短編『マルセイユの休日』
(ドラえもん×多重クロス)



――ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。彼女はウィッチ世界で五指に入るエースである。彼女はある日、上司である加東圭子や戦友(?)のエーリカ・ハルトマンのつてでドラえもん達と知己を得、野比家に来ていた。アフリカ戦線が小康状態に入ったがために取れた貴重な休暇だった。















――西暦2000年の初夏

20世紀の終わりを迎え、のび太達も小学校生活をエンジョイしていた。のび太はこの日、テストでまたしても0点を取ってしまい、居残りをさせられていて、6年がクラブを終え、帰るのと同じ時間になってしまった。ヘトヘトで部屋に入ると……。

「ドラえも〜ん……」

「ドラえもんならいないぞ」

「マルセイユ大尉、なんですかその格好は」

「いいだろーたまには羽を伸ばせろ」


マルセイユの肌着だけの格好にのび太は思わず顔を手で抑える。玉子が見たら、自分の子供なら『なんてはしたない!』と叱るところだ。もっともドイツ空軍大尉なんて職業は玉子は信じないだろうが。

「ケイから聞いていたが、存外温かいものだなこの国は」

「春ですからね。それに昔と比べて温暖化してますから」

「なるほどな……しかしお前のオツムだが……どうにかなるのか?」

「勉強嫌いですから。まぁ大学になるまでママには我慢してもらいますよ」



のび太は自身の学業成績については楽天的である。それはタイムマシンで中・高・大生の自分と出逢っているおかげとも言え、この時点では15回にいっぺんの割合で0点を取るまでに改善されていた。玉子としてはそれを『褒めるべきか怒るべきか』と悩んでいるとか。

「で、今回は?」

「0点です」

「おっとぉ……お母様が怒るぞ。ハルトマンから聞いたが、2時間は怒られるんだって?」

「ええ。ウチのママは火がつくと止まらないですから……諦めてます」

「やれやれ。いつ帰られる?」

「いとこの結婚式ですから、今日の夜かと」

のび太は親世代の兄弟が父方だけで有に4人もおり、その子供達も相応にいるというこの時代では極めて珍しい『親戚に恵まれた』境遇である。そのため、いとこの結婚式などで両親が不在になるのも『よくある』事だという。

「お前の両親はウィッチにも耐性がついたというには本当か」

「ええ。黒江少佐やらシャーリー大尉とかがいたんで大丈夫ですよ。おかげでIS展開状態の人だろうか、仮面ライダーでも買い物頼みますよ」

「ある意味すごいなそれ……」



マルセイユは野比家の凄まじい耐性に閉口する。野比家にはこの時期も格納庫に兵器が多数収容されており、マルセイユが持ち込んだΞガンダムもそこに収容されている。

「Ξガンダム、どうですか?使ってみて」

「私達ウィッチは大抵、搭乗型兵器には違和感を持つのが多いんだが、あれはいい。30mなのが難点だが……」

「アナハイムは小型MSには注力してませんからね。だからサナリィに遅れを取るんですよ」

のび太は第5世代MSなどの大型MSに注力するあまりに基礎技術がサナリィに追いぬかれてしまったアナハイムエレクトロニクスを揶揄する。大型機は大型機で需要はあるが、売れ筋の小型MSと比べると市場は縮小気味。小型機の難点が判明し、勢いこそ一時に比べて落ちたが、連邦軍次期主力機として採用が内定したジェイブスも16m級である事から、18m級はガンダムタイプとワンランク下の高級機、それとジェガンという旧式機しか需要がないのが伺える。

「どうして18m級MSが消えないんだ?15m級や16m級があるのに」

「ガンダニュウム合金とか使えば余裕で高性能持たせられますけど、たいていは推進剤とかの搭載量がどうしても大型機より少なくなるんです。ウィングゼロとかエピオンみたいなキチガイみたいに高性能なのは別として、小型MSは外宇宙運用に専用の改造が必要になるんです。航続距離が大型機に及ばないし、搭載量は小さいし、被弾したら小型ミサイルでも致命打になり得る。16m級が現れたのはその難点を無くすためです」

