――改大和型戦艦は全体防御が幾層にも渡って施された。元々は集中防御であった防御方式を全体防御に変えるにあたり、船体をミッドチルダの技術で輪切りにして解体し、それを再びくっつける工事を短期間で行った。構成部材はガンダリウム合金に交換され、水中防御も水層式に変えられた。ほぼ作り変えに等しい手間がかかったものの、性能は以前より遥かに強化された。装甲配置もミサイル戦を前提としたものに変えられたので、ミサイルにも高度に防御を持ち、弱装甲部はどこにもなくなった。第二改装では電子装備も高度に施され、地球連邦軍が使用権を得ているドックでの修理が前提になってしまったが、防御力が23世紀宇宙艦艇の水準になったため、広島型原爆や長崎型原爆程度ではびくともしないという、水上艦の戦術単位では破格の防御を得た。


――扶桑海軍は大和型に施される改造が回を追うごとに凄みを増す事に思わず苦笑いしていた。三笠型の防御は水素爆弾に耐え得る水準であるというが、大和型もほぼ全艦が21世紀以降の戦闘に耐え得るように改装されているというのは、古来の艦隊戦の概念が空母機動部隊の台頭で、近い未来に陳腐化する事を見越してのものと誰もに実感させた。

「西島閣下!」

「何か?」

大和型の建造に携わった西島亮二造船官。彼は地球連邦軍による後援もあって、一気に造船中将にまで特進。改大和型の計画にも携わっていた。

「信濃の装甲防御ですが、水線下にも全面的に施す意味はあるのですか?」

「大和型は大抵の場合は爆弾では沈まんが、水雷攻撃を集中されて転覆して沈んでいる。大和、武蔵のいずれも沈没要因は高性能魚雷の10発以上の命中にあるのだという。私は未来技術でそれを改善したいのだ」

西島造船中将は大和型の造船主任であった。大和型の全艦が爆弾よりも魚雷に屈した事を知った彼は魚雷対策と浸水対策を最優先課題に挙げ、隔壁増大と水密区間の増大を施した。副砲もミサイルという代替手段が得られたので撤去という選択を取った。未来技術の多用で、扶桑在来技術では数年がかりの大工事を数週間で済ますことができた。そして、速力も30ノットを超えたので、一般人のいうところの『30ノットでなければ、空母の護衛に使えない』という論調を黙らせる事に成功した。魚雷対策に艦首艦尾装甲が強化され、延長された結果、基準排水量は1万トン以上増大したが、防御重量に多くの重量が割り振られている。装甲材がガンダリウム合金にされたからこそ1万トンの増加で済んだが、在来鋼材ならば2万トン以上の増大は間違いなかった。

「未来技術をこんなに入れて大丈夫でしょうか」

「地球連邦軍の使用権がある横須賀や大神、南洋島での整備が前提だからこその措置だ。そうでなければ在来鋼材での装甲強化に留めていたさ。そうでなければ、元々が平賀閣下ご執心の集中防御であったコイツを完全防御式に無理やり直すなど在来技術では不可能だったよ」

「そうなのですか」

「君はいつの入隊かね?」

「ハッ、自分達は1941年に大学を出たもので…」

「そうか、若いな。大和型は設計段階では常識通りの集中防御式の戦艦だったのだ。平賀譲閣下は知っているね?あの方が最後に携わった戦艦なのだよ」


――そう。大和型は元々、設計段階で航空機への防御は考慮されたものの、当時の性能レベルでは大和型の重防御の脅威になりえないと判定された。折しも友鶴事件や第四艦隊事件が発生した事もあり、リベット使用比率が増大し、大和はその仕様で完成した。しかし、実戦で武蔵がリベットの使用部位に被弾し、思わぬ損害を食らった事で、改装に踏み切ったのが今回の事情なのだ。西島中将は新米の造船少尉や中尉らに説明してゆく。

「戦艦は建前は移動砲台扱いだが、本来は艦隊戦を前提に設計されている。大和型も例外ではない。ところが、近年の航空機の発達で水上艦の存在意義は揺らいできている。そこに未来情報だ。艦隊戦にあくまで特化した戦艦は空母に地位を取って代わられ、宇宙艦艇時代まで復興しないという事に全世界が驚愕した。それで生まれ変わるのだよ、大和型は」

