ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――圭子は短期留学名目で、戦車道世界から、プリキュアへ覚醒していた『該当者』を連れてきて、プリキュアとしてのキャラ名(正確に言えば、前世での名前か)で軍籍を与えたわけだが、彼女たちから、戦車道世界がどうなったか。それが伝えられた。まず、戦車道連盟は大洗女子学園の廃校騒動が圭子によって外部に知らしめられた結果、文部科学省はある役人に責任を極限させる形で問題を収束箚せたかったが、大学選抜が負けた事で、大学戦車道のレベルが疑われる事態になるなど、予想外に事が大きくなった。『現世代の大学生はパーシングやセンチュリオンを用いても、高校生に勝てない』というセンセーショナルな記事が踊り、一般大衆からの戦車道連盟への批判が飛び、窮した戦車道連盟、ひいては文部科学省は圭子の要求を呑んだというわけだ。(三年生組がすぐに大学に入るのが救いではあったが)


――ベクトラ 士官食堂――



「でも、ケイ先輩。どうやって、ありすちゃん(西住みほ)のお母さんを説得したんですか?」

「智子にやらせた。若い頃のしほは智子に瓜二つだったんで、面白いだろうと思ってよ」

「それで?」

「そこのまほはミーナに転生したのと別個体だから、協力は期待できないから、しほの弱点をミーナに聞いといたんだよ。それを智子に教えてやった」

のぞみにケイが教える。しほは厳格であるが、意外に子煩悩である事を夫には知られており、まほは父親っ子だった事で、父から情報を得ていた。智子がどんな交渉をしたのかは想像するしかないが、いくら西住流の師範や家元と言えど、実戦経験者には及ばないはずである。それに、みほに起こった変化は『その世界のまほ』も感じ取っているはずで、自分のいない間に、みほと行動を共にしていたドイツ人』(ミーナの事)を調べ回っているのは想像に難くない。実際、ミーナが休暇で戦車道世界を訪れていた時間軸は相田マナの覚醒前であったので、まほ当人にバレはしなかった。だが、既に覚醒した蒼乃美希がダーリジンの姿でミーナに接触し、自分がかつてのプリキュア戦士であった事を伝えた際の姿が目撃されていたのである。

「その時なんですか、美希ちゃんが覚醒めてたの伝えてきたの」

「7人ライダーがちゃっちゃと片付けたから、言う機会が無かったとか言ってよ。一年くらい生活してたそうだぞ」

「つまり、当事者だったら、変身して戦ったってことですか?」

「そうだ。あ、ミルキィローズはカエサルの姿で戦ってたぜ?」

「うっそぉ、何やってたんだろう、くるみ…」

「大洗女子学園の制服姿で、ミルキィローズのパワー出してたぜ。今から考えれば、だけど」

圭子の言うところによれば、カエサルは自分の自我を保ち、ミルキィローズの力と記憶を取り込んだ節があり、変身せずとも、ショッカー怪人を、無駄にエフェクト出しながら倒していたとのこと。カエサルが美希(ダーリジン)を通して伝えたところによると、みほ達を守るため、見えないところで『ミルキィローズ・ブリザード』を使用したと明言しており、美々野くるみというより、彼女の力と記憶をカエサルが引き継いだと言うべきだろうという。

「ただし、ミルキィローズの記憶と能力を得たカエサルって体裁らしいから、美々野くるみの要素は殆ど残ってないってよ」

「えー!ややこしいけど、わたしと逆になったって事ですか?」

「そうなるな。ミルクは個性が薄いが、カエサルは濃いからな。それで人格がカエサル主体で統合されたんだろうよ。魂の馬力、というかトルクの違いだな」

生前の人格を保った者達と違い、カエサルの個性がミルク(美々野くるみ)より強かったので、ミルキィローズの力は実質的にカエサルに引き継がれた。生前の記憶も残っているため、ダーリジンと組み、『P同盟』という連絡網を構築するのに一役買っていた。その中での遅参が相田マナ/キュアハートである。早くに覚醒していたうららと美希は生前に芸能活動をしていたので、演技はお手の物だったが、美希はダーリジンの薀蓄癖に苦労していたため、大学選抜チームとの試合では見せていない。うららはナオミが無口な方であった幸運とポジションの関係もあって、戦車道は楽しんでおり、ナオミのキャリアの半分近くはうららの自我覚醒後のものである。また、リーダーのノリにも『のぞみさんのおかげでついていけた』と告白しており、意外にのぞみはうららの新生活に貢献していた。