「なるほど」

「でも、ミノフスキードライブはまだまだ未成熟な技術な上に、コストがかかって量産機に搭載するには不適って(V2はフラッグシップなので搭載できた)と判断され、依然として熱核融合エンジンが主流なんです」

そう。既存のミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉は普遍化した故に民間機械にも普通に使われていて、西暦が2201年を迎える頃にはジャンク屋の自主制作の作業用MSにさえ搭載されるほどの普及ぶりで、多少の専門知識があれば整備可能だ。この時代の原子力行政及び技術者が聞いたら『!?』と飛び上がって泡吹くのは確実だ。アナハイム・エレクトロニクスはそこを重視するのである。



「学園都市が欲しがりますよ、Ξ。あれ、ミノフスキークラクトでマッハ2の速度を有に出して、学園都市製の大型爆撃機でさえ不可能な機動ができるんですから」

「うむ。おまけにビーム兵器とオールレンジ攻撃端末を搭載して、戦車砲を弾く超合金の装甲だ。だが、いくら学園都市でも改良型ルナ・チタニウムの生成ができるとは思えん」

「宇宙空間で生成すれば、一年戦争当時のそれに近い強度のは精製できます。学園都市も人型兵器の有用性をこの時代は手探り中ですし」

「うーむ……外の世の中はまだプレイス○ーション2が出たとか出ないで盛り上がってるって言うのにな」


マルセイユは学園都市の内と外では30年ほどの文明格差があるとされたこの時代の日本に溜息をつく。それがどこをどうしたら数百年後の『地球連邦の絶対的支配者』となるのかと考えを巡らせる。

――おおよその記録によれば、統合戦争で旧来の大国の殆どが日本に膝を屈したとある。統合戦争は年月が長かった分、日本に敵対した国々は往年の地位を喪失していったとある。フランスはたしか統合戦争で日本に三軍を殲滅させられた末に降伏した……。

マルセイユは未来の歴史で黄禍論を信じる指導者を抱いてしまった欧米列強が怒りに燃える日本に完膚無きまでに倒され、地球連邦内でその立場を無くしてしまう事に同情を見せるが、因果応報とも考える。欧米が東洋を見下してきた歴史を知る故だろう。


「なんで統合戦争は長引いたんだ?」

「一部の大国が強引に世界を一つにしようとすれば反発が出ます。200以上の国があるのに、昔の五大国が小国を締め出して決めればそりゃ怒りますよ。G7と呼ばれた列強の国々も日本と手を組んで戦ったのはイギリスだけです」

「イギリスはなんで日本に味方した?」

「統合戦争開戦当時の日本は軍事的に復興して、驚異的な科学技術の発達で中興しつつあった。ちょうど今から14,5年前のバブル景気の全盛期のようにね。ひみつ道具がちょうど作られ始めた時期でした。ひみつ道具の登場で少子高齢社会も解決、感情を持つロボットの完成…。こうしたまさかの中興にイギリスは同じ島国として羨ましがった。老大国とか言って笑われてたイギリスは日本と第二次日英同盟を結ぶ事で中興を狙った。そして見事に成功、その時から『日本の盟友』として振る舞うようになったんです」

「それで?」

「ひみつ道具がどんどん作られて、タイムマシンの実用化にも成功した日本は歴史の調査を開始したんですが、それを快く思わない国々は当然、多かった。日本の同盟国だったアメリカ合衆国もその一つでした」