「つまり汎用性を向上させると?」

「そうだ。艦砲射撃しか能がない軍艦など、平時にはお払い箱になる。それは未来情報での戦艦・甲巡・乙巡の急速な衰退で証明されている。」

「汎用性がなければ、次の世紀に生き残れないと?」

「そういう事だ」

――未来情報で示された『駆逐艦の巡洋艦との統合と勃興』は汎用性がある軍艦こそが宇宙艦艇時代でも生き残れる。そのため、未来情報を基に設計された『天神型軽巡洋艦』は大型化し、排水量が9000トンに達している。防御は阿賀野型よりも強化され、武装はミサイル装備がされている。もうここまでいくと軽巡洋艦と呼んでいいか怪しいが、そもそもの定義である重巡洋艦の『20cm砲搭載』という点に当てはまりはしないので、その観点からの理論であった。宇宙艦艇時代でも、波動エンジンやフォールド機関の実用化まではマゼラン級戦艦は『大艦巨砲主義の遺物』してお荷物扱いされ、金剛型宇宙戦艦(えいゆうの艦級)建造時にもそのような評判があった。駆逐艦も、一昔前の軽巡洋艦を上回る排水量の新型が計画されている。これも対航空機対策であった。

「大和型が今回、水雷防御を重視したのも潜水艦と航空機対策だ。特に潜水艦には煮え湯を飲ませられたからな」

「呉空襲ですね?」

「ああ。比叡や霧島などはそれでまっ二つになったり、転覆して着底していった。一年経った今でも比叡の残骸は手付かずのまま放置されている。それで上の連中らの首が飛んだのだ」

――呉はモンタナが猛烈に艦砲射撃した結果、埠頭や市街地に多大な損害を被った。停泊していた艦艇の残骸は未だ放置されており、転覆した天城(雲龍型二番艦)はそのままの状態で朽ち果てている。比叡も大炎上後に弾薬庫誘爆で船体がまっ二つになって着底したままだ。市街地の復興が優先されたため、軍港機能回復は後回しにされた。風翔は引き上げ後に遺体収容がなされた後に慰霊式がなされて解体されたものの、その他は遺体収容完了後は半ば放置状態で、本拠地機能が事実上は横須賀に集束された事もあり、呉が往年の姿を取り戻すのは1952年にまでずれ込む事になる……。その責任を取らせられた形で多くの造船官、鎮守府関係者、聯合艦隊参謀などが更迭された。呉という軍港が無力化された事で、扶桑は大型艦艇建造能力が減退し、本土は大和型建造可能なのが長崎、横須賀、大神の三箇所のみになってしまった。ティターンズの思惑は見事成功し、扶桑における大型戦闘艦艇の整備計画に支障をきたし、地球連邦軍製の軍艦を多数購入する事による軍事予算の切迫性を強めたのだ。

「予算はアップアップで、越後の完成は来年以降にずれ込む予定だそうだ。かと言って戦艦を3隻、空母も複数失った以上、海軍力の減退は避けられん。だからこそ、現有戦力の改造で場を凌ぐしか無いのだ」

「切羽詰まってますね」

「それはそうさ。アフリカ戦線に敗北し、このミッドチルダ戦線にはドイツ軍のH42などの強力な戦艦が存在する。大和型でも苦戦は免れない強敵だ。上は焦っているのさ」

――軍令部はこの頃、陸軍参謀本部と共に、統合参謀本部に再編されることが内々に通達され、その残務整理に任務を移行していた。その中で議論されるのがH42級戦艦である。そのスペックはドイツのプロパガンダもあって、軍令部・艦政本部を恐怖に陥れた。それで未来技術を取り入れるのを急いだのだ。この会話から数日後、本国から改装が終わった大和が日向の代艦として配備された。第一戦隊はシンボリック的意味で大和に旗艦が移され、大和は再び旗艦の名誉に預かった。大和は試験的に『波号徹甲弾』という名で波動カートリッジ弾が配備されており、砲塔もそれを前提にしたものになっていた。ここに大和は近代的艦艇として『蘇った』のだ。







