※番外編は本編とは別の時間軸なので、ご注意を。


 

―西暦1999年 夏

ドラえもん達は鉄人兵団を倒した後はいつもの生活にもどっていた。この日は31度の真夏日で、ドラえもんは部屋でアイスを食べていた。

「暑いなぁ……寒いのもダメだけど、暑いのもダメなんだんだよなぁ。僕」

部屋の外からはのび太がランランと電話で雑談に興じている声が聞こえている。相手はしずかだろうか。
いや、しずかは昨日から家族で旅行に出かけている。それじゃ誰だろう。

『いやあまさか君がこっちに来るなんて……』
『連邦の人に無理言って送ってもらったの。久しぶりに会うからって』
『そう。それでこの子の護衛を私がしてるの』
『その声は少佐ですね?ご苦労様です』

のび太と雑談に興じている電話の声の主はフェイト・T・ハラオウンと加東圭子であった。フェイトは時空管理局執務官としての任務を兼ねてのび太達の時代へやって来たのだが、途中で地球連邦の要請で護衛をつけることになった。フェイトは黒江綾香に護衛を依頼したのだが、黒江が『悪い、その日は新型の量産型ジェットストライカーの最終テストで抜けられないんだわ』との事で都合がつかず、黒江がその代わりにと推薦したのが元同僚で、気心も知れてる加東圭子であった。黒江が前もって連絡をしておいてくれたおかげで話もスムーズに進み、護衛を引き受けてくれたのである。(これは加東圭子自身も未来世界での任で特に配属先は決まっておらず、手空きであったので連邦軍や連合軍も護衛として派遣することに特に異論は無かったせいもある)

『それで2人ともあとどれくらいで家に?』
『前の時に住所聞いておいたから、あと30分もあればそっちに行けると思うよ』
『わかった。それじゃまた』

のび太は電話を切ると慌てて母親の玉子のもとへ走る。客が来るので大慌てだ。

「ママ〜!」
「なんですのびちゃん、騒々しいわね」
「僕にお客さんが来るからお菓子とか用意したいんだけど、どこにあるっけ」
「台所の戸棚にどら焼きと草餅があるわよ」
「ありがとう」
のび太は慌てて戸棚のお菓子を取りに行き、バタバタと2人を迎える用意を進める。
ドラえもんは「なにやってんの」といったが、のび太が事情を説明するとドラえもんも加わって用意を進めた。玉子はたまたまではあるが、生け花の習い事で家から居なくなった。(ドラえもん曰く何流かは忘れたけど一流の流派との事)

「実は僕もドラミを呼んどいたんだけど、いいかな?」
「いいんじゃない?この際人数が多いほうが」

なんとか30分かけて準備を整え、後は2人が来るのを待つだけだ。タイミングよく声が来聞こえてくる。フェイトの声だ

「やあ、いらっしゃい。大きくなったねフェイトちゃん」
「うん。もう高校生だからね。当たり前だよ」
「ハハっ、それもそうだね。少佐もお久しぶりです」
「そっちも変わりないようね」
「どうしたんですか、グンニャリしちゃって」
「実はね……」

扶桑陸軍の正式正装である巫女装束と小具足姿の加東圭子は来るまでにグンニャリする出来事があったといい、その出来事の顛末を説明する。電車を降りて2人で町内を歩いていたのだが、フェイトはともかくも、圭子が持っている得物がまずかった。それは彼女が護身用に持ち込んでいたブルーノZB26軽機関銃であった。この機関銃は故障も少ないなどの利点で、旧・オーストリア=ハンガリー帝国の工場地帯であったチェコスロバキアが生み出した傑作銃と評価されている。歴史上でも大日本帝国陸軍が「我軍新鋭機銃」と言って支那戦線で鹵獲銃をそのまま利用したり、ナチス・ドイツも排莢不良などの故障が多いMG34の代用品として使用した記録が残っている。それを銃器にうるさいこの時代の日本に持ち込んだのだからただで済むはずはなく、野比家に向かう途中で職務質問されてしまったのだ。

「……ん!?ちょっと君、何だねその銃は?」
「いや、その……あの……」
「ちょっと交番まで来なさい」

巡回中の警官に交番に連れて行かれ、フェイト共々`ホビー店で買ったよく出来たエアガン`だと必死に誤魔化し、放免になった。だが、来ていきなり職質されてしまったので加東圭子は落ち込んでしまったのである。

