外伝その33


――基本的に第二次大戦型の軍艦は戦後型軍艦より『打たれ強い』。これは誘爆ミサイルの発達で見えないところからの攻撃が可能となったことで古来の軍艦に必要とされた条件が戦後に陳腐化したからだが、ミノフスキー粒子が戦場で使われるようになってからは第二次大戦のような直接防御力が再度必要とされた。ミサイルによる遠距離攻撃が無効化され、艦砲による攻撃が有効だとされたからだ。ティターンズ残党海軍が第二次大戦型軍艦を押し立てて陣形を取るのは、彼等にとっての現用艦の弾除けのためである。








――リベリオン亡命海軍旗艦、モンタナ級3番艦「メイン」

チェスター・ニミッツ太平洋艦隊司令長官は太平洋艦隊主力の三分の一の兵力(モンタナ級1,アイオワ級2、サウスダコタ級1の戦艦4隻、エセックス級空母4、クリーブランド級軽巡洋艦15隻、ボルチモア級重巡洋艦5隻、フレッチャー級駆逐艦10、アレン・M・サムナー級駆逐艦10隻、ギアリング級駆逐艦5隻、ガトー級潜水艦5隻)を率いて本国からの指揮を離脱、扶桑皇国南洋島に投錨し、亡命軍を形成していた。戦艦4、巡洋艦20隻、空母4、駆逐艦25隻、潜水艦5隻と、扶桑皇国から見れば大兵力を率いて亡命させてきたというのはチェスター・ニミッツ大将のカリスマ性と統率力を示すものだった。実際、亡命軍の幕僚は史実でも優秀とされたレイモンド・スプルーアンス、ウィリアム・ハルゼーなどの優秀な将であったことがそれを証明していた。

「ニミッツ大将、これはまた大兵力ですな」

「これでも我が太平洋艦隊の3分の1にすぎません。戦艦と空母を4隻づつしか持ってこれなかったのが悔やまれますよ、山本大臣」

南洋島に亡命してきたリベリオン海軍艦艇は東西南北の工廠や港に投錨し、補給や整備を受けていた。旗艦のメインで会談するニミッツと山本五十六は今後の対応を協議していた。太平洋艦隊から連れてこれた新式空母は僅かに4隻。最新型の艦載機であるF6Fヘルキャットやヘルダイバーにアベンジャーを積んではいるもの、ティターンズが亡命部隊に提供する使う更なる次世代機に比べれば性能不足な代物でしかないし、練度も低い。防空システムにおいても遅れをとっているリベリオン海軍艦艇は史実のこの時期と比較してもなお劣る防空能力でしか無く、地球連邦の手を借りて近接信管及びCIWSなどの開発に邁進し、ミッドチルダ動乱で平均練度が太平洋戦争開戦時の大日本帝国海軍航空隊に匹敵するほどに向上した航空隊を有する扶桑皇国に比べると、やや心もとない戦力であった。

「ウィッチの数は4艦合わせて数十名ですが、如何せん実験経験が不足しています。情けない話ですが、太平洋は『後方地域』でしたので……」

「機体がこちらよりも優れてるのに、ですか?」

「そうです。機体の真価を発揮できる熟練者の数は数える程度。後は士気は高いですが、経験不足の若手です。ちょうどマリアナ沖海戦のそちら側の状況に似ていますよ。機体が新型の分、マシですがね」


ニミッツは空母部隊の練度が低い状況を憂いているようだ。航空機やユニットこそ新式であるが、それを扱う兵士が未熟では戦力には成り得ない。史実の米軍と異なり、彼等には早期警戒機やCICがない。補助装備が未熟な状態なのは、戦いをウィッチに任せきりになっていたために、そういう戦術構築研究がおざなりとなっていたためだ。そのために今のリベリオン海軍は、1943年以降の装備を持っただけの開戦時のアメリカ海軍に等しいのだ。

