短編『わが青春のアルカディア』
(ドラえもん×多重クロス)



――かつて、ドイツに代々、海賊であった一族がいた。その一族はハーロックと言った。航空機が生まれた以後は航空探検家、またある時は空軍軍人として名を後世に残した。名がある一族となったのはファントム・F・ハーロックの頃であり、彼が名を上げた事でドイツ内での名家という評判を得た。その子のハーロック二世はナチス・ドイツ時代の空軍エースで、戦争末期にレジスタンスの攻撃で失明し、以後は隠棲生活を送った。その孫の三世は祖父の辿った道を辿ったような人生を送り、20世紀末にドイツ連邦空軍エースとして名を馳せ、壮年期に入りだした21世紀頃の騒乱を生き延びた後に、日本人と結婚した。古代という苗字の女性で、古代家の記録が散逸したために不明だが、古代進の一族の一人であると確実視される。後に名を馳せる宇宙海賊キャプテンハーロックはこの一族の末裔であり、古代進と遠い血縁関係がある(両者の顔が似ているのはそのため)。西暦2201年にいるのは、そのキャプテンハーロックの先祖であり、ハーロック三世から四代後の子孫に当たる『ファントム・F・ハーロック五世』(四世の後に数代ほど女子が続いたためと、夭折した者もいたため)であった。

――英雄の丘

「あなたは……?」

「君が宇宙戦艦ヤマトの古代進だね?私はファントム・F・ハーロック五世。君の遠戚に当たる者だ」

英雄の丘で、その両者は対面した。古代進は父の武夫が生前に『うちにはドイツに嫁いでいった先祖がいて、その人物を通して、ドイツの名家と縁戚になっている』と話していたのを思い出し、ハッとなる。両家の交流は父らが遊星爆弾の災厄で死亡した後に途絶えていたが、この時に再開されたのである。ハーロック五世はこの時、31歳程。彼は宇宙軍の軍人で、当時に就役した新鋭戦艦『ティルピッツ』(ビスマルク級戦艦二番艦)の艦長を拝命していた。既に後の六世となる子も授かっており、愛機のコスモタイガーに『アルカディア』のパーソナルネームを与えている。(彼の先祖が発行し、ベストセラーとなった『スタンレーの魔女』の映像化などの権利は現在は彼が管理している。後のハーロックと異なる点は、軍人らしい服装、両目が健在な事、頬に傷がない事である。ただ、彼の子孫が宇宙海賊になった理由は不明である)

「父からそれらしい話は聞いていましたが、あなたがそうなのですか?」

「そうだ。君の一族とは君から数えて、およそ三代か四代前の先祖を通して血が繋がっている。こうして会うことになったのは運命かもしれんな。父から君を見守るように、と言いつけがあってね。君は父が若かりし頃に、父を助けてくれた軍の士官に似ているからというのが理由だが……本当のところはわからん」

彼と古代の出会いは必然であったかもしれない。両者に流れる血が巡りあわせたのだと、彼の子孫であるキャプテンハーロックは後に古代進の子孫へ告げる。その時にこの時の事は両家に言い伝えられていた事が判明する。

――何故、ハーロック五世の父(入婿との事)が古代進を見守るように言いつけを出したのかは、諸説ある。父親が若かりし頃に命の危機に陥ったところを救ってくれた軍人に似ていたからと、ハーロック五世は語ったが、彼が学生時代にいじめから救ってくれ、兄のように慕っていた日本人の面影を持っていたからともされ、実際のところは有耶無耶であった。

