短編『転生・戦艦三笠』
(ドラえもん×多重クロス)



−−さて、地球連邦軍は各地建造ドックで新型艦の建造を行なっていた。波動エンジン搭載艦は改アンドロメダ級、後期生産型主力戦艦級、戦闘空母を始めとする、量産をある程度考慮した艦、ヤマト級のようにワンオフ高性能モデルの追加などを、内惑星巡航用はラー・カイラム級機動戦艦などが建造されていた。一方、海軍用ドックでは扶桑皇国の依頼に則って、扶桑皇国に提供する戦艦・空母・超甲巡・駆逐艦などが建造されていた。これはティターンズ残党によって扶桑皇国最大の軍港たる、呉が壊滅的被害を受けた事によるもので、地球連邦は政治的取り決めによって損失補償も兼ねて艦艇を建造、提供していた。






−−2200年 呉

ここでは地球連邦の技術と扶桑皇国の有する技術のキメラ的な軍艦が複数建造されていた。その中でも超ビックな500m級の戦艦大和を拡大強化したような、超弩級戦艦が二隻、ドックに鎮座していた。その姿は大和型戦艦に現在装備をたんまり乗っけたようなものだが、その巨砲相応の防御力を持たすために喫水線下の水雷防御も大和型戦艦の比ではないほどに強化されている。

「この艦を三笠と命名する……」

地球連邦の進歩した造船技術によって、数ヶ月で最終艤装段階に達したその艦は大和に変わって扶桑皇国海軍の象徴となる、扶桑皇国戦艦の集大成的存在。名はかつての事変でかの東郷平八郎元帥が座乗していた、栄光の敷島型戦艦4番艦のそれを引き継き、三笠と名付けられた。この艦は宇宙戦艦に使われる建造技術を既存の水上艦ノウハウとを組み合わせて応用して建造された。そのため巨艦でありながら驚くほど短期間で最終艤装段階にこぎ着けた。

「……あの艦の名を受け継ぐ者……フッ。東郷さんも草葉の陰で喜んでいるだろうよ」

引き渡しなどの打ち合わせで未来の呉を訪れた山本五十六海軍大臣は陛下が選定したその名にかつて新兵時代に見た東郷平八郎元帥の姿を思い出したのか、苦笑した。彼は晩年期の東郷を、自らの同志を多数追放されたために嫌っていた。が、壮年期〜老齢期を迎える頃の英雄としての東郷は軍人として尊敬はしていた。そのため陛下が三笠を選定した時に反対意見は述べなかったのだ。

「山本大臣、いかがですか?この艦は?」

「うむ。大和をすべての点で力強くしたような感じだね……これなら空母の直掩にも力を発揮できるだろ」

そう。山本五十六は戦艦は打撃力であると同時に空母の弾除け……もとい直掩に使うという持論を扶桑皇国の世界では持っており、(この西暦世界の過去における彼よりは航空兵力の重要性を理解しており、その辺はより優秀である)なので、空母機動部隊司令官の一人の山口多聞の提唱する艦隊新陣形の後援を行なっていた。

「はい。ミノフスキー粒子下でも機能するレーダー、対空能力・対潜能力を備えております故」

「それは何よりだ」

三笠と名付けられたその巨艦は56cmという超巨砲を主砲に、各種ミサイルやCIWSなどで武装し、レーダーなどが充実しているのを除けば大和型戦艦を拡大した外観を有する。これは水上艦艇としての戦艦発展の究極が大和型戦艦であるという事実と、艦本体は扶桑皇国での保守が可能な範囲に収めるとして、登楼などの基本デザインを大和型からあまり変えていないからだ。ちなみに機関はガスタービンとなっている。

「閣下、ついでに二番艦のほうも決めといてください。同時に竣工しそうなので」

「ああ。それも見越して陛下に選定して頂いてある。富士だ」

三笠と富士。そう名付けられた巨艦は扶桑皇国から派遣された乗組員による慣熟訓練が予め行われた上で引き渡しは当初予定よりずれ込み、三笠は扶桑の日付で1945年5月、富士は8月となった。この艦は戦闘力という点はモンタナ級戦艦と大和型戦艦さえも歯牙にもかけないが、巨艦故に小回りはあまり効かない(それでもこの種の船としては極めて良好なレベルであるが)故に護衛艦を必要とした。それに選定されたのが大和型戦艦に超甲巡である。完成も訓練も超大和型戦艦より早期に終えた同艦は老朽化したり撃沈された金剛型戦艦の代替目的と超大和型戦艦の護衛艦として、四隻が建造され、損失補償に発注された扶桑海軍用大型艦艇の中ではいの一番の、1945年3月に引き渡しが行われ、空母機動部隊の主力である第三艦隊、打撃部隊である第二艦隊へ配属され、第二艦隊へ配属された同級一番艦の“鞍馬”は直ちに同艦隊旗艦に任じられるのである。

