短編『地球連邦とシャルバート』
(ドラえもん×多重クロス)



――かつて、シャルバートという、プロトカルチャー以前に繁栄を誇った国家があった。彼らは武力による支配を放棄し、歴史の表舞台から去ったが、結果的にはプロトカルチャーの台頭と銀河系の争いを招来してしまった。彼らはこの事を知ったものの、自分達は争いを放棄したとして、それらへの介入を避け続けた。だが、宇宙怪獣やマクー、マドー、フーマなどの宇宙犯罪組織と銀河連邦の争い、ボラー連邦の勃興などを鑑み、やがて超軍事力を復興させるしかないと説く一派と非武装を貫かんとする一派に分裂。宇宙戦艦ヤマトが訪れた際には、国土が戦場になった事もあり、右派がクーデターを起こしたという記録が残された。このクーデターは鎮圧されたものの、数万年来、戦いを捨てたシャルバートといえども『無抵抗で死にたくない』という、生物が持つ生存本能には逆らえない事が判明した。これに窮したシャルバート王家は、ヤマト幹部にその科学力の大いなる遺産『ハイドロコスモジェン砲』を与えた。これは恒星の核融合を制御し、惑星系を滅亡させることも可能な超兵器で、これをヤマトに与えたのは、王女がヤマトの艦載機隊員の揚羽武を愛していた事、彼がシャルバートを信仰した事もあるが、自らの非武装化と歴史の檜舞台から降りた行いが結果的に銀河系の争いを引き起こしてしまった事への償いも多分に含まれていた。シャルバート王家も重い腰を上げたのだ。いつしか、自分達は信仰の対象になっていたが、それは古の力を宛にされてのことであり、現在の非武装国家としての自分達ではないこととのジレンマに悩んだ末であった。


――西暦2204年頃

「古代さん。私達は確かに過ちを犯した。国が国民を犠牲にするべきではない。だが、守るためとは言え、敵をすべて倒す必要はないのだ……私達の先祖はそれに気づいたからこそ、争いに嫌気が差したのです」

「ええ。あなた方の理念は素晴らしいが、理想を貫くことを国民に強いる事は、傲慢でしかありません。あなた方が滅んだ後に、この谷が暴かれ、超兵器が悪の手に渡れば、それこそ宇宙の破滅です。その責任は誰が取るのです?」

古代は自らの体験から、現実主義であった。それはシャルバートを統治する長老とは相容れないものであった。長老も国民を死地へ追いやったという負い目があるのは理解しており、古代の言葉を否定しなかった。シャルバート王家は自らの理想を貫くため、かつての遺産である『超兵器』を、ボラー連邦との全面戦争で窮地に陥る地球連邦に引き渡すことにした。これは地球連邦が自分らを庇ってくれたという恩義と、死蔵していたままでは、地中探査が可能な科学力を持つ国家が乗り込んできた場合、接収されてしまう危険が大きかったからだ。シャルバートの長老は防衛戦を否定はせず、この一言を古代に残した。


「確かにそうです。ですが、古代さん。愛なき戦いは破壊しか産まない。これだけは理解して頂きたい。だからこそ、我らは争いを捨てたのです。」

「ええ」

最後に、長老は古代へ侵略戦争を戒める言葉を残した。彼はシャルバートが銀河系の信仰の対象であることを望みつつも、現在の自らでは『期待はずれ』でしかない事への自嘲も含まれていたが、真意を悟った古代も同意した。それは彼なりの生存競争を勝ち抜く宿命を与えられた地球連邦への謝意であった。この時に引き渡された超兵器の一つ『ハイドロコスモジェン砲』は核融合の人工的促進で『超新星化』(惑星破壊プロトンミサイルの命中で引き起こされた予期せぬ現象)を止め、太陽の制御に成功した。後にハイドロコスモジェン砲は西暦2210年代にリバースエンジニアリングに成功し、星間戦争で、惑星破壊プロトンミサイルが命中してしまった恒星の制御に活用されていく。



