外伝その29


―新ストライクウィッチーズ基地に置かれている、映像機器で再生されるのは、未来の地球で神のように崇められてきた、歴代のスーパーロボットらの勇姿だ。それを見ているのはミーナだ。

「向こう側の世界の人たちは自分達の手で神を作った。兵器の枠を完全に飛び越えた存在を……だけどそれはそのレベルの敵と戦う事を運命づけられていた」

ミーナはスーパーロボットという、無敵という願いを込められた偶像、それと同レベルの敵との飽くなき戦いを調べていた。なぜ人はスーパーロボットを作り、それを崇めてきたのか、そしてスーパーロボットが課せられし死闘を。この日は歴代のマジンガーについて調べていたらしく、映像にはZの在りし日の勇姿が写しだされていた。始動、戦いの中でパワーアップを重ねていく姿、遂に敵の前に屈する最期の瞬間を。

「どんな強い者でも負ける時は来る。古今東西、それは当然な事。それはマジンガーZでも例外じゃ無かった」

モニターに映しだされる、傷ついたマジンガーZの痛々しい姿。限界までパワーアップを果たしたはずの鋼の巨体は装甲板が叩き折られたり、貫かれてフレームがむき出しになり、片腕を失って膝を折って、口のスリットからは血のように潤滑油を吐き出している。操縦者の制御も受け付けなくなって沈黙していく最期を。

「ミーナ、今日も見てるの?」

「フラウ。ええ、そうよ」

この一室にハルトマンが入ってくる。フラウというのはカールスラント軍内でのハルトマンの愛称で、これでハルトマンを呼ぶのは限られる。

「これがZの最期かぁ。テツヤから聞いたけど、こんなに酷いなんて」

「あなた、グレートマジンガーのパイロットを知ってるの?」

「前に未来行ったって言ったでしょ?その時に会ったんだ」

ハルトマンはあの戦い以降、剣鉄也と知己を得、親交がある事をミーナに告白する。意外そうな顔をするミーナだが、ハルトマンの意外な一面が鉄也に何かを感じさせたのは理解したらしい。


「Zが倒れた時、世界はどう見てたの?」

「うぅん……一言で言えば破滅だね。連邦軍の平均的モビルスーツや可変戦闘機はミケーネ帝国の戦闘獣には対抗しきれない。かろうじてガンダムタイプや当時の最新型のAVFが対抗できたけど、ガンダムタイプはワンオフのフラッグシップ的立場だから数が足りなかったし、AVFはエースが乗らないと真価が発揮できない。Zは当時のスーパーロボットの雄で有名だったから、Zの負け=世界の終わりって捉えてたわけ」

ハルトマンは友人の鉄也から聞いた、Z敗北の瞬間の世界の事をミーナに話す。Zは人々の間で地球の守り神のように崇められていて、Zが負けたら人類が終わるかのように国民は捉えていたと。その状況をグレートマジンガーが打開した時は、今度はマスコミがこぞってグレートマジンガーを調べようとするなどの浅ましさを見せたとも。

「まぁ、誰だってもっとグレートマジンガーっていう、Zよりもっと強いのが来たらそっちが気になるのは分かるけどさ、浅ましいよなぁ」

そう。グレートマジンガーは初陣の際の登場が余りにもドラマチックかつ、センセーショナルだったおかげで、人々に「偉大な勇者」の異名でもって呼ばれるようになった。最もパイロットの方はたまったものでは無かったが。

「グレートはZの何倍の性能なの?」

「テツヤ曰く、当社比4倍だそうだよ。」

「当社比ってなんなの当社比って……」

「装甲や攻撃力、機動性とかのパラメータを比べてみての話だって。設計者は親子だけど開発元が違うからね。一概に比べられないんだ」

そう。Zとグレートは開発者同士が親子であり、設計も劇的に違うわけではない。だが、その思想は大きく違う。Zが当初は陸戦型であったのに対し、グレートは空戦を主眼にしている。そのため強化発展型であっても一概に比べられないのである。

「確かグレートの装甲の超合金はZのそれの改良版だったわね?」

「うん。ニューZだよ。これは量産性も上がってるからグレート用以外の他の用途にも支給できるんだって」

ハルトマンが言った、他の用途とは?それはこの時期には現れていたUFOロボグレンダイザーの宇宙合金グレンが破損した場合の補修用やサポートメカの装甲材である。ただしそれは誰でも、ある程度の合金精錬技術さえ有すれば超合金Z以上の素材を作れてしまうという負の側面も意味するのだ。