「大西洋艦隊と合わせて空母は何隻確保出来たのです?」

「レンジャーとサラトガ、508のエンタープライズの三隻と合わせて七隻です。しかし新式艦載機を載せていたのはエセックス級の4隻だけです」


「良ければ我が方の紫電改を提供しましょうか?紫電改なら米軍機に操縦特性が若干近い」

F6Fと紫電改は酷似した外見を持つ。飛行特性は紫電改のほうが高空性能は劣るが、低空ではF6Fは紫電改の敵ではない。その高空性能改善型のテストも兼ねて山本五十六は紫電改の提供を申し出たのだ。その見返りは空軍設立の暁には将来、ジェット機のスタンダードになるであろうF‐86セイバーを提供すること。チェスター・ニミッツはこれを二つ返事で承諾した。これは扶桑へ恩を売っておくための布石であったが、艦載機の統一が出来ない現状を鑑みれば、扶桑皇国製兵器の使用もやむを得なかった。幸い、リベリオンの空母は扶桑皇国の空母より艦載機運用能力が上であったので紫電改の受け入れも容易であり、リベリオンカラーに塗ると見分けがつかないと評判であったとか。

「そういえば地球連邦の提言であなた方はすったもんだがいろいろ起こったとか?」

「ええ。エンジン選定計画や兵器配備計画も強引に変えられましたから。向こうにはこっちがやろうとして大失敗やらかした記録が残っておりますから見てられんのでしょう。おかげで改革がやりやすくなりましたよ」


地球連邦軍は第二次世界大戦の記憶から、扶桑皇国の工業力や軍隊へ少なからず不信感を抱いており、連邦軍の末端兵が史実で愚行を働いた佐官や将官を個人的怨恨でリンチして病院送りにしてしまう不始末が頻発した。この事件を重く見た地球連邦と扶桑皇国は地球連邦の言う通りに兵器開発計画などを見直したり、配備計画の再策定を粛々と実行。結果、地球連邦に受けがいい将官や佐官が好きにできる余地が出来上がった。そのため空軍の設立もあっさり決議された。

「戦前に豊田が電探や音探の技術を研究させておいたおかげでその方面は文句は言われませんでした。向こうは攻撃重視の脳筋軍隊と侮っておりましたから」

これは扶桑海事変当時に逆行した三羽烏が科学技術軽視のつけで国土を焦土にされて天皇中心国家が否定された事を米内光政らにリークした事がいい方向に作用し、扶桑の科学技術を押し上げたからだ。

「でしょうね。向こう側のあなた方は正面軍備偏重の見栄っ張り軍隊だと記録されているそうですし」



ニミッツは山本の愚痴に同情する。扶桑は正面軍備重視の割には補助装備が充実している軍隊だ。連邦は侮っているフシがある。おそらくそれは空母を艦隊に集中運用させていなかったというところから未熟と嘲笑しているのだろう。この時代の空母は後の世のジェット機搭載超大型空母(例えるなら戦後米軍のニミッツ級航空母艦)のように、単艦で小国空軍と同等の航空攻撃力を持つまでには至っていない。そのため複数をまとめて運用する方法がレシプロ機時代ではよく取られた。大日本帝国海軍がその方法の最初の成功者であったのも大きいだろう。そのために扶桑海軍は大日本帝国海軍の事例を逆輸入する形で艦隊につき、単艦運用が慣例化していたのを転換し、ミッドチルダ動乱から適応されている。(そのために大艦巨砲主義者からは不評だが、異世界で実際に航空母艦が海軍のシンボルとして君臨し、戦艦が過去の遺物と扱われた歴史がある以上、文句は言えなかった)

――こうしてリベリオン亡命海軍を受け入れた扶桑はリベリオンの先進技術を吸収し、大鳳型を扶桑原産の空母としては初のアングルドデッキ艦に改装し、50年代の自国製次世代艦が竣工するまで大鳳で各種実験を繰り返していく。





