短編『後日談』
(ドラえもん×多重クロス)



――剣を武器にする者達の間で流行っているのが、スーパーロボットがよくやる『右足を前に出し、剣先を画面手前やや左に向け、剣を下に構える』ポーズで、ロンド・ベル隊で流行っている構図で、右半身で武器を突き出すポーズである。黒江や智子などは真っ先にしており、今回のやり直しでは、扶桑海当時の実戦でやっている。その影響が色濃い調もしており、アルトリアもモードレッドも当然ながら取り入れていた――

――進水式の式典を終えた後のホテルにて――

「なんだ、貴方達もあのポーズ取り入れてたの?」

「おう。あのポーズかっけーし、見栄えするしな。ペリーヌは嫌がってるけど」

「どうして?」

「ああ、あいつがまだ坂本少佐にスカウトされたての頃、坂本少佐が件のポーズとって、秘剣・雲耀してたの見てたみたいでよ」

「それって何年前ですか?」

「えーと、確か、43年の後半頃だったな。42年まではリバウにいたし、少佐」

と、そこで、こっそり習得した念話でペリーヌが言い訳した。

『い、いい嫌がってる訳じゃ有りませんわ!私なんかがおこがましくて恥ずかしいって言っただけじゃありませんか!』

ペリーヌの意識は深層に引っ込んでいるとは言え、目覚めているので、念話習得後はこういうツッコミを念話で行う。念話で智子が更に言う。

『いいじゃないの。貴方が直接するわけじゃないんだから。モードレッドがしてるんだし。共存してるんだし、そこはね』

『うぅ……。た、たしかに入隊したての頃、あのポーズに戸惑いましたが、べ、別にやってはダメとは一言も言ってません!』

『テンパってるわね〜。貴方って、突発的事態に弱いでしょ』

『そもそも、まさかこのような事になるなんて、考えも……』

『貴方は、私とは覚醒のタイプが違うので、あまり力には…』

ジャンヌはこれである。ジャンヌはルナマリアを完全に取り込む形で覚醒したので、モードレッドがペリーヌと共存する形とはタイプが異なる。従って、ジャンヌにルナマリアの特徴が現れるのも自然な事だ。しかし、ペリーヌとモードレッドの場合、双方がアクの強い性格であったため、ペリーヌがモードレッドとの融合を強烈な愛国心で拒んだため、共存という形となった。

『うぅ……』

『仕方がないわよ。覚醒の瞬間、モードレッドに身を委ねるのを拒んだ結果なんだし、そこは諦めなさいな。モードレッドは一応、円卓の騎士なんだし』

『私はガリアの騎士ですのよ!それが円卓の騎士とは言え、ブリタニアの騎士と一緒になるなんて……。クロステルマン家の唯一無二の生き残りなのですよ、私は』

『だから、今更ブリタニアに帰依出来んからガリアの騎士になると言ってるだろうが!このガキ!』

モードレッドと脳内で喧嘩し始めるペリーヌ。

『ちち…母上だってカールスラント貴族に収まったんだ、ブリタニアには義理は無いぞ。依り代になってくれたお前や、迎え入れてくれた領民達に感謝しているしこの身をここに捧げたいと思うからここに在るのだ』

『分かってますわ、分かってますわ……』

アルトリアは公式にハインリーケの持つ地位を受け継ぎ、名を『アルトリア=ハインリーケ・ペンドラゴン』と改め、ハインリーケの実家の権利を獲得している。正式には『アルトリア=H・P・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン』なのだが、長すぎるので、省略するのが常である。そのため、かつての同僚からは驚かれるのが当たり前である。ハインリーケの姿を取れるが、基本的な人格はアルトリアのものなので、幼さを覗かせた以前と違い、誠実で、凛とした性格である。そのため、以前より遥かに人当たりが良くなっているため、人間関係が全体的に改善している。以前は『無自覚に、自分に出来る事を他人に要求する』ため、裏では陰口を叩かれていたが、覚醒後は『律儀で丁寧』であるので、それはいっぺんに消えている。それをペリーヌに伝えるモードレッド。