――その後、シャルバートの秘密が開示された。ゴップ議長、当時の大統領などの要人らへであった。彼らはシャルバートの歴史に理解を示しつつも、今後、侵略戦争は放棄したとしても、防衛戦争は捨て去らない決意を新たにし、ディンギル帝国との生存競争に挑んでゆく事になる。



「シャルバートの気持ちは分からんでもない。だが、シャルバートのように無抵抗で死ねるほど、地球は『甘っちょろい』星ではない。生存競争に勝ち抜く為には残酷さが必要なのだ……」

この時期の連邦政府大統領は軍出身であった。それ故に『愛する者を奪われた者達は復讐を望む』心理を理解していた。過去に完全平和主義がバッシングを受けたのは、『警察力は肯定するのに、軍事力は否定するのか!』という批判が民衆の間で存在したからでもあるが、復讐の原理は例え、平和主義の世の中であろうとも、市井の生活に戻った犯罪者に対して行われた事実、愛する者を奪われた者達の復讐心はどんな理屈でも制御できないという、現実論があったからだ。彼の言葉通り、その後の地球連邦は戦乱に明け暮れていく。侵略に対しても、あくまで理想主義を選んだシャルバートと対照的に、地球連邦は現実主義の道を歩んでいく。それはゲッター線がそう『仕向けた』と言っても過言ではないほどに苛烈な道であった。暗黒星団帝国との戦争に勝利した地球連邦を襲う『水惑星アクエリアス』の水害と、ディンギル帝国の襲来と、暗黒星団帝国への勝利から半年で起こったボラー連邦との星間戦争。暗黒星団帝国の襲来からのおよそ10年ほどは戦乱に明け暮れる時代であった。地球連邦は『繁栄に慢心するな』との啓示の如く、都合よく星間戦争に巻き込まれ続けたため、ヤマト戦没時には『ヤマトのせいで星間戦争に巻き込まれ続けた』との評を出すゴシップ誌もあった。実際、古代が首を突っ込んだために、ボラー連邦との星間戦争を巻き起こしたので間違いではない。しかしながら、度重なる星間戦争は、地球人へ決定的に危機意識を根付かせ、戦乱期が去った後の24世紀頃に内戦が再燃した際や、18代ヤマトが活躍した25世紀、キャプテンハーロックや宇宙戦艦グレートヤマトの時代に至るまで、危機意識を持つ地球人は存在し続ける。やがて、地球連邦がシャルバートに敬意を払っている事が知れ渡ると、強国として君臨する地球連邦もシャルバートを敬っているということで、結果的にはシャルバートにプラスに働いたのである。シャルバート王家も、ヤマト戦没後のヤマトの鎮魂式典に招かれ、最上級のもてなしを受けた事もあり、シャルバート伝説は守られた形になった。




――西暦2208年 日本 古代家

「昔、テレサは『愛のためには戦っても良いものなのです』という言葉を俺達に残した。俺はその通りに生き、島や沖田艦長との別れを経験した。これで良かったのだろうか。シャルバートの長老の言葉が、今になってズシンと来るんだ」

「あなたは自分の信念に生きたわ。ズォーダー大帝に言ったそうじゃないの。『違う!!断じて違う!!宇宙は母なのだ!そこで生まれた生命は全て平等でなければならない!!それが宇宙の真理であり、宇宙の愛だ!お前は間違っている!それでは宇宙の自由と平和を消してしまうものなのだ!俺たちは戦う!断固として戦うッ!』って。あなたはその言葉を守ったわ。暗黒星団帝国、ディンギル帝国……」

