外伝その20


 

-さて、扶桑からロマーニャへ向かう行程の途中、1945年時ではメンバーに若干変更がある508が停泊している
港があった。そこで二式大艇の燃料補給と休養を兼ねてリベリオンにしばし滞在する事になった。

「紫電改か……烈風はないのか烈風は」
「我慢しろ坂本、去年の地震で宮菱は大打撃を受けて飛行機もストライカーユニットの生産も覚束ない
んだ、零式は数を減らしている現状で一番いいのはコイツなんだ。これからは迎撃戦だ、
航続距離なんか二の次だぞ」
「しかしだ、あんな二流メーカーなんぞ……」

シアトルのとある地で坂本は紫電改への不安を顕にする。それを聞いているのは508の臨時メンバーで、
坂本より下の期であるが、戦歴は激戦に身を置いていたので、坂本と対等を誇る「林」大尉だ。
坂本は自身へ配備された紫電改への不満を言いまくる。共に343空に在籍していた経験があるが、
`二流メーカー`が造ったストライカーユニットへの不満を隠そうともしない坂本に、
林は閉口してしまう。

「まあ、今はどこもかしこも大変なんだ。
スーパー戦隊の助けがなけりゃ戦線維持さえ覚束ないところだってある」
「ああ、彼等だろ。わずか半世紀近くであんなヒーローが出てくるなんて、
向こうはどうなってるんだ?まったく……」

坂本はスーパー戦隊の出現が第二次大戦からわずか30年しか経っていない時期である事を飛羽高之から
聞いていたので、その驚きはひとしおだ。しかも当時の科学水準を超越する装備を多数備え、一時除いて
1980年代からは、ほぼ毎年に渡り一個づつ戦隊が結成されていたというのは信じがたいようである。

‐では、スーパー戦隊の起源とは?それはヒーローの源流と言える仮面ライダー達に由来する。
70年代初頭に出現した仮面ライダー達は組織との戦闘を長く続けていた。その中で多くの仲間がライダーの
戦いに加わったが、生身では限界があった。そこにライダーマンの出現は朗報であった。
ライダーマンは腕を改造された以外は殆ど生身の人間であり、他のライダー達と共に戦う際に纏う強化スーツは
現役時代はアタッチメントに頼る事も多かったもの、最終的(ストロンガー現役時代以降)には、
「ライダーキック」を放てるほどの性能に到達した。その時点で当時の国連はライダーマン=結城丈二に
技術提供を依頼。その結果生まれたのが「秘密戦隊ゴレンジャー」が使うスーツであった。ただし
ライダーマンスーツの解析が当時の国連の科学水準では不完全であったので、スーツの着用時に
高圧電力が発生し、それに耐えなくてはならぬという技術的不完全さが残った。そのため、
次の「ジャッカー電撃隊」では仮面ライダー同様のサイボーグ戦士がそのメンバーを担った。
そしてジャッカー電撃隊が活動を終えた後に「バトルフィーバーJ」が結成されたが、
この頃にはスーツの技術的熟成度も一定の水準には達していた。
そもそもは「ライダーと一緒に悪と戦いたい」という人々の希求が生み出した産物であるスーパー戦隊が、
時を経るに連れ、ライダー達にも「同志」と認められるほどに認知されたのは、
ゴレンジャー〜サンバルカンまでの戦隊が奮闘したおかげである。

「地球を守るにはそれくらいの装備がないといかんのだろう。特に向こうは宇宙人とかが何故か
千客万来で来まくるんだから」
「確かに信じられんな。あの装備は私達だって使いたいよ」
「お前は剣が欲しいんだろ?バルイーグルにゴーグルレッド、チェンジドラゴン、
レッドファルコン、レッドターボとかが使ってるタイプの」
「ど、どうしてそれを」
「チャンバラ映画とかしか見ないお前の事だ、だいたいは想像つくよ。陸軍の穴拭大尉とかに頼んで
`鞍馬天狗`とか`暴れん坊将軍`とかの映像ディスクを未来から取り寄せてもらってるって、
松田から聞いてるぞ」
「お、お前どうしてそれを」
「あのなぁ、部屋にポスターとか貼ってあれば馬鹿でもわかるぞ」

