短編『地球連邦の紆余曲折』
(ドラえもん×多重クロス)



――地球連邦政府は度重なる侵略者の無慈悲な攻撃で、軍隊を否定する事をやめざるを得なくなり、連邦軍の再建を推し進めた。反戦を唱えても、相手に慈悲の心が無ければ滅ぼされるだけだと示された事で、軍隊組織の必要性が改めて認識されたのだ。人々は冷遇した軍人らを再び厚遇するという手のひら返しをした事で、引き起こされるであろう軍人の反乱を恐れ、廃止していた軍人の福祉関係事業を復活させるなどの施策を慌てて行った。このことに不本意な者もいた。かつてゼクス・マーキスとしてOZに在籍し、ミリアルド・ピースクラフトとして、戦艦リーブラを落とそうとした男だ。彼は人に戦争の愚かさを見せ付けるために、リーブラを落とそうとしたのだが、ヒイロ・ユイらに阻止され、更にその後に侵略者が現れてしまい、自分の行為がお遊戯に見えるような殺戮を行った事で、政府が自衛戦争を肯定せざるを得なくなった経緯を複雑な思いで見つめていた。彼は『プリベンター・ウインド』というコードネームを名乗って生活しているが、紆余曲折の後に人類が戦いを捨てるどころか、より激しい戦争を戦う羽目になったという事実を受け入れていた。

――欧州 ベルギー

「ノイン。私は人類に戦争の愚かさを見せ付けるために、リーブラを落とそうとした。しかし、侵略者のおかげで人は軍備を捨て去れなかった。喜ぶべきか、悪いのか……」

「完全平和主義とて、戦いで掲げられる理念までは否定していない。侵略者が現れれば、守るために戦うのは当然です。それはリリーナ様もよく解っておいでですよ」

「私達兄妹は形は違えど、父の理念を実現させようとした。だが、今一歩のところで侵略者によって打ち砕かれた。完全平和主義は戦う事をけして否定はしていないはずが、いつしか決起することさえ否定するという解釈がまかり通り、退役軍人への福利厚生も廃止せよという風潮を産み、軍人、ひいては軍需産業で生活する者等の反感を買ってしまった。それが今の軍拡に繋がっていると思うとな」

――ゼクス・マーキス(ミリアルド・ピースクラフト)の妹であるリリーナが父から継承し、政策として掲げた完全平和主義は誤解されがちだが、軍隊組織の否定ではあっても、戦いの理念までは否定していなかったはずが、いつしか人々の間で『無抵抗主義』と解釈された事、結果的に宇宙戦艦ヤマトとスーパーロボット、テレサという力で侵略者を打ち倒さざるを得なかったという事実が人々の間に広く認知された事で、『守るための戦い』を肯定する世論を産んだ。リリーナの政権での唯一無二の失敗は、予定された組織解体後の軍人らに対して、福利厚生の手立てを打たない官僚を咎めなかった事である。(ある世界では、軍人らへの福利厚生を怠った事で、クーデターが起こったという)軍隊組織が無くなった場合に生じる経済的損失、災害への即応性の喪失、治安の問題……それらが白色彗星帝国戦役は浮き彫りにし、国民は災害対応や治安の問題を重視し、連邦軍の存続を選択した。

「時代は私達の望んだ方向には、必ずしも向かなかった。だが、人々はそれなりの生き方を選んでいく。経済的・災害即応・治安維持のために軍は存続した。最もだが、警察が存続するのに、軍隊を廃止するのは『虫がよすぎた』のだろう。移民星が増え、宇宙の脅威が顕現した時世では、人々は『身を守る』力を欲した……。武器が無ければ身を守れない時代というのも、皮肉なものだな。」



