外伝その39


――未来世界から持ち込まれた全てはウィッチ世界を変えた。扶桑皇国は軍編成そのものにまで地球連邦の意向に左右されてしまう事に反発する者も多かったが、もし地球連邦の逆鱗に触れたら国家中枢を超兵器で破壊されてしまうという絶対的恐怖がMSやVF、スーパーロボットによってもたらされた以上、表立って反対するものは無かった。ウィッチ運用も空母は基本編成が4隻と拡大され、基地ウィッチを空母に転用して確保するなどの手段で人員が確保された。









――西暦2200年 11月 ギアナ高地

「シナプス大佐、君の報告を聞こう」

「ハッ。我が艦隊は発見したこの世界にて、ティターンズ残党の暗躍を察知、掃討活動を行っております。ティターンズは宇宙艦隊含め、有に一個軍団は転移していた模様で、既にリベリオン合衆国は彼らの支配下に入りました」

「ティターンズは何をしようとしているのだ?」

「小官の推測ですが、派閥的にはジャミトフ・ハイマンを信仰していた者たちとの事です。ジャミトフがバスク・オムを排除して実現しようとした理想を実現しようとしているのでしょう」


地球連邦政府の軍統制機構である安全保障会議はティターンズが崩壊した後にその実権を取り戻した。これはリベラル派が軍の暴走を抑えるためという名目で復興させたもので、シビリアンコントロールを復活させたい彼らの思惑であった。しかしいつの時代も無能な政治家が軍を政争の道具に使ってきた前例があるため、国家が緊急の時には事後承認を行うのと、有事即応部隊は即動けるように事項が改正された。これは白色彗星帝国戦やガミラスとの戦争の戦訓によるもので、リベラル派を嫌う傾向があるヤマト幹部の発言力が強くなった証でもあった。(ヤマトは相手国家中数を根こそぎ殲滅するのが手法である故にリベラル派からは疎んじられている。だが、国民からは神格化されるほどに人気なので排斥は不可能である)シナプスはどちらかと言えば、デラーズ紛争とその後の数年間の経験から、政治的争いを嫌う故にヤマト寄りとなった。


「君の艦隊に増援は手配しよう。だが、君の部下が現地に過剰な干渉をしているというのも聞いているが?」

「帝政日本の政治的腐敗ぶりは知っておりましょう?これは時の陛下からの要請でもあるのです」

「陛下、か……確かにあの時期は軍部腐敗が極めていた時代だな」

「ハッ。近いうちに我が連邦が現地の陸海軍を統制せねばならなくなりましょう。クーデターの情報を掴んでおります」

「よろしい。今回の件は現地からの要請という事で承認しよう。だが、全くお咎め無しというのは語弊がある。とりあえず君と幕僚の給料は数ヶ月分天引きさせてもらうし、始末書は書いてもらう」

「ありがとうございます」

これはシナプスの功績と一部部下の蛮行を差し引いた決定であった。そして、安全保障会議の決定に基づいて、現在はアフリカでマルセイユが使っているΞガンダムをそのまま現地で実戦テストも兼ねて継続配備すること、増援に宇宙戦艦ヤマトの現在の所属先である第三艦隊を増派する事が決議された。宇宙戦艦ヤマトは現在の地球連邦にとって最高練度の戦闘艦である。改装後のヤマトの戦闘力を図る意味合いもあった。





――アフリカ ストームウィッチーズの駐留する飛行場

「何ぃ!?戦線の縮小だと!?どういう事だロンメル!」

「リベリオンが落ち、ヒスパニアとヴェネツィアも敵に降った。ブリタニアからのルートは封鎖され、いくら空輸を考慮に入れてもこの規模の戦線の維持は不可能になった。スエズはネウロイがいるしな」