林は343空で坂本が教官をしていた時期(帰国後からの一時期)に坂本が自室での楽しみとして、
チャンバラ劇などを見ている事を知っていた。また、坂本がこの時期、鞍馬天狗役で熱烈な人気を誇り、
後の世に足跡を遺した大スター「嵐寛寿郎」の大ファンである事も。
坂本が刀に拘る理由を知った林は何かとこれをからかいのネタにしている。

「ま、松田めぇ……」
「ハハハッ」

これには普段豪放な坂本も顔を赤らめる。自分がウィッチになる以前からチャンバラ劇の大ファンであった
事は北郷や智子たちなどの先輩、同期の面々(若本、竹井、西沢など)しか知らない秘密であった。
そのため剣を奮う歴代スーパー戦隊のレッド達に憧れを持っている事も見ぬかれていた。

「お前が`飛羽返し`を必死こいて習得したのも私たちは全員知ってる。宮藤から聞いたからな」
「そうか……。しかしもし、飛羽返しを習得しなければ私は`諸刃の剣`に手を出していたかもしれない。
`烈風斬`に」
「あれは歴史上、ウィッチにとって禁忌とされる技だからな。それにウィッチが刀を打つと妖刀ができたと
の巻物も出てきてる。手を出さなかったのは正解だよ」

それはもし、今回の騒乱が起きなかったら坂本が手を出していたかもしれない禁忌の技。戦い続ける事を
望む故に`運命に抗いたい`という焦りから手を出し、ウィッチとしての人生を終えていたかもしれない。
皮肉な事に自身が打った刀によって。それを避けられたのはサンバルカンのおかげである。

「飛羽返しには更なる極みとして`新飛羽返し`があると聞く。今度はそれを習得したい」
「まったく、お前らしいよ」
「でもな、紫電改じゃな。烈風なら……」
「マ43搭載型なんだ、誉よりはましなんだから我慢しろよ」

そう。飛羽返しには強化バージョンの「新飛羽返し」がある。それも習得したいのである。
スーパー戦隊の技は基本的に科学を基本としているのだが、習得は可能だ。
(オーラパワーなどの特殊な場合除く)意欲を見せる坂本であったが、
そのためには馬力に余裕のある発動機を積んだストライカーユニットが欲しいのだが、
紫電改には不満がある。坂本には前型の紫電を使ってその性能が中途半端であったためか、
山西への不信感を強めていた。その改良型とは言え、空戦フラップの信頼性には多いに不満があるのだ。

「山西の技術者を少しは信じてやれよな。紫電改は良いストライカーユニットだ。紫電とは別物だ」
「確かに性能は上がってるようだが……」
「疾風と同水準だぞ、これのどこが悪いんだ?空戦フラップか」
「ああ。あれは信頼性に劣る」
「紫電改は動作改善されてるんだが……」

‐空戦フラップ。これは零式にこだわるベテラン勢を次世代機に納得させるために開発した機構。
だが、新機軸が災いし、紫電では作動不良が多く発生。坂本が紫電を酷評する要因ともなった。
だが、ウィッチの世代交代により平均練度が低下した現在はこれで歴戦の勇者と新米の差を埋められると好評である。

「菅野のやつだって言ってたろ?零式の時代は終わったんだ、いい加減に認めろよ」

それは零式が新鋭機として活躍した緒戦の頃の華々しさの味を忘れられないベテラン故の悲哀だった。
巴戦で無敵を誇った時代はもはや過去の色褪せた栄光なのだ。坂本は扶桑海で決め手となった一撃が
智子と自らの剣戟であった事も相成って、自らは巴戦の技量を至上としているのだ。

「そりゃあんたの気持ちもわかるわよ坂本」
「穴拭……」
「穴拭大尉、あなたも来ていたんですか」
「ええ。坂本や芳佳の`お目付役`でね」

1945年当時、智子は22歳。ウィッチとしては`扶桑の英雄`として政治的発言力も高い。
そのため「地球連邦軍」の軍籍も持つ現在では「最新の空戦理論を知る人材」として重宝されている。
ちなみに現在の智子の戦闘スタイルは一撃離脱戦法である。それは陸軍同世代の人間達も同様だ。
駄々をこねるような坂本の態度に若き日の自分を重ねたらしく、見かねてやって来たのだ。

「あの時、確かに決め手になったのはあたしとあんたの剣だった。スオムスに行ったあとも
しばらくは`97`を使ってたけど、実戦経験してしばらくたった後は44に切り替えた。
巴戦には限界があるのよ、坂本」