――『官僚によって真意がねじ曲げられ、完全平和主義は無抵抗主義と取られてしまった』――

これが彼女を後世の人々が評価するに当たっての最大の不幸だった。リリーナ自身は無抵抗主義ではなく(無抵抗主義をむしろ嫌っていた)、『人々が自分の力で立ち上がって『蜂起』する』事を望んでいたのだが、惑星をその武力で破壊してきた侵略者の前には通じない方法(惑星を惑星破壊プロトンミサイルで吹き飛ばせばいい故)だった。急遽、武装解除中であった連邦軍を以て抵抗する事を決定したのが、彼女の大統領としての最後の実績となった。彼女の時世は結果論で『安全保障音痴』との批判も多いが、実際は近衛兵として、元・OZ士官のルクレツィア・ノインが仕えていたり、恋人がヒイロ・ユイであるなどの理由で、連邦軍を温存して、危急存亡の事態に活用する選択を取ったのだが、結果論で言うならば、敵の物量が銀河殴り込み艦隊出撃後の地球には手に余るほどに、あまりにも強大過ぎた。結果、連邦軍と地球は大打撃を蒙る羽目になった。宇宙戦艦ヤマトが死に物狂いで抵抗したり、スーパーロボットの多数投入、レビル将軍の帰還などの+要素もあったが、被った損害は計り知れないものだ。巨大戦艦による本土爆撃や艦砲射撃は、彼女が戦争指導を託した後任の大統領含めても全くの予想外で、その事への恐怖心が軍存続決定後の軍拡へ影響を及ぼしたのは否めない。ゼクスとしては、これらを勘案し、『自らの行為は結果的に空振りに終わった事』への落胆、時勢が尽く、妹に味方しなかった事に如何に複雑であるのか、が感じられた。だが、リリーナは大統領辞任後も外務次官として、地球のために尽力した。その功績から、後世の人々からは『平和を希求し、その為に手腕を振るったものの、折しも宇宙の脅威が顕現した時代が到来した故に、外務官僚としてはすこぶる有能であったが、大統領としては、不運に終わった女傑』と論じられている。

ゼクスは『ゼクス・マーキス』として、外務次官として奮闘する妹を陰ながら手助けするために、プリベンターに所属したのだ。


「いえ、ゼクス。あなたやリリーナ様のしたことは無駄ではありません。人々の間に平和への問題提起をしたのは事実なのですから」

「ありがとう。本題に入るが、地球至上主義者共がティターンズ残党にG-Xに続いて、GP04のレプリカを送っていたのが判明した」

「どうやって?輸送船はあらかた摘発したはず」

「パーツを小刻みに送り込み、それを少しづつ組み立てる裏技を使ったのだ。昔の犯罪者が刑務所などでよく使った手だ。それをモビルスーツに適応したのだろう」

「姑息な手を使いましたね」

「ああ。そちらも新住日重工から量産型グレートマジンガーを接収したのだろう?どうだったのだ?」

「私達が踏み込んだ時には、5号機くらいまではミケーネ帝国に売り払われた後でした。プロトタイプといくつかの機体を接収しましたが、グレートマジンガーの機体構造が解析される危険を考慮し、兜博士はカイザー化させるようです」

「カイザー化?ゲッター線を使うのか」

「はい。ドラゴンに起きた事がマジンガーに起きないはずはないという理屈で実行されるそうです」

「兜博士も随分と無茶な事をする……そこまでする意義は?」

「グレンダイザーでも太刀打ち出来ない『デビルマジンガー』に対抗するためだそうです。ゴッドマジンガーとマジンカイザーは、いずれも兜甲児専用として調整されており、剣鉄也他のパイロットが使用可能なようには造られていません。ゲッター線研究が事実上の禁止措置が取られている今、マジンカイザーと同等クラスの性能を持つスーパーロボットが必要だと判断したようです」

ノインとゼクスは、量産型グレートがミケーネ帝国の手に落ちた事を憂慮した兜剣造が、グレートマジンガーのマジンカイザー、即ち『グレートマジンカイザー』を荒療治で生み出す選択を取ったのを話題にした。そのグレートマジンカイザーは、この数日後に誕生し、グレンダイザーと並ぶ最高戦力の一つとなるのであった。ノインとゼクスは兜剣造の荒療治に、息子の兜甲児との共通点を見出したらしく、ため息をついたという。










――23世紀初頭、地球連邦政府は旧各国の連合体の体裁だった体制から、正式な星間国家へ移行した。それにも関わらずも、連邦に反目する勢力はなおも交戦の意志を崩さなかった。これに困窮した政府は、戦力の再建及び更新が財政的困窮が原因で進まない連邦軍本体を差し置いて、独立部隊を『魅せ部隊』と位置づけ、最新兵器や過去の実験兵器などの実働試験を押し付け、優先的に機材を配備した。ロンド・ベルはその筆頭格となり、ヤマト型三番艦『シナノ』などの超兵器をドシドシ送り込まれる部隊と化していた。それら23世紀での動きを21世紀初頭から観測していたドラえもんは23世紀以後の人類が遭遇するであろう『戦い』の動きを逐次、チェックしていた。