「そりゃそうですよ、どこの世界にZB26を持って街をうろついてる巫女さんがいます?いないでしょ」
「うぅ……そうだけどさ」

それもそうだ。どこの世界に7.92 mm×57弾が装填された軍用機関銃を持って街をうろつく巫女がいるだろうか。ここに正確に言えば巫女ではないが一人いる……。

「まあ、とにかく家へ入ってください。暑いでしょう」
「それじゃお邪魔します」

のび太は2人を家に招き入れ、とりあえず2階に案内する。ドラえもんとも挨拶を済ませ、雑談に興じる。

「へえ〜フェイトちゃんは剣道部に?黒江大尉に憧れてたもんね〜」
「うん。この間の大会でベスト4まではいったんだけどね、最後に一本取られちゃって」

フェイトは中学進学後に剣の達人である穴吹智子や黒江綾香の影響もあって、剣道部に入部。高校進学後は高校一年の夏に学校代表の一人として大会に初出場。実戦で鍛えただけあって、学校をベスト4まで導いた。準決勝戦でまさかの一本負けを喫したもの、相当もつれ込んだので名勝負として記録されたという。のび太はフェイトが負けるとはと意外そうな顔をする。

「今年こそ優勝するつもりだよ」

それは彼女がたどる本来の歴史ならば有り得ない光景。ある意味ではありえたもう一つの可能性。ここにその流れを辿った場合の彼女がいたら羨ましがるのは間違いないだろう。

「少佐のほうはどうなんです?」
「私は智子や黒江ちゃんと違って、特別な任務には付いていないけど、時々扶桑出身のウィッチの教官として厚木や横須賀でヒヨッコ共を鍛えてるわ。本当は原隊へ戻りたいけどそうもいかなくて」
「ストームウィッチーズですね?スバルさんから噂は聞いてます」
「それじゃ話は速い。実はというと、マルセイユの事が心配なの。あの子にちゃんと部隊運用が出来るのか……機材の補給とか色々」

圭子は元の世界に残してきたストームウィッチーズの面々、特に我が強いハンナ・マルセイユの事が心配であった。成果はあげるもの、上官には嫌われやすい性格だからだ。(部下には慕われるが)
これは元上官のバルクホルンが「信頼できない部下」との評価を下している事からもわかる。特にモントゴメリーや阿南惟幾などの将官達には軍規違反の常習者と見られている。(誠実な人柄なので阿南惟幾はマルセイユよりだが)それが唯一の心配なのだ。

「まあ向こうには`マレーの虎`の山下奉文大将閣下や牛島満閣下がいるんでしょう?大丈夫ですよ」
「だといいけど」

圭子は草餅をほうばりながらそのことが気がかりなことだとドラえもんにいった。その杞憂は図らずしも的中していた。

「お〜い、のび太〜」
「あ、ジャイアン達だ」

のび太は玄関に降りてジャイアン達を応対する。ドタバタはこれからが本番だ。

 

 

「少佐、どうです?この時代は」
「そうねぇ……いろいろ驚いたわよ。芝と赤坂と麻布が合併して一つの区になってるとか、エッフェル塔みたいな塔がデーンと立ってるとか」

ドラえもんに圭子はこう答えた。
加東圭子の故郷の世界では明治期の行政区画が存続しているのと、東京都自体が発足したばかりなので特別区が35区という細かいモノ。
それを知っているので特別区が23区に再編されたこの時代での地理に苦戦しているのだ。(戦中までの知識しか持たない人間が大きく様変わりした後の時代である、90年代に行けば混乱するのは当然である。これはフェイトにしても同じで、フェイトにとっては一昔前にあたる時代なので、フェイトの常識も多少通じない面がある)

 

ここでのび太の故郷の時代について説明する必要があるだろう。

−1990年代末。当時はバブル崩壊以降の悪い空気が継続し、後の`失われたX0年`の第一期が終わろうとしている頃で、文化的には音楽では`モー◯ング娘`が最盛期を迎え、`Jポップが活気がある`時代の最末期に入っていた。漫画雑誌は週刊雑誌のマ◯ジンが黄金期。80年代の熱気を失ったジ◯ンプに代わってこの時代の覇者として君臨し、ミニ四駆のブームは第二次の末期であった。政治的には相変わらず戦後体制が形を変えながら続いていた(ただし1990年代中期に一度変わっていた)。のび太が暮らしているのはそんな時代だ。

 

「東京タワーですね?登りました?」
「もちろん。年甲斐もなくはしゃいじゃってね、部下たちには言えないわ」
「少佐、東京タワーみやげ買い込んでましたしね……相当」
「当たり前よ。元の時代じゃ絶対に買えないし……」

そう。加東圭子は1945年時点で25歳を迎えている、れっきとした`大人`だ。肉体こそ若返ったが、その事は自覚している。しかし東京タワーの展望台の景色に思わずはしゃいでしまい、みやげを相当買い込んだ。しかし仲間たちには絶対に見られたく無いと自身が言う程のはしゃぎかたはいっぺん見てみたいものだ。

