――地球連邦軍へ従軍したウィッチ達は、未来世界で戦う内に、自分なりの戦う理由を見つけていった。ジオン残党の最大勢力のネオ・ジオンの三度の蜂起が起こったのに合せ、地上軍残党も蜂起し、佐世保のドックを占拠していた。


――パルチザン 移動本部

「これが数時間前に偵察機が撮影した写真よ」

「ジオン残党がまだいたのかよ、武子ちゃん」

「ええ、調べはついてるわ。佐世保と長崎ドックを占拠したのはジオン潜水艦隊の残党よ。海軍の連中が泳がせておいた一団よ」

「なんで、残党を泳がせておいたんだ?」

「聞いた話だと、予算確保のためらしいわ。軍縮の時勢の後の海軍は失業対策組織なところが大だけど、沿岸警備隊代わりに、中・小型艦中心になっていた。だけど、かつての大艦隊の再建を夢見る海軍にとって、ジオン残党は一定数いてもらわないと困るという事みたい。なんか幻滅モノね」

「宇宙軍が海軍の外征の役目を盗っちまって久しいからな。政府のお役人達は海軍を軽く見てるのさ。一年戦争で太平洋艦隊をまるごと失ってる上に、軍縮で大型艦の再建は中止された。それを推進したプリベンターは相当に陸海軍から恨み買ってるから、陸海軍はジオン残党に予算を渡してるって専らの噂だよ」

「本当?陰険なやり方ね」

「軍縮時代の負の遺産さ。プリベンターは本来、『争いの火種を断つ』目的で設立されたが、あの戦いで軍部が存続した後、陸海軍から相当に嫌がらせを受けたんだよ、あそこ。災害対応能力も結果として削った形になったし、間接的にネオ・ジオンの再建を助けてしまったから、ここ数代の軍出身の大統領から煙たがられてるんだ」

「良かれと持ってしたことが裏目に出たのね、可哀想に」

「それであそこ、活動報告義務が厳しくなったらしい。軍部が活用しようとしてた工廠を使用不可にしてたのを報告してなかったりしたから。特にあの戦いの時は、宇宙に残ってた工廠を連日連夜、不眠不休でフル稼働させてたしな。本土決戦が近くなってくると、狂ったようにそれに突き進んでいった。ハト派はそれに対応できなかったから、大半は政治生命を失ったんだ。今じゃ別ベクトルの過激派も出始めてるよ」


――皮肉にも、宇宙戦争で生存競争に躊躇いを無くしてしまった国民は全体的に、防衛のためには如何な手段をも使うのを容認していき、戦乱期を通して『侵略者は駆逐あるのみ!銀河そのものと一緒にぶっ飛ばせ!』とまで宣うティターンズやジオン残党とも別ベクトルの過激派を形成してしまう。政治家はその扱いに苦慮し、国民へ侵略への固定観念を埋めつけたズォーダー大帝を恨んだという。

「本当、民衆って勝手ね」

「昔からさ。状況が急変すると騒ぎ出すのが常さ。白色彗星帝国戦の時の嫌がらせやその後の手のひら返しで嫌気が差してる面もあるんだ、俺は。兄さんやボアザンの和平派の人々の気高さを見るとね」

剛健一が語った白色彗星帝国戦が切迫していた時期の地球圏のパニックぶり。それはプリベンターの想定外とも言える、短い期間のインターバルの『宇宙からの侵略』が、彼らの立場を貶めてしまう事になった。陸海軍から解体を進めていた事が結果として、悪く出てしまい、本土決戦には一年戦争の機体まで駆り出す羽目となった。その為、その時の官僚の60%は失脚し、ハト派政治派の多くも政治生命を失った。本土決戦を勝ち抜いた連邦国民に思い知らせたのは、『世界は美しくも残酷である』事であったという。健一が言うのはそれだ。健一は地球人の勝手さに嫌気が差したとも語り、人々の軽率さに呆れているようだ。特にボアザン星人の和平派の気高さを目の当たりにし、実兄『ハイネル』の哀しくも気高く戦った姿を知る健一には、白色彗星帝国戦後の地球人の姿勢は情けなく写るのだろう。