「くそぉっ!」

マルセイユは思わず机を『ダァン!』と拳で叩く。戦線の縮小は状況が更に悪化すればすぐに撤退に繋がるからだ。ロンメル将軍からの電話に思わず悔しさを吐露する。


「ティターンズの動きがいまいち掴めん。向こうも何か動きがあるのは確かなんだが……向こうにはガルダ級があるしな」

「写真で見たが、あんなB-36ですら小鳥に見えるようなのが飛べるとはな……」

――ガルダ級超大型輸送機とは、グリプス戦役前後に連邦空軍がガウ級を凌ぐ機体を持つことの拘りや当時の防空構想に則って、7機前後が建造された超大型輸送機である。地球連邦空軍がその技術の粋を凝らして作り上げた史上最大の輸送機で、全長はかつての米軍原子力空母とほぼ同等。搭載量も有に9800トンを超えるという巨人機。ただし、これを運用するには長大な滑走路が必須であるので、23世紀の地球連邦で運用可能な拠点は数える程度である。ティターンズが短期間で勢力を広げた背景には、この輸送機の活躍のおかげである。

「23世紀にもなれば300m級の物体を飛ばすのなんて訳ないだろう?それとお前にはMS指揮官としての訓練も受けてもらう。戦線の維持はお前にかかってるという事を忘れるな」

「分かった…」

マルセイユはこの時期にはすっかりMSパイロットも板についてきていた。ロンメルに自分の双肩にアフリカ戦線の行末がかかっていると言われると意識せざるを得ない。柄にもなく炭酸飲料を喉にかっ込んで緊張をほぐそうとする。

「珍しいですね、大尉がサイダーを飲むなんて」

「飲まなけりゃやってられんさ……ロンメルから戦線の縮小が通達された。今の規模の部隊の維持は不可能と判定され、可能な限り、『転進』を支援しろとの事だ」

「転進って、あまり聞きたくない言葉ですね」

「ああ。あの世界の日本人の気持ちが分かるよ。クソッタレッ!」

マルセイユはこの一年、事務作業を押し付けている格好のティアナに愚痴をこぼす。彼女のオレンジ色の髪の毛はアフリカの過酷な環境故か、色素が多少抜けている。彼女がミッドチルダから戻って二週間ほどになるが、元々の所属先である機動六課のヴィータからは相当慰留されたらしく、一悶着あったとの事。

「いいのか?こっちに戻って。向こうに復帰する事も選べたんだぞ?」

「いいんです。なのはさん達も似たような事してたせいか、私の境遇はわかってくれてますから」

「そうか……」

その言葉から、ティアナの意志を尊重する形でなのははティアナをアフリカへ送り出したらしい事が伺えた。それはなのは自身が地球連邦軍人との二足のわらじを履いていたからだが、なのはもヴィータをなだめるには相当苦労したのは言うまでもないが、ややこしいので省いた。

「MSの配備はZプラスが数機、ジャベリンが数機追加されました。コスモタイガーも新型が10機ほどだそうです」

「凄いな。アウドムラは」


地球連邦空軍が再度所有したガルダ級超大型輸送機『アウドムラ』。旧・カラバが旗艦として運用した事で有名。地球連邦は同機ともう一機を使用して補給物資を時空管理局の協力のもとで空輸していたが、如何に同機を用いても輸送艦隊の輸送量には及ばない。それがロンメルをして『戦線の縮小』を決断させたのだ。だが、運べる物資量はこの時代の如何な輸送機を超越はしており、MSや戦闘機を複数運搬可能なペイロードは連合軍兵士の羨望の的であった。ただし、あまりにも巨大故に滑走路は通常戦略爆撃機基準でさらに10倍近くの延長を余儀なくされた。







――基地の外 滑走路

「MSを下ろすぞ〜壊すなよ〜」

「Zのフライングアーマーの部品の梱包は開けとけよ〜」

アウドムラから降ろされるZプラス。その形式はA1型及びC4型で、C4型についてはティターンズ残党の資源衛星から地上への輸送ルートの通商破壊戦に使用するための配備であった。それを見学しているのはシャーロット・リューダ―と稲垣真美であった。

「最近増えたよねぇ、ああいうロボットに変形する飛行機。フレデリカは文句言ってたけど」

「ああいうのはロマンも入ってる感あるからね。あれは『飛行機に変形できるロボット』なんだけど、フレデリカさんにしてみれば多機能な兵器は認められないんだろうけど、ティーガーを作っちゃってるしなぁ」