「それでここに来るまでに他に寄ったところは?」
「そうねぇ……。セブンイレ◯ンにロー◯ンとか。からあげ◯ンは最高ね」
「でしょう?僕も好きなんですよ」

ドラえもんはここで意外な嗜好を見せた。ドラえもん達ももちろんコンビニはよく行く方だが、おにぎりなどの味などで店を使い分けている`通`の部類に入る。ドラえもんはどちらかと言えばロー◯ン派らしく、からあげ◯ンが好きなようだ。隠していたどら焼きを食べながら言う姿は実に愛くるしい。

「本当好きだねぇ、ドラえもん。ドラ焼き」

フェイトがドラえもんに言う。もはやフェイトにとっても当たり前となった光景であるが、久々に見ると`あの時`の頃に戻ったような感じになれる。なのでおみやげにドラ焼きを買っていたりする。

「うん。実はこの間商店街のお菓子屋の店主と口論になってね」
「え?何々?詳しく聞かせてくれる?」
「いいですよ。たいした事はないんですけど」

加東圭子に相槌を打つとドラえもんはその事を2人に話す。

「こう見えても僕、ドラ焼きにはこだわってるんです。」
「へえ。どんな?」
「`甘すぎるドラ焼きは邪道`!!これです。小豆の味を活かしてないのを見ると我慢出来ないんです。それで店主に抗議したんです」

ドラえもんのこだわりは`美味し◯ぼ`級であり、それはのび太も知るところだが、そのこだわりで商店街のお菓子屋の店主と口論に発展してしまったのだ。

『わしはこのドラ焼きの味に自信がある!長年の勘でつくっておる!!」
『でも小豆の味を生かせてないですよご主人!!僕はドラ焼きを愛してるんです』
『ええい、ロボットなんかにこのわしの苦心の味が分かるか!!』
『ロボットでも分かりますよ!!』

火花が出るような口論に商店街を歩く人々も注目する。

「あら、お菓子屋のご主人ともめてるのって、たしか野比さんちの……」
「ドラちゃんじゃない?あの子ドラ焼き大好きだから」
「ご主人も苦心して味を変えたって言ってましたから真っ向からぶつかってますわ」

(あれ〜!?それ以前に疑問に思ってよご主人!)
(つーか町の人達もごく自然に接してるし!!)

これにフェイトと加東圭子は思わず突っ込みたい衝動に駆られたとか。

 

 

 

 

 

−さて、野比家を訪れている加東圭子とフェイト・テスタロッサ・ハラオウンだが、野比家を訪れるもう一人の人物があった。
その人物は扶桑海軍のエースの一人で`リバウの魔王`との異名で知られる西沢義子飛曹長。容姿としてはショートカットに海軍のセーラー服姿の活発な少女といった感じである。ちなみに菅野直枝が姉御と慕っている人物でもある。彼女は2199年のメカトピア戦争末期に最終決戦でのび太らと共に戦った経験があり、今回は私用で野比家を訪れた訳である。

−野比家の玄関前

「あ、西沢飛曹長じゃないですか。どうしたんです?」
「オッス、元気してるか?今日は折角来たからお前んちに遊びに来たぜ。ん?誰かきてんのか?」
「フェイトちゃんと加東少佐が来てるんです」
「そういえばあの人達とも久しぶりだな。で、お前は何やってるだ」
「ジャイアン達と食料調達ですよ。僕は肉担当で……これから行くところですよ」
「おおそいつは面白そうだ。あたしもついてくぞ。食料は鮮度が大事だからな」

西沢はその二つ名の通りにウィッチとしては戦技無双を誇るが、分かりやすい弱点があった。それは胃の弱さである。各地を転戦して来た彼女だが、生来胃が弱いためか、ことさら食品の鮮度に五月蝿いのだ。のび太は西沢を伴って街へ繰り出した。

のび太の街−ススキヶ原−は1990年代末という時勢にも関わらず、昭和3〜40年代の高度経済成長期の面影を色濃く残す。それ故に東京都心部の喧騒を嫌った人々が引っ越してくることもあるとか。2人はいつもの空き地を通りすぎ、駅の近くのスーパーに入る。

「うわぉ……これが未来の店か……まるでリベリオンにいるみたいだ」

西沢は初めて見るスーパーマーケットに驚いている。当然といえば当然。現在の我々が当たり前のように使っているスーパーマーケットの形態は二次世界大戦後に広まったものである。日本で普及したのは1950年代以降の事なので、この光景は西沢には新鮮なのだ。

