短編『ウィッチ達と未来兵器』
(ドラえもん×多重クロス)



――1946年の初秋のある日。故郷で軍の所用があった黒江は、一時帰国し、下宿先の芳佳の家に転がりこんでいた。

「ただいま〜」

「オッス。上がらせてもらってるぞ」

「黒江さん、漫画読んでますね」

「おう。暇潰しにはなるぞ」

芳佳が軍医学校の外泊で家に帰ると、黒江がくつろいでいた。こういう事は、坂本などがしょっちゅう上がり込むため、慣れっこだ。当時の芳佳の地位は、公式分類では『軍医中尉』であるが、空中勤務者である為と、既に撃墜王として著名であった都合上、兵科将校と同様に扱われていた。(軍の規則改定で、如何な兵科であろうとも、階級が相応のものならば、部隊指揮権を有する事とされた)

「軍医学校はどうだ?欧州の話がポシャった分、カリキュラムを変更して、お前に適応したけど」

「夏の事があって、帰国しないといけなくなった時は落ち込みましたよ。でも、ハルトマンさん達のおかげで、最新の教育が受けられてるのはありがたいです」

「軍医学校が泡を食ってくれたおかげで、お前の期は超先進医学を学べる。その点は複雑だな」

「ええ。喜んでいいのか、悪いのか複雑です。本当は欧州で勉強したかったですし」

「あれでお偉方が萎縮したからなぁ。防衛体制の強化を名目に、お前を呼び戻しちまったしな」

――ゴッドマジンガー達の活躍でティターンズは退けたものの、芳佳の欧州留学は立ち消えになってしまった。それへの埋め合わせを、バルクホルンやハルトマンが扶桑軍医学校に迫ったため、軍医学校が欧州留学で学ぶはずだったモノを教えこむという条件で手打ちがなされた。だが、軍医学校の設備は欧州から見れば古いため、ハルトマンとバルクホルンは黒江に相談。結城丈二=ライダーマンが最新医学の講師(改造手術を行う為、必然的に高度な医療知識も持ち合わせるため)を引き受けてくれた。結城丈二の知識は23世紀現在でも最高レベルのものであり、(本分は技術者であったが、人体改造手術には医療知識も必要である)こうして、芳佳の入学した期は芳佳に合わせる都合、当時の大学医学部よりも進んだ知識を叩き込まれた。当初は、欧州留学を軍の都合で駄目にされた芳佳への償いを兼ねた『特例措置』だったが、不公平だと前後の期の学生から不満が続出したため、軍医学校のカリキュラムそのものが大きく改定される事になる。実技教育に使われる施設も新設され、地球連邦政府から大規模に買い入れた設備を入れた先進的なもので、この時期としては『世界最高』だった。しかしながら、落胆は隠せないらしい。

「それで黒江さん、今回はなんでこっちに?」

「震電改二の第二テストで来たんだよ。今度のは、ジェットとしては、そこそこの性能だって言うからな」

「どうです、量産型。火龍とかと比べて」

「格段に良くなったが、まだアフターバーナーが無いから、低速からの加速力は未来の兵器に比べると、やはり落ちる。あ、お前のは特別仕様だからノーカウントだ。ありゃオーパーツだ」

芳佳に与えられた、新たな専用機『震電改二』。試作仕様なため、後に空海軍で使用される量産型に比すると、芳佳の使用を前提にしてのフルチューンがなされている。その性能はこの時期としては異例の高性能で、超音速戦闘機に匹敵する性能と、当時のジェットストライカーの中では、ほぼ最高の格闘性能を誇っていた。

「武器はなんですか?」

「リボルバーカノンになった。ジェット時代だと、従来の火器じゃ当たらなくなってきたからな。連邦軍が『DEFA550』、『ADEN』、『M39』をコンペに送ってきた。ヒガシと相談して、『単発射撃可能なのはDEFAも同じだけど、ブリタニアと同盟国だから、ADENがいい』って、親父さんに報告書出してきたところさ。まぁ、こいつらは弾薬も機関部の規格が同じだから、上が好みそうな、『信頼性がありそうな設計国』のにした。要するにお偉方のご機嫌取りさ」

