短編『太平洋戦争の序曲』
(ドラえもん×多重クロス)



――空母搭乗員の地上基地への転用が扶桑で禁止されたのは1944年12月の事だ。坂本美緒はこの通達の意味を図りかねていたが、黒江や智子達から教えられて、事の重大さを悟った。


――1946年  扶桑 南洋島

「空母ウィッチの地上基地への転属が禁止だと?どういう事だ?」

「い号作戦とろ号作戦がもたらした影響を上層部が恐れた結果よ。あなたも知っているでしょ?太平洋戦争の顛末を」

智子はい号作戦とろ号作戦という太平洋戦争中の作戦がもたらした影響を話す。搭乗員の転用が結果的にその後の空母機動部隊の破滅を招来してしまった史実を。大日本帝国という、扶桑より条件が随分悪い国での話とは言え、十分に起こりえる話である。山本五十六が愚将と言われる原因はい号作戦とMI作戦にあるとも補足する。坂本は納得した。この頃には未来世界での戦史を読みふけっていたからだ。

「あ、ああ」

「飛行時間1000時間の搭乗員が死ねば戦力の低下が起こる。練度低下はマリアナ沖海戦で空母機動部隊七面鳥打ちなんて笑われながらボコされていった原因の一つなんだ」


「マリアナ沖海戦か。読むのも嫌だったよ、その項目は」

「空母に乗艦した経験があるあなたから見れば絶望しかないものね、あ号作戦や捷一号作戦は。上にはいい反面教師になったけど、事情を知らないウィッチからすれば『陸に降りて戦うのをやめろと!?』って文句来てるけどね」

「お前ら……未来行ってから、なんか変わったか?昔はもうちょい堅物だった気が?」

「違う時代、違う環境にいると感化されるもんよ。物量と質が伴うのは大事よ。質で連邦軍を超えてたジオン軍とかが負けたのは物量で負けていたのが原因。だから向こうでのコロニー国家の多くは奇襲作戦に打って出た。日本もそうだったけど、国力に差があると奇襲作戦や電撃戦に依存しがちになるのよ」

そう。扶桑軍は数を揃える必要に迫られた。船では、駆逐艦は秋月や陽炎、夕雲といった在来型、護衛艦をベースに旧海軍要素を加えたアレンジ艦が本格型として、簡易型としては松型駆逐艦が建造されている。松型は1945年現在は20隻前後が就役していた。これは旧型とは言え、艦隊型駆逐艦を護衛任務で多数損失したことへの埋め合わせで、本格型の新鋭艦の就役が1946年以降になる故、松型が史実通りに計画された。これで扶桑皇国は造船技術における溶接技術をより高次元のものにし、技術育成に成功した。材料その他も史実通りの高張力鋼なので、松型は艦隊型駆逐艦乗員から『即席の船』と馬鹿にされているが、装備その他は扶桑製駆逐艦としては最高レベルである。陸軍はMBTである五式中戦車改や砲戦車である『ホリ』を生産し、機甲戦力を更新する一方、装甲車である九七式軽装甲車の後継を模索していた。戦車戦において完全に時代遅れを露呈した豆戦車は警備用としてももはや使えないものとなっており、(敵兵にMBTに対抗可能な対戦車兵器が配備され始めた以上、豆戦車の存在意義は薄れた)豆戦車を新規開発する異議は無くなっていた。しかし扶桑皇国陸軍としては、捜索任務やパルチザンなどの鎮圧にMBTを駆り出すのは非効率である(奇しくも、戦中諸外国と同様の結論に達した)と考え、暴徒鎮圧用や歩兵の機械化に合わせた軽戦車の配備を結論づけた。テケ車の陳腐化に伴って、購入されたのがM24軽戦車である。機甲戦力はこれにより一応の更新を終えたことになる。

「数か。旧型装備が南洋島の僻地に囮として集められているのはそのためか?」

「そうだ、戦いは数だ。物量があればたとえ敵がどれほど強かろうが、消耗は避けられない。それはジオン軍、ドイツ軍などの負けた側の軍隊が証明している」

「ティターンズはリベリオン陸軍を配下に収めたそうだが、どのような戦略で来るつもりだろうか?」

「艦砲射撃と空襲で弱らせ、その後に上陸かますのがこの時期の米軍の最新ドクトリンだ。40年前の事変みたいな水際陣地で阻止する作戦なんて粉砕されるのがオチだ。硫黄島じゃないが、立てこもりで引き付ける作戦が最善だろう」