「うーん。やっぱり23世紀になっても戦争が収まってないなぁ」

「どうして?」

「白色彗星帝国の襲来をテレサさんが命と引き換えに滅ぼしたろ?あれのおかげで周辺の恒星間国家の多くが地球に興味を持つようになったんだ。暗黒星団帝国、銀河連邦の戦乱での衰退で銀河系の半分を手中に収めた大国『ボラー連邦』、ガミラス帝国残党が同族を纏めて組織した『ガルマン・ガミラス』。まぁ、ここは地球の味方だよ。問題はボラー連邦だよ。」

「なんでボラー連邦が問題なのさ」

「調べてみたんだけど、ボラー連邦は本星がロシアに似た寒冷な気候の地球型惑星でね。古くは帝政だったのを、社会主義が台頭して帝政を倒した後で出来た国家なんだよ。それだから衛星国や温暖な支配領域を欲して、周辺の星系にどんどん手を出していったんだ」

「まるで一昔前に無くなったソ連みたいだね」

「そうさ。地球ほど、多くの国が興亡を繰り返した惑星はむしろ珍しいんだ。たいていは1500年の時間があれば惑星が統一されるからね。地球の発展の過程のあらゆる国々で、たいていのモデルは説明できるよ」

ドラえもんは珍しく、知的な発言をする。宇宙においては、文明誕生から数千年も同族間で血みどろの争いを続けているほうが珍しく、ゼントラーディとメルトランディの対立を除けば、この銀河系でのベスト3に入るほどだ。なので、宇宙に存在する文明の定型は、地球の発展の過程で興亡していった国々で説明可能であると言う。のび太はタイムテレビに映るボラー連邦の勃興の様子を不思議そうに見入る。その様子はまるで、地球でロシア帝国(ロマノフ朝)が倒れ、ソビエト連邦が勃興したロシア革命を想起させた。


「でもさ、ボラー連邦の対抗勢力になりそうなのはガルマン・ガミラスだけじゃ?銀河連邦は傾いてるし」

「そう。そこなんだよ、のび太くん。銀河連邦はボラー連邦にボコボコにされてて、殆どバード星の戦力だけで戦ってるようなもんさ。ガルマン・ガミラスは宇宙戦艦ヤマトと因縁がある、デスラー総統が引き続き国家元首してるから、暗黒星団帝国が倒れた後に接触してくるかもね」

「へえ……」

タイムテレビに映るは、ガルマン・ガミラスの国家を整えんと奮闘するデスラーの姿が映し出されていた。彼は実はガミラス帝国時代に既婚者で、娘もいたが、妻と娘の能力が嫌いなので幽閉していたという、意外な人間性を持つ。しかし、妻は死に、娘は旅路に出た故、事実上独身に等しい身となった。それ故に、若かりし頃よりスターシャに抱いていた思いを古代に告白してしまうという一面を見せている。指導者としてはすこぶる有能なのが、タイムテレビに映る執務の様子からも伺える。ちょうど観艦式の様子が映し出され、ガルマン・ガミラス型戦闘空母や三段空母と言った新鋭空母が竣工し、ガルマン・ガミラス世代の空母機動部隊が編成可能になった事を誇らしげに演説する姿がモニターに映し出される。そして、デスラーを称える歓声が響き渡る。

『デスラー総統、万歳!!』

完全に独裁国家の風景だが、かのアドルフ・ヒトラーやヨシフ・スターリンのように、する側に裏がある歓声でなく、心からデスラーを称える歓声だ。軍人らを心酔させるデスラーのカリスマ性が窺えた。

「ただいま〜」

「なのはちゃんだ。おかえりー」

この日は無敵砲台事件を解決してから2日後。なのはと箒はあと3日ほど滞在する予定である。ちょうどこの日は木曜日で、切りがいい日数まで滞在しようということになったためだ。なのはは、自分の時代ではレア化していたTVゲームやプラモを量販店で買い込んだようで、ご満悦だ。

「ただいまー。あたしの時代じゃレア化してるソフトとかプラモとかあったから、大漁大漁♪」

優に万は使ったと思われるその量に、ドラえもんは苦笑し、のび太は目を輝かす。

「村雨さんは?」

「村雨さんは駅の近くにあるつづれ屋に泊ってるよ」

「つづれ屋って……ん!?それってたしか!」

「そう。あのつづれ屋だよ。僕たちの代だと19エモンさんが跡取りの頃だね」

「え、ええ〜!?知り合いなの!?」

「前にのび太くんがちょっと世話になった事あってね」

「うん。あそこ、ちゃんと電気代払えたみたいでよかったよ」


つづれ屋とは、なのはの世界での漫画『21エモン』の生家が営んでいるホテルだ。この世界においては実在しており、江戸期から続く由緒あるホテルだが、何時の時代もイマイチ流行らないという、変なジンクスを持つ。のび太はそのホテルにひょんな事から立ち寄り、ドラえもんがホテル再建に道筋を付けさせたという経緯を持つ。主人の18エモン(21エモンの曽祖父)はとても感謝しており、野比家の人間か、その紹介した人物ならフリーパスで泊めて貰えるほどの関係の良好さを維持している。村雨はそのツテで宿泊していた。