智子は若き日には巴戦に傾倒していた事を振り返る。軽戦故の火力不足に直面し、敵に落とされた事。
44こと二式戦闘脚に機種転換してからはその性能に惚れ込み、以後はその性能の範囲で戦果を挙げた事……
それ故の巴戦の限界に気づいた事を。

「火力不足は敵を`落とせない`焦りを生じさせる。今、99式が20ミリに慌てて統一されてるのは
そういう事なのよ」
「新型ネウロイの出現とジェット機の登場は13ミリに改造する意義を失わせたからな……」

この時期、ウィッチ達に支給される機銃は諸外国含め20ミリ以上に統一されていた。13ミリでは
`未来戦車の天蓋装甲`すら撃ち貫けない、`ネウロイに通じなくなった`と戦線から次々と報告が舞い込んできた。
そのため、扶桑・カールスラント・ブリタニアなどは20ミリへ機銃口径を再統一する必要性を痛感。
1945年一月を持って機銃は「MG151」、「99式20ミリ五型」などへ再統一された。
戦線からは「機銃口径増大の効果大」とその威力を褒め称えていた。だが、リベリオンはこの時期、
機銃をM2重機関銃などにしていたために20ミリ機銃の開発に遅れを取っていた。
史実で航空機関砲の戦後世代として君臨した「M61バルカン」はまだ基礎研究段階に達したばかりであり、
かと言って40ミリ砲は装弾数や重量の問題から一部のものしか扱えない。
そこで開発年度が近い「コルトMk.12」の設計図を取り寄せ、急ぎ開発しているとか。

智子は一撃離脱戦法を現在の主な戦闘方法にしているため、火力を重視している。
今回、二式大艇で運んでいる物資には「ホ5」のほかに五式三十粍固定機銃があるのも智子の意向である。
「確かに刀の接近戦スキルは必須よ。だけど対爆撃機じゃ火力が求められる。南洋島や本土に
現れた「ピースメーカー」型の迎撃に部隊が苦労したのは知ってるわよね」
「ああ。あれはあの時の`アホウドリ`の後継だろうが……迎撃困難だったと聞いている。
雷電や火龍でようやく落としたというが……」

前年末より扶桑は本土にティターンズに加え、ネウロイの戦略爆撃にも遭っていた。
ネウロイ軍に出現した爆撃機型の新型は「B-36」そのものの姿であり、コードネームを`ピースメーカー`と
されていた。その性能もB‐29をも超える驚異的なもので、その濃密な迎撃網、雷電、紫電改などの
新鋭機ですら苦労する速度はウィッチ達に恐怖を与えている。そのためジェット機の開発と
ジェットストライカーユニット部隊の設立は急務とされているのだ。

「お前がジェットの配備に賛成なのはそーいう訳か?」
「他にも色々とあって。デカブツを落とすには火力がいるのよ、火力が」
「確かにそうだが……」
「あんたにもわかるわよ、いずれ」

坂本の巴戦偏重ぶりに、かつて同様の傾向に陥っていた自らを見たのか、
智子は先輩としてそれとなくアドバイスする。坂本がそれに気づくのにはここから更なる時の経過を
必要とした。やがて話題は智子が未来世界から持ち込んだ機体である「YF‐29」の事に移る。

「そーいえばお前のあのVF、どうやって回したんだ、黒江は?」
「ああ、それは黒江が実戦テストに関わっててね。そのツテで増加試作機を確保したってわけ。
機動性が驚異的だから並のVFなんかオモチャよ」
「そんなに凄いのか?」
「ええ。試作一号機がギャラクシー船団残党との戦いで投入されて戦果挙げてるわ。
ゴーストも振りきれる機動性を発揮したっていうし」
「`あの`ゴーストを?信じがたいな」

坂本も未来世界が生み出した無人戦闘機「ゴースト」の脅威は去年、艦に乗っていた時にシミュレーションで
ゴーストと戦ってみたが、その圧倒的な速度差に接近することもままならかった事で実感した。
それを更に振りきれるなど常識外れもいいところだ。

「ある事件をきっかけに`有人機は無人機を抑えこむべき`って思想が連邦軍にはあってね。
暴走した時に備えて無人機の性能限界を更に超える戦闘機を作っておくのが最近は当たり前なの。
それでVF‐25やYF‐29が造られたの」

