短編『闇を貫く矢』
(ドラえもん×多重クロス)



――1945年。ロマーニャ決戦が終わり、空母大鳳で芳佳たちが帰国した後、宮藤家に新しい住民が加わった。菅野である。竹刀事件後を経て、芳佳を戦友と認めた後、姉からの言いつけにより、芳佳の家に下宿しに来たのだ。その後しばらくこの生活は続き、太平洋戦争終戦まで維持された。


――1946年

「お〜い、届いたぞ〜ロマーニャの写真!」

「お、どれどれ。お〜い、宮藤〜。ロマーニャでの写真出来たって」

ロマーニャで撮られた写真の中には、ロマーニャ最終決戦で、サジタリアスの聖衣を纏い、射手座の矢を構える黒江の姿を捉えた一枚もあった。

「サジタリアスの聖衣なんて纏っちゃって。ミーナ隊長やラル隊長、腰抜かしてたぜ?」

「中々決まってたろ?あれは元から翼ついてるからヒロイックだし。私本来の聖衣は姪っ子が使ってたから、ちょいと借用してな」

「借用、ねぇ。あの時、セブンセンシズとか言ってたけど、何の事なんだ?」

「第7感だよ。シックス・センスとか言うだろ?その第6感を超えた領域のことだ。私はそれに目覚めたから、黄金聖闘士に選ばれたんだ。セブンセンシズにさえ目覚れば、後は楽だ」

菅野に黒江が言う。セブンセンシズに目覚めている事が黄金聖闘士になる最低条件であり、女性でありながらセブンセンシズに目覚め、黄金聖闘士になったのは、ここ1000年では極めて珍しいケースとの事。

「ミーナ隊長が言ってたけど、『そんな力を持っているのなら、ウィッチである必要はないんじゃ……』って、凄く自分を卑下してるようだったぜ」

「そもそも、聖闘士になるの決意したのは、ウィッチとしての力が通用しなかったからだからな。あの人は打たれ弱くて、参るぜ。ハルトマンもため息ついてたぜ」

「あの人、どうなるんだ?」

「再来年には、未来世界に研修に行かされるそうだ。ほら、例のロンメル将軍達の電撃訪問やら、ヒガシの奴をキレさせたろ?それで統率力に疑問符がついて、経歴に傷がついたからだって」

「傷ねぇ。あの人、見かけは優しそうだけど、意外にヒステリー起こすんだものな。特に坂本さんの事で」

「坂本にホの字だったからな。それと、上層部へ根強い不信があって、私らを『余所者』と見てたろ?それが問題視されたんだよ。階級が降格しなかっただけマシさ。坂本なんて、一昨年から去年までの行動が原因で、一時は降格間近だったって噂だしな」

――ミーナは、501の統率者という面目は保たれたものの、暴発性が露呈し、特進をしばらく見送りにし、未来世界への研修という事で落ち着いた。結果として、自らの行いで暴発性を周囲に露呈してしまったミーナは、自らの青さを反省し、未来世界行きの準備を始めていた――

「だよなぁ。坂本さんは色々と問題起こしたし、出世出来ても大佐くらいだろうな」

「将帥の才能は無いしな。この前、横空にいって、オセロしたんだよ。そうしたらこっちがボロ勝ちで、焼肉奢らせた。兵学校で戦略の科目ないのか?拍子抜けするくらいにボロ勝ちだったぞ」

「坂本さんの世代からは短縮されたしな。一年半じゃ、必要最低限の知識しか身につかない。俺みたいに、連邦軍で再教育されたんならまだしも、な」

「そうか。今度の戦の課題はそれだな」

「すみませ〜ん。洗濯物干してたら時間かかっちゃって。わ〜、よく撮れてますね」

「上がプロパガンダに使うネガ以外を、ヒガシが回してくれた。こんなの使えんだろ?w」

「確かにw」

黄金聖衣姿で矢を番える写真など、どう考えてもプロパガンダに使えない。圭子はそれを含めた幾つかの写真を黒江達に回したのだ。

「あの時、みんなびっくりしてましたものね」

「三人いたし、アテナエクスクラメーションでも良かったんだけど、それだとイタリア半島全体が粉微塵になるから、サジタリアスの矢に皆のエネルギーを上乗せした一撃で巣を散らしたんだよ。あれ、神でも貫けるからな」