――ミッドチルダ戦線で第二の艦隊戦が起こったのは、ミッドチルダ新暦で75年の9月末の事だ。そこに大和は『連合艦隊』として最後の(任務部隊制に移行するため、連合艦隊は解消される)出撃を行った。その出撃は大規模なもので、地球連邦軍の水上空母『アンティータム』もコスモタイガーを積んで参陣していた。それと隊列を組む扶桑海軍空母『翔鶴』は瑞鶴に先立って、アングルドデッキ化とカタパルトのスチーム式化が行われた。艦全長も延長され、ハリケーンバウ化も行われたので、外見上は大鳳に似通った姿になっていた。艦載機も試験的に『F8U』、『A-4』などに更新されており、艦内構造はエセックス級に似通ったものとなり、格納庫も半開放式へ変更された。

――翔鶴 

「全員、F8Uの操縦訓練は済んでいる?」

「ハッ。完了しております」

「出撃の前に諸君の飛行経歴を聞いておこう」

「ハッ。新藤美枝少佐であります。508の戦闘隊長を務めております」

「自分は雁淵孝美大尉であります。508の隊員で、原隊は343空であります。」

「黒田那佳。506の隊員であります」

「川口文代。503に所属しております」

「管野直枝。新501所属ッス」

「エーリカ・ハルトマン。同じく新501所属だよ」

「シャーロット・E・イェーガー。同じく」

集められた者は統合戦闘航空団のどれかに所属し、戦果を上げた者である。扶桑皇国出身者が多かった。隊長が加藤武子であり、先任中隊長が黒江である事も相なって、海軍とは思えない自由な雰囲気があった。しかし人員はジェット機の操縦訓練課程を済ませたウィッチであり、なおかつ、今直ぐ呼べる者という条件がついたので、陣容が新501と、旧飛行第64戦隊、343空出身者に偏っている。中核を任せられた割には空軍出身者が多いことに文句も出ているが、ジェット機を扱えるのはエリートの証である。菅野は黒江に電話で呼びつけられ、黒田は圭子の秘書として呼ばれていたので、直ぐに召集されていた。

「加藤少佐、自分達は制空権の確保を主任務にしていると理解していいですな?」

「構わない。私達はそのために集められたもの」

武子は本日付けで少佐へ昇進した。空軍設立が近づいていた故の措置である。三羽烏も同様の措置で一階級昇進している。扶桑海事変参陣者でも功労者と言える、飛行第一戦隊&六四戦隊出身者である彼女らは、彼女らを冷遇した参謀本部を廃するなどの地球連邦による間接的統制の力もあって、(連邦が天皇陛下に昇進を推薦してくれた)空軍移籍後は今までが嘘のような速度で昇進を重ねていく事になる。

「あなた達が操る事になる機体の情報は得てるわね?F8Uクルセイダー。本来ならおよそ10年後以後に現れる超音速ジェット戦闘機よ。未来情報を基に設計を多少変更しているけど、大体は同じ。武装は原型から変更して、固定武装にM61バルカン砲を二門、ハードポイントに8発のミサイルか、爆弾を最大12発搭載可能よ」

「ずいぶんと欲張った機体ですね」

「第一世代型ジェット機じゃ、ほぼ対爆撃機専用にしか使えないもの。橘花や火龍もそうだけど、ベテラン勢には受けが悪くてね。それで飛躍的に設計が進歩しつつも、それほど時代的に差がない次世代の機体を買ったわけ」

「時代的に差が無いって?」

「驚きだけど、クルセイダーの原型機の初飛行は1952年なの」

「なっ!?」

「は、八年後!?」

「ジェット機の性能水準は多くの紛争が数十年の間に起こった結果、1960年代にはマッハ2を越えるのが当たり前になるのよ。それで1970年代に設計が大体ここで完成の域に達するんだけど、ここの世代だと旋回性能が更に上がるの。素材の限界で速度が頭打ちになって、一転して機動性を重視しだしたから」



――ジェット機の設計は大体1970年代で完成の域に達した。この時代で速度向上は素材の耐久限界で頭打ちになり、更なる高性能素材の実用化を待つ必要があり、その解決は21世紀以後の事だ。以後は機動性改善に主眼が置かれていくのだ。その世代を動かした経験がある者は納得の表情である。

「ただ、そこまでいくと搭載電子機器、つまり後世の軍事用語でアビオニクスというが……が大分高度になってるから、今のウチの技術では無理だ。だからクルセイダーになったんだが、お前ら、電子機器の動かし方の講習は受けてあるな?」