「ジオン残党を泳がせておいた海軍の連中は自分の存在意義を見せるためという浅ましい目的で動いてたわけかよ。かーっ、やってらんねーぜ」

甲児が呆れて物が言えないと言った雰囲気で頭をかきむしり、豹馬もいきり立つ。

「どさくさ紛れで来た連中なんぞ俺達の敵じゃねーさ。とっとと長崎と佐世保のドックを取り返そうぜ」

「待って。敵地に攻めこむには、それなりに現地の地形を知る必要があるわ。いくら貴方達のマシーンが強力でも、市街地を壊しながら暴れるわけにはいかないでしょ?市街地の位置と地形、目的である軍港の地形を把握する必要がある。航空写真を見て頂戴」

「君は石橋を叩いて渡るな」

「よく言われるわ」

武子は綿密に作戦を立てるタイプである。この辺が現地の裁量で対応を変える事も多い黒江との違いであった。ブリーフィングルームの投影スクリーンに、敵機の情報も映す。武子が偵察情報を重視する表れと言える。

「敵機は主に、現地で合流した残党軍のMS-06F2やMS-09Gと、潜水艦隊のズコック系と、ゴッグ系よ。その中に『キワモノ』のジュアッグとソゴッグも混じってるわ」

「へぇ。アッグシリーズなんて珍しいな。まだ動くのがあったのかよ」

「一年戦争に間に合わなかった個体もあるだろうから、それを使ったのかもな」

「私達は目的の艦があると思われる、長崎三重ドックの方面に主力を投じます。現地には加東中佐が援軍と合流して、既に向かっています」

武子の言う援軍とは誰なのか?それは……。




――長崎 香焼工場地帯

「まさか、本当に本物の戦争に駆り出されるとは。私達のような高校生まで駆り出すとは、本当に人手不足なのだな……」

『お姉ちゃん、まさか私達が本当の戦争に駆り出されるなんて……。いくらケイさんが軍人で、私達を高く買ってくれているって言っても……』

「世界が違えど、ここは私達の故郷の日本だ。それを好き勝手に荒されるわけにはいかんだろう。どの内、あの人達への恩は返さなくてはならないし、ここで得る事を戦車道に活かせばいいんだよ、みほ」

『お姉ちゃん……』

まほは戦争に駆り出される事に納得していた。それはバダン麾下の部隊と戦った事があるからで、別世界を守ることが圭子への恩を返す事になるとも考えているからで、いち早く適応していた。多少の電子装備はあるが、基本はいつの時代も同じだとばかりに、戦車車内のタッチパネルをいじる。21世紀で使われてるものから基本は変化していないので、みほ達も安心して使用できる。皆が搭乗している車両は、現地の駐屯地に放置されていた車両を再整備させ、まほたちを乗せたと言っていい状況であった。圭子が連れて行くにあたって、各学校のチームからメンバーの一部を省いたのは、連邦陸軍の制式採用している戦車では自動化されている都合上、『装填手』が、場合によれば『通信手』もあぶれるからだ。


『えーと、私達が戦うのは『マゼラ・アタック』っていう自走砲なんですよね?』

『自走砲ってのは、ちょっと違うかな?実質的にはジオン軍の主力戦車だったから』

『旋回砲塔無しで、短時間の飛行が出来る戦闘車両かぁ。それを主力にするなんて、信じられませんよ』

別車両の秋山優花里がマゼラ・アタックの設計コンセプトに首を傾げる。戦闘車両が花形であった時代の人間である彼女には、戦闘車両が単なる支援兵器としか扱われていないジオン軍に我慢ならないのだろう。(別世界のザフト軍は更にこの傾向が顕著であるが)

『旋回砲塔がない戦車はMBT時代でも無かったわけじゃないから、その辺はジオン軍がMSを主力にした故の取り捨て選択なのよ。まぁ、生産力の違いで結局、MSとマゼラ・アタックとの数的違いは変化しなかったけど』

ジオンはMSを主力兵器に選択したものの、地上戦では期待ほどの戦績は残せなかった。ドムが開発されたものの、輸送機が必要なのには変わりなかった。製造速度も連邦に及ばなかったため、結局、連邦がMSを大量生産していくと、ジリ貧になったという歴史がある。一年戦争後に可変MSが開発されたのは、戦場への輸送の問題の解決という命題が連邦にあったためだ。