水際作戦は実際に無意味であった事例を嫌というほど映像付きで見させられた扶桑陸軍は籠城作戦で消耗を強いる戦略を取るだろうと黒江は言う。戦闘の様相そのものがティターンズのおかげで史実同様に飛躍的に進歩を見た以上、明治生まれの高官が若年期に憧れた『銃剣突撃』はもう時代錯誤でしかないという事だと。

「立てこもりか……籠城作戦と言っても、ただこもってるだけではやられるぞ」

「ゲリラ戦だよ。ベトコンみたいにジャングルに潜んで昼夜問わず攻撃すんの。米軍はゲリラ戦に意外に弱いからな」

「ベトナム戦争でベトナムが用いたという戦法か?私は好きにはなれんな。そりゃ軍事的に正しいというのはわかるが」

「しょうがないさ。先進国の国家正規戦なんて、やがては世界大戦が起きない限りは起こんないようになるし、向こう側での主要国しかこっちには存在しないから、代理戦争なんて概念もないんだ。だから小国がないことに気付いたティターンズは世界大戦を引き起こすことで世界統一を狙ってるんだろう。世界大戦が起きれば、ブリタニアはこのまま行けば戦費負担に耐えられずに植民地帝国として崩壊するのは目に見えてるのも大きい」


――史実大英帝国は日本と再度の同盟を結ぶまでの百年余りは植民地帝国としての威容と威光を失った『老大国』と言われる有様であった。この世界では第一次世界大戦が起きていないために表立った衰退の様相は見せていないが、やはり陰りを見せ始めている。ティターンズが世界大戦を狙う理由はそこにある。実際、史実ほど通常兵器が充実していない状態で史実大戦後期の装備を持つ軍隊と戦えば敗北は必定である。しかもリベリオンの生産力は現時点では『世界最高峰』と言える。黒江が恐れるのはブリタリアと扶桑を合わせた全生産量でもリベリオンの全力比六割程度である事実だ。二国とも植民地帝国として君臨してきた雄だが、リベリオンの膨大な生産力はそれらを凌ぐ。幸いにも通常兵器面では部隊によって質がバラバラで、M1903と新式の半自動小銃『M1ガーランド』が入り混じった状態である。そこが扶桑とブリタリアの付けいる隙である。

「世界大戦、か……本当に起こると思うのか?」

「どのうち、ネウロイが来なくてもいずれは起きたことさ。お前は小銃は撃てるよな?」

「若いころにリバウで訓練は受けている。半自動小銃もボルトアクションも扱えるぞ」

「よし、訓練に行く前にこの小銃の扱いを覚えろ」

黒江は64式7.62mm小銃を手渡す。この小銃は戦後自衛隊の第一世代主力小銃であり、軍需産業が復活途上にあった当時に四式自動小銃の開発メンバーが開発に関わった。それをこの世界に伝わってきたモノを基に、リバース・エンジニアリングで製造(奇しくも因果で史実での四式自動小銃開発メンバーがその任についた)したものが出まわり始めたので、扱えるようにするためだ。黒江が手渡したのはリバース・エンジニアリング版である。見かけは変わりないが、二脚が着脱可能に改良されている、機関部寿命が銃身に釣り合うように改良されたなどの細かな違いがある。これは防御戦闘しか想定していない自衛隊と、外征軍である大日本帝国陸軍ポジションの扶桑皇国陸軍との立場の違いが鮮明に現れたところである。

「こいつを?自動小銃は初めてだな。ん?なんだこの『ア・タ・レ』は。ゲン担ぎか?」

「日本人ってのはゲン担ぎすんだろ?陸軍のある大佐が考えていたのが具現化した結果がこのセレクターだよ。まあ自衛隊と違って政治的配慮がないから、やっこさんの使っていたものより安全装置は厳重じゃないけど」

「政治的配慮をする必要が私達にはないからな。その点は自衛隊よりは楽といえば楽だが」

「んじゃ射撃訓練場へ行きましょ」

と、いう事で坂本は射撃訓練場で扶桑陸軍次期小銃として採用された『64式7.62mm小銃』を撃ってみることにした。智子達の監督のもとでひと通りの射撃訓練をこなした。命中率は坂本が射撃戦をあまり行わない事もあって、中の中程度であった。