「はい。向こうの北米で受講しましたが、レーダーというのはどうもきな臭くて」

「新藤、レーダーをもっと信用しろ。向こう側でのマリアナ沖海戦の大敗の原因はそれだし、奴さんの海軍上層部への白眼視の根拠でもあるんだぞ」

「わかっております、黒江中佐」

黒江が新藤に釘を刺す。レーダー軽視と基礎レベルの差から、大戦後期の連戦連敗と大日本帝国の破滅が招来された史実を引き合いに出す。新藤も黒江の言葉の意味を知っているため、反論はしなかった。マリアナ沖海戦での空母機動部隊の破滅という事実は、海軍関係者の全員を阿鼻叫喚の地獄に叩き込んだのだから。しかもレーダー技術の差が戦局を半ば支配したというのは、扶桑海でその効果を実感していた海軍人員を顔面蒼白に変えた。

(信じがたい事だが、向こうの大日本帝国海軍は海上護衛と電子技術軽視の挙句に破滅していった。私達もレーダーがなければ扶桑海で負けていた。だが……どこか寂しいんですよ、中佐)

新藤は昔気質のウィッチである。レーダーの搭載を機械に振り回されていると感じているが、大日本帝国海軍の破滅という事実を錦の旗にして推し進められる、航空機への電子機器搭載を『寂しい』と感じていた。時代はジェット機による音速の戦いへ足を踏み入れつつある。第一次世界大戦(第一次ネウロイ大戦)のような、何処かロマンがあった空中戦は過去のものへなりつつある。だが、ドックファイトそのものは無くならない。コスモタイガーや可変戦闘機の時代でもドックファイトはまま起こる。それを拠り所にして、新藤はこの飛行隊への招聘を受けたのだ。




格納庫へ行くと、真新しい機体が駐機されていた。プロペラ機に比して飛躍的に大型(16.61m。因みに流星や烈風などのレシプロ機は最大でも10mであった)な機体である。しかし、相手がレシプロからジェット機に転換しつつある以上は最適な機体である。

「翔鶴もずいぶん変わったな」

「そうでないとジェット機は運用もままならんからな。二層だった格納庫から上を新造してアングルドデッキにしたから、傍から見りゃ大鳳に見えるぞ」

「そこまでして改造する必要が?」

「うちらの空母の多くはジェット機にゃ小型にすぎる。大和型の船体だって小さいくらいだ、未来から買った龍鶴で丁度いいくらいなんだから」

「!?!あ、あれで!?」

「そうだ。未来で使われたニミッツ級航空母艦なんか320m、23世紀のなんか400m超え。宇宙艦艇なんて最大70kmだぞ?あれくらいで驚いてたら心臓がいくつあっても足りんぞ?」

新藤は度肝を抜かれた。黒江はしてやったりという顔である。彼女はしてやられた顔でF8Uのエンジンを始動させる。

(エンジンの音、計器、操縦桿……全てが違う。次の時代を担う者とはいえ、やはり寂しいな…)

レシプロ機より高度になったアビオニクス、彼女が慣れ親しんだスロットルレバーに機銃発射機構がついているものでない事に不満があるが、ジェット機のスロットル調整は繊細なので、仕方がない事だ。

『新藤、聞こえるか?』

『はい。よく』

『ヘルメットの酸素マスクは付けていろ。高G旋回や高々度飛行には必須装備だ。お前は第三分隊を率いろ。私はフジの護衛をせりゃならん』

『了解です』

黒江は先任中隊長であると同時に、戦闘機同士の空戦では武子の護衛を務めればならない。エレベーターで甲板に出て、先に黒江の機体が射出される。

『隼二番、出る!!』

飛行隊のTACネームは扶桑軍のメンツにより、和風のそれがこの時期は用いられていた。(これは明治生まれの高官らに米軍式のそれに対抗心があったからだが、バリエーションが少ない事から、1947年に洋式TACネームの使用が認められた)黒江はこの辺は慣れたもので、悠々と発進した。空に出ると、武子の機体と合流する。