『優秀な戦車兵がいないってことですよね?それって』

『いないわけじゃないわ。教導団があったしね、みんなMS兵に転科していっただけで。MSを過信したのが、ジオン地上軍の誤算。だから一年戦争で負けたのよ』

『なるほど。他兵科との相互支援を考えてなかったから、戦争に負けたんですね?』

『正解。連邦と違って、敵は陸戦兵器の運用ノウハウが無いのよ。今は多少はあるけどね。あなた達はマゼラ・アタックに専念して。分離しても、飛べるのはせいぜい数分だから。MSは私達が引き受ける』

『了解です』


人型機動兵器の優位性に胡座をかいたがために、ジオン地上軍はジリ貧に陥っていった。MSの地上での難点を知る故、連邦軍は他兵科との連携を重視した編成を取った。それが結果として、ジオンや他の国家に対しての優位性となったのは言うまでもない。優花里は上空のZプラスで直掩任務についている圭子の言葉に納得する。

『んじゃ、私達はMSを蹴散らしてくるわ』

圭子はZプラスからなるウェーブライダー隊を率いて、先行する。ウェーブライダーの姿は優花里達から見れば信じられない光景だった。

『しかし、人型と航空機とを行き交う兵器か……今でも現実なのか信じられないぞ』

みほの車両の操縦手である冷泉麻子が言う。彼女はMSの機動力にどうにか対抗しようと考えているが、MSの機動力は想像以上であるため、対策を練っている最中であったりする。

「私が斥候に行くから、誰か援護をお願いします」

「よし、俺に任せてくれ」

「お願いします。ええと、風見さん……じゃなくて、V3さんでしたっけ。今の姿だと」

「そうなる。行くぞ、しっかり掴まっていろ」

「は、はい!」

みほの護衛には、ライダーV3=風見志郎がついた。なんとも豪華である。ハリケーンで斥候を行う二人。ジオン残党軍の編成を掴むため、V3が持ち込んできた望遠鏡を使った。しばらく行き、ドックが見える小高い丘でジオン残党の編成を確認する。

「ドックの周りは、ドイツ軍のヘルメットみたいな形の頭部持ってる機体が巡視してますね……」

「珍しいな、統合整備計画型のザクか。あれは中々見ない型なんだが」

みほとV3がいるのは、香焼は、城山の東側。21世紀にはホームセンターがあった場所である。この時代には、跡地としての更地になっており、残党軍もチェックしていないため、隠れるにはうってつけだった。

「他には、『ズコックE』っていうMSと、『ハイゴック』がいますね」

「ふむ。水陸両用のMSだな。それは潜水艦隊のものだ。エースが乗ると手強い機種だ。味方に注意喚起をしておく」

連邦軍は過去に幾度となく、ジオン軍の統合整備計画で生まれた高性能水陸両用MSに痛い目に遭わされたため、ズコックEとハイゴックを恐れていた。そのため、パルチザンも同様に戦闘に気を使っていた。



――まほは、みほとV3からの報告を受けると、空挺降下と水中からの侵攻隊の位置を再確認。先制砲撃を開始する。

「全車、山越しの支援攻撃を敢行する。この時代、電子装備を使う遠距離精密射撃は望めん。しばし、敵の撹乱を行った後、この場から移動し、攻撃を再開する」

『撃て!!』

戦車というよりは自走砲のような仕事であるが、まほはきちんと仕事をこなす。支援攻撃を数分間行い、ジオン残党軍のMS部隊を撹乱し、何機かを流れ弾で行動不能に陥らせるという幸運も得た。ジオン残党軍は砲撃で虚を突かれたところに、対岸から180ミリキャノンを持つヌーベルジムVとジェガンの援護射撃を受けての、水中型ガンダムとアクアジムのハラスメント攻撃も受けてしまう。

『うお、なんだ!?』

『対岸からの砲撃です!』

『連邦軍め、味な真似を!ソナーに反応だ、水陸両用MSは、連邦軍の雑魚どもを蹴散らせ!どうせ俺達よりも低性能のアクアジムしかないはずだ!』

と、水陸両用MSが動き出すが、水中からのミサイル攻撃で撹乱され、水辺に接近が困難となる。

『くそ、アクアジムのサブロックで面攻撃に出やがったぞ!どこに隠れている!正確な位置を確認しろ!早く!』

ジオン残党軍は水中からのミサイル攻撃、山と対岸からの支援攻撃で機先を制され、混乱する。すぐにハイゴックとズコックEが海中へ潜る。哀れにも、位置取りを間違えたアクアジムがクローで引き裂かれたり、真上に落下した事で、互いに中破して擱座したり、ズコックEに串刺しにされる。アクアジムの中には、手に持つビームピックが刺さったが、そのまま踏み潰された機体も生じ、やはり素の性能差は大きかった。そんな中、ズコックEと渡り合う水中型ガンダム。

