短編『次なる戦いへ……』
(ドラえもん×多重クロス)



――地球連邦政府がその治世で中興を迎えたのは、西暦2201年の後半ごろであった。フォン・ブラウン市への遷都が思いのほか早く実現し、開明的な議員の割合が増えた事もあって、政府の再編業務が予想より遥かに進行したのだ。この年の一月、地球連邦政府は『旧国連構成国の連合体』から『地球とその移民星の連合体』へその様相を変えた。同時に正式名称を『地球星間連邦』へ変更。軍もその名称へ変更(ただし、連邦軍であることに変わりはないので、略称は連邦軍のままである)された。ここに正式に星間国家への道を歩みだした地球連邦であるが、その前途は相変わらず多難であった。同年早々にシャア・アズナブルが自らの健在を宣言。同時にネオ・ジオン軍の再興を宣言した他、火星に『謎の無人兵器』の集団が現れた。スーパーロボットや実弾の攻撃、ショックカノン以外に有効打のない故に、火星駐留軍はあっさり敗れた。地球連邦軍はその対処に追われていた。


――ギアナ高地 

「将軍、月にネルガルが作った『機動戦艦ナデシコ』が向かったそうですが、いかがなされます」

「ロンド・ベルの第一群を送って、共同戦線を展開させよ。ミスマルくんの娘が艦長らしくてな、電話で懇願されたよ」

「提督は親バカですな」

「奥さんに先立たれ、男手一つで育てたのだ。心配もするさ。シャア・アズナブルの事も気になるが、彼らはロンド・ベル以外でも対処可能だ。問題は『木連』だよ」


――火星に現れた組織は表向きは『木星蜥蜴』というエイリアンという事になっている。だが、その実は木星圏ガニメデ・カリスト・エウロパ及び他衛星小惑星国家間反地球共同連合体という、やたらと長ったらしい名前を持つ国家であった。彼らは21世紀前半頃に月面都市で地球連邦からの独立を志向した勢力の末裔。複雑な経緯を経て、主に日本人で構成されている。彼らは火星や木星圏の超古代文明の遺産を活用して遺伝子改良の結果、男の比率が7対3と多くなった。彼らが旧国連がその最末期に迫害した人種の生き残りであるのを知ったのは、レビルですらついこの間の事だ。これは政府関係者の中でもトップシークレット扱いで、知るのはごく僅かであった事に由来し、いつしか火星にある超古代文明の遺産を巡る派閥争いまで起こっていたのだ。レビルはこれに憤慨し、自らの懐刀として活用するロンド・ベルを密かに送り込んでいたのだ。

「例の木星の連中ですな?しかし何故、政府は隠匿するので?」

「昔の国連は旧連合国軍戦勝国クラブだった。その名残で独立派の7割は日本人だったのをいいことに、弾圧を加えた。テラフォーミング初期段階の火星に逃げ込んだ彼らを今度は核ミサイルが襲った。その頃に日本人が統合戦争で地球連邦を設立したんだが、それを知らないであろう彼らは木星圏に逃げ込み、建造が中断されて斯道都市になったヱルトリウム級や、他の衛星を住み家にした。地球連邦設立の際に旧国連の五大国の人員は弾圧された記録すらある。日本人が支配層になった地球連邦に知られると、次代の政権で生きていけないから隠匿したのだろう。その子孫らが隠匿をし続け、彼らとお互いに戦争をするハメになったのだ。ロンド・ベルには知らせてあるが、ナデシコの連中は無論知らん。事の是非はナデシコのユリカ君らが決めるだろう」

――ミスマル・ユリカ。ミスマル・コウイチロウの実子にして、機動戦艦ナデシコの艦長である。シミュレーターでの訓練で無敗、士官学校出ではないが、地球連邦軍将校の資格を持つ。容姿端麗だが、弱点に天然ボケ&料理が壊滅的が挙げられる。レビルも数回ほど彼女の料理で腹痛を起こした事があるほどだ。彼女の指揮能力は高いが、実戦経験が少ないのが玉にキズである。ナデシコのレーダーを掻い潜るように極秘に後を追うロンド・ベルはナデシコを視界内に捉えていた。