「ふむ。確かにこれなら九九式からさほど違和感なく変えられそうだな。しかしオリジナルは火薬の量を少なくしていたというのは何故だ?」

「私らも未来での講習の受け売りなんだが、自動小銃のフルオート射撃の反動はけっこうでかいらしいんだ。私らは感じないが、普通の兵士には制御が難しい。米軍もそのへんは苦労してたって話も聞くし、セミオートが主流になったのは反動が大きいかららしいぜ」

「そういう事か。意外に苦労あるんだな」

「本来はいきなり5.56mm使うM16とかも考えられたと聞くが、補給や製造施設の投資とかの問題でとりあえずはワンクッション置いたらしい。それで『国産』の64式に白羽の矢がたったとか」

「補給か。確かに九九式作って年数たってないし、上も工場の生産ラインを大幅に変えるのを嫌がったのは分かる気がする」

「三八式が長すぎたのは批判されてるぜ。M1ガーランドとかを指して『日本軍は頑迷だから負けた』なんてステレオタイプが確立されてるぞ。ヒガシのやつがすごく辟易してた」

「あの人は銃撃戦主体だからな。それに30年代の時は自動小銃の弾の消費量に耐えられる国力あるのもリベリオンくらいだったからなぁ」

「で、私達は当面は南洋島で待機と?」

「B-52にゃ現有のストライカーでは届きにくいから、当面はドラケンやF8Uとかの戦闘機で応戦して、敵空母との戦いに私達を投入するのが上の戦略だ。人同士の戦争なんて嫌だろうが、これも運命だと思え」

「人同士で大戦やるハメになるなんて思ってもみなかったぞ?」

「私達はそっちのほうが普通になっちまって久しいから、ネウロイと戦うこと自体が物珍しくなっちまった。未来に家あるしな」

黒江は未来世界に適応した故に、本来の任務に戻ること自体が物珍しく感じてしまうほどになってしまったと吐露する。これは未来世界に長く滞在した反動と言える。坂本はそんな彼女らの姿に寂しさを覚えた。

「そういえば連邦側のMSはどんな活動を?」

「一応、可変MS系列の機体が主に哨戒活動を行ってるわ。機種はエース用のZプラス、一般用のリゼルが使われている」

「ん?ZZ系列は使われないのか?」

「ああ。あれはジュドーから聞いたけど、爆撃機形態の小回りが効かないから、大気圏内だとMSとして使った方が割がいいらしいわ。火力は魅力だけどね」

「Zガンダム系って結構人気あるんだな」

「使い勝手いいから。変形すれば飛行機としての性能がある程度あるし、母艦からの空挺降下戦術も出来る。だから専ら量産化計画が何度も立てられてんの。リゼルで本格的に成功したようなものだけど」

「ウェイブライダーがやはりネックなのか?」

「変形機構があると、新兵には扱いにくくなるし、整備も難しくなるのよ。パイロットも可変戦闘機みたいに変形機構を活用する前提で教育受けてるわけじゃないし、パイロットにとっちゃ一種の壁みたいなもんらしいのよ」

「私達の機体で例えると何に当たる?」

「二式戦と雷電あたりかしら?あれも使いこなすのがステータスみたいなところあったし」

「赤松先輩がそんな事言ってたな…。前に厚木に来た時は驚いたっけ」

「乙戦は甲戦至上主義者には嫌われるかんな。赤松さんの言うことは当たってるよ」

――坂本は海軍初の乙戦ストライカーを誰よりも使いこなした、ある一人のウィッチを回想する。扶桑皇国海軍航空隊の古豪と言われるそのウィッチは坂本の先輩で、黒江や圭子よりも年上ながら、減衰が遅い体質が故に1944年時点でも前線に残留していた。黒江達もそのウィッチの武勇伝は伝え聞いており、引き合いに出して新人教育したこともある。雷電という迎撃戦用のユニットを海軍で初めて使いこなしていたウィッチである故、数々の武勇伝がある。坂本はそのうちの一つを思い出し、苦笑いする。