「落ちやがれ!」

偏向型ビームライフルと炸裂型パープーンガン、魚雷を駆使し、ズコックEの機先を制する。水中型ガンダムは優先的にエースパイロットが使用している事もあり、アクアジムよりも格段に機敏な動きを見せる。改良型ビームサーベル(ビームピックの間合いの短さにより、一部パイロットは、より刃渡りが長いサーベルを携行している)で腕部を斬り落とし、コックピットを串刺しにする。概ねズコックEと互角に渡り合う事が出来る戦闘力を持つ事が、ここで判明したわけである。



――水中型ガンダムは正確に言うと、ガンダムタイプではなく、アクアジムのエースパイロット仕様だ。改良点が多岐に渡り、アクアジムより格段に強力な事から、ザクを原点としない純粋な連邦軍系水陸両用MSでは、現在でも最強格である。パルチザンはそれを二個中隊分(予備機含め)手に入れており、海軍のエースパイロットらに割り振っていた。そのためにカタログスペックでは、より強力であるズコックEを押さえ込めているのだ。

「よし、潜ってきたジオン『水泳部』は俺達が引き受ける。アクアジム隊は引き続き、砲撃を続けろ。位置取りを間違えるなよ!」

隊長機の水中型ガンダムがハンドサインも用いて、部下らに指示を出す。(ちなみに、『水泳部』とは、水陸両用MS運用部門を指す、一年戦争以来の地上軍内の隠語である)無線でも言ったので、それを聞いていた戦車道関係者らは驚く。

「西住殿、聞きましたか?今、はっきり日本語で水泳部って……」

「う、うん。水泳部ってなんだろう」

「聞いた話によれば、旧陸海空軍での水陸両用MS運用部門を指す隠語で、昔の戦争で誰かが言い出したのが、そのまま定着したのだそうだ」

「へぇ。軍事系の通信って英語が多く使われてますから、日本語を使うのは珍しいですね」

「ああ、それを言い出したのは、日本駐留部隊と聞いたな。日本語発祥の単語で連邦標準語に取り入れられた物は多いから」

「なるほど」

斥候から戻ってきて、みほを戦車に乗せているV3が補足する。連邦で標準となっている文法は英語と日本語の2つであり、その関係もあって、意外と日本語や日本語に由来する軍事用語も多く、有名なのでは、サブフライトシステムの代名詞である『ドダイ』も、日本語の土台が語源である。

『全車両、移動開始だ。砲弾の雨が降る前に全車の移動を行えよ』

まほはMSがメインとなっている時勢での、戦車の役目を良く認識していた。運動戦では不利が否めない故、自走砲のように、敵の反撃の前に迅速に陣地転換し、攻撃を適宜に行うべしと。だが、それはMS相手であり、同じ戦車であるマゼラ・アタックには、彼女らの常識は通じる。移動の道中で、市街戦となる。ジオン地上軍の実質的な主力を担ったマゼラ・アタック戦車との運動戦となった。

「あれがマゼラ・アタックか……確かに、戦車の常識からは激しく逸脱した姿だな。スウェーデンのSタンクよりも『ゲテモノ』感を感じるな」

まほは、双眼鏡越しに視認したマゼラ・アタックへ感想を漏らす。車高も『狙ってください』と言わんばかりの高さに、ドイツ軍系の中・重戦車を常用してきたまほは苦笑する。

「何故、あんなに車高があるんだ?あれでは狙ってくださいと言っているようなものだぞ」

「ジオン軍は戦車を運用した経験がなかったから、私達の世界の評論家が見たら、間違いなく『奇想天外機構に傾倒した駄っ作車』って言われちゃうような車両を作ったんだって。火力は強力らしいけど、砲塔が旋回できないんだって、お姉ちゃん」