――さて、ここでフェイトがこの時期に導入したバルディッシュの新モードについて改めて説明する必要があるだろう。フェイトは17歳時に飛天御剣流の殆どの技を努力で体得。それに伴って、ザンバーモードでは飛天御剣流を使う上で『取り回しずらい』という難点が生じた。斬馬刀は元々、登場時期には魅せ武器としてしか使われなかった歴史的経緯があり、それを比古清十郎から指摘されたのを機に、バルディッシュの再改造に踏み切ったのだ。形状は日本の太刀そのもの。運用するに当たっての新バリアジャケットも誂え、ここに至って、彼女は『独自』の変化を手に入れたのだ。スバルが言っていた歴史から離れた独自性をフェイトも手にいれたのだ。





「欧州はもうすぐか……思ったより早く着きそうだ」

フェイトは単騎で欧州へ向かっていた。途中、出現したネウロイをトライデントスマッシャーで落としつつ、進路を取る。フェイトはこの時期にはアフリカで挙げた戦果でその名を知られており、強力な魔導師である事を図らずしも示す結果となった。フェイトはそのスピードと機動性、そしてウィッチでは実現不能な大火力を誇るという点で連合軍上層部に重宝される彼女は有数の激戦地である欧州へ赴任する事になった。途中で付近を航行していた扶桑海軍第3航空艦隊(空母雲龍型の4〜7番艦を基幹とする機動部隊。雲龍型では新鋭機の烈風や紫電改の運用が難しいため、零戦の現地考案機が採用された最終生産型の五四型が艦載機)の艦載機が護衛機を、大陸に入る頃には基地所属機がエスコートを務めた。日の丸の胴体マーク(扶桑皇国は1945年に識別標識を日の丸に切り替えた)が映えるこの機体だが、最新鋭機の紫電改や烈風と比べて旧態依然さは否めない。

「もうすぐヴェネツィア公国です」

「ヴェネツィア?随分回り道なんですね」

「所々をティターンズに抑えられてますからね。地球連邦の救援がなければイタリア半島全体は今頃ティターンズの領土です」

そう。ティターンズはMSやジェット戦闘機などの未来兵器を活用して支配領域の点と点を繋げた。イタリア半島の軍事力が史実と異なって二分割されている状態はティターンズの利となり、既にヴェネツィア海軍は重要軍港のラ・スペツィア軍港をF-15Eストライクイーグルの編隊の波状攻撃で機能を大きく失った結果、外洋に出ていた一部艦隊を除き封殺状態。空軍は敗退し、その戦力は大きく減退。504は事実上の壊滅状態と、この方面の軍隊はいい所なしである。

「ヴェネツィアを回って、そこからロマーニャに入ります。では我々はロマーニャ配置のの航空隊と交代します」

「ご苦労さまです」

五四型部隊に代わりエスコート役として飛来したのは紫電改(紫電三二型)。ロマーニャ方面は最重要拠点の一つなために各軍の強力な部隊が送り込まれている。扶桑最新鋭の紫電改が配置されているのもその証拠だ。






――零戦五四型は陸上運用の方が多数派である。これは空母搭乗員に航続距離短縮が受けが悪く、空母艦載機としては配備されなかった事で、陸上基地にある老朽化した九九式艦戦(九六式艦戦)の代換品として1944年度に配備されたが、急激な科学の発展ですぐに根本的な次世代型の新鋭機が配備されたために浮いた存在となっていた。配備数も多くなく、全ての九九式を代換するには至らなかった。当然ながら1500馬力の金星エンジン搭載なため五二型よりも微妙に高性能であるもの、F8Fやコルセアの前には気休め程度の差であった。ロマーニャには臨時で各軍新鋭機の部隊が急いで送られ、地球連邦も新鋭兵器を優先使用する区域の一つに認定している。

「ではここからは我々302航空隊が引き受けます」


紫電改隊はフェイトを護衛すべく編隊を組む。その動きは整然としており、見るからに練度が高いことがわかる。ミッドチルダ動乱は扶桑海軍の実戦練度を大きく引き上げたようだ。