その事件はシャロン・アップル事件の事。シャロン・アップルに乗っ取られたゴーストが最終的に有人機に
落とされた(この点が重要である)事実は、地球連邦軍内で無人機導入を推し進めた旧米国勢力の
回復しかけた発言力を低下させてしまったという哀れな経緯がある。
それで有人機開発が更に推し進められ、その結果、得られた潤沢な高純度フォールドクォーツを用いて
生まれたのがYF‐29である。その超高性能を発揮すればゴーストV9すら問題にならない機動性を持つ。
ただそのポテンシャルをフルに発揮できたのは今のところ行方不明認定である「早乙女アルト」のみである
(S.M.Sの撃墜王であり、実は元歌舞伎役者)のだが。

「無人機を超える有人機……か。確かにそうだな」
「ウォーロックだって芳佳に撃墜されたでしょう?そーいう事よ」

智子は未来世界で軍内に普及した「人は機械を`扱う`側であれ」という思想を暗に坂本に言う。
無論、これは真田志郎の「受け売り」であるが。

「`その為`の機体か……フフ、奴さんも凄いの作るよ」
「スーパー戦隊の超メカを70年代の時点で造ってる時点で十分に凄いわよ」
「確かにな……しかも扶桑海にどでかい基地は造ってるし」
「あら、知ってるのね」
「徹子から聞いたのさ」
「ライブマンね。たしかにあれは武子には慰めになったと思うけど……なんて言ったらいいのか」

智子も親友が呉で受けた心の傷には対応が難しい事を坂本に言った。武子とは無二の親友たる智子と
言えどもかける言葉が見つからないというのは武子の傷は大きい事を物語っていた。
せめての慰めが武子を救った「超獣戦隊ライブマン」の用いたメカの中に武子が日頃から好きだった
`隼`をかたどった超メカがあった事くらいだろうか……。

「穴拭……」
「江藤隊長にも連絡しておいたけど……あとはあの子次第ね……」

呉で武子が受けた心の傷はそう簡単には癒えないだろう。だが、死んでいった者達の魂に報いるためには
戦うしか無いのだ。特に幼い頃から軍人として教育を受けた身の自分たちには戦うことしかできない。
それが死んでいった戦友や後輩達への供養になるのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‐この時期、扶桑の軍需産業は前年末の東南海地震で大打撃を被っていた。
特に宮菱重工業(三菱重工業に相当)の航空関係の主力工場は軸や基礎が歪むほどの大打撃を被り、
機体生産に大いに支障が生まれた。最大級の軍需産業であった宮菱重工業の受けた打撃は
リベリオン合衆国主力重爆「B‐29」1000機分の爆弾投下量にも相当するほどで、
実用化に成功した烈風の生産はストライカーユニット、戦闘機共に暗礁に乗り上げて
しまった。しかも烈風は少数の陸海軍撃墜王達の手に渡った先行生産分しか当面は稼働しないという
危機的状況であった。烈風で機種統一を図る思惑のあった上層部はこの天変地異を呪った。
だが、状況打開のためには疾風と違い性能面の陳腐化が極まる零式の後継が必要であった海軍は
本来は乙戦として双方同時に開発されていた山西航空機(川西航空機相当)の紫電改を急遽、
`後継機`としてでっち上げて配備させることを急ぎ結成。主力工場が健在だった同社に
全力生産を指令。その結果、各地のウィッチに紫電シリーズが渡る事になった。

だが、これに坂本美緒は猛反発。`他社工場を使ってでも烈風を生産させろ!!`と
敢闘精神のあまり無茶苦茶な発言(最も大日本帝国もこれをしてまで紫電改を生産しようとしたが)
をしてしまい、小沢治三郎や井上成美ら海軍上層部には`何を言っとるのだ君は`と呆れられてしまい、
坂本の発言に憤った、海軍機の生産管理を行う海軍航空本部第一部の高官に呼びつけられ、
まず一発グーでお見舞い(要は修正)をされた(無論、坂本も殴り返したが)後、口論に発展してしまった。
後日、山本五十六海軍大臣が直々に説得に赴くなどの事態にまで発展。
さすがの坂本も扶桑海事変で自分達を擁護してくれた`恩人`の山本五十六の説得は聞き入れ、
引き下がった。この事態に若本、竹井、菅野や西沢、芳佳などは内心ヒヤヒヤモノであったとか。

結果、1945年には芳佳達は紫電改へ機種転換しており、二式大艇に積み込んであるストライカーユニットも
智子のものを除けば全て紫電改に統一されていた。急速に配備されたので、
紫電改は他の国のウィッチの手にも渡っており、その小回りの良さから他国のウィッチにも好評だった。