「肉はっと……」
「待て!!こういう肉は鮮度をよくみるんだよ」
「鮮度を?」
「そうだ。ハライタになったらどうすんだ?こういうのは重要なんだよ」
「そういうもんですか?」
「ああ。よく見とけよ〜」

肉のコーナで肉を選ぶのび太を西沢は制止し、自分で肉を選ぶ。こういう時の西沢の観察眼はピカイチであり、下手な卸売業者以上である。肉を片っ端から鮮度の僅かな違いを見抜き、新鮮なモノをカゴに入れていく。流石だ。次いで彼女が興味を引かれたのはこの時代には出現していたペットボトル入りの飲料。飲み物といえばビンが当たり前な彼女としては`新時代`の象徴を買わないわけにはいかなかった。炭酸飲料を中心に10本ほどカゴに入れる。

「金はあたしが払う。いいだろ?」
「ええ、それはいいですけど、お札、ちゃんと両替してます?」
「もちろんだろ。そうで無いと来ないって」

のび太が心配しているのは西沢の持ち合わせるお金だ。西沢がいる時代と1990年代ではお金の価値がまるで違うのだ。1940年代は銭や倫という単位があったが、1990年代ではそれはない。例としてあげると、大正時代や昭和のはじめでは一桁の円が1990年代などの1000円以上に相当する。それはのび太が以前にもしもボックスで行った実験や過去へのタイムトラベルでよく知っている。西沢はそれを払拭するように財布の中身を見せる。中にはしっかりと1990年代当時に流通していた紙幣が入っている。(2011年の我々の常識で言えば一世代ほど前の紙幣に当たる。記憶に留めている人々も多いだろう。)

「ふう。よかったぁ〜」
「あそこの役所っていい加減だからな。役人の奴、最初は`聖徳太子`とか渡しやがってさ」
「しょうがないですよ。あの時代になるとだいぶ資料も散逸してますから」

連邦政府設立から長い時を経た未来世界では多くの戦争の影響で旧時代の資料も多数が紛失している。それに古銭もだいぶ失われている。たぶん、西沢を応対したタイムトラベル関連の役所の役人はこの時代の紙幣を知らなかったのだろう。変な話だが。

「全部で4000円になります」

代金をレジで支払って、スーパーを後にする。2人の姿は傍から見ると、仲の良い高校生と小学生の姉弟か何かに見える。(西沢は海軍のセーラー服姿だが、この時代の日本の一般人の間ではセーラー服は軍服としてではなく、学生服という認識が一般的である)

「……さっきからなんか妙に周りの視線が気になるんだけど……なんでだ」
「日本海軍制式のセーラー服姿だからですよ。学生服としてのセーラー服とは違いますし」
「確かになぁ……あそこの婆さんなんて泣いてるしなぁ」

この時代の年配の人達には戦前・戦中の海軍のセーラー服姿の水兵を記憶している人も多いので懐かしそうに見ている老人も多かった。中には自分の青春時代の記憶と重なったのか、懐かしそうにセーラー服を見つめながら西沢に話しかける人もいたとか。結局、2人がジャイアン達と合流できたのは2時間後の事であったとか。

 


−ウェブ拍手へのお返事

[10]投稿日:2012年04月06日6:38:39 きむらたかし
第5案のデルタ翼機で「ビックバイパー」が思いついてしまった。
オプションをファンネルと考えればあんまり違和感が無いような気もするけど大口径レーザーの搭載とかサイコミュとかの絡みで予算超過で完成せずとか。

>いいですね。制式名称を「コスモミラージュ」とし、開発者達の間での俗称がそれとか。

 

[11]投稿日:2012年04月06日16:12:44 ウッチー
ティターンズ側の兵士のせりふですけど、アレってウォルターですか?ヘルシングに出てくる。
ジェット戦闘機とか大量に出てますが、地上攻撃用の戦車を一撃で破壊できる攻撃機のA−10とか世界最強と名高いF−15の発展版の一つ戦闘攻撃機のF−15Eとか出せませんか?

>これからが本番です。現在兵器対ウィッチは。それとやはりわかりますか、台詞

 

[12]投稿日:2012年04月06日16:20:53 黒鷹
お久しぶりです。黒鷹です。にじファンから追いかけて来ました!
3,15事件でゴタゴタしましたがこれからシルフェニアで執筆を頑張って下さい!

>どうもお久しぶりです。あれには戸惑いましたが、なんとか無事に移転出来ました。これからもよろしくお願いします。

 

[13]投稿日:2012年04月07日11:7:54 ゼロン
服部静香の件ありがとうございます!
芳佳がガンダムに乗るのかなと考えると胸熱てんかいです!

>流石にガンダムには乗りません(笑)。それと静香ではなく、静夏ですよ。

 

 

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