「君、超甲巡の性能はどういうものだったかな?」

「はっ、これですよ」

山本は三笠の命名式から宿の旅館に帰る途中、同行する部下に三笠に先立って引き渡しが行われる超甲巡の性能を尋ねた。部下は水雷畑出身なようで、嬉しそうに性能項目が書かれた文章を手渡す。すると超大和型戦艦とは真逆に、大和をそこそこの艦に小型化して機動性を強化したような性能が記されていた。

(何々……ネウロイ用焼夷弾と徹甲弾としての運用を前提のSHS弾基準の31cm50口径砲で、最新火薬と炸薬で伊勢型の36cm砲より威力がある……対空対艦装備にはCIWSと各種ミサイルのVLSを装備し、レーダーとソーナーも完備……速力は34ノットか。実質的に小型戦艦の建造だが、まぁ紀伊型戦艦や大和型戦艦より遥かに安価だから良しとしよう)

それはリベリオン海軍が似たようなコンセプトで建造したアラスカ級大型巡洋艦より超甲巡が艦のコンセプトとして優れている事の表れであった。アラスカ級はあくまで高雄や妙高型重巡洋艦を圧倒する――名目上は戦艦より優れる機動性でネウロイを遊撃する――ために生まれた、単なる戦艦サイズの巡洋艦の域を出ないのに対し、超甲巡は『安価な量産型に再設計した大和型戦艦に水雷戦能力を与える」という、実質的に小型戦艦建造のコンセプトで生まれた。そのために高価な大和型戦艦や紀伊型戦艦の半分以下の予算で複数が建造可能(それでも甲巡一隻分の1.3倍だが、大和型戦艦などが恐ろしく高価なのに比べれば遥かに安価であり、アイオワ級以上の高速は用兵者には魅力的である)なのだ。




「閣下、今後は下手なド級艦を作るよりはそこそこの大きさの船がいいかもしれませんな」

「ウム。空母にしても原潜にしても戦艦にしろ、性能を追求すると大型化が行き過ぎるからな……両極化するやもしれんぞ」

山本五十六の言うことは正しい。空母にしても軽空母と正規空母とではジェット機時代になると大きさ・搭載機数共に隔絶した差があるようになるからだ。特に1945年という時代はレシプロの黄昏とジェットの旭日が訪れている時勢、空母は重大な転換期に差し掛かっているのだ。

「三笠、どう思われます?」

「まぁ、大和型戦艦を超える究極の戦艦として、敢えて大艦巨砲主義の謗りみたいなものを二杯も作ったんだ。費用に見合う働きをして貰わくてはいかんよ」

「費用、ですか」

「そうだ。精々前線で酷使してやるさ。そのために大艦巨砲主義者共の口車に敢えて乗ってやったのだからな」


山本五十六は空母機動部隊整備重視の航空主兵主義論者である。そんな彼がなぜ三笠型――以降、そう呼ぶ――の建造に反対しなかったのか。それは戦艦の存在を「移動浮き砲台」としての存在意義の他に、他国への戦争抑止力、ネウロイへ対抗できる通常兵器として保有しておきたい、海軍としての思惑があるからだ。話が進む内に山本はある可能性に言及した。


「この世界には反応兵器(核兵器)があるが、我々の世界では実験段階にすぎん。最もティターンズはその根を摘むために敢えて核を使うやもしれん」

「まさか。いくらティターンズが戦後世界を思うままにしてきたアメリカを知っているとは言え、自分らの故郷である地球で……」

「彼らには南アメリカのジャブロー基地を爆破したという前例があると聞いている。おそらくはこのまま行くとアメリカ同様に超大国になり得るリベリオンへの見せしめとして一、二発程度は使ってくるというのは考えられる事だよ」





そう。山本五十六はこの時、リベリオンへの核攻撃を予期していたのだろう。噂のマンハッタン計画をオジャンにするためにティターンズは究極の核である純粋水爆を見せしめに使うことで核兵器を使うことの恐怖を身をもって示すのは軍関係者なら誰でも思いつく事だ。山本五十六は個人的に親交がある、チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官にその可能性を伝えておいたが、問題はその進言をハリー・S・トルーマン大統領が取り合ってくれるかどうかだ。そしてトルーマンはルーズベルトから引き継いだこのマンハッタンに膨大な人員と技術をつぎ込んでいる故に、もう中止はできない。コンコルド錯誤という奴だと山本五十六やチェスター・ニミッツなどはそう揶揄している。用兵側としては現実問題として、爆弾を安全に運べる手段がないのだ。空はB-29や富嶽、はたまた次世代機のB-36でさえもティターンズの前には、ほぼ単なる棺桶。殆ど役には立たないし、船で運んで自爆させるのは費用的に割が合わない。ミサイル原子力潜水艦などない時代、原子爆弾を戦場に安全に運ぶのはティターンズの前には連邦軍の援護なしには不可能なのだ。