「うらら、砲手やってたって事は戦車の扱いを覚えたの?」

「女優の頃はそういう役なかったんで、覚えました。コツさえ覚えれば簡単でした。3000くらい先のM4はパンターで撃破できます」

ナオミとしての名声の半分くらいは自分で築いたとも言い、第二次世界大戦の戦車での行進射も出来るとさえ言ってのけた。

「地球連邦軍の最新戦車だったら、ドムでも擱座させられますね、たぶん」

「えー!?」

「ドムはコックピット周辺のバイタルパートは240ミリキャノンに耐えられるけど、それ以外のとこはホバーの兼ね合いで意外に薄いんだよ。うららの言ってる事は間違いじゃねーさ。地上の連中はロトで強襲部隊に組み込まれて、空間騎兵やエコーズ出身に混じって、空挺降下とかしてるかんな。お前ら、乗るの考えとけよー」

「響さん、ナイトメアフレームのデヴァイサーの経験があったんですね…」

「あたしはナイトメアフレームじゃなくて、別の作品のサーフボードに乗ってるほうを考えてたけどなー。紅月カレンが奴の前世だ。ルルーシュとスザクに除け者にされたのを愚痴ってるぜ」

「ゼロ・レクイエムのことですね?」

「のび太にも愚痴ってるから、納得できなかったんだろ?お互いにいがみ合って、戦ってたのに、最後の時だけ結託してたのが」

「のび太君が言ってたけど、それでルルーシュ・ランペルージが納得してるのなら、いいじゃないかって宥めてた。響、よっぽど『除け者にされた』事が納得できなかったんだね」

「と、言うよりは、C.Cと同じように『共犯者』にして欲しかったんだろうさ」

北条響の、紅月カレンとしての心残りが『共犯者』に選ぶこともなく、スザクとの密約を黙って実行し、この世を去った『ルルーシュ・ランペルージ』への気持ちである事は、のぞみやうららにもバレバレであった。のび太に何度か漏らしていたのもあり、想いはバレバレであった。北条響はナイトメアフレームのデヴァイサーとVF/ゲッターパイロットを兼任する事は既に決められている。

「そう言えば、みらいちゃんとリコちゃんの蘇生は終わったんですよね、先輩?」

「終わった後、のび太んとこで数週間くらい静養させて、厨房係/雑用係として呼んでる。次の週の補給船に乗る手はずだ」

「はーちゃんが20年くらい、のび太君とこで暮らしてたのは?」

「二人共知ってる。タイムマシンがややこしいとか、リコがパニクってたぜ」

「その間、はーちゃんに色々と手づだってもらってましたもんねー。第3世代理論のシステム完成の被検体とか」

「あのシステムははーちゃんのデータ無しには成立し得なかったしな。みらいが怒ってたが。ん?おい、よく考えてみりゃさ、野郎、声が『マシュ・キリエライト』に似てねーか?」

「あー!わたしもそれを考えてたんですよー!どっかで聞いたようなって…」

「あいつにクラスカードでも渡すか?」

「マシュみたいになりますかね」

「みらいにゃ悪いが、これもデータのためだ」

「そうなったら、協力しますよ」

「頼んだよ、うらら」

と、良からぬ実験を企む圭子とのぞみ、うらら。と、そこへ。

「ふひー。報告終わったよ〜、のぞみちゃん。はーちゃんと美希たんにも手づだってもらってさー」

「ラブちゃん、時間かかったね?」

「報告することが山程あったからねぇ……」

「まったく。ラブ、貴方は生前と変わらないわね」

「美希たん、昔はコーヒー党じゃ?」」

「あら、紅茶も美味いのよ?ラブ」

ダーリジンとしての生活で、蒼乃美希は聖グロリアーナの風習に少なからず影響され、紅茶を嗜むようになっていた。蒼乃美希としての姿になっていても、ダーリジンとしての癖が出ているとも言える。また、先代の代理であった『アールグレイ』の世話係であったとも言っているので、蒼乃美希は少なくとも、一年ほどダーリジンとして戦車道に打ち込んだ事がわかる。しかも、アールグレイの後継の隊長の座を勝ち取っているため、生前の完璧主義がいい方向に作用したのだろう。