『とりあえず、食べましょう。卿が用意してくれたローストビーフがもったいないですよ』

『あ、アルトリア王…』

アルトリアは、いつの間にかブラウス姿に着替えており、ローストビーフを思い切りたいらげていた。その食いっぷりはフードファイターそのもの。ペリーヌは思い切り引いてしまった。王であった事はペリーヌも『見てきた』事で知っているので、王と敬称してしまう。

『お前も見て楽しみなよ。感覚は共有してるし。後はオレに任せてすっこんでな』

『ち、ちょっとぉー!?』

ペリーヌはモードレッドに翻弄されているようだ。そして、しばしの間食べていると……。

「ん?なんだ、お前らこのホテルに泊まってたのか」

「坂本じゃない。今日はどうしたのよ。のび太んとこに来てたはずでしょ?」

「いや、私はミーナに頼まれて、501の残務整理に来てたんだ。事務処理事項が増えたからな、お前らのおかげで」

「ああ、G機関の?」

「そうだ。それと、ミーナが留学で大尉に実階級が落ちたから、最先任が私になったせいもあるが」

「あの子、人事記録には傷はつかなかったけど、二度の査問が響いたわね」

「あいつは勉強の機会が増えたって、前向きに考えてるよ、収支はプラスだしな。それに、今回はお前らの事を教えていてよかったよ。前史はその点が失敗だった」

「前史は何回もレイブンズだって教えても駄目で、エーリカを使って書類取り寄せてたのがケイの逆鱗に触れちゃったのよね、あの子」

「あいつが重宝してた主計の中尉を馬鹿にしたのが直接の原因だよな、あれ。今回はそれが余計にすごくなってるから、ミーナに結成時から仕込んでたんだよ」

「43年から?」

「知り合ったのは42年だが、その時はクロウズだったから、あまり機会がなくてな」

坂本は43年から少しづつレイブンズの事をミーナに刷り込む作業を地道にしていた事を語る。坂本は圭子が闘争本能の発露として、隠し持つ『レベッカ・リー』の事を早くから知っており、前史ではミーナの評価に付き纏った『悪評』を今回では防ごうと、レイブンズの事を常々引き合いに出したりして、予め刷り込んでいた。これはレヴィの銃撃狂かつ短期で粗野な性格から、本気でキレた場合はミーナが五体満足でいられる保証は無いことも、予め動いた理由であった。

「それにあいつ、今回はレヴィでもあるだろ?あの性格になった状況で、あいつがキレてみろ。黒江もビビる事態になってしまう」

「確かに。前史での、あの子本来の人格でキレても、かなりの事になったし、レヴィの性格にスイッチが入った状態じゃ、血で血を洗うってことになりかねないわねぇ」

レヴィとしての圭子は短気で粗野な性格なので、坂本も智子も恐れているような節を覗かせた。実際、圭子は二度目の扶桑海事変のやり直し時、別の部隊にいた同期が上官にいびられ、戦場で見捨てられそうになった際にはレヴィとしての片鱗を垣間見せ、『抜けよ、セニョリータ。ブルっちまってんのかい?』と、その上官をベレッタを突きつけて脅している。そのため、今回に於いての異名の一つは『扶桑で一番トチ狂ってるウィッチ』だったりする。

「ほら、今回は扶桑海の頃からケイの奴、片鱗あったろ?だから、江藤さん、あの時は小銭ハゲができてたとか」

「でしょうねぇ。あたしと綾香は聖闘士の技撃ちまくってるし、大先輩はむしろそれを助長してたし」

「口が悪いヤツは腕が良いヤツが多い、それに根は良いヤツがほとんどだ、先ずは話を聞いて理解すれば良い仲間になるって、あいつに2年位かけて仕込んだよ。たま◯っちでも育ててる気分だった」

