外伝その16


――1944年。アフリカに芳佳達が滞在中の501は。







『我が連合艦隊は501統合戦闘航空団の援護に馳せ参じた。未来世界の援助により艦載機は本来なら50年代に就役するものと見込まれた、次期主力戦闘機や爆撃機、攻撃機に統一し、世界最高レベルの戦力を手にしての派遣であった。国内では栗田や宇垣、南雲などの反対があったが、山本閣下や米内閣下、陸軍の今村くんの尽力で実現した。』

この時の扶桑海軍は史実での1945年以降に日本海軍が手にするはずであった兵器は全て就役させていた。艦上戦闘機「烈風」、艦上攻撃機「流星」など……。史実で日本海軍が戦力として運用出来なかった兵器も日本と異なる燃料・資源事情で概ね最高のコンディションを発揮している。まさにこの時代としては最高戦力である。艦船にしても大和型戦艦が「武蔵」と後から合流した「信濃」、「甲斐」の3隻を揃え、空母も「大鳳」、「筑波」、「蔵馬」、「笠置」などの新鋭艦が顔を揃えており、日本海軍マニアが見たら感動のあまり失神するような陣容であった。



『この日、私はエイパー・シナプス長官と話す機会を得た。彼は今回派遣された連合艦隊の艦船は彼の世界では戦力化出来なかったり、初陣で沈んだ悲運な艦が多数含まれているという。特に大和型戦艦の3番艦「信濃」や空母「大鳳」は悲運な運命を辿った艦の筆頭格で、信濃は空母になってすぐに沈められ、大鳳は負け戦の象徴として歴史に名を残したという。それを聞いた私は愕然とした』

さしもの小沢もマリアナ沖海戦での大鳳の悲劇には愕然とするしかなかった。初陣で、しかも一発の被弾だけで沈没した大鳳。しかも栄光の海軍航空隊の凋落を敵に知らしめた最悪の負け戦。それを指揮していたのは自分なのだから。シナプスの世界には扶桑を資源大国足らしめた「南洋島」は無い。物量で勝る米軍に敗北したのは自明の理だ。もし、扶桑皇国の国力が大日本帝国にあれば太平洋戦争で敗北することは無かっただろうが、後の祭りだ。この日、小沢はシナプスに協力を依頼し、ダメージコントロールの訓練を全艦あげて行なった。史実で日本が遅れを取った分野であり、艦船の大量喪失に繋がった。それを小沢は恐れたのだ。

「7月中旬。敵のモビルスーツが501を襲った。我が艦隊にとっては初の戦い(史実の日本海軍のように日清・日露などの人間同士の戦争を経験していない為)であった。
武蔵は敵のイージス艦に46cm砲を浴びせ、轟沈せしめた。未来技術の威力、極めて大なり。また、502から臨時で派遣された管野直枝大尉が正拳突きで敵モビルスーツを沈黙させ、艦内は大いに湧いた」

管野直枝は圧縮式超硬度防御魔方陣という固有魔法を保有しており、本人曰く、後から知ったが、「マクロスのピンポイントバリアみたいな芸当ができる」との事で、それをまとった正拳突きでモビルスーツのバックパックを一撃し、破壊。地面にたたき落とした。その時の掛け声は「ピンポイントバリアパァァンチ!!」であったとか。ちなみに彼女、勇猛果敢かつ荒い言動と裏腹に文学少女(史実の菅野直大尉も文学少年であった)な一面を持っており、すっかり未来空母「赤城」艦内図書室の名物少女(?)になっていた。その時の一幕は以下の通り。



「何やってるんですか、菅野さん」

「……ん、ああ。宮藤か」

宮藤芳佳は何か面白い本は無いかと図書室に足を運んだのだが、そこには先客がいた。
管野直枝である。なにやら推理小説の棚を漁っていて、左手には既に何冊もの本が握られている。しかもそれはこの時期に既に「そして誰もいなくなった」で有名となったアガサ・クリスティーの作品ばかりだ。

「ここのところ本読む機会が無かったからな。推理小説でも読んで気分転換だ」

「って……そんないっぺんに読めるんですか?」

「アホか。一冊づつに決まってるだろ。大漁だけどな」

ドッサリと本を抱えてひとまず机に置く。それらにはこの時代ではまだ`出版されていないものも多数ある。因みに菅野が読み出している本は、かの有名な『オリエント急行殺人事件』である。そして傍らには自室で見ると思われる同作品の映画版のDVDも置いてある。

因みにその頃、ある一室ではシャーリーが「ジョジ◯の奇妙な冒険」を大量に借りて、
ハラハラドキドキしていたという。

「……うぉぉぉ……はたしてどうなるんだこれぇ〜!」

コミックを片手にものすごい展開の数々に思わずこう漏らしていた(現在読んでいるのは第二部との事)。そして密かにジョジ◯立ちの練習を初めていたとか。もちろんあの掛け声付きで。

「何やってるんだ〜おまえ」

……と、リーネが作ったクッキーを届けに来たエイラにつっこまれたのは言うまでもない。








――トレヴァー・マロニー大将はウォーロックの完成を持って行動を開始。ブリタリア空軍中枢の人間であるという立場を利用し、501に解散命令を出した。既に企みを知っていた地球連邦軍は表向きは彼の『要請』に従いつつも、いつでもウォーロックを破壊できるように準備を重ねていた。ジュドー・アーシタとシーブック・アノーはニュータイプである故にこの兵器の危険性を感じ取り、その暴走を予見。ジュドーは嫌味を言ってやった。ウォーロックの完成に有頂天となった彼には
ジュドーの言葉は届くわけはなかった。







――アフリカで特訓を行なっていた坂本美緒が飛羽返しの極意へたどり着こうとしていたある日の事である。

「うぉおおおおっ!!」

元々、剣の腕に覚えがあった坂本はその動きそのものはすぐに理解できた。だが、芳佳と違い、剣に魔力を流し込む技能が無いために満足いくだけの威力が出ず、魔力減衰が既に進行している己を呪った。

(あの時は無くなってもいいなんて思ったこの力が恋しくなる日が来るとはな。宮藤の魔力量が羨ましいよ……あいつらが似たような事を昔していたが、知ってるはずないし……)

