――ある事がきっかけで、紆余曲折の末に小宇宙に覚醒した箒だが、フェイトも一時的に強力な残留思念が宿り、フェイトの肉体は黄泉の国へ旅立ったはずの黄金聖闘士『獅子座のアイオリア』の仮初の器となってしまったのだ。これは箒が小宇宙に覚醒してからそれほど間がない頃に起こった出来事であり、聖闘士星矢の世界から帰還してからは数年後、ちょうどデザリウム戦役が勃発した時の事だった。宇宙戦艦ヤマトに向かう脱出艇へ向かうフェイト、それを送り届ける役目を負った箒だが、二人は孤立して囲まれてしまい、死を覚悟した。その中で精根尽き果てたか、フェイトは気を失ってしまったのだ。だが、二人の眼前に現れたそれに、箒は驚愕した。それはこの世界にはあるはずがないモノであった。聖闘士の証である聖衣、それも黄金の輝きを放つそれは黄金聖衣であった。


「こ、これは……ご、黄金聖衣!?しかも射手座と獅子座の……。ど、どういうことだ!?」

狼狽える箒。黄金聖衣は聖域の誇る代物であり、聖衣には意志があるというのを、老師=天秤座の童虎から聞いたが、いくら何でも聖衣を次元を超えさせるだけの力を行使できるのは『オリンポス十二神』などの神クラスのみ。あの時に聖戦を控えているアテナとは考えにくく、アテナ以外の神が力を行使したとしか思えない。その時、聖衣に宿る意志を小宇宙を感じ取った箒は、ISを解除し、改めて目覚めたばかりの初々しい小宇宙を燃やし、射手座の黄金聖衣を纏う。『アイオロスと星矢の借り物』である自覚の上で。この時の聖衣は大まかには星矢やアイオロスが纏う時のそれとだいたいは同じだが、一部の意匠はきちんと装着者に合わせて変わっている。その辺は神話の時代から聖衣が持つ機能の一つだ。

「目覚めたばかりの付け焼刃だが……燃えろぉぉぉぉっ!私の小宇宙ぉぉぉぉぉ!!」


十二宮で星矢たちの生き様を目撃した箒は、彼らの熱き心を、燃え上がる心の小宇宙に深く感銘を受け、そして、その後に箒自身の体を通して目撃した射手座のアイオロスの生涯。箒は彼の残留思念が残してくれた偉大な遺産をここで初めて、本格的に使用したわけだが、その小宇宙に呼応するかのように、気絶したフェイトがムクリと起き上がる。そして、見たこともないほどの強く、雄々しき光がその両の眼より発せられる。そして、声色はフェイトのそれであるが、戦闘時以上にドスが効き、なおかつ闘志に満ち溢れる事を表すような静かな声でこう言った。

「来たか……。ならば」

フェイトが拳を振り上げると、像の形から分裂した獅子座の黄金聖衣が飛び込んでいき、フェイトの体に装着されていった。黄金聖衣は、まるで誂えたようにフェイトの肉体とみたりとはまる。ただ、その獅子座の聖衣は、歴代の獅子座の黄金聖闘士達が着ていたものとはいろいろと違って見えた。

「肉体に合わせるとはいえ、少し頼りないか……まあいい」

そう言い、目の前の敵に向き直るフェイト。だが、その立ち上る小宇宙は明らかに、箒が目撃した、聖戦で死んだはずの黄金聖闘士のものだった。箒は思わず駆け寄る。

「フェイト……いや、その獅子のような雄々しい目、雄々しく、強大な小宇宙……まさかあなたは……!?」

獅子座の黄金聖衣を纏ったその人物はフェイトであって、フェイトではないと言うべき外見上の変化を示していた。フェイトの優しくも儚げさを表す瞳の色と目つきに変化が見られ、獅子を思わせる鋭くも、雄々しい目つきとなり、瞳の色も違っている。何よりも、フェイトが身につけていないはずの小宇宙を、ハッキリと視認できるレベルで滾らせる事ができる力量は間違いなく……。

「状況は上手く飲みこめんが、あの兵器らを倒せということか……ならば話は早い」

そう言うと、フェイトは拳を前にかざす。そして、その拳から無数の光が走り、周囲の暗黒星団帝国兵らをズタボロにしていく。その技は紛れも無く、獅子座の黄金聖闘士達が代々、受け継いできた伝統の光速拳そのものだった。