坂本はローストビーフを食べながら語る。時が来るまでの期間、ミーナをどう『育成』したのか。

「ラル総監には借りが個人的にあったから、下原を譲って、宮藤を呼ぶ口実は作った。後はお前らが来るまでをどうするか、だったな」

「定子を譲って、芳佳を誘い込む手を?」

「そうでないと、あいつは引き込めんだろう。今は覚醒して、あの世界の大洗の生徒会長の人格が融合してるが、元の性格では、軍にはいかないだろうし」

「親父さんに誘導してくれるよう、手紙を書いておくように誘導してはいたわよ?あの子、元の性格だと、親父さんの言うこと第一だったし」

「だなぁ。それと、お前、前史と今回、宮藤と縁を作ってたそうだな?」

「ええ。親父さんを味方につける目的があったから、小さい頃のあの子に剣を教えてたのよ。当時は『せんせー』とか言ってたわね、あたしの事」

「それで、宮藤が『覚醒』して、あの生徒会長の人格を初めて見せた時、お前の事を」

「そうよ。今は呼び方変えてくれたけどね」

「あの人格だと、食えないところあるからな。なかなかの戦略家だ」

「戦車道大会の縁の下してたし、口も回るから、今は機関の幹部任されてるわよ、芳佳。それに元からの軍医の知識もあるから」

「今回は色々変わったな」

「まーね。英霊がこうしているもの。変わるわよ」

「カールスラント政府とかが驚いたものな。上位の爵位を与え直すか、とか」

「そうねぇ。私達の叙爵も早まってるし、あの作戦の後は大混乱だったわね」

「それ以前に、今回のブリタニア戦艦、前史だと、アイアン・デュークだったろ?今回はクイーンエリザベスUなんだな?」

「ジョージY世陛下の退位が早まったせいもあるわね。ブリタニアは新王の即位の時に進水した戦艦に王の名を与える慣例があるのよ。それでクイーンエリザベスUに変わったのよ。私達が前に聞いた仮称は前史と同じだったから、女王陛下が了承したんでしょうね。キングジョージXの時は王が嫌がったそうだから」

「今回は随分と贅沢なスペックだな」

「前級の改善型って触れ込みだから、砲の口径を微妙に下げた以外は初期の大和には勝てるスペックよ。機関も21世紀日本製だし、主砲にロマーニャから得た技術入れたらしいわよ、今回の艦。それで三連装になったとか。ローマとリットリオに確認とったわ」

「凄いな。で、どうやって釣り合い取った?港湾施設とかも投資する必要あるだろう?」

「英国の投資と、地球連邦軍の有償援助で港湾施設はどうにかしたそうよ。問題は建造予算で、4隻分のために、空母の多くを潰したそうな」

「空母を?たしか多く計画してただろ?」

「殆どは30000トン級だったし、ジェットの運用に適さないとかで潰して、60000トン級を5隻揃えてお茶を濁したそうよ」

「既存の空母は?」

「英国の要請で、向こうの南米系の国に売っぱらうとか?で、現場が文句を行ったから、比較的大型で新しめのはジェット対応で20年は使い倒すそうな」

「カールスラントはバダンの鹵獲品でどうにかなるとかで、扶桑にペーター・シュトラッサーを返還する話がまとまりました。潜水艦技術と引き換えに。こっちが買っといて使わなかったのは、海軍も気まずいそうで」

カールスラント海軍は扶桑の伊401の船体構造を欲したが、ペーター・シュトラッサーの扱いに困っていた。バダンから同名の鹵獲艦を得たためで、ドイツ式の艤装のほうが扱いが楽なので、扶桑製の同艦はお払い箱となった。しかし、10年ほど使用せずじまいなので、船体の再整備に手間がかかり、カールスラント軍は購入時の規定を破っていた事に慌て、]]Tの技術を無償提供して、扶桑の抗議に備えた。後に、扶桑も旧式化を理由に日本の民間企業に売却する事になるが、戦時中は元の『愛鷹』に復し、天城と共に最後の一働きを見せたという。(売却後は日本の映画に姉の赤城役で度々出演。銀幕の中では本来約束されていたはずの、空母としての輝きを見せたという)この経緯から、カールスラント海軍は『田舎海軍』のそしりを受けたが、カールスラント海軍はかつての大海艦隊の復権を目指しており、潜水艦の製造プラントとして看做されるのに不満を述べたという。