「あなたは何故ここに?」

「ここには私の戦友も眠っている。それを見舞いにきたのだ」

「いいのでしょうか。都合のいいように私達軍人を利用した政治家達をこのまま生かしておいて」

「確かに、政治屋の多くはカリスマ性がある誰かに日和って媚びるしか脳がない。だが、テレサはそんな阿呆共に一石を投じた。自らを犠牲としてな」

――東京を見下ろせる、小高い丘に建設された慰霊施設『英雄の丘』。リリーナ・ドーリアン外務次官らの提言で拡大された公共事業で、最終的に一年戦争以来の戦没者への慰霊施設として完成した。元来は戦死したヤマト乗員への慰霊施設であったのが拡大され、現在の姿となった。彼女は英雄の丘の再整備に当って、『愛する故郷を守るために散っていった全ての軍人に哀傷の意を表すると同時に、戦乱で散っていった全ての魂に安らぎがあらんことを祈ります。私は皆様へ問います。軍隊組織が無くなると、それまでの礼賛が途端に冷遇へ変わってしまうのは何故でしょうか?嫉妬でしょうか。嘲りでしょうか?彼らが職を失った後にどうなるのか?私は恥ずかしくも理解しておりませんでした。私が大統領時代に行った施策が、結果的に多くの人々に辛苦を強いた事はこの場を借りてお詫び致します。私は彼ら軍人の行動や死を『無駄死』と断ずるつもりはありません。彼らの存在が平和を真摯に考え、人々に平和を望むためには何をすればいいのかを本当に議論する契機になったのは誰にも揺るがせない事実だからです。先の大戦で宇宙戦艦ヤマトを始めとする方々が命を賭してでも、守ろうとしたモノがなんであったか。ようやく分かった気がします』と演説した。リリーナは自らが推進した完全平和が結果的に混乱を招いた事に責任を感じており、口だけの平和主義者らが行った軍人冷遇政策を批判し、軌道修正を行わせた。荒廃した英雄の丘再建はその一環であった。具体的には廃止されていた恩給の復活、再就職支援などで、批判者からは『軍人を冷遇した罪滅ぼしを今更?』と批判された。リリーナはそれらに毅然と反論しつつも、英雄の丘の再建を推進した。自らの失政を詫びつつ、死んでいった軍人らの名誉回復に尽力した。このリリーナの演説と、その後の行動は白色彗星帝国戦後にまたも手のひら返しで、冷遇から礼賛へ態度を一変させた民衆への問題提起となり、英雄の丘は以後、地球連邦時代の全ての戦争で死んでいった軍人達の慰霊施設として機能し、以後の地球人が畏敬を抱く場所へ変貌していったのだ。

「テレサのあの行動は地球の全ての人間達に一石を投じた。そして君のあの言葉が地球人の心を変えたのだ」

――違う!!断じて違う!!宇宙は母なのだ!そこで生まれた生命は全て平等でなければならない!!それが宇宙の真理であり、宇宙の愛だ!お前は間違っている!それでは宇宙の自由と平和を消してしまうものなのだ!俺たちは戦う!断固として戦うッ!

古代がズォーダー大帝に全軍向けの無線を使って啖呵を切ったこの言葉は地球連邦軍の最後の心の拠り所となった。当時20代後半であったハーロック五世も戦艦『フリードリヒ・ヴィルヘルム』艦長として参陣しており、テレサの特攻までの一連の一部始終を目撃した一人で、古代の啖呵が地球連邦軍の戦う大義名分として機能したのは事実だと実感していた。それ故、ヤマトの名は時代が進むに連れ、特別なモノへ変貌していき、連邦軍がその後に代々の地球最強の宇宙戦艦にヤマトの名を与えていく根拠となった。それは代々のハーロック家当主が自身の乗る乗り物に『アルカディア号』と名をつけるのにも通じており、遠い未来で宇宙最強の船の一つに数えられる海賊戦艦として、彼の子孫が『キャプテンハーロック』として指揮を取る戦艦『アルカディア号』が歴史に現れる事からも分かる。

「今はティルピッツの艦長を拝命してはいるが、友人から私的に作ってる艦にも誘われていてな。困ったものでね」

「その艦の名は?」

「デスシャドウ号だ。私の家が元々は海賊であったのを知る友人が建造していてね。軍を辞めた後は大海原に乗り出そうと誘われてるんだ」

――奇しくも、その名は後の世で地球連邦軍の軍艦に使われた名であった。その軍艦はキャプテンハーロックが若き日、軍人であった頃の最後の乗艦でもあり、当時の地球連邦軍で有力な艦であった。だが、当時の政府が屈してしまったために屈辱を味わった。だが、闘志を失っていなかったハーロックと大山トチローは、当時は軍縮の傾向から『強力すぎる』と控えられていた波動モノポールエンジン(モノポール機関と波動エンジンのハイブリッド機関。技術的には2450年頃に移民星で開発されている、ハーロックらの時代においては割と古い概念である。18代ヤマトからの最盛期には連邦軍軍艦が採用していたが、二度目の戦乱期が終わった頃に、銀河連邦内の軍縮条約で複合機搭載での建造が取りやめられた)の強化発展型(次元振動流体重力エンジン搭載型も存在する)を二機搭載し、独自開発のパルサーカノンを主砲として搭載した、その超弩級戦艦がアルカディア号である。機関の膨大な出力はタイムスリップ(次元転移以上に時間転移は膨大なエネルギーを必要とする。2201年の波動エンジンでは机上の空論である。ボソンジャンプではジャンパー以外は実行が困難である故、あまり普及していない)すら可能とし、先祖の約束である『古代進、ひいては宇宙戦艦ヤマトの守護』を陰ながら実行し、ちょくちょく過去の時代に姿を表していた。ミッドチルダにも姿を見せ、『謎の海賊船』として知られていた。

