外伝その23


-シアトルからロマーニャへ出立する2日ほど前、智子は坂本に圭子や黒江と共に暮らしている未来世界での苦労話をしていた。

「未来じゃ初め、色々と苦労したわよ。向こうじゃ、特にのび太の時代で、日本陸軍軍人風の服装ってだけで変な目で見られたし、言動や行動に気を使わったわ」

「どうしてだ?」

「向こうの第二次大戦への日本の一般人の常識は、海軍が頑張ったのに、陸軍がバカやりまくって足を引っ張ったつー一種の固定観念が定着化しちゃってるのよ。20世紀じゃ気苦労多かったし、23世紀じゃ色々と判明してるんだけど、それでも一般常識は中々変わってくれないし、疲れるって事よ」

智子が未来世界での暮らしで最初に苦労したのは、『旧帝国陸軍』への偏ったステレオタイプ感の打破であった。智子も民間人から奇異の目で見られ、町内会での集まりでは、旧陸軍の奴らって脳筋しかいなかったんでしょーヤダー!と陰口を叩かれたこともある。そのため3人で暮らし始めて最初に決めあった事は『軍人は頑迷でも脳筋でもない事を自分たちが証明し、偏った色眼鏡やイメージを覆す』
事だった。最年長である圭子が率先して動いた。圭子は住まいを構える旧神奈川県で行われた、フィルムカメラコンテストに応募し、一度退役していた時に従軍記者を職業にしていた経験(本も出版している)を生かしたカメラワークを駆使して見事入賞(初応募では大健闘の銅賞とのこと)を果たした。その際にカメラを持って街を出歩く姿があちらこちらで見受けられ、すっかり街の人々と打ち解けた。黒江は釣り堀に出没するうちに釣りキチ達と仲良くなり、その内の長老(84歳の鮪釣り漁師)から鮪釣りに誘われ、小遣い稼ぎに鮪釣りのバイトをするようになった。智子は剣道教室で講師のアルバイトを初め週に2、3日は道場に出向いている。それら努力のおかげで3人は、23世紀で色眼鏡をかけて見られなくなったという。

「お前らも大変だったんだなぁ」

「そうよ。それで弟子の面倒も見てるから忙しくって」

「黒江から聞いた。まさかお前らが弟子を取るとはな」

「まぁ色々あってね。あなただって芳佳が弟子みたいなものじゃない」

「まぁ、それはそーなんだが……」

「それで勉強を教えたこともあるわ」

「お前……勉強教えられたのか……?」

坂本は信じられないと言わんばかりに目を見開いている。智子は士官学校出の黒江と違い、陸軍少年飛行兵の制度を利用して志願したもの、難関を突破して下士官→士官に任じられた俊英である。なのでその後の教育も併せれば黒江と同等の学力はあるのだ。

「当たり前よ。これでも陸軍士官なんだから」

「……それもそうか」

ちなみに智子と黒江がなのはの両親と面会した時、正確に言えば、正規の士官学校出であるのは黒江のみなのだが、話がややこしくなるから、という黒江の判断により、共に士官学校出と説明したとか。

「いいのか嘘言って」

「しゃーないでしょうが。陸軍の細かい制度なんて一般人にはわからないんだから……予科練だって覚えてる人少ないわよ」

「なぁにぃぃ!?」

「だって軍隊自体が滅んじゃったから」

「本当か」

「それで弟子をどーにか高校進学させたわ。結構大変だったんだから。あ、向こうの高校はこの時代の中学にあたるけど」

「?どういうことだ?」

坂本の疑問はこの時代(1945年)の人間としては至極当然のこと。坂本は未来空母に乗り込んでいた時、未来世界の教育制度までは調べていなかったので、知らないままであった。そのため、智子はいちいち説明せねばならず、大変であった。