「で、次の戦だと、君の国は?」

「殆ど人材供給元と、潜水艦製造プラントですよ。太平洋の戦いには、我が国の機体は不向きですから」

「戦後型のMEKO型フリゲートはどうしたんだ?」

「あれですか?現場が現用艦の整備を優先しろと喚きまして、次の戦に間に合うか」

アルトリアは一応、カールスラント軍人なので、その状況は理解しており、得体の知れない戦後型艦艇を作るより、現用艦の製造を優先させようとする保守的な海軍に若干の理解と呆れを見せた。扶桑が、その生存性が余りにも低いとされる戦前型駆逐艦に見切りをつけ、一等駆逐艦は戦後護衛艦型に切り替え始めているのとは対照的だ。

「日本連邦が戦後の護衛艦を作ったり与えているのに比べると、我が海軍は保守的で」

「仕方がない。ドイツの駆逐艦はウチの駆逐艦より生存性が高い。直接防御力がないだろう戦後型に拒否反応起こすのも当然だ。ウチなんて水雷戦隊閥がパニックだぞ。デモインの存在で甲巡は全部が旧式化、駆逐艦はクチの悪い評論家からガラクタ呼ばわりだぞ?酸素魚雷が倉庫でホコリかぶってる」

「まー、ウチは水雷に特化しちゃってたから、対空戦は弱いし。戦後の護衛艦は機関レスポンスがいいけど、カタログスペックは30ノット前後だから、文句言うのいるのよ」

三人は海軍について話す。駆逐艦は戦後護衛艦で代替しつある扶桑だが、旧来の水雷戦では遅い速度なので、現場からは速度面で不満がある。しかし戦闘力では比ではないため、田中頼三などは『戦後式護衛艦は甲型駆逐艦の五隻にも優る』と高く評価している。これは駆逐艦でありながら、下手な旧式戦艦が目ではない遠距離攻撃能力を備えているからだ。

「海自の連中曰く、実質的に蒸気機関のこの時代の駆逐艦より速いって奴。レスポンスが桁違いだし、立ち上がりも速い。だから、戦後護衛艦に装甲をつければいいわけよ」

「それで爆撃ウィッチと雷撃ウィッチが時代遅れになったと」

「急降下爆撃とか肉薄雷撃しなくても、ミサイル撃てば当たるからね。VT信管ついてる両用砲と40ミリ砲の弾幕に突っ込んだら、急降下爆撃ウィッチや雷撃ウィッチの機体じゃ死ねるわよ」

この当時、既に旧来の九九式艦上爆撃脚、『彗星』爆撃脚、『天山』雷撃脚は急激な旧式化を露呈していた。怪異との戦闘では不要とされた防弾装備を取り外していた事で、今度は対人戦闘でその生存率の低さを露呈した。同時代最高の弾幕の前には、扶桑の貧弱な防御力の爆撃/雷撃脚はガラクタに等しかったのだ。更に、21世紀のミサイルだと、爆撃脚のスピードではほぼ百発百中で当たるため、彼女たちの対人戦での活躍の場は無しに等しかった。爆撃脚は爆弾を抱えるため、対人戦での弾幕に被弾すると、手にする爆弾が誘爆する危険が大きく、同時代の米軍系艦艇にも通じなくなっているのだ。雷撃ウィッチは魚雷に変わり、携帯式誘導弾を持ち、爆撃ウィッチはカノーネンウィッチに転換が図られている。しかし、旧来のレシプロ機では、ミサイルがウィッチの機動性を帳消しにしてしまうので、対策も必要なのが現状だ。

「ウィッチの魔導エンジンは理論の発達が必要だから、娘たちに言って、未来から持って来させたけど、まずったわ。魔導ターボファンは数世代後の理論が必要なのよね」

「ああ、そうでしたね。あの技術には、第三世代の宮藤理論が…」

「それとファンの精度。ジェットのエネルギーに耐えられるファンが造れるかどうか。それがねぇ」

宮藤理論は理論の発達により、世代が分かれている。ターボファンエンジンに使われているのは、第三世代のものだ。ターボジェットの燃費改善や運動性向上のために造られた理論でもあるので、第三世代の宮藤理論への技術的理解が必要である。そのため、武子の技術部への協力が必要なのだ。武子の姪(弟の子)が技術士官で、ちょうど1960年代に若手の技術士官なので、武子が連絡を取り、技術指導はしている。