「ら、ライトニングプラズマ!?やはりあなたは……!」

「君は……。それにその聖衣……兄さんが君に力を貸してくれたようだな」

「やはり、アイオリアさんなんですね!?」

「そうだ。どうやら俺は、君の友の体に宿ってしまったらしいな……」

「あなたは確か、冥界で死んだはずでは?それがどうして?」

「ああ。確かに俺は……嘆きの壁で死んだ。だが、俺達の力を必要とした者が一時的に蘇生させ、俺達の魂を『救済』した。それがなければ、冥界で暴れたために、俺達は叛逆者の汚名を被せられ、危うく封印されるところだった。だが、俺は心残りがあった。星矢達の事や、アテナのこと……。それで俺は魂だけの状態で次元の狭間を漂い、気がついたらこの子に憑依していたのだ」

アイオリア達は禁忌とされるアテナエクスクラメーションを使ったために、本来ならば『全ての名誉を剥奪されていても、文句が言えない立場』である。だが、緊急時の使用なため、名誉を剥奪することはされなかった。だが、業を煮やした他の神々の怒りに触れ、彼らの魂はそのまま安らかを与えられない永遠の苦痛を味わう事になっていたが、北欧神話の主神である『オーディン』が自らの思惑のもとに『救済』し、北欧で戦い、神話上でオーディンを殺したとされるロキを打倒に成功した。その後、星矢たちがハーデスに勝利したのだが、アイオリアはそれを知らない。そして、箒の記憶では、聖戦でハーデスの部下「タナトス」によって打ち砕かれたはずの黄金聖衣が何故、完璧に復元されていたのかは分からない。

「なるほど。(黄金聖衣はタナトスが粉砕したものも多いと聞く。この射手座の聖衣もそうだ。一体誰が復元したのだ?)」

「問題は、生前とまったく反対の体に憑依してしまった事なんだが……」

「た、確かに」

「それはそれとして、この場を収めるぞ。君もその聖衣を纏っているなら、聖闘士と同等に戦えるはずだ」

「は、はいっ!」

と、言うわけで、二人は戦闘を開始した。フェイトの肉体に憑依した獅子座のアイオリアは、肉体が別人にも関わらず、生前と変わらぬ技を披露する。

「我が拳に甦れ……獅子の魂!!ライトニングプラズマッ!!」

閃光が暗黒星団帝国の兵士や兵器を有無を言わさず粉砕する。敵は何がなんだかわからないうちに絶命するだろうから、ある意味では慈悲深い技とも言える。一秒間に一億発を放つということだが、人間の肉体の科学理論上の反射速度を遥かに超えているので、小宇宙はそれを凌駕させるだけの力を発揮できるということだ。


「我が拳よ!光の矢となり、悪を討て!!アトミックサンダーボルトぉ!!」

箒には、以前にアイオリアの実兄であるアイオロスの残した置き土産というべき物がある。それがこの技である。このアトミックサンダーボルトは星矢や鷲星座の魔鈴が使う『流星拳』の上位互換とも言える光速拳である。その破壊力は流星拳や彗星拳の比ではなく、まともに喰らえば、並の金属を粉粒にまで粉砕できるほどである。箒の肉体は元々、常人としては、かなり鍛えられていた事、更に、超人である篠ノ之束の実妹であるというアドバンテージを持つ肉体が、アイオロスの残していった小宇宙を受け入れられるだけのキャパシティを備えていた。それ故に小宇宙を自家薬籠のものに出来たのだ。肉体に刻み込まれたアイオロスの記憶をもとに撃ったが、存外、サマになっていた。二人の聖衣には傷一つつかない。元から、青銅聖衣でも、現在兵器では傷をつけるのもままならないが、黄金聖衣にもなれば、神の攻撃でもないかぎり破壊不可能である。その上、二人の動く速さは光速であるので、暗黒星団帝国の陸戦兵器では照準コンピュータの認識が追いつかず、バグを起こすので、そこの点も二人の優位を助けていた。