(動きがいいな。多分、ミッドチルダ帰りの部隊なんだな。見張りとかもきちんと出来てる)

フェイトは先程までの零戦隊と明らかに隊全体の動きが違うのに着目した。実戦慣れしているらしく、編隊に乱れが全くない。エースには新鋭機が与えられるというのは古今東西の航空機やMSなどを持つ近代の軍隊では当たり前に見られる光景だからだが、練度にあからさまな差があるというのは、軍としては不味いのではないかと感くぐってしまう。


(そういえば連邦軍もエースとかには高級量産機やガンダムタイプを与えるのが通例化してたっけ。部隊によって練度に差があるのはいいのかなぁ?)

連邦軍にしても、ロンド・ベルやVF-X、宇宙戦艦ヤマトなどの一部精鋭は悪の大軍団相手に一騎当千が可能なほどの圧倒的な力を誇るが、一般部隊の多くはネオ・ジオンとの戦闘行動にでさえ不利が否めない練度である。これを解消するために連邦軍も心を砕いていたのは覚えている。練度の均一化は大規模な軍隊につきものな課題なのだろう。







――そんなこんなでフェイトは新501基地に赴任した。時空管理局随一の精鋭である彼女が智子の愛弟子であると知れたのはすぐであった。

「久しぶりね、フェイト」

「3年ぶりですね、中尉、いえ、今は大尉でしたね」

久しぶりの再会に旧交を温める二人。そこにシャーリーとハルトマンも加わる。

「おっす、久しぶり〜」

「シャーリー大尉とエーリカ中尉もお元気そうですね」

「なのはは元気してるか〜?」


と、一同のフレンドリーな会話にあっけに取られるミーナや坂本ら。フェイトと昔からの知り合いであるかのような態度を智子が代表して事情を説明する。

「この子、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは私の弟子よ。未来世界で出会ってね。面倒見て随分になるの。ミッドチルダとは時間の流れが違うから、私が初めて会ってからは8年になる」

「なにぃ〜!?お前が弟子を取っただと!?信じられん……お前の柄じゃないだろ」

坂本は智子が弟子を取っていたのが信じられないようだ。彼女の若き日のやんちゃぶりからは想像がつかないらしい。もっとも、智子から見れば『泣き虫』だった坂本が鬼教官として振舞っているのが信じられないのだが。

「坂本、それ言ったらね。あたしから見れば……」

「わ〜わ〜!それを言うなぁ!」

「はいはい♪」

かる〜く坂本をあしらう智子。まるで幼少の妹をあやす年長の姉のようである。坂本も智子の手にかかれば芳佳やハルトマンらと同じようになってしまう。何気に最年長は伊達ではないのだ。バルクホルンは智子の手腕に改めて感服したようで、感動している。

「上層部の要請であなたがここに派遣されたというわけですね?フェイト・テスタロッサ執務官」

「そうです、中佐。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官、ただ今を以って着任致します。」

海軍式敬礼を決め、着任の申告をするフェイト。階級待遇は少佐。これは管理局武装隊での待遇をそのまま通常の軍隊に当てはめたためだ。新・501の面々と交流するのに大忙しなフェイトであった。そして、その翌日にはフェイトに連邦軍から専用のVF-22Sが支給され、格納庫に運ばれた。



――格納庫

「お、VF-22Sじゃねーか。お前はギャラクシー系好きだねぇ」

「最初に乗ったのがナイトメアだったんですよ。それでそのままシュトゥルムフォーゲルに。これにこいつにはハイマニューバモードがありますからね」

「なるほどねぇ」

フェイトは最初に乗ったVFがギャラクシー社系のVFだった都合上、そのままVF-22へ機種転換した。フェイトはフロンティアでの実験経験がある分、なのはより腕がいい。事が終わった後、VF-19に搭乗するのを勧められたが、VF-22系列にはハイマニューバーモードがあり、それを“ソニックフォームに通じる”として気に入っていたため乗り換えなかったのだ。