フレデリカ・ポルシェは未来世界ではフェルディナント・ポルシェ博士として存在していたと地球連邦政府側に推測がなされている。ティーガーは確かに未来世界における過去でY号戦車として造られた。その時にポルシェ博士は戦車を試作したが、あまりの新技術やらを詰め込んだ結果、『戦車道の世界』で角谷杏から『戦車と呼びたくない戦車』との評価をもらってしまった。フレデリカも異世界の自分と思われる存在が作った兵器がまさか低評価されているのにはさすがに憮然としたそうだ。

「あれはねぇ……ユニットは良かったけどねぇ。結局、戦車はフレデリカの案は採用されなかったし、可変MSはどっちつかずって感じだって、フレデリカ言ってたよ」

ティーガーは確かに数年間、『火消し』として活躍した。ストライカーユニットとしては試作段階であったが、成績は良好。スピンオフで戦車も制作された。しかしそれは彼女の設計案のものではなく、ヘンシェル社の案が採用されているという。前に、技術将校であるフレデリカはロボットと飛行機のどっちつかずとも捉えられる可変MSに苦言を呈したそうな。しかしながら未来世界では汎用性が求められる故、可変機の需要があるのだ。

「お、お嬢ちゃんたち見学か?」

「はい」

「丁度いいところに来た。面白いもの見れるぞ」

「面白いもの?」

40代前半の整備兵が『面白いもの』というのはZプラスA1型の頭部をメガキャノン搭載型のそれ(A2型)に換装するために、ウェーブライダー形態からMS形態へ変形させてから頭部を換装することだった。

「す、すご〜い」

シャーロットは思わずあっけにとられる。Zプラスはあっという間に飛行機のような形態からMS形態になり、機体を起こし、機体を固定された後に頭部がA1型からA2型のそれに取り替えられる。

「あっという間なんですね、Zの変形」

「これがZの真骨頂さ。もっともコイツの開発年度は第一次ネオ・ジオン戦争に入る頃で、モデル的にはそろそろ古参に入るが、コイツほどの性能を持つ可変量産機は未だ出てない」

真美に整備兵は言う。彼の言う通り、ZプラスはA1型完成時には『超高級量産機』の部位に入るくらいに高性能であった。これは一部機能を省いた以外はほぼZガンダムそのままの性能を持っていたからで、その後に一部性能は凌ぐリ・ガズィやZUの発展量産機であるリゼルが開発されたものの、Zプラスのポテンシャルには未だに及ばない。これはZプラスそのものが近代化改修されたり、新造機が作られたりして性能が向上していったのも大きいが、後発機らは政治的事情などで総合性能がある程度抑制されたりしているからだ。

「コイツは軍閥抗争の時の、自由に予算が使える時に設計されたから実際の性能も高いんだよ。カタログスペックは当てにならんからね」

「へぇ〜」

兵器が実際に戦場で発揮する性能は条件が本国より悪かったりするので、最良値と差があるのだ。それはどこの国の、いつの時代でも同じ。航空兵器が登場後は特に表れやすい。例えば、旧ドイツ空軍の『FW190D型』もカタログスペックでは『P-51に対抗可能な速度』とされたが、実際の戦場では日本軍の疾風や紫電改の運転制限下でのスペックと大差ない速度しか出なかった個体もあったとの記録がある。それはMSやVF時代でも同様。地球連邦はジオンなどと違って、部品の精度は安定しているものの、戦場で最大スペックが発揮できるとは限らない。そのために前線はたとえ年式は古くても実績のある兵器が好まれるのだ。Zプラスやジェガンが新型で置き換えらないのはそういう事情もある。