「なるほどな。あ、雁渕の妹だけど、無事に帰国の途についたんで、雁渕がお礼持って来るってよ、黒江さん」

「ヒュウ、気が利くな」

「ごめんください〜」

「お、噂をすれば」

雁渕がやって来た。お礼のまんじゅうを携えて。黒江が応対した。

「先輩、ありがとうございます。ひかりを守って頂いて」

「なあに、お安い御用だ。お前の妹だが、負けん気がある。魔力はでかくないが、今後次第では大きく伸びるだろう」

「せ、先輩!!あの子をそのように評価して下さって……!」

「なあに、坂本のやつも言ってたぞ。ここじゃなんだ、上がっていけ」

「し、失礼します!」

雁渕孝美は、優しげな風貌と裏腹に敢闘精神旺盛である面がある。そのため、自分が助けに行きたくてウズウズしていたのだが、坂本と黒江が約束を果たしたので、一安心したのだ。

「これが先輩なんですか!?」

「中々決まってんだろ?」

「い、いや、そういう問題じゃ……」

黄金聖衣姿の写真をドヤ顔で自慢する黒江。サジタリアスの聖衣のヒロイックな造形もあり、インパクト大である。

「これは神の戦士の扱う甲冑だ。私はその一員でもあるから、纏えるわけだ」

「神って?」

「オリンポス十二神が一人、アテナだ。」

「つ、つまり先輩はアテナの……」

「そう。配下だ」

「神様って、本当にいたんですね……そっちのほうが……」

「神々も人間と同じで、お互いに争い合ってるから、人間のこたぁ悪く言えねーよ。ただ、人間を守ろうとする神がいて、滅ぼそうとする神もいるってことだ」

「ウィッチである必要あります?」

「ばらすと、その手の質問は山のように来るんで、もう飽き飽きだ。ウィッチとしての自分に自惚れるなよ、雁渕。私は何度も自信を粉々にされてきた。限界を超えるには、なんだってやる。神に仕えてでも、な」

「強くなるために、オリンポス十二神にひざまづいたんですか?」

「半分はそうだが、残り半分は人柄だよ。アテナのな」


オリンポス十二神の一人に忠誠を誓ってまで、強さを欲し、手に入れた黒江。裏を返せば、さみしがり屋で、ヒーロー大好きな少女でもある。当人がバイクで買い物に行った後、菅野と芳佳がその側面に言及した。

