――地球連邦軍はパルチザンが主導権を握る形で再編を急いでいた。この時期に北米方面軍のオーガスタ基地に配属されていた、かつてのエースパイロットにして、ガンダムパイロット『コウ・ウラキ』はロンド・ベルへの異動願いが受理されたものの、デザリウム戦役の勃発に伴い、部隊ごと日本を目指し、ミデア編隊を率いる形でパルチザンに合流した。ミデアにはなんと驚くべきMSが積まれていた。


――アンドロメダ級『ガイア』

「ウラキ中尉、久しぶりだな。ガトランティス戦役以来か?」

「メカトピア戦争の時は会えませんでしたから、そうですね」

「君が持ってきたMSだが、まさかRX-78NT-1とは。よく現存していたな?」

「これは自分も基地司令から聞いただけなんですが、一年戦争後にNT-1は予備機含めて、3機が造られたものの、その内の一機は有線型サイコミュビットの実験機の素体として改装され、もう一機はアナハイム・エレクトロニクスが引き取り、最初に製造された機体がオーガスタ基地に残されたそうです」

「なるほどな。しかし、随分使い込まれてるな?関節部などがはオリジナルじゃないように見えるが?」

「ジム・カスタムとクゥエルのパーツで補修されてますから。一点もののパーツも多かったから、同系統の機体の有り合わせ品で補修していったそうです」

「なるほど。火器は?」

「アナハイムから汎用品が卸されてたので、それを持たせてます。サーベルも改修を施してます」

「ふむ。本体の出力は?」

「2200キロワットに上げてます。MK-U用のスラスターの試験も行ってましたから」

アレックスは元々、カタログスペックでは、一年戦争最強のガンダムとされている。それを改修したので、現在でもスペック面では第一線級を維持している。積年の改修で、RX-78系の後継機に当たるmk-Uをも超える性能を持つに至った。だが、使い込まれたため、各部にガタが来ており、そのままでは実戦配備は出来ない状態であった。整備班が機体の状態を確認すると、パーツ単位で経年劣化が現れているところも多かった。

「アムロ少佐。アナハイム・エレクトロニクスに問い合わせて、こいつの純正パーツが残ってないか聞いてみます。あればアクチュエータの効率が上がって、駆動効率が上がって、設計値のパワーでぶん回せるようになりますから」

「頼む」

整備班の兵と士官らがアレックスを補修していく。経年劣化している箇所を量産機の新品のパーツに取り換える応急処置を行い、換装された核融合炉の出力を受け止められるようにする。これだけでもアレックスは昔年に近いポテンシャルを出せるようになるからだ。だが、数時間後、アナハイム・エレクトロニクスは『ジェガン系の駆動系を加工して突っ込め』と指示を出す。当時の純正パーツよりも、現行汎用品のほうがキャパシティが大きいからという真っ当な理由である。整備班はアナハイムの指示通り、駆動系を更にジェガン系に使用されている現行型に換装する。OSも最新グレードにアップデートする。ライフルはアナハイムが送ってきたジェスタ用のライフルに変えられ、サーベルも更に改造されていく。腕のガトリングガンは、オーガスタでのテストの際に、一門が軽量化のために降ろされてはいるが、右腕のは残されていた。

「数日はかかりますね。ジェネレータの起動チェックや各種部品のマッチングテストもあるので」

「分かった。そういえば、相模原に向かっていると聞くが、あそこに何が有るんだ?」

「少佐は関東は初めてで?」

「東京か横浜くらいにしか行ったことがない。千葉のあのランドは戦乱で閉鎖中だしな」

「相模原には相模総合補給廠があるんですよ。あそこには旧式化して、解体待ちの機材が置いてあるんですよ。そこに使える物があるかもしれないので」

「フム。例えば、ガンタンクバリエーションや旧式のガンキャノンとか?」

「ネモ以前の世代のは大方あるかと。それと、今は隣に、日本の旧財閥系の三菱が大規模研究施設を構えてたはずです」

「なるほど」

整備兵の説明を聞くアムロ。相模原に行った経験はないとの事だが、アムロは一年戦争後は北米に軟禁された時期もあるので、仕方がないといえる。それから数時間で相模原へつき、今は連邦軍の施設となっている相模総合補給廠につく。敷地をみほ達も駆り出して調べたら、意外に状態のいい機体が発掘されていた。