そう。フランス製品にいまいち信用が置けない、上層部のご機嫌取りも兼ねて、ADENを選定したと話す。この世代は武器の規格が共通化していて、国別の違いは無いが、ブリタニア製品に慣れ親しんできた扶桑将兵の気持ちを考慮したと話す。

「上の人達のご機嫌取りですか。なんか嫌です」

「しゃーない。軍隊ってのは、ぽっと出たばかりの新型よりも、使い慣れた旧型を選ぶ傾向があるんだ。古今東西。海軍が零式から紫電改、烈風への機種更新が遅れたのは、地震とかもあるけど、古参が山西を信用してなかったのが大きかったからだし、ティターンズだって、ぽっと出のバーザムとかは、戦線で使用された例は稀だったそうだ」

「そうなんですか。武器とかって、使い慣れたほうがいいですから、それ分かります」

「連邦軍も未だにジェガンが退役してないし、どこの軍隊も似たような事を考えるって奴だな」

連邦軍も白色彗星帝国戦役で、工廠の数が減った事もあり、(その理由として、その時期に完全平和へ向けて、地球圏の軍事力を無くしたいけど、国民の感情に考慮して、ワンクッション置いて、移民星軍に地球圏の防衛をひとまず移管させるという趣旨の政策が行われたが、マスコミのセンセーショナルな報道で、多くの軍人が傭兵として、ネオ・ジオンに流れた事、ズォーダー大帝が行った本土爆撃によって国民が怒り、結果として戦後は軍拡に方向性が向いた)現役MSとしては型落ちが否めないジェガンが各戦線で絶賛稼働中であるし、ティターンズ残党も、戦中に、稼働実績があるマラサイやハイザック、ガルバルディをウィッチ世界で主用している。

「どうして古い種類の機体をまだ使ってるんですか、連邦軍」

「色々理由がある。戦争のやり過ぎで、軍備を縮小する方向性に国民が行っていたのが、本土を砲撃される事態で、手のひら返しで『どうしてこうなる前に対処出来なかったんだ』って暴動が起きまくったんだ。怒りのはけ口を『元凶』のハト派に求めた連邦の国民は、ハト派の政治家や金持ちを襲撃し始めちまったんだ。その流れで行われた議会選挙でも、中道右派議員が全勝して、冷静になった戦後の国民投票でも、正式に『軍隊存続』が決議された。その時に残存してたり、閉鎖状態だった工廠をフル稼働させたけど、実稼働数は戦前の50%にもいかないから、機種転換がうまく行ってないんだよ」

「なんか、かってな物言いですね」

「国民ってのは気まぐれなもんさ。ある時に独裁者が国を導くことを容認し、対外戦争に突き進んだり、自分が被害に遭うと、国や組織に責任を押しつけるような事が歴史を見ると、ゴロゴロある」

そう。ジオン公国もそうだが、独裁者の独裁を容認し、戦争へ突き進んでいくのを認める風潮が生まれる事、自分が被害に遭い、その責任を国に押し付けるケースは、いつの時代も存在する。芳佳からすれば、白色彗星帝国戦の時の地球連邦の国民は、『危機に対して、何もしなかったのに、戦後は厚かましく物申す』人間達にしか思えなかったのだ。

「だから、新規開発に手間取って、既存のジェガンを使い回すしか選択肢が無かったんだ、連邦軍は。今の次世代機も、根本的な基礎設計はジェガンのままだしな」

RGMシリーズのより後発の機体群はジェガンの系譜に属する。本来はメカトピア戦争前後の時期には完全新規開発が望ましかったが、そのデータが処分されたり、軍縮で兵器開発が中止に追い込まれたりした結果、戦後はジェガンの基礎設計をリファインして生み出すしか無く、ジャベリン、ジェイブスに至るまで、『ジェガンの基礎設計を発展させた』機体であるのがその証明だ。