「でもさ、美希たん。生まれ変わった先で、よく戦車道の隊長になれたね?」

「努力はしたわ。それに、私の性格は知ってるでしょう?」

「あー、昔はよく『私、完璧!』、なーんて言ってたね」

「先代のアールグレイ様には振り回されたけど、苦節一年とちょっと……!」

「おい、うらら。どーゆこった、これ」

「あそこの先代隊長、変わり者でして…」

聖グロリアーナにも『変人』はいる。ダーリジンが後継した先代の隊長『アールグレイ』がそうだ。普段は模範的な生徒だが、戦闘になると豹変した。マルセイユに近い容貌を持ち、奔放な性格でスピード戦法を好んだ事で名を残した。美希とうららは彼女の在籍中にそれぞれ関わり合いを持っており、美希は後継として隊長の地位を継ぎ、うららはみほにダーリジンがしたのと同じことの経験(ようはセット一式を送る)がある。二人は戦車道で名を馳せた都合、装甲戦闘車両に精通しているのである。

「なーるほどな。でも、お前ら。今や戦場の主役は人型ロボットだぜ?ガンタンクはもう残ってねぇから、やっぱロトかねぇ」

「それですかね、やっぱり」

「あ。注意事項を伝えとくぞ。これからお前らも味わうと思うが、21世紀からのバッシングがくることは覚悟しとけ。のぞみはもう味わってるが、あたしらを含めての『Gウィッチ』は『死を乗り越えた存在』だ。おまけに、何かかしらのチートが出来る。『人間の群れ』のルールに沿う必要はあるのかってのは序の口だ」

「のび太くんも終生、気にしてた事ですからね。わたし達へのバッシングは。『ルールに従うこと』ってのは、赤ん坊でもわかる事なんだけどなぁ」

「そうでないと、社会は成り立たないんだがな。オリンポスにもあるんだぞ、ルールは。神々にでさえ縛られてるんだからな。強者が弱者を踏みにじるなんざ、ただのケモノじゃねぇか、人としての仁義通して、ルール守る事の何が不満だってんだ。チート?だからって、好き放題したら邪悪そのもの、バダンの同類とかに成り下がっちまうじゃねぇかよ」

「そうそう。プリキュアの力を持っただけで、ずるいとか上から目線とか言われたし…。ほんと、キレそうになりましたよ」

「ある戦争でヒイロ・ユイはゼクス・マーキスに言った。『強者など、どこにもいない!人類全てが弱者なんだ!』ってな。その通り。あたしたちだってそうだし、イギリスのあの吸血鬼もだ。綾香なんて、寂しい、別れたくない、すがりつく誰かが欲しかったから、転生を繰り返したんだぞ」

圭子は前史でゲッターと一つになっている。そのおかげで、黒江がドラえもんとのび太を求め、歴史を変えてまで『絆』を求めた理由の根幹を悟った。黒江は失いたくないモノが多すぎた。更に、周囲の扱いの変化に耐えられなくなった事から発症した極度の『英雄願望』と、母性を満たす誰か。そして、明確に親友と言える誰か。Gウィッチになった根幹は、この『身勝手』とも取れるほどの強い欲求。母性を求め、竹馬の友がほしいという世俗的な理由にある。智子と坂本が行いに罪悪感を持ったのは、智子は二度目の転生での死で、坂本は事件を起こした時に、それをようやく理解したからだ。坂本が今回はひたすら黒江の味方であるのは、そのピュアな感情への罪悪感と感動にある。

「先輩はどうして、黒江先輩のそばに?ゲッターの使者なら…」

「あいつの泣き顔が忘れられなくてな。前史で自爆かましたんだが、その時に『私を一人にするのか、ケイィィ〜!』って泣いたんだよ」

圭子は今回はゲッターの使者としての存在に昇華ずみであるため、肉体は意志を伝えるための端末、器に過ぎない。そのため、黒江のもとから離れる選択もできた。だが。

「その後、だいぶかかって戻っちゃ来れたが、アレだけ大泣きされると流石に堪えるわ。だから、智子のやつにお灸添えるのも兼ねて、そのままになった。あいつ、ガキみてぇに喜んだしよ」

「先輩、見かけによらず、子供みたいに可愛い面ありますからね」

「あ、コレ、内緒だけど復活後の再会した時に三日三晩だいしゅきホールドで泣かれたんだぜ?おかげで腕が痛くなった。こんなわけで、日本の連中のクレームになれとけ。本当は転生を嫌がったのび太にそうさせちまったんだ。のび太は、あたしらのために考えを改めたんだからな」