「あたしはカットラスからメサイアに乗り換え予定だけどさ。支給申請の認可はされたんだが、チューニングが終わるまで来ないんだよ。エンジン取替え頼んじまったのがまずかったよ。ハッハッハ」

「相変わらずですね。……あれ?エンジン取替えって……アレ以上ないですよ?」

シャーリーははっきり言って、軍隊にいるほうが不思議なほどのスピード狂だ。未来世界でも仮面ライダー達の超マシーンに乗ってみたいと一号やV3にせがんでいたのをフェイトは記憶しているが、相変わらずらしいと嬉しそうに笑う。



「ああ、FF-3001の次期モデルの推力増強型を乗っけてもらうんだよ。それでG耐性も強化してもらうから遅れてんだ。YF-29はバカ高いから申請通らないだろうからメサイアを弄って改造してもらうことにしたんだ」

「なるほど。パックも込みですか?」

「そう。トルネードを回してもらうからミーナ隊長が帳簿見たら目玉飛び出るぜ」

「アレ、VF用のパックでも有数に高いから被弾しないほうがいいですよ」

「ああ、修理代で一ヶ月の隊予算ぶっ飛びかねねートンデモ値段だからな♪」




そう。YF-29はロンド・ベルでさえ、2201年度最初の審査で数機の配備が通ったとブライトが泣いて喜ぶほどに『お高い』機体だ。フロンティア船団がバジュラ本星に移民に成功して、資源供給に問題は無くなったが、超高純度の物を用いる都合上、大量生産が難しいのには変わりない。昔のスーパーカーで言えば、YF-29はフェ○ーリのレース用の最速モデル、VF-25は市販のスポーツカーの最高性能車である。そのくらい単価が違うのだ。シャーリーはそこを読んで、ヤマト乗艦時に使った機体をヤマトから拝借したのだ。追加装備はトルネードという贅沢ぶりだ。修理代が出たらミーナが泡吹くのが確実なお値段。それでも29に比べると廉価なのだが。


「あたしの29もあるからミーナの胃に穴あくわね」

「お、トモコ大尉も整備かい?」

「ええ。自主的に整備しろってウチの飛行戦隊の伝統でね。だけどこいつは難しいから覚えるのに数年かかったわ」

そう。精密機械もいいところな可変戦闘機はこの時代の整備士の手に余ると言っていい。連邦軍の整備兵は大忙しなので、手空き時にはパイロットも自主的に所有機体を整備するのがVF配備後の501の通例であった。三人はそれぞれの機体の調子をチェックしたり、内部部品の摩耗をチェックしては、新品に取り替えたりする。



「うーん。ガンボットの銃身の命数が過ぎてやがる。あとで連邦軍のほうに内筒を新品に取替えしてくれるように頼んでくれ」

「OK。内筒が逝くってどんだけ使い込んだの?」

「アフリカの方で敵のMSとかにけっこう撃ちこんだり、ネウロイに高弾速のMDE弾頭を連続で叩き込んだりしたかんな。負担がかかちまったんだろう。見てくれ、ライフリングが殆ど消えてる」

「本当だ。こりゃ凄いわね」

「MDE弾頭って威力あるけど、銃身に負担かけますからね」

ガンボットの実弾使用モデルには古今東西の火砲の内、ライフル砲が抱える問題が当然ながらある。銃身のライフリングが使い込むにつれて消えていくことだ。実体弾砲撃が主流だった時代の海軍軍艦には、ある一定数発砲すれば、砲塔の砲身、もしくは内筒を取り替える必要があった。それは大口径砲になればなるほど取り替えに必要な弾数が短くなった。洋上艦艇では、大和や武蔵の46cm砲は200発程度の発砲でドック入りが必要と判断される。ガンボットは高度な工作技術で火砲としては銃身の寿命が極めて長いが、MDE弾頭の登場で短縮されてしまった感がある。それを見越していたのか、新鋭機ではビーム型が使用され始めている。