例えば圭子が帰国した後、ちょうどライバルである「クルセイダー1」に落とされ、メッサーシャルフを失った
マルセイユもこうなればと扶桑軍人である圭子やティアナの名を使って紫電改を取り寄せており、
帰還した圭子に「ぎょえ〜〜!!」と腰を抜かしながら驚かれたという。
同地にいたシャーリーも紫電改の運動性には舌を巻いており、扶桑系ユニットの中では
お気入りである。ちなみにマルセイユが使ったのは初期生産型の二一型で、誉エンジン搭載型である。
そのためアフリカではトラブルが起こりやすく、シャーリーのアイデアで発動機を
リベリオン製のR-2800に載せ替えた。これはティアナに送られてきた長島飛行機の誉エンジンに関する
レポートに対してのレポートにマルセイユがティアナに書かせる形で感想を送った。
これが発動機選定で扶桑海軍を驚愕させた「激戦地での稼働率悪いから外国産発動機に替えちゃった」
という報告の真相である。これに圭子は呆れ半分にマルセイユに「いいの、あんな事やっちゃって」
と言い、マルセイユがすぐさま「だって本当に誉の整備は気難しいんだぞ?長島は発動機の何たるかを
分かってるのか?あれは軍用機のエンジンじゃない」とまで断じた。(運悪く、マルセイユの紫電改の
エンジンは出力が定格より低下している`品質管理`すらできていない地方工場製であった)
そのため、レポートに対する返事は文句タラタラであり、代筆しているティアナを
(ティアナは転移後は日本語の読み書きが出来るようになっていたため)呆れさせたという。
これが扶桑海軍にハ43(マ43)を主力発動機として生産させるのに一役買ったとか、ないとか……。

(ちなみにマルセイユが紫電改を使用していたという事実は、
ロンメル将軍が視察に訪れた1946年までバレなかったとか。
バレた後は扶桑の軍需産業から「ウチのも使ってくれ!!」と依頼が殺到し、
マルセイユはその対応に追われる事になるが、それは別の機会に……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‐その頃、ミーナはカールスラントの隣国「ベルギカ」のサン・トロン上空で、
あるモビルスーツと戦闘に入っていた。

『久しぶりだな、フュルスティン』
「あなた、あの時の……!」
『そうだ。今日は我が先祖の宿願を達成させてもらうぞ』
「何をっ!!」

そう。501が初めてティターンズと本格的に交戦した時のバーザムのパイロットと、
再びの対決が生起していたのだ。ただし今回の彼の機体は空戦モビルスーツである「バイアラン」である。
かつてジェリド・メサが用いた機体は航続距離の短さがメックだったが、この機体はなんと
この地で正規軍から鹵獲した「VF-11`サンダーボルト`」の熱核タービンエンジンを推進機関として
積み込むという荒業で航続距離の問題を解決していた。そのため元からのスラスターと併せれば
メッサーラのMA形態にも余裕で追いつける推力を誇るという化物と化した。
それでいてモビルスーツとしての小回りの良さは損なわれていないから凄い。
ただし対G耐性の優れたパイロットでなければ乗り込ませないので`乗り手を選ぶ`が。

「やはりMG42じゃ火力が……まずったわねッ…!」

ミーナはこの時、まさかモビルスーツと接敵するなど考えても無かったので、
通常任務用の火器しか持って来なかった。そのため、改めてモビルスーツ相手には7.92mm程度では
非力もいいところである事を自嘲した。`まずった`と口走ったのはジュドー達の影響であり、
若干、言葉使いが現在人に近づいてきているという事である。

‐こんな事なら「MG151」か「MK108」を持ってくるんだった!