「そう……それでグレートの後を受ける形で現れたのが異星人のスーパーロボットのこれね?」

「そう、UFOロボグレンダイザーだよ。マジンカイザーや真ゲ除きゃ最強レベル。ロボ亀だけど」

グレートマジンガーがミケーネ帝国を退けた後に飛来したUFOロボグレンダイザーはフリード星の守護神として造られた、異星製スーパーロボットである。宇宙の技術で造られたためか、そのパワーはグレートマジンガー、ゲッターロボGなどを大きく引き離す驚異的なもので、正統派スーパーロボットでは最強レベルのパワーだ。もはや人智を超えた真ゲッターやマジンカイザーを除けば、であるが。

「……本当、力を求めると切りないわね」

「向こう側にゃ敵が地上や宇宙から、年がら年中ドンパチ仕掛けてくるっー世知辛い事情があるからスーパーロボットが持て囃されるんだよねぇ……。」

そう。未来の地球は戦争にひたすら明け暮れている。そのために経験という点なら圧倒的にこの世界を超えている。が、考えようによれば平和というものが遠い世界とも捉えられる。ハルトマンは未来世界のそういう面を的確に捉えていたらしい。ミーナはモニターを消して執務に戻る。ハルトマンもミーナについていく。理由はパートナーのバルクホルンがこの日、まさかのノロウイルスに感染してしまい、38.5度の熱と下痢に嘔吐で息も絶え絶えな状態なのだ。ハルトマンはたまたまここ一週間は気分変えでサーニャや芳佳の部屋で寝ていたので、難を逃れたのだ。当然、芳佳はバルクホルンのこの異変に駆けつけようとしたが、智子と菅野に制止された。


―― 医務室

「そ、それでバルクホルンさんの病気の原因は何なんですか!?」

芳佳は「ズイッ」とロマーニャ本土から急いで往診にきた連邦軍軍医に詰め寄る。それを智子が諌める。501の基地の担当医では原因がわからなかったためだ。


「芳佳、落ち着きなさい。……で、先生。バルクホルンの病気は何なんですか?」

「ノロウイルスだよ、穴拭大尉。感染力強いからここ数日、バルクホルン大尉に近づいた者は覚悟決めておいた方がいいな。これは23世紀でも決定的ワクチンは未だ治験段階にすぎん。あれにかかると辛いからね」

ノロウイルスは歴史には1960年代以降に現れ、冬期に猛威を奮ってきた、急性胃腸炎を引き起こすウイルスだ。本当は医学的に言えば、ウイルスに違いがあり、数種類あるのだが俗称として定着したので軍医はそう言った。説明を聞く芳佳は半泣きになってしまっていた。バルクホルンの嘔吐と下痢を伴う呻き声を聞いてしまっているからだろう。本当なら自身の治癒魔法ですぐにもどうにかしてやりたいのだろう。だが、ノロウイルスの感染力は強大であり、アルコールでは消毒不可能。芳佳が下手に治癒魔法使おうとするものなら、ミイラ取りがミイラになってしまう。そのため芳佳は歯噛みして悔しがっている。

「分かりました」

智子は軍医の所見に則り、後ほどミーナと協議。バルクホルンと数日以内に接触した者にはノロウイルス感染警報を通告し、医務室の準備を進めさせた。半泣きになってしまった芳佳は智子と菅野とリーネが共同でなだめた。

「ほら、もう泣くんじゃないの」

「そうそう。大尉が死ぬわけじゃねーんだぜ?」

「は、はいぃ……」

「芳佳ちゃん……。大丈夫だから、ね?」

「う、うんっ……バルクホルン大尉、大丈夫ですよねっ……」

「アレって急に来るけど治る時も速いから安心しろ。未来世界でかかった俺がいうんだ、間違いねーよ」

菅野は未来世界滞在中に実はノロウイルスに感染した事がある。治る時は嘘のように治るが、菌の感染力の関係で症状が引いても数日間は面会謝絶をしなくてはならないと説明する。これも未来世界から持ち込まれたモノの一つであった。








――さて、502の残りのメンバーの合流はクライシス帝国の妨害によって遅れに遅れていた。護衛の任についていた宇宙刑事シャリバンと宇宙刑事シャイダーは奮戦していた。

「スパークボンバー!!」

宇宙刑事シャリバンの必殺ドリル回転パンチが炸裂し、クライシス帝国の戦闘員“チャップ”を蹴散らす。彼らはスーパー戦隊同様に強化スーツを纏っているが、こちらの方がより重装備である。スーツの形状がスーパー戦隊のようにタイツ状ではなく、ロボットを思わせる、装甲で固められた金属質なものという事からもそれが伺える。