「いいか雁渕。黒江さんと寝る時は覚悟しろよ」

「?」

「あの人、子供の時のトラウマが寝てる時に出る質でさ。寝ぼけると子供帰りするんだよ。口ぶりからするに、6歳くらいかな?」

「5歳かも」

「で、親に折檻されたのが凄く怖かったらしくてよ、その時のトラウマが深層心理に影響してるから、添い寝してくるんだ」

「先輩が?添い寝?なんかイメージが」

「ケイさんの推測だと、子供帰りしている時の姿が本質なんだって言ってた。俺もやられた事あるけどよ、これが結構大変でさ」

「菅野さん、ほら、乱暴だし」

「るせー!それで、苦しくなって起きたら、だいしゅきホールドやられててな。あのバカ力でやられるもんだから、まじで焦った」

「大変だったわねw」

「本当だよ。で、ケイさんに教えられた時にやっと納得したけど。雁渕、お前なら大丈夫だろ?」

「子供の時の妹で慣れてるから。でも、意外な感じね。起きてる時は豪放磊落って感じなのに」

「不思議なことに、当人は全く覚えてねーのよ。で、未来世界に行ってる時に言ってみたら――」

「パニックになって、枕を穴拭さんと自分の顔に叩きつけて、知恵熱出して寝込んだそうです」

「それもそうでしょうね。先輩からすれば、『信じられない行動』だし、気恥ずかしさで頭がオーバーヒートしたのよ、恐らく」

「だろうなぁ。オフレコだぞ?あの人がいたら、気恥ずかしさで音速拳が飛ぶからな」

「デコピンですよ、多分」

「どのみち、音速じゃねーか!!」

「あ、帰ってきたわよ」

バイクのエンジン音が響く。買い物が終わったのだ。

「ふう。おーい、宮藤〜、お湯沸かしてくれ。カップ麺買ってきた」

「は、は〜い」

と、芳佳が返事をし、お湯を沸かしに行く。近くに未来世界のあるコンビニが進出しており、主に軍港関係者や軍人などで賑わっている。バイクで行けば、ほんの数分の距離だ。

「ん?何やってんだオメーら」

「あー、雑談だよ、雑談!な、雁渕」

「は、はい。雑談ですよ。妹の事とか……」

「そか。お前らの分もあるから、銘柄選んどけよ」

「おう」

「あのー、カップ麺とは??」

「そ、そこから説明せんといかんか…」

雁渕は当然ながら、カップ麺を知らない。508という機動部隊勤務だった都合、未来世界の文化の流入に触れて日が浅いからだ。

「論より証拠、このカップヌードルで実演してやる。よ〜く見てろ。宮藤、お湯」

「はい」

黒江は芳佳から渡されたお湯が入った容器を片手に、カップヌードルを作る。雁渕からすると、カップ麺の原理は摩訶不思議で、まるで手品を見る子供のような目で見つめている。

「要するにだ、皿うどんが柔らかくなるだろ?あれと同じ原理の応用だ」

「あの原理を人工的に起こせるんですか!?」

「そういうこった。で、3分待つ……」

三分待ち、雁渕に食わせる。すると。

「これはうどんとも、そばとも違う……全く別の食べ物です〜〜!」

そう。そばやうどんはあるが、ラーメンは中華文明滅亡を経ている故か、存在していない(幕末に中華街で食べられていた麺料理を起源とするなら。ただし、水戸黄門が食った説がある)。そのため、未来人が持ち込んだものが最初となる。それから数年後のこの時期となると、かなり入ってきているが、雁渕はミッドチルダ動乱でも、未来世界に一度派兵された際にも、見慣れた料理で済ませていたため、未来世界の技術が生み出したカップ麺などは食べていなかった。

「雁渕、オメー、ミッド動乱にも、向こうの戦争にも行ってたのに、なんでこいつを知らねーんだよ」

「だ、だって、何があるか不安だったんですよ!だから見慣れた料理なら…」

「オメー。未来世界と交流始まって、もう二年だぞ?未来の食品は安全率も高いし、そんな過剰に警戒してたらもったいないぜ」

と、いいつつ、手慣れた動きでカップヌードルをすする黒江。野比家でしょっちゅう食べていたおかげである。

「それに、今度できる空軍の酒保なんてな。コンビニだぞ?未来世界の」

「嘘ぉ……」

扶桑軍の『酒保』は制度が改革され、未来世界のコンビニエンスストアが入る事になった。この時点では、既に改組が始まっており、雁渕もミッドチルダや未来世界在住時に足を踏み入れた事がある。

「確か、今度から試験的に厚木で試験するそうだ。本土にいる内に慣れとけ」

「は、はいっ」

「確か、お前向けに、少女倶楽部買っておいたな。あ、あった」

「先輩、買ってくれたんですね!」

「ものはついでだ。穴拭のやつも愛読書だし。私は卒業して、少年漫画雑誌見てるけど」

コンビニエンスストアには、未来世界の漫画雑誌も置いてある。それを見て、自信をつけた当時の少年少女や青年たちが扶桑でのストーリー漫画の勃興を起こすが、それはまた未来の話。あの漫画の神様は別の自分の意思を引き継いで、別の自分が描けなかったモノを実現させるに至るなどの現象も起こり、黒江はちゃっかりとファンレターを出していたりする。ある少年漫画雑誌が創刊された時には、既に高官になっていたにも関わらず、ファンレターを出し、名前で空軍の英雄と気づいた編集部が箔付けに掲載するという面白可笑しい話となる。50年代には、そんな黒江に押されて、武子は自分の好きな、とある作家にファンレターを送る。武子は既に空軍の高官であるのにも関わらず、ファンレターを書いてくれたと作家は大喜び、武子をモデルにした新作を描き下ろしてくれたという。

「先輩は釣り雑誌しか見ないかと……」

「うん、間違ってない間違ってない」

「お前らなぁ……まるで人を釣りキチ一筋みたいに」

「え?そうじゃないの?」

菅野の一言にしょげる黒江。最近は趣味を増やしたと自負しているため、釣りキチ一筋と言うのはショックなようだ。

「言われてますね」

「クソぉ、最近は趣味を増やしてるのにぃ!!そ・れ・に!!潮待ちとか移動中に本くらい読むわ!最近マンガ多いけど……」」

と、ぶーたれる。一度ついたイメージは覆らないのはショックなようだ。この時期、黒江は未来デパート経由で、下宿先の宮藤家にかなりコミックや釣り雑誌を置いてあり、芳佳もみっちゃん向けの本を置いてあったりする。