「なぜ同盟国のアメリカが?」

「戦後世界で確立されていた『第二次大戦のアメリカ合衆国は正義で、日本は極悪非道』という認識が根底から揺るがされる事を恐れたんですよ」

――日本が発明されたタイムマシンは欧米を恐れさせた。日本が太平洋戦争周辺の時代を調査する事で、少なからず欧米が持っていた人種差別思想の実像が暴露されてしまう事、ゴルゴ13を使って度々日本を妨害する依頼をしていた事が暴露されてしまう事、全世界の紛争をアメリカ合衆国が良いようにコントロールしていた時期があった事など、欧米列強に都合が悪い裏事情が露見してしまう事を恐れ、タイムマシン調査をあの手この手で妨害した。しかし、めげずに日本は歴史の謎を解き明かす成果を上げ、ついにかつて、日本政府を悩ませていたテロ組織「ショッカー」とそれに繋がる組織のルーツがナチス・ドイツに関係していた事実、米ソが彼らの言うままに『GOD機関』を作り、公然と日本でテロ行為を容認していた事など……欧米列強には都合が悪い事実がひみつ道具によって暴露されると、ひみつ道具社会を崩壊させんと目論見、成功する。だが、逆に目を覆うばかりの日本の報復が襲い、欧米諸国は軍事力を根こそぎ殲滅させられていったのだ。

「結果、欧米列強の軍事力は殲滅させられ、爆撃で経済はズタボロ。日本に敵対した全ての国は復活した日本軍とイギリス軍を中心とした連合軍に負けた状態で地球連邦に組み込まれたんです」

「因果応報だな。欧米はそれを理解できんから敗れたんだな」

「ええ。確か早々に日本側についたのがドイツ、イタリアとかの国々で、アメリカは最後の最後で裏切ったから、都市を消されるほどの報復を受けたとか」

「普段大人しい人を怒らせたらどうなるかって奴だな。それで地球連邦設立に反対する者は消えたんだろ」

「いるんですよ。地球連邦政府が樹立しても、中東やアフリカとかの国々の残党がテロ行為を続けたんです。それで初代首相死んでますし」

「ああ、ラプラス事件って奴だろ?それだったのか」

「何時の時代も体制に反抗する人はいるって事です」

そう。後年のデラーズフリートなどもジオン公国が滅んだ後も抵抗を続けたように、滅んだ国や組織の残党は自分達が気に入らない体制が出来上がると、それを壊そうとする動きが出てくる。それが却って自分達の抑圧を招く事も分からず……。のび太は未来世界で200年間の間に起きる戦乱にため息をつき、マルセイユは『因果応報』を実感し、買い物に出かけた。










――こちらは未来世界で機動兵器の搭乗訓練を受けている圭子。マルセイユが最新鋭の第5世代MS『Ξガンダム』を使っている事に対抗心を煽られたらしく、こちらもガンダムタイプを使用していた。コーチ役はメカトピア戦後はMS教官として、各地を飛び回るコウ・ウラキであった。

「おおおっ!?可変機でもないのに、この加速……!」

彼女が搭乗しているのはアナハイム・エレクトロニクスが次世代MS装備の検証などのプロジェクトのために製造させたレプリカの『ガンダム試作4号機』である。外見は変化していないが、時代相応のムーバブルフレーム完備(オリジナルは四肢などはフレーム構造だが、本体はセミモノコック機であった)、スラスター出力の強化、ジェネレーターの新型への換装、装備の新造が行なわれている。そのためスペックはデラーズ紛争当時のモノとは『別物』である。

「さすがはガンダムタイプね!加速がジェガンと桁違いだ!」

「少佐、張り切るのもいいですけど、前方に注意してくださいよ」

「はいはい」

圭子はご機嫌であった。MS搭乗訓練でガンダムタイプを使えるのは連邦軍でもロンド・ベルを始めとする一部エリート部隊のみ。ロンド・ベルに属していた事を感謝した。

――この処置は一年戦争中に何機かのガンダムタイプが開発費に見合う成果を上げる事無く撃破されていった事例を鑑みての物。デラーズ紛争以後はフラッグシップ機として、エースパイロットが乗るものという認識が強まったために「ガンダムが負ける」事は望ましくないとされ、グリプス戦役以後は一部エリート部隊が主に使用する機体という認識が確立された。現在はその後の戦乱で緩和されたものの、やはり本式のガンダムタイプの運用は高練度部隊に限られているのが現状だ。




