――ミッド動乱中、武子は歴史改変前の記憶を、自らの強い意志で維持したため、久しぶりに同僚となった黒江の『変化』を智子と居る時に話していた。

「智子、綾香のことなんだけど。あの子、前から変わったと言おうか、子供っぽくなったっていうか」

「あの子がそれを、心のどこかで望んでたのよ。圭子が親類に確認取って調べてくれたけど、あの子の本当の姿はね、さみしがり屋なのよ。ものすごい」

「さみしがり屋?」

「そう。小さくなった時に、心の奥にしまいこんだはずの心が表に出てたって感じ。それで、未来で生きる内に、恥も外聞もかなぐり捨てて生きることにしたから、今の性格になったのよ。それと仮面ライダーストロンガーの城茂さん、いるでしょう?」

「ええ」

「未来に来て間もないころに、あの人に助けられたのよ。その時の茂さんがとてもカッコよく見えたみたいで、あの人のバイクショップに入り浸ってて、とうとうオートバイ買っちゃったのよww」

「通りで、最近はシャーリー大尉と話してるのを見かけると思ったw」

「シャーリーとはオートバイ仲間になったみたいで、この動乱の前の休暇の時に、東名高速から首都高速までかっ飛ばしてきたとか言ってたわw」

「そうか、あの子がオートバイに入れ込むのみて、なにかあると思ってたら、そういうことねww」

「ええ。釣り以外の趣味見つけて、今じゃ色々と手出してるわよ。最近は邦佳と一緒に、金曜に映画を見に行くのが楽しみだって言ってた」

「なるほどね。その当人はいないけど、今頃はどこかの世界ね」

「ええ。武子、今日の任務は?」

「ロンド・ベル隊と共同戦線よ。ロンド・ベルの小隊と現地で合流、座標は廃棄都市区画よ」

「了解」



――現地でロンド・ベルと合流したのだが、それは智子に取っては久しぶりの面々だった。

「あれ?ケーンさんたちじゃないですか」

「オッス、前の時にちょろっと会っただけだったね。久しぶり」

「何せ俺達、あの後すぐに次期主力メタルアーマーの開発のテストに回されちゃって、君らと親しくなる間もなかったからなぁ。原隊に復帰できて何よりだけど」

「そうそう。連邦でメタルアーマーのエースは俺たちだけだしね」

――メタルアーマー。かつて、連邦に挑んだ月面都市の国家「ギガノス帝国」が生み出した兵器である。メタルアーマーはMSに航空機要素を追加したような機能の機体が多く、MSが普及している連邦では主流とは言えないが、地上では航空機とMSの任務を兼任させられるのと、見かけによらず、強力な電子装備を積める利点から、ギガノス戦役以降も運用されている。だが、運用数の絶対数が少ないため、エースパイロットはケーン・ワカバとその親友達だけだ――

「どうして、絶対数が少ないんですか?」

「MSの生産ラインを使えるって利点があるんだけど、リフターつけた時の速度がマッハ1くらいだから、要撃任務には向いてないんだ。それが空軍と海軍の採用のネックでさ。それに、VFの性能が上がってるから、開発もスローペースだしね」

メタルアーマーは飛行機能をリフターで実現したのだが、VFが急激に高性能化した事もあり、あまり重視されていない。MSよりは安価であるので、需要はあるのだが、新型の開発はスローペースであった。

「一応、俺達はここで次期主力機用のリフターのテスト中なのよ」

「そう言えば、翼の形が変わってますね」

「マッハ1.5以上の速度を安定してだそうとして、作った試作型らしい。センサーをちょっち外して、肩の装甲の形も変わってるよ」

「あ、本当だ」



「飛行姿勢が倒せるようになったのと、胸のフェアリングで、速度と安定性も増したよ」

推進力が増強されているらしく、スラスターが大型化されていたり、機構も変更が加えられており、MSでいうバインダーのように、ある程度、角度を変えられるようになっている。機動性の向上を狙ったらしい。これはDシリーズの内、D-1カスタム、D-2カスタムのみの装備だ。