「武子が姪っ子に協力させてるけど、一からの構築が必要だから、急がせても6年近く必要らしくて。武子の姪っ子が技術のほうで良かったわ」

「娘さんは?」

「あの子の娘、自衛隊なのよ。孫は軍に行くけど。だから、魔導ターボファンの実用化の時代は姪っ子になるのよ、頼れるのが」

加藤家も1960年代の頃の潮流のため、武子の娘は自衛隊に就職し、姪が軍に行った。智子は姪に素養がなく、その子の麗子が隔世遺伝で覚醒したので、衣鉢を麗子が継ぐのに、智子の退役からおおよそ20年近くを必要とした。そのため、武子の姪『加藤孝子』は貴重な人材である。

「貴方の娘さんは?」

「あの子の時代は2000年代よ。それに、同じ戦闘畑だから技術畑じゃないしね」

「師匠の娘さんと同期でしたね」

「そうよ。あの子、確か山羊座の聖衣も継ぐから、あたしも麗子に水瓶座を継がせないとなぁ」

二代目レイブンズは三人が子を半世紀は為していないため、兄弟姉妹の孫娘を養子にもらっている。麗子も水瓶座を継ぐに値する才覚はあるが、当人の性格がルーズなので、いまいちやる気がない。そのため、迫水ハルカに『子供』を産ませ、そちらに継がせようか思案中だったりする。(麗子は聖闘士には興味はなく、彼女もそちらを智子に勧めているが、ダイヤモンドダストとホーロドニースメルチは継承している)

「でも、あの子。聖闘士になる気なさそうだし、ハルカに子を宿らせて、その子を聖闘士の後継にするかなぁ」

「なかなかエグい事考えてません?私が継げればいいんですけど、あいにく、私、どうも天馬座と射手座っぽいし」

調は若干引き気味だが、水瓶座を継ぎたい願望でもあったらしい。だが、黒江が射手座も兼任していたため、黄金聖闘士に叙任される頃には、星矢の後継ぎになる可能性が大きい。そのため、シンフォギアのエクスドライブ形態も、ダイ・アナザー・デイ作戦を境に、射手座の黄金聖衣に近い姿に変化している。

「そうか、綾香がフロンティア事変でサジタリアス着たのが効いたのね」

「ええ。あれ、切ちゃんたちがぶーたれてました」

「そりゃそうよ。あたしが水瓶座で援軍に来たときも言われたもんよ」

「師匠、私の姿で好き勝手してたせいで、帳尻合わせ大変なんですよ?学校でもノリが良かったみたいで」

「あの子、普通の学校には小学校しか行ってないから、楽しみたかったのよ。あたしも少年飛行兵の出だから、中高はいってないのよね。飛行学校が中等教育みたいだったけど、短かったし。士官学校は高等教育機関だし、それと普通の学校とは違ってるしね」

智子は、黒江が成り代わりの期間中、リディアン音楽院に調として編入学しても、元々の英才教育のおかげで、トップクラスの成績と、豪快な性格で人気者であったことによる、調の苦労を見抜いた。調は黒江が成り代わり中に好き勝手していた事で、色々と(バイト、舎弟など)苦労があり、その事も黒江に仕える理由の一つだと、智子に語った。黒江の学園生活は『成績は極めて優良、しかしながら生活態度はあまり良いとは言えない』もので、素を出していたのが分かる。寝ていても、テストでは正解を出す。更に、購買の人気パンを真っ先に買っている事から、陸上部から誘われるなど、学校生活を満喫していた。また、響達の仲間に加わった際、風鳴弦十郎と互角に戦ってみせ、黄金聖闘士の面目躍如であった。

「だからって、セブンセンシズを購買のパン買うのに使うって反則ですよぉ!おかげで、陸上部の連中から勧誘されてるんですよぉ!」

「そのくせ、普通に病気にかかるから、面白いのよね、あの子。滅多に無いんだけど、FIRE BOMBERのライブのチケット、オズマ少佐から送られて、ランランで帰ってきて、その次の日は鼻風邪引いたから」