古代進と森雪はディンギル戦役後、10代の頃からの婚約状態から脱し、ついに入籍した。同時に子宝に恵まれ、美雪と名付けられた。結婚式の際には、デスラーがわざわざデスラー艦(三代目)で地球に駆けつけるほどの事態になった二人だが、現在は任務から離れており、静かに家族団らんを満喫していた。古代の私室には、ディンギル戦役で戦死した沖田十三と島大介の遺影も飾られている。特に島とは、訓練学校時代からの親友であったために、古代のショックは大きかった。島が生涯で一度だけ愛した女性のテレサのもとに逝ったと考えても、その沈痛ぶりは目を覆うほどのものだった。雪は古代を慰める。人生の師、親友、青春そのものであった艦を失った彼はこれ以上ない喪失感に襲われていた。そこへ一本の電話が入る。真田からだった。

「真田さんですか?お久しぶりです。どうですか、科学省長官は」

「私の柄ではないが、楽しくやっているよ。ところでお前には知らせておこうと思う。藤堂総長がもうじき退役だが、その前にヤマト再建計画にゴーサインを出して下さった」

「ヤマトを再建?しかし、ヤマトは沈没時に艦首が直立して、修復は不可能と判定されたのでは?」

「正確に言うと、シナノとムサシの運用で得られたデータを基に新造される二代目だ。その艦長にお前を推薦しているんだそうだ」

「いいんでしょうか、真田さん。前回の時に戦死者を多数出した俺に、もう一度、ヤマトの艦長をやれと……死んでいった者達に申し訳が……」

「島の死はお前のせいではない。沖田艦長は自らの意志で艦と運命を共にされたし、加藤や斎藤、徳川さんも別にお前を責めたりはせんよ」

「そう言ってもらえると助かります」

古代はディンギル帝国との戦いの折、島大介を含む多数の乗組員に戦死者を出し、引責辞任しようとしたものの、藤堂総長に慰留され、沖田十三の指揮下という形で事実上は戦闘班長に降格したものの(沖田十三は提督として乗艦したが、事実上は艦長に再任)、艦長職のままであった。ディンギル帝国に勝利した事で、彼の責任は免責されたものの、古代にとっては、重大な過失を犯したディンギル帝国戦はあまり振り返りたくない思い出である。だが、ヤマトに青春のすべてをかけたと言っても過言ではない彼に取って、ヤマトはすべてであった。なので、真田の誘いを受けたのだ。







――二代ヤマトはシャルバートから回収された技術を部分的に取り入れて造られており、当然ながらシナノとムサシを上回る性能を持っている。波動エンジンの炉心も六連装にパワーアップしており、波動砲を回転式拳銃のごとく連射が可能である。それらの全エネルギーを放出する『トランジッション波動砲』は拡大波動砲をも超越する絶大な破壊力を誇り、サイズもシナノよりもストレッチされ、艦載機数も70機近くを積み込める。基本設計は初代ヤマトのそれの改善なため、外観もほぼ同じ。初代と二代目はクルーの共通性も相なって、後世からは半ば同一視されている。ショックカノンの口径も48cmへ拡大されているなどの強化もあり、ヤマトの武勇伝の再誕を飾るに値する。呉で建造中であり、艤装段階にある二代ヤマトは、平時であるため、建造速度は緩やかであり、この後の西暦2210年に進水、2212年に就役する。計画が2206年度である事を考えると、完成が遅いが、迅速に艦艇を送り出すことが命題とされる戦時と、平時の感覚の違いがよく分かる。当然、艦載機機材は計画段階からは更新され、戦闘機は新コスモタイガーから、コスモパルサーへ変更されている。コスモパルサーは西暦2208年当時は、初期作戦能力の獲得から間もない時期で、配備数はコスモタイガーがまだ大勢を占めている。だが、軍令部肝いりの計画であるヤマト再建計画には、最新の機材が優先して供給されている。レーダー、波動エンジン、波動砲に至るまでだ。これはヤマトが地球の象徴として、有名になっている故の措置でもあり、この時代以降の地球連邦軍の最強(最大ではない)の戦艦がヤマトを襲名していく慣例の始まりであった。