「坂本、あんた空母に乗ってたのにそーいう事は調べなかったのね」

「はっはっはっ。いやあ学校の事は変化ないだろと思ってな。まさか変ってたとは」

「向こうじゃ二次大戦で負けた後に教育制度もアメリカの指示でガラっと変ったのよ。それは大抵の世界での共通事項なのよ」

「負けたらかってにされる……か。あまり良い感じはしないな」

「それが戦争ってもんよ。それが戦後は多少の改善がされながら普遍化していった。よくも悪くもね」

「自分たちでは無く、他人に言われての改革か……アメリカも厄介な置き土産をしていったもんだな」

「まあ時代の変化と、ニーズが合ってたのよ。それが23世紀になっても続いてるのが実情よ。まあそう暗い顔しない。いいところだってあるんだから」

坂本は戦後の教育制度、が日本人自身が行った変革とは言い難い点を指して多少の不快感を示した。戦前の日本、ひいては今の扶桑を否定されている気がしたからだろう。智子は戦前戦後、双方の価値観を知る人間として、坂本をフォローしてやる。扶桑は必ずしも旧大日本帝国と一致はしないが、地球連邦の国民からは半分同一視されている節がある。それは智子達が一番良く味わってきた事だ。おそらく坂本も空母乗艦中にそのような体験は一度はしているだろう。だから落胆するような素振りを見せたのだろう。

「せっかくだから気分転換に日光浴でもしない?」
「そうだな。たまにはいいか」

と、いうわけで二人は気分転換にビーチへ繰り出したのだが……。ここで水着の点で差が出た。坂本は旧スクール水着を着用しているが、智子は23世紀で暮らしていた都合上、この時代において最新型に分類されるツーピース水着タイプのものだ。

「お前……なんだその水着は?リベリオンのド派手な水着みたいだぞ」

「あんたこそ19でスクール水着は無理あるわよ、いい加減に変えなさいよ」

「何を言う、これが海軍の正式水着だぞ」

「……はぁ…。」

智子はファッションセンスに関しては20世紀後半以後の物へ進んでいた。そのため坂本の目から見れば、リベリオン人のように大胆に見えるが、20世紀後半以降の目から見れば普通のものである。

「そうそう。圭子から土産にアラ◯ンの映画DVD渡されてたんだった。プレイヤーと一緒に後で渡すわ」

「本当か!?」

坂本はこの時代におけるチャンバラ映画スターの嵐寛◯郎の大ファンであった。そのため黒江らに手紙を書いて送り、自室でも映画が見られる後世の映像プレイヤーを欲しがっていた。黒江はそれに応え、圭子を使いっ走りさせる形で某量販店で購入。智子に渡していたのだ。保守点検は23世紀に送る必要があるが、坂本は軍務で忙しいので、それほど使用はしないだろうとの黒江の談だが、圭子の助言で耐久性が重視され、一応品質に優れるメーカーのものが送られた。

「そ〜言えば加藤大尉はミッドチルダのほうに派遣されたんだって?」

「そうだけど?」

「この間、ズタボロになって帰ってきた日向の乗員から話を聞いてな。あそこはかなりの激戦だって」

「ええ。綾香が今は向こうの方に行ってるけど、日向の他にも陸奥がH級とやりあって大破、武蔵も機関修理の痛手を負ったって電話で聞いたわ」

「バカな、武蔵……大和型はネウロイのビームにも耐えられる410mmのVH甲鉄の舷側装甲、砲塔前楯やバーベット部に至っては650mmもあるんだぞ!?」

「それも絶対じゃない。H42級は48cm砲艦で大和型より格上。よく大和型で耐えられたって小沢治三郎司令長官は言ってたわ」

「カールスラント、いやドイツにそれだけの巨艦を造れる技術が……」

「Z計画を実現できた世界ならありうる。大和型も、けして無敵じゃないのよ、坂本」

それは扶桑海軍の最新鋭超弩級戦艦への過剰とも言える信頼を坂本が抱いていた事の表れであった。扶桑海軍は大日本帝國海軍が、機密が漏れるのを恐れるあまり、将官レベルでも容易に知ることができなかったほどの機密としたのとは対照的に、(改変後は改革派の策略で公表に持っていった)砲艦外交も兼ねて、大和型を『最新鋭超弩級戦艦として、公表した。その効果は意外にも絶大で、アイオワ級を完成させて喜んでいたリベリオン海軍を驚愕させ、ブリタニアに改ライオン級(42cm砲搭載予定。後に46cm砲搭載のセント・ジョージ級として結実する)の建造を決意させるほどであった。そしてリベリオンが慌ててモンタナを建造したのは周知の事実だ。だが、大和型は扶桑海軍の最高技術で造られために、兵たちからは過剰に信頼が置かれていた。それが仇となり、武蔵は完成後初の『格上』との撃ち合いで苦杯をなめたと智子は言う。