のび太は大山トチローのような『意志の存続』を願う一方、転生には否定的であった。だが、日本連邦になっても後の絶えないバッシングを重く見、運命の女神の神託を受け入れた。のび太は『ドラえもんも統合戦争で消えてしまう。なら、理解者の自分が彼女たちを守らなくてはならない』という決意を壮年期にし、死期を悟った頃に調に告白した。のび太としての苦渋の決断である。のぞみ、はーちゃん、調、響などののび太と親しいGウィッチは、そのことに強い負い目を感じている。『自分達の弱さがのび太を自分達の道に引きずり込んだ』と。粗野な圭子がのび太の転生のことになると、途端に死んだ魚の目をするのは、その負い目が理由だ。のぞみの暴走も、のび太への負い目が理由に入っている。のぞみはダイ・アナザー・デイ以来、のび太を強く慕っている。その優しさに、のび太をかつての恋人『ココ』と重ねた面もある。先代のプリキュアであった五人。つまりは、なぎさ、ほのか、ひかり、咲、舞が不在であるが故のプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。更に、圭子が言うようなGウィッチへのバッシング。その苦しみを分かち合ってくれたのがのび太だ。

『強い弱いとか、1人で出来る枠で括っちゃだめだよ。僕だって、鉄砲以外に役に立つ技能は大して持ってないんだ、腕っ節なら、並の下だしね。神々の加護や仲間が居なきゃ、どこにでも居るへタレ男さ。僕らの本当の強さはいざと言う時助けてくれる仲間が居る、その絆こそが僕らの力なんだ。だからそんな申し訳なさそうにされると悲しいよ』

のび太は最期を迎える時、死の床に居合わせた面々にこう言い残した。のぞみもその中に居合わせた。

『皆には希望を持って生きてほしい。なーに。涅槃にいる婆さんとおふくろ達に会いに行くだけさ。必ず、君達の元に戻るよ』

その言葉通り、のび太は『ノビ少尉』として蘇った。自分達の盾になるために。一同はのび太に『そう』させてしまったが故の負い目と向き合っていく。人としての『弱さ』は如何に存在が昇華しても変わらない。それがGウィッチが持つ『ヒト』の強さと弱さ、『英雄』としての不死性の複合である。『弱さがあるからこそ、高みを目指せる』のだ。(のび太は銃の腕だけで裏世界でトップクラスに登りつめたので、ある意味では、彼女たちの素のスペックを既に超えている。ゴルゴもスペックがショッカー大首領も喉から手が出るほどのものだが、神であろうと鎮魂歌を聴かせるという彼に、配下のネオ・ナチを尽く、壊滅させられたために断念している)

「そう言えば、Mr.東郷は?ダイ・アナザー・デイで、ティターンズの打ち上げたミサイル衛星を落としてましたよね?」

「彼には、バダンの末端に当たる、ネオ・ナチ組織の掃討を旧・イスラエルのモサドを通して依頼した。ここ数日以内にモサドから報告が入るだろう」

「23世紀でもいるんですか、ネオ・ナチ」

「いるんだよ。21世紀の移民増加の負の影響で勢いを取り戻したんだ、連中。23世紀になっても、統合戦争の負の影響が祟って、欧州と南米で一定の勢力を持つ。ヒーロー達には頼めないだろ、こういう類の仕事は」

「確かに。こういう人間の負の側面の仕事はのび太君や彼の役目ですからね」

「それと、21世紀ののび太から届けもんだ。Mr.デイブが制作したカスタム銃を渡しとく」

のび太はデイブ・マッカートニーとも関係を持ち、彼からは『若いの』と呼ばれていた。ゴルゴの友人ということで『変わってるのぉ、若いの』と言われている。デイブ・マッカートニーはゴルゴの無茶な依頼に毎度毎度、付き合わされるため、のび太の依頼程度は『そこらのチンピラでも出来る』と豪語し、『正確無比なこのワシの仕事を求めているわけだな』と気を良くするなど、デューク東郷の依頼が普通のカスタマイズ屋にとっては無茶な依頼である事を示している。ゴルゴの縁の下の力持ちという事で、彼も二人の恩恵に預かっている面もあるが、あの東郷が愚痴も許してほどの信頼があるため、のび太の依頼は数時間もあれば出来るらしい。のび太はJIS基準合わせ位の要求で済ませてはいるが、その精度を手作業で作れるのは、彼やベリンガー、その弟子筋たちしかおらず、十指にも満たない。

「ベースはなんですか?」

「スタームルガー スーパーレッドホーク。のび太は大人になると、構造がタフネスなこいつを好んでる。護身用に持っとけってこった」

「のび太君、大口径の好きですね」

「西部開拓時代に行く以外なら使ってるからな。今回でも一緒だ。ネオ・ジオンの連中に勝つには、強化人間の肉体反応の上限を超えないとならん。のび太曰く、強化人間の反応速度には上限がある。そこを突けるくらいにならんといかんぜ。東郷は突けるからな」