標的役のハイザック(かつてはアグレッサー機としてザクUF2型が使われていたが、同機の老朽化やMS性能の向上に伴って、より性能が高いMSをアグレッサー役に添える必要が生じ、余剰となったハイザックの一部を当てた)が動くのを確認すると、スロットルを押しこむ。ガンダム試作四号機はマグネットコーティングとバイオセンサーの相乗効果で(マグネットコーティングは量産型MSよりも高品質なものが施されている)操縦に敏感に反応する。ハイザックの模擬弾入りのザクマシンガン改を避け、自身も模擬弾入りの90ミリマシンガンを撃つ。射撃戦は圭子の得意としてきた土壌。OSの補助無しでも見越し射撃は容易だ。ここ数年、MSを始めとする兵器の動きなどを頭に叩き込み、敢えてMSで戦闘に参加してきたおかげで『動き』を見切る事はそう難しいことではなくなった。


『お見事です』

「ガーベラだっけ?コイツの加速力、本当に通常MSなの?」

『ガーベラ、即ちガンダム試作4号機は突撃・強襲・白兵戦用に設計されていたんですが、ニナに聞いた話だと、自分が士官学校出たての頃に開発中止されてたんですよ。目的が1号機と被るからそうで』

「確かに君がデラーズ紛争の頃に乗っていたっていうフルバーニアンと被るところ大だもんね」

『でも瞬発力はフルバーニアンよりも上ですよ。フルバーニアンはイレギュラー的にゼフィランサスから改造されたようなものなので……」


コウの言う通り、フルバーニアンはゼフィランサスを修理するついでに改装して生み出された。カタログスペックではデラーズ紛争当時の最高峰かつ、完成時のZガンダムにも引けをとらない性能を誇るが、イレギュラー的に改装されたためか、素体のゼフィランサスに無理を強いている感があった。が、ガーベラは空間戦闘を元から重視されている。それと背中の『シュツルムブースター』(これはオリジナル機がガーベラ・テトラに偽装された際に追加されたもので、レプリカ機建造の際にも追加された)をONにすれば、フルバーニアンは愚か、Zすら凌駕する推力を優に発揮できるのだ。

「なるほどね。んじゃあんまやりたくはないけど、白兵戦に入るわ」

「了解です」

「ウラキ中尉、ガーベラのブースターのデータが不足です。限界出力までかなり余裕があります」

「よし。少佐、追加ブースターをONにして戦闘してください。データ取ります」

「了解」

――北米のMS演習場を駆け抜けるガンダム試作4号機。その様子をモニターするコウ・ウラキの乗るデータ収集車両。コウはかつてはサウス・バニング大尉(当時。2階級特進で中佐)が自分らに向けて行っていた事を自分が行う立場になっている事に、思わず新兵であった『デラーズ紛争』からの歳月の経過を感じる。


(デラーズ紛争の時の政争で俺の戦いは一度は否定された。だが、改革派が政争に勝利したおかげで、バニング大尉の死は無駄死とされなくなり、俺の戦いは間違っていなかった事が証明された。あの時の……そう。あの戦いは……)

コウは未だにデラーズ紛争で持ってしまった軍上層部への不信と、ニナ・パープルトンとのわだかまりが自分の心に横たわっている事を自覚する。ニナの真意がどうであれ、あの行為は『そりゃないだろ』と言いたくなるもの。戦後はニナに不信感が芽生え、連絡を数年取らなかった。ニナも自分がした事がコウへの裏切りだとは認識しており、コウへの贖罪と謹慎の日々を過ごしている。そのためGPシリーズの封印が解かれると、コウに三号機を用意するように取り計らうなど、コウの信頼を取り戻すのに必死になっているという。このように、歳月を経てもコウが負ったトラウマは癒やされておらず、ニナ・パープルトンとの関係を以前のように戻しきれない心の壁が伺えた。


