた。ウルスラ・ハルトマンが研究できているのは、後ろ盾にガランドが付いているからだ。

「ヤマトは元々が移民船で建造されていたので、単艦での任務も多いのです。なので、このような大規模な航空運用設備が許容されています。」

真田に案内されながら格納庫の様子を確認する二人。各種ミサイルや増槽が置かれ、実戦装備を施された機体がところ狭しと駐機されている。技術発展で戦闘機が爆撃機と攻撃機の任務を兼ねられる様になったのか、機種数は少ない。

「戦闘機が爆撃機の任務を代行できるようになったんですか?機種数が少ないようですが?」

「ああ。君らの時代で言う、P-47やF6Fの頃から余剰馬力と搭載量を生かして爆撃機代わりに使う事が増えた。やがてジェット戦闘機が普及してからは調達価格の高騰化なども相成って、万能機が好まれるようになった。その流れが今でも続いているということだよ、大尉」

「万能機といえば聞こえはいいですが、器用貧乏とも思えますが?」

「技術発展でそのような事はなくなったよ。ジェット戦闘機初期の頃にはF-111やF-105などの例があるが、23世紀では制空戦闘機と爆撃機能力の両立は当たり前だよ」

――マルチロールファイター。それは20世紀末から進められてきた設計思想である。扶桑にはその思想を体現する機体は購入機しかなく、部隊で個別に試されている行為に入る。未来世界では、飛行機の分業制が第二次大戦とベトナム戦争の終結で大規模空戦が起きなくなった時勢と技術発展に伴う調達価格の高騰化で廃れ、早期警戒機や救難飛行艇などの後方支援ジャンル以外の殆どは戦闘機が兼任するようになった。対地攻撃能力を持たない純血の『制空戦闘機』は求められなくなったのだ。例えば、コスモ・ゼロは制空戦闘機としての任務が主体であるが、限定的な対地対艦攻撃能力を持っている。しかし艦隊再建にはマルチロールファイターは必須であり、コスモタイガーが開発され、主力として君臨している。ジオン軍が一年戦争後も戦闘機での空戦で不利であるのはその点だ。ジオン残党軍もコスモタイガーのミサイルやパルスレーザーによる対地攻撃能力は脅威であり、要注意機としている。ジオン残党やザンスカール帝国残党に至るまでのスペースノイド国家残党軍が制空戦闘機開発に注力しない理由は、コスモタイガーやコスモ・ゼロの高能力に抗することが可能な戦闘機を開発することができずにいるからだ。武子は自分の知る重爆以上に大きな機体を音速など問題外な超速度を発揮させる未来戦闘機群にヤマトの航空戦力の一端を感じ取り、武者震いするのであった。









――救出作戦に先立って、圭子は手筈を整えるべく動いた。信濃がビスマルクを沈めたのを見届けると、その足で救出される側の管理局部隊の元へ向かった。途中、敵戦闘機部隊の襲撃があったが、圭子は持ち前の銃撃センスで二機を撃墜、二機に損害を与えて撃退し、管理局部隊のもとに赴いた。

「扶桑皇国陸軍、加東圭子少佐であります。手短に申し上げます。我が国の海軍が救出のため軍艦を派遣し、こちらへ向かっています」

「それは本当かね!?」

「はい。事実です」

管理局部隊の指揮官である一佐は思わず声が上ずり、周りでは歓声が上がる。要請が受理されるとは夢にも思わなかったのだろう。圭子はすぐに円滑に撤退させるべく、管理局側と協議し、更に阿武隈にいる黒江を通して、木村中将以下、第一水雷戦隊司令部を交えての会議が行われた。その結果、到着時刻までに生き残った全隊員を大発の接舷可能な海岸に集める事やデバイスは待機状態で持たせる事、揺動として第五航空戦隊の翔鶴らの彗星三三型(扶桑海軍現有機では最新型の艦爆。地球連邦軍の提言で史実同様に空冷エンジンに換装した彗星艦爆。これは連邦軍がアツタの稼働率を懸念し、実際に太平洋戦争で一部部隊しか彗星艦爆の真価を発揮できなかった記録を目の当たりにした空母機動部隊の司令官達の危惧もあって、1944年12月以降の生産型は空冷エンジン型の三三型に切り替えられた。しかし天山共々、いずれは流星改への機種更新が予定されているとの事)が後方に陣取る敵部隊へ水平爆撃を行う事も決められ、山口多聞中将に伝えられた。