「ますます自走砲だな。MBTの概念も知らんのか、奴らは?」

「いや、あれは事実上、短時間飛行する砲撃プラットホームと簡易移動発進台だそうだ。だから、普通の常識で考えないほうがいい」

「……なんですか、それって」

「まともな機甲戦力はMSで蹴散らせばいいから、戦車は歩兵直協の砲撃火力だけ持てばいいって考えらしい。まぁ、実際はそうならなかったらしいが」

「分かりました。全車両、聞いたか?講習で頭に叩き込んだと思うが、今一度、頭に刻め。マゼラアタックは『戦車』と考えるな、対地攻撃機とそのプラットホームの歩兵戦闘車輌と思え。いいな!」

「了解!」

「行くぞ、戦車、前進(パンツァー・フォー)!」

戦車隊の隊長らしい態度を取るまほ。この戦いには、各学校のエース級と隊長格が参陣しているが、この大隊には、とりわけその中でも練度が高い者らが選抜されていた。これは突発的な戦闘が起こった場合の対応力を重視したためでもある。彼女は思わぬ形で、実戦の『初陣』を踏む事になった。




「撃て撃て!!地上の連中を黙らせろ!」

アクアジム隊の第二波ミサイル攻撃と、戦車隊の支援攻撃で、対岸に気を取られたザク改が数機、スラスター部に被弾して倒れ伏す。位置を特定したザクキャノンが報復で撃ち返すが、既に戦車隊は移動した後であった。と、そこへZプラスのウェーブライダー編隊が飛来、かつてのガンシップの要領で対地掃射を開始したのだから、堪ったものではなかった。ビームの弾雨を食らわせられたため、対実弾装甲しか持たぬ、旧式のジオン系MSでは防ぎようがなかった。


「あ、クソクソクソ!Z型だ!」

「撃ち落とせ!Z系ならばガンダリウム合金でも装甲板は薄いはずだ!」


連邦軍は従来のガンシップがMSに陳腐化させられた後、可変MSにガンシップの役目を担わせる事を構想し、VFの登場後はそれらにも担わせた。その結果、ジオン軍の一年戦争中の機種は『狩られる』側へ立場を変えたのだ。Z系は可変機構などとの都合上、装甲厚は薄めであるが、ガンダリウム合金の賜物、ジム系より遥かに頑丈であった。一年戦争中に前身のルナチタニウムにさえ、バズーカ以上がないと打撃すら与えられなかったという記録があるが、統合整備計画で作られた火器であっても、更に強度が増した次世代のガンダリウムγの前には雀の涙であり、ドック周りの敵機はこの対地掃射で始末されていく。

「中佐、制圧完了しました」

「よし、変形してドックの制圧に移る。今のうちに変形しておけよ」

圭子は空域の安全が確保されたと同時に、愛機をMS形態へ変形させ、ドックの制圧に移る。ドックに張り巡らしてあった幌や筵を剥がしてみると……。

「うわーお。凄い……アンドロメダ級だ。それも初期型じゃないぞ、『しゅんらん』型の後期型だ。よく接収されなかったな。武子?私。例のブツを確認したわ。これからドックを覆っている奴を剥がして、発進準備を整えさせる」

「了解」

圭子からの通信を受けた武子は、グローリアスを降下させるが、それが仇となり、ジオン軍の潜水艦『U280』(ユーコン級)と、ミノフスキー粒子と雲海を利用して隠れていたガウ級空母が対艦ミサイルとメガ粒子砲で奇襲を仕掛けたがため、予想外の攻撃を食らってしまう。メガ粒子砲は避けたが、船底を狙った高速対艦ミサイルまでは予期できず、その内の一発が機関部へ直撃してしまう。

「被害報告!」

「機関部に被弾、出力低下!高度は維持できません!不時着に持っていくので精一杯です!」

「なんとか持たせて!これより本艦は不時着します!不時着完了後は総員、ドックに有るアンドロメダ級へ移乗、同艦を起動させます!」

武子は最善の指揮を取り、なんとかグローリアスを擱座させんとする。操舵手の腕が良かったのもあり、工場のコンテナをぶっ飛ばしながらも不時着は成功する。ガウ級は爆撃を仕掛けるが、これはウェーブライダー隊が撹乱する。武子は一番最後に退艦し、アンドロメダ級に向かう。武子にとって、後年に『あれが軍人生活で最も不思議な時だった』と振り返る、『船の指揮を執る』キャリアがこの時、既に始まっていたのだ。



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