「わーお。大口径は好きですよ?ストッピングパワーあるし。うららはワルサーでいいの?オートマグとかさ」

「オートマグ、評判悪いんですよ?その界隈じゃ。とある漫画で、某ドイツの少佐が持ってるけど、実際はジャム起こす率高いんですよ」

のび太は壮年期に新世代の手術で視力が回復するまでの時期は乱視も入った近眼であり、絶頂期である青年期はそのハンデで裏世界を席巻したことになる。英霊としての能力でハンデを補っていたことになるので、それが完全になり、視力のハンデもない『ノビ少尉』としての能力であれば、デューク東郷に肉体的にも並び立てるという。実際、ノビ少尉は士官学校を出て間もない19歳(デザリアム戦役開始時)という若さながら、射撃大会では地球連邦軍史上稀に見る好成績をマークし、『次代を担う俊英』と期待されている。のび太と彼はオートマグは使っておらず、作動が確実なリボルバーのマグナムを推奨している。

「それと、あれは専用弾薬がいるから、裏仕事には向かねぇよ。改造すりゃ良いが、専用弾薬がネックだ。うららの好みの二丁拳銃はワルサーかベレッタがいい」

「そう言えば、先輩は30年代のうちからベレッタですよね」

「まーな。使いやすいしな。こいつを防衛省に見せたら、渋い顔されたけど」

「防衛省はなんで、拳銃を統一したがってるんですか?」

「メーカーの都合や、メディアに叩かれやすい、古い南部式を駆逐したい考えだよ。士官は個人で調達してたの知らねー内務系の馬鹿の物言いだ」

「申請しといたんですけど、扶桑は国産のほうが少ないはずなのに」

「ウチが外征軍隊なのを一考だにしてないんだよ、内務の馬鹿ども」

「警察の連中がどうして、装備調達にまで口を挟むんです?」

「警察予備隊の頃からの伝統だ。内務系は自衛隊を『戦争ごっこ遊びの連中』と思ってるし、うちらのことも侮ってる。綾香も20年の自衛隊生活で『内務は無能』って愚痴ってるし、うちらを旧軍と同一視してるん連中も多い。海保もそうだ」

「ウチの世界じゃ、潜水艦よりも空中の怪異が怖いのに、時代相応の海防艦の建造を強引に止めたとか、海軍の友達が愚痴ってました。設計の方に行ったんで、その方面の愚痴聞けるんですよ」

「ったく、あいつらこそ旧軍の水路部と護衛総隊の成れの果てじゃねぇかよ。予備士官が兵学校卒より扱い悪かったからって、海援隊の組織まで口出ししたり、連合艦隊の第二艦隊を活動停止にさせるか?」

デザリアム戦役の時期はウィッチ世界では、クーデターから五輪/万博までの数年の期間にあたる。クーデターを理由に、海軍航空隊の空軍への統合をしようと目論む、海防艦を自衛隊式の汎用護衛艦、対潜護衛艦の生産で統一しようとするなど、ウィッチ世界の実情と合わない軍備整備をしようとしていた。自衛隊式の護衛艦は『装甲を持たない』ため、派遣された艦艇が現地で改修されていたり、現地で改設計がされたケースも多い。戦艦が生きている世界だからだ。

「第一、戦艦が生きてるからって、2010年代後半に護衛艦の戦艦との交戦を問題にしたの、野党なんだぜ?馬鹿じゃねーの」

「護衛艦は駆逐艦だし、甲巡と戦艦との交戦なんて、本当は考えてないはずなんですけどねぇ」

圭子とのぞみが言うのは、ゲートの警備の護衛艦が時たま、リベリオンの艦隊と交戦していた事を野党が問題視した事だ。自衛隊はこの交戦のデータを『戦艦対策』として使用しており、2000年代後期頃には『無力化』させる事で一定の成果を挙げていた。だが、革新政権が『戦艦と戦わせると、折角の機械がダメになる』という理由で禁止してしまった。理由としては、『戦艦、巡洋艦の主砲で轟沈するし、ミサイルを使うと億単位で金が飛ぶから』という事が表向きの理由にされた。実際は『条約型巡洋艦までなら、ミサイルで事足りるし、戦艦は武器をフル活用すれば、無力化させられる。沈めるのは無理』という見解を革新政権が『近代装備の名折れ』と怒鳴りつけて無視したためである。戦艦は自衛隊の武器であれば、バイタルパート以外の破壊は容易い。そのため、2008年頃、一佐だった頃の黒江にF-2戦闘機のパイロット達は『大和型以外なら、数発でみんな黙るよ。大和型も時代相応の装備なら3発でいい。お前ンとこの魔改造はオカシイ』と口を揃えていた。