「大変だったんですね」

「だろ?だから今でも、ジェガンは絶賛現役中なんだよ。個体によっては老朽化してるから、その入れ替えで生産も続いてるし」

ジェガンが正式に第一線を退くのは、ジェイブスの増勢が進んだ西暦2215年以後の事。その時には盛大な退役式典が行われ、以後は練習機・警備用MSとして使われる事になる。実戦部隊で使用された最後の型は『R4型』という形式であったという。

「あれが一番古い形式なんですか?」

「うんにゃ、もっと古い『ジムV』も残ってるんだ。陸軍は優良部隊でそれで、田舎だと一年戦争と大差ないのが動いてる。配備は宇宙軍が優先されてるから」

芳佳もそれなりに未来世界の兵器の知識はついたようで、黒江との会話をこなす。デザリウム戦役を迎えるまで、ジェガンの配備数の大半は宇宙軍部隊で、地上軍にはその十分の一も行き渡らなかった。これは宇宙軍による水際撃破が重視された事、地上軍の戦前の規模への再建は政府財政に多大な負担となる事が原因であった。

「なるほど……。ところで、庭に置いてあったかっこいいバイク、黒江さんのですか?」

「未来世界で買ったんだよ。オフロードも走れるから便利だよ」

「今はまだ、未来みたいに道路がないですからねぇ。シャーリーさんが見たら欲しがりますよ」

「あいつは基本、ルッキーニと一緒に動くから、側車付きのがいいそうだ。ルッキーニはシャーリーがいないと落ち着かないしな」

最近は別行動も多くなったが、ルッキーニとしては『シャーリーといっしょがいい!』と駄々をこねている。これはまだ13歳の子供である点を考えれば仕方がなく、未来に留学中のシャーリーは対応に苦慮している。

「それで、ルッキーニちゃんはどうしたんですか?」

「マリア公女に頼んで、今月のロマーニャの留学枠にねじ込んでもらって、シャーリーの家に転がりこんだそうだ」

「ルッキーニちゃんらしいですね」

芳佳の部屋に入り、会話を続ける二人。芳佳がおせんべいを台所から持ってきたので、それを二人でつまんでいた。

「お、そうだ。今度、未来でウチの艦隊での慰安旅行があるんだが、お前も来るか?」

「いいんですか?」

「いいそうだ。501の呼べるだけの連中も連れて来ても余裕なほどの空きがある」

ロンド・ベルの上位編成となった『第三航空艦隊』は平時になった際に、シフト制で慰安旅行を企画した。それはドラえもんのつてで、チケットを確保した『銀河超特急』で、ハテノハテ星雲の遊園地『ドリーマーズランド』に向かうというものであった。

「天の川鉄道でゆったりと旅する事になる。日程は夏の三週間くらいだ」

「未来世界って、銀河鉄道あるんですか?」

「何でも、21世紀後半から22世紀序盤の宇宙時代の黎明期に定期運行されてた列車型宇宙船を使用したものだそうだ。宇宙大航海時代の23世紀になって、スミソニアン博物館の倉庫に保管されてたのをレストアしたそうだ」

それはドラえもんの時代に、当時の天の川鉄道株式会社が保有していた『車両』であった。どこでもドアが統合戦争勃発で廃れると、移動手段として息を吹き返ししたが、激しい戦禍で天の川鉄道株式会社は瓦解、保有していた車両も行方知れずとなった。そして、いつしか宇宙時代が本格化すると忘れ去られていった。だが、ドラえもんの来訪が『復興の機運』となり、公社の形で天の川鉄道は再興し、その目玉がこの時代でも健在である『ドリーマーズランド』行きの観光列車であった。