「D-3は変わってないように見えますけど?」

「D-3はソフトのアップデートが主だからね。直接戦うわけでもないから、ハードウェアはそれほど変わってないよ」

「このご時世に珍しい電子戦機ですもんね、ライトさんのは」

智子は、ケーンたちには敬語を使っていた。ロンド・ベルでは、ケーンたちが先輩にあたるのと、智子が赴任時、既に彼らはエースパイロットとして不動の地位を築いていたからだ。

「今日は、相棒の綾ちゃんはどうしたんだい?」

「フェイトのお守りで、別世界に行ってます。圭子は、基地で後輩を寝かしつけるのに手間取って、出撃が遅れちゃってw」

「ケイちゃんは保母さんだからな。君の後輩達って、綾ちゃんみたいなの多いのかい?」

「ウチだと、あの子と直枝くらいかな?添い寝してくるの。両方悪意がないから、追い返せなくて」

「ああ、わかるそれw」

ケーン達は大笑する。智子が、寝ぼけて部屋に入ってきた、若返り直後の黒江を追い返せずに、渋々と部屋に入れたのを目撃していたからだ。

「あの時、智ちゃんの顔、赤かったもんね。確か『おねーちゃん、一緒におねんねして〜』とか言われて、『なぁ!?』とか……」

「け、ケーンさん!ん、もう!あの時はどうしていいかわかんなかったんですよぉ!ぐずられたらめんどくさいし、かと言って、普段と全然、キャラが違ってたし!」

智子が赤面しながら言う。黒江が初めて添い寝してきた夜のことを。キャラが全く異なる黒江に、『なぁ!?』と戸惑い、ぐずられると面倒なので、仕方なく、添い寝してやった。次の日の朝に見てみると、自分の手を握って、幸せそうに寝息を立てている、当時、13歳相当の肉体の黒江。智子は大パニックになり、赴任間もない圭子に相談したが、圭子は最初は信じてくれなかった。智子は半強制的に圭子を自室に泊まらせ、実証したのだが、黒江の子供子供した振る舞いは、まるで別人のようであり、圭子をして、『信じられない……』と絶句させた。圭子が後日に親類に確認を取り、(智子も、後に確認するが)黒江の隠れた深層心理を知り、納得。智子と黒江を同室にするように、ブライトに進言。ブライトも採用するのである。


「あ、話聞いたけど、この間の模擬戦で大暴れしたんだって?」

「ああ、あれですか?殆ど、綾香ですよ。あたしはいいところが殆ど無くて――」





――ハルトマンはこの頃から気苦労が多くなってきていた。人同士の戦争により、ミーナが上官のガランドと水面下で対立し始めたからだ。ミッドが、『子』や『孫』の故郷である事もあり、バダンへ情け容赦ないガランドと、あくまで『人ならば、話し合えるはず!』とするミーナとがぶつかりあい、議論は平行線であった。ハルトマンは二人の間を取り持っていた。双方が感情的になる事もあるため、ハルトマンが間を取り持ち、バルクホルンと共に現場を仕切っていた。

「あ〜、もうやだ〜!トゥルーデ、どうにかして〜!」

「ミーナはこの戦いには向いておらん以上、私達がどうにかせねばならんからな。閣下は閣下で、苛烈な指令を出される。あれではミーナが反発するのも無理はない」

バルクホルンはどちらかというと、ガランド寄りの心理だが、ミーナの理解者でもあった。そのため、根っからの職業軍人(ミーナは音楽畑からの転向なため、軍学校入校も開戦後である)であるバルクホルンやハルトマンが汚れ仕事を引き受けていた。ミーナはウィッチとしては稀有な才能を持っているが、軍人として見ると、『時に、合理的判断が出来ない場合がある』。これはウィッチにはよくある事で、芳佳のように、万事うまく行く事もあるが、大抵はその逆だ。ミーナは運悪く、時勢が対怪異から対人に移り変わる時代に生きる事による運の悪さ、恋人を失った経験のトラウマから、特攻や自爆などの自己犠牲を嫌うため、仲間を救うために、温存すべき兵力を使ってしまう事を、ハルトマンは気づいていた。

「特攻にしたって、今は脱出してるんだよなぁ。昔の桜花や回天じゃあるまいし。あれが元祖だけど、あれは極端な例なんだって」

「ミーナは、クルトの一件以来、坂本少佐の死に急ぐような行動や、連邦軍の兵士達の自己犠牲精神に拒否反応示すからな……。この前、坂本少佐に電話してて、突然怒鳴るから、何かと思ったよ」