――相模総合補給廠

「うわぁ〜こんなに戦車っぽい兵器がいっぱい置いてある〜。ちょっと形は変だけど」

大洗女子学園はあんこうチームの武部沙織が声を上げる。敷地内に放置されていたのは、今や旧式化して久しい『RX-75ガンタンク』のバリエーション群だった。ホワイトベース隊で使用されたのと同じ型、量産型ガンタンク、ガンタンクU、はたまた陸戦強襲型ガンタンク、局地制圧型ガンタンクまでもが置かれていた。MSの急速な進歩に置いてゆかれた『モビルビークル』という連邦軍独自の分類にあった兵器。それがガンタンク系なのだ。

「え〜と……これは『RX-75ガンタンク』という、初期型のMSと、その親戚とかみたいです。一般的な戦車とはちょっと違う兵器なんだそうですが、これでも昔は結構活躍してたそうです」

優花里が説明する。

「へぇ〜。ロボットと戦車の間の子みたいだね」

「MSの急速な進歩で旧式化したそうですけど、火力は現在でも有効らしいです」

「どっちつかずって感じもするなぁ。用途がはっきりしないし」

みほはガンタンクの戦車とMSの間の子のような中途半端な外見もあり、そう評した。

「いや、ガンタンクは移動砲台としてなら優秀だよ」

「あ、あなたはたしか北米から合流したっていう……」

「コウ・ウラキだ。階級は中尉で、君達と同じ日本の血を引いてる。よろしく。」

「よろしくお願いします。あの、コウさん。移動砲台としてならって、どういうことなんですか?」

「ああ、ガンタンクは見かけによらず、対戦車駆逐車や自走砲としてなら優秀な部類なんだ。撃ち下ろしも出来るからね。難点は背が大きすぎた事、初期試作型は内部にコア・ファイター入れてたから、上半身の回転が出来なかったんだ。だから、後の機体だと、そこを排除した設計になってるんだ」

合流したコウが持ち前のマニアぶりを発揮、解説役となる。コウの薀蓄は嫌味がなく、それでいて的確であるため、みほ達も真剣にコウの解説に聞き入る。

「あそこにあるのが、ガンタンクの中でも異端児って言われる陸戦強襲型ガンタンク。元は機密扱いで、プロトタイプを改造して、簡易的な変形機能を持たせた機体なんだ。確か、オデッサ作戦で使われたとか聞いたな。その火力と機動性は当時の陸戦兵器として最高級に近かったそうだ。よく現存してたもんだ」

二両だけ置いてある陸戦強襲型ガンタンク。陸軍の曰くつきの逸話を持つ機体で、嘘か誠か、戦中に囚人兵を乗せて、特攻機まがいの運用をされたともされる。コウはその辺りの経緯を省いて説明する。その辺りの話はエグいからと、囚人兵云々はトップシークレットで、話してはいけないからだ。

「で、あそこが量産移行第一期モデル。ただ、意外に損耗率高いから、本格量産が見送られたんだ。東南アジア戦線では虐殺に近かったそうだし」

「と、いうと?」

「接近戦になると、無力に等しいのがガンタンクの弱点でね。ジオン軍のエースパイロットはそこを突いて無力化させるケースが多かったんだよ」

量産型ガンタンクが『量産されなかった』一因に、中央アジア戦線でノリス・パッカードのグフ・カスタムに虐殺された(第08MS小隊が護衛についていたのにも関わずである)戦闘が挙げられる。その為、ガンタンク量産計画は戦闘車両化へとシフトしていったのだ。

「で、それを踏まえて出来たのが……あの、ガンタンクU。基本構造は同じだが、戦闘車両に特化した機体で、思い切ってコンセプト変えたから成功して、そこそこが出回った。ん、状態も思ったより良さそうだから、再整備すれば使えるな。仲間に持って行ってもらおう」