「おやっさん、ビームライフルが新型になってるからちょっと見てくれ」

「あいよ。それじゃまたな」

整備兵は真美達と別れ、Zプラス用の新式ライフルの確認に向かう。基地を見てみると、紫電改や疾風などの通常戦闘機の姿も見える。アフリカ戦線が風雲急を告げている今、ストームウィッチーズ単独で基地を使うわけにも行かないのだ。4式中戦車や5式中戦車と言った扶桑製戦車、カールスラント製のX号戦車、地球連邦空軍製のコスモタイガーに宇宙軍のジェガンなどの姿が見え、哨戒を終えて帰還する電子戦用のアイザックとその護衛機が乗ったサブフライトシステムが帰還する。アイザックは元はティターンズ主流時代に採用された機体だが、機体数が少なくなった故に現役で使用されているのだ。これには要因がある。一時的に完全平和主義へ走った影響とメカトピア戦争の疲弊でティターンズ系MSの封印を解かなくてはならなくなったためである。地球連邦の国民が土壇場で完全平和主義を捨て、軍の存続を選んだ背景には現実的な要因がいくつかある。

――一つは白色彗星帝国などの無慈悲な侵略者の襲来の結果、軍事的に宇宙怪獣や宇宙人相手に生き抜く力を求めた事、もう一つは技術的に文明の進化が起きなくなる事を恐れた技術者(身も蓋もないが、文明の進歩は戦争と密接な関係がある)の提言、後は軍備解体に伴う大量失業の処理の問題と軍事専門技能が失われることの懸念(当初の構想ではプリベンターが極秘にその受け皿となる予定であった)と、アナハイム・エレクトロニクスなどの軍需産業が完全平和主義を認めず、政治的に力を行使したなどである。結果、軍備放棄は不要と国民投票で決まった。プリベンターは軍備存続に伴って、当初の『平和維持活動機関』ではなく、『情報機関』として日の目を見た。当時、リリーナ・ピースクラフト(後、ドーリアン)は不本意な選択を国民が取った事に落胆したという。だが、自分の選択で旧・サンクキングダム地域の国民に受難を強いたことを剣鉄也に咎められた事、地球本土決戦で、テレザート星のテレサがヤマトへ『ズォーダーのような暴虐非道の者を倒せるのはあなた方のように愛に生きる者達なのです。戦うのは決して愚かなことではありません』と、ただ座して死ぬことを否定し、愛するものを守るために戦う事を肯定するメッセージを残した後、自分の命と引き替えにズォーダー大帝へ引導を渡した事が明らかになると、自分の命を投げ打ってまで、地球のために、自らが愛した人への思いとともに宇宙へ消えたテレサに感服したともいう。剣鉄也の言葉と、テレサの最期の行動はリリーナの頑なさえあった完全平和主義への考えに一石を投じたのだ。テレサは地球連邦軍を間接的に存続の危機から救うと同時に、地球連邦政府の国民の意識を変えるきっかけともなったのだ。このような背景でティターンズ系MSが復帰したのだ。と、言っても性能的に既に一線級とはいえないモノも多かったため、復帰したのはバーザムなどの後期の機種のみであった。ただし、モノアイは禁止されたため、ゴーグルへの改修は必須とされ、バーザムの改修型『バージム』の配備数増加(再生産)などが決議され、このアフリカにも一個中隊分が配備されていた。









「アフリカから部隊の多くを移動させてるな」

「MSの多くをガルダ級に載せてたところ見ると、アジアかどこかに狙いをつけたか?」

「だろうな。アフリカは資源採掘のための部隊さえ置いときゃいいからな」

帰還してきたパイロット達が口々に言う事はアフリカからティターンズが部隊を移動させているという事であった。真美達はそのパイロットに話を聞いてみることにした。


「アフリカは資源はあるが、広いから全てを持つ必要はない。資源さえ得られれば植民地だった地域を衛星国として独立させれば事足りる。奴らは色々な手法でアフリカを分割すればいいのさ」

「なんでそんな事を?」

「大昔のローマとかもそうだが、ひとつの国がでかくなりすぎると、中央政府の統治が行き届かないで地方の役人が好き勝手して腐敗していく。そこから帝国とかの崩壊が始まるのがパターン。ティターンズはそこをよく心得ているから衛星国を作ったり、傀儡政権作ったりしてるんだろう。厄介なことに、ティターンズはアフリカで有色人種差別を進めているらしく、有色人種の支持を得てる。リベリオンに下手に攻撃すれば有色人種から抵抗されると上も悩んでる」