「今でも家で、時間をかけないで休みを楽しむ時に家族で泊ってるよ。サービスいいし」

「へえ〜〜」

つづれ屋は立地条件がイマイチなのが流行らない(数十年後には、隣に大ホテルのホテル・ギャラクシーが進出してくるという不運ぶりである)故、仮面ライダーである村雨の身を隠せると判断したのだろう。

「ん?箒さんは?」

「箒さんはママに頼まれて、赤椿で買い物中。ミニドラ達が迎えに行くって聞かなくてさ」

「あは、そういえばいたね。あの子たちってどういう経緯で作られたの?」

「あれ?なのはちゃん、『2112年 ドラえもん誕生』、家にないの?」

「持ってないんだ。量販店とかを探したんだけど、売ってなくてね。他のは買い揃えたよ」

「それじゃ説明するよ。あれは僕がロボット学校を卒業するちょっと前の事だった。当時、僕は今の状態になってしまって、落ち込んでた。まぁ、悲劇の素を飲んで三日三晩泣き続けた結果だけどね。そこでのび太くんの子孫のセワシくんが時間犯罪者、後で知ったけど、その時の犯罪者、ピー助の時に襲ってきたドルマンスタインと黒男の野郎だったんだけど……に誘拐されたってドラミから聞いて、慌てて道具を飲んだら、それがクイック系の道具でさ。あいつらの乗り物のエンジンノズルにすっぽり突っ込んじゃったんだ。怪我の功名でドルマンスタイン達は逮捕されて、その記念に生産されたのがミニドラえもんなんだ。赤、黄、黄緑の三体が家にいる個体だよ」

「たしかドララーしかしゃべれないよね?どうやって会話してるの?」

「身振り手振りとかを併用すれば大体できるよ。お、噂をすれば黄緑がきた」

「わ〜!か、可愛い……!」

ドラえもんらのもとに飛び込んできたのは、野比家に常駐している三体のミニドラえもんのうちの黄緑色の体の個体だ。この時がなのはとの初対面であった。(その愛くるしい姿から、数年後に義娘のヴィヴィオの面倒を見させるために、ドラえもんを半分脅して、ミニドラえもんんの注文書を獲得、注文したらしい)

「ドララ、ドララ、ドラ〜!」

「なんだって!ミィちゃんが!?」

ドラえもんの顔が一気に顔面蒼白になる。ミィちゃんと言えば、ドラえもんのガールフレンドの猫で、デート相手の一匹だ。(他にはタマちゃんとも同様の関係にある)それが行方不明になったのだ。それをミィちゃんの友達の猫から聞いたというのだ。ドラえもんの目が一気に憤怒に燃え上がり、ジャンボガンやら熱線銃と言った『危ない道具』と、名刀電光丸を取り出して喚き散らす。

「うぬ!どこのどいつがミィちゃんを!そいつなんざ人間じゃねぇ〜たたっ斬ってやる!!」

……と、この有様である。完全に目が血走っており、理性がぶっ飛んでいる。のび太はドラえもんを取り押さえつつ、なのはに箒に連絡を取れとアイコンタクトする。なのははそれを組んで、箒に連絡する。

「何!?ドラえもんのガールフレンドを探せと!?」

「ええ。ドラえもん君、完全に理性がぶっ飛んでるんで、相手を殺しそうな勢いなんですよ」

「うーむ。分かった。一旦帰って、その猫の写真を受け取ってから探すことにする」

「頼みます」

こうして、ミィちゃん救出の任を追うことになった箒。のび太はなのはに、ドラえもんを昏倒させると、スペアポケットから、以前にも使った事がある密閉空間探査機を取り出し、町内の探査を開始する。

