外伝その3


−では。ウィッチ達とティターンズはどのように出会ったのか。アフリカでは少なくともこうであった。

アフリカ戦線でのウィッチ達はある日を境に、狩る側から`駆られる側`へその立場を変えていた。それは…。
ティターンズの残党が軍事行動を起こし、機甲師団所属の`最強のMBT`(主力戦車)61式戦車を戦線へ投入してきたからだ。
当初はティターンズのアサルトライフル(連合軍側の記録には自動小銃と記載)装備の兵士がボルトアクションライフルの歩兵を圧倒していた。その現況を打破すべく、連合軍は急遽`戦車`に当たる陸戦ウィッチをぶつける事で解決が図られた。人間同士で戦いあう事にウィッチ達は難色を示したが、連合軍上層部は兵士の犠牲の増加によって戦線が崩壊するのを恐れており、ネウロイに対して待機中であった陸戦ウィッチで構成される機甲師団を投入する事で戦線の立て直しを測ったと後の記録に記されている。
しかし彼女たちは`陸の戦艦`とも言えるバケモノのような戦車に遭遇する事となった……。これは初めてウィッチ達が現在・近未来兵器群と初めて交戦したウィッチ達の物語である。


`フォォォォォン`と電気自動車特有のエンジン駆動音が響く。
連装砲塔の砲身がギラリと輝くこの戦車こそ、地球連邦軍が最後に採用したMBT`61式戦車`である。不整地でさえ時速90キロの快速で突っ走るこの戦車はその性能を遺憾なく発揮していた。滑空砲を轟かせ、ウィッチ達を蹴散らす。
61式の主砲の155ミリ口径砲はこの時代の最大級軽巡に装備されている砲に相当(日本で言えば阿賀野型軽巡に相当)する火砲であり、当時の戦車から見れば陸の戦艦の如く見えるのである。それと対峙したウィッチ達の運命は戦う前から決していた。

「ヒャッハァ―――!!ホレホレもっと速く逃げろぉ♪」
「ヒィィィィ〜こ、殺される……」

ブリタニア連邦のマチルダII機械化装甲歩兵を装備するウィッチ達は自分達の持つ40mm(ブリタニアでは砲弾の重量が名称となっているので2ポンドと呼称される)戦車砲が魔力による強化作用を加えても,なお、敵の正面装甲は愚か、比較例装甲厚が薄いはずの側面装甲すら撃ちぬけない事に恐怖していた。ウィッチたちの初弾一斉砲撃をその装甲で防いだ61式はこの時代の軽巡洋艦の主砲に相当する155ミリ滑空砲をこれでもかと撃ち込んだ。いくら航空ウィッチより遥かにシールド強度が高い陸戦ウィッチといえども、軽巡洋艦の主砲相当の火砲を雨霰のように打ち込まれては無傷ではすまなかった。(要するに火砲は61式の装甲の前には`ノックしてもぉしもぉし〜`なドアロッカーに成り果て、シールドは軽巡洋艦レベルの砲撃をそう防ぎ続けられない)に相当する鉄の豪雨に臆し、撤退しようとした。
だが、それは敵の戦車の快速の前にはカメの如き遅さでしか無かった。
時速30キロのマチルダUの3倍のスピードで迫る61式のキャタピラがウィッチの一人をストライカーユニットごと踏み潰し、単なる肉塊と鉄の残骸へ変える。
まさに怪物だ。




「師団長、敵の航空支援が近づいていると報告がありました!」
「各自散開、敵の航空支援を何としても凌げ。レシプロエンジンで持ってこれる爆弾はたかが知れているが、天蓋をやられては話にならん」

巡洋艦相当の火砲を撃ちまくりながら90キロで疾走する怪物といえども航空支援は侮れないのか、バラバラに逃げていく。ティターンズに対して、初めての`アフリカ`のウィッチ達の航空支援だった。(稲垣真美は本国へ召還途中だったので、この戦いには参戦していない)
「各自、敵戦車に一発`荷物`を食らわせてやれ。機械化航空歩兵の恐ろしさを骨の髄まで染み込ませろ」
「了解!」