「あー、坂本少佐、物騒な事言うからなぁ。侍かぶれなんだから」

坂本は『武士』にかぶれている。そのため、スリーレイブンズも『生きる時代間違ってるよ、お前』と突っ込んでいる。スリーレイブンズは『使えるものはなんだって使え!』な行動原理であるが、坂本は近世の士道にかぶれているため、その点が異なる。言うなら、坂本は平和な時代の武士、スリーレイブンズは戦国の世の武士だ。坂本とスリーレイブンズはその点で違うのだ。

「この間に初めて会った、少佐の先輩達とは違うのか?」

「あの人達は、『戦国の武士』だから、坂本少佐の士道とは別の域だよ」

「どこがどう違うんだ?」

「うーん。実戦向きか、平時の心構えの差っていう感じだね。ミヤフジを本国で鍛えたのもあの人達だしね」

「宮藤を?」

「新型ストライカーのテスト中に、宮藤の家に落っこちたのが縁で知り合ったんだって。で、ミヤフジが坂本少佐の弟子だからって聞いて、あの人達はその少佐の面倒を見てたから、そのまま親しくなったそうな」

「つまり、あの人達は坂本少佐が新兵だった時のエースなのか?」

「そそ。その当時で少尉から中尉だった世代のウィッチで、私らより相当離れた先輩だよ」

――スリーレイブンズは、ハルトマン世代から見ると、最年長の圭子でほぼ一回り違う。1945年初頭当時に古参となっている、20年代中盤世代が入隊し、育ち始めた頃に圭子が、全盛期を迎える頃に黒江、智子が上がりを『迎えていた』。その為、スリーレイブンズの『伝説』も、ハルトマン達が『油がのっている』この時代になると、大半が伝説もレベルで、誰かどうかを知らなかったりする。そのため、ガランドが『おお、君らが復帰してくれたとは!!』と大喜びである様子を理解できない現役ウィッチも多く、ガランドが『馬鹿者!』と、珍しく怒る姿を見せた。

「しょうがないけどさ、古参が多めのうちの隊でも、ガランドしか扶桑海事変を見てないしね。あの人達の事が誰だかわからないのも分かるよ」

「お前は知ってるのか?」

「シャーリーと同じく。坂本少佐が頭上がんない関係の人だよ。北郷大佐とは、また違った関係のね」

「……帰ったら、クリスに聞こう」

「あとで腰抜かないでよ、トゥルーデ。ただのエースじゃなくて、異名持ちなんだから」

――その言葉通り、バルクホルンは、後にクリスにマルセイユのサインを頼まれた時に、スリーレイブンズの詳細を知り、大いに腰を抜かすことになる。その時は、VFをわざわざ動かして、療養中のクリスに会いに行く事になるのだった。まさか、その『坂本の先輩』が、スリーレイブンズ伝説を作った張本人であるとは思わなかったのだ――




――フェイトと黒江がいなくなる前の日のこと、44戦闘団の模擬戦が、64戦隊との間で行われたのだが、結果は64側の優位に終わった。黒江がライトニングプラズマを放ち、44戦闘団のハインリーケ・ベーア(ハインリーケ・ベアとも)、リーケ・ザクセンベルクを一蹴するなどしたためだ。

『喰らえ!流星拳――ッ!!」

ハインリーケ・ベーアの挑発に怒った黒江は、流星拳を繰り出す。挑発が度を過ぎていたためにいたぶる方向で技を使ったのだ。もちろん、ベアたちに見えない速度ではないが、ユニットの速度がレシプロである都合、音速拳は受け止めるしか無く、黒江はじっくりといたぶる。流星拳を使う時には小宇宙を使い始めたため、ユニットは排除した上で、圭子に渡していた。こうなると、黒江は最低でも音速移動が可能となるので、ユニットが『枷』であるかのような動きで、空中を闊歩し、二人を圧倒した。そのため、圭子は額を抑え、智子に至っては『あ〜あ、どうなってもしらないわよ…』と諦めムードだ。