――宇宙航宙戦艦シナノ 艦橋


「ナデシコ、視界に捉えました」

「ネルガルも大層なもの作ったな。ナデシコのデータを出してくれ」

「はい」

ナデシコのスペックがモニターに映し出される。そのスペックは惑星間航行艦としては高性能だが、その武装は最低限であった。対空対艦ミサイルランチャー、内蔵式レーザー砲6門、重力波砲一門程度。ヤマト型に比べると軽武装の部位である。ただし、コンピュータによるハッキング能力は随一で、指揮統制艦であるアンドロメダ級にも匹敵する能力を持っている。むしろそれが主眼であると思われるほど過剰性能である。



「艦載機はエステバリスだったな?」

「はい。小さいですが、侮れません」

――エステバリスとは、ナデシコ級の艦載機として開発された小型機動兵器である。人型ながら動力の省略で小型化に成功、完成段階のIFSを操縦システムに採用したおかげで良好な操縦性がある兵器だ。軍がロンド・ベルを送り込んだのは、逆に彼らを鎮圧できる能力があるからだ。

「鉄也、グレートカイザーのテストも兼ねて、ナデシコにご挨拶してこい。超合金ニューZαはグラビティブラストも効かないからな」

「了解」

ブライト・ノアはここで始めて、進化したグレートマジンガー、いや、グレートマジンカイザーに出動を命じた。マジンカイザーと比べて攻撃面に特徴があり、この時が始めての実戦投入である。威力偵察のつもりだったのだが、思わぬ乱入者が現れたために、『救援』をする形になった。それは十数年前に、70年代スーパーロボット風の作風を追求して、小さいお子様と大きい友達にそこそこ人気のあった『熱血!ゲキガンガー3!』を象ったらしきメカであった。エステバリス隊はよく奮戦するものの、大きさの差と装甲厚の差で苦戦を余儀なくされた。そして、増援の無人兵器がエステバリスの一機を鹵獲しようと組み付いた瞬間であった。悲鳴と怒声が入り混じる状況に、場所に不釣り合いな『声』が響き渡った。

『ゴッドサンダー!!』

宇宙空間にも関わらず響き渡るスピーカー越しの叫び。同時に雷が起こり、エステバリスを鹵獲しようとした無人兵器を破壊し、第二撃が大型メカを痛撃する。その様子にその場の誰もが目を疑う。

「お、おい!?ここ宇宙空間だぞ!?宇宙で雷が起きるなんて!?」

と、エステバリス隊の事実上の指揮を執るスバル・リョーコが珍しく狼狽えた声を出す。その狼狽えを表すように、エステバリスも同様の動きを見せている。IFSを採用した故の人間臭い動きだ。そして、その主が姿を見せる。宇宙空間にも関わらず、雷を鳴らしながら。宇宙空間に溶けこむような漆黒のボディと胸にあるモールド。そして、ヒロイックなデザインはスーパーロボットであることをいやというほど教えてくれる。ナデシコ側もゴッドサンダーのエネルギーをキャッチする事で、その存在を掴んだように、モニターにその詳細な映像と解析結果が表示される。


――機動戦艦ナデシコ 艦橋

「ふ、ふえっ!?ここ宇宙空間……だよね…?……」

ナデシコの艦長であるミスマル・ユリカは唖然としたかのような声でただ前方のモニターに釘付けとなる。オペレーターのホシノ・ルリはその解析結果を報告する。

「オモイカネの分析結果が出ました。グレートマジンカイザーです」

「グレートカイザーって、あのグレートマジンガーの後継機って専らの噂の?」

「軍の公式記録ではそうなってます。ですが、実際はグレートマジンガーの設計は完成されすぎて発展の余地が殆ど残されていなかったので、ゲッター線浴びせて進化させたようです」