「それで武蔵は無事なのか!?」

「第二主砲塔が砲撃不能とかの損害負ったけど、無事に帰還できたみたい。信濃に第一戦隊旗艦の座を明け渡して、横須賀に回航・修理されるって」

「武蔵をそこまで傷めつけるH42級……いったい何者なんだ……」

「何の変哲もないビスマルク級の改善型よ。主砲口径が大和型より2cm大きいだけの」

「ビスマルクの改善型だと?バカなバイエルン級を復活させただけのビスマルクの改善型程度で大和型が……」

「確かにカタログスペックを見ると大和型は防御力に優れてる。だけど艦砲を撃ちあう実戦じゃ運用されてない。大日本帝國海軍でも、扶桑海軍でもね。だからいざ撃ち合ったら色々と不具合が出たのよ。装甲の継ぎ目が緩んで予想外の浸水が出たとか、指揮装置の故障で高角砲の一斉射撃ができなくなったとか……」

それは扶桑海軍も想定外のドイツ海軍48cm砲の高い打撃力の前に大和型が悲鳴をあげた事の表れであった。VH甲鉄も48cm砲の打撃力の前には貫徹を免れなかったということであろう。そして予想外の不具合。戦闘中に装甲の継ぎ目が緩んだのは致命的だ。そのため用兵側から設計主務者である平賀譲への批判が(この世界では1944年以降もちょっとだけ存命したとのこと)以前よりますます大きくなってしまい、扶桑海軍上層部は改修を急ぐことで批判を火消ししようとした。だが、武蔵の不具合続出が伝えられると、艦政本部は彼の育てた派閥と、改革派との間で抗争へ発展し、更に大荒れとなってしまったとか。そしてナチの更なる対大和型の『ジョーカー』である、H41をも凌駕する更なる超弩級戦艦がミッドチルダに現れた事実を坂本へ告げていた。

「そういう不具合は戦艦で起こりえるものなのか?」

「あんたねぇ、陸の私より疎いってどーいう事よ、一応海軍でしょーが」

「悪かったな!私は航空畑だからフネの事はあまり詳しくないんだよ!」

「はぁ……。」

智子は坂本の予想外の反応に呆れる。海軍軍人なのに船に関してあまり詳しくないのはまずいだろうと。空母と関連艤装についてはプロ級だが、戦艦などの戦闘艦艇にはあまり詳しくない坂本の意外な盲点が垣間見えた。

「あれ?穴拭さんに坂本さん〜なにしてんですか〜?」

「芳佳(宮藤)」

芳佳がやって来た。右手には飲み物が、左手にはサイン色紙が握られている。

「直枝は一緒じゃないの?」

「菅野さんは下原さんと一緒にハリウッドにいきました。私も子役の子からサインを貰って先に帰って来ました」

「どれど……ブッ!!!!ちょっと芳佳!凄いわよこれ!!」

「ふ、ふぇ!?そうなんですか?」

「んなに凄いのか、穴拭」

「凄いも何もエリザベス・テ◯ラーじゃないのこのサイン!!後の大女優よ!ああ〜あたしもいけばよかったかなぁ」

芳佳は映画に疎いため、そのサイン色紙に書かれたサインがどんなに価値あるものか、理解できないが、後世の映画を視聴していた智子はそのサインを書いた主が後に「ジャイアンツ」、「若草物語」などで歴史にその名を残すエリザベス・テ◯ラーの直筆サインであった。この当時はまだ子役であったので、後の世に比べればサインを貰える可能性はグンと高い。それは50年代以後に有名となるすべてのスターに言える。それを考えるとこの時代は映画好きにとっては穴場である。それを思い出したのか、悔しがる智子であった。




――扶桑皇国 横須賀

「今頃、芳佳ちゃん達はリベリオンかぁ…」

芳佳のはとこで、親友の山川美千子(通称、みっちゃん)は芳佳がウィッチになってからは彼女の交友範囲もグンと上がり、現在では芳佳の原隊である343空のウィッチ達、更には智子や黒江などの陸軍黄金世代の歴代の勇士達にまで及んでいる。彼女も芳佳に対する憧れがあり、密かに芳佳の従兵になりたがっている。中学校(扶桑皇国の中学校は大日本帝国の旧制中学と異なり、女性も入れる)の授業は耳に殆ど入っていない。ロマーニャへ向かった芳佳の事が気になってしょうがないのだ。友人がその点はカバーしてくれてはいるもの、本人自体はここ最近は授業に身が入っておらず、先生に注意される事もしばしばだった。