「うーむ。山田さんちのミケとは遊んでないし、正木さんちのボスやニョビには会ってないな……。」

のび太が口にするのは、町内に住んでいる猫や犬の名前だ。その飼い主の名前もである。ミィちゃんの写真と翻訳こんにゃくも用意する。そこで驚くべき物を目にする。

「あ!!」

「どうしたの?」

「な、なのはちゃん、これ!」

「あっ!!こりゃ酷い!」

二人は不快感を露わにする。なんとミィちゃんが鳥かごに入れられているのだ。この時世、確実に動物虐待ものである。その家の住所と家の形をそのままミニドラ達と買い物カゴを置きに着陸した箒に見せる。箒はミィちゃんがされている事に怒りを見せ、支度を済ませ、(翻訳こんにゃくを食し、用を足す)再度、赤椿を展開して発進した。

「しかし、まるで便利屋だな……私は。姉さんが聞いたらひっくり返るな」

のび太に使いっ走りされてる事の自覚はあるが、ドラえもんが危険な道具を用意して人殺ししかねないほど激昂している状況では、自分にお鉢が回ってくるのも仕方がないと、箒はミィちゃんが捕まっている民家に向かう。





――だが、その民家の主、鍋島さんはただの老人でなかったのだ。鍋島さんは町内一の猫嫌いで知られていた。以前もミィちゃんは鳥かごに入れていたが、ドラえもんの決死の救出作戦によって救助されたという経緯を持つ。鍋島さんは近所に気性が荒い事で知られていたが、実は元・帝国陸軍のOBで、若かりし頃に戦車兵として、フィリピンの戦いに従軍していたという意外な過去を持つ。箒はその民家に正攻法で攻めかかった。玄関の呼び鈴を押し、本人と直接交渉しにかかったが、あえなく決裂。竹刀で殴りかかられてしまう。

「そうか。やはり娘さんも野比さんの家のタヌキみたいなロボットの手の者か。ならば容赦せぬ!!チェエエエエ!!」

鍋島さんはドラえもんとミィちゃんの扱いで口論になった事があり、ドラえもんを快く思ってはない。彼からもドラえもんは『タヌキ』と認識されているあたり、箒はドラえもんの容姿に納得してしまった。箒も予備知識が無ければ、同様の判断をしていたのを確信していたからだ。

「うわっ!穏便に行きたかったが、ならばこちらも手加減の必要はないなッ!」

竹刀を躱し、雨月と空裂を召喚して構える。箒はこの頃には実家の剣術に加え、示現流の心得を得ていた。加えて、剣道大会で全国優勝の経験がある。故に、齢80を超える老人相手に本気を出すことは多少なりとも気が引けていた。だが、彼はただの老人ではなかった。なんと、そんじょそこらの10代や20代の若者よりよほど鋭い剣戟を放ってきたのだ。それも剣術を嗜んでいると思しき動きで。

「残念だが、鐘捲流を継承しているこのワシにはそんじょそこらの付け焼き刃は通じんわ!」


「馬鹿な……鐘捲流だと!?確かあれは第二次大戦で継承者が死に絶えた結果、抜刀術だけしかこの時代には……!」

「残念だが、それは正確ではない。ワシが最後の正統継承者なのだよ!ワシと共に帝国陸軍に志願した兄弟子や弟弟子達は皆、フィリピン戦線や支那戦線で死んだがな」

「何!?するとあなたは元軍人?」

「左様。帝国陸軍士官学校第53期卒の大尉だった。捷一号作戦の頃には機甲科に転科し、戦線を戦ったものよ。その頃には帝国陸軍は組織的抵抗力を無くしたも同然だったがな。海軍の阿呆共が台湾で航空兵力をすり潰さなければ……」

彼は捷一号作戦からの生還者であり、制空権もまともな重火器も持たぬ帝国陸軍に勝ち目がないことを知っていたが、それでも戦いぬいたという事を示唆する。また、決戦兵力を台湾沖航空戦で磨り潰した日本海軍を恨んでいる趣旨の発言をする。だが、当時の日本海軍の航空兵力は強大化した米海軍の前には、雀の涙ほどしか成果を上げえぬ『烏合の衆』と化していたため、台湾沖航空戦での消耗が無くとも、どのうちレイテ沖海戦に至る戦いの顛末に影響を大して与え得ぬ(日本海軍の喪失が多少減る程度)だろうという推測が後世に出されている。

「娘さんにはわからんだろうが、あの戦争は帝国の運命を懸けた一戦だった。負けた途端に我ら軍部に責任を押し付けた、近衛公を始めとする重臣共は今でも許せん。おだてるだけおだてておいて、負けた途端に鬼畜生同然の扱いにしおって……。私が繁原公に直談判した時など、『軍人などこれからの世には必要ないのだ』と笑いながら話しおった。だが、現実は朝鮮戦争だ!」