「なんか、小学校の時に読んだ『銀河鉄道の夜』みたいな話ですねぇ」

「それの具現化みたいなもんだ。もっとも、敵に襲われる危険がないわけじゃないから、一部の装備は持ち込むけど」

ロンド・ベルが属する上位編成艦隊は、旗艦がヤマトのためもあって、その勇名はおとめ座銀河団に轟いていた。その為に、有事への対応として、一部の選抜された機体群を持ち込むと告げる。

「私らの場合は、真田さんがテストしてる機体のテストも兼ねる。ブラックタイガーをストライカーに落とし込んだ試作品が出来たそうだ」

この当時、デザリウム戦役で試作されたコスモタイガーストライカーの前段階として、『ブラックタイガーストライカー』が試作されていた。

「え、もう向こうはストライカーを造ったんですか?」

「時空管理局の協力もある。そうでなければ、お前の親父さんが確立させた理論を理解できないだろ」

「確か、ケイさんのところのティアナさんがそうでしたね?去年はあまり話せなかったけど」

「ああ。アイツは陸戦魔導師から航空ウィッチに転職した唯一の例だ。アイツは空を飛びたがってたからな。それと、死んだ兄貴の名誉回復を望んでたけど、管理局に嫌気が差してたそうだ。最も、空を飛ぶ快感を手放したくないからってのも大きいけどな」

黒江は、ティアナのことを芳佳に話す。ティアナは時空管理局に復職せず、扶桑に移住して、扶桑皇国軍のウィッチとして骨を埋める決意を固めていた。彼女は兄のティーダ・ランスターの一件以後、少なからず管理局に疑念があり、兄の名誉回復を10年近く放置していたことへの反発、ストームウィッチーズの一員である事への誇り、空を飛ぶ事への心地よさなどが絡み合って、ティアナは『空を飛ぶ』ために、時空管理局への復職を断った事が示唆された。

「あれ?向こうでも住み分けされてるんですか?」

「ああ。フェイトみたいに高高度を飛べる者を空戦魔導師という具合で、カテゴリー分けされてる。でも、こっちの基準で言えば、ティアナは飛べないわけじゃなかったから、使い魔の補助がついた状態でストライカー動かしゃ、あっさり飛べたのさ」

ティアナの使い魔はカワセミであった。その性質がウィッチとなる事で身についた為、狙撃手としての適性が強化された。更に圭子同様、超視力がウィッチとしての固有能力となっているなど、圭子の後継的なポジションのウィッチになった。その結果、アフリカ駐留時はマルセイユが一部の業務をティアナへ丸投げしていたとか。

「そいや、ヒガシのやつ……。ティアナからミッド式魔法習ったから、いくつか撃てるようになったとか言ってたな。私はベルカ式だけど」

「向こうの魔法って、大火力なの多いですね?ミーナ中佐がぼやいてましたし」

「下手な戦艦が霞む火力だしなぁ。とくにフェイトやなのはレベルの使い手だと、地形変えるし。だけど、逆に平均レベルにムラがあるんんだよ、向こうは。だから、ミッド動乱で通常兵器を入れ始めたんだ」

ミッド動乱で平均レベルが向上したものの、なのはやフェイトのような『天才』と凡人との間には、やはり大きな差がある。その為、時空管理局は人材活用の名目で、武装隊の警察部門との分割、軍事部門特化の際に『質量兵器』の導入を進めたのだ。