ミーナはこの時になって、自分の火力不足を嘆いた。魔力による強化作用を考慮に入れても
MG42ではガンダリウム合金(ガンダリウムγ)を撃ちぬけないからだ。
ガンダリウム合金の頑丈さはブリタニアで実感している。
フリーガーファウストを改良し、501の中では最大火力を誇る「フリーガーハマー」をぶち込んでも
破壊には至らなかった。対弾性は装甲材ではピカ一。ZZクラスの高級素材では
ビームを除く攻撃には120ミリ砲を寄せ付けないほどの頑丈さを備える。
時速700キロ台に届いたBf109Kであるが、バイアランの前には「釈迦の手の上の孫悟空」状態。

その証拠にバイアランのコックピットのコンツールの表示はミーナをハッキリと捉えている事を示していた。
ティターンズが現地でOSに改良を加え、ストライカーユニットを纏うウィッチもロックオン可能であったからだ。
メガ粒子砲を連射し、ミーナを追い立てる。
一撃離脱戦法に徹する事が多いBf109はジェット機時代に生きた彼等にはむしろ「組み易い」。
彼らが最も恐れるのは世界最高の機動性を誇った日本軍機(扶桑)だ。
それ以外は「落としやすい」。

『さて、そんな`メッサーシュミット`でどこまで粘れるかな?』

彼は未来世界でのメッサーの名を言う。ミーナはその意味を理解していた。
だが、格闘に向かない同機は一撃離脱戦法でなければそのポテンシャルは発揮できない。
この時、小回リが効かない同機に対し、初めてボヤきたい気持ちになった。

(エーリカやトゥルーデがシリーズを使う理由が分かったわ……`これ`ねっ…)

そう。モビルスーツは`巨人`と考えて対応するのが道理に適っている。エーリカ達は小回りの効く
Fw190シリーズでこれに対応していたのが理解できたのだ。
ミーナはこの時初めて、Bf109を依然として主力と扱い、Fw190を補助とする上層部に文句を言ってやりたい
と思った。

「ふふ、よく動くが……それまでだ」

彼はミーナが急降下からユニットを引き起こす一瞬を狙い、メガ粒子砲を精密狙撃モードかつ、出力を絞って
放った。`落とす`のが目的で、殺傷が目的ではないからだ。
このビームにミーナは慌ててシールドを展開したが、相殺するので精一杯だった。
ユニットの一部を破壊され、バランスを崩して失速する。その爆発でミーナは気を失って、
海面に向けて墜落する。それを見届けた彼は上層部へ撃墜を報告、帰還した。第二ラウンドはミーナの敗北に終わったのだ。

 

『ミーナ、応答してくれ!!ミーナ!!』

インカムからはバルクホルンの悲痛な声が響くが、気を失ったミーナには届かない。海面へ一直線かと思われた
彼女を救ったのは……。

「……私……生きてる……?」

意識がハッキリしないが、助かったのは確かなようだ。モビルスーツの手らしき所に乗っかっているのは
分かったが……。

「……ぜ、Zガンダム……?で、でも……」

再度意識を失う一瞬、ミーナが見たのはZガンダムの顔だった。そのZのパイロットはなんと……

「サン・トロン基地へ。こちら地球連邦軍所属、Zガンダム。
ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は回収した。ユニットは破壊されているが、彼女に怪我はない」

カミーユ・ビダンだった。彼はジュドー達の後を受けて派遣されていた。
階級は大尉扱いで、乗機は無論、Zガンダムだ。精神的にはファ・ユイリィから
`学生時代よりは落ち着いた`と評される年相応の落ち着きは身につけているが、根本的な激情性は
変化しておらず、一度感情が爆発すれば、歴代最高と謳われたニュータイプ能力を以ってして
Zのバイオセンサーをフル稼働させ、ビームをも弾くオーラを発動させる爆発的なパワーを見せる。
その時のポテンシャルはアナハイムの技術者曰く「新型ガンダムのフル稼働状態をも凌駕する」とのこと。
カミーユはサン・トロン基地へ進路を取り、ミーナを臨時シートに寝かせて、運んだ。

この報にバルクホルンは安堵したが、ミーナを助けてくれたZガンダムのパイロットは誰なのか気になっていた。
Zガンダムはピーキな操縦特性を持っていて、時代を変えたと謳われた、ポテンシャルを発揮するには、
強力なニュータイプかつ、当代屈指のエースパイロットが必要だという事は歴史映像でよく見て知っている。
ジュドー達は未来へ戻ったはずなので、誰が操縦しているのは分からない。だが、ジュドー達に匹敵する
エースパイロットということだけは感づいていた。

 

(連邦軍でもゼータをまともに動かせる上で、最大ポテンシャルを引き出せるパイロットは指で数える程度
しかいないはずだ……。ジュドー達でないのは確かだが……)

そう。バルクホルンの予感は当たっていた。Zを動かしていたのはオリジナル機の初代パイロットであり、
グリプス戦役をその自らの精神と引換に終結させたカミーユ・ビダンだったのだから。

 

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