――地球連邦内の左派は戦乱が落ち着いたのを期に軍縮政策を構想していたが、各地で頻発するテロに対応するためという題目で軍事費の要求を行う地球連邦軍を抑制はできなかった。過度な軍縮が戦乱の根を巻いたという事実が、国民に絶対的な恐怖心を埋め付け、軍備は現状維持派が主流となっていた。ここ20年近く、左派は踏んだり蹴ったりの状況で、左派が『起きるはずがない』と言った事が次々と起き、地球に甚大な人的被害を齎した。その結果、自分たちの政治的地位は墜落し、彼らの言葉はもはや『戯言』とさえ、陰口を叩かれていた。ディンギル帝国が国際法ガン無視の虐殺を行った事もあり、生き残りへの弾圧は目を覆うばかりである。せめてそれだけは止めたいのが、戦乱に明け暮れた地球で、彼らに残された最後の役目だった。






――ディンギル帝国人は、元はシュメール文明を築いた先史地球人で、先住ディンギル人と混ざり合い、彼らを駆逐していった結果、生まれた種族である。だが、ディンギル人は極端な優生思想に染まっており、生き残りの多くは若年者であった。都市衛星が爆破された事もあり、その数は希少であり、むしろ保護せねば種として滅亡を待つだけであった。彼らは廻りに巡って『地球人』に帰化したわけだが、国家指導層の行いのせいで怨嗟の目を向けられていた。彼らはディンギル人というアイデンティティを捨て、卑屈なまでに『地球人』になろうとし、やがて100年後には、ある一定の数に回復し、地球人を構成する一種族となった。過去に滅び去った白色彗星帝国、暗黒星団帝国を構成していた人種等と共に『宇宙系地球人』の一角を担う事になる。


――2212年。戦乱が去った地球に再び嵐が吹き荒れる。銀河連邦の弱体化により、復興を果たした宇宙犯罪組織『マクー」の襲来、かつて電撃戦隊チェンジマンによって、組織崩壊に追い込まれた大星団ゴズマ残党の襲来、バダンの大攻勢開始。それと対峙せざるを得ない地球連邦軍は度重なる戦争で弱体化しており、単独で迎え撃つことは困難であった。銀河連邦の重要構成国『バード星』と連合軍を結成、脅威に対抗してゆく。その地球側旗艦は二代目宇宙戦艦ヤマトであり、新たな戦乱が巻き起こるのであった。初代ヤマトの骸は、地球衛星軌道上に漂う氷塊の中で、沖田十三の遺骸と共にその戦乱を見つめる。その遺志は地球の人々に『愛のために戦う』事の意義を問いかけていく……。初代ヤマトの壮絶な艦歴は地球の戦乱期の象徴とも言えた。





――ちなみに、初代ヤマトの眠る氷塊は後に慰霊施設として整備され、ヤマト沈没から100年を数える西暦2305年には、盛大な慰霊祭が執り行われ、動態保存されていたコスモタイガーとブラックタイガー、コスモ・ゼロによる展示飛行が行われ、当時の現役ヤマトによる弔砲が発射されたという。いつしかヤマトはアンドロメダに代わる『地球の不屈の闘志』のシンボルとして君臨し、ヤマトが配属されている艦隊に配属されることは、ロンド・ベルと同じく、地球連邦宇宙軍の誇りであるとされるようになったのである。そして、歴史上、後世のヤマトで特筆すべき活躍をするのは、第18代ヤマトとそのさらなる後世のグレートヤマトである。グレートヤマトは初代の正統発展型であり、その無敵ぶりから『初代の再来』と人々に讃えられ、その僚艦共々、歴史上にその名を轟かす。『宇宙戦艦ヤマト』の系譜は23世紀以後、地球連邦軍の象徴として、歴史に君臨していくのであった。



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