――ビーム兵器が飛び交う戦場では反応速度の早さが生死を分けるため、機体追従性は重要事項。かつて、ガンダムNT-1をテストした『クリスチーナ・マッケンジー』は敏感すぎる事を『実戦で使えるのか?』と漏らしたというが、ビーム兵器が普及しきったグリプス戦役以後は機体の敏感さの差が生死を分けるようになった実情がある。その辺はネウロイがビーム兵器を使うようになったがために、1942、3年以後はエクスウィッチの前線残留が禁止されたウィッチ世界によく似ている。そのためパイロット達は自然と反応速度が迅速化していき、ザンスカール帝国戦時以降の連邦軍パイロットの攻撃への反応速度は昔年のジオン公国軍とほぼ同等の水準に達している。圭子もMSで訓練を重ねる内に、空間認識力などが以前より飛躍的に向上していた。

(あたしの願いは叶った。だけど、マルセイユと肩を並べて戦えるようにもっと鍛えないと!)

圭子は若返り作戦に肯定的な『エクスウィッチ』である。時勢を鑑み、自分達が戦場に戻る事は『仕方がない』と割り切っている。同時に『本当の意味でマルセイユと肩を並べて戦いたかった』という願望が思わぬ形で叶った形だが、彼女は現役時代よりも腕を上げるべく奮闘しており、自分以上の銃の名手であるのび太に狙撃を習い、MSで戦うことで空間認識力や反応速度を向上させんと謙虚な姿勢を見せている。額から流れる汗を拭きつつ(地上での訓練なのと、長時間に渡っているのでヘルメットを脱いだ)、更なるカリキュラムをこなしていく……。











――さて、マルセイユは20世紀末の暮らしを満喫していた。普段はプロパガンダに使われ、重大な使命感のもとで戦う彼女も、この世界では『単なる一市民』。使命感から開放された彼女は気分の赴くままに街を散策する。お金はきちんと数十万円ほど持ち合わせている。曲がりなりにも軍人であるので、体術その他はばっちり。周囲はその美貌に釘付けとなる者多数だった。



「すみません、この駄菓子くださ〜い」

「はいはい」

駄菓子を『大人買い』し、小学生や幼稚園生の羨望を集めるマルセイユ。この時代においての日本の小学生が親から与えられるおこづかいの平均金額は500円。21世紀になると、スマートフォンなどの登場、物価の上がりようで事情は変わってくるものの、少なくとも2000年当時の小学生の平均金額は500円であった。(のび太も同上)そんな子どもたちにとって『どうおこづかいをやりとりするか』は死活問題。ダンボール箱ごと買い占めるマルセイユの行為はこれ以上ないくらい羨ましいのだ。




――ちなみにのび太は叔父達のお年玉やこずかいに恵まれており、そこを臨時収入とし、最近は親にばれないように、自分の子や孫達に預けるというウルトラCで玉子の没収を免れた(これは1998年頃に玉子を貯金箱化することでへそくりを貯めていたが、ひょんな事から事故で玉子に見つかり、勘違いで使われたという痛恨事の反省で生み出した方法。自分の子や孫などに分散して預け、更にそこから銀行に預けさせるという方法はドラえもんも舌を巻いた。)。母親の玉子は子供が10000円以上のお金を持つことは『教育上良くない』と考えており、のび太が叔父たちからもらったおこづかいを徴収し、相応の金額にダウングレードして渡す方法を取っていた。しかし既に精神的には大人びているのび太からすれば『はた迷惑』もいいところ。最近はこの手法などを活用し、2020年からの各時代に数万円ずつの貯金をし、ドラえもんに預金通帳を預けているとか。