『フジ、ジェット機の空戦は初めてだったな?』

『ええ。どうすればいいのかしら?』

『基本的にゃ同じだ。武器のロケット弾が誘導ミサイルに変わっただけだ。チャフとフレアのスイッチを覚えておけ。機動もそうだが、これの活用が大事だぞ』

ヘッドアップディスプレイを睨みつつ、黒江は言う。武子は新式無線で明瞭に会話が出来る事に驚きつつ、飛行中隊をまとめ、大和らの上空の制空権確保のために滞空した。







――この時の連合艦隊編成は以下の通り

第一戦隊 大和、信濃、甲斐他、地球連邦軍製イージス艦『アーレイ・バーク』ら打撃艦隊

第二戦隊 超甲巡『鞍馬』、『筑波』、『出雲』、甲巡『高雄』、『愛宕』、乙巡『阿賀野』他の水雷戦隊

第二水雷戦隊 矢矧、能代、夕雲型駆逐艦多数

第三艦隊(空母機動部隊) 翔鶴(ジェット機対応済み)、瑞鶴(未対応)、大鳳(改装前最後の出陣)、地球連邦軍空母『アンティータム』(旗艦)、『プリンストン』、イージス艦『金剛』、『比叡』、『榛名』、『霧島』(日本地区に配備されていたイージス艦)、駆逐艦『秋月』、『宵月』、『冬月』、『夏月』、乙巡『酒匂』、『能登』(能登は改阿賀野型一番艦)

潜水艦隊(地球連邦軍製で編成) ワシントン、ニューヨーク、シアトル(原子力潜水艦)

と、連邦海軍がなけなしの主力空母などを送り込んでの連合大艦隊で反抗作戦第一陣が開始された。完全に役割分担がなされており、戦艦部隊、高速戦隊、空母機動部隊、潜水艦隊がそれぞれ、ミッドチルダ南部の重要港湾を奪還すべく、輸送船団を引き連れて動いていた。それはドイツ軍も把握していた。




――U305

「かなりの大部隊だな……」

「ですが、戦艦の数が少なくありませんか?」

「旧型戦艦では我々の第一次大戦型はともかく、第一線級戦艦には対抗できん。それを考えて、敢えてヤマトタイプに絞ったんだろう。……ん、かなり近代化を施したな……あれでは元来の母港での整備は不可能だろう。こちらも施しているものの、部分的に留めているからな」

「ヤマトタイプはムサシは戦線離脱させていますから、ヤマト、シナノ、カイだと思われます」

「シンボリック的意味を求めたな」

「どういう事でありますか?」

「奴さんに取って、ヤマトはナガトに代わる海軍のシンボルであり、国威発揚の道具だ。それを最強の艦としてアピールするのはプロパガンダ的に大きな意味を持つ。大日本帝国は見事にヤマトの活用に失敗したが、扶桑皇国は成功したほうだよ」

――世界最大最強の戦艦を持つということを活用出来なかった大日本帝国海軍。黒江らの策略もあり、公表した結果、各国への示威に使われた扶桑皇国。大和型の存在は結果的に造船競争も招いたので、正解であった。扶桑皇国も増勢を余儀なくはされたが、諸外国に恐れを抱かせた分、お釣りはきた。

「どうするのです艦長」

「イージス艦がいる以上、攻撃は危険だ。水上攻撃に期待するしかあるまい」

「ハッ」

彼らといえど、イージス艦を危険視したのが窺える。そして、戦いの第一段階である航空戦が開始された。ジェット機同士の空戦はこの時が初めてだった。ウィッチ達は飛行魔法を封じられたというハンデにより、乗り物を使うことを余儀なくされたものの、元々適正があった者が乗り込んだために相応の戦果を上げた。



「敵はランセン……やはり港湾近くに基地作ってたな。各機は艦隊防空を忘れるなよ!」

黒江は指示を飛ばしつつ、操縦桿を動かす。クルセイダーの機動性はF-4よりも軽快な部位に属するため、ランセンの機銃射撃をいなし、後ろを取る。同時に操縦桿のトリガーを押す。一瞬であるが、弾数は30発を消費する(ジェット機時代の実弾機銃は発射速度が早いため、3桁の弾数では10秒もあれば消費してしまう)。ランセンはフラップとエンジンに被弾し、バランスを崩して失速していく。ミサイルは爆撃機用に温存しておきたい彼女は、機銃で戦闘機に対応していた。






――最も、そのような昔気質の空中戦を行える技能がある者は黒江、菅野などの数人の経験者であり、他はミサイルを使用して敵と戦っていた。

「ターゲットロック!ミサイル発射!!」

川口文代がミサイルを初発射する。まだ無線符号である『FOX〜』を覚えていないらしく、その辺はご愛嬌である。しかし、操作自体は完璧である。チャフやフレアに惑わされずに命中した。誘導ミサイルはミノフスキー粒子が巻かれているのが前提の連邦軍製なので、ミノフスキー粒子下でも、百発百中とはいかなくても、60%の命中率を持つ。それがないので、一発で命中する。