ちなみに`荷物`とは500ポンド爆弾のことで、これを喰らえば如何に61式といえどただでは済まない。

このマルセイユらによる航空支援で形勢を逆転したかに見えた(戦車は基本的に天蓋装甲が弱く、61式がザクになぶり殺しにあった要因の一つである)連合軍だが、それもぬか喜びに過ぎなかった。ティターンズ側が空域の制空権確保のために航空基地より「F−4 ファントムU」が飛来したからだ。この未知のジェット戦闘機の登場にさすがのハンナ・ユスティーナ・マルセイユといえども泡を食った。


−あの時、聞き慣れ無い金切音と共に現れたのは太い胴体と直線で構成された大型の主翼を持つ`みにくいアヒルの子`のようなぶっ格好な`プロペラを持たず、ロケットで空をかっ飛ぶ`飛行機だった。その飛行機はメッサーが旧時代の複葉機になってしまったかのような錯覚を覚えるほどの猛スピードで私たちの前に迫ってきた……。


「何っ!?」
「そんな……噴流推進機!?」

ファントムは2つのターボジェットエンジンを唸らせ、マッハ2の猛スピードでマルセイユたちの前に初めてその姿を現した。プロペラ戦闘機より大型でありながらその2倍以上の速度を優に発揮し、マルセイユの僚機達の機銃掃射を意にも解せず、バルカン砲を一斉射した。車のエンジン音のようなカン高い音を発しながら米軍の制式装備だったM61バルカン砲が火を噴く。彼女達は慌てて回避するが、帯同していた友軍の戦闘機が避けきれずに、射撃を浴びて火を吹きながら墜落していった。そしてファントムはその図体に見合わぬ機動性を見せつけた。まるで`時代は変わったんだ、オールドタイプは失せろ!!`と言わんばかりに。

動揺する僚機達を落ち着かせ、マルセイユは果敢にファントムに挑んだ。


−時速600キロ余りのメッサーシャルフがまるで静止しているかのような錯覚を覚える……と、言う事は優に倍以上の速度差がある……か。

「いくらスピードがあろうとっ!!」

スピードが緩んだ隙をついて相手の後ろに付き、機銃を構える。パイロットはこっちのことには気づいていない。絶好の好機だ。トリガーを引こうと指をかける。

不意にインカムに通信が入る。それは敵からのものだった。

『お嬢ちゃん達、死にたくなければそこをどきな』

−20代の後半の男の声だ。恐らくあの飛行機の搭乗員だろう。

『私達に喧嘩を売るつもりか?いい度胸だ』

『芸当を見せてやる』

ファントムの機体が太陽に向けて急上昇する。太陽光に遮られ、マルセイユは敵機を見失ってしまう。

「くそっ……」

敵機を見失い舌打ちをした瞬間だった。上空からロケットが降って来る。

「あの敵はロケットまで持っているのか。……ならば!」

彼女はメッサーの性能を生かし、旋回して逃れようとする。−だが、そこからがこのロケット(ミサイル)の真骨頂だった。

「何っ!?!?」

彼女といえどこれには混乱させられた。ロケットが旋回して追尾してくるのだ。ロケットはまるでマルセイユの機動を読み切っているかのように正確に追尾する。

ちなみにこのミサイルはかつての米軍が運用していた空対空ミサイル「AIM-9「サイドワインダー」の遠い子孫にあたるハイマニューバ可能な発展改良モデルで、20世紀ごろと規格は変わっていないのでティターンズの有する`大昔`の機材でも運用できるのだ。

『そんな!?ティナの機動に付いていくなんて……』

マルセイユの列機である、ショートヘアでモズを使い魔とするウィッチ「ライーサ・ペットゲン」がサイドワインダーがマルセイユの機動についていく様に驚愕する。自身も必死に魔導エンジンを吹かして追うが、ミサイルを機銃の射程に捉えられない。

「こうなればイチかバチかだっ!!」

マルセイユは破れかぶれで迫り来るサイドワインダーを機銃で撃つ。無謀にも思えるが、マルセイユの射撃能力から言えばあながちできない事ではない。弾丸はサイドワインダーの弾頭部分に見事命中、迎撃に成功する。

『やりましたね!ティナ」
『ああ……今のは少々肝を冷やしたがな……敵は?』
『航空機は顔見せだったようで、ティナを攻撃した後、友軍に爆撃を加えてすぐに引き上げていきました』
『こちらの損害は?』
『装甲歩兵に数人の戦死者が出た模様です。戦車の砲撃で恐慌状態になっているウィッチもいます」
『……クソッ、私たちが……なんてザマだっ!』