――新歴80年代初頭

「海賊船?」

「はい。機関形状から地球製と思われますが、比較的巨大です」

「写真は?」

「はい。これです」

「……こ、これは……」

はやてはこの時代においては、機動六課が改編された『特務六課』の部隊長についていた。年齢は25歳、そろそろお肌の曲がり角に差し掛かる頃である。ミッドチルダ動乱はこの頃には双方で休戦条約が結ばれていた事もあり、ひとまずの休戦状態であった。だが、不測の事態に備えて、機動六課は特務六課として改編される形で存続していた。その写真に写っている戦闘艦が何であるか、はやてには理解できた。その戦闘艦こそ……。

「アルカディア号……モノホンや……実在していたなんて…。……という事は『彼』がいるっつー事やろか……?」

そう。後部に優美な後楼を有し、船体にはステロタイプなドクロマークがあり、宇宙戦艦ヤマトのような上部構造物を持つそれこそ、宇宙海賊キャプテンハーロック率いるアルカディア号であった。戦闘力は当代五本の指に入り、同程度の性能を有する軍艦は宇宙戦艦ヤマトしか存在しないというのが、はやての知る漫画での設定だ。

「部隊長、知っているんですか?」

「そうや。高町三佐とハラオウン執務官を呼んでくれへんか?大至急や!」

はやてはなのはとフェイトを呼び、写真を二人に見せた。二人ははやてと対照的に10代の若々しさを保っていた。写真を見ると、二人は素っ頓狂な声を挙げた。

『あ、アルカディア号ぉぉぉ!?』

なのはもフェイトも西暦2201年の世界に、その主の先祖と思われる一族の存在を掴んでいた。ハーロック一世の著書『スタンレーの魔女』を自宅の本棚に入れており、未来にキャプテンハーロックが表れる可能性を予期していたのだが、その本人がまさか来るとは思ってもいなかったのだ。

「しかし、何故アルカディア号が?彼は束縛を嫌うはずだぞ?」

「そうそう。元は軍人だったけど、マゾーンだが、イルミダスだがに地球が負けた事で、退廃した地球に見切りを付けて、自分の信念の赴くままに生きる人のはず」

「そのへんはわからへん。ただ、ヤマトの危機に現れたりしてるから、ヤマトに誰か、先祖の関係者がいるんじゃ?ハーロックの時代はヤマトよりだいぶ後のはずやし。それにあの世界にゃ999はないはずやし、機械化帝国も存在自体ないはずや……そもそもあれは1000年女王に雪野弥生がなってへんと成立し得ない」

「たぶんそれらが無く、宇宙戦艦ヤマトだけが存在する世界なんじゃないか?ドラえもんがタイムマシンで調べたら、地球連邦は恒星間連邦国家に24世紀あたりで更に再編されてるっていうし」

「そうやろなぁ。アルカディア号のデザインはこの写真だと判別のしようがないわぁ。後ろ斜めからのアングルやし」

「確か、初出の原作やTV版だと、艦首の形が鋭角艦首で、999の映画で骸骨艦首デザインに変更されたけど、アルカディア号自体がいくつもあるって設定だったしなぁ」

なのはは何気に詳しかった。キャプテンハーロックがデスシャドウ号を経て、海賊時代は一貫してアルカディア号を乗艦にしていたが、アルカディア号そのものが大山トチローの計画で『9号まである』とされており、後期建造艦になるほど巨艦であるとされる。ハーロックが使用しているアルカディア号が何号であるかは定かで無いが、ヤマトを凌ぐ巨艦であることから『後期建造艦』なのは確かだろう。

「ドラえもんに六面カメラ借りられたらな…」

「そうだその手があった!フェイトちゃん、携帯借りるよ。……あ、野比さんのお宅ですか?高町なのはです、どうもお久しぶりです。ドラえもん君いますか?」


こういう時のなのはの行動は迅速で、直にドラえもんを呼び出し、六面カメラを使ってもらう。するとアルカディア号の船首部分の形状が明らかになる。映画版以降の骸骨艦首型で、999以後のポピュラーなデザインだ。しかし写真を見ると、自分の世界の設定よりもかなり巨大なのが分かる。