「師匠、そういうところは年相応なんですね」

「あの子、イベント行って興奮すると、病気して帰ってくる、可哀想なところあるのよ。うつされるのもあるんだけどね。だから、時々、あたしが代理で仕事してるのよ、あの子の姿で」

自衛官としての任務があり、休めないのに高熱で動けない時は、智子が変身して誤魔化している事をここで教えた。

「大丈夫なんですか」」

「数百年はあの子と一緒だから、なりきるのは簡単よ。それにあの子、日本連邦結成後は書類仕事主体で、パイロットは維持訓練だけだし、楽よ」

飛行の癖はごまかせないが、対外任務統制官になった後は書類仕事主体の生活なので、智子が時たま代理でこなしていると告白した。智子も伊達にGウィッチではなく、演技力は低い方だが、黒江になりきるのは、長年の付き合いで可能なのだ。訓練の日でない時のみ、黒江の代理で仕事をしてやっている。智子なりの恩返しだろう。

「あの子には世話になったしね。あたし、元の歴史だと、軍の広告塔ってだけで残されてたところあったし、あの子があたしに『生き甲斐』を与えてくれたようなものだもの。ああいうところ、嫌いじゃないわ」

元の歴史では、スオムス中隊から退いた後は、都合のいい広告塔に使われていた事を思い出し、黒江には恩義を感じている事を、調にハッキリと述べた智子。黒江はそれを気にしていたが、智子は『レイブンズとしての揺るぎない地位と、生き甲斐を与えてくれた』と恩義を感じているのだ。智子もまた、転生前、年月で世代交代が進み、自分の名声が忘れ去られ、給料だけは高い、過去の栄光を振りかざす厄介者とされている事を感じており、黒江が自分を相棒として、必要としてくれた事に感謝していたのだ。智子はどこかで、『三羽烏』と呼ばれ、誰からも羨望の的にされていた十代の頃に戻りたかったのだろう。それが叶い、黒江が自分を家族(姉)と見なしてくれている事が嬉しかったとも語る。

「実はね、転生前の昔、エクスウィッチになったあとは厄介者扱いされてたのよ。世代交代で三羽烏の威光も通じない、上官からはいじられ、後輩からはオバハン扱い。それで虚無感に襲われたの。『あたしが何年も戦って築いてきたのは何だったの?』って。だから、嬉しかったのよ。あの子が姉みたいに見てくれてるのは」

実年齢は智子のほうが若いが、黒江はロンド・ベルでの共同生活以降、智子を『姉』と見なしている。ロンド・ベルでも、そのように扱われている。智子もまた、黒江と違う意味で年月の残酷さに直面し、苦悩していたのだ。転生前も智子は『扶桑海の巴御前』の異名を持っていたが、現場で『飛べねぇウィッチはただのオバハンだ』扱いされ、若手からは『敵が弱かった時代の老いぼれ』と見なされ、単なる厄介なお局様扱い。燦然と輝く栄光のキャリアを歩んできた智子には、その事実は悪夢だった。そのため、智子は昔の栄光の夢に逃げる様になっていた。そして、それが未来行きを志願した本当の理由だった。智子は絶頂期に国民的英雄だったため、引退後に後輩が誰も相手しない、周囲も嫁にいけと喚くという落差が苦しみとなっていたのだ。そして、それが自分を姉と見なして慕ってくれた黒江への優しさになったという事実。レイブンズで精神的に健全だったのは、実は圭子だけだったのだ。智子は自己主張の激しさを圭子のように無理にでも抑えられなかった。それが精神的に病む理由でもあり、黒江の歴史改変に協力した。智子は『今のレイブンズとしての地位でいるのが心地よい』と公言し、黒江以上にレイブンズでいるのにこだわりを持つ。智子は『あんな思いするのなら、ずっと三羽烏でいたかった!』とする我儘な願望を、黒江に便乗する形で叶えた。その事も智子が黒江の一番の味方であり、共に聖闘士にまでなった理由なのだ。