「ドラえもん、どら焼きなんか抱えてどうしたんだ?」

「商店街のお菓子屋さんに試食頼まれたんですよ。僕、どら焼きには自信あるんで」

「そういえばお前、大食いコンテストで優勝したんだよな。その割に味にこだわるんだな」

「友達に変わり種のフレーバーをどら焼きにかけて楽しむのが多いですから」

「お前の親友達の趣味は噂に聞いたが……正直言って理解できん!なぜマスタードとかラー油ぶっかけるんだぁ!!アンコの甘さが台無しじゃないか!」

「あいつらの趣味にはついていけないところもありますけど、いいやつですよ」

「それはそうだが……」

マルセイユもドラえもんズの趣味は理解に苦しむようである。何せ、マスタードやラー油をどら焼きにぶっかけるなど『あり得ない』からだ。

「いろいろ見てきたが、この時代の日本は戦争にアレルギー体質なように思える。坂本少佐もそうだが、軍事の備えを怠っていた国が何故、地球連邦の支配者になれる?」

「坂本少佐も驚いてましたけど、太平洋戦争でズタボロに負けたトラウマが日本を縛ってるんですよ。災害への危機意識も希薄。あと11年後に起こる大地震でそれがぶっ飛びますがね。備えあれば憂いなしの言葉を忘れてるんですよ。物質的繁栄にかまけて、ね。ただし10年もすれば目覚めますよ」


――そう。2010年代になれば否応無くこの国は災害、戦争の当事者になる。ドラえもんは地球連邦の支配者となる運命の黎明が2010年代の戦争と災害にある事を知っている故か、そういうところは冷淡だ。どら焼きを食べながらいう台詞ではないが、ドラえもんの厳格な現実主義者的側面が伺える。

「お前、言われないか?見かけと実際のギャップがでかいって」

「なのはちゃんや美琴さんにも言われましたよ、それ。まぁ口下手だとは自覚してます」

「だろうな……。そういえばZXから聞いたんだがな。新しいライダーが現れたそうだ」

「と、言うと、ライダー12号が?」

「二人らしいから13号までだな」

「そのライダーの名前は?」

「まだ調査中だそうだ。悪ってのは倒しても倒しても消えないんだな……その犠牲になる者も」

「ええ。多分……正義の心があれば悪の心も存在する。人の営みがある限り、悪も滅びないし、ヒーローもまた増え続けるでしょう」

「皮肉だな」

「世の中、そんなもんですよ。そう都合よく団円にはならない。クライシスが倒れても、バダン帝国が残ってますし」

――西暦2202年頃、仮面ライダーBLACKRXの主敵『クライシス帝国』は皇帝がRXに打倒され、市民が地球に移民する形で自然消滅した。RXはこれで対バダン帝国戦線に正式に合流したが、その最中、新たな仮面ライダーの目撃情報が仮面ライダー一号のもとに寄せられたのだ。一号は直ちに調査を開始。調査の末にそのライダー達はそれぞれ『仮面ライダーZO』、『仮面ライダーJ』と名乗り、悪と戦った事を掴んだのだ。そして彼らを仮面ライダーに迎え入れることをライダー達が全会一致で決定したとの事。




「で、大尉。どうするんですかその駄菓子の山」

「お前の家に入られるのは二週間ほどだからな。その間に友達でも呼んで食わせろ」

「今日はもう遅いんで、明日からそうしましょう」

その日の夜に帰ってきたのび助と玉子は今度はドイツから来た少女の応対に追われた。今回は比較的年長で、高3程度(マルセイユは17歳であるが、容姿的にマルセイユは日本人から見ると、大人びて見える)の落ち着いた物腰の少女であった。





――応接間

「ウチの息子たちがお世話になりまして……」

「いえいえ。お子さん達には楽しませてもらってますよ」

「あなたはドイツからはるばると日本に来たそうですが、どこの地方出身で?」

「ベルリンに住んでいました。父が陸軍の軍人でして……」

それは本当だ。マルセイユの父は東部戦線に従軍している高官である。なので、嘘ではない。所属が第二帝政か、共和国であるかの違いはあるが。

「私ももうじき『適齢』なので、志願はするつもりですよ」

この時期、ドイツ連邦軍で女性軍人の権利が拡大したという記録があるので、マルセイユが軍で戦闘機乗りになりたいと言っても嘘ではないので、説得力はあった。

「何故、戦闘機乗りに?」

「大昔の撃墜王だったリヒトホーフェンにあこがれてまして……」

「ああ、第一次世界大戦の……古いところ突きますな」

のび助はそう言って笑う。世代的に戦闘機のプラモにハマった事がある彼、第二次世界大戦ではなく、第一次世界大戦の撃墜王を挙げるマルセイユに、子供時代を思い出したのだろう。