「先輩、袋に入ってるのは?」

「宮藤の親戚のみっちゃんから頼まれた、ミリタリー雑誌だよ。今月はお前の特集だったな」

「え、えぇ〜〜!?は、恥ずかしいですよぉぉぉ!?」

「あの子は相当なガチ勢だからな。確か、もう、どこからか次期空母の艦名掴んでたぞ」

「どこから掴んでるんだろう……みっちゃん」

「宮藤さん、そんな子が親戚に…」

「ええ。私じゃミリタリー関連はあまり相手に出来ないんで、最近は黒江さん達に頼んでますw」

みっちゃん。本名は山川美千子。芳佳のはとこにあたり、なおかつ幼馴染のミリオタである。そのため、本職の黒江たちでさえ圧倒される勢いと知識があり、元々が陸軍軍人であるスリーレイブンズに海軍の知識を仕込んだ人物でもある。

「あいつ、詳しすぎるから怖いくらいだぜ。よっほど、智子さんの映画が強烈だったのかね?」

「坂本から宮藤の前後くらいの世代はあれを公開中に子供だったからな。宮藤を例外にしても、あれを見てるのが多数派だったはずだ。それは分かるんだが、うーん。どうしてこうなった」

「あれは本当、すごかったのよ?直枝。あの頃はムーブメントみたいなもので、智子さんに憧れて、ウィッチを夢見た子は同世代に多かったわ。私は式典の時に、先輩達に声をかけてもらったりしてもらったのがきっかけだったけど」

(あれ、テキトーにやっただけなんだけど、雁渕が混じってるとは思わんだ。まぁ、憧れてくれたのなら、智子も喜ぶだろ)

この時期から黒江は、独白などでは『穴拭』でなく、『智子』と呼ぶようになりつつあった。親しくなったので、実のところは智子への呼び方を変えたいのだが、変なところで勇気が出せないのだ。そういうところが可愛いと、圭子は評している。

「先輩。どうして、未来世界で完全平和主義が一時でも支持されたんですか?向こうに行ってた時、それがどうしても腑に落ちなくて」

「戦争し続けてると、嫌気がさすもんだ。戦後の日本もそうだったけど、大戦争の後は誰もがそう思う。だが、向こうの施政者達は現実問題と向き合う事を強いられたんだ。軍人のクーデターや治安悪化って命題とな。戦後の日本が本音と建前で結局、自衛隊を作ったように、23世紀の時代も、軍隊の維持をな。23世紀の時は、地球一つの事で片付く事でも無くなったし、宇宙人とは常に事を構える事になるし、宇宙怪獣の事もあったからな」

23世紀では、戦後の日本のように『誰かに守ってもらう』という手段を使えないためもあり、結局は軍隊が維持された。ガトランティスの侵略により、当時のピースクラフト政権はその屋台骨が揺らいだ。相手が暴虐なズォーダー大帝であったのもあり、平和志向の彼女は対応が後手後手に回り、将来的目標(現有軍備の解体を経た上で、民意を得ての防衛的再軍備を実現する)の実現を棚上けせざるを得ない状況に陥り、戦後に形式上行われた国民投票でも、軍備の維持が選ばれた。折しも、退役軍人がティターンズ残党やジオン残党に合流してしまうという、治安悪化を示す事態も頻発した事もあり、人々は軍備を持ち続けるのを選んだ。その経緯から、彼女の時勢は『不幸だった』と評される。よく誤解されるが、彼女は『軍備は絶対悪』とは一言も言ってはおらず、『人々が望むのならば、軍備の保有をする』というスタンスの現実主義者であった。これは『自国』の解体を経た上で確立されたもので、政権獲得後に彼女を取り巻いていた者達が戦時の惨禍で現実の残酷さに絶望し、『夢想家』との悪評を流布したのだ。言わば、ガトランティスの侵略が判明した時期の地球は、施政者、国民共に、防衛体制を整えなくてはならなかった戦後直後の日本とよく似た状況になっていたのだ。言わば、リリーナ・ピースクラフトは『23世紀に於ける吉田茂の立ち位置にいた政治家』とも考えられる。