マルセイユは自分達が駆けつけながら損害を防ぐことが出来なかった事に悔しさを顕にして左手の拳を握り締める。ライーサはそんなマルセイユの姿に悲しげな顔を見せる。

−ファーストコンタクトは苦い物に終わった。これ以後、アフリカ戦線ではジェット機や戦車の目撃が相次ぎ、その対策を迫まれることになった……。



「……ジェット戦闘機に化物戦車……`巨人`(モビルスーツの事)……これから世界はどうなるの?」

第31統合戦闘飛行隊「ストームウィッチーズ」の基地で隊長の加東圭子はウラル戦線およびガリア方面で目撃されたティターンズのモビルスーツの写真が添えられた、上層部から送られてきた報告書を沈んだような顔で見ていた。現状の装備ではどうやってもこの巨大兵器には太刀打ち出来ない。もしこれがアフリカに回されてきたら……底しれない恐怖に駆られてしまう。

そんな彼女に`朗報`が舞い込んでくるのはもうしばらく後の事であった。




― 委任統治地域南洋群島近くの上空 二式飛行艇内


「曹長、それに軍曹!!大変です!」

武官の慌てように稲垣真美とティアナ・ランスターは何事かと立ち上がる。アフリカへ向かうのには航続距離に優れ、防弾も扶桑の中では優秀な`史上最高の飛行艇`二式飛行艇が使われ、
2人は巫女装束と小具足姿で乗り込んでいた。

「どうしたんですか?」
「リベリオンの空母「ワスプ」が未知のジェット機に撃沈されたと打電がありました」
「そんな……噴流推進式の飛行機はまだ研究段階のはずですよ!?」

真美はその報に驚愕する。噴流推進式はまだどの国でも研究段階で、技術大国のカールスラントでさえ実験段階に留まっている。ストライカーユニットさえ実験段階なのでジェット機などまだ存在するはずはない。

「例の`未来の軍隊`ではないかと思われます。そうでなければ実用段階のジェット機を持っているはずがないとの事です」

ティアナは報告を聞いてすぐに合点がいった。505を壊滅に追い込んだ軍隊で、管理局と思われる組織の資料によれば、あの未来の地球は自身の知る地球とは別に`第120管理外世界`と呼ばれる……で過去に権勢を振るった軍隊……。それがとうとうアフリカに進出したのかと悔しさを露にする。

「未来の軍隊……それってまさか……!」

真美もすぐに同じ結論に至ったようで、思わずティアナと顔を見合わせる。そして同時にうなづく。

「ええ、間違いないわ。ジブラルタル方面に手を伸ばしてきたのよ」

ティアナは一言だけ言う。その軍隊の名を……この世界にはいてはならないはずの荒鷲達の名を。

「ティターンズ……!」

機内は重苦しい雰囲気に包まれた。彼女たちが対峙していくのはとんでも無い敵なのだ。それも同じ人類同士で殺し合う。この世界では久しく起きていないこと。彼女ら以上無い虚しさを感じ、しばし考えにふけっていた。



−思えば時空管理局では二等陸士として働いていたのに、異世界に飛ばされてからのこの半年ばかりは仮面ライダー達と共に組織と戦ったりした。さらに扶桑皇国(なのは達の常識で言えば大日本帝国と呼ばれるだろうか)でウィッチとしての訓練を積み、今では航空歩兵として`下士官`の任についている。仮面ライダーBLACK RX=南光太郎からの手紙だとスバルも向こうに来ていて、今は自分の代わりにライダーと共に組織と戦っていると言う。

―私の事をなのはさんに聞かせてやりたい。どんな顔するかな?あの人が私をどういう風に育てるつもりだったのか、今なら理解できる……。


彼女は機動六課で働いていた時が遠い昔の事のように感じてしまうほどの密度の濃い生活を半年以上過ごしていた。それゆえに態度に落ち着きが見られるようになり、一皮剥けた。
それは実戦を切り抜けてきた自負と、いつの間にか身についた自信のせいだろう。


―思えば、`自分が強くなった感触が得られない`ばかりに模擬戦で無茶をしてしまった頃の自分が嘘のようだ。まだまだ剣技は`魔のクロエ`の異名を持つ綾香や`扶桑海の巴御前`の智子の足元にも及ばないが、決して付け焼き刃ではないと言えるだけの技量は身につけたつもりだ。