「でも女の人が戦争に行くなんて……危ないですよ?」

玉子は世代的に戦争アレルギーがあるらしく、やんわりと止めるような素振りを見せる。世代的に玉子は良妻賢母的な風潮が生き残っていた時代の教育を受けたが、就職していた時期もある世代だ。女性の社会進出を歓迎はするが、普通に結婚して家庭を守るべきという考えも捨てきれない。お国柄の違いはあれど、玉子はそういう観点から言った。

「ママ」

すぐにのび助が諌める。日本とドイツとでは事情が違うからだ。のび助は商社勤務であり36歳の若さで課長に上り詰める俊英である。職業柄、日本語ペラペラな外国人と商談になる機会もあるため、お国柄の違いはよく認識している。

「確かに日本にいるあなた方は私から見れば『国を守る』という意識が薄いかもしれません。在日米軍や学園都市がありますからね」

「ええ……誰かがやってくれるというのがこの国の悪いところです。あなたの国は12年前まで冷戦の最前線だった。それを思えば防衛を形だけ整えて、平和に浸ってるこの国は脳天気に見えるでしょうな」

のび助は生前の父親が日本が国際秩序を担う立場でありながら血を流さない事を憂いていたのを見ている。そのためか、国防に関しては一定の見解を持っていた。意外な一面だ。





「ええ」

――マルセイユは二年間の隊長代理の任務で多少なりとも『下手に出る』事を覚えたため、このような場を乗りきれるようになった。のび太の両親との世間話を潜り抜け、床につく。

「……はぁ……なんとかなったな。人間やる気になればどうという事ないな」

……とは言うものの、流石に『招来の夢』までは取り繕う気はさらさら無いので、『軍のパイロット志願』とは答えた。本当の職業から言って、あながち間違いでもない。地味に我を通すのも彼女らしいといえばらしかった。




――その翌日、のび太に連れられ、彼の知り合いの中学生と会った。その中学生の名は高畑和夫(たかはたかずお)。のび太曰く、『ドラえもんの友人』の佐倉魔美(さくらまみ)を介して知り合ったという迂回ルートな知り合いだが、彼の頭脳は出木杉英才をも凌ぎながら好青年である。ドラえもん曰く『出木杉くんで無理なら』と頼れとの事。予めドラえもんが事情を説明してくれたおかげで、話はスムーズに進んだ。

「フム……メッサーシュミット乗りで、飛燕を動かしてみた?そりゃよく生きて帰れましたね」

「どういう事だ?」

小太りな体型と髪形で『きれいなジャイアン』に似ている印象の高畑だが、その知識量は出木杉の上を行く。専門書らしき本を取り出し、説明する。

「キ61、即ち三式戦闘機は当時の日本の工業力ではまともに整備するのもままならない機体でした。あなたの世界の日本は事情が違うと思いますが、1940年代の日本の工業力ではエンジンの稼働率は話にならないくらいです」

「そういえば私の部隊の整備班がぶーたれてたな…」

「ドイツの工業力で精密に造られたエンジンを基礎工業力自体が劣る日本で作ろうなんて無謀もいいところでした。実際に搭乗員からは『飛ぶともれなく壊れる』なんて悪評で呼ばれました。モータリーゼーションが遅れてた国が背丈に合わないモノを作ろうとするからこうなる」


高畑は専門書に載っているハ40発動機の写真を見せる。それはマルセイユも思わず絶句するほどの惨状だった。ベアリングが無残にへし折れるわ、油漏れを起こす姿が激写されており、整備班の手に負えないのも頷ける。