「扱いにくい奴ほど乗りがいがあるってもんだろう。ZやVF-19とか、雷電に鍾馗はその類型だよ」

「しかし、MSで可変機ってあまり見ないぞ?」

「相対的な生産数が少ないしな。リゼルはジェガンとかとパーツ共有してるからそれなりに多いが、Zプラスやリ・ガズィとかになると、ジム系に比べるとめったに見ない。Z系自体が専用パーツ多いから、政治屋受けが悪いそうだ」

そう。未来での記録によれば、グリプス戦役後から白色彗星帝国戦役開始までの時期は小型機の台頭や軍縮機運などが相なって、高価な兵器の生産数は抑えられていた。しかし白色彗星帝国戦開始以降になりふりかまって入られなくなった故、可変機の生産数は増やされた。これは当時の小型機では、ガンダムタイプでも無い限り、恒星間航行艦が飛び交う戦場での機動戦に耐えうる航続性能が無いという切実な理由からの事で、大型MSが見直された要因は『外宇宙での航続性能』という軍事的理由であった。小型機万能主義が蔓延ったザンスカール戦争までの風潮も改められ、現在では技術発展で機動性の差が縮まり、大型機でもビームシールド装備可能になるかもしれないとの所見が出た事で大型機も復活した。可変機は空母での運用に都合がいい故、増産がなされているとの事だ。

「政治屋ねぇ……どこの世界でもあるんだな」

「亡命リベリオンだって、派閥主流派はT‐34‐85の威力見るまでは、M4で一本化するつもりだったと、アイクのおっちゃんがいってたし、うちら陸軍だって五式改二型採用の是非でかなり揉めたんだぜ?上の官僚型軍人は前線に無理解なのはどこも同じさ」

「どこも政治屋に官僚型軍人に苦しめられるのは一緒か……嫌になるよ」

「でも、官僚型軍人は必要って言えば必要よ。組織回すには実務型軍人だけじゃ無理だし、かと言って官僚型軍人だけでも無理。それは向こう側の日本が再軍備していく過程で明らかになったことだしね」

――そう。官僚だけでも組織は機能しないというのは、日本の再軍備の過程での保安隊の段階で明らかとなった。戦車を運用するには熟練者が必要で、旧軍軍人が本格的に呼び戻される事になったのもこの頃である。この事例は地球連邦軍の編成時や再建時の参考にされており、西暦2201年以降の地球連邦軍には、人材をなるべく保全しようとする傾向がある。それ故に、往時ではとっくのとうに軍を放逐されても可笑しくない素行のイサム・ダイソンなどが佐官になれるのである。

「何故日本がモデルケースにされる?」

「太平洋戦争で完膚なきまでに敗北してからのおよそ100年近くは『再軍備』そのものがタブー視された経緯があるからなのよ。厭戦の風潮がやがて軍備をタブー視するようにって、防衛組織に力を与えるのを嫌う世論が存在した。だけど、大災害や学園都市が外征戦争を起こしたりしたのをきっかけに再軍備への抵抗感が薄れていって、自衛隊を更に組織再編してから国防軍になった。地球連邦も戦争に嫌気が差して軍備撤廃が真剣に議論された時期があったらしいけど、結局はテロや侵略者への対応で軍隊が存続された。そこからの再建に苦労があった。平時にいらない子扱いされていた部署が、有事で存在を再認識されるのはどこでも、いつでも同じだけど、その最たる例が日本だから、教本にし易いとか」

「なるほどな……。連邦軍はどこに駐留している?」

「この近くに空軍と宇宙軍が駐屯してるわよ。たしかZ系が多く配備されてる部隊だったわよね?」

「ああ」

「扱いにくいという割には好まれてないか?」

「Z系の他にも、昔に正規軍やティターンズが作った可変機はいくつもあるけど、悪役系なモノアイ持ちで、多くが退役を余儀なくされた。その系列で好評だったアッシマーでさえ、エゥーゴ出身の将軍や提督からは嫌われ者だからなぁ。アンクシャがなんとか作られたけど、数が少ない。前にシミュレータでアッシマー系は動かしてみたけど、感覚的には悪くないんだけどなぁ……だからZ系が政治的にも好まれてるんだってさ」

――Z系は官軍となったエゥーゴの機体である。それ故に政治的に可変機での生産量が多くされた事を黒江が示唆する。兵器に政治的配慮が絡むのは坂本としては嫌いなのだが、理解は示す。零式ストライカーの開発の際に政治的にゴタゴタしたのを覚えているからだ。