「こりゃヤマトよりもあるな。恐らく優にキロ単位はあるな」

「なんで分かるの?」

「ラー・カイラムとかほぼ500mなんだぜ?それよりかなり巨大でないと見劣りするからね。海賊は見た目のインパクトも重要なのさ」

――ドラえもんはこの頃、南海大冒険を経ていた。なので、実際に海賊時代の海戦を目の当たりにしている。キャプテン・キッドの海賊船は当時としてはかなりの巨艦であった。それ故、アルカディア号がヤマトを凌ぐ巨艦であっても不思議でないと話す。武装は当然ながら、ヤマトよりかなり後の年代の最新武器を積んでるはずなので、管理局が喧嘩売ったら全艦が海の藻屑となるのは確実だ。

「はやてちゃん。直にアルカディア号に手を出すなと全軍に通達するんだ。でないと管理局艦隊なんて数時間あれば海の藻屑になっちまうよ」

「分かった!」

はやてはこの時期では管理局の艦隊司令部不足により、二佐という階級を超えた権限を得てており、全艦隊に指令をある程度発せる。その権限を行使したのだ。


「これからどうする?」

「アルカディア号が現れたら私が直接、接触するしかないやろ。宇宙で五本の指に入る力がある戦艦と、男の中の男なキャプテンハーロックは敵に回したくない」

「一応、VFとコスモタイガーあるから、軍使には使えるよ」

「そいやその時代のヤマトってどうなってるんや?」

「グレートヤマトがその座を受け継いだよ。初代の正統後継者として人気もある」

「グレートヤマトが後継いだんか……おもろいで」


――そう。宇宙戦艦ヤマトは後の世の記録では、西暦2205年頃に水惑星『アクエリアス』に、地球を守るべく自沈し、その身を横たえたが、実はその設計データは極秘にある技術士官がコピーを入手していた。その士官の名は大山敏郎。後にキャプテンハーロックの盟友として歴史に名を刻んだ『大山トチロー』の先祖の一人である。彼はヤマトの自沈後、オリジナルの宇宙戦艦ヤマトの姿と精神を受け継いだ正統後継艦が二代目ヤマトの後も現れるのを望んでおり、初代ヤマトの設計を改善しながら実現を心待ちにしていた。だが、紆余曲折の後に彼は実現を見ること無く没し、以後は子孫らの代々の仕事の一つとして受け継がれ。彼の遠い子孫がそれを完成に至らせた。その名も『宇宙戦艦グレートヤマト』。地球連邦軍が代々、建造してきた宇宙戦艦ヤマトの系譜とは違い、初代ヤマトの姿をほぼそのまま留めていた。主機関は時代に沿う第三世代型波動モノポール機関、武装は強化発展を重ねたプラズマショックカノンを主砲塔に収め、波動砲も回帰時空砲システムを搭載した。あくまで私的に建造した艦であったが、その時の連邦軍製ヤマトが敵の前に敗れ去った時に封印が解かれ、正式に歴史に姿を表わす。初代ヤマトを思わせる圧倒的強さと、その姿を純粋に受け継いだ姿から、ヤマトを超えたヤマト、初代の正統後継者という観点から、『グレートヤマト』と崇敬されていく。クルーも概ね初代ヤマトクルーの子孫であることから、正式に『第〜代宇宙戦艦ヤマト』という連邦軍からの符号も付加され、地球連邦軍のその時代の敵に対しての反抗の象徴として君臨することになる……。





――はやてらはその数日後、宇宙戦艦ヤマトと共にミッドチルダへ寄稿してきたアルカディア号と邂逅。港につき、アルカディア号を見上げると、甲板に一人の男が立っていた。その男こそ、ファントム・F・ハーロック五世の更に遠い子孫にあたる、さすらいの宇宙海賊『キャプテンハーロック』。ドイツのユンカーの血統を受け継ぎ、信念のままに生き、戦う、男の中の男。この時、なのははアルカディア号の雄姿にこう呟いたという。

――わが青春のアルカディア――

彼女が車の中で読んでいた本『スタンレーの魔女』の文中にもあった一文だが、その一族が最終的に到達し、手に入れた遠未来世界最強レベルの宇宙戦艦。大山トチローが心血を注ぎ作り上げた最高の芸術品。それに足を踏み入れる事に、一抹の不安を感じつつもなのは、フェイト、はやて、ドラえもんはアルカディア号へ足を踏み入れた。



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