「ええっ!?」

「作戦延期が検討されそうなのよ。予想より宥和政策してて、支持もあるしね」

これは連邦側も思わぬ誤算だった。ヘンリー・ウォレスはティターンズの助言を得ているらしく、有色人種差別撤廃政策を進めているらしい。有色人種達の支持を得れば、白人がなんと言おうとも人類融和の大義名分を得れるし、聡明な大統領の看板を後世に誇れると踏んだのだろう。軍備はティターンズが勝手に近代化してくれるから自分から増強はしないということだろう。

「そういうのってややこしいんですね」

「そうさ。だが、そういう問題は基本、上の政治屋共が考える事さ。俺達は鉄砲撃って、敵とドンパチすんのが仕事だ。それは心得ておけよ」

兵士はいう。確かに政治的事情も出てきてきたが、そのような事情は政治家が考えるべきことだと。ウィッチ達の間には軍人としての自覚に乏しい者もいるのを連邦軍の全てが受け入れているわけではないのだ。地球連邦軍は旧各国の軍隊のごった煮のような面がある故のことである。

「おい、お前が説教垂れる立場か?お嬢ちゃんたちに垂れる暇があったら少しはショットランサーの使い方覚えろ」

「ち、中尉殿」

「すまんね。新米が講釈を垂れて。まー、気にせんでくれ。お嬢ちゃんたちはどうだい調子は」

30代と思われる士官が兵士を諌める。ベテランの風格があり、そこそこの部隊を率いるような雰囲気を見せる。


「まーたしかにティターンズはアフリカ方面の主力をアジア方面に転出はさせているが、アフリカ植民地にこの時代の第一線級の装備を与えている。ガリアはもうアルジェリアを植民地には戻せんよ。やればアルジェリア戦争の二の轍を踏む」

ティターンズのもう一つの狙いがこれ。アフリカ植民地を本国から切り離し、史実戦後を訪らせる事。独立国家にすれば、旧宗主国を打ちのめし、旧宗主国の国力を削げる。これに欧米諸国は衝撃を受けた。特にネウロイの占領から解放されたガリアは植民地を失えば、国力が衰退してしまう。しかし植民地を再占領しようにも、現地住民に核を与えられれば自国が破滅するし、ティターンズの本隊がその気になれば本国を捻り潰すのも余裕だ。彼の言う通り、これ以後、ガリアは植民地を失った事で国際的発言力を戦前より大きく低下させてしまうのであった。

「どうなっちゃうんですか、この世界は」

「ティターンズの直接・間接統治下の国々とうちらと同盟を結んでいる旧大国群に別れるだろうな。後継者の育成もそろそろ開始するだろうから、冷戦期も訪れるのは近いよ」

「冷戦?」

「『冷たい戦争』の意味さ。俺達の世界じゃ二次大戦後から20世紀末までの50年近く、米国を盟主にした民主主義国家とソ連邦を盟主にした共産主義国が行っていた事を指す。ティターンズが核製造技術を与えていたら、正に冷戦の訪れになるかもな……」




――核兵器の破壊力はこの世界では魅力的であり、小国でも大国を脅せる事を意味する。ネウロイの行動が各地で小康状態に入りつつある以上、通常兵器がこれで飛躍的に進歩する事を示唆していた。扶桑を例に取ると、戦後自衛隊の火器である64式7.62mm小銃が99式小銃の後継として、名前を旧軍式に『5式自動小銃』とした上で採用され、地球連邦の技術援助のもとに生産され始めた。カールスラントは『H&K G3』を制式採用したし、亡命リベリオンはM14を主力に採用する動きがあったが、地球連邦軍の旧米軍部隊出身の高級将校が『M16を採用すべし』と助言したこともあって、史実通りにM16が採用された。だが、慣れ親しんだM1などの正統改良型という点が実戦ウィッチたちや兵士にバカ受けで、折衷案でM14も採用採用されたという。このようにティターンズの統治が始まり、冷戦の兆しが現れ始めた1945年を以って、『冷戦の始め』とすると後の歴史に刻まれるのであった。