「でも驚いたなぁ……芳佳ちゃんが智子中尉……今は大尉だっけ……と知り合いだっただなんて…」

扶桑でウィッチがそれこそ宝塚歌劇団のトップスター並の人気を誇るようになったのは陸軍省がプロパガンダも兼ねて『扶桑海の閃光』、『加藤隼戦闘隊』の二大ウィッチ映画を作り、ウィッチの志願者がグンと増えたからだ。智子と武子の美貌はプロパガンダにはちょうどよく、この時期では国内一有名なウィッチとして知られていた。みっちゃんは芳佳の事に思いを馳せると同時に彼女の前途を憂いていた。




――横須賀軍港はミッドチルダの動乱などで傷ついた艦艇で満杯であった。そして華々しい勝利を約束されたはずの扶桑皇国海軍の至宝である大和型戦艦の姿もあった。

「45口径46cm砲で倒せん敵が出てくるとは……」
「上はどーするんだ」

「信濃と同じ50口径砲へ換装するか、試作の51cm砲を載っけるか、で意見が割れてるそうだ」

扶桑皇国海軍艦政本部は未来世界で超大和型戦艦を造ってもらうのと並行して既存艦の戦力アップを図っていた。夕雲型駆逐艦の損傷艦であった高波をレーダーピケット艦のプロトタイプとして改修していたし、海戦で損傷を受け、修理中の空母翔鶴と瑞鶴にカタパルトを試験搭載し、龍鶴型(未来技術で造られた新鋭空母)とともに艦隊を組ませ、大和型戦艦は信濃以降は装甲を未来技術の物へ換え、主砲も50口径46cm砲へ強化した。前年以降、急激に流れてきた技術は世界全体の技術水準を飛躍させたが、その恩恵を最も受けたのは艦艇運用思想自体が時代遅れとなりつつあった扶桑皇国海軍であった。だが、やはり既存技術への信頼と新技術への疑念が扶桑皇国の造船界にはあり、溶接箇所が大和、武蔵より飛躍的に増大した信濃への疑念も多く聞かれていたが、実戦で武蔵より信濃が防御力に優れるという報が艦政本部に届けられると、建造中の五番艦は信濃と甲斐(四番艦)以上に溶接箇所を増大させる事が決められた。造船官らは新技術の吸収に追われていたが、武蔵の修理は戦力アップのいい機会である。主砲の換装がまず主題に挙がっていた。45口径46cm砲が、矛として、最上でなくなった以上はそれ以上の砲を積むほかないが、大和型戦艦は18インチ砲=46cm砲の搭載を前提に計算されたが、無理すれば20インチ砲=51cm砲までならなんとか載せられる船体を有してはいるので、その範囲内で考えなくてはならない。

「46cm砲でも50口径なら貫通力はグンと増すはずだ。我が国は紀伊型戦艦でそれを証明している。しかし敵に48cm砲対応防御を持つ艦がある以上は51cm砲しかないな」

「何を言うか、新規に砲身の生産ラインを構築する手間を考えてみたまえ、君」

「しかし、46cmの50口径でH42級の装甲がぶち抜ける自信がおありなのですか、閣下」

「しかし補給の効率が……」

「敵に対し、攻撃力の優位を保つのは戦艦の鉄則ですぞ!!」
「君、51cm砲艦の建造予算がいったいどのくらいになると思うのかね?」

「モンタナやH42級の存在が明らかになった以上、51cm砲の装備は必須です!このままでは我が海軍の沽券に関わります!!」

……と、いう火が出るようなやり取りが繰り返された結果、武蔵は51cm砲装備艦として生まれ変る事になり、超大和型戦艦の装備テスト艦として運用され、後に航空戦艦として余生を送る事になる。その数奇な艦歴から、後世のマニアから人気が高く、戦記ブームの1960年代頃のプラモデル売上の上位に位置したという。