「なるほど」

と、使えそうな機体をリストアップしてゆくコウ。一同が歩いて行くと、格納庫にとある機体が置かれていた。

「これはRX-78-7じゃないか。こいつもあったのか」

「なんですか、それ」

「初代ガンダム、知ってるかい?」

「アニメでやってたのと、静岡県かどっかに実物大が置いてあったから、見たことは」

「これはその兄弟機だよ。完成した機体としては最後発に当たる。まさか、ここに保存されていたなんて」

RX-78-7。戦時中の計画のRX-78に分類分けされるガンダムでは最後期に完成した機体で、フレームの建造に手間取り、実働が戦後にずれ込んだ事で有名である。その性能は、一年戦争からの数年の技術水準で言えばトップレベルで、ガンダムmk-Uレベルの性能を誇った。mk-Uに影響を与えた前型機の一つでもあり、各部形状はファーストガンダムよりもmk-Uに近い印象を与える。ただし、ジオンのスパイが開発に携わったという事実が判明し、任務を終えた後は、機密扱いで所在不明となっていたのだ。

「オプション装備で色々な環境に対応可能な風に設計されていた機体でね。今、出回っている機体の先駆者と言えるよ。これは思わぬ掘り出し物だなぁ」

リストにRX-78-7を書き加える。メカトピア戦に使われたフルアーマーガンダムもそこから持ちだされたと推測をする。

「そうか、ここは機密扱いになった機体の保管場所にもなっていたんだ!だからRX-78系があるのか!」

ガンダム7号機の隣には、なんとフェイクとされていたPF-78-1『パーフェクトガンダム』、その更に派生機である赤いガンダム『レッドウォーリア』までもが完成した状態で置かれており、プラモ狂◯郎ファン感涙モノの光景であった。

「うわぁ、なんか強そうですね」

「まぁ、一年戦争当時の連邦の技術の粋を結集して造られたものだからね。しかし、どこにそんな予算あったんだろう?」

コウが疑問に思うのも当然だった。PF-78は元は20世紀後半の日本の漫画にあったもので、それを後年になって、軍が本気で造るとは誰も思わなかったからだ。素体のRX-78にも手が加えられているようで、オリジナルと比すると増加装甲の取り付け用の部品がある。

「あ、これは……当時のマニュアルじゃないですか?」

「本当かい?どれどれ。ん、本当だ」

「なんて書いてあるんですか?」

「そうか、英語だからね。読むよ」

――そのマニュアルによれば、一年戦争が終戦を迎えた頃に、FSWS計画から分化して生まれた『パーフェクト計画』の下に生まれた機体で、S級軍機になっていたため、高官ら以外は誰も知らず、デラーズ紛争の際に投入が検討されたが、保守派の反対で潰えたのが、当時の関係者がマニュアルに挟んで残した手記で明らかとなった。

「計画は構造をシンプルにした3号機『レッドウォーリア』を完成させた段階で終了、グリプス戦役以後の技術の進歩もあって、忘れ去れたのか。……使えそうだな」

RX-78の系譜達の墓場とも言える相模総合補給廠。それらは戦力不足のパルチザンには貴重であり、直ちに運び出される。その為、ガイアの第二格納庫は、古今東西のガンダム系だらけとなったのだった。また、無人となった三菱重工業の研究施設には、これまたすごいのが置かれていた。

「隊長、格納庫にガンダムが一機あります!」

「何?」

こちらは黒森峰女学園の西住まほと逸見エリカ。彼女らが発見した機体は……。

「何々、RX-78-6V4『マドロック・テスター』……。テストベッド機として使い倒されて、用途廃止になったRX-78-6を三菱が引き取って改造したもの……ここに置いていくのはもったいないな。アムロ少佐に連絡して持って行ってもらうぞ」


――その機体は『RX-78-6』の後身と言える機体で、外見上はそれほど変わってないが、三菱が構造・駆動系のテスト機として改造したものだった。中身はかなり手を加えられており、そもそものコンセプトである『砲撃機と汎用機の混合、ライフルのエネルギー切れの時の固定装備増強と火力維持』が薄れ、むしろ『白兵突撃用MS』となっている。まほはアムロに連絡を取り、回収してもらった(自分達ではMSの操縦は不可能なので)。