「23世紀基準で改造されたり、作られた戦艦以外なら、対艦ミサイルを三発ぶち込めば、戦闘能力を無くすんだぜ?そうでなきや、ティターンズのライノが比叡とかを破壊できんだろ」

「そうですよね〜」

「23世紀の戦艦が異常に強いのは、金属がただの鉄じゃないし、遥かに強い金属の複合装甲や多重空間装甲のおかげだぞ?10000以下の近接戦闘なんて、そうでないとやれっかよ」

「ダイ・アナザー・デイの時、扶桑の新戦艦に大した被害なかったのも、そのおかげですもんね。艦政本部も相当に困ったみたいですけど」

「戦艦が単騎突撃するなんてのは、宇宙戦艦の時代だって、ワンオフの高性能モデルでないと無理なんだぞ?ドレッドノート級とかは艦隊単位での運用前提だしよ」

「先輩たちはなんで返してるんです、そういうバッシングしてくる連中に」

「漫画か、仮想戦記の読みすぎだって言ってやってる。戦艦は二隻でワンセットだぞ?ラ號も二番目の計画あったんだし」

「え?あれをもう一隻?」

「開戦時の計画にあった。その時には『轟天』っていう二番艦が、きちんと計画されてたみたいなんだよ」

「つまり、敷島はその?」

「ああ。リベンジだ。ただし、名前は日本の美称になったけど。あと二隻は追加予定らしい」

「ラ號って正式な?」

「いや、計画名がそのまま定着しただけで、本当は『豊葦原』を予定してたそうだ。そうでないと、姉妹艦の『轟天』と規則性が見いだせねぇよ」


「だから、20インチ砲が?」

「M1作戦がなきゃ、完成させてたし、過剰に空母造ろうとしたの、井上さんのせいだしな」

「あの人、なんで叩かれたんです」

「戦略爆撃の日本での推進者だし、海軍を空軍化させようとして、陸に軸足を移したら、実際は何の成果も挙げなかったしな」

井上成美は自分でも言っているように、戦略家でなく、官僚に近い気質の持ち主で、『実際に成果挙げなかっただけで、鬼の首を取ったように言われたくない』と愚痴っている。彼が空軍に移籍した理由の一つがバッシングなのは間違いないと囁かれているように、彼は空軍への認識が『統合任務部隊』程度の認識であったのも、45年からの日本からのバッシングに繋がった不幸がある。

「それに、たまにいるけど、イギリスは戦艦を『抑止力と支配のための象徴』って見てるって類の論評出すのが面倒なんだとさ」

「なんでです?」

「英国系の戦艦は戦闘を『継続的に行える』軍艦であって、艦隊決戦に特化してないって奴。ブリタニア見ろ、砲の製造能力がありゃ、作ってんのに。綾香なら細かく説明出来るが、東アジアに利権を持っていたから、香港とシンガポールというインド洋と、太平洋においての重大寄港地を抑えていたのが大艦隊を維持していた理由だ。戦後に無くなった後に予算削るのは当たり前だ。それに、英国系国家、ああ見えて、外聞気にするんだぞ?クイーン・エリザベスUを揃えた理由の半分はそれだ」

「そう言えば、海軍提督たちが大和を見た時、対抗心燃やしてたの聞いた事が。任官間もない頃だったかなぁ。リバウの時」

「ブリタニアの提督達はネルソンになりたい連中も多いんだぞ?そんな連中が大和を見て、対抗馬を欲しがらないはずはねぇ。ある提督は『我がブリタニアならもっとスマートに作れる』って大和の風体を述べてたしな」