 
――欧州 最前線 

「中佐、501の再結成の軒だが……」

「ハッ」

「今日、各軍の上層部からの承認が正式に下された。書類上は本日付けで活動を開始するという事になっているのでよろしく」

「よろしくと申されましても、閣下……」

ミーナはこの日、軍司令官の一人のアルベルト・ケッセルリンク元帥から通達を受けていた。501司令官に戻るためにミッドチルダから帰還したのだが、あまりにも気が抜ける如く、すんなり認可されたので、ミーナは拍子抜けといった様子だ。そんな彼等のもとに一人の士官がケッセルリンクのもとにやってくる。その士官はカールスラントの人にはとても見えず、ミッドチルダ人のようにも見えた。


「閣下、新型ストライカーユニットの補給申請に参りました」

「ご苦労」
「あなた確かガランド閣下の……」

「はい、中佐。母がお世話になっております」

その士官は13、4程の年頃に見えるだろうか。
ミーナ達が以前、行動を共にしたヘルマ・レンナルツよりは大人びた印象を受けるが、顔にはまだあどけなさが残っている。その士官はカールスラント空軍でウィッチ出身の将軍のアドルフィーネ・ガランドの養子であった。なんでも2、3年ほど前に記憶喪失の上に身元不明の孤児として、ノイエ・カールスラント国内を彷徨っていたのをガランドが引き取ったとの事。

「あなたの顔、どこかで見たような……どこかしら?確か……」

「え?他人の空似じゃありませんか?」

「そうかしら……」

――ミーナが知る由もないが、その士官はスバル・ナカジマ、その姉のギンガ・ナカジマとほぼ同様の容姿を持っていた。その真実が明らかになるのはもう少し後の事である。

「オホン。中佐、君にも`ta183をテストしてもらう事になる」

「噂のフッケバイン……でありますか」

「そうだ。我がLuftwaffe(空軍)の新鋭ジェットストライカーユニットである。状況はもはやレシプロの時代に非ずなのだ」

ケッセルリンクはレシプロ機の時代はもはや終焉に近付いている事を示すかのように、ある二枚の写真をミーナに見せる。それはミーナにも見覚えのあるレシプロ機の写真であった。

「これはリベリオンのマスタングと……ヘルキャット?」

「マスタングは合ってるが、二枚目のはヘルキャットではない。ベアキャットだよ。」

「ベアキャット……?」

「最強のレシプロ艦上戦闘機だよ。情報によれば扶桑の零戦すら凌駕する格闘戦能力と速度を両立している。敵は接収した工場でこれらを生産し、戦力にしている。これならこの時代の人間でも多少教育すれば動かせるからな」
「なっ!?閣下、それは……!?」

「そうだ。奴ら…ティターンズは小国を中心に義勇兵を募り、それで航空隊をいくつか編成して航空戦力を補っている。持ち込んだジェット機には限りがあるからな」

「そんな……」

「世界には一部の大国が我が物顔で振る舞うのを我慢出来ない人間もいるということだよ。奴らには現時点の大国の影響力が薄れた21世紀以後の情報がある。敵ながら上手く使うものだよ」


ケッセルリンクはティターンズの情報を上手く利用するプロパガンダなどの扇動手腕に舌を巻く想いだとミーナに告げる。実際、世界各地にはそのような火種はくすぶっているし、リベリオンに至ってはインディアン(ネイティブ・リベリオン)、黒人を中心に不満がくすぶっている。それらが爆発してしまえば内戦すらありうる。連合軍はこのリベリオンの分裂と混乱を最も恐れているのだ。それに見かけは現時点で最も配備されているP-51Dとほぼ同じに見える、このマスタングも当然ながら最終生産型で、速度は時速780qと、レシプロ機では極限ともいえる高速を発揮するという。

「これらの機体が各国の航空戦力整備計画を狂わせた。特に扶桑が一番混乱したそうだ」

「ええ。前に坂本少佐から聞きました」(これが前に美緒が怒ってた理由ね……震電が開発中止になった〜とかなんとか……)

ミーナはここでブリタニアにいた時、坂本が扶桑の上層部に憤慨していた理由を知った。坂本は芳佳に震電という試作機を与えたかったのだろう。坂本は宮菱や川滝、長島などの一流メーカーしか信用しないというベテラン勢特有の悪弊にすっぽりとハマっているが、震電に関しては例外で、その性能を高く評価しており、芳佳の高い魔力を受け止められるとして、試作機を回すように海軍航空本部へ要請しておいたのだが、上層部にけんもほろろに却下された。これはジェットストライカーユニットの開発を急ぐ軍にとって、戦功をあげ、リバウの三羽烏として名高い坂本が発言することでジェット分野の発展が阻害されることを懸念し、なにかかと理由をつけて却下
したからだ。