ルリとナデシコの管制コンピュータ『オモイカネ』のハッキング能力は地球連邦軍が極秘に次期戦略構想に入れるほど高いものである。それを以てすれば、軍の機密情報も手に入れられる事を示していた。グレートマジンカイザーの詳細が、公式発表と実際とでは違う事も瞬く間に掴んでいた。ゲッター線はこの時には新規研究は停止されていたが、森羅万象全てを進化させる作用は一般にも知られていた。なので、ナデシコのクルー一同もグレートマジンガーがカイザー化した事実を知っても比較的冷静だった。

「グレートカイザーのエネルギー反応はナデシコのおよそ数十倍です」

「えぇ〜!?」

「スーパーロボットの動力はトンデモなエネルギーの場合が多いです。特にマジンガーのエネルギーは光子力、ないしは反陽子です。相転移エンジンを上回るエネルギーを叩きだしても何ら不思議ではありません」

淡々と報告するルリ。彼女は当時、弱冠11歳。ミスマル・コウイチロウ提督の根回しによって、既に中尉の階級が与えられていた。銀髪のツインテールがとても印象的で、この時点で既に地球連邦軍上層部にファンを獲得していた。スーパーロボットの戦力が如何に強大であるかも掴んでおり、何のためにここにいるのかも薄々と感づいていた……。


「テメー、何者だ!?」

『俺はグレート、グレートマジンカイザー!!偉大な帝』だ!!(当初は偉大な皇が考えられていたが、それではニュアンスがマジンカイザーと被るので変更された)』

「グレートカイザー!?……って、ロンド・ベルの艦載機じゃねーか!なんでここにいんだよ」

『悪いが、今は説明する時間はない。こいつを黙らせるほうが先だぜ、お嬢ちゃん』

「何ぃ!?」

その瞬間に大型メカが打ち出したレーザーをこともなげに腕を突き出して受け止める。しかもレーザーが装甲に負けて偏向する現象すら起きていた。超合金ニューZαの強大ぶりが分かりやすく起きている。更にはエステバリスがフィールド無しでは大破しかねない攻撃を食らってもピンピンとしているのは、スーパーロボットの面目躍如であった。そして相手のフィールドを纏っての突撃にも傷つくことはなく、組み付く。相手はバーニアとスラスターを全力噴射しているはずだが、グレートカイザーのパワーの前には虚しく噴射炎を発するだけであった。

『ほれ、どうした?押し返してみろ』

剣鉄也の挑発に敵は怒り心頭のようで、腕で殴りかかってくる。と、言っても組んでいない方の腕のロケットパンチを点火しただけだが、グレートカイザーの腕に掴まれ、押すこともできないままに、そのまま点火状態で押し戻されてしまい、握りつぶされる。

『さて、お遊びはここまでだ。ぶっ飛べ!!ギガントミサイル!」


胸から大陸間弾道弾まがいの大型ミサイルを生成し、撃つ。そのまま相手に直撃し、フィールドを消し去る。同時に機体のエンジンなり、電装系に過負荷がかかったようで、機能停止し、やがて爆発して果てる。

『当初の目的と違ったが……ちょうどいい。おい、お嬢ちゃん。ウチの艦に来い。事情を説明する』

「お、おう。で、でもウチの艦の連中に事情いわねーと……」

『いや、そのへんは君の艦のほうが先に掴んだようだ。今、許可が出た』

「おぃぃぃ〜、いいのかよそれぇ」


エステ越しにずっこけるリョーコ。グレートカイザーの手に乗っかる形で運搬(エステバリスは母艦からエネルギーを受信できない場合はバッテリーに切り替わる。その稼働時間は長くないので)してもらい、シナノに軍使として乗り込む事になった。同時にブライトからロンド・ベルとして、追跡指令を受けていることがユリカに伝えられ、なし崩し的にナデシコはロンド・ベルを引き連れる事になった。同時に、ここでユリカやルリなどの一部人員に軍籍が正式に与えられた。ロンド・ベルには元々、人員に10代及び20代が多かったため、ナデシコのクルーも安心して打ち解ける事が出来た。そして、艦として遥かに高性能である(ヤマト型には火力、装甲・機動性を含めた総合性能でナデシコは及ばない)ヤマト型には撃ち合いで勝てない事を知るメンバーの意志もあり、『ロンド・ベルがナデシコを監視する』という名目のもと、共に行動する事が決定された。しかし、ナデシコそのものの性能はロンド・ベル第一群の保有する恒星間航行用の新鋭艦に及ばない事に悩んだユリカは敵の別働隊によって建造段階で大破したナデシコ級四番艦『シャクヤク』用のユニットを強引に接合し、同艦用の新型相転移エンジンに載せ替える事を決定した。