「どこも悩みってあるんですね」

「そうだ。明日は追浜の基地に行くぞ。ADENの試射でお前からもデータ摂りたいんだそうだ」

「分かりました」



――さっそくながら翌日

「さて、行くぞー」

「二人乗りって、いいんですか?これ」

「側車ついてないから、しゃーねーだろ。さて、飛ばすぞ!」

「わ、わひゃああああ〜!」

この時代は渋滞という言葉が通じないくらいに交通量が少ない(軍隊の車両と、富裕層の自家用車がたまに通る程度)ため、追浜の基地には10分程でついた。

「ハラハラしましたぁ〜……」

「お前はバイクは初めてだからな。今度、シャーリーにでも側車に乗せてもらったらいい。慣れれば怖くないしな」

「シャーリーさん、スピード狂だから、余計に怖いですよぉ〜!」

「そりゃそうだ」

基地につくと、とりあえずトイレに行った後に格納庫に行き、そこに置かれたADENを見てみる。

「わ〜大っきいですね。リーネちゃんのライフルより大ぶりじゃ?」

「それでも、ルーデル大佐の37ミリよりは小ぶりだぞ。手持ちに改造するのには手間取ったが、ホ155や5式30ミリより数段上の火力が出る」

手持ち武装化されたADENは、ルーデルの37ミリ砲に似たフォルムであった。違うのは砲身が37ミリよりは短い事と、機関部の小型化は限度があるため、ボーイズ対戦車ライフルなどに比べれば大ぶりである。その関係で重量面は80kgと重い(97式自動砲よりも重い)ため、旧来のレシプロストライカーではペイロードを圧迫し、ヘタすれば飛び立つことも出来ない(零式では馬力が不足しすぎて、ホバークラフトのように浮くのが精一杯、紫電改や疾風、雷電でも、あまりの重さで発揮できる速度が大幅に落ちる事が判明した)ため、推力・ペイロードがレシプロと桁が違うジェット専用の装備とされた。

「ジェット履いて、使ってみてくれ」

「分かりました」

震電改二を履き、銃のテストを行う芳佳。反動も99式や5式より大きいものの、感覚としてはそれほどの差は無く、むしろ大重量で銃身が安定しているために命中率は上がっている。

「えーと。フルオートだとどのくらい撃てるんですか?」

「フルオートだと、マガジンを一回で空にする程度だ。毎分1200発以上の発射速度だから、バースト射撃か単発射撃を推奨させるつもりだと」

「そうなんですか」

「フルオートは面制圧にはいいが、誤射とかの危険がある。バースト射撃なら、ある程度は自動で抑えが効くからな。私やお前みたいな熟練者はともかくも、昨今に入ってきた連中には荷が重い」

ADENは手持ちに改造される際に弾倉交換式になったのだが、その容量は2、300発。フルオートではすぐに使い切る量であるため、マニュアル作りに関わる黒江や圭子は『バースト射撃か、単発を使いこなせ』と記すつもりである。

「静夏ちゃんみたいに、初陣で動けるケースは珍しいんですか?」

「服部はお前みたいに、特別な部類だ。大抵はビクついて何も出来ないとか、とっさの事に対応出来ない事が多いんだ」

黒江は芳佳から聞いた話から、服部静夏を高く評価しているのが分かる。ウィッチも千差万別。芳佳や服部のように、初陣でいきなり活躍するケース、三羽烏のように、充分な訓練を積んでの初陣などがある。昨今の新兵は『招来に有利な資格の取得』のための期間と考える者も多かった事もあり、初陣で撃墜され、再起不能になるケースも多い。そういう過程で選抜されていった者達が、今の若手最年少世代である。

「あ、そう言えば、坂本さんが漏らしてたんですけど、黒江さん、カイザーのトールハンマーブレイカー撃った事あるんですか?」

「何ぃ、あいつ、覚えてたのか!?そんなこと一言も言って無かったぞ?」

「坂本さん、抱え込んじゃう性格ですから」

「そうだな……。と、なると、記憶に齟齬が出てきてるはずだ。『あの時』はやりまくったから。カイザーブレードやら、トールハンマーブレイカーやら、ストナーサンシャインとか使ったから」

「やりすぎですよ〜!坂本さん、相当悩んでるみたいでした。記憶と記録が一致しないのに戸惑ってましたし」

「そりゃそうだろうな。歴史の帳尻合わせで創られた『偽りの記憶』もあるだろうし、実際に見た記憶が記録と一致しないのは当たり前だ。私らが大暴れしたんだし」

そう。黒江達が歴史の改変を行った際の戦いっぷりは軍の公式記録からは抹消されている。勿論、プロパガンダ映画『扶桑海の閃光』でも取り上げられてはいないので、当事者の記憶に残るのみだ。坂本の脳裏に蘇った光景達は、当然ながら、彼女に混乱を与えた。44年の時のストナーサンシャインに感じた心の中のデジャヴは、扶桑海事変の真の光景が次第に蘇るに連れて鮮明になった。