「ほれほれほれ!さっきまでの威勢はどこ行った、ガキ共!年上を舐めるんじゃねー!」

流星拳の速度が音速を超え、マッハ4を超える。こうなると、ベアのシールドの魔法陣が乱れ始め、シールドごと押され始める。

「ならば!」

リーケ・ザクセンベルクがアーミーナイフを使い、黒江の隙を作ろうとするが、聖剣を宿す黒江には、何と手刀で受け止められる。

「そんなナイフで私を狙おうなんざ、百万年早い!!」

ナイフの刃先に罅が入り、ザクセンベルクは瞠目する。同時に、黄金のオーラが黒江の右腕を包む。

「さて、そのナイフは折らせてもらうぜ!!」

その瞬間、エクスカリバーのビジョンを幻視するザクセンベルク。魔力で強化された刀身を、更に強大な力でへし折ったという光景は、ザクセンベルクを驚愕させた。そして、指をポキポキと鳴らし、ニヤリと微笑う黒江。

『ガキ共、特と味わえ!これが、伝説のスリーレイブンズが筆頭の力だぁ!!』

流星拳の速度が一気に速まり、光速に達する、流星は一気に多くの光に分かれ、二人を撃ち抜く。シールドはこの領域に達する前に、弾けるように貫かれ、光速の段階では、直撃を逸らす程度の効果しかない。光速の段階で、技は流星拳から変わる。その瞬間、二人は獅子が吼える幻影を見た。


『おーし、最後はバシッと決めてやる!私がロートルかどうか、その身で味わえ!ガキ共め!!……我が拳に宿れ!獅子の魂!!ライトニング・プラズマ!!』

もちろん、殺さない程度に威力は抑えているのだが、ウィッチ達の多くはライトニングプラズマの軌跡すも視認できない。そのため、両名は『眼の前にライオンの幻影が現れ、パーっと光が広がって、目の前が暗転して、気がついたら地面にいた』と語っている。二人としては『ロートルを脅かしてやる』という感覚だが、黒江を怒らせるのには充分。黒江は『おーし、ロートルかどうか、その身で味わえ、ガキ共!!』と宣言、流星拳でいたぶり、最後はライトニングプラズマを放ったのだ。それは64Fの同僚も大半が初めて目にする闘技であり、光の軌跡が相手を撃ち抜き、吹き飛ばすなど、ウィッチの常識を超えていたからだ。

「先輩!?」

当時、既に64と行動を共にしていた雁渕孝美は驚きのあまりに固まる。

「あーあ、言わんこっちゃない」

智子は額を抑え、呆れ顔だ。だが、筆頭と黒江が言い放ったことは不服なようである。44の中でも熟練者とされる二人を一蹴したわけだが、智子はすぐに黒江に文句を言う。

「あんた、何言ってんのよ!五十音でもアルファベットでも穴拭のあ、Aで私が筆頭でしょ!?『Kuroe Ayaka』で、K!あたしはAよ、A!!」

「連合で一般的なW式なら、名前が先に来るから綾香で私が先だ!(えっへん)」

ドヤ顔で、えっへんとふんぞり返る黒江。智子と妙なところで張り合うので、雁渕はクスリと微笑う。。

「黒江ちゃん、締めすぎて壊さないでよ?」

「馬鹿はいっぺん絞めねーとなwww」

と、圭子に笑う黒江。智子のほうも、文句を言いつつ、模擬戦に参加したハルトマンと渡り合う。互いに、当代最高級のウィッチと謳われた者同士であり、ハルトマンも刀を使い始めたため、(バルクホルンはミーナの護衛任務で不参加)智子と互角であり、一撃離脱の使い手としては、ハルトマンのほうが上であり、智子はハルトマンに押され始める。

「ならっ!!ストライカー使ってる状態だけど、これを!」

ハルトマンの平突きを払い、一旦距離を取る。その瞬間、智子が胸にしているペンダントが光り、剣の柄が形成される。それを引き抜く。

「あーーー!それって、もしかして、マジンカイザーの!?」

「そう。カイザーブレードよ!!これを抜かせたのは、カールスラントじゃあんたが初めてよ、エーリカ!」

バーンとカイザーブレードをかざす智子。形状から、マジンカイザーの剣である事を判別したハルトマン。

「でも、それ、ファイナルブレードじゃん。大ぶりの。小ぶりのショルダースライサーじゃないから、こっちが有利だよ!」

智子のブレードは大ぶりな『ファイナルカイザーブレード』を模している。そのため、甲児が時たま切り替える『ショルダースライサー』には変形出来ない事を見抜き、手数で押す。智子は大振りの剣につきものの破壊力で押す。格闘の地力は智子に有利なため、ハルトマンはシュトゥルムを併用した、ある技を用いた。