「艦長、無茶言わんでくれ……シャクヤクは次世代艦のテストも兼ねてか、ナデシコとは規格が変更されてるんだぞ?」

「4番艦用の装備が1番艦にくっつかないはずはありませ〜ん!!」

「……」

ナデシコのチーフメカニックであるウリバタケ・セイヤはユリカのこの一言に頭を悩ます。シャクヤク用の『Yユニット』を、その起動を前提とした出力を持つシャクヤクの相転移エンジンと共に移植しろというのは無理難題だからだ。それにはネルガルのドックは直ぐに使えない。設備を修理しなければならないからだ。

「ああなってはシャクヤクを直すよりナデシコにくっつけるほうが安上がりだ。シャクヤク用の電装品で無事なのはナデシコに移植させよう。あとは瓦礫とシャクヤクの残骸をのければ作業は出来る」

実はネルガル重工の会長であるアカツキ・ナガレが肯定した事で、プランは実行され、ナデシコは姉妹の部品を移植される形で数週間ほどの改装を受けた。同時に個艦火力はシャクヤク用の武装が移植された上で、増設された結果、上昇した。オモイカネの演算能力もアップデートされ、改装前比40%の増加を見た。


「おおおぉぉぉ……夢にまで見たスーパーロボット軍団!生きててよかったぁ〜〜!」

と、外で警備に付くスーパーロボットを見て感涙しているのは、ダイゴウジ・ガイ、本名はヤマダジロウである。彼はナデシコが発進して直ぐの頃に銃弾を浴び、生死の境を彷徨ったが、無事に意識を回復。正規軍人(少尉)であった事もあり、ユリカご執心のコック兼パイロットのテンカワ・アキトに操縦技能を教えこんでいる。彼は重度のアニメオタクで、本物のスーパーロボットを有するロンド・ベルに憧れており、今回の出来事は正に行幸だった。ちなみに、ドモン・カッシュに声が似ているのも彼の自慢の一つであるらしい。

「ガ、ガイ。んなに泣くなよ。恥ずかしい」

「バッキャロー!スーパーロボットだぞ、スーパーロボット!!マジンガーの新型に、ゲッターロボのニューモデル!ダンクーガ、ダンガイオー!フルメンバーで無いにしろ、スーパーロボット軍団なんだぞ、スーパーロボット軍団!」

「へぇ。お前が俺達のファンなんだって?」

「ふ、ふぉぉぉ!あ、あんたはグレートマジンガーの剣鉄也さん!さ、サイン下さい!」

「いいぜ」

「うぉ〜〜〜!!」

ガイは良くも悪くも無邪気な少年のような心と、歳相応の側面を持つ男であった。白色彗星帝国戦役の頃にはまだ学生であった彼、スーパーロボットの姿に余計に憧れるようになり、その搭乗者と出会えたのは至上の幸福であった。アキトもまんざらではなかったようで、笑っていた。そんなアキトの様子に、ぐぬぬと悔しがるのはリョーコであった。彼女は勝ち気なように振舞っているが、本質的にはか弱い乙女な一面を持つ。そのためにその面を知る、古い友人のコウ・ウラキからはツッコまれた。