「実はね、あたし。あの子が家族って見てくれてるのを利用してたの、ずっと。死ぬ間際にあの子がボロボロ泣くのを見て、自分を恥じたわ。だから、今はあの子と一緒の道を歩むって決めたのよ。前史で得た水瓶座の力で」

智子は、黒江の家族愛を自分の地位の安定ために使っていた下衆な行為を恥じ、二度目の転生後は、一貫して黒江の味方であり、黒江を泣かせる考えで、使者の使命を果たそうとした圭子を非難し、殴り合いになった事もある。その際には絶対零度の拳からのフリージングコフィンで氷漬けにしている。それは転生二日目のことで、竜馬が教えたのだ。怒った智子はフリージングコフィンを繰り出し、圭子を暫く氷漬けにしている。

「まー、それである日、圭子をフリージングコフィンで氷漬けにしたはいいんだけど、加減しなかったから、基地ごと氷漬けで、出先から戻ってきた隊長が泡拭いて倒れちゃってね。その時が初めてかな?圭子がレヴィの口調でキレたの」

「それじゃキレますよ。危うく死にかけたんですから」

「あの時は本当、周りがぽか〜んだったわよ。声の調子も口調も完全にレヴィで、こっちが驚いたわ」

「どんな感じだったんですか?」

「えーと、『このクソアマ、基地ごとフリージングコフィンしやがって。向こう岸に戻りかけたじゃねぇか。お礼にお前にも向こう岸を拝ませてやるよ』だったかな?」

レヴィとしてはよく見せる不敵な微笑みを、圭子の姿で見せたので、当然ながら当時は未覚醒の武子は目玉が飛び出る勢いで固まっていた。そして、その大喧嘩は、双方の戦いで基地が壊れる前に、赤松の一喝で終了したが、圭子はその時に『姉御よぉ、あたしのモヤモヤも考えてくれよ』と発言し、周囲のド肝を抜いた。その時から、圭子は今回の扶桑海事変中、性格と口調がレヴィ寄りの戦闘狂でずっと通すハメになったが、敢えてそれを楽しんだ。結果、後年のレヴィとしての振る舞いが違和感なく受け入れられたのも当然の成り行きだったと言える。

「今は、レイブンズとしてのあたしでいる事が全てよ。それがあの子へできる罪滅ぼしだから」

圭子は自爆死したことを、智子は、黒江の行いやその善意を自分の保身と自己満足のために利用していた事を償うために転生した。罪滅ぼし。黒江も強く意識しているこの単語は、アルトリアも同様の心境を持つ。レイブンズはその全員が何かかしらの贖罪意識を持ちながら、『3度目の人生を生きている』(通算)。智子はレイブンズの中では一番のお気楽者に見えるが、実は前史である意味、重い『罪』を犯し、その償いを考えていたのだ。

「罪滅ぼしですか?」

「そうよ。あの子が武子からポジションを奪った事を気にしてるように、あたしも、あの子の善意や行いを、ちっぽけな自己満足や保身のために利用した。一度目の転生が終わって死ぬ間際、それに気づいた。だから、アルトリアや貴方と同じ。罪滅ぼしよ、あたしが今、ここに生きる理由は」

智子はかつての絶頂とその栄光の後に待ち受けていた扱いの落差に耐えられず、黒江の歴史改変の思いを利用してしまった。自分の地位と栄光が永遠に侵されぬように。智子は栄光と奈落を若年の内に両方味わった。国民的英雄とまで持ち上げられた末のあまりの扱いが、彼女を保身に走らせてしまった。スポーツ選手もそうだが、一度でも国民的英雄と騒がれた者が晩年、絶頂期のパフォーマンスを、自分自身の衰えなどの要因で発揮出来なくなると、人間性までも変えてしまう事がままある。智子も大まかにはそれだ。一度は軍人として栄光を掴んだが、その栄光も世代交代と次世代の台頭で忘れ去られてしまい、不相応な扱いを受けた。その憤りと自分が為した行為が忘れ去られる恐怖が、黒江の『思い』を保身と自己満足のために利用してしまった。智子は本来、高位の金鵄勲章や武功章を与えられていて然るべきだが、転生前の時点では、現役時の受賞である下位の金鵄勲章しか保持しておらず、武功章も与えられていなかった。二度目の転生後は、揺るぎない国家英雄としての地位と子爵位を得た智子の抱えていた『闇』。それは力を失った英雄の抱く思いそのもの。散々持ち上げておいて、『神通力』を失ったら、さっと引いてゆく人の残酷さを味わってしまった智子の悲劇。