「駄目だ、強すぎる!!」

「レーザーも熱線も歯がたたん!バケモノか!?」

「撃て撃て!!どれかは致命傷になるやも知れぬ!!」

と、暗黒星団帝国軍兵士や下士官らの悲鳴が響き渡る。小宇宙はビーム兵器や熱線への防御ともなる。そのため、歩兵が持つようなレーザー銃や熱線砲などでは聖衣にさえ到達しないのだ。更に光速で移動する物体を狙うには、それこそ宇宙戦艦や戦闘機を呼び出さなけばならぬが、パトロール隊にそんなたいそれた援軍を横してくれるほど、カザンは慈悲深くはないのも、彼らの運の尽きだった。


「ライトニングボルトぉ!!」

フェイト……もとい、アイオロスの放つライトニングボルトは一点集中の光速拳となり、パトロール戦車をぶっ飛ばす。全高8mもある戦車も、神と戦う目的がある黄金聖闘士にかかれば『子供がおもちゃをとっ散らかす』ように破壊可能である。ライトニングボルトにより、コックピット部を綺麗にぶち抜かれ、なおかつ破壊力が伝わっていき、タイヤなどの部品を撒き散らしながら転がっていく。

「なるほど。宇宙からの侵略者、か……聖戦が起こることが無くとも、人は争いを起こすものなのだな」

「ええ。あなた達の時代の世界を覆う『冷戦』というベールが剥がされても、人は結局、次の争いを求めるのです。矛盾してませんか?」

「人の歴史というのは、そういうものだ。二度の世界大戦も、20年かそこらの間隔で起こっている。東西冷戦も、元は同じ陣営にいた国々が争い合うのがきっかけで起こった事だ。人は愛しあうこともできるが、何らかの形で戦いは避けられない種族なのだ。だが、人には神にはないものがある。友情や愛情といったものは神々の間では希薄なのだ。星矢達が奇跡を起こしたように、俺たち人間には、神さえも図りしれぬ力があるのだ」

全知全能のはずの神々さえも、お互いに憎しみあったり、争うのを目の当たりにしている彼ならばの発言であった。その一方で友情や愛情を力にできるのが人である。星矢が海神ポセイドン、堕天使ルシファー、太陽神アベルを打ち倒したのを知る故に、人の可能性をあくまで信じる姿勢を、アイオリア(と、言っても肉体はフェイトだが)は見せた。そこがカミーユ・ビダンの精神崩壊をきっかけに人類に絶望したシャア・アズナブルとの違いであった。

「さて、最後に大物が出てきたようだ」

「そ、掃討三脚戦車ぁ!?」

全高54mの大型車両が二人の前に立ちふさがる。パトロール隊に一両だけ配備されていた『虎の子』である。戦車は超磁性体関節ギアを用いた砲塔を指向させ、二人を砲撃するが、二人は跳躍する。ここでアイオリアは箒にアドバイスを送る。それは射手座の聖衣には装飾品の一環としてだが、弓矢があると教える。

「矢、矢ですか!?」

「そうだ。そのサジタリウスの聖衣には、装飾品としてだが、武器に使える黄金の弓矢が備えられている。星矢はそれを使い、強敵を打ち破ってきたのだ」

「良いのですか?私は星矢さんのように、あなたのお兄さんの正式な後継者でも、ましてや、聖闘士でさえないのですよ!?」

「我が兄・アイオロスは勇気、力、真実を信じ、自身の信じる正義のために生き、散っていった。そして星矢のような正義を、愛を信じる若者らに力を貸してきた。聖衣が君を認めたのならば、それは君に『守りたいものや、貫き通すべきモノ』があるからだ。星矢がどんな敵にも屈せずに打ち勝ってきたように、もし、君に『守りたいもの』や『どんな苦難に遭おうとも貫き通す信義』があるなら、聖衣は思いに応えてくれるはずだ」

アイオリアはそう言う。箒は、この力が射手座のアイオロスと、その後継者になるであろう天馬星座の星矢の『借り物』に過ぎない事を自覚している。だが、今、この場で射手座の聖衣を纏うのは箒なのだ。例え、それが他人から与えられた力であろうと、それは紛れも無く箒自身の力なのだとアイオリアは示唆した。

(私はいつも自分の力ではなく、他人から与えられた力にすがってきた。姉さん、アイオロスさん……。だが、今のこの力は……私の力だ!!思い出せ……死ぬような鍛錬をして、小宇宙を自家薬籠のモノにしたのを!私のこの『誰かの背中を守りたい』想いは何人であろうと壊させない!!)