坂本には魔力が発現した時(扶桑海事変)に一向に能力が安定しない自分を恥じ、無くなってもいいとさえ思った事がまるで遠い昔のように思えた。今では扶桑きっての手練として
同期らと共に名を馳せている事実も今や過去へ過ぎ去ろうとしている。

(醇子もあの時からは想像もできないくらい落ち着いたし、私も先生のようになりたいと
奮起した結果がこれだからな。ふふっ、徹子や義子の奴が聞いたらどう思うんだろうな)

坂本美緒の世代は上層部には「黄金世代」と呼ばれ、(陸軍は智子ら世代がそれに該当)、多くの撃墜王を輩出した。『虎徹』の異名を持つ若本徹子、『リバウの魔王』西沢義子も同世代である。だが、彼女ら世代は一部の人間除いて魔力減衰が始まっており、退役した者がチラホラ出始めている。本来なら坂本達も若い世代に後を譲って、前線から勇退してしかるべきだが、時勢が彼女らを必要としていた。

(時勢は先生や穴拭達のように本来なら引退した先輩達まで戦わなくてはならなくなっているんだ……だからこの技は絶対に必要なんだ!!)

坂本はこの状況に心を痛めていた。本来なら引退し、普通の生活に戻っていたり、教官として、テストパイロットとして余生を送っているはずの先輩たちを再び戦線へ駆り出されねばならぬ状況は自分らが不甲斐ないからだと。これは扶桑海事変に参戦した最年少世代であった彼女ら世代のウィッチの多くに共通する考えで、上層部が止むに止まれずに推進している『ウィッチ若返り作戦』への反発が強いのもこの世代に多く見られた。坂本が敵に対抗できる奥義を渇望していたのは、状況への反骨心と、先輩たちを再び前線に送り出す上層部への怒りという複雑なものだった。その思いが実ったのか、それとも心が明鏡止水の境地に達したからなのかは、分からないが、刀に眩い光が宿った。魔力の光だ。その光は過去に先輩たちの見様見真似でやっていたときのものよりも鋭く光を発している。

「で、できた……!」

「よし、よくやった少佐」

「ありがとうございます、大佐」

「いや、俺は大したことはしていないさ。君の想いがそれを発現させたんだ」

「私の……想い」

「そうだ。時として人の願いは奇跡を起こす。君が芳佳ちゃんを、501のみんなを守りたいと思う心に力が応えてくれたんだよ」


それは、彼が太陽戦隊サンバルカンのリーダーとして、機械帝国「ブラックマグマ」との激しさの増した後期の戦いを生き抜いた飛羽だからこそ言えることであった。スーパー戦隊の中では、どんな事情であれ、リーダーである事が多い「レッド」が正式に交代した唯一の戦隊であるサンバルカンでその重責を全うした。その彼の言葉には重みがあった。これで坂本も飛羽返しを身に着けたわけである。


「少佐〜手紙だよ〜」

「お、すまんな」

ハルトマンが坂本に手紙を届けにやって来た。坂本は手紙を受け取ると開封してみる。
差出人は珍しく、穴拭智子と黒江綾香の連名だ。写真とともに入っていた。

「あいつらから……珍しいな……若い頃に世話になったが、覚えていてくれたのか……ん!?なんだと!?501が解散!?」

「やはりなマロニー大将の策略だ。あの人は禁忌に手を染めた」

飛羽高之の補足が入りながら坂本は智子達からの手紙を読む。内容は、二人が未来世界に赴き、でトレヴァー・マロニーが行なっていた研究に援助していたある連合軍将軍を締め上げた所、事の全てを吐いたという事と、マロニーはウィッチを憎悪し、「軍人としての本懐」を遂げたい心と男尊女卑思想が合体した結果、どこからかネウロイのコアを回収し、それを兵器として使う事を思いつき、そこをティターンズに魅入られ、彼らに内通していた事を。
それでその兵器を完成させた後は前任者の遺産である501を初めとする統合戦闘航空団を順次解散させ、各航空隊も再編させ、ウィッチを前線から退けさせて、ティターンズの世でこの世の春を謳歌するつもりだと。手紙を読む坂本の手が怒りに燃えるあまり、震えているのがわかる。

「おのれ、許さん!!成敗してくれる!!」

「落ち着け。まずは表面上は従うようにするんだ。彼の監視下を逃れれば何とでもできる」

飛羽に諭され、坂本はひとまず作戦を練る。ひとまずはアフリカから戻った後にストライカーユニットを運び出しておくことを決意。近日中に出されるであろう501解散の通達に備えた。この日、手紙の礼を兼ねて、黒江に電話したのだが、昔年のようなフランクな口調に立ち戻っていた(要するに、この頃には黒江は未来に感化されていたので、坂本の記憶と矛盾しなくなっていた)のを突っ込んだが、うまくはぐらかれたという。




――ある日、バルクホルンの妹「クリスティアーネ」が昏睡状態から回復したと連絡が入り、シーブックがそれを伝えた。

「バルクホルン大尉はいるか!?」

シーブック・アノーがミーナの待機しているフリーディングルームへ駆け込んできた。よほど重大な事があったようだ。

「どうしたの、シーブック君」

「今、病院から電話がかかってきたんですが、バルクホルン大尉の妹さんが目を覚ましたと」

ミーナからバルクホルンへその事が伝えられるとバルクホルンは大慌て。普段からは考えようがないほど狼狽え、シスコンぶりを垣間見せた。

「あわわわ……、ど、どうする!?そ、そうだ!!」

バルクホルンは慌てるあまり、格納庫へ走っていき……

「お、落ち着きなよバルクホルンさん。ストライカーユニットの私用は厳禁でしょ〜〜!!」

「うるさぁ〜い!どけぇ〜!!」

「気持ちは分かるけど、落ちつけって!」

501の他の面々&ジュドーがが必死になって止め、結局ジュドーがハルトマンとバルクホルンを乗せてZZで現地に赴く事になったが、問題があった。ZZはコアブロックを採用している関係上コックピットが狭い。
補助シートを使ったり、ダブルビームライフル部分を使うことで、どうにかエーリカは乗れたが、バルクホルンまでは入らない。Gフォートレスに変形させても乗れないので、ZZをサブフライトシステムに乗っけて、バルクホルンは手に乗せるという強引な方法が取られた。