「隼三番、一機撃墜!」

「いいぞ川口、その調子だぞ」

「はいっ!」

「さて、こっちもミサイルを試射するか」

操縦桿のスイッチを指で操作し、火器管制装置をミサイルに切り替える黒江。こちらは可変戦闘機乗りでもあるので、慣れたもの。無線符号もバッチリ言う。

「隼二番、FOX3!」

クルセイダーの左翼のハードポイントに取り付けられたミサイルが発射される。搭載兵器の寸法は旧米軍規格から変わっていないために可能な芸当だ。敵はチャプやフレアを使って避けようとするが、それに惑わされる事無く、エンジン部に命中。敵パイロットがベイルアウトしていくのを確認する。

(あれはあれでパイロットの鏡だぜ。ジェット機はいくらでも補充効くが、高練度パイロットは補充効かねーからな)

黒江は未来世界で戦ってきた経験から、パイロットの温存を意見具申するようになった。これは地球連邦軍が白色彗星帝国戦役で高練度パイロットの多くが帰らぬ人になった後、練度向上に苦心していること、大日本帝国海軍航空隊が悪循環に陥り、最後にはほぼ特攻要員としか勘定されていなかった史実などを鑑みてのものである。武子も練度維持と向上に強い関心を持っていた事もあって、飛行64戦隊のパイロット課程を含めた訓練は三羽烏の任務となった。この制空任務は成功と言えるもので、隼小隊が3機、鷹小隊が4機ほど撃墜し、敵を撃退した。


(さて、後は戦艦の出番だな……)

偵察機が敵戦艦部隊を補足した事を報告し、大和らが前に出る。戦艦の砲撃戦は、他の水上艦の出る幕ではない。大和型にミサイルが積まれた事も相なって、余計にそうであった。



――大和 CIC

「敵戦艦部隊、現れました」

「艦種は?」

「カイザー級、2。ケーニヒ級、2。バイエルン級2、ビスマルク級、1。おそらくティルピッツでしょう。他はH級戦艦が2です」

「ふむ。囮の弩級で弾を使わす腹か。前回の雪辱には丁度いい。波号徹甲弾は温存し、一式徹甲弾で対応する!伝達急げ!」

「ミサイル発射します!」

小沢治三郎の指示で戦闘が開始された。戦略としてはミサイルをダメージ与えに使用し、徹甲弾でとどめを指すというものである。だが、今回はドイツ軍も近代武装を持っているようで、迎撃ミサイルが打ち上がり、CIWSとRAMがミサイルを迎撃し、30%が迎撃により落とされ、20%が電子妨害で逸れる。しかし半分は当たり、ある艦の後楼を炎上させ、またある艦の副砲を破壊せしめる。ミサイル戦は互角であるのがこれで確認され、味方も連邦のイージス艦『比叡』が後部ヘリ甲板への直撃弾でヘリの搭載燃料の誘爆で落伍し、『霧島』の艦橋に直撃し、同艦を戦闘不能に陥らせられる。


「有軍艦が二隻、落伍します」

「損傷したイージス艦は下がらせろ。ここからは我々の領分だ。艦長、砲撃戦用意!」

「ハッ!全艦、砲撃戦用意!!」

主砲塔が動く。そして想定される決戦距離である20000m前後を目安に、スピードが第二戦速に増大する。前回の海戦でアウトレンジ戦法が机上の空論であることが確認されたため、今回は堅実な手段での砲撃戦に入った。先手は今回は連合艦隊側で、大和らの27発の徹甲弾がドイツ側に降り注ぐ。今回は味方の観測無しではあったが、日頃からの訓練の成果で至近弾を出すことに成功した。