「シャイダーキック!!」

これら必殺技の応酬によりクライシス帝国の兵力は見る見るうちにすり減らされる。ガデゾーンは秘蔵の戦士たちを下がらせて、過去にRXに倒され、再生させた者達を二人にぶつけたもの、再生怪人の“戦闘員と同じ感覚で蹴散らされる”の法則通り、シャリバンとシャイダーの敵ではなく……。

「レーザーブレード!!」

宇宙刑事達の中でも、最強を謳われたギャバン、シャリバン、シャイダーは剣にレーザーエネルギーを纏わせ、威力を強化する事で如何な敵も粉砕してきた。その一端をウィッチ達は垣間見るのであった。

「ふん!」

シャリバンとシャイダーはレーザーブレードを駆使し、クライシス帝国の再生怪人らを斬り捨てていく。ちなみにシャリバンに比べるとシャイダーは若さ故に剣の動作において未熟さが見え隠れしている。それでも達人級のギャバンやシャリバンと比しての話であり、シャイダーが決して弱いという話では無い。

「シャリバン!!クラァァシュッ!!」

再生怪人へ向けてシャリバン必殺の、敵を袈裟掛けに叩き斬る「シャリバンクラッシュ」が炸裂する。なぜかどこでも夕日の逆光を浴びてたたっ斬るのだが、これがたまらなくカッコいいのだ。坂本がこの場にいたら感動すること間違いなしだ。

「シャイダーブルーフラァァッシュッ!!」

こちらは宇宙刑事シャイダー。彼も必殺技を発動する。レーザーブレードで敵を左から右へ真一文字に切り裂く必殺技である。必殺技という観点で言えば、実はシャイダーのほうが絶対的な威力を誇る。かの宇宙最大の犯罪組織であった“不思議界フーマ”の大帝王クビライもこれに屈したのだから。怪人軍団もこの必殺技には総崩れとなる。

「逃がさん!シャリンガータンク!」

「スカイシャイアン、発進!」

二人は更に追い打ちとして、それぞれの母艦からマシーンを呼び寄せ、それで更に掃射を行うという徹底ぶりであった。これにウィッチ達はさすがに閉口したとか。








――アフリカ 


「へぇ……これが61式戦車?」

「そうだ。連邦軍がティターンズから鹵獲した一両を勉強会用に引っ張ってきてもらった」

マルセイユが説明する。圭子はまたまた多忙で、未来世界にまた呼ばれたらしく、留守だ。

「へぇ……自動装填装置に、高度な照準器……これに各国の機甲師団がしてやられたってわけね」

この61式戦車は一年戦争中に作られた、年季入った車両らしく、装甲塗料の剥げ具合がすごく、古ぼけた感じさえする。調査を行ったフレデリカ・ポルシェは61式戦車の構造が戦車としては実に高度に自動化されて洗練されている事に感心したりのようだ。

「155ミリ滑腔砲……。通りでこの時代のあらゆる陸軍の火砲が効かないはずだわ」

そう。61式戦車は155ミリ砲という、この時代の軽巡洋艦と同等の大きさの火砲を主砲として有する、究極の主力戦車である。これは改良の過程で車高を低くしている途中の製造品のようだが、それでも意外に小さい。それなのに155ミリという巨砲を積んで90キロという快速で突っ走るパワーを電気駆動で叩きだすというのにフレデリカは惹かれたようだ。

「ああ。側面装甲さえスターリン戦車持ちだしてやっと拔けるかってレベルの厚さだからな。しかも軽量化されてるから架橋を十分に通過可能。重戦車顔負けだよ」


そう。桁が違うのだ。主力戦車の究極に位置するこの61式は火力・装甲・機動性のすべての点で第二次大戦当時の戦車とは隔絶した性能差があるのだ。たとえケーニッヒティーガーやスターリン戦車をぶつけても鎧袖一触で粉砕可能である。勝機は履帯を狙うくらいでしか見出させない。マルセイユはこの点を差して重戦車顔負けと評したのだ。

「フム……乗員は二人もあれば事足りる、か。シャーマンなんて4、5人で一台動かすってのに……少人数化進んだのね」

「軍人なんて一年戦争前はなるの少数派だったっていうからな。そういうのが必要だったんだってさ。でもミノフスキー粒子下じゃ仇になったから今度、正規軍が使う改修型じゃ人数を一人増やしたんだって」