「智子さんの気持ちはよく分かります。スポーツ選手によくあるケースですね。それも絶頂期に一時代を築いていたくらいの活躍をしてたけど、衰えでパフォーマンス出せなくなったらお払い箱にされたとか言う」

「そうそう、それよそれ。お局様扱いされたのよ、20超えただけで。それであの子の思いを利用しちゃったのよ」

智子はエクスウィッチと言うだけで厄介者扱いされ、『お局様』と陰口を叩かれたことが歴史改変の理由の一つであるのをハッキリ述べた。ある意味では世俗的だが、ウィッチという存在に隠れている不合理の証明である。

「世俗的、って言うかもしれないけど、20前半なんて、普通の軍隊じゃ立派な若手よ、若手!だから覆してやったのよ、概念そのものをぉ!!」

「あ、ヤケクソでキレてる」

智子は結局、GウィッチとFウィッチの概念を定着させ、二度の転生で不老不死になる事で、ウィッチの概念を完全に覆し、結果としては大成功なのだが、途中までの流れをたたっ斬る勢いのギャグ顔で自棄を起こしたので、呆れる調。智子はシリアスとギャグが入り交じるため、バイオレンスかシリアスの圭子よりは常識人である(最近はバイオレンス寄り)のが分かる。

「まぁ、その気持ちは分かる。私も前史で周りに色々言われたしな。ほれ、アルトリアに食われる前に食っとけ」

「あんがと、坂本」

と、流れをほっこりとする方向に持ってゆくのが坂本のスキルかもしれない。仕事の途中で立ち寄っただけであるが、すっかり馴染んでいる。智子がある意味、バイオレンスな事で有名になったレイブンズの清涼剤かもしれない。

「で、貴方も進水式に?」

「ええ。騎士王のお供として」

「しかし、騎士王とジャンヌ・ダルクとモードレッドが同じ場所でローストビーフを食ってるのは、シュールだと思うな…」

「確かに。まぁ、これから未来で戦いが控えているので、そこはお愛想で」

「うん、うん!?い、いやいや!?」

「デザリアムとの戦いが控えているので」

「それは分かるが……それにしても、アルトリアは一心不乱に食べているな」

「母上は食うのが大好きだからな。あ、アホ毛は抜くなよ?オルタ化するから」

「う、うむ?」

「前に、ジャイアンの犬がまかり間違って、アホ毛抜いちまってよ、エクスカリバー・モルガンぶっ放したのを、フェイトがクリスタルウォールで防いだんだよ。いやあ、街ぶっ壊れるかと」

アホ毛。それはアルトリアの理性を司る部位らしく、それを喪失すると、理性のタガがぶっ飛び、オルタ化する。またオルタ化すると、理性のタガがぶっ飛ぶので、エクスカリバーを躊躇なくぶっ放つようなドS暴君と化する。そのため、力で止めるには、黄金聖闘士級の戦闘力を必要とする。そのため、フェイトがエクスカリバーをクリスタルウォールで止め、そのまま、スターダストレボリューションで撃ち抜いて鎮圧している。また、オルタ化をある程度、自己制御できるようになると、口調はオルタで、ドSな態度だが、服装をメイド服にすることも可能となった。なんともシュールな構図だが、生前に相当の理性と使命感で自己を律していた反動か、オルタ化すると理性が薄れ、ジャンクフード大好きっ子と化する。その状態での戦闘力は相当だが、モードレッドで抑えられるレベルに低下している……。が、エクスカリバーの威力は健在である。モードレッドのその一言に呆れる坂本だった。



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