「至近弾を確認!」

「よし!後は撃ちまくれ!その内、直撃するぞ!!」

大和らの放つ徹甲弾はドイツ軍戦艦部隊を捉え始めた。だが、以外にも、命中弾はドイツ軍の方が先であった。ただし、大和型にではなく、護衛の水雷戦隊にであった。

「玉雲、炎上、いや、轟沈!」

「敵は徹甲弾ではなく、徹甲弾榴弾で攻撃してきたのか?」

「ハッ。戦艦の徹甲弾は駆逐艦の船体程度は突き抜けてしまいます。そうなると徹甲榴弾が考えられます」

「40年前の事変で我々が使った手だな。敵水雷戦隊との戦闘は第二水雷戦隊に任す。我々はあくまで敵戦艦とやる!」

玉雲は不運にもカイザー級の直撃弾で果てた。日本駆逐艦は防御力が他国より低い部位に入り、それが不運に繋がった。この戦訓により、扶桑駆逐艦は米軍系駆逐艦に習うように大型化し、数年後、旧型になった陽炎型駆逐艦の代替に建造された『有明型駆逐艦』はタイプシップをギアリング級駆逐艦として建造されており、『Mk12 5インチ砲』(ライセンス生産)を主砲として採用した事もあり、米艦に近い姿となったそうな。



――大和型と敵戦艦は本格的となり、大和らは強化された装甲で敵砲弾を持ちこたえつつ、カイザー級の一隻を炎上させる。主砲塔を粉砕したのだ。


「敵カイザー級の前部主砲塔を粉砕!弾薬庫が誘爆したようです、炎上しだしました!」

「何%の戦闘能力喪失か?」

「ハッ、第二主砲と弾薬庫ですから、およそ20%であります」

「乗員はサイボーグだから、火災程度じゃ死なんだろうが、戦闘能力の喪失は良いニュースだ」

小沢らの予想通り、サイボーグであるドイツ将兵に死傷者はほとんど出ていない。だが、旧型の弩級戦艦の改装故の限界を露呈した事には悔しそうであった。

「弾薬庫誘爆!!」

「消火急げ!!くそ、やはり旧型の改装程度では限界があるな……」

「次弾来ます!」

「伏せろ!」

この瞬間、46cm徹甲弾はカイザー級『カイゼリン』の水線部装甲をブチ抜いた。ついで、大浸水による傾斜が始まっていく。第一次大戦型艦艇の防御では、第二次大戦型徹甲弾を防げなかったのが分かる。

「艦長、本艦はもうダメです、水線下に大穴が空き、進水の阻止不能、傾斜が始まりました」

「そうか。総員、最上甲板!退艦せよ!」



カイゼリンはここで艦齢20年あまりの生涯を終えた。15分後にはミッドチルダ南部の海底にその身を横たえた。旧型故に、大和型などの新戦艦メインの戦場にはお呼びでなかったのだ。一式徹甲弾は旧型戦艦相手には良好な効果が上がっていたが、連合艦隊もやはり無傷とは行かず、信濃はCIWS四基を失い、第二砲塔の旋回が不能となっていた。護衛水雷戦隊も、球磨型軽巡洋艦の大井が中破、北上が炎上して消火作業中である他、陽炎型駆逐艦が二隻ほど、至近弾で行動不能、夕雲型駆逐艦を三隻ほど撃沈されている。前線に進出して支援を行うという都合上、水雷戦隊の死傷率は高かった。その様子を上空から黒江達は確認していた。

「やはり水雷戦隊に被害が出てるわね」

「しゃーねー。ウチの軽巡以下の艦艇は装甲や船体構造が脆い上に、大正の頃の艦が多いんだ。向こう側だと、開戦時の駆逐艦と乙巡は根こそぎ潜水艦や航空機に血祭りにされてる。水上艦とやれた名誉に預かった艦は案外少ないんだ。戦艦の護衛をしてりゃ、被害も出るさ」

黒江はすっかり21世紀以降の江戸っ子的言動になっていた。そもそもの彼女の出自が薩摩であるのを考えると、可笑しくなってくるほどだ。語尾もすっかり男性的になっており、歴史改変前に「〜わよ」などの女性言葉を使っていたことなど想像もつかない。武子はそれを覚えている一人なので、可笑しくなった。

「フフ、すっかり変わったわね、あなた」

「オメーは昔を覚えてるからやっかいだぜ……。敵機の反応もないし、しばらく上空で見物と洒落込もう。新藤達には対艦ミサイル装着と補給に戻らせてある」

「用心してるわね」

「いきなりフリッツXとか撃たれるかもしれないからな。用心に越した事ねーよ」

「便りにしてるわよ、綾香」

武子も念を重ねる黒江を信頼しているのが窺えた。扶桑海事変での『恩義』もあり、武子は自分より年上である圭子と黒江に相談する機会が増えていき、(智子はあくまで背中を守り合う仲間扱い)空軍移籍後は幹部になった事もあり、政治的相談も多くなっていく。その度に的確にアドバイスをした事から、黒江と圭子は『飛行六四戦隊影の実力者』と恐れられたという。ここに大和はその咆哮をドイツ海軍に叩きつけたのである。