「アフリカまでまだしばらくかかることだし、`敵`の対策でも考えるとしますか」

ティアナは武官に現時点までにアフリカで確認された`敵`航空機群の写真を持ってこさせ、真美にその特徴を教える事にした。第120管理外世界と第97管理外世界は21世紀序盤までは同じ歴史を辿ったようなので、不思議なことに開発された兵器もほぼ同じだった。つまりこの2つの世界に関して言えば、兵器に関する知識が共用できるのだ。

「これが`F−4ファントムU`。この時代からは10年くらいたった位の時にアメリカ合衆国って言う国がジェット艦戦として作った機体。
当初はロケット(ミサイル)攻撃専門に作られたけど、
60年代の紛争でドックファイトの必要性が痛感されてからは航空機関砲を持つようになった。これは機関砲がついてるから後期タイプのようね」
「速度は?」
「マッハ2以上。この時代の飛行機じゃどうやっても追いつけないし、下手に全面に出ようならM61の洗礼を浴びるわ」
「あの凄いガトリング砲だよね?アレを食らって生き残る自信無いよぉ」

20世紀後半以降の米軍製航空機関砲のトレンドになったM61 バルカンの発射速度は毎分 6,000 発というカタログスペックがある。それを長くの間防御できる自信は2人にはない。威力もこの時代の航空機関砲とは段違いだし、それにティターンズも弾頭に工夫を施したりして、対ウィッチへの対策は行っているはずだ。シールド(ティアナはさらにデバイスやバリアジャケットなどがある)といえど、決して油断は禁物だ。

「これは50年代の初飛行と、古い部位で、機動性もそこそこだから格闘戦に持ち込めばやりようはある。でも要注意なのは70年代以降の`第4世代`。
特にF-15 イーグルやF-14 トムキャットは`最強`を謳われた機体。特にF‐15は自重をエンジンの推力だけで支えられるだけのパワーがあるから戦闘機動の運動性も凄いのよ。
イーグルにドックファイトを挑むなら覚悟がいるし、トムキャットは遠くからでも同時に複数をロックオンできるから遠距離戦は危険」
「ひぇ〜30年くらいでそんなになるんだ……」
「特にイーグルは片翼がなくなっても帰ってきた逸話ありよ。`日本`も70年代以降はこれを200機も買って主力機にしてたくらい」
「鷲の名は伊達じゃないって事だね……」

真美は流麗なフォルムを持つ後世(1944年現在では30年後の70年代以降)のジェット戦闘機群の姿と当時最高の戦闘能力を発揮したという逸話に驚きを隠せない。特に戦慄させられたのはイーグルの制空戦闘機としての威力。機動性はそれまでのジェット機を確実に上回る。さらに生存性も物凄いとあれば、上層部の一部の言うような「ドックファイトに持ち込めば、ただ早いだけの噴流推進などなんのことがあろうか?逆に返り討ちにしてくれる」と言う楽観視は出来なくなる。

2人はこれから戦う相手がどれほどなのかを頭に叩き込んでいった。`敵を知り、己を知れば……`という格言も残っている。ティアナ達はそれをよく頭の中で半復しながら、写真に映るジェット戦闘機群への対策を考えていった。どうやれば名機に対抗できるのか……。それは彼女たち次第である。歴史上で先例が無いわけでは無く、ベトナム戦争時にレシプロ爆撃機の「A−1`スカイレイダー`がミグを撃墜してみせた話が残っている。だが、それは稀な例だ。レシプロ戦闘機が戦争に使われたのは1969年のサッカー戦争が最後であり、70年代以降の世代のジェット機を相手取ったらどの程度のキルレシオになるのかは全くの未知数なのだ……。

「気を引き締めなければ落とされるだけ」と自分を律する2人であった。

二式飛行艇は間もなく、中間地点へ指しかかろうとしていた。




二式飛行艇の前に`地球連邦軍`の護衛機が姿を見せた。機種は地球連邦軍の制式可変モビルスーツの中では数が比較的多い「Zプラス」。
数は一個中隊に当たる9機で、過去の戦訓を基にしての念の入れようであった。