圭子はモンティのラインでブリタニア海軍ともコネを持つため、ブリタニアがクイーン・エリザベスUを揃えてもらう前の設計案を見た事がある。ブリタニアは海洋大国としての威厳を保つため、個艦性能の水準を引き上げる事を志向していた。これはブリタニア海軍の主砲口径が扶桑とリベリオンに比べ、小口径化した事を危惧する艦隊決戦派が進めた動きである。扶桑が大和型を増産したのも、彼らが46cm砲の開発を目指している事が判明し、それに呼応した各国が16インチ砲を搭載するモデルを検討し始めたからである。条約の枷が外れば、怪異撃滅を大義名分にして主要国は新戦艦を造る。当然のことだ。ブリタニアも例外なく、大口径砲を志向した。しかし、よもや、扶桑が46cmを積むとは夢にも思わなかった。これは規格統一に大いに支障をきたすと文句が出たのだが、扶桑はもろ他の理由で加速度的に大口径化し、ついに限界点に行き着いてしまった。56cm砲。ここまで来ると、列車砲と同等であり、機力を用いないと装填不可能である。地球連邦軍のバックアップなしに、実現は夢物語。弾頭重量も3トン近く(徹甲弾)に増大し、ダイ・アナザー・デイでは当たっただけでノース・カロライナのキールを歪めた。これは地球連邦軍が次期旗艦『ブルーノア』に載せるショックカノン砲塔のテストも兼ねていたからこそ、実現した。地球連邦軍も大口径化の限界は56cmと定め、その限界試験を兼ねて制作した。わざわざラインまで設けた投資をしたのは、ショックカノンの第1世代の限界点が見え始めた時代でもあったからだ。30世紀には遥かに大威力を誇るパルサーカノンへ代替されたが、27世紀まではショックカノン全盛期である。プラズマ化は大型化の限界を知った地球連邦軍が高エネルギー化を模索して生み出す第二世代ショックカノン理論である。それがある時代に最終世代のグラビティ・ショックカノンに発展し、最終的には『より優れた』パルサーカノンに置き換えられる。23世紀の時点で実用化されるのは、プラズマ・ショックカノンまでである。黒江達がパルサーカノンを先取りしたのは如何に凄いことか。パルサーカノンであれば、23世紀製超合金Zの60cm装甲を低出力で貫通する。拳銃ほどの大きさのものでも、マジンガーZのバイタルパートをぶち抜けるということになる。ちなみにキャプテン・ハーロック曰く、46cm砲サイズのものであれば、最大出力で火星ほどの惑星を破壊できるとのことなので、戦艦も30世紀には惑星を破壊可能な火力を持った表れである。

「大艦巨砲主義も極端になると、パルサーカノンまで行き着くしな。ショックカノンにしたって、あと二段階の世代交代が控えてる。今はヤマトに積んだ世代の限界点についた時代。ある意味、技術的には凄いことだそうだ」

「宇宙戦艦ヤマトって、どれだけ戦ったんですか?」

「今回はガイアのヤマトを身代わりにして大ヤマト化させたいらしいから、初代ヤマトとしての艦歴は長くないな」

「大ヤマト化?」

「ヤマトの改装はその前準備のためで、水惑星アクエリアスの一軒で、映画と同じように自沈したと見せかける計画。ガイアの一部も巻き込んでの遠大な計画だそうだ」

「つまり、あのゲスいシュメール人の末裔連中との戦いでヤマトを除籍に?」

「そうしたほうが新造戦艦の予算取れるから、らしい。ヤマトは英雄だけど、戦役の度に大損害受けまくるのを直して使ってるから、外はともかく、竜骨とかにダメージ入ってるらしいんだよ。白色彗星帝国の戦いの時の損害が響いてるから、で、ハーロックから未来の情報が入ったから、あいつら…、えーと、だったけ」

「ディンギル帝国です。確か、前世でお父さんが見てたDVDで」

「おー!それだ、それ!その時に映画と同じように沈んだことにしようって腹。ガイアのヤマトを身代わりにして」

「つまり、一矢さんや宙さんの地球のヤマトを使うってわけですね?」

「ガイアには悪いが、こっちのヤマトは英雄艦だ。地球を守るために自沈でもしないと、国民が納得してくれないんだと。除籍に」

「宇宙戦艦ヤマト一つで、てんやわんやしてないですか?それ」

「仕方ねぇよ、大洗女子学園の廃校騒動と同じだ。英雄を納得する形で退場させるには、相応の舞台が必要なんだよ。この場合は水惑星アクエリアスだ。もっとも、大洗女子学園の場合は、お前らが頑張って倒したから、大学選抜チームの実力が疑問視されちまったが」

「そういうものなんですか?」

「そうだよ、うらら。大洗女子学園の騒動ってさ、文部科学省と戦車道連盟の思惑が原因なんだから、それが白日の下にさらされて、しかも史上最強レベルの大学選抜チームで負けたんだよ、いくら三年生がすぐに大学に入るからって言ったって、この事実は曲げられないじゃん」