「はぁぁぁ!!」

「なっ……!?」

ハルトマンは、シュトゥルムを併用し、この時に初めて『牙突』を使った。空中で使用したため、地上ほどの突進力は見込めないが、それでも、智子を驚愕させ、心胆を寒からしめるのには充分だった。

「あ、あんた、どこで牙突なんて……!?」

「あたしの秘中の秘さ。さて、刀はともかく、ソードの扱いには慣れてないと見える!勝負!」

ハルトマンは、刀とソードの違いを飲み込んでいないであろう智子の痛いところを突いて攻撃し、智子はソードの扱いに慣れていない事もあり、更に苦戦する。

「あれがハルトマンの今の戦闘術か……。あの穴拭大尉を圧すほどとは」

「智子は刀の扱いは一流ですが、『西洋剣』はそれほど熟練していません。そこがハルトマン中尉の付け入る隙なのです、閣下」

地上で様子を観察しているガランドと武子。二人は気心の知れた仲であるので、お互いに立場は変わっても、『戦友』なのだ。


「くぅぅ!このあたしをなめんじゃないわよ!!」

智子はソードの使い方をよく理解していないという弱点を突かれ、当代屈指の天才であるハルトマンに押されぱなしで、いいところほぼ無しであった。

「こうなったら!!こっちだって突きをやってやる!!強度はこっちのほーが上よ!!超合金ニューZαなんだから!」

と、いう思考に至るところが智子らしいと言える。柄や鍔での打撃に、全く考えが及ばないのが、智子が日本刀に慣れすぎている表れでもあった。

「あの子にできて、あたしに出来ないこたぁないわ!!」

カイザーブレードで牙突をしようとする智子。カイザーブレードは大ぶりで重いが、当たった場合の威力は上回る。智子はそれに賭けた。


「あの馬鹿、柄や鍔での打撃に切り替えるって発想ないのかよ」

「穴拭先輩は負けず嫌いですね」

「昔からだ。なんでも張り合うんだからな、あいつ」

黒江も呆れ、雁渕もそう評した、智子の性格。元来、負けず嫌いである故、いらん子中隊在籍時にも、そのようなことは多々あった。それが『智子らしさ』と言えた。結果は……。


「――って事があって」

「なるほどね〜、お、来たようだよ」

『ごめんごめん、遅れちゃって』

「圭子、あんた、どういうガンダムに乗ってきたの?」

『ガンダムマークVの予備パーツを組み上げて、フルアーマーのテストに使ってた奴だって』

「アナハイムの道楽だな、こりゃ」

「どーいう事ですか?」

「アナハイムってさ、ここ10年くらいの間、財力に物言わせて、ガンダムをポンポン作ってるのよ」

「そうそう。エゥーゴ時代だけで、それこそ15機近く作ったって言うしね」

――アナハイム・エレクトロニクスは、グリプス戦役以後、ガンダムタイプを『新技術のテストベッド』という名目で作っており、メカトピア戦争直後のこの時期に至ると、当時に完成したばかりのΞを入れると、相当な数になる。

「本当はなのはのZZを借用したかったんだけど、管理局の技術部が研究のために持っていったところだったから、アナハイムの補給物資からもらってきたわけ」

FAmk-V(正確に言うと、試作三号機相当)から降りてきた圭子が言う。カラーリングは式典に駆り出されていた時から変えてないらしく、軍用機にあるまじき『ド派手』なカラーリングで、騎士のようだ。