「念の入れようだね」

二式飛行艇の機内では稲垣真美が周りをビッシリと囲んで飛行するウェイブライダー形態のZプラスを見るなりこう言う。扶桑への一時帰国時に映像で見たとはいえ、別世界の未来の技術が創りだした兵器が9機もやってくるというのは少々大袈裟ではないだろうか。

「向こうで起こった`世界大戦`の時に似たような状況で事件が起こったからよ」
「確か……`海軍甲事件`だっけ?」
「そう。日本海軍の大戦中の最大の損失の一つで当時の連合艦隊司令長官だった山本五十六大将が戦死した事件。翌年の古賀大将の乙事件とセットで語られる場合もあるんだけど…その戦訓が身にしみてるのよ」
ティアナは真美の故郷である`日本`の事例を引き合いにしてこの物々しい護衛の理由を説明する。ウィッチはそのくらい`貴重な`人材なのだということを真美は改めて自覚する。(同様の例に一年戦争末期のジオン軍が学徒動員パイロットを基地まで運ぶのに当時の一個艦隊まで動員していた事がある)

「もうじきアフリカに入るけど……そこからどうするの?」
「Ju 52 に乗り換えて基地まで行くの。飛行艇じゃ着陸できないでしょ」
「確かに」

二式飛行艇は途中何回かの給油を経て、無事アフリカ大陸へ入り、連合軍基地に着水を完了した。護衛のZプラスも6機が着陸し、先行して派遣された人員の手によって補給を行っている。残りの3機はおそらく別の経路で向こうの基地に向かっているのだろう。

旅はまだ途中である。何があろうとおかしくない。それをアフリカの大地は示していた。

































‐地球連邦軍がストライクウィッチと共に共同戦線を張ることが連合軍に了承され、正式に決定されたのは現地の時間で1944年7月の事である。
その事の正式な通達は連合軍の司令官の一人「扶桑皇国海軍連合艦隊司令長官」の「豊田副武(とよたそえむ)」よりミーナに届けられた。ただし、臨時の501の司令部を地球連邦軍の戦闘空母「赤城」に置くことが連邦軍側の協力の条件の一つであった。(連邦軍が立場的に危ういウィッチを庇護下に置き史実での愚将の干渉を避けるという目的もあった。此頃の連邦軍は既に505が事実上の壊滅に追い込まれた裏には愚将として戦史にその名を轟かせた、かの牟田口廉也中将が担当した防衛作戦によるモノであることを知っていたからである)


「豊田司令長官、連合艦隊司令長官である貴方がどうして連合艦隊主力を率いて我々に合流したのです?その理由を聞かせていただきたい」

ブリタニアの軍港に停泊中の大和型戦艦2番艦にして、連合艦隊旗艦「武蔵」にてシナプスは第30代連合艦隊司令長官の豊田副武との会談に臨んでいた。彼が何故ブリタニアという遠地まで連合艦隊を率いてやって来たのか。それを聞きたかったのだ。豊田副武はその理由を答えた。

「実は山本五十六海軍大臣の事付によるモノなのです」
「山本五十六?あの……?」

シナプスはその名に驚いた。山本五十六といえば、なんだかんだ言っても日本連合艦隊の最盛期を支えた将である大層な御仁。戦死しなかったこの世界では海軍大臣になったというのか。

「ほう。山本大臣をご存知なのですか」
「我々の世界では連合艦隊の最盛期を支えた人物として有名なので……」
「それは嬉しい限りですな」
「それで、山本大臣が何故?」
「あなた方の情報網ならもうご存知だとは思うが、陸軍の馬糞、ケダモノ共の愚策で505統合戦闘航空団を壊滅させてしまった事を憂慮しておられるのです」

豊田副武は陸軍を嫌悪する高官で有名で、隠語辞典が作れるほどにバリエーションがあると知られている。シナプスとの会話からもその一端が垣間見える。彼曰く、山本五十六は牟田口廉也中将の愚行を恥じ、同隊に所属経験がある黒江綾香(ほぼ唯一の505の生き残り)のもとを訪れ、謝罪したとのエピソードも伝えられた。

「それでその後、牟田口中将はどうなったのです?」
「敵前逃亡した事が現地の陸戦ウィッチから告発され、連合軍内での地位が下がることを恐れた政治屋達の思惑もあって、
帰国後に軍法会議にかけられて銃殺刑に処されましたよ」
「そうですか。インパール作戦の報いという奴ですな」
「何です、そのインパール作戦というのは」
「実は……」