「……ちょっと待て。なんで私がここなんだ!?」
「サブフライトシステムのコックピットに乗ったほうがいいの?」

「遠慮しておく……」

方法としてはサブフライトシステムのコックピットに乗るという方法もあるのだが、バルクホルンは機械音痴である。見ただけで目眩を起こしそうなので、それを避けるため、バルクホルンはダブルビームライフルの部分という配置になってしまった。

「と、いうわけでシナプス艦長、ガンダムZZ、行きま〜す!」

カタパルトからではなく、飛行甲板上からの離陸であったが、ドダイ改(エゥーゴ時代から使われている)
はZZを乗せて離陸。(これを許可した背景にはウィッチの身内をティターンズが襲撃する可能性があったため)いざ、ブリタリア本土へ向かった。





――ロンドン市内

「夢だったのかな……?」

昏睡状態から回復したクリスティアーネ。彼女はずっとある夢を見ていた。姉に救われる夢。姉とその仲間に。ちなみにその容貌は宮藤芳佳とそっくりであり、バルクホルンが芳佳に入れ込んでしまうのにも納得がいく。

急に耳慣れない轟音が響く。クリスは窓を見てみる。すると……。


ZZが着陸し、コックピットから出たジュドーとハルトマンが付近に英語で「軍の兵器につき、触らないように」と書かれた看板を四方八方に立てる。次いでバルクホルンが降りてくる。バルクホルンは降りるとすぐに病院の受付に猛ダッシュ。すぐに面会の手続きを取る。その様子にジュドーは微笑んだ。自身にもそういう経験があるのだろう。

「あちゃ〜トゥルーデあれじゃ怒られそうだよ」

「いいのいいの。兄弟、いや姉妹ってのはこういうもんさ。俺にもそういう経験あるしね」

「そういやジュドーにも妹がいるんだよね」

「そうそう。俺もこういう経験あるしね」

病室に駆け込んだバルクホルンは目を覚ました妹の姿に感極まったのか、クリスのいるベットに駆け寄り、妹を抱きしめる。それは妹を昏睡状態へ追い込んでしまったという責任から、生き急いでいたバルクホルンが本当の意味で普通の生活を送れるようになる事を意味していた。妹の体から伝わる温もりにバルクホルンは「もう失いたくない」という気持ちを新たにし、強く抱きしめた。続いて、ジュドーとハルトマンが入ってくる。

その後はバルクホルンの行動をハルトマンが暴露、妹の前で見栄を貼りたいバルクホルンはこれに慌て、さらにジュドーにいじられたとか。バルクホルンは医者と退院日を決める話しあいを行い、妹の退院準備を進めていき、この日から妹が欲しがるモノを根こそぎ買ってやるという激甘ぶりも見せた。バルクホルンを少佐に昇進させる話が持ち上がったのもちょうどこの日。クリスの退院を境に、精神的に安心したか、バルクホルンの人当たりは改善されていき、数週間後には芳佳に期待し、面倒を見るまでに関係が進展したらしい。






――芳佳は501に戻った後、出現した人形ネウロイと接触。分かり合えるかと思った瞬間もあったが、それがもとで坂本を負傷させてしまう。考え的に坂本との溝が生じたのはこの時がさいしょだった。この行動を重く見たミーナは芳佳を軍規違反とし、20日間の禁錮処置に処しようとした。だが、それはネウロイとの対話ができるかもしれないという事の表れであるため、地球連邦軍側の仲裁で7日間へ減刑された。その報告をベットで受けた坂本は新兵時代から「ネウロイは殲滅すべし」という教育を受けており、さらにこれまでに多くの戦友を失っているため、人形ネウロイを撃たなかった芳佳を咎めた。だが、仲裁に入ったシーブック・アノーが対話の可能性があることを話し、坂本はそれに反発した。

「確かにネウロイは敵かも知れない。だが、対話の可能性があるなら和解出来る可能性はある」

「ネウロイと?和解?ははっ、冗談はよしてくれ。有史以来ウィッチが戦ってきたのは知っているだろう?」

「ああ。だが、俺達には敵と和解した経験がある。ゼントラーディ、バジュラ……」

シーブック・アノーはこの時期に伝えられている限りの最新情報を使って坂本を説得した。ゼントラーディとの戦いでのリン・ミンメイ、プロトデビルンを歌で聞き惚れさせた熱気バサラ、バジュラ戦役`(呼称は2201年での公式文書より使用)でのシェリル・ノームとランカ・リー。歌で和解したその事例は少しでも対話の可能性があるのならそれを実践した地球連邦の姿勢が垣間見えた。その為にYF-29という機体が開発された事も。

坂本は未来で起こった3つの奇跡には口を挟む余地はないのはわかっていた。だが、ネウロイに対してはどうしても受け入れ切れない心情を見せた。これまでに多くの戦友を失っているし、上層部の暗部を見てみたためだろう。それは歴戦のウィッチであれば当然である。坂本はどんなときも希望を見失わない未来の地球人に頭が下がる思いだった。彼女は時々意固地とも思える姿を見せるが、それは若き日に目撃した上層部の暗部への反発と、ウィッチを翻弄した『政治』への不信感が根強いためかもしれなかった。







数週間後、トレヴァー・マロニーは意気揚々とウォーロックを投入。501を解散させた上で行動を起こした。芳佳達は主力艦隊とは別に派遣された扶桑空母「赤城」に乗艦し、帰国の途についたが……事態は予測通りに進展した。



「やっぱりこうなったか!!」

ZZガンダムのコックピットでジュドー・アーシタは呻いた。ブリタリア軍大将「トレヴァー・マロニー」が用意した兵器が暴走を起こす事を感づいており、それを危惧していたからだ。

『手紙に書いてあったが……まさか、こうも!?』

坂本からの通信にジュドー・アーシタは答える。自身の予感が最悪の形で的中した事を。

「ああ、アイツはもうウォーロックじゃない!別の何かだ!!」

『別の何かだと!?』

「そうだ。色がネウロイのそれになってることがその証拠だよ!」

坂本はジュドーに言われてその兵器「ウォーロック」を赤城の甲板から見上げる。確かに装甲が変色し、司令部の制御を寄せ付けない自我をもち、ネウロイ同様の存在へ変貌した事を表している。この時代の兵器でしかない赤城型空母(天城型ではない)ではウィッチの機動力とネウロイの火力を持つウォーロックを撃墜することは不可能であった。