「彼女、リリーナ・ピースクラフトは不幸だったよ。政権末期、周りが保身で主戦論に転じていく中、話し合いを模索し続ける一方で、間に合わなかったとは言え、アンドロメダの増産を極秘に指示していた。その事から連邦で最高の政治家の一人と言われながら、相手が悪すぎたって言われてる」

「そうだったんですか」

「一度、彼女と関係の深い人と話した事があってな。私もお前のように反感があった。いや、ガトランティスの時の手のひら返しを経験していれば、軍人や軍需産業は99%が反感を持つだろうよ。連邦の国民は現金だからな」

黒江は軍人という立場故、連邦国民の安易な手のひら返しに反感を持っている。平和になると、軍人と軍需産業を侮蔑した言葉を吐きながら、いざ自分達がどうにもできない事態になると、泣きついてきた連邦国民。ガトランティス戦の前後に、反連邦に転じた元・軍人も多いのは、この時の経緯が原因だ。

「連邦の国民って、なんでこう両極端なんですか?」

「自分達は関係ないって思ってんだよ。地球本国は一年戦争とガミラスしか直接的な惨禍を被ってなかったし、グリプスやネオジオン戦とか、ザンスカール戦争にしても『総力戦』ではなかったそうだし。で、ズォーダー大帝がボコスカ撃ってくれた時に大パニック、ハト派政治家が殺される事件も相次いだそうだ」

「うわぁ……」

「それで、ヤマトがボロボロになっても最後まで抗ったから、連邦の闘志のシンボルがヤマトになったんだ。アンドロメダが撃沈されても、ヤマトは最後まで健在だったしな。廃艦話まで出てたのが、戦後は『連邦の象徴』だぜ?古代さんも呆れてたよ」

「廃艦とは?」

「波動エンジン艦の試作艦の位置づけで、大和型をそのまま改造したワンオフ艦、後から出来た量産型との編成に組み込みにくいとかの理由だそうだ。当時は他の大和型が発見されてなかったし、量産試作型も造られたそうが、アンドロメダ級に乗員が回されたそうだし」

「ヤマトって、一応数を揃えるつもりの艦だったんですね」

「ヤマトがイスカンダルに行った後に、6隻くらい作ったとか聞いた。一隻はワープテスト中に行方不明で、今でも亜空間を漂ってるそうな」


「なんでですか?」

「ワープ先の座標が運悪く、スペースサルガッソーだったって話がある。それで乗員も死に絶え、幽霊船になったとか……」

「なんですかそれ!!怖すぎですよぉ〜!?」

「宇宙の海を船出すると、ままあるんだってさ、サルガッソーに出くわすの。当時の波動エンジンには亜空間航行能力なかったからな。次元潜航艦が実用化されれば、サルベージできるかもしれないって」

「その不幸な戦艦の名前は?」

「吉野だって」

「吉野?聞いたことない名前ですね?」

「南北朝の消えた方から名前をつけたそうな。飛鳥級の4番だったそうな」

「朝廷の所在地が由来ですか?」

「らしい。試験艦だったから、その後の実戦に出されていないそうだが、月基地の最下層に保管されているとか?」

「月?」

「グラナダはジオンの影響が強いから、多分、フォン・ブラウンの方じゃないかな?盗まれたら大事だしな。主力戦艦と同程度の能力とは言え、ネオ・ジオンのグワジンなんて、お茶の子さいさいで撃沈出来るから」

――試験戦艦『飛鳥型』。ヤマトのプロトマスプロダクトモデルであり、6隻が造られた。その能力は後の主力戦艦級とほぼ同程度だが、航行能力と防御力では上回る。一隻はパーツ取り用のため、命名されていない。「吉野」がワープ事故で喪失認定されたため、現存数は5である。黒江の言う通り、フォン・ブラウンの基地ブロックの奥深くにそれらは秘匿されており、ヤマト型を改良するに当たってのテストに使われたりし、命名無しの一隻は『ヤマトを仮想敵にした次世代艦用の標的艦』としての余生を送っていた。その艦が航行しているところを目撃したネオ・ジオンが『ヤマトだ!!』と恐れる効果も出したため、意外に治安回復に寄与していたりする。