61式の性能を調べているのは彼女ら現地部隊だけでなく、各国の軍需産業も調査に乗り出していた。その力を知ることで少しでも損害を小さくするためだ。それらの総合報告は後日、ロンメルら上層部に上げられた。

「聞きしに勝る戦車だ。これは正にグデーリアンが考えていたものの理想形といっていい」

電撃戦を考案したハインツ・グデーリアンが戦車に求めている物を61式は理想的な形で実現させた事に、ロンメルは思わず唸る。この時代の守旧的将校らは戦車を騎兵の延長上としか考えず、扶桑陸軍などは歩兵戦闘の補助兵器として配備計画を立てていた。が、ティターンズが21世紀以降の洗練された機甲師団と航空支援による電撃戦をまざまざと見せつけた事で、守旧派は一気に傍流に追いやられていった。その要因を改めて理解したのだ。

「これでは我が国の巡航戦車も型なしだな……戦車開発の方向性を本国へ進言しなくては」

モントゴメリーも同意する。この61式戦車の性能調査は史実で言うドイツ軍の「T-34ショック」同様の衝撃を与え、立ち遅れていた各国の機甲師団研究予算が平均で3倍に増額、先進国でさえ2倍に増えるほどであったという。










―― では、この1945年で地球連邦軍がどのような戦いを繰り広げていたかを簡単に触れよう。その一例の欧州戦線。欧州戦線では、統合戦闘航空団が一つやられたせいもあって、派遣されている戦闘機部隊は一般部隊のウィッチを空中で指揮しながらの防戦を行い、連日連夜の出撃を行なっていた。


「いいか、今日の相手はジェット戦闘機だ。諸君らのストライカーユニットとは桁違いのスピードが出るが、ドックファイトに持ち込んで撃破しろ。そうすれば勝てる」

「は、はいっ」


ウィッチ部隊の練度は国別に差がある。統合戦闘航空団に集められた指折りの精鋭などを除けば、ちょうどベテラン勢と新人が入れ替えの時期に来ているため、平均練度が低くなっており、ロマーニャ空軍部隊は微妙な平均練度になってしまっていた。それをコスモタイガーやVF隊がカバーするのだ。

「ウィッチ隊全機、こちらがミサイルを発射後は中高度に誘い込んでドックファイトに移れ。高高度は俺達で引き受ける。」

「了解」

これはレシプロストライカーユニットでは高高度でジェット機と戦闘するのは荷が重いため、性能が発揮できる最適な高度で戦闘できるように役割分担を行ったためだ。コスモタイガーとVFが高機動ミサイルを斉射し、敵の数を減らし、くぐり抜けて来た敵の内、ストライカーユニットで追えない高度にいる敵は戦闘機が、中高度以下はウィッチ隊の練度上昇のためにウィッチ隊が戦闘を行うのだ。彼らはイタリア、もといロマーニャの空を駆け抜ける。夏なために雲ひとつない快晴だ。

「各機、行くぞ」

「了解」

旧イタリア空軍塗装に塗られたコスモタイガーが突撃する。ちなみに地球連邦軍は2200年度より戦闘機などの部隊別の個別塗装を士気高揚のために容認した。これは大日本帝国軍機カラーへの統一を他国出身者が嫌ったという事情からで、戦功を上げた部隊に限るという条件付きだが、旧各国の個性が出ていた。






イタリア空軍は何となく弱いイメージがあるもの、彼らは一年戦争からの部隊削減の流れでも生き残った部隊なために練度は本物であった。敵の戦闘機の攻撃をいなすと、機体を横滑りさせて、高機動バーニアも併用した機動を見せ、相手を一方的に攻撃できる位置に占位するとパルスレーザーを斉射する。20世紀頃の戦闘機にレーザー兵器はオーバーキルだが、実弾兵器と違ってほぼ無限に撃てる利点がある。MiG-29は瞬く間に粉砕され、空の花火になる。重力下でのコスモタイガーの空戦機動性は宇宙空間でのそれに比べると低下する。そのためにその隙を突かれて撃墜されるものも出てきている。高度12000mでの死闘は白熱した様相を呈し、コスモタイガーと歴史に名を刻んだかつての名機らが乱舞する。





「各小隊、損害知らせ」

「A小隊、二機喪失」

「B小隊、三機撃墜された」

「C小隊、損害なし」

「よし。元ティターンズ相手なら良くやっているぞ。各機、気を抜くなよ」

このような光景が各地で展開されているのである。地球連邦正規軍(旧エゥーゴ)とティターンズ残党の争いはまだまだ終わりそうも無かった。



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