「まずいこのままだと間違いなくあの空母沈むぞ」

「俺が行く!!」

シーブック・アノーがF91の機動力で赤城に接舷するといい、実行に移す。このままでは坂本達は間違いなく海の藻屑だ。F91の機動力ならウォーロックの攻撃は軽く避けられるし、回収も容易だ。ビームを掻い潜り、(通常状態。最大稼働はしていないのだが、それでもZZを超える機動力を発揮している)赤城へ接舷する。

『みんな、早く乗れ!!』

「シーブック、お前……」

「で、でも赤城にはまだ人がいるんですよ!?」

『艦長には既に総員退艦命令を出すように言ってある!!アイツが狙いを定める前に早く!!』

既に連合艦隊空母「赤城」は傾斜が10度に達している。対空火器は射撃不能。装甲も融解が進み、止めをさすのは容易にできる。とりあえず負傷している坂本美緒を最優先でF91の腕に乗せ、ペリーヌも同乗する。その直後、赤城は止めの一撃により沈没。その時の爆風で、坂本の車椅子の手すりから手を一瞬手を話していたペリーヌが吹き飛ばされる。

「しまった!!」

「ペリーヌ!!」

「ペリーヌさん!!」

坂本美緒と宮藤芳佳の悲鳴が響く。落下していくペリーヌだったが、間一髪でシャーリーの乗る複葉機「ソードフィッシュ」に救助される。

「シャーリー、お前……」

「なんとなくいやな予感がしたから引き返したんだ。案の定みたいだ。菅野の奴もこっちに向かってる」

シャーリーはソードフィッシュの操縦席でウォーロックの機体を改めて見る。前に見たときとは明らかに違う。完全にネウロイ化した印象を受け、暴走を始める。



「こうなれば……宮藤、これを使え!!」

「はいっ!!」

宮藤芳佳は坂本の策で車椅子に隠しておいた自身のストライカーユニット「紫電一一型」を使い、戦闘を開始した。

『芳佳ちゃん、大丈夫か?』

ZZを駆るジュドーが芳佳のもとに駆け寄る。芳佳は凛々しい表情で『大丈夫です』と答えるとウォーロックと戦闘を開始した。





――501の基地はウォーロック運用のために基地機能が復旧させられており、マロニー大将の指令で501のストライカーユニットのほとんどはそこに集められていた。バルクホルンはいの一番にストライカーユニットを奪還すべく基地に殴りこみをかけたのだが……。

「どけぇぇっ!私の邪魔をするな!!」

基地には21世紀以降の装備を備えたティターンズ地上部隊が控えていた。やはり敵と内通していたのだ。マロニーの差し金であろう。バルクホルンは野心に溺れたあの軍人を心のなかで罵った。

「悪いが……こちらとしても`手駒`を手放すわけにはいかないんだよ」

自分の知る小銃より未来的なデザインの自動小銃を構えた兵士たちが一斉にバルクホルンにむけて斉射を行う意図をみせる。さしもの彼女も冷や汗が引き出る。

(くそっ!!どうする……!?)

頭の中で選択肢を選びとる。

――宮藤のためにもこの場を引くわけにはいかない!!

バルクホルンは弾雨をくぐり抜ける選択肢をとり、突進する。自動小銃が火を噴かんとした瞬間だった。誰かの声が響き渡る。

『悪りいがそうはさせねぇぜ!』

「うぉぉぉぉ……らああああっ!!」

基地の建物の一番高い部分から一人の男がハンガーに飛び降りて現れた。その男は扶桑の空手着を身をまとい、ウィッチをも遙かに凌ぐ身体能力で兵士たちをなぎ倒して行った。撲殺しているといっても過言では無い。拳ひとつで多数の兵士と渡り合い、一方的に薙ぎ倒すのは常人にはとてもできない行為だ。

「馬鹿な……何故お前がここに!?」

ティターンズの分隊長が恐れおろめき、怯えた声で言った。その男をよほど恐れているのか、足はガクガク震え、顔色も土気色になっている。

「流竜馬ぁぁっ!!」

バルクホルンをかばうように立っているその男こそゲッターチームのリーダー「流竜馬」であった。竜馬は得物を追い求めるケモノの目でファイティングポーズを取っている。
目が独特の狂気を発しているので、バルクホルンも思わず足がすくんでしまったほどの迫力を発揮している。

「真ゲッターが俺達をここへ導いた。何故かは知らんが……関係ねえ世界で跳梁跋扈するだけでなく、核までを使おうとしたてめえらは許せねぇ!!」

竜馬はそう言い放ち、兵士をまた一人撲殺する。顔面を潰してである。

「核爆弾だと!?どういうことだ!?説明しろ」

あまりの衝撃発言に驚いたバルクホルンは竜馬に説明を求める。竜馬は答えた。

「この基地の地下に核弾頭バズーカを持つガンダムが秘匿されていた。扶桑艦隊を全て吹き飛ばす威力は充分にある核弾頭が積まれてる」
「何っ!?それじゃマロニーは!?」

「自分の野望のためにはテメーらが邪魔だから、基地共々吹き飛ばそうとしたんだろう。もし撃ったら広島程度の面積はクレーターだ」

バルクホルンは聞いている内に怒りがこみ上げてくるほどの憤りを感じた。核は都市を吹き飛ばす威力と後の世にも影響をおぼよす危険性から使用が制限されたほどの禁断の兵器。それを味方であるはずの部隊に撃とうとしたのか。

「こうなったらあいつをぶちのめさねば気が収まん!!おい私も連れて行ってくれ!!」

「いいぜ。ただしエーリカってお嬢ちゃんが先に向かってるけどな」

「ほう。それは面白いっ!!」

「遅れんなよ?」

「私を誰だと思っている?」

バルクホルンは意を決し、竜馬と共に殴りこみを賭けた。2人の行くところには屍が転がっていく。2人の怒りを表すように。情け容赦ない拳で死人が出まくったのは勿論言うまでもない。主にそれは竜馬の一撃によるモノだが、極限まで鍛えれば『人を撲殺できる』レベルになるという扶桑の空手に舌を巻いた。