彼は戦後に軍人が世から疎まれ、国が治安悪化と朝鮮戦争を理由にちゃっかり自衛隊を設立した事を怒っていた。彼は軍隊を利用するだけ利用した政治家達が、戦争に負けた途端に責任を軍部に押し付けて保身を計り、軍人が必要になったら、ぬけぬけと呼び戻した。それが現在でも許せないのだ。彼が怒りっぽいのは、青年期の人々からの仕打ちが要因という事だ。

「随分と恨んでおいでですね!」

「我ら軍人は戦後に酷い仕打ちを受けたからな。だから自衛隊という名目で、後になって再軍備したのが許せんのだ!猫は幣原喜重郎大臣の家族が飼っていたからだ」

鍋島さんは若かりし頃、幣原喜重郎元・総理大臣に相手にされなかった事から、彼を連想させるであろう猫が嫌いになったと言う。なんとも言いがかりに近い理由である。ミィちゃんとしても、とんだとばっちりである。しかしながら剣筋はなんと、老人なのに関わらずも、下手な青年達よりも鋭い。実戦経験者故に、肉体の維持には気を使っているのが窺える。

「あなたは本当に齢80のご老人で!?下手な若者より凄いんですが!?」

「左様、大正13年生まれである。娘さんも中々やりおる」

箒は二刀流で対応しているが、正統な鐘捲流を継承する鍋島さんの前には苦戦を余儀なくされていた。実戦であれば腕を切られていた場面も多く、箒は次第に焦りを見せ始める。

(クソッ……この私だって剣術の免許皆伝の身なのだぞ!この世界の人間はどうなってるのだ!?)

箒は剣術に自信があったが、ここ数年は自身を大きく上回る猛者たちに圧倒されがち(剣鉄也、流竜馬やスーパー戦隊の歴代レッド達など)であり、今回ばかりは白星を上げたかったが、またしても押されている事に驚愕する。それも今回はがん箱に片足突っ込んでいるような老人に、である。


――武道の平均レベルはこの時代と変わりないはずなのに、なんで私はこう、達人に会う確率が高いんだ!?神様の嫌がらせか!?

いささか自信喪失気味に泣き言を心のなかでぼやく。だが、箒は起死回生を諦めたわけではなく、鍋島さんが胴を放った直後に出来た一瞬の隙をついた。

『秘剣!!燕返し!!』

とっさに雨月を居合い抜きで振るい、鍋島さんの胴を峰打ちして、昏倒させる。これは師の一人である穴拭智子の最大奥義の一つにして、かの有名な剣客『佐々木小次郎』が得意としたとされる技だった。小次郎は冨田流・鐘捲流の流れを汲む剣客で、その両方を組み合わせた抜刀術『燕返し』を最大奥義としていたとされ、かの二天一流の開祖である『宮本武蔵』に敗死するまでは無敵だったとの伝説を持つ。箒は数年の間に、智子から教わっており、隠し球としていた。箒の秘策は成功したのだ。

「ふう。なんとか倒せたが……真っ向からだと当たり負けしていたな。もっと鍛錬しなければ……」

その場に置いてあった鉛筆とメモ用紙で置き手紙を書くと、ミィちゃんを発見する。鳥籠に入れられ、身動きできない状態である。

「待ってろ、今助ける!最低出力で……!」

鳥籠の鍵を雨月のレーザー照射(最低出力)で壊し、ミィちゃんを救出する。のび太に連絡を取り、救出作戦は成功したと伝える。

「ご苦労様」

「しかし、この家のおじいさんは異常な強さだったぞ。秘策使わんと倒せんとは……」

「あのおじいさん、フィリピン戦線帰りみたいですからねぇ。旧軍は白兵戦なら世界最高水準だったって聞きますし」

「日本軍の白兵戦の練度はどうなってたんだ?全く……」

やれやれ、と汗を拭きながら報告する。鍋島さんが垣間見せた大日本帝国陸軍の白兵戦のレベルに薄ら恐ろしさを感じつつ、箒は鍋島さんの邸宅を後にし、野比家へ帰る。この後、ドラえもんはミイちゃん救出に泣いて喜び、箒に『グルメテーブルかけ』で好物をおごり、その労をねぎらったとか、

――23世紀に待ち受ける戦乱期を全く感じさせない野比家の平和。それはどこか安心できる口径であった。



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