史実での日本陸軍の戦後の評判を最悪に陥れた作戦をシナプスは豊田に告げた。思わず涙するほどに悲惨きわまり無い内容であったその作戦を。
そして日本がしばらく軍隊アレルギーになった原因の一つであるとも伝えられた。道理には適うが、無謀な作戦によって多くの将兵が無駄死をしたのだ。
その将兵たちの凄まじいまでの怨念が彼を別世界で最悪の形で死に追いやったとも言える。(彼には多少の擁護の余地はあるものの、失態は拭えない)

「……やはり陸軍の高官のバカどもは一部除いて無能の集まりですな。秋山好古閣下も草葉の陰で泣いていることでしょう。
我々海軍が動いたのは陸軍の汚名返上の為ではありません。自分たちとは関係ない世界を救おうとする、あなた方の行動に共感したからです。」
「それでは宜しくお願い致します」

両者は手を握り合った。それはたとえマロニー大将がなにか仕掛けようとも扶桑皇国が全力を持って阻止すると豊田が確約した証でもあった。




闘空母「赤城」のとある一室では、宮藤芳佳の配属や菅野直枝の502からの出向が正式に各隊員達へ伝えられ、2人が挨拶を済ませていた。

「宮藤芳佳です。宜しくお願いします」
「502から出向した菅野直枝だ。これからよろしく頼む」

挨拶が済むと連邦軍側から別世界の歴史の説明映像が流された。まずは彼等の世界ではこの時代がどんな事になっているのか、である。

まずはナチスドイツの総統「アドルフ・ヒトラー」の演説。彼は歴史上の近代で明確な独裁者として、現れた男。バルクホルンやハルトマンも良く知る、第二帝政が崩壊した後の共和制を打倒し、台頭した第3帝国。その一端がそこには現れていた。

「何だと……これが別世界のカールスラントだというのか!?」

バルクホルンは衝撃映像に思わず声を張り上げて憤慨し、ハルトマンも絶句する。自国民すら迫害したナチスの愚行。そしてその序盤の快進撃と無残な敗北。そして`自分たち`のその後の運命。2人は明暗を分けた、並行時空の自分たちの人生の終幕に絶句した。(ゲルハルト・バルクホルンは自動車事故で長寿を全うできなかったが、エーリヒ・ハルトマンは1993年まで存命していた)。バツの悪そうにハルトマンはバルクホルンと目を見合わせる。そしてさらに悲惨窮まりない大日本帝国の運命。

『一億総特攻!!』などという危ないスローガンがまかり通り、多くの優秀な将兵を無駄死させた愚策。‐そして神風特別攻撃隊。その第一陣の隊長「関行男」大尉の言葉。

『僕には体当たりしなくても敵空母に50番を命中させる自信がある。日本もおしまいだよ、僕のような優秀なパイロットを殺すなんてね。僕は天皇陛下のためとか日本帝国のためとかで行くんじゃないよ。KAを護るために行くんだ。最愛の者のために死ぬ。どうだ、すばらしいだろう!』

映像を見ていた直枝はこの言葉に涙した。‐そう。関という名から、すぐに兵学校時代の同期のウィッチの並行時空の姿だと分かったからである。

(関……、お前……)

それは並行時空の自らを含めた多くの搭乗員が無念の死を遂げた太平洋戦争の悲壮な結末への涙だったかも知れない。坂本美緒も扶桑の戦友達が次々に死に、`自分`だけが20世紀末まで生きる事に口惜しさを改めて顕にする。そしてその後も続く戦乱。

「あ……っ」

「ペ、ペリーヌさん!」

フランスにあたる`ガリア共和国`出身のウィッチ「ぺリーヌ・クロステルマン(本名ピエレッテ=アンリエット・クロステルマン)」はあまりのショッキングな映像にその場に倒れこんでしました。
一年戦争の惨禍でパリが跡形もなく消滅、湖化した映像は彼女には耐え切れる映像ではなかった。特に近代ガリアの象徴「エッフェル塔」が失われた事はフランス(ガリア)人である彼女には到底受け入れられ無い事だったからだ。