「んじゃそこに言って事情を聞いてみましょ。綾香、運転お願い」

「へいへい」

この時に三人が乗った軍用車両は亡命リベリオン軍から空軍が購入したジープであった。15分ほどで連邦軍の前線基地に到着した。そこは扶桑軍の下手な本土基地よりも広大で、可変MSやガルダ級の運用を前提にされているのが分かる。練習機に類別変更されたジムUなどが歩行訓練をしていたり、61式戦車が駐車されている。

「凄いなこれは……本土の基地より充実してるぞ」

「超大型ジェット機の離着陸を前提にしてるからこの長さなんだと。ほらあのガルダ級」

「あのやたらでかい飛行機か……あんなのが空を飛ぶとは信じられんよ」

「お、アウドムラだ。何か運んできたな」

「どうやって次元を往来してる?」

「時空管理局の技術でゲートを作って、そこを通り抜ける事で転移を可能にした。移動可能かつ、普段はいろいろな手段で偽装してるからばれんそうだ」

「いろいろって……」

「詳しいことは機密扱いで分からない。だが、相当厳重な警備はされてると思うぜ?単体で次元を超える能力を持つ機関の艦艇とかは数が限られるし、今の連邦の技術力だと一般の船全部に波動エンジン積めるほどの生産力ははないって話だしな」

――この時期に次元世界の往来に使われている次元ゲートはおおまかに言えば米国のSFであったようなデザインのものを超大型化したようなものであった。これは地球連邦の生産力では次元を超える能力を持つ機関を民生用に供給しきれない故の措置で、時空管理局と銀河連邦の技術援助で2201年までに数ヶ所に建造、設置された。大きさは軍事的移動を重視したため、524mの全幅を持つガルダ級も安々と通れるほどの大規模を誇る。これは本来は次元世界の往来に使用されるべきものだが、地球連邦の中興を望まないジオン軍を始めとする反連邦勢力のテロの標的にされるのを懸念した政府によって、存在の公表は避けられているのが現状であった。アウドムラが轟音を立てながら着陸する。そこからMSやコスモタイガー、可変戦闘機などが降ろされていく。9800tの膨大なペイロードを生かして、かなりの物資とともに基地に搬入されていく。

「お、ZプラスのA2型に……D型……ジェスタに……FAZZ……珍しいセレクトだな」

搬入される機体はどれも地球本土や宇宙の重要拠点や精鋭部隊用に配備が行われているものであった。特にFAZZは前線からは『ハリボテ』だの言われ、散々であったが、砲撃型MSとしては成功作と言えるため、白色彗星帝国戦でその真価を発揮した。地上では、ほぼ移動砲台として運用される。また、正式に生産された機体であることの現れとして、実戦向けに機体に改良が加えられており、初実戦時にダミーであったハイメガキャノンが正式に装備されている。これによりジェネレーターがなんと9000kWを超えた出力に増強されている。

「ハイメガキャノンを装備した機体が多いようだが、火力で制圧する算段か?」

「いや、ビーム兵器は多少なりとも威力が減衰する。ビーム一辺倒じゃない実弾を含めた火力で勝負するんだろう」

「しかしだな。あんな火器積んだ機体があると、フリーガーハマー形無しだな」

「フリーガーハマーは無誘導ロケットだから、カンに頼る側面が大きいからね。誘導ミサイルもミノフスキー粒子散布下では百発百中とはいえないところがあるけど、まぁ、無誘導ロケットよりはマシね。サーニャの活躍の場が削がれたのを気にしてるの?」

「ああ。ナイトウィッチはナイトウィッチなりの苦労があったからな。戦闘機や未来装備が全天候化がこうもナイトウィッチの活躍の場を奪うとは考えもしなかった」

「夜間戦闘機が技術発展で全天候型戦闘機に統合されたように、ウィッチもナイトウィッチと通常ウィッチの境界線が曖昧になりつつある。ナイトウィッチが輝けるのも多分、今次大戦が最初で最後だろう」