「なんだリョーコ、あの子の事好きなのか?」

「コウ、お、お前!な、なんでそれを!」

「お前のさっきからの動き見ればバレバレだぞ」

「ぐぬぬ」

「お前こそ早くニナさんとより戻せよ。まだ気にしてんのか?デラーズ紛争での事を」

「ニナに対しては、あれで正直言って不信感を抱いたよ。俺よりも敵の、しかも昔の男を選んだのか!って……。だから同棲はしても結婚に踏み切れないんだ」

コウはニナ・パープルトンのデラーズ紛争での『裏切り』で精神的バランスを崩し、彼女への愛が一時は憎しみへ変化してしまった。ニナはコウを裏切った事に罪悪感を感じており、コウに尽くす事で贖罪せんとしていた。彼女の努力により、関係はある程度修復されたのだが、一線を超えきれない辺りはコウの傷の大きさが窺えた。

「俺にとってはこの世の終わりのような衝撃だった。だからか、ニナを信じ切れないんだ……」



――戦争で負った傷はそう簡単に癒えない。コウ・ウラキにとって初恋であったのも、余計に不味かった。それはニナの最大の失態でり、彼女の人生にしばし、暗い影を落としてゆくのであった。







――この時のロンド・ベルには多数ののウィッチが在籍していた。エーリカ・ハルトマン、菅野直枝ら旧502の面々、シャーロット・E・イェーガー、フランチェスカ・ルッキーニ、陸軍三羽烏の三人、ハンナ・ルーデル、黒田那佳、宮藤芳佳、ハンナ・マルセイユ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、ゲルトルート・バルクホルン、旧504の5人である。それらがロンド・ベルに集まっていた。マルセイユはアフリカ戦線が自分のミスが原因で(正確には違うが)まさかの転進を余儀なくされた事から、酒浸りの自暴自棄になっていた。それを見かねたティアナ・ランスターが、ルーデルに相談を持ちかけた事から、ルーデルによって未来世界へ連れて来られた。(酒はルーデルによって禁止された)

――シナノ ルーデルの執務室

「大佐、マルセイユ中佐ですが、上手くいくのでしょうか?」

「奴はアフリカ戦線の転は自分のせいだと、自責の念に駆られているだけだ。思い切り泣けばいい。直に収まる。奴は柄でもない事を背伸びしてやっていたんだ。無理も出てくるさ」

ルーデルはマルセイユの張り詰めていた緊張の糸がぷっつりと切れた事で、軍人としてではない、素の少女としての姿が出ているのだと解説する。バルクホルンもかつてはマルセイユと犬猿の仲だったが、流石に同情したようで、複雑そうである。

「このようなところで油を売っていていいのでしょうか?同胞たちは今も祖国奪還のために戦っているというのに」

「状況は変わったのだ少佐。アフリカ戦線が瓦解した今、ロマーニャは激戦区だ。そのために名目を立てて、貴官らを呼んだのだ。501の主要メンバーを呼び寄せるだけでも骨を折ったのだからな」

ルーデルは三羽烏を顎で使えるウィッチである。人事裁量権はガランドに次ぐほどで、任地が空白となっていたマルセイユや、ミーナ達をベルギカ(ベルギー)の基地赴任を変更させ、ロマーニャからほぼそのままロンド・ベルに呼び寄せたのだ。故に、オラーシャへ赴任したサーニャ達、ガリア復興に従事するリーネ達以外の全員はロンド・ベルに集まっていた。

「確かに、統合戦闘航空団3つ相当の人材を一箇所に集められる大佐の裁量権は驚嘆に値しますが、ですが、どうやってロマーニャの軍事的空白を埋めたのです?」

「歴代のヒーロー達が基地に在駐してくれている。彼らなら一騎当千、ネウロイであろうとも問題はない」

歴代のヒーロー達の勇姿はバルクホルンも話に聞いている。自分たちが消えてもその空白を埋められるに値する軍団である。しかし、彼らの力が強大であるが故に、上層部に気の緩みが生じたのではないかとバルクホルンは考えていた。しかし実際はティターンズの息がかかったリベリオン軍の物量に押し負けたのが本当のところだ。

「貴官はアフリカの崩壊を上層部の緩みだと考えているようだが、そうではない。物量だよ、物量。敵はこちらが500両なら、向こうは1500両出してこようかという物量で攻勢をかけてきたのだ。しかも600機のB-29を出してくる援護付きだ。勝てると思うか?」