続いてミーナが一足早く見た現在戦史の名演説の数々。今回はグリプス戦役とその後も扱っている。

『閉会するな!この席を借りたい!
議会の方と、このテレビを見ている連邦国々民の方には、突然の無礼を許して頂きたい。私はエゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉であります。
話の前に、もう一つ知っておいてもらいたいことがあります。私はかつてシャア・アズナブルという名で呼ばれたこともある男だ。私はこの場を借りて、ジオンの遺志を継ぐものとして語りたい。もちろん、ジオン公国のシャアとしてではなく、ジオン・ダイクンの子としてである。ジオン・ダイクンの遺志は、ザビ家のような欲望に根差したものではない。ジオン・ダイクンがジオン公国を作ったのでは無い。現在ティターンズが地球連邦軍を我が物にしている事実は、ザビ家のやり方より悪質であると気付く。人が宇宙(そら)に出たのは、地球が人間の重みで沈むのを避ける為だ。そして、宇宙(そら)に出た人類は、その生活圏を拡大したことによって、人類そのものの力を身に付けたと誤解をして、ザビ家のような勢力をのさばらせてしまった歴史を持つ。それは不幸だ。もうその歴史を繰り返してはならない!! 宇宙(そら)に出ることによって、人間はその能力を広げることが出来ると、何故信じられないのか!?我々は地球を人の手で汚すなと言っている。ティターンズは地球に魂を引かれた人々の集まりで、地球を食いつぶそうとしているのだ。 人は長い間、この地球と言う揺り籠の中で戯れてきた。しかし!時はすでに人類を地球から、巣立たせる時が来たのだ。その後に至って何故人類同士が戦い、地球を汚染しなければならないのだ。地球を自然の揺り籠の中に戻し、人間は宇宙(そら)で自立しなければ、地球は水の惑星では無くなるのだ。このダカールさえ砂漠に飲み込まれようとしている。それほどに地球は疲れきっている!! 今、誰もがこの美しい地球を残したいと考えている。ならば自分の欲求を果たす為だけに、地球に寄生虫のようにへばりついていて、良い訳がない!!現にティターンズはこのような時に戦闘を仕掛けてくる。見るが良い、この暴虐な行為を。彼らはかつての地球連邦軍から膨れ上がり、逆らうものは全てを悪と称しているが、それこそ悪であり、人類を衰退させていると言い切れる!テレビを御覧の方々はお分かりになる筈だ。これがティターンズのやり方なのです。我々が議会を武力で制圧したのも悪いのです。しかしティターンズはこの議会に自分達の味方となる議員がいるにも関わらず破壊しようとしている!』


クワトロ・バジーナ。連邦軍大尉というのが表向きの経歴だが、その実はかのシャア・アズナブルの仮の姿であった。彼はカミーユ・ビダンと出会い、カミーユにニュータイプの理想像を見出そうとした。だが、ティターンズ第2代総帥「パプテマス・シロッコ」の今際の怨念でカミーユが精神を破壊されてしまった瞬間、その波動を感じ取り、「結局はこんな悲しみが広がり……」と自らの手で地球を粛清しようとする。それは有名な話である。余談だが、ジュドー・アーシタはそのシャアの悔しさを理解していたようで、第2次ネオ・ジオン戦争の際にシャア・アズナブルと対峙したときにそれに言及している。

そしてそのシャア・アズナブルがネオ・ジオン総帥として舞い戻った際の演説。

『このコロニー、スイートウォーターは、密閉型とオープン型を繋ぎ合わせて建造された極めて不安定なものである。それも、過去の宇宙戦争で生まれた難民のために、急遽、建造されたものだからだ。しかも、地球連邦政府が難民に対して行った施策はここまでで、入れ物さえ作ればよしとして、彼らは地球に引きこもり、我々に地球を開放することはしなかったのである。
 私の父ジオン・ダイクンが、宇宙移民者すなわちスペースノイドの自治権を地球に要求したとき、父ジオンは、ザビ家に暗殺された。そして、そのザビ家一党は、ジオン公国を語り、地球に独立戦争を仕掛けたのである。
 その結果は諸君らが知っているとおり、ザビ家の敗北に終わった。それはいい。しかし、その結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、ティターンズのような反連邦政府運動を生み、ザビ家の残党を語るハマーンの跳梁ともなった!!
……これが難民を生んだ歴史である。ここにいたって私は、今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである!! それが、アクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。これによって、地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛正する!!諸君!!! 自らの道を開くため、難民のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。そして私は、父ジオンの許に召されるであろう!!』