「フルアーマーを急いでしてもらったんだけど、本体が目立つのよね〜」

「んじゃ、全員揃ったし、行きますか!」

――なのはのZZは、当然ながらバリバリの質量兵器であり、管理局の建前上、実に不味い。そこで、レイジングハートによって、ある程度の制御が可能な『魔導』兵器であるとする言い訳を正当化しようとする案が管理局から出された。モビルドールの例がある連邦とで議論が生じたが、レイジングハートは『制御の補助AI扱いである』と、シャリオ・フィニーノが連邦側を説得し、どうにか承諾を得た。これはミッドチルダ人が『インテリジェントデバイス』などのおかげで、AI制御に抵抗感が無いのに対し、連邦側は幾度となく起こった『無人機の暴走』事件や、シャロン・アップル事件に加え、トレーズ・クシュリナーダ、東方不敗マスターアジアなどが『デジタルコンピュータ制御兵器』を嫌い、兵器技術者達も『血を流さない戦争はゲームに過ぎない』と考え、それが根付いてたためだ。シャリオは、連邦側のアレルギーに等しい強烈な反応に戸惑った。これは双方の歴史的背景の差であると言えた。



――同じ頃、扶桑皇国も、この時期にテストがされていた、黎明期のジェットストライカーの二機種の命名で連邦軍からのアドバイスを得て、『〜光』に定める。これは第二世代までは続けられるが、第三世代以降になると、亡命リベリオンと同居することに抵抗感を持たない世代に世代交代し、自然消滅するのだが、この頃の事情として、自国の軍用機にリベリオンのカタカナ名をそのまま使うのにアレルギーがある、戦前世代の提督や将軍がいるための政治的措置であったからだ。他の意図としては、扶桑としては、『花のように咲く』という意味で名付けた名を、『花と散る』から不吉であり、忌々しい神風特攻隊を思い出すと言う、双子国の日本の自衛隊(公式の国交樹立以前は、極秘に武官が送り込まれていた)からという内容の提言が出されたのが原因だった。たしかに、日本海軍に桜花、橘花という特攻機があったのは事実であるが、扶桑、特に扶桑海軍としては、『従来機と根本的に設計が違うジャンルだから、ジャンルの開花を願ってつけただけなのに、鬼の首を取ったように言われた!!』と不満であった。これが、1945年秋の反乱に海軍航空ウィッチが加わる原因であった。『花』を推した当事者のウィッチらが、『命名権は私達のものだ!』と反発し、反乱軍に加わったのである。その反乱ウィッチ達は百戦錬磨の343空に殲滅させられたのだが、その343空のウィッチ達が身につけていたユニットは、彼女達が開花を願ったユニットの改良型であり、彼女達の願いは皮肉な形で叶うのだった。



――後に判明する事だが、別の可能性を辿った世界では、343空の隊長陣の関係は異なり、この世界では同期である菅野と雁渕は、教官と教え子(菅野が教え子)であり、共に戦った経験は無かったと聞かされる事になる。また、菅野も『管野』と微妙に名が違っていた他、性格も違う。その当人が現れた時、343空隊長としての経験を有する側の『菅野』は腰を抜かしたという。また、『管野』の方も、自分が可愛く思える『ウォーモンガー』たる菅野に驚天動地だったという。芳佳曰く、二人を現す言葉は、菅野は『バカヤロウ』、管野は『この野郎!!』との事。菅野は別次元の自分自身も思い切り引くほどのウォーモンガーであり、『コノヤロウ落ちやがれバカヤロウィ!』と機銃を乱射する姿を見せ、『ワレ、敵戦闘機を撃墜セリ!!ワレ、空軍64戦隊第一中隊『新撰組』が菅野直枝!!』と、ドヤ顔で戦果を報告するイカレぶりに、管野は『うわぁ〜!あのイカレポンチがオレ!?』と恥ずかしそうであったという。これは、『菅野』は、圭子と黒江を祖とする『戦闘狂』の系譜をしっかりと継いでいる事、前線部隊の更に先頭に立っていた事により、人並み外れた敢闘精神を持っているためだ。戦闘中は戦闘狂と言って差し支えない戦いぶりを見せる。そのため、管野はその姿に恐怖すら覚えたという。1949年頃の管野のコメントは、『あいつはオレであって、オレじゃねぇ。なんなんだよ!!あのイカレポンチヤロー!!』と引き気味だったという。


――ミッド動乱は、ウィッチ世界に於ける、その後の戦争のテストケースとなる戦いであり、MSなどを使用してのエアランド・バトルが扶桑で研究されたのも、この時期だ。そのため、扶桑空軍の原型となった、陸軍飛行戦隊が『借用』の名目でMSを使うのは当然の流れであった。