「彼女は巴戦に固執している。今のうちに無理にでも転換させんと死ぬぞ。ジェット機がすでに跳梁跋扈する時勢なのだから。向こう側の日本海軍のような運命が待っているだけだぞ」

「はい」

彼は坂本が単機戦闘の技量を至上としている事を危惧していた。もはや第一次大戦や今時大戦の初頭のような華々しい巴戦の時代は終焉しているのだ。それを理解できなくては`向こう側の大日本帝國海軍航空隊と同じ破滅の運命を辿るだけだと。個々で一撃離脱戦法に適応できるものがいても、上層部を中心に全体的には依然として巴戦を信望していた彼等の悲劇をケッセルリンクは知っていたのだろう。坂本の存在は501にとって、とても大きい。教官としての手腕も世界各国で高く評価されているそれを失うのはウィッチ界の重大な損失である。上層部にまでその心配をされる坂本はなんだかんだで重要な存在であった。


――ストライクウィッチーズ基地

「オーライオーライ」



ここには地球連邦軍の支援のもと、様々な物資が運ばれてきていた。スーパー戦隊のいない間に、ウィッチが敵の特殊部隊によって奇襲される危険性があるため、自衛用の火器も複数持ち込まれた。例えば、サブマシンガンとしてフィクション作品で人気が高いVz.61スコーピオン、M16A2などの自動小銃が何丁も十万単位の弾丸と共に空輸され、その一方で、負傷者も多数担ぎ込まれていた。

「私達を助けてくれてありがとうございます」

「何、そのために俺たちは来たんだ。お安いご用だ」

トラヤヌス作戦と名付けられた人型ネウロイとの接触実験の矢面に立ち、多くの人員が負傷してしまった連合軍第504統合戦闘航空団`ARDOR WITCHES`はアカレンジャー=海城 剛率いるスーパー戦隊の別働隊に救出され、
未来設備の整った新501基地に担ぎ込まれていた。主力メンバーの大半が負傷しており、中には未来世界でなければ治療不能な傷を負った者もおり、急ぎ、搬送も行われていた。

「ネウロイとわかりあえると思っていたのにこんな、こんな結果になるなんて……!」

「今回の作戦はネウロイが選んだ選択だ。排除しようとする人類の動きへの答えかもしれん」

「そんな……」

竹井醇子はこの作戦に一縷の願いをこめていたのか、それが粉々に粉砕された事に落胆していた。芳佳が見せてくれた事は自分たちではできないのか。そしてこれで上層部の間の
『ネウロイを完全に排除してしまえ!!』という強硬論がますます強みを帯びてくるだろう。彼女の親友である坂本美緒もリバウを始めとする戦場で多くの戦友を失ったためか、この論調を強く支持している。だが、芳佳がやったことで、和解を模索する動きも出てきていたが、この作戦の失敗で発言力を失うだろう。ティターンズの出現で、連合軍は兵力を目に見えて削られている連合軍は今回の504の壊滅でますます焦ってしまうだろう。ティターンズ残党はティターンズの全軍の中でも比較的練度が高い部隊で固められており、一度失策をすればたちまち漬け込まれてしまう。さらにクライシス帝国が暗躍しているという情報もある。


「竹井少佐はこれからどうするのか?」

「私は部隊の再編を上層部に具申します。少しでも早く戦力を建てなおさないと今後の情勢は覚束ないですから」

「だが、ジェット戦闘機への対応策は容易に身に付くものではないぞ。ツテはあるのか」

「ええ。本国の方にちょっと」
「流石は、リバウの貴婦人だな」

「ありがとうございます。ですが、私も対ジェット機戦術はまだまだヒヨッコです。撃墜数もここ最近は伸ばせていませんし」

「そこは新命に聞けばいい。色々教えてくれるだろう」

「はい、新命さんにはもう連絡してあります。
明日から教えてもらいますよ」

海城は醇子にゴレンジャーのサブリーダーである新命明に戦術を教授してもらうように言うが、醇子はその辺はぬかりないらしい。
海城は`いらぬ心配だったかなと、微笑った。
醇子は当分の間、この基地に滞在する事になり、芳佳達とも隊列を組む事になった。中間管理職として、胃が痛い日々となったと、後に彼女は回想する。



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