「……ふざけるな!隕石を地球に落としたら、多くの人が死ぬんだぞ!?それで宇宙移民者が救われるのかよ!?何が難民の為の政治だ!!」


501の一員で、世界有数のエースである「エイラ・イルマタル・ユーティライネン」はシャア・アズナブルの演説に怒りを顕にした。無理もないが、それ程に隕石落としは残虐行為だからだ。
難民の為という美辞麗句に借りて単に虐殺をしたいだけではないのか。

「いや、あの人はあの人なりに地球を変えようとしたんだよ」

何時の間にかジュドー・アーシタが立っていた。補給のために一端帰還したのだろう。ノーマルスーツ姿のままだ。

「お前は誰だ!?」
「俺はジュドー・アーシタ、ハマーン・カーンを倒したガンダムのパイロットといえば分かるかい」

ジュドーは自らが第一次ネオ・ジオン戦争に決着を付けたパイロットであると説明し、あの戦いでアムロと共に理解した、シャア・アズナブルの本心を語った。

「あの人は腐っていくだけの連邦政府の実態を嫌った。そして自分の運命を悟って、強引な手段で地球連邦政府を変えようとしたのさ。そして連邦軍にいた‐アムロさん‐宿敵との最後の戦いに臨みたかったんだよ」

そしてタイミングを合わせるように2190年代後半の第二次ネオジオン戦争の一幕が映しだされる。

『なんでこんなものを地球に落とす!!これでは地球が寒くなって人が住めなくなる!核の冬が来るぞッ……』
『地球に残った者は自分たちの事しか考えていない!だから抹殺すると宣言したッ!』

当時のアムロ・レイの乗機「リ・ガズィ」とシャア・アズナブルのサザビーとの剣戟だ。501の面々は皆、この凄まじい光景に目を奪われる。


『人が人に罰を与えるなどと……!』
『私、シャア・アズナブルが粛清しようと言うのだよ、アムロ!!』
『エゴだよそれは!』
『地球が持たん時が来ているのだ!』

シャアの言葉には度重なる戦乱で汚れきった地球への危惧が篭っていた。それは人類を変えていく為には自らがその業を背負わんとばかりに。
アムロも人類を粛正する事を言い放った、生涯の宿敵であり、一度は共に戦った仲間であったシャア対する否定の言葉を叫ぶ。


そしてまるでSF映画のような光景が映し出される。たった一機のガンダムで隕石を押し返そうとするのだ。

『馬鹿な事はやめろ!!』
『貴様ほど急ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!!!』
『正気か!?』
『νガンダムは伊達じゃない!!」

この時起こった`奇跡`はアムロの人類の可能性を愚直までに信じる心が引き起こしたと言われている。501統合戦闘航空団の誰も(芳佳や坂本美緒除き)がこの奇跡に驚愕した。



そして元々歌手志望であったミーナにとって心の救いだったのは、ゼントラーディ=ボドル・ザーとの最終決戦における、リン・ミンメイの「愛・おぼえていますか」であった。歌は宇宙をも救える事を証明した事実。

『リン・ミンメイの歌を聞く全ての者に告げる。我らの敵はただ一つ。ゴルグ・ボドルザーを倒し、再び文化を取り戻すのだ!!!』


ミンメイの歌は宇宙人とも分かり合えた地球人の`文化`の力を象徴していた。次いでメガロード船団が出発する年に行われたリン・ミンメイのサヨナラコンサートの際の映像が流れる。ミュージックは「天使の絵の具」である。

「綺麗な声……これが未来の`歌姫`……」

ミンメイの歌声は綺麗で、とても透明感のあるものだった。元々は歌手を夢見ていた彼女にとってミンメイはとても眩しく見えた。
そしてそれに続き、プロトデビルンに対する熱気バサラのこの一言。

『山よ、銀河よ、俺の歌を聴けぇっ!!』

坂本は最近、かつての戦友の穴拭智子がハマったとか言うFIRE BOMBERとはこういうモノかと納得させられる。
`愛・おぼえていますか`と`TRY AGAIN`という2つのミュージックは未来への希望を思い出させてくれたとミーナやシャーリーは後にこう語ったとか。



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