「隊長、本当にここはあんな巨大ロボットが主流なんですね」

「宇宙戦争の時代だ、従来の発想に縛られない宇宙生まれの人々が考え出したという。その威力は戦車を裏方へ追い落とすほどのものだ。お前も見ただろう?あの時に」

「ええ。でも、SF映画見てるような気分でしたよ」

「だろうな」

MSの戦闘は両名共に、大会時に目撃してはいるが、現実味が無かった。だが、こうして実物と向かい合うと、巨大さに圧倒される。

「こんなものが闊歩しているんだ、こちらもそれなりの運用法を考えなくてはな」

「そうですね。前面装甲は戦車砲なんか弾きそうですし」

まほは戦車でMSに対抗する為の戦闘法を探っていた。背面や脚部を狙い撃つなどである。この時代にもなると、連邦軍とジオン残党、ティターンズ残党軍以外の組織は戦車を運用しておらず、戦闘車両を軽視していた。その為、かつてのクロスボーン・バンガードとザンスカール帝国は戦車を『旧時代の遺物』と侮り、逆に返り討ちにされた事例が多い。これはビームシールドを過信した事、小型機の多くは戦車に背部を撃たれる事など措定していないため、意外に多くの機体が戦車砲に屈している。

「さて、回収した戦闘車両で帰るぞ。」

「動くのがあって良かったです。でも、なんか変な形ですよね?」

「原型が初期型のMSだったのを、戦闘車両に先祖返りさせる形で造られたらしいからな。背が高いのが難点だが」

ガンタンクUを動かし、ガイアへ戻る二人。ガンタンクUは純粋な戦闘車両として見るなら優秀で、コンソールも洗練されていたため、戦闘車両を日頃から運転していた二人には操縦しやすかったのだ。結局、ガイアに持ち込まれた機体は、ガンタンク系が20機、回収されたRX-78系は全機であった。第三格納庫は戦闘車両用に割り振られ、ガンタンクを含めて50両ほど(パーツ状態含め)の戦闘車両が置かれる事となった。武子はまほやみほからの報告を受ける。

「以上です」

「ご苦労様。ガンタンク系で使えるモノはそちらの班に回すわ。訓練をしておくように」

「了解です」

「それにしても、まさかガンダム系があるなんてね。驚いたわ」

「私達も驚きました。まさかガンダムタイプの古めのものが相模総合補給廠にあったなんて」

「将来的に解体するか、博物館行きにするつもりで置いてあったんでしょうね。ウラキ中尉からも報告を受けたけど、まさか超レアなパーフェクトガンダム系まで実機があったとは……。パイロットの割り振りも考えないと」

「なんでですか?」

みほが言う。

「兵器本来の在り方には反するのだけど、ガンダム系は基本、高性能を追求した代償として、乗り手を選ぶ傾向なのよ。だから、ガンダム系を使おうとすると、必然的にエースパイロットが必要なのよ。そこが悩みどころよ」

武子の持論が見え隠れする発言だった。兵器は『新兵でも使いやすいようにする事』と考える武子は、MS、とりわけガンダム系の通弊と言える『高性能とのトレードオフの高難度の操作性』を快くは思っていないのだ。

「大佐は兵器を扱い易くするようにしたいのですか?」

「ええ。特に私達の故郷の国は、旧日本軍と同じで、ある程度の読解力がないと読めないような兵器マニュアルが蔓延しててね。外国みたいに『漫画を取り入れて、分かりやすくする』事なんて二の次なのよ。だからなんとかしたくて。複雑な機構もいいけど、動くのが先よ」

「戦車で言えば、パンターよりもW号を使いたいようなものですか?」

「そういう事。パンターなんて足回り弱いでしょう?」

「確かに」

武子は兵器に対しては、性能よりは信頼性と操作性を重視する考えのようである。MSでは、ワンオフの高性能モデルよりも量産型が好みのようである。みほとまほは武子に同意する。それは両者共にドイツ軍系戦車を使い、みほも黒森峰時代は信頼性が低い戦争後期のパンター戦車よりも信頼性があるW号後期型をワークホースにしていたからだろう。武子は思わぬ同志の獲得に内心、小躍り(腹心の部下である黒江はどちらかと言えば性能重視であるため)して喜んだ。



――この日に回収した機体は、アナハイム・エレクトロニクスも協力してのレストアがなされた後、武器の一部を現行品に換えられ、一線に投入されていく。特にRX-78系は士気高揚効果もある事から、エースパイロットが用い、相応の戦果を以ってその優秀さを示すのだった。



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