「あたしの29はビームガンボットだけど、一個しかないからねぇ」


最高性能機の29が使うビームガンボットは通常のガンボットよりも高価な上に、VF-27やYF-29などの新鋭機でなければ作動させられない都合上、少数で使用される程度だ。

「そうそう。予てから実験中のパワードスーツが回されてくるって噂が整備の奴らの間に伝わってきたけど、本当なのか?」

「本当よ。ミッドチルダでテストしてみて、調整を行なった上での配備だから、もうじきこっちにくるわ。使用時に魔力を増幅させる機能もあるから坂本みたいな引退間近のウィッチでも油が乗り切った時の魔力へ回復させられる機能付き。でも、出処が怪しいから制式採用怪しいのよ」

「本当かよ。よくまぁそんなの採用しようとするなぁ」


「そりゃゴップのじいさんにでも聞いて。どうやらその技術を何処かから持ってきたのあの人らしいから」

「あのじいさん、裏方面に凄そうなもんな……」

ゴップ連邦議会議長のパイプは今や並行時空にも及ぶ。それをどこからもらってきたのかは彼しか知りえぬ事項だ。シャーリーはメカトピア戦争終結時に連邦政府の叙勲の対象となったために一度だけ対面したが、『狸』と言える風貌と“連邦政府国防族議員の黒幕”と呼ぶに相応しい腹黒さはレビル将軍も認めるものだ。時空管理局を間接的に地球への友好関係へ突き動かしたのは、彼がマジンカイザーや真ゲッターロボの真の実力を示唆したからとも言われる。


「そうそうフェイト。なのはに伝えといて。連邦軍での階級が進級したってこと」

「と、言うことは中尉ですね?」

「いきなり大尉ってわけにもいかないから、中尉として数年勤務した後に大尉へ進級させる話らしいわ。佐官以上は通常通りに昇級試験受けてくれって」

これはアメリカ軍での通例が2201年時に採用されたものだ。佐官以上の質的向上のために佐官へ進級の際は昇級試験を設ける事が規定された。これは2201年時に尉官以下(アムロはそれ以前に少佐進級したので対象外)であった全軍人に適応される。佐官以上では作戦立案の手腕も問われるからだ。

「わかりました。今度連絡しておきます」


「…よし。部品を取り替えて、アビオニクスの同期も終わり。作動させますよ〜」

「やってくれ」

フェイトはVF-9のコックピットに座り、整備した箇所の作動を確認する。フラップやラダーを作動させてみる。

「おっし、動いてる。問題ない。後は整備班にガンボット取り替えるように言えばOKだ。サンキュな」

「いえいえ。慣れてますから」

「ガンボット取替えりゃエレメント組めるからVFでの飛行任務できるけど……どうすんです?」

「ミーナと協議しとくわ。ストライカーでの飛行日程とか調整する必要もあるし」

VFは強力なマシンだが、数は無い。一騎当千も腕によっては可能だが、弾薬や推進剤の確保も不可欠だ。そのためミーナは隊の財政が整うまでの間、VFの運用を見送っているのだ。

「弾薬は地球連邦の援助で確保出来たけど、追加装備の調整とかは別だからな……」

こうしてこの日の風景は過ぎていった。新生501の本格出動が下令されるのはこの日から一週間たった日のこと。目的はティターンズに奪取されているヴェネツィア公国とロマーニャ公国へ通じる大陸部の制空権確保。そこで彼女らはかつての敗者の意地を垣間見る……。かつて連邦軍を恐怖に陥れた一体のガンダムの系譜を受け継ぐ機体によって。開発者時にティターンズが崩壊したために持ちえなかったはずのその機体の名は……。


――なお、ミーナは『燃料費』と『燃料消費量』を理由に、VFの使用は『大海戦』まで見送った。しかしながらVFを大気圏で使うのに限れば、心配無用のことであり、ミーナは後で赤っ恥をかく羽目となるのであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.