「でも、不思議ですね。2年くらいでインターネットとかPCとか、携帯電話が当たり前になってるなんて」

「まーな。本当なら生きてる内に触れるか怪しい機械を、それこそ日常品感覚で触れられるのが奇跡みたいなもんだから、私たちはある意味、幸運だぞ」

「確かに。この際だから、ひかりになにか買おうかしら……」



……と、雁渕が考えているのと同じ頃。智子は、基地でグラビア撮影をしているのだが、それを姉の孫である麗子にからかわれていたりする。

「おばさん、ポーズにこだわってないでさ。とっと終わらせちゃおうよ〜」

「いいや、結構重要なのよ!扶桑の乙女たちへの影響を……」

「おばさん、この時期でもさ、もう乙女って年でも……」

「ムキーーーー!!まだあたしは25前だもん!!」

「はいはい」

麗子は智子で遊んでいた。自身が軍でのファッションモデルをしているせいか、大叔母の努力を生暖かい目で見つめている。二代目の他の面々は基地で源田実と会談中である。撮影が終わった後、智子はほぼ自分と同じ年頃の大姪に翻弄される。姉は自由奔放であったが、その血を受け継いだようで、智子は引っ張られる。

「おばさん、おばあちゃんが言ってる通りに堅物だねえ」

「姉さんが自由奔放すぎるのよ――!ここ10年以上は、お盆とかそんくらいにしか顔合わせてないんだから!!」

「でも、本当、字下手だよね。おばあちゃんが母さんとあたしに字を教えたはずだ」

「ねえさぁぁん!!よくもあたしの恥部を子と孫にぃぃぃ〜!!覚えてらっしゃい〜!」

智子は「うが〜〜!!」と絶叫する。孫の代にまで字の下手さを言い伝えた張本人たる実姉に対し、怒る。

「マフラーが残ってたのよね、おばあちゃんがとっといたのよ。ほら。映画で使った……」

「ねえさぁぁんーーー!つーか、映画用じゃないわよ、それ!!記憶違いよ、記憶違い」

今度は恥ずかしさのあまり赤面する。あのマフラーが孫の代になっても伝えられ、孫への教育に使われたかと思うと、ものすごく恥ずかしい。

「母さんはウィッチじゃないから、私が受け継ぐことになってるんだけど、どうする?おばさ……あ、フリーズした」

穴拭家は智子の子世代にはウィッチを出していない。ウィッチの素養が姪にはなかったからだ。

「映画用じゃないから、好きにしてよ、もう!!恥ずかしいったら」

「んじゃ、オークションに売りに出すよ。『実戦で使ったマフラーです!』とか言って」

「麗子!!それはやめて!!あたしが引き取るから!!」

「あー、黒歴史暴いちゃった?」

麗子に完全に遊ばれる智子。『豪勇穴拭』マフラーは智子にとって、少女期のあらゆる意味の思い出ある品物。黒歴史的意味でもそうだが、市井に出すわけにはいかないのだ。

「んじゃ、あたしの使ってるマフラーでも使うwww?」

「あんた、あたしと座右の銘が違うじゃない」

「沈着穴拭だし、あたしは」

「どこが沈着なのよ」

「おばさんと違って、オツムがキレるから」

「ムキ―――!!それじゃ、あたしは突撃……ば、バカって……」

「おばあちゃんからそう聞いてるよ」

「ねえさん――!!孫に変な事吹き込まないでよ――!!」

麗子の時代にも、智子の姉は自由奔放であるのが幸いし、長命を保っていた。そのため、智子が突撃主体の戦法であったのを教えており、智子は長らく、姉に手を焼く運命であるのを悟り、がっくりと肩を落としたという。





――更にそれから数週間後。扶桑領海に入った、当時は退役間近の軽空母『龍驤』。輸送任務に入り、佐世保に近づいたところで、怪異の襲撃を受ける。運悪く、輸送任務であったため、ストライカーユニットなどの機材は積んでおらず、航空攻撃に無力であった。そのため、報を聞いた雁渕は顔面蒼白になり、すぐに助けに行くが、単騎では複数の新型大型怪異には無力に等しく、龍驤への被弾を許してしまう。しかも、目の前で最愛の妹が爆発で海に投げ出されてしまう。

「いやあああああああ!?」

目の前で妹が海に投げ出されるという最悪の光景に、雁渕は悲鳴を上げるが、それはすぐに怒りに変わり、機銃を撃ち込むが、再生力が上がっており、13ミリでは無力に等しく、更に輸送艦隊の護衛すらままならない。雁渕は自らの無力さに打ちひしがれ、涙を流す。が、雁渕に救いの手が差し伸べられる。