「最もティターンズとて、ミノフスキー粒子をばら撒いたおかげで大陸弾道ミサイルによる遠距離ピンポイント爆撃はできん。例のガンダム二号機による直接攻撃しか取り得る手段はない分、相応のリスクがある。が、ガンダムを真っ向から落とせる火力の火砲は陸軍には殆ど無い。ましてやリベリオンの高射砲はせいぜい90ミリだ。120ミリ砲や150ミリ砲を持つ我々よりも苦戦は免れないだろう」






ガンダムタイプの標準的装甲材のガンダリウム合金は実弾兵器に対して実に堅牢性を見せる。初期に現れたαでさえも120ミリマシンガンを寄せ付けない性能だ。それを更に強化したγ合金は150ミリ砲さえ余裕で弾き返す性能だという。リベリオン陸軍の火砲ではガンダリウム合金の多重空間装甲を真正面から打ち砕く可能性は無きに等しいと言える。山本五十六はティターンズがリベリオンから敵愾心を持たれるのを覚悟で核攻撃を敢行する可能性は捨てきれないと言った。ティターンズは果たして核攻撃に踏み切るのか?山本五十六はその予感がしてならなかった。








――それはともかくも、扶桑皇国は連合軍の中で初めて地球連邦軍の未来技術を手にし、三笠型を得た。一方、地球連邦軍にとって水上戦闘艦の実験材も兼ねており、技術陣の育成も兼ねての水上戦闘艦の原案を基にした再設計であったもの、地球連邦軍にとっては技術陣の育成、呉市にとってはいい失業対策となったのである。その様子を見てみよう。





「ふう。今日はだいぶ艤装できたじゃないか」

「56cm砲の取り付けとレーダーの配線も済んだし、あとはコンピュータのマッチングやバックアップのアナログな照準器を改良して取り付けるだけだ」

「なんで取り付けるんだ?」

「デジタル機器が戦闘で破損した時の備えでやっこさんの要望だって。そういうことだ」

扶桑皇国はデジタル機器のみでは安心せず、扱い慣れたアナログ機器も積みこむことで安全対策を行うようだが、問題は九八式射撃盤は衝撃に弱く、史実の戦艦武蔵の沈没の一因となっている。なので地球連邦軍の造船部はそのまま積み込むのに難色を示した。そのため扶桑皇国は改良型の開発を行い、衝撃対策を厳重にした、アナログコンピュータの集大成である、発展型を「五式照準器」として採用し、積みこむ事にしたのだ。ちなみに三笠型は船体を22世紀末時点の最新電気溶接とブロック式建造で造られている。装甲も56cm砲に耐えられる重防御を全体に施されている。これは航空機全盛時代には日本戦艦がよく取っていた集中防御方式は必ずしも適合しなかった戦訓によるものである。そのため船体より武装の方が開発に手間取るという奇妙な現象が起こったのである。そのためできるだけ余裕のある船体を目指したら当初予定よりも1,5倍の大きさの500m級という、水上戦闘艦としては史上空前の巨艦となってしまったという。これに海軍次官の井上成美は「ドックを600m級も収容できるようにせねばならんじゃないか」とぼやいたとの事。











――56cm砲の破壊力はどんなものか?では、その実験光景を見てみよう。



――二ヶ月ほど前の地球連邦軍の射撃試験場


「おお、これが22インチ砲か……でかいな」

視察に訪れた、連合艦隊の大艦巨砲主義者の論客であり、かつて山本五十六の下で連合艦隊参謀長の任についていた宇垣纏中将は山本五十六の要請で試作の56cm砲の視察に訪れていた。彼の役目は扶桑皇国の海軍工廠が心血を注いで作った巨砲が、大和型戦艦のバイタルパートの最厚部と主砲防盾と同等の650mmおよび410mmの装甲を扶桑皇国が想定する決戦距離たる、二万mで、一発でぶち抜けるかが問題なのだ。先立って試作され、武蔵に搭載されたた51cm砲は同じ距離で両方を破壊し、750ミリメートルの装甲にヒビを入れた。56cm砲の目標はそれを更に粉微塵にする事だ。