――未来世界を知る二人はナイトウィッチという種別そのものがやがて通常ウィッチと統合されて消滅する事を予期していた。それを寂しい気持ちで聞く坂本。サーニャ・V・リトヴャクが積極的に昼間戦闘にも駆り出されていく様をかなり気にしているようだ。そんな三人のもとに一人の連邦軍士官が話しかけてきた。

「あれ?少佐達じゃないですか」

「ん、コウさん?こっちに赴任してたのか」

「ええ。近代化改修後のステイメンの重力下テストも兼ねて」

「デンドロビウムの復元プロジェクトの方は?」

「ステイメンのデータからサルベージする形で40%に進行しました。たぶんミノフスキークラフトでも積んで飛ばせるつもりかも」

「あんなのを空飛ばせられるのかよ?」

「上は『木馬と言われたペガサス級が飛ばせるから無問題だろ』とのことです」

「……」

黒江は閉口してしまう。デラーズ紛争で投入されたデンドロビウムは巡洋艦と同等の速力、戦艦以上の火力と耐久力を有し、ジェネレーターは当時の内惑星用艦艇を優に稼働させられる39800KWもの大出力。デラーズ紛争当時としてはオーパーツとも言える超性能を持つ怪物であった。それを蘇らせる計画は40%ほどの進行率であるという。なら、いずれは完成して投入される。しかも当時をさらに凌ぐスペックで。運用コストを考えると、目が飛び出そうな気持ちになる。

「あの士官、黒江の知り合いか?」

「ああ、彼はコウ・ウラキ中尉。デラーズ紛争以来のベテランで、ガンダムパイロットの一人よ。GPシリーズでの戦果で著名よ。ロンド・ベルに所属が戻ったと聞いてるわ」

「GPシリーズ……あの技術者のおもちゃみたいなガンダムか。未来世界じゃあんなのが横行してるんだなあ」

「コスト高くても一騎当千の戦果上げれば釣りがくるのがMSとかでの開発事情だから」

坂本はGPシリーズを『技術者のおもちゃ』と称した。それは実用兵器としての実用性よりもスペック優先の機体の流れを決定づけたとする開発史への反発からであった。しかしMSやMAにおいてはその風潮が根付いている。智子のフォローに続く形で、コウは坂本に挨拶と自己紹介を済ませると、お得意のMS講釈に入る。

「MSはジオンのお国柄が強く反映された兵器ですから。連邦軍には国力の差で正攻法では勝てないからパイロット一人あたりの戦闘単位を連邦軍の数倍以上に上げる必要があった。それでMSを作ったんです。こうして生まれたMSは、戦車で言えばジオンが昔のドイツ軍、連邦軍が米軍に当たるような進化を辿った。連邦軍がMSの性能そのものを極限まで上げたエース用の機体を楔にして、主戦力がその量産機による物量戦に対して、ジオンはパイロット一人あたりの戦闘力による個人プレーに依存した戦力だった。結果は連邦軍の勝利に終わりましたが、MSは根付いた。そういうことです」

「ふむ。君はどういうガンダムに乗っているのか?」

「今はガンダム開発計画の遺産であるステイメンに搭乗しています。ご案内しましょう」

コウは近くの第3格納庫に三人を案内する。そこにはZプラスやジェガンに混じって、外見的にはそれらよりは古めかしさを感じさせるデザインのガンダムがあった。戦間期の設計であるのを指し示す背中のテールバインダーが、少なくとも一年戦争よりは後の時代のガンダムである事を表している。

「ガンダム試作3号機『ステイメン』。ガンダム開発計画が残した遺産の一つです」

「完成時のスペックを見るに、開発年代の割には高性能過ぎないか?」

「試作実験機ですから、当時の最新技術をふんだんに使用できたんです。それでスペック面ではグリプス戦役時のMSよりも高性能ですが、完成当時はムーバブルフレームがないので、柔軟性という点では時代相応でした」

「確か、デラーズ紛争がティターンズ一派の策略で公式記録から抹消された時に唯一、稼働可能だったこいつも解体されたんだよな?」

「GPシリーズは当時の政権とティターンズには都合が悪い存在でしたから。同時に母艦だったアルビオンも廃艦処分にされてます。ですが、エゥーゴが政権を掌握した時にデラーズ紛争の記録が解禁されたので、次世代装備の試験機代わりに三号機と四号機が再建造されたんです。見かけはデラーズ紛争の時のままですが、中身は最新鋭です」