『アトミックサンダーボルト!!』

光が走り、怪異の一体が蜂の巣にされる。電光の如き一撃だ。

『お前が先走ったって聞いたんで、光速でぶっ飛んできたぜ』

「黒江……先輩!?」

雁渕が目撃したのは、サジタリアスの聖衣を纏い、ひかりをお姫様抱っこしている黒江だった。

「ショックで気絶はしてるが、お前の妹は無事だ、安心しろ」

「よ、良かった……!」

「さて、本職のサジタリアスじゃないが、カプリコーンをあいつに貸してるし、やるか!」

『ライトニングファング!!』

黒江は電撃及び、風系の技との相性が良く、アトミックサンダーボルト、ライトニングプラズマなども習得している。無論、他の聖衣であっても、エクスカリバーやエアは問題なく発動できるので、聖闘士不足を補うために、彼女なりに研鑽を重ねた証であった。

「神に仕えてる身に今更、怪異が来たところで!腹の足しにもならねー!!喰らえ!!『勝利を約定せし聖剣!!エクスカリバー!!』」

エクスカリバーを放ち、海底ごと怪異をまっ二つに切り裂き、屠る。如何に再生力を高めようと、コアごとまっ二つにするのでは無意味だ。

「先輩!」

「オメーは妹を見てろ!ここは私一人でどうにかなる」

光速の動きで次々と怪異を屠る黒江。サジタリアスの聖衣のヒロイックさもあり、超然的に目立つ。

「あれが伝説のスリーレイブンズが筆頭かね」

「はい、黒江綾香中佐です。オリンポス十二神に仕えてるようで……」

「我が扶桑はオリンポス十二神の加護を得たと思えばいい。あの力を扶桑防衛のために使えるのならば、オリンポス十二神を喜んで拝むよ」

龍驤最後の艦長となる『加藤唯雄』大佐は、黒江がアテナに仕えていることを容認した発言をし、自国の防衛にオリンポス十二神の戦士の力を利用する提言を後に提案。これを発端に、黒江は正式に自国内で聖衣を使用する許可を得、故郷を守るために拳を振るう事になる。

――そして、残り一体になった時、黒江はサジタリアスの矢を番える。それは射手座の聖衣の機能であり、星矢が最終的な敵を屠るために幾度となく使用している。

『燃え上がれ、我が小宇宙!!極限まで!!』

サジタリアスの矢を番えると同時に、小宇宙を最大限に高める。すると、遥か過去に射手座の聖衣がアテナの血を浴びていたために、黄金聖衣が究極の姿を見せる。神聖衣だ。

『おお、神聖衣!!そうか。多くの聖戦で、射手座が生き残った事があって、その時に昔のアテナの血を浴びていたんだ!!』

これは今の黒江の人格が、聖闘士として成熟した後の時間軸の彼女自身だからこそ、なし得た奇跡である。神聖衣化すると、更に神々しいデザインとなり、まるで神のような力を装着者に与えるという特徴がある。

「先輩、経験あるんですか?弓道」

「あるわきゃねーだろ!」

「そんな状態で矢を射るなんて、小学生より危ないですよ!?」

「とにかく当てりゃいい!光速の矢だ、超電磁砲も問題外の速さだ!相手が気づいたとしても避けられん!!行けぇ!!」

黒江が放ったサジタリアスの矢は神の矢となり、怪異を撃ち抜く。神聖衣の光で目覚めたひかりは、驚きのあたり、呆然と黒江を見つめる。

「ひかり!!」

「お姉ちゃん、私……?」

「良かった。気がついたのね!!」

「うん……ねえ、お姉ちゃん、あの人は、まさか……」

「黒江先輩、ありがとうございます!!」

「なあに、お安い御用さ」

「ええ!?」

「説明は後だ。色々とややこしいしな、これ」

――ニコッと、ひかりやその姉の孝美に神聖衣姿で笑いかける黒江。戦士として屈強な面と、それと対照的に、仲間と『仲間でありたい』という願望が強く、同時に普通の『家族愛』が欲しかったという、少女としての弱さが同居する人間性を知る者も増加していき、後に加東圭子は、著書の中で、『人肌恋しいさみしがり屋だけど、それを見せないように、豪放磊落を演じて虚勢を張ってる、智子とは違う方向に繊細な子なのだ』と評したという――



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