「第一目標、セット完了しました」

「うむ。宇垣閣下、これより射撃実験を開始します。双眼視を」

「ありがとう」

第一目標である、大和型戦艦の舷側装甲の410ミリVH装甲と同じ板に向けて、大和型戦艦のそれさえもまるで子供のように思える、轟音と衝撃波と共に試作の56cm徹甲弾が発射される。決戦距離で放たれた弾丸は410ミリ装甲を軽くぶちぬいて見せた。この時点で大和型戦艦の船体装甲をぶち抜けると言うことは実証されたが、問題は主砲防盾の650ミリ装甲をぶち抜けるかどうかだ。これが戦艦の主砲として重要なのだ。


「ふむ。これで大和型の船体装甲は撃ち抜けるのは分かったが、問題は主砲防盾に相当する厚さの装甲板をぶち抜けるか、だ。これで次期戦艦は初めて大和や信濃を超えるのだ」

宇垣は砲術畑出身の大艦巨砲主義者であり、この西暦世界では、自身が終戦後に特攻したせいもあって、未来の世界でのマスコミ受けは良くない。が、当人は至って冷静にマスコミに対応したので報道関係者から不思議に思われている節がある。が、太平洋戦争が起きず、大艦巨砲主義者の願望である大和型戦艦の量産が成就した世界の住人である彼にとって、未来世界での評判、何するものぞであると言っているとか。しばらくして第二射が行われる。結果は……

「宇垣閣下、やりました!大成功ですぞ!!」

「ウム!」

実験は見事に大成功。750ミリ装甲もぶち抜ける貫通力を示した試作砲のデータを基に、艦載砲として再設計した、秘匿名「試成甲砲」は九九式五一cm砲という名で制式採用、搭載された。(大和型戦艦の時と同様、防諜対策のために口径をサバ読みした)。こうして、大和型戦艦の後継者と弟分は生まれでたのである。西暦2200年2月6日の事であった。








――三笠型戦艦の完成は大艦巨砲主義の究極を体現したものであるが、その対極に位置する、大鳳後継の次期正規空母も既に竣工し、先行して引き渡されていた。その名は龍鶴型航空母艦。ジェット戦闘機の運用が初めから考慮された艦で、呉襲撃時には既に一番艦が引き渡されていたが、これが地球連邦軍の扶桑皇国への最初の援助であった。これがきっかけで扶桑皇国は国土復興に国力を割くために地球連邦軍への艦艇建造依頼を本格化。他国も技術習得を目的に部分的に依頼をしてくるようになり、対する地球連邦政府も艦艇の輸出で外貨を稼いで経済を復興させるために積極的に依頼を受け付けるようになる……まさに軍出身の政府の重鎮であるゴップの手腕の賜物だった。




―― ある日 地球連邦議会の臨時議事堂 アデレード


「ゴップ提督、先ほどのあの手腕、見事だったよ」

「政治というのは腹芸だよ、レビル。政治屋共は甘い汁をちらつかせればすぐに食いつく。あのお嬢さんやトレーズ・クシュリナーダのような高潔な者は中々現れん。金と利権に溺れたバカどもがこうも多くてはスペースノイドへの求心力を上げるなど夢だよ」

レビルは実戦部隊最高司令官である。シビリアンコントロールの観点から言えば、本来、いてはならないはずのこの場にいる理由は、政府の統治能力が減退している現在では政府が軍を抑えるにはゴップの政治的手腕が必要である。その中にあってレビルは議会で予算案をプレゼンする役目を担っており、2200年度軍予算案をプレゼンしたのだ。

「……だろうな。ジャミトフは政治的手腕こそ天才だったが、仕える部下の選定を間違った。トレーズはすべての点で完璧だったが、自分の信念に殉じた。あ奴は惜しい逸材だった」

レビルもかつてのOZ総帥のトレーズ・クシュリナーダを高く評価していた。そのため彼が自らの信念に殉じたと聞かされた時には哀傷の意を評したほどだ。そこが腹心の部下を間違ったジャミトフ・ハイマンとの違いである。

「ああ。彼は実に惜しかった……ワイアットやジャミトフよりよほど今いて欲しい逸材だった。旧OZの人員をプリベンターに移管させた成果が大なのがその遺産の一つだ。あ奴はカッコイイ最期だったと思うね……話題は変わるが、最近良く宇宙の恒星間国家がよく戦争吹っかけるが、実に愚かだと思うね、儂は。」

「戦争はあくまで最後の手段であるべきなのだが、奴らはそれを理解できておらん。彗星帝国がそのいい例だろう。ズォーダーは自分が宇宙の法だと吹いていたが、それはヤマトとテレサが否定して見せた。傲慢な支配は何も生み出さん。20世紀頃の多くの専制国家や軍政国家のようにな」

「愛か。愛は時に狂気も孕むが、純粋な愛は美しい。古代進くんへの森雪くんのように」

議会の一室において戦いが起こる根幹についての議論にも踏み込んだ会話が行われる。それは軍部首脳が抱く思いそのものだった。



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