「でも、メタルアーマーっていいわねねぇ。こっちはサブフライトシステム使わないと、長距離移動しにくいのに」

「MSは宇宙生まれ、宇宙育ちの人間の手で造られた兵器だからですよ、ケイさん。メタルアーマーは地上を知ってる人間が作ったから、リフターが考えられたんです」

ジオン軍は、地球侵攻時に『MSの行動半径は地上では思った以上に小さい』という難点に気が付き、困った。そこでサブフライトシステムを考案した。当初は『爆撃機の胴体に乗っけてみた』だけだが、そこから発展した機体を指すようになった。当初からリフターで飛行機能があるメタルアーマーに、MSが劣る点はそこだ。

「なるほどねぇ。ウチはMSを買い始めたけど、そこは考えなかったわ」

「可変機はプロペラントの容量が多いから、行動半径も広いですしね。最近はVFからのスピンオフでだいぶ改善されましたし」

「通常型MSは違うの?」

「グリプス前後の機体だと、短時間のジャンプはできても、長距離移動は出来ない場合があるからね。可変機はVFからスピンオフし易いんですよ」

MSでも、通常型MSは長距離進軍には向かず、運搬する兵器を必要とする。mk-Vはフルアーマー化されている事もあり、割合、推進剤の容量は多い方だが、それでも節約のため、サブフライトシステムを使用している。そのため、リフターを使って飛ぶドラグナー三機もドダイ改に追従している。敵はジオン系を使っている都合、陸戦型MSが多めである。そのため、空戦能力を有するメタルアーマーは有利であった。

「よし、奴さんの電子装備は無力化した。お二人さん、奴等のド肝を抜いてやれ!」

「了解!」

D-2カスタムのタップがその重装備で爆撃を開始、圭子はサブフライトシステムから降りて、空挺降下を敢行。降下中に火器を一斉掃射し、防空担当のザクキャノンを沈黙させる。

「へっ、一年戦争の時の急ごしらえで、D-2を先制できるってのが大間違いだぜ!」

「タップ、一時方向にトーチカだ!盛大に吹きとばせ!」

「どすこーい!」

D-2のレールキャノンとミサイルが火を吹く。地上では、圭子がマークVを操り、接近戦で敵を打ち倒していく。マークUよりも格段に高性能であり、尚且つマークUにあった、装甲のネガを潰した発展型のマークVに対し、ジオン系地上MSの装備は大半が接近戦でなければ効果は無い。(ネオ・ジオンやティターンズ系であれば普通に通じるが、あいにく、旧ジオン系ばかりだった)

「このフルアーマーマークVと互角に戦いたければ、せめてドライセンか、ザクVでも持って来いってーの!」

圭子は、マークVにサーベルを持たせつつ、時たま徒手空拳で対応し、ドム系、ザク系MS達を流れ作業的に倒していく。圭子の戦闘に於ける癖にしっかりと対応できる能力を備えているあたりは、マークVの高性能とポテンシャルが分かる。(同機はマークUの発展型である割には、Z系のフェイスデザインだが、これはZ系の技術が各部に入っているためである。頭部デザインがRX-178やRX-78に近いパーツも用意されてはいたが、Z系のフェイスデザインが採用された)

「さすが、最良のフルアーマー!動きがいい!!」

マークVのフルアーマー形態は、フルアーマーガンダムの系譜から数えて、最もバランスが良いフルアーマー装備に分類される。装甲は歴代のフルアーマーより薄めだが、その分、軽量化されているので、歴代のフルアーマー(ダブルゼータのフルアーマー、V2アサルトバスター含め)のネガである『増加重量で鈍重になる』弱点を持ち合わせていない。むしろ推力向上やパワーの向上で機敏になっており、フルアーマー装備として『最高傑作』ともされる。

「クソ!!」

ザクF2型(この頃になると、特化型のJ型は数が減っており、F2型のほうが多いため、バダンも使用)達がMMP-80を乱射するも、フルアーマーマークVはスラスターで擬似的なホバー移動をし、火線を避ける。圭子はアフリカで陸戦を見ており、更に歴史改変時に『陸戦のエキスパート』という評を得たため、ジオン兵に比べ、練度に劣るナチ残党兵を仕留めるのは容易である。脚部のハイパービームキャノン、肩部ビームキャノンを一斉掃射し、敵を蹴散らす。