「こ、これは……」

「僕の親戚に陸軍の搭乗員だった人がいるんですが、3式戦はあまり好まれる機体ではなかったと言ってました」

「すると、私が動かした時に壊れなかったのは幸運だと?」

「そういうことです」

マルセイユも思わず冷や汗をかく。圭子が着陸寸前に油漏れであわや墜落しかけたことがあるのを思い出したからだ。

「三式を補充させるのを止めさせて、五式に切り替えたんだが、賢明だったと?」

「ええ。特に砂漠の悪条件だと五式のほうが動きます。あなたの機種は?」

「メッサーのG型だ」

「年代的にメッサーシュミットはもう限界だと思いますよ?史実の終戦の年ですよね?」

「確かにG型でもそろそろきつくなってきたからなぁ。K型を上やメーカーから薦められてるが、断るべきか?」

――マルセイユは長年愛用してきたメッサー系列のレシプロストライカーが性能的に向上の限界に達しているのを自覚し始めていた。メッサーシャルフ社からはme262かBF109Kを薦められて来たが、フラックウルフ社製の機体のほうが性能的に良く、稼働率もいいことからマルセイユは機種変更を検討し始めていた。

「K型は航続距離が短くなってますよ。まぁゼロ戦と違ってここまで改造できたのは大したもんですけど、元設計が戦前なんで、フォッケウルフの方を薦めますよ」

そう。レシプロ機の性能限界から言って、概ねそれら機種がカールスラント最後の雄である。シャーリーのように超加速を使えるウィッチは一握りであるし、そもそもレシプロで音速を超えればユニットに負担を強いる。最悪、空中分解もありうる。マルセイユはそこの点を考えた上で将来的にはジェットへ乗り換える事は決めているが、場つなぎの機体を考えていたのである。





(確か、地球連邦の提供するカールスラント向けレシプロ戦闘機もFW190系列をベースにしているって聞いたな。FW190系列を要求してみるかなあ)

「整備班の事もあるし、ジェットの導入にはワンクッション置いたほうがいいかな?」

「ジェットエンジンの扱いは難しいですし、いくら行灯油で動くって言っても、第一世代のターボジェットじゃ砂漠で使えませんよ?」

「ぬ、ぬぬっ……」




ジェットエンジンはレシプロエンジンよりは構造が単純なために、よく仮想戦記では『追い詰められた日本軍、あるいはドイツ軍最強の切り札』として登場する。だが、いくらジェットでも高度な工業力と技術がなければ高性能とはなりえない。それは日本軍の起死回生の切り札と目された橘花がカタログスペックでさえ他国製ジェット機に及ばないところからも分かる。大戦中のジェットエンジンは繊細に過ぎ、最前線で扱うのは難しいのを図版付きで説明する高畑。メッサーシュミットme262を含むドイツ空軍機の専門書を本棚から取り出すと、如何に当時のジェットエンジンが壊れやすいものであったか、がわかる。

「別の世界とは言え、後世から見ると好きなふうに書かれるのだな……なんだか複雑だ」

「当時の事情は後世からは理解されにくいですからね。負けた国の武器に見られるんですよ、そういう現象。」

「確かに。知り合いの日本海軍航空隊のベテランはゼロ戦が欠陥機の評があるのに怒ってたし、友人の技術少佐はタイガー戦車が防衛砲台みたいな扱いに憤慨してたし、兵器の評価は変わるんだな」

「後世では色眼鏡も入りますからね。何より負け戦だと、優勢の時の主役か、末期に一矢報いたかで評価が決まるようなもんです」

高畑の言うことは的を射ていた。例えば、日本軍の飛行機の内、ゼロ戦(零式艦戦)は優勢時の主役、紫電改は末期に一矢報いた故に人気がある。それに比べて陸軍機はマイナー扱いだ。加藤武子が聞いたら憤慨は間違いなしだろう。だが、後世がどう判断するかはその時代の人々が判断するという好例だろう。この後、のび太達はやって来た佐倉魔美の料理を食うことになったが、魔美の作る料理のあまりの凄さに全員がその場で気を失ったのは言うまでもなかった。


――こうして、マルセイユは2000年で様々な知識を身につけていく。平和なススキヶ原の町が激戦で心を疲弊させていたマルセイユにはこれ以上ない安らぎとなるのであった。











※あとがき

佐倉魔美及び、高畑和夫の出典はドラえもんと同じ藤子・F・不二雄氏の作品である『エスパー魔美』からです。



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