「確かに……」

「我々は当面はロンド・ベルで行動する。貴官らはISなりを調整しておくように」

「ハッ」


バルクホルンはこの時期、ISを得ていた。それを宇宙で使用している。感覚的な操縦が可能である故、機械音痴の彼女でも動かせた。なので、宇宙で見ているだけという事はない。月は最前線である。ベガ星連合軍の前線基地が存在する故、ちょくちょく敵が爆撃に来るのだ。それを各員が入れ替わり立ち代りで迎撃している。未来での戦闘は基本的に元の世界のそれの時より遥かに早い速度で進行するし、動体視力を鍛えなくればビームを避けられない。バルクホルンは智子が一度目の現役時代の全盛期に軍に入隊した世代(坂本より2歳ほど若い)なので、駆け出しの頃は実弾を撃たれていたのが、盛りを迎える時にはビームで撃たれるように変貌していた。なので、ビーム兵器は見慣れていたが、更に高初速なメガ粒子砲には苦戦し、模擬戦での戦績は思わしくない。バルクホルンは実戦経験豊富な事を誇りにしてきたが、その経験が浅い篠ノ之箒にドックファイトで競り負けたのはショックだったようで、最近は訓練の虫になっていた。

「しかし、ナデシコとは珍しい名前だな……普通は地名か人名、昔の戦場、戦列艦の名前と決まってるんだが」

此度、ロンド・ベルが同行する事になった民間企業建造の戦闘艦の名を疑問に思う。自分のの時代には戦闘艦は国が作るものと、相場が決まっていた。だが、時代とともに民間軍事会社という概念が出現し、それらの中でも大規模なところは独自の艦隊を持つというのは考えさせられている。そして、ナデシコは民間会社が事業で建造し、クルーの殆どが民間人という状態だ。ますますわからない。




「うーむ。ますますわからん……」

「バルクホルンさ〜ん」

「なんだ宮藤」

「はい。ローテーションが回ってきたのを伝えに来ました。」

「そうか、今日は私達だったな。よし、ハルトマンを起こしてこい」

「了解です」

ロンド・ベルはベガ星連合軍の定期爆撃に、これまた部隊をローテーションさせる形で対応していた。ウィッチ勢の迎撃ローテーションの週である今週は、昨日が菅野・芳佳の旧・343空新選組コンビであり、この日はバルクホルンとハルトマンのコンビであった。彼女らはISを使用する。これはウルスラが回してきたロケットストライカー『コメート』が安定性不足であること、航続距離が制空戦闘には不向きである事から、安定性のあるISを使用していた。格納庫に行くと、今回は箒が同行するようだ。

「いいか篠ノ之、実戦ではお前が元の世界で行ってきた競技での常識は通じん。私とハルトマンから離れるなよ」

「り、了解です」

と、そこにリョーコがやってくる。ユリカの指示で戦闘に加われと指令されたようだ。

「バルクホルン少佐だっけ?機動戦艦ナデシコのエステバリス隊の指揮官やってるスバル・リョーコだ。うちの艦長の指示で同行させてもらうことになった。よろしく」

「ゲルトルート・バルクホルンだ。よろしく頼む。早速出撃するぞ」


――リョーコはその後、軍籍から離れなかったため、任務として、エステバリスの教官職を仰せつかる事になり、その後は多くの教え子を輩出してゆく。バルクホルンとはその側面からウマがあったらしく、意気投合したとの事。


――バルクホルンのISだが、ユニコーンガンダム二号機『バンシィ』と共通している武装が多いため、『バンシィ・コメート』との愛称で呼ばれているとのこと。



――これがネルガル重工の建造した機動戦艦ナデシコとロンド・ベルの出会いである。ナデシコの面々はロンド・ベルの面々を振り回しながらも意気投合していき、やがてロンド・ベルに組み込まれた状態で次なる地球圏の戦乱、後の世で言う『暗黒星団帝国戦役』に突入していくのである。



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