『ストナーァァァ!!サァァンシャインッ!!』

脳裏に蘇った『ストナーサンシャインを撃つ圭子』の姿。真ゲッターロボが使った技を何故、圭子は使えたのか?その疑問が最初に来てしまい、坂本を混乱させるのは想像に難くない。それを誰にも言っていない所を考えると、自分一人だけの現象と考えているのだろうか。武器のテストをしながら、芳佳と黒江は考えるのであった。




――テストを終え、着陸する芳佳。その直後、轟音が響き、連邦軍のTMS部隊が着陸し始める。ZプラスD型が哨戒任務から帰ってきたようだ。


「ん、Zプラスか。あの形状だとD型か?」

「D型って?」

「空戦機能強化した形式だ。ウェーブライダーを改良して、空戦能力を上げた改修型なんだ」

「なんか多いですね?」

「TMSのベストセラーだからな、Ζ系は。ジオン系の姿してるのをお偉方が嫌うのもあって、Z系が再生産されてるんだ。一時はリ・ガズィを主流にしようなんて動きもあったけど、中途半端だったから、Zプラスシリーズを正直に量産したほうがいいって結論になったそうな。今のは第三期生産ロットのはずだ。ライフルの形状が変わったからな。」

Zプラスは白色彗星帝国戦後から生産が再開され、旧式化の進んだアッシマーやギャプランと言った機種を代替していったが、空戦性能面で不満も多く、その解決策として、既に少数が生産されていたD型を再生産した。これはティターンズでも使用された機種を排除したいお偉方の思惑も絡んでいた。

「リ・ガズィって、どこがダメだったんですか?見た感じは良さそうだけど」

「BWSだって聞いた。回収が難しい上に、戦場で巡航形態に戻れないっていう欠陥も露呈したし、コストが中途半端だったそうな。エースの要望で少数は出回ったが、本格量産は見送られたままだそうな」

リ・ガズィはMS形態での強度は評価されてはいるが、BWSを含めると『運用面での負担が大きい』と判定されている。

「形が変わるってロマン、好きな人多いですね」

「男のロマンだからな。だからZZとかを造っちまうんだろう。ミーナ中佐が前に言ってたが、『なぜ、戦闘機が三機も合体する機体を、無理に、20m級に小型化しているの?』ってもっともな疑問ぶつけてきた。ZZは第二設計だと、もう15mは大きいサイズらしいんだよ」

「本当ですか?」

「ああ。陸軍が虎の子として持ってる、コードネーム『ジークフリート』ってMSが、その設計で造られた機体なんだよ。対サイコガンダムとかがコンセプトで、20機くらいしかないそうだ」

「もしかして、それ揃えるのにお金使ってるんじゃ……」

「陸軍は宇宙時代じゃ出番が無いからな。見栄を貼りたいんだろう。保有軍備も優先して解体されてたから、銃器も東西冷戦下の時のを引っ張りだす羽目になった。そのせいで政治家を信用してない軍隊ナンバーワンだしなぁ」

「可哀想といえば可哀想ですね」

「まあ、当時は宇宙から敵が来るなんて、予想だもしてなかったからな。ガミラスも撃退したし。しかもすぐに、もっと強い国家が来るなんて」

連邦軍が再建される過程で最も政治家が困窮しているのが陸軍の再建だ。陸軍は兵器の放棄率が高かった故、MS保有数もその他の兵器の数も足りず、博物館のものまで引っ張りだす羽目になった。その為、それを推進していた立場のプリベンターは陸軍からの政治的攻撃を受け、その対応に苦慮した時期もある。(その為、陸軍のMSはジェガン以降に更新した宇宙軍から『譲渡』されたジムV系が主力という有様である)その為、ジークフリートの保有は政治的意義の獲得という面が大きい。それは宇宙軍全盛時代を迎えた後の陸軍の苦境を表しており、政府の白色彗星帝国戦後の軍関連の悩み事は『陸軍をどうなだめるか』であり、宇宙軍が政府とタッグを組んで対応する事柄となっている。