「はぁあああああっ……!」


サジタリウスの弓を空中で構えながら、小宇宙を燃やす。それは黄金聖闘士と同じ領域にいる星矢達と比べれば小さい炎であったが、思いの強さは引けを取らなかった。矢を小宇宙が包み込み、箒は矢を使える。弓道やアーチェリーなどは経験がほぼないに等しい身だが、幼少期に父や親類がやっていたモーションを見よう見まねで再現する。その時だった。突然、脳裏に一つの光景が浮かび上がる。それは……

『インフィニティ・ブレイク(無限破砕)ぅぅぅ!!』

アイオロスが生前に得意技としていた、もう一つの技『インフィニティ・ブレイク』の光景である。これは両腕を捲し上げながら、高速拳で無数の矢の如く相手を貫く技であるが、この時は箒が矢を番えていたため、それを媒介に発動するという変則を取った。

『インフィニティィィィィッ!ブレイクゥゥゥゥゥゥ!』

箒は自然と技名を叫びながら、矢を射る。黄金の矢はそれ単体でなく、そこから更に小宇宙の矢が生成され、その奔流となる。それら全てが掃討三脚戦車を貫き、大爆発を起こした……。

――この時はアイオリアの導きと共に、無我夢中で撃ったため、自身の意志で射るのは別の機会となる。戦いは終わったが、問題はフェイトの肉体をアイオリアの残留思念が乗っ取っている状態ということだ。これにはアイオリアもフェイトの肉体を通して、困った顔を見せるものの、どうにもできる問題ではないので、獅子座の黄金聖衣をボックスに入れた上で、そのまま宇宙戦艦ヤマトへ向かうことにし、アイオリアは不本意ながらも、フェイト自身の意識が戻るのを待つ形で、しばし『フェイト・T・ハラオウン』として振る舞う事を余儀なくされてしまったのだった。その後、箒は箒で、仕方がなく射手座の黄金聖衣を持ち帰るハメになり、帰還時になのはやドラえもんから質問攻めにあったのは言うまでもない。だが、この事をきっかけに、箒は幼少期より抱えていた、姉である篠ノ之束へのコンプレックスを少しづつ解消(小宇宙に目覚め、姉に並び立てる力を得た事で、姉への恐怖心が薄れた)してゆく事になる。

(ん?待てよ……射手座の聖衣をここまで完璧に修復したのは誰だ?牡羊座のムウの弟子である貴鬼はまだ幼齢で、修復技術を有しているとは考えにくい。いったい……)

箒は射手座の聖衣を復元したのは誰だという疑問に突き当たった。その技術を有していた牡羊座のムウはこの世の人でなくなった。ムウやその師であり、前教皇のシオンは聖衣修復技術を有していたが、ムウの弟子の貴鬼は幼齢で、修行が完遂しているとは思えない。祭壇座の白銀聖闘士があの時代にいるかどうかは不明である。そこも含めて気になる箒であった。





――こうして、黄金聖闘士『獅子座のアイオリア』は不本意ながら、『第三の人生』を未来世界で過ごす事になり、当時にフェイト・テスタロッサ・ハラオウンはアイオリアの仮初の肉体になってしまった。また、箒は正規の装着者が不在の状態となっている(臨時でなら星矢がおり、彼は近未来、正式にアイオロスの後継者に指名される)射手座の黄金聖衣を纏えるようになった事を喜ぶべきか悩みつつ、当初の目的を果たした。こうして、フェイトはアイオリアの意識が宿っている状態で宇宙戦艦ヤマトに乗り込み、思わぬ戦力として、彼らに重宝される事になる。




――余談だが、フェイト自身の意識はどうなっているのかはアイオリアにも分からない状態であり、なんとも言えないが、フェイトの人格が上書きされたわけではなく、自分の成すことを深層意識下で見ているのかも知れないとは、アイオリアの談。フェイトは肉体の主導権を憑依したアイオリアに取られていることをどう思っているのであろうか……。これがフェイトの身に起こった出来事であり、これはパルチザンに知らされ、思わぬ出来事に、全員が悩んだという。なお、持ち込まれた射手座の黄金聖衣は、とりあえずは箒預かりとなり、赤椿と使い分ける事になったとの事。



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