――ここでウォーロックはジェットエンジンによるスピードで芳佳を翻弄した。無論、彼女もそれなりの経験はあるし、ジュドーやシーブックを始めとする、菅野や北郷、飛羽などに仕込まれたせいか、史実より戦い方は並行世界での自らと目されている撃墜王『空の宮本武蔵』の異名を誇った大日本帝国海軍中尉(死後)武藤金義』に近い。それを示すように敢闘精神旺盛な戦い方を見せているが、機銃を中々当てられない。99式20ミリ(未来世界の協力によって補給線が強化されたのと、ネウロイの重装甲化で火力増強に迫られ、13ミリに再改造する意義が薄れ、ジェット機やモビルスーツに対抗するために大火力が求められたたので元に戻された)4号機銃は、それまでの機銃よりも弾道が改善されており、坂本らが若手時代に流通していた一号機銃より当てやすいのだが、ジェットエンジンの機動力はそれを帳消しにするほどの威力を見せた。

「あ、当たらないっ!!」

『落ち着け!相手の動きをよく見ろ。殺気を感じろ!』

「は、はいっ!!」

「すごいな。相手の動きに合わせて的確な指示を飛ばせている」

ジュドー・アーシタは持ち前の実戦経験の感覚からウォーロックの動きを見切り、宮藤芳佳に無線で指示を飛ばす。芳佳はその指示通りに戦う。F91の手の上から観察している坂本は芳佳に的確な指示を飛ばすジュドーに関心したりであった。

「あれがニュータイプの力ですの?」

そう驚くペリーヌにシーブックは補足を入れる。ニュータイプといえども指示を飛ばすのは自然に出来る物ではない。
アムロ・レイもそうだが、やはり戦場でのこういう事は経験がモノを言うのだ。

『いや、ニュータイプの力云々は関係ない。あれはアイツの経験則での判断だろう。あれでもアイツは2度のネオ・ジオン戦争を生き残ったクチで、実戦経験豊富だからな』

「やはり経験というのは大事というわけですのね」

『そういう事さ』

シーブックはジュドーをそう称した。ジュドーは歴代のガンダム乗りの中では古顔に位置し、
経験はアムロ・レイに次ぐものを持つ(Zガンダムのカミーユ・ビダンは一線を退いていた期間が長いので、実戦経験という意味では3度以上の戦争を続けて戦ったアムロ・レイやジュドー、シーブックには及ばない)。ペリーヌは歴戦の勇士である彼らに賛辞を送りたいと感じ、芳佳の武運を祈った。

「これならっ!!」

芳佳は180°ロールし、背面飛行に写る。スプリットSだが、それをレシプロ特有の旋回性能で素早く実行し、さらに斜めに行う。スライスバックと呼ばれる機動である。菅野直枝から教わった機動なので思い切り荒いやり方での機動なのだが、紫電の誉エンジンは根をあげなかった。史実の誉エンジンが品質不良や粗製濫造で本来の威力を出し切れなかったのとはエライ違いである。そしてウォーロックの背後をとり、絶好の位置をとり、菅野から貰っておいた刀を2刀流で取り出した……。

「ちょっとマニアックだけど……言ってみたかったんだよね。双ぉぉぉえぇぇんざぁぁぁんっ!!」

1980年代のどこかのアニメの如き叫びを上げながら魔力を纏った2刀流の太刀を浴びせた。これに坂本美緒はこう反応した。それはある意味やれやれと言いたくなる気持ちでの一言だった。

「誰だアイツにサムライト◯ーパー見せたのは……」

坂本はそうため息を付くが、近い将来自分も同じように、秘奥義を「これでもか」と、
こっ恥ずかしいほどの声で叫ぶ事になるのだとはこの時は予想だにしなかった。
それを現役復帰した戦友や先輩達に半分ネタにされることも……。後その事で扶桑にて一悶着が起こるのだが、まだ先の事であった。







基地では流竜馬とバルクホルンが基地司令部に殴りこみをかけていた。トレヴァー・マロニーをぶん殴るためだ。
回し蹴りやエルボーなどで兵士をとにかく薙ぎ倒し、無傷で司令部のドアまでたどり着く。そこには既にエーリカがいたが、ドアがよほど頑丈に出来ているらしくぶち破るのに苦労している。

「あ、トゥルーデ!」

「ハルトマン、どうした?」

「さっきからドアをぶち破ろうとしてるんだけど、やたらと頑丈で……」

「機銃で破壊しろ!」

「それはいまやった。MG42じゃ歯が立たないよぉ」

「そうか……。ところで貴様、何かいい手は無いか」

「あるにはある。ちょいと乱暴だがな」

「言ってくれ。非常時にいちいち気は使ってられん」

「ずいぶんアバウトになってるねトゥルーデ……いくら宮藤のためとはいえ」

「ああアイツが心配で……ってこんな時に何言わすハルトマン!!こらそこぉ!!笑うんじゃない〜!!」

咳払いし、気を取り直して竜馬が言う。

「対戦車用のグレネードランチャーでドアを壁ごとぶち抜く」

「オーバーかも知れないけどあの年寄りにはいい薬だね」

『竜馬、その用意は出来てるぞ!!』

「サンキュー、弁慶!!って対戦車ロケットじゃねーか。まっいいか」

竜馬は旧ロシア軍の制式携帯式対戦車ロケット擲弾発射器「RPG-29」を天井を破壊して穴をあけたばかりの車弁慶から受け取ると、バルクホルンとエーリカを充分に離れさせると自分もドアからある程度の距離を置いて発射した。閃光と轟音が走り、派手に破壊音が響く。煙の向こうから悲鳴が聞こえる。マロニーの声だ。慌てふためき、狼狽している。

「よし、行くぞてめえら!!」

「おう!!」

流竜馬を筆頭に竜馬と合流したゲッターチームのメンバーも加えて阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられた。いの一番にマロニーに近づいた神隼人は生身でマロニーの護衛兵の眼と耳、鼻をたたき潰したり、引きちぎる。生身で行なうので余計に怖さが引き立つ。しかも耳などが転がるのでそれをモロにみたハルトマンは当分食事がのどを通らなかったとか。

「目だ!!耳だ!!鼻だ!!」

「ひぃっ!!」

マロニーはこの化物の所業に恐れおろめき、年甲斐も無い悲鳴をあげる。次いで、バルクホルン。ウォーロックなどという物に、妹のように思っている宮藤が殺されるかも知れないという怒りと憤りで、魔力による筋力強化を加えた拳で顔を思い切り打ん殴った。