「そうですねぇ。未来世界には、他にもガンダムあるんでしょう?なんでそれを使わないんですか?」

「ガンダムタイプを最大限に運用出来る部隊が特務部隊か、独立部隊しかないんだ。特に最近のガンダムは高性能な反面、パイロットを選ぶ。私も最新型のV2ガンダムが欲しいが、ミノフスキードライブを整備できる施設がまだ整備されていないから、無理って言われた」

「V2ガンダム?」

「F91の親戚筋のガンダムだよ。年式はそっちのほうが新しくて、光の翼を出せるバケモノだ。最近になって、新エンジンのミノフスキードライブの製造が軌道に乗り始めたから、新造が再開されたそうな」

「横文字多いですよ〜!舌噛みそうです」

「しゃーねーだろ?向こうじゃそういうの多いんだし」

言い合っていると、『Gフォートレス』を巨大化させたような爆撃機が、黒江達から見て反対側の格納庫から現れる。ジークフリートが発進するのだ。

「Gフォートレスにしては大きくないですか、あれ?」

「Gフォートレスはフォートレスでも、ジークフリートだからなぁ。35m超えだから、あれ一機で戦略爆撃機一個中隊相当の効果だってさ。しかも、中に一個小隊は運搬してるんだぜ?」

「坂本さんやペリーヌさんが見たら腰抜かしますね」

連邦陸軍の虎の子と言える『ジークフリート』。ZZガンダムをそのまま巨大化させたと言える同機は、『三機で戦線を広域に渡り制圧できる』力を持ち、スーパーロボットには及ばないものの、連邦が自前で用意できる戦力としてはほぼ最高レベルを持ち、あのサイコガンダムmk-Uを上回る戦闘力を誇る。予算計上の上では、デストロイドモンスターの「後継機」としてであり、陸軍の涙ながらの努力が窺える。

「そうだろうな。あれを数機揃えれば、怪異も物ともしない。ジオン残党とかはその名の通りの『不死身の悪魔』って恐れてるんだぜ?」

「へぇ〜」

「あれは多分、南陽島に現れた怪異を始末しにいくんだろう。怪異相手にはああいう風な機体がおあつらえ向きだ。とはいえ、一応の枠内は陸戦支援機だから、通常火器レベルの装甲しか持ってない。だからあまり突出はさせられないって聞いた」

「マジンガーとかゲッターロボはバケモノなんですね……」

「たりめーだ!あんな『戦車に戦艦の装甲を貼っつけて、重量キープしてるレベル』の代物、ロボット工学かじってる連中が聞いたら、『頭おかしい!』って喚くくらいにおかしいんだぞ」

「そ、そうなんですか」

芳佳は圧倒され、先ほどから似たような感想しか言えない。と、そこへ黒田がやってきた。

「先輩〜、芳佳ぁ〜」

「お、黒田か。貴族院の仕事は終わったのか?」

「最近は貴族院の仕事が減ったから、殆ど暇なんですよ。506の活動は凍結されてるから、64戦隊への転属を決めました」

「いいのか、黒田。親父さんも言ってたが、私達……64戦隊は最前線で戦う。人を殺すことだって日常になるかもしれないぞ」

「人を殺すのは嫌でした。今でもそうです。だけど、本郷さんや一文字さん達が縁もゆかりもないのに、この世界のために戦ってくれてるのを見て、思ったんです。『守りたい何かがあるのなら、そのために命をかけて戦うべきだ』って。それに……あの子が……本家の息女さんが今わの時に言ったんです……『貴女は貴方の空を飛んで……願ったけど、飛べなかった私の分も……』って」