――アフリカ戦線ではMS戦も珍しいことではなく、ちょくちょく衝突が起きていた。砂漠を進撃するハイザックの一団。2201年現在では古めかしいと十分に言えるその機種は砂漠用の迷彩と防塵改造が施され、ザクマシンガンを構え、進撃する。そこをサブフライトシステムに跨って奇襲をするジェガンR型。ジェガンの方は砂漠用防塵仕様には改造されてはいるが、カラーリングは良く知られる緑色のカラーリングのままだ。元々の性能差が大きい両機種。練度差でどうにか出来る程ではなく、ジェガン側がビームライフルで一撃加え、サブフライトシステムのミサイルで戦闘不能にされる。

「ハイザックでジェガンに立ち向かうほうがどーかしてるぜ。……こちら第102哨戒小隊、ハイザックの小隊を戦闘不能にした。近くに基地がないか探索してみる。」

「了解。こちらからも援軍を送る。合流次第、任務を再開せよ」

アフリカ戦線におけるトブルク基地はジェット戦闘機が運用可能なように滑走路が拡張&追加され、Zプラスのウェイブライダーやコスモタイガーが運用可能になった。これは地球連邦の都合によるものだったが、ティターンズにもっとも苦戦した地域の一つであったため、歓迎された。そんな滑走路からZプラスA2型のウェイブライダーとコスモタイガーが出撃していく。ジェットエンジンの快音が周囲に響き、出撃であることを否応なく実感させる。レシプロエンジンと異質の音であるジェットエンジンの音に不快感を示すウィッチはこの時代、多い。ルッキーニもその一人だが、時代が移り変わる時勢にはよくある事だ。マルセイユも格納庫に行き、Ξガンダムへ乗り込む。彼女は最近は元々の能力が発展して、魔法を超えた次元、即ちニュータイプ能力へ昇華しつつあるのか、ガンダムタイプに慣れて来ていた。










――格納庫

「ファンネルミサイルの糾弾は完了しております」

「ご苦労。先行している友軍と合流して、敵基地の探索に入る。出るぞ!」

イグニッションスィッチを入れる。同時にΞのカメラアイが輝きを放ち、ミノフスキークラフトが作動を開始し、Ξを格納庫から出ると同時にゆっくりと空へ浮かび上がらせる。空気抵抗低減用のビームバリアが展開されると同時に、Ξは加速し、音速を超えた。





――飛行中、マルセイユは改めて、この23世紀の最新科学が生み出した機械の兵士に慣れてきている事を自嘲気味に呟いた。

「まさか自分が寿命で死ぬよりも遥か後の時代の兵器をこうして動かすなんてな……フフ、バルクホルンの奴が聞いたら泡吹くだろうな」

マルセイユはかつての上官であるバルクホルンと折り合いが昔から悪い。最近、ハルトマンづてに『バルクホルンは重度のシスコン』であるのを知り、妹がらみで何か頼んできた時はからかってやろうと決めた。友軍編隊とは数分で合流し、マルセイユもZプラスA2型の部隊長(中佐)の指揮下に入った。





『偵察隊の推測から、ハイザックが徒歩で作戦行動を取れる範囲に前進基地があると思われる。おおよそ10数キロの範囲だ。旧式MSの脚部はトラブりやすいからな』

――MSの脚部は地上戦ではもっとも負担がかかる部位である。旧ジオン軍でドダイYSをサブフライトシステムの始祖にした理由も、長距離進軍の際に脚部がトラブルを起こすためであったともされる。23世紀を迎えた現在では技術の進歩で解消されつつあるが、なるべくサブフライトシステムの使用や可変MSによる侵攻が推奨されているという。

『了解』

7分ほど飛んでいると、ハイザックよりは新式であるマラサイがサブフライトシステムに乗って迎撃に出てきた。マラサイは流出した機体がネオ・ジオンで使用されたり、そこから旧ジオン軍残党へ更に提供されたりする名機で、ネオ・ジオン主力のギラ・ドーガのベースにもなった。攻撃力は今なお一線級である。