「確かに。それで私達の留学話を?」

「そうだ。意外に簡単だった。文部科学省の暴走と敵意が大洗女子学園を廃校に追い込もうとしたってバラされれば、時の政権は誰かに責任を負わせるだろうし。何よりも、競技そのものの存在意義が否定されて、連盟のプロリーグ設立の夢も潰える。そこをあたしは突いて、連盟を脅した。綾香がネタを持ってたからな。怒った大衆は政権もひっくり返すからな。連盟もそれを恐れたんだよ」

「でも、一度交わした口約束をどうして反故に?」

ラブも気になっているようだ。

「これはあたしと智子の推測だけど、たぶん、連盟の連中はありすが起こした『奇跡』のノウハウを西住流の系譜とメソッドを継いだ部員を他校に振り分けて、各転校先で戦車道を履修させる事で日本戦車道の拡充を図ろうとしたんだろうが、生徒の事を一考だにもしていないから、ばれりゃ、連盟と文部科学省の担当者のクビが飛ぶ。試合にお前らが勝ったんで、島田流にもバッシングが出てきてたから、事を大きくしない代わりに、お前らの留学を取り付けた。ただ、どの道、あたしが週刊誌に垂れ込んだから、文部科学省の誰かは責任を取らされるはずだ。島田流の評判にも関わる事だし」


圭子の言う通り、圭子が情報を流した事で、文部科学省の役人は誰かどうか責任を取らされるだろうし、高校生に負けた大学選抜チームも少なからず、バッシングを受ける。圭子は大学選抜チームの隊長と副隊長達を引っ張れないか模索している。つまり、社会人チームに勝った大学選抜チームが高校生に負けたという事でのイメージ低下の危惧につけこむのである。プリキュア達が従軍する際に起こった島田流戦車道のイメージ低下の対策という形だ。文部科学省は政治による自分達への人事介入を恐れているので、圭子にとって、彼らに『囁く』事は容易にできる行為だ。

「大学選抜チームの隊長と副隊長達を救済措置扱いでこっちに呼び寄せるのも考えてる。役人に協力させられたことに同情論はあれど、必ず、何かかしらのバッシングはされるし、当人も気にするだろうしな」

「文部科学省はどうして、こんなリスクの高い方法を取ったんでしょうか?」

「大方、日本戦車道の拡充のために、黒森峰女学園か、プラウダ高校のネームバリューを使おうとしてて、それら名門校以外に優勝されて、文部科学省の計画が狂ったのに腹を据えかねたんだろう。あたしが垂れ込んだおかげで、だいぶ現地が混乱してるから、今なら、連れ出せるだろう」

美希(ダーリジン)に圭子は言う。島田流の名誉にも関わる事であるので、おそらく家元は娘の『留学』話にのっかるだろうとも。実際、ダーリジン、ナオミ、カチューシャ、エリカ、みほ、カエサルの留学は嘘のようにスムーズに決まっている。(実際は留学ではなく、『従軍』だが)

「まほさんは私達の知るあの方とは?」

「ああ。別人だ。シャイニールミナスの線も外れた」

「のぞみには、また重荷を背負わせてしまいますね」

「なぎさ、ほのか、ひかり、咲、舞の五人が何かかしらの形で来ないと、あいつは気が楽になれないだろうな。のび太をこの道に巻き込んじまった責任も感じてるだろうし。りんの事もある。あいつのことを頼むぜ、ダーリジン?」

「ええ。蒼乃美希として、それはお約束致しすわ、加東圭子准将閣下」

GウィッチはGウィッチなりの仁義があり、如何に死を乗り越えたとしても、人としての弱さは持ったまま。だからこそ、強くなれるのだと。『強者が弱者を踏みにじるのは、ただのケダモノである』。必要最低限のルールを守り、悪を討つ。Gウィッチはそれをする事で社会に認められる努力をしていく。人を超えた存在になっても、社会のルールは守り、人としての仁義を通す。それを奇異に思う者も多い。毛色の違うモノを人は迫害する。のび太とドラえもんを必要とする根本の理由が『得られなかった家族愛の補填、無上の友情への恩義』(黒江)であったり、わざわざ戦火に身を投ずる事の理由にまで穿った見方が多い。彼女たちは死を乗り越えた故に生ずる孤独、疎外感と戦っていくが、その第一段階は『弱さがあるからこそ強くなれる』という人の美点を持ったまま、英雄属性を得たものへの『超越者なら、超越者らしく振る舞え。王者というのはもっと欲張りで、わがままで…退屈しているもんだ』というバッシングを払拭するための戦いであった。王者は弱者を踏みにじる権利があるという、日本と扶桑の風潮こそが真の敵なのだと。彼女たちは血を流す事で、その風潮を少しづつ払拭していくのである。



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