「キサマぁぁぁぁっ!!よくもぉぉぉ宮藤をぉぉぉっ!!」

「ノォォォォォォっ!!」

綺麗に幻の左が決まり、鼻血を盛大に吹出すマロニー。さらにエーリカによる飛び蹴りと竜馬の空手チョップ、弁慶の背負い投げを食らう。彼を嫌っていた兵士たちは拍手喝采でその行為を黙認し、拍手さえ送っていた。






竜馬達は旧501基地に着陸していた真ゲットマシンを起動させる。

「こんな戦闘機、どこから持ち込んだ?」

「一緒に転移したったろ。先に行ってるぜ嬢ちゃん」

真ゲットマシンは歴代ゲットマシン同様に垂直/短距離離着陸機である。爆撃機並みの巨体でありながら、この時代の常識ではあり得ない短距離で離陸するその姿に、バルクホルンは改めて、自分たちとの技術格差をつくづく実感した。




――飛び立ってしばらくすると……

「あれは……馬鹿な!?」

バルクホルンは己の眼を疑った。
先ほどの宮藤の「なんだかよくわからないけどすごいぞこりゃ」な必殺技で倒されたはずのウォーロックが、沈んだ赤城の船体を取り込んで再生したのだ。完全に赤城を取り込んだ証拠に失われたボディーを赤城のそれにしている。
そしてネウロイ化した事を示す体色になっている。

「あれでは……!!くそっ!FW190の足では……!」

歯噛みして悔しがるバルクホルン。FW190A-8の速度は時速600キロほどだが、それでは宮藤を助けられない。既にオーバーブーストをかけているが、既にエンジンが高負担で悲鳴を上げ始めており、魔導エンジンへの負担を考えるとこれ以上の使用はできない。真ゲットマシンの竜馬はそれを見かねて、自分達が先手を打つと告げる。

『よし、俺たちが先行して先手を打つ』

「しかしいくらそのジェット戦闘機が音速が出せると言っても……」

『バッキャロー。音速じゃねえ、光速でだ』

「光速……?」

『こういう事だ。……隼人!お前の出番だぜ』

『フッ、お前らしいな。では行くぞっ!!』

真ゲットマシンは白の真ジャガー号を先頭ににある態勢に入る。それはバルクホルンを更に驚愕させる光景だった。まず黄色の真ベアー号と赤の真イーグル号が合体し、人型の下半身に変形する。戦闘機であるはずの機体からはどう考えてもおかしいだろうと言いたくなるような超変形だ。最後にその状態の2機が真ジャガー号と合体する。
その瞬間、神隼人は叫ぶ。合体コードを。ゲッターをゲッターたらしめるその言葉を。

「チェェェェェンジ!!真!!ゲッターァァァァァァァァァァッツー!!」

――ゲッターチェンジ。ゲッター線がなせる超絶的変形。それをバルクホルンは初めて目の当たりにしたのだ。目を点にして開いた口がふさがらない。完全に物理法則を無視した変形合体が目の前で展開されては当然だが。

「なっ、なっ……馬鹿な……!?人型に!?」

『そう。これが`スーパーロボット『真ゲッターロボ』その第二形態だ!!』

これぞ白いカラーリングの真ゲッターロボ第二形態である真ゲッター2。本来は地上戦メインの形態なのだが、ゲッターライガーの頃より空中戦も考慮に入れられており、ある程度はこなせる。腕の巨大なドリルを唸らせ、慣性の法則を完全に無視した凄まじいスピードの機動(光速をも超えていた)で、バルクホルンを置き去りにして、ウォーロックであったモノへ吶喊した。ものの一瞬で宮藤芳佳の元に駆けつけ、超光速のスピードでドリルを突き立てた。あまりの速さなのでその場にいた誰もが状況を理解出来ない。

「へ……?何、何!?」

芳佳ももこの突然の出来事に戸惑い、慌てる。だが、この場にいる誰もが同じ気持ちであった。空母「赤城」の船体を取り込んだので、重量が36500tを超えるウォーロックが軽々と吹き飛ばされたのだ。しかも何か光のようなものが各部装甲を破壊していく。

「え……?このエネルギーは……」

サーニャ・V・リトヴャクの固有魔法の「全方位広域探査」が久しぶりに反応を示した。
あの光から魔力でも、ネウロイではない`未知のエネルギー`を感知したのだ。しかもとてつもない大きさの。

「どうしたサーニャ!?」

「あの光からとんでもなく凄いエネルギーを感じるの……」

「何だってぇ!?」

エイラ・イルマタル・ユーティライネンはサーニャを心配し、声をかける。するとサーニャはあの光からとてつもないエネルギーを感じると告げる。それはゲッターエネルギーの事。サーニャは真ゲッター炉から発しられる超エネルギーを感知したのだ。一瞬だが、その機影を目撃した坂本やジュドー達はこの状況を理解し、大笑いした。勝利を確信した表情で。



「ははは、ははっ!……そうか、そういう事か!」

「ど、どうしたの美緒」

「ミーナ、この戦、勝ったぞ!!」
「ど、どういうこと?」

「アレを見ろ」

「何なの……?アレは……」

「実物は初めて見たが、あれは未来世界で人類が希望と崇める戦神……`スーパーロボット`。」
『そう。その名もゲッターロボ』

「ゲッター……ロボ……?」

美緒とジュドーは駆けつけたミーナにその言葉の意味を伝える。宮藤を手に載せ、赤い戦神(いくさがみ)がそこに敢然とウォーロックの前に立ち塞がっていた。身長はゆうに55mを超え、機械で作られた事を示す装甲、人間のような瞳……さらにコウモリのような翼を持つ赤き巨神と取れる、真ゲッター1がいた。右手に巨大な槍状の両刃の戦斧を持ちながら。この時、坂本は既に知っていた。目の前の巨大ロボット『真ゲッターロボ』の力を。扶桑海事変でのよしみで親交がある穴拭智子から手紙でハワイ沖海戦の時の事を知らされていたのだ。手紙に書かれていたのはまるで天変地異をもその手で操るように引き起こすほどのスーパーロボット達の絶対的とも言える力、奇跡を。それでスーパーロボットの事を知っていた。ミーナは坂本がガッツポーズを取るまで喜ぶ理由があのロボットにあるのだろうかとその力を測りかねていた。