「友軍艦爆が後方に陣取る敵部隊に揺動をかけ、注意を惹きつけ、更に戦艦も活動します。その隙にあなた方を回収、撤収します。この霧が発生するのはだいたい何時間ですか?」

「だいたい一日のうち、霧に包まれるのは4,5時間。それまでに撤収しなければ終わりだ」

「発生する時刻は?」

「午前の終わりから午後2時か3時頃までだ」

「分かりました」(こりゃ敵さんに1950年台以降の水準の航法装置と電探積んでるジェット機が配備されていない事を祈るしかないな)

圭子は内心、ナチス側が大戦中の航空機しかこの地域に配備していないことを祈った。仮面ライダーZXの調査で、ナチス側は大戦中のフォッケウルフやメッサーシュミットの最終型だけでなく、ジェット機では、史実ではスウェーデンが開発した『ランセン』を航続距離が短く、対爆撃迎撃にしか用をなさないMe262、失速特性に癖があるフッケバインの一部を置き換え始めた事が判明している。投入されてしまえば、第一水雷戦隊など捻り潰されていても不思議ではない。軍人として最悪の事態を想定すべきと教えられた新人時代を思いだす。キスカ島撤退作戦では万事が上手く行ったが、今回は敵は米軍ではなく、ドイツ軍だ。事が上手く行くかは運頼みなところがある。圭子は思わず、空を仰ぎ、作戦成功を祈った。








――第一水雷戦隊は木村中将の巧みな指揮と操艦でミッドチルダきっての難所と言われる荒海を乗り切る。

「ここからは浅いぞ!岩でスクリューをこすらんように注意せよ!」

「ハッ!」

航海長が阿武隈を操り、木村中将は機関出力や動きを指示する。艦長はなんとも気まずそうであるが、赤煉瓦勤務が長い者にいきなり荒海での操艦をやらせるのも酷である。実務経験が長い木村中将の腕に舌を巻く黒江。

(木村さんの操艦のお手並みはすげえよ。こんな荒れるところをスムーズに動かすんだから……釣り行く時の参考にしよう)


黒江は趣味の一つが釣りなので、船に乗る事が多い。そのため海に弱い事も珍しくない陸軍軍人の中では稀に見る船酔いへの耐性持ちである。最近は高波に飲まれても死なないように、肺活量などの持久力を鍛えているとか。




――こうして、第一水雷戦隊は管理局部隊の救出に赴く。霧が晴れている時間帯を見計らって、上空を彗星艦爆と紫電改の編隊が通り過ぎていく。天山がいないのは、本格的な防弾装備がない上に複座の天山では生存性に難があるからだ。それぞれの思惑が絡む中、ミッドチルダ動乱は進んでいく。









――ナチスがタイミングを図るように、続々と新戦力を用意する中、扶桑海軍も大和型の近代化改修と、超大和型戦艦『三笠』、『富士』の投入を検討し始める。空母機動部隊の艦載機更新が現実味を帯び始めたのもこの時で、『紫電改』、『烈風』に変わる主力機にいきなり世代を飛び越えた『F8Uクルセイダー』が内定し、既にスーパーキャリア『龍鶴』に搭載され始めていた。そして、仮面ライダーZXのレポートに危惧を覚えた軍令部の手で供与されていた完成機20機ほどがこの数日後に航空輸送艦に類別変更された軽空母達が運んで来る形で配備された。乗員の教育が間に合わないため、ウィッチ達の兼任という形で落ち着いた。黒江や圭子達が乗ることになったのだが、智子はこの事例に『エ○ア88』でも目指してるのかと皮肉ったとか。管理局本局から帰る途中で、この報告を受けた小沢治三郎は既存空母の全てがスーパーキャリアの登場で陳腐化してしまった空母の革命を戦艦ドレッドノートの登場と同義に捉えた。以後、制空権確保が命題になるにつれて扶桑海軍空母は自国製でも大型化を始め、亡命リベリオン軍への対抗馬として、本来は太鳳型二番艦に予定されていたという『海鳳』という名を自国製65000トン級空母の艦名に用いることになる。



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