そう。ステイメンの内部構造はグリプス戦役以後のMSと同じく、ムーバブルフレーム構造へ変更されている他、火器も新型へ換装されているなどの近代化改修が加えられており、一線級の性能を取り戻した。装甲ももちろん最新型のガンダリウムγである。

「ガンダム系って意外に拡張性あんのな。急激に技術発展してもついていけるんだから」

「ガンダム系は当時の技術理論で最高レベルのモノを結集して作られた機体が多いですから。初代ガンダムだって、ジェネレーターや装甲を変えれば現役で使えるとさえ言われるくらいですよ」

――ガンダムタイプは基本設計が優れているが故に、量産機の雛形としても代々活用されてきた。初代ガンダムがジムを生み出したように、mk-UがジムVやジェガンへ影響を与え、ZガンダムがZプラスやリ・ガズィ、ZUがリゼル、Sガンダムがネロと言った具合だ。機体自体も拡張性に優れ、例えば、基本設計がグリプス戦役後期のものであるZガンダムが急激な技術発展を経ても現役で、しかも並ぶものが少ない一線級の戦力として扱われているのも大規模な近代化改修を受け入れられる余地が設計にあるからである。坂本達はコウの説明にすっかり聞き入っている。そこに警報が仰々しく鳴り響く。艦内放送は以下の様な内容であった。

『ティターンズのハワイ基地及びグアム基地よりB-52及びB-29が発進し、本基地へ接近中。戦闘要員は直ちに戦闘態勢を取れ。繰り返す、戦闘要員は直ちに戦闘態勢を取れ』

早期警戒機が敵戦略爆撃隊を補足し、基地に通報したのだ。この時の戦略爆撃が通報されると同時に扶桑皇国及び連邦軍への宣戦布告が律儀になされ、正式に開戦が通達された。既に基地の各種兵器に火が灯され、外からは熱核バーストタービンなどのジェットエンジンの轟音が鳴り響き始める。黒江と智子は直ちにジープに格納していたジェットストライカー『F-86F』(旭光。国籍標識は変更されたばかりのホヤホヤの日の丸標識である)を使用し、エンジンを暖気運転し始める。

「坂本は管制塔に行って、状況把握してこい。コウさん、お守り頼んます」

「分かりました。ご武運を」

「行くぞ穴拭!」

「OK!」

ライセンス生産されたJ47-GE-27魔導ジェットエンジンを唸らさせ、颯爽と発進していく二人を見送る坂本。既に魔力喪失の身であるので、共に戦うことは出来ない。寂しさはあるものの、エクスウィッチとして人生を歩む事を選択した彼女なりの生き方。すぐにコウの運転で管制塔に向かい、状況把握のために基地の司令部と話す。

「少佐、ウィッチの指揮管制は君に任す。そこの通信機器で早期警戒機と話せる。基地のコールサインは『マスタング』だ」

「了解」

早期警戒機と通信すると、敵は弾除けを兼ねたB-29を先行させ、その後に本命が続くとの情報が伝えられる。坂本は連邦軍との取り決めされている、ウィッチとの通信用のチャンネルを開く。

「黒江、敵は二段構えで来る。先行している在来型は囮だ。後方に本命のデカブツがいる」

「B-52か。B-29が囮という事は、まだリベリオン本国は36や47は配備されてないな。良かったといえば良かったが……だが、在来型機じゃキツイな。レシプロ機部隊は新型以外は発進させないようにしろ。的でしかない」

「ああ。ウィッチはどうする?」

「若い奴らは出すな。連中の練度じゃP-51にびっしり守られたB-29の敵じゃない」

「わかってる。504の赤ズボン隊やハルトマンにシャーリーが菅野と宮藤の援護に向かった。療法を指揮に入れて暴れてこい」

「了解。お前、案外そういう才能あるな」

「手は打っておくべきだろ?」

「やれやれ。竹井や閣下に私の名で感謝電入れといてくれ」

坂本は義勇兵の名目で501の元配下の将兵の何人かや、504の人員を南洋島に呼んでいたらしい。坂本の人徳と竹井の政治力の賜物だと悟った黒江は久しぶりに笑った。そしてこの戦いが太平洋戦争の火蓋を切る戦いであると自覚し、智子と共に友軍との合流点へ向かった。


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