(確かに見るからに強そうだけど……いくら未来世界の超兵器でもネウロイ化したウォーロックには……)

ミーナがそう思うのも無理は無かった。ZZやF91などはもっぱら同等の相手(モビルスーツなど)を戦っていて、怪異に対しての力は全くの未知数である。そこに更に強力だと美緒が言うスーパーロボットが現れても同様の不安を抱くのも無理は無かった。だが、そんなミーナの不安を真ゲッターは自らのパワーで吹き飛ばした。

『ゲッタートマホォク!!うおりゃあ!!』

戦斧を振るい、ウォーロック(元赤城)の飛行甲板であった部位を薄紙のように切り裂いてみせる。スパーンと小気味いい音とともにウォーロックが取り込んだ赤城の外郭が切り裂かれ、破片が飛び散る。

「え、え、えぇっ!?……」

通常兵器、それも何の変哲もない刃物でネウロイに準じる存在を破壊する。ミーナはそれしか言えない。しかもまるでウォーロックは魔力での攻撃を受けたかのようにボディの再生速度が遅くなっていた。『これがスーパーロボットの力だというのか』と言わんばかりに驚愕し、開いた口が塞がらない。

「さて、とっとと料理してやるぜ!!」

竜馬は吠えた。その御叫びの通り、真ゲッターロボは人類が持ち得た最大の力。それを象徴する一コマであった。ゲッター線の力はネウロイをも凌駕する。同時にこれは大いなる意志の力でもあった。『時天空』と呼ばれしモノへ対抗するために人類へ与えられし力である。その到達すべき地点から見れば、この真ゲッターとて赤子に過ぎないのだ。その到達点こそは「ゲッターエンペラー」。現在、過去、未来の全てでゲッターの頂点に立つ者は静かに真ゲッターロボの戦いぶりを遙かなる未来から見つめていた。

『ゲッターァァァ…サイト!!』

真ゲッターの左肩に格納されている鎌が飛び出し、それを手にもつ。ここでシャーリーが疑問を口にする。

「うん!?ちょっと待ってくれ。`サイズ`じゃねえのか?」

『あん?どういうこった』

「その武器、鎌だろ?普通ならサイズじゃ?」

『そういやそーだな。研究所のスタッフか誰かが打ち間違えやがったようだな』

「気付けよオイ。コンソール画面に表示されてるスペルは?」

『Scytheだ』

「ああ、それケアレスミスだな。サイトと読めるからなぁ」

シャーリーは新早乙女研究所の所員らがやってしまったケアレスミスにため息をついた。しかしスペル間違いでも発動する必殺技には驚きだ。

『さて、あいつらをビビらせてやるか!!うおりゃあ!』


真ゲッターロボはその慣性の法則完全無視の幾何学的超光速飛行を見せつけ、ウォーロックを翻弄した。そのあまりの動きにミーナもバルクホルンも驚きのあまり唖然としている。『慣性の法則全く無視し、なおかつ超高速で直角に旋回する』のだから。ゲッターサイトであちらこちらを斬りまくり、再生が思うようにいかないのを焦るウォーロックの悲鳴とも取れる咆哮が響く。だが、真ゲッターはその力の全てを見せていない。

『ゲッターァァバトルウィィング!!』

『新たな存在』へ進化したウォーロックは赤城を取り込んでいる。そのため対空砲であった部分はもちろん、艦底に至るまでのところからビームが打ち出され、ウィッチ達は迂闊に近づけない。それを弱めるべく、翼を攻撃に応用した「ゲッターバトルウィング」で表面を削る。その攻撃の様はまるでウォーロックが竜巻に飲まれているかのようだ。その様子からは真ゲッターロボの攻撃力が伺える。そして、サイトをしまってすぐに腕に火器を生成、乱れ撃ちする。ゲッターブラストキャノンである。MSが持ちそうなデザインの火器だが、出力の差を反映し、威力は桁違い。当たっただけで、装甲を削り、あるいは再生不能な傷を与えていく。そして再び2へ変形し、ドリルが唸る。

『プラズマドリルハリケェェェェン!』

プラズマを帯びたハリケーンがドリルから放たれる。ドリルの必要性が無いような攻撃だが、超高速のハリケーンがウォーロックを吹き飛ばし、ドリルアームで貫きまくり、そこから別の技に繋げる。

『ミラージュドリル!』

ゲッター線の七色の光がドリルアームから放たれ、追い打ちをかける。そして、1に再び変形し、ビームを食らわせる。

『ゲッターァァァァビィィィム!!』

これによりウォーロックは一気に攻撃力を失う。こうして、ビームの勢いが弱まったのを見張らうように各ウィッチが攻撃を開始する。弾幕の間隙を突く形でハルトマンが「シュトゥルム」を発動させる。前の戦いでの教訓から風速をより強化しており、残った装甲を削っていく。リーネの対装甲ライフルが風穴を開け、ストライカーユニットをつけたシャーリーとルッキーニの連携攻撃で芳佳達の身を開き、ゲッターサイトによる援護も入る。追い打ちにサーニャのフリーガーハマーが炸裂する。

『テメーら、コアの位置はわかってるな?』

「ああ。私とミーナの固有魔法で確認した。機関部にコアがある」

『俺達が援護する。安心して突っ込め!』

『ああ、無論そのつもりだ!!!!』

『はいっ!!行くよリーネちゃん、ペリーヌさん!』

芳佳、それとリーネ、ペリーヌが突っ込む!リーネが対装甲ライフルで開けた穴から侵入し、ビームを避けながらコアがあるであろう機関室へたどり着くが……。

ペリーヌがブレン軽機関銃を撃ちまくるが元々機関室であった部位の隔壁であった所が装甲化しており、まったく効かない。

「この銃ではダメですわね……」

「そんな……せっかくここまで来たのに!」

リーネも芳佳も弾切れを起こしたり、武器を破壊され、丸腰。最早ぶち破る手段は無いと思われたが、芳佳の嘆きにペリーヌはついに、
使うことを避けていた固有魔法を使う決意を固めた。