――ここからは、ある余談


ウィッチ世界での数十年後、大戦中の自らへの、後輩達の間での評判に、少将として小松基地司令に着任した黒江(容姿は飛天御剣流の心得があるおかげで、容姿は年と不釣り合いな若々しさを保っていた。なお、この時期でも現役で飛んでいる。年齢は五十路に達するまであと数年との事)は思わず笑った。未来世界が戦乱期を終えて10年が経過した頃の雑誌のインタビューにこう答えている。

「不思議な事だが、こう見えて五十路間近だ。かの比古さんみたいな事になっちまったが、私の戦友達は殆どがこの状態だ。宮藤なんて、下の子供がウィッチになったとか聞いたな……。あいつの頼みで娘の名前はあかせないがね」

「それでは、宮藤芳佳大尉はもうお子さんがお生まれに?」

「そういう事だ。長女はもう16歳になったと思うが、実家を継ぐつもりらしいから、次女が軍人としてのアイツを追っかけると意気込んでるって、任地からの手紙が来てる」

黒江の言葉からは、芳佳らには既に大戦中の自分らと同年代になった子供がいる時代であるのが窺える。黒江自身に子がいるかは本人が明かしてないために不明であった。ただ、同インタビュー中で「シャーリーから『バカ娘の無鉄砲さに手を焼いている』って連絡があった。お前も似たようなもんだっただろと返してやったぜ」と話していたことから、シャーリーの無鉄砲さと明るさは娘にも受け継がれた事が明かされている。シャーリーは未来世界でも人気があったのと、本人がオープンな性格なので、細かい事情に言及してもいいと言われていたのだろう。また、彼女も往年の容姿を保っており、テストパイロットとして、第3世代ジェットストライカー『F-4』を始めとする機体を乗りこなしていること、1947年頃にベルX-1で『公式に音速を超えた』ことが明らかとなった。






――この頃には、統合戦闘航空団のウィッチ達は初代メンバーの子供世代に移り変わっており、この時期の501司令はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの子が任命されたのを始めとして、往年のメンバーの実子が複数所属している。中には姪っ子なケースもおり、バルクホルンが相当する。妹のクリスの子が所属し、伯母に引けを取らない素養を持つと評されている。往年のメンバーの中には、軍退役後に別の職業についたものもいるが、ペリーヌは母国で政治活動を行う傍ら、慈善活動に力を入れている事がインタビュー中に流れたTVニュースに報じられていた。501の全ての人員が軍に残ったわけではない(リーネは本質的に軍人でない故、周囲への義務を果たした後、中尉で1950年代に退役したとの事)が、戦う力を維持し、いつでも前線に戻る決意がある者、子、あるいは姪に戦いを託して、平和な日常に生きる者とに道は分かれたが、それぞれの思いは変わらない。

――『退役して、もう何年になるけど……もしまた大戦になったら、芳佳ちゃんがピンチになったら、私はもう一度飛ぶつもりだよ。チャーチル首相が死ぬ前に気を利かせて、退役しても、予備役扱いに留めてくれたから。大人になって、お母さんになっても、私は芳佳ちゃんの友達だよ』

これは当時、既に母となって家庭を築いていたリネット・ビショップが宮藤芳佳に宛てた手紙だ。リーネは軍を退役して5、6年後に女子を出産。この時代では三児の母となっていた。だが、ウィッチであった故、容姿は20代までと比べても変化はそれほどなかった。いざとなれば銃をとって戦う決意を捨てていない表れであった。

――世代が移り変わってもウィッチ達の戦いは続く。この時代に、黒江、芳佳、シャーリーらは新たな戦いに赴くことになる。ガリア領インドシナ、つまりベトナムにネウロイが前戦役より10数年ぶりに出現したからで、黒江達は後輩たちが敗れ去った、その戦場に送り込まれる。そこで往年の冴えを見せつけ、501統合戦闘航空団の往年の威力を後輩たちに実感させることになる…。



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