『各機、敵はフェダーインライフルを持っている!注意しろ』

フェダーインライフルはガブスレイの火器である。火力は強力で、サラミス級巡洋艦ならば一撃で撃沈可能な威力である。彼らはそれを正式に量産したらしい。ジェガンのビームライフルより射程が長く、攻撃を開始した。

『各機散開!』

フェダーインライフルの一斉射撃が空を切る。紫電の光が散り、近くの岩山を粉砕する。当たればジェガン程度では致命傷となるだろう。そのため、パイロット達は機動性で白兵戦に持ち込む事でそれを解消せんとした。マルセイユはΞの運動性を以って、撹乱に打って出る。

「ライフルの性能はこっちが上だ……行け!」

Ξガンダムのビームライフルは大型MS用ビームライフルでは最新の専用モデルである。威力はνガンダムのそれよりも上というカタログスペックを持つ。マルセイユはそれをアテにはせず、得意のトリッキーな格闘戦術をMSで再現していた。Ξはマルセイユの操縦に機敏に反応し、敵の攻撃を躱しつつ、サブフライトシステムごとマラサイをビームライフルで貫く。その時には魔法も併用しているため、普段、マルセイユがストライカーユニットでやっているそれを再現する形であった。




――ウィッチが搭乗型兵器に乗ると、反応速度の遅さや違和感を訴える例が多いが、23世紀製兵器はその限りでない。MSやISなどは反応速度が脳が人体を動かすのと同じか、それ以上の反応速度を誇るため、ウイッチでも違和感なく操縦できるのである。特にΞガンダムはサイコミュシステムによって反応速度が早いのだ。マルセイユも敏感だと思うほどによく操縦に答え、ファンネルを操っていた。


「ファンネルミサイル、いけぇ!」

Ξガンダムはファンネルがビームでなくミサイルである。誘導兵器の精度が低下した昨今、アナハイムの技術陣が『サイコミュシステムで誘導制御すりゃいいんじゃね?』な発想で開発した新型ファンネルである。マルセイユは元々、ニュータイプの素養があり、それが開花した現在では余裕で操れる。本体と別行動を取らせ、ライフルやサーベルと併用してマラサイを粉砕していく。制空権確保のためのガンダムでもある故、Ξは大柄の機体にしては破格の機動性で攻撃を避ける。

「三機撃墜、一機中破か……まぁ上出来か」

残った機体はジェガン隊とZプラスA2型に任せ、自身は敵が来た方角を特定、先行する。すると更に数キロ先に中規模の駐屯地が建築されていたのが見えた。カメラを望遠モードで確認すると、61式戦車やハイザックを輸送機へ搬入する様子と、時代相応の装備(P-51やP-47)が出撃しつつあるのを確認する。

『こちらマルセイユ。敵駐屯地を発見。繰り返す、敵駐屯地を発見。P-51やP-47を出撃させつつあり。方角はベンガジ方面。付近の友軍は迎撃を。当方はこのまま爆撃を敢行する』


マルセイユは機体を降下させ、先行して爆撃を敢行する。慌てて高射砲やMSが対空砲火を上げるが、Ξのトリッキーな動きに追従しきれず、かろうじてシールドに当てる程度であった。

(ファンネルミサイルの残弾も尽きたし、最後はメガ粒子砲で駐機してあるのを薙ぎ払うか)

マルセイユはOSのウェポン使用の項目からメガ粒子砲を選び、スィッチを入れる。すると、Ξの両肩部メガ粒子砲が火を噴く。ZZのような大口径故に連射性能は高くはないが、威力面は駐機されているP-51Hを20機ほど薙ぎ払うには十分。数秒の照射で戦果を挙げる。これでも本職の爆撃装備のZプラスA2型には及ばないのだ。BN型という本格爆撃仕様は存在するが、生産数が少ない上に、近代化計画には今のところ揚げられていない。そのため現地部隊の苦肉の策でA2型に爆撃装備を施す策が取られているのだ。マルセイユの襲撃から数分の後に、ZプラスA2型及びジェガン隊の爆撃が行われ、この駐屯地は機能を喪失した。この戦闘の報は501にも伝えられ、バルクホルンはまたも驚愕のあまり、手にしたコーヒーをエイラへ盛大にぶっかけたという。



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