「しょうがないですわね、最後まで取っておくつもりでしたけど……トネール!!」

それはペリーヌが持つ固有魔法。雷撃であり、時空管理局の魔導師以外の魔導師ではめったに無い資質。雷撃が装甲を焼き、大穴を開ける。そして目の前に現れたのはネウロイのコア。それも超弩級のもので、心臓のように脈打っている。だが、今の彼女らには破壊する手段は無きに等しい。

だが一つだけ思いついたことがある。「ストライカーユニットを爆弾に転用する」事。

「ペリーヌさん、リーネちゃん、私を支えて」

「芳佳ちゃん、何をする気なの?」

「…そういう事ですの。わかりましたわ」

そういうと芳佳はエンジンを一旦止め、ドライブさせた状態で逆回転をかける。事を察したペリーヌ、次いで理解したリーネに支えられ、芳佳は紫電を爆弾として投棄。コアを破壊する。これで赤城と融合したボディも崩壊し、ウォーロックは完全に崩壊した。

『宮藤の奴、やりましたね」

『ああ。これはあの子達の戦いだ。私たちは手助けにすぎない。とりあえず艦隊に着艦しよう』

『了解』

だが、最後の足掻きとばかりに篝火のビームをガリアの巣に向けて照射、更にそれを感知したネウロイが大群でブリタリアに向けて侵攻を開始する。



「あ、ああ……なんて数なの……」

ミーナをしてそこまで絶望させるほどの大軍。魔力を消耗した自分たちを捻り潰すつもりなのだろうか。今の状態では、とても迎撃出来るものではない。

『501の諸君!わが艦隊はネウロイに対し、決戦兵器を使う!!直ちに着艦せよ!!』
『決戦兵器!?』

『そうだ既に菅野大尉と北郷大佐は収容している。君たちも早くしたまえ』



シナプスはウィッチを収容すると、全艦隊の内、拡散波動砲を有する艦艇でマルチ態勢と呼ばれる、発射態勢を取らせる。一直線上にその態勢で並んだ艦隊の発射口に眩い光が集束していき……。

「提督は何をする気なの!?」

ミーナの問いに兵士の一人が答える。それは連邦軍の決戦兵器が日の目を見る事だと。その名も。

「タキオン粒子を利用した波動砲です。あれが我軍の切り札です」

「波動砲!?」

「ええ。皆さん、ゴーグルをしっかりつけて!目をやられますよ!それと衝撃に備えて!」

彼に促されて全員がゴーグルを付け、防御態勢を取る。

「エネルギー充填、大気圏内での最大出力に達しました!!」

「全ネウロイ、波動砲の拡散範囲に入りました!」

「発射!!」

その瞬間、しゅんらん含めた各艦の拡散波動砲が火を噴いた。本来の威力からはだいぶ抑制されてはいるが、それでも強化されたネウロイの甲殻を余裕で貫くだけの威力を発揮。死のシャワーとなって降り注ぎ、ネウロイを殲滅する。だが、あくまで出現したネウロイを殲滅しただけで、巣は健在である。



巣を撃破しなければ根本的解決にはならない。これには全員が窮した。無論、竜馬達も。その時だった。竜馬の脳裏に誰かの声が幻聴のように響く。誰の声なのか、竜馬にはわかった。

―ストナーサンシャインだ……。

「む、武蔵……!」

戦死したはずの巴武蔵の声が聞こえてくる。まるでゲッターの意志を代弁するかのように。真ゲッターが武蔵の姿を借りて話しているとも取れるが、竜馬には死んだ武蔵の魂が現れたように思えた。

―ストナーサンシャインを出すんだ……!3つの心を一つにして……ゲッターを、ゲッターを信じろ!!

隼人、直接の面識はない弁慶にも声は聞こえていた。そして三人は笑う。真ゲッターの決め技を使う決意を固めたのだ。

『隼人、弁慶!!』

『おう!」

『行けぇ、竜馬!!』

真ゲッターロボは高度を上げ、両腕で俗に言う「貯め」の体制を取る。それはまるで手の中に太陽を創造するかの如く、光の光球となってゲッターエネルギーが腕の中へ集束していく。それは正に神の如き所業であり、とてつもない光景であった。



「真ゲッターロボのエネルギー量、既にゲッターGのシャインスパークの10倍以上に上がっています!!し、信じられません!これ以上は計器では計測不能!」

「な、何!?ゲッターは……ゲッターエネルギーはこのような所業をも……!?」

兵士の報告にシナプスも信じられないといった驚愕の表情を顕にしたが、それはウィッチ達も同様。

「あれを見て!!ゲッターロボが太陽を作ってるわ!!」

「馬鹿な……機械にそこまでの事ができるのかよ!」

「悪魔みたいな翼持ってるけど、やってることは神様みたい……」

「そーだな……ロボットなのにあんな事ができるなんて……とても信じられねーよ」

「あれが真ゲッターロボの力なの……?怖い…なんだかわからないけど……」

サーニャは悪魔を思わせる翼を持つ真ゲッターロボの外見に見合わぬ所業への感嘆を、エイラは信じられないといった表情で見つめている。シャーリーとルッキーニはただただ唖然としていた。芳佳は真ゲッターへの恐ろしさを口にした。それぞれ違う思いだが、未来世界の超科学が生み出し『神』とも『悪魔』とも取れる行為に北郷は思わずこう呟いたという……。『神か、悪魔か…』と。





(真ゲッター……あれは神?それとも悪魔?人間が持っていい力じゃないわ……あり得ない。世界滅ぼすことなんて簡単に…!)

ミーナはストナーサンシャインを形作る真ゲッターロボへこのような想いを残した。『神か、悪魔か』。スーパーロボットの強力な力は世界すら滅ぼせるかもしれない。そう危惧した。

―そして。ストナーサンシャインのエネルギーが臨界に達した瞬間、竜馬はあらん限りの声で叫んだ。思いで真ゲッターのパワーを引き出すために。

『ストナーァァァァァァサァァァァンシャイィィィィィン!!』

ストナーサンシャインは凄まじいゲッター線の輝きを放ちながら投げるかのように打ち出される。その光球はネウロイの巣へ吸い込まれていき……そして……凄まじい閃光が走り、パリ全体を覆った。
















―※あとがき(2014年修正)


竜馬のストナーサンシャインの叫びのCVはTV版の神谷明氏、OVA版の石川英郎氏どちらともとれる形にしています。



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