「そんな動きで、扶桑海の電光って言われた、このあたしから逃げられるかぁッ!」

意外に、リアルロボでもノリノリなところを見せる圭子。気風はスーパーロボ乗りだが、射撃戦主体のリアル系にも適応性を見せるのは、プロだ。

「よーし、こうなったら俺もいいとこ見せないとね!!」

D-1カスタムが加速し、地上へ急降下、レーザーソードをホルダーから引き抜く。スタイリッシュな動作である。

「ケーン、残りは隊長機だ!ぶった斬ってやれ!」

「おう!」

ドラグナーというと、大抵はこのD-1を指す。ケーンの活躍が有名になったためだ。敵の隊長機はドム系だが、装備はマシンガンである。当然ながら、D-1カスタムのシールドで弾ける。

『必殺!ドラグナー三枚おろし!』

D-1のレーザーソードは連結可能な構造であり、ツインソードに出来る。そのため、二刀流で腕部を両断し、そこからツインソードでとどめだ。

「残存部隊は撤退し始めたようだ、みんな。味方の設営部隊と、前進部隊には連絡したから、ここは帰投しよう」

「了解」

これは、戦線そのものには影響のない、小さな戦闘の『小さな勝利』ではあった。だが、ロンド・ベルの参戦をバダンに示す、格好の材料であった。圭子は以後、予備機として持ち込まれた、このマークVを乗機の一つにし、太平洋戦争でも愛機の一つにするのだった。同時に、連合軍に衝撃を与える大戦艦も華麗なデビューを飾る。



「おお、ついに来たか、『ヒンデンブルク』!」

視察している暗闇大使を喜ばせる(彼の本心からすれば、お世辞だが)大戦艦『ヒンデンブルク』。予算請求上はH42級三番艦だが、実質的にはH43級戦艦に分類される。名前の縁起はよくないものの、ドイツの偉大な人物の名を持ち、H級戦艦の強化型にふさわしい威容を持つ。その戦艦は華々しい式典と共に登場し、『大和型を超える』とアピールされた。そういうプロパガンダは彼の得意な分野であり、扶桑軍は反撃のプロパガンダとして、『超大和型戦艦の量産の決議(本当だ)と、移動要塞たる三笠型の存在を明らかにする。これらプロパガンダの応酬と、大艦巨砲主義の極致を極める戦艦合戦に、扶桑で『国防大臣』のポストが内定していた井上成美は理論の研究中、その報に呆れ果てたが、彼が信仰した空母とて、ジェット戦闘機の登場で加速度的に大型化する未来が待っているため、その分野でため息をついたという。


――超大和型戦艦の次元に突入する、バダンと扶桑の建艦競争。連邦軍の介入で反攻が少しずつ始まる中での競争は、『あり得たかもしれない』日独戦艦決戦のさらなる狼煙を上げるのは『ヒンデンブルク』号。それに対抗すべく、建造計画がなされる超大和型戦艦量産タイプ。ヒンデンブルク号の脅威が呼び込んだ『超大和型戦艦の量産』という事実は、後世にこう記録される。『ヒンデンブルクショック』と――

――連邦軍が主導して拡充した、扶桑本国のドックで建造が始められる大戦艦群。第二世代大和型と呼ばれるそれは、史実でなし得ない『大和型の量産』の実現でもあった。それらの仮想敵はヒンデンブルクであったが、完成は1948年以降を見積もられており、途中で改モンタナ級へ仮想敵が切り替えられる。これは太平洋戦争が差し迫ってきたためであり、その戦争で量産されるであろう『改モンタナ級』に脅威を抱いたからだ。そのため、最初は装甲を一枚板として建造される計画を、土壇場で複合装甲式に変更するなどの経緯を経て、次期戦艦は日の目を見る。日本からは信じられないような『大艦巨砲主義』的な経緯だが、核兵器がない世界の海の王者は戦艦なのだという事実の証明であり、これが日本と同じ時間軸におけるアメリカに、あることを決意させるのだった。



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