「そうか……分かった」

黒田本家の息女の肺結核が悪化し、死を迎える間際に残した遺言が、64戦隊への転属を迷っていた黒田の背中を押した。彼女が死んだ瞬間、黒田は泣いて、泣いて、泣いた。その場に居合わせた本郷猛にすがりついて。本郷は黒田を優しく介抱し、落ち込む黒田を支えた。その事から、黒田は本郷猛を強く慕うようになったのだ。

「……で、国宝級の扶桑号なんて持ち歩くなよなー。未来の文部科学省が悲鳴あげてんぞ」

「じっちゃんからの形見だし、国宝っていってもなあ。実戦で使っちゃったし……それにそんな意識、本家の人達もなかったしなぁ〜」

「今度、ドラえもんにフエルミラーでコピー作らせるから、それを使えよ。実物は靖国に奉納しろ」

「え〜!」

「奴さんを安心させてやれ。唯でさえ、太平洋戦争で消失した書物や刀剣なんて、向こうの文部科学省が、陛下の勅使ってまで徴発してるんだし」

「う〜。徴発よりはいいか」

「なんか大変ですねぇ」

「奴さんは戦乱で多くの宝物が焼失してる。だから買い入れたりして、保存を行ってるんだよ。『芦屋のひまわり』なんて、真っ先に徴発されて、実物は連邦美術館行きだよ」

「向こうじゃ無くなっちゃったんですか?」

「あ、私、それ聞きました。確か芦屋空襲で燃えちゃったとか」

「ああ。そっくり同じコピーが残るとは言え、持ち主は不満がるケースが多いんだ。今の時代にゃ世界共通の文化財なんて考えは微塵も無かったからな。トルーマン大統領なんて、それで廃人にされたって話もある。」

――ティターンズはリベリオン合衆国で、トルーマンを失脚させる際の裏工作で重視したのは『人類共通の文化財の破壊者』というレッテルを貼らせる事である。ティターンズと連邦軍他は『武力紛争の際の文化財の保護に関する条約』を定めた。これは双方の共通事項で、それを理解できぬトルーマンは『戦争に文化財など気にしてやれるか!』と言った事で、逮捕時にティターンズから凄惨なリンチと拷問を受け、そのショックで幽閉先で廃人同然になってしまった。

「救出しないんですか?」

「救出するほどのメリットが無いんだよ、今のトルーマンには。執務も不可能になってる精神状態らしいからな。だから、アイクのおっちゃんが臨時大統領を兼ねてるんだよ」

本来は救出したトルーマンに大統領職についてもらうはずであった亡命リベリオンだが、トルーマンが廃人化し、それが無理と判明すると、アイゼンハワーに大統領と軍司令を兼任してもらうしかなくなったのだ。トルーマンを廃人にさせるまで追い込んだのは、広島と長崎を消滅させた原爆の惨状、自身が承認した作戦で『40万もの人間を一瞬で殺した』事、陸軍航空軍の作戦で多くの文化財が失われた事への罪悪感が大きかった。その為に、連邦軍も救出作戦を行う事を断念したのだ。

「因果応報、なんですかね?」

「かも知れないな。少なくとも、広島と長崎の40万の人間の怨念が次元を超えてトルーマンを呪ったのは確かだろう。連邦軍内にも、トルーマンを快く思わない連中は多いからな」

トルーマンには災難だが、原爆を投下を承認した事から、連邦の支配層を担う日本人からは快く思われてはいない事が彼がティターンズから凄惨な拷問を受ける最大の理由となった。命からがら亡命した夫人のベス・トルーマンとその家族は『彼は壊れてしまった……』と語り、トルーマンに課せられた拷問が如何に凄惨なものであったかを物語った。結局、トルーマンが救出されるのは、太平洋戦争が終わる1953年の恩赦の釈放時であったという。



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