外伝その41


――扶桑皇国は急激に防空網を整備し始めた。これは史実太平洋戦争で防空網の不備が帝都含め全ての都市を焼け野原にされたという情報と現実に迫る『成層圏の要塞』の脅威に怯えた防空部隊や国民の突き上げで実現した。低調状態の高射砲整備を全て最新型で統一し、防空戦闘機やストライカーユニットをジェット化したのもそのためであった。


――1946年 南洋島

「最近は防空部隊に出番が増えて大変だぜ」

「VT信管だとか射撃統制装置の高性能化が一気に進んだからな。おかげで戦艦の探照灯担当者がだいぶリストラされたらしい」

「レーダーの高性能化も進んで、今じゃジェット機やミサイルとの睨み合いだからな」

「高速化が急激に進んだから空中聴音器が全部引退してレーダー基地に切り替えられた。これも時代の流れか……」

「それと別の世界でレーダーの遅れが破滅に繋がったことに上層部が恐れをなした面もある。広島と長崎は核爆弾で消滅させられ、帝都は焼け野原。未来人からは俺たち軍隊は白眼視されているからな。」

「ウィッチの方もジェット化で揉めたそうじゃないか?」

「俺の妹の話じゃウィッチにも派閥抗争があって、一悶着あったんだよ。空軍設立に反対するエクスウィッチが嘆願書出したりしたけど、陛下の裁可得た決定事項を覆すわけがないいからそのまま設立されたし」

「どこも派閥抗争、か……」

――扶桑皇国には無数の派閥抗争があった。それは扶桑海事変や今次大戦を期に粛清されつつあったものの、既得権益はエクスウィッチにもあり、空軍設立の際にはかなり揉めたのが示唆された。だが、時勢の切迫性がそれを打ち消し、空軍は予定通りに設立された。


「先の501の活躍で最も功を上げたのは誰だっけ?」

「ほら、デストロイヤーの菅野大尉と、空の宮本武蔵の宮藤芳佳中尉。あの二人はあれで一気に功を上げたからな」

菅野と芳佳のペアがこの時期、扶桑皇国航空ウィッチ最強の一角に食い込んだと言い合う兵士たち。そのきっかけとなったのはこの時から一年ほど前の1945年の事……









――1945年 ロマーニャ

「何ぃ、ネウロイがローマに?動ける奴は出撃!私に続け!」

501に坂本を送り届けた黒江が防空担当の兵士からの連絡で『ローマにネウロイの一団現る』と報を受けとると、独断でそのまま動けるウィッチを総動員して出撃させた。無論、自分もである。ミーナは事態の切迫性から、仕方なく承認。現場指揮権を黒江に委ねた。これは坂本の指揮権が謹慎処分時に停止されていたためである。

「宮藤は菅野の護衛に、穴拭は坂本をカバーしてやれ。紫電改に慣れていないからな。他の者は相互連携を忘れるな。ISを持ってる奴はストライカーユニットが稼働限度時間を迎えた段階で使え。それ以外は適時補給にもどれ」

「了解!」

この時にローマを初空襲したのはB-17Eを想起させる重爆型ネウロイ、F-84型などの新型空戦型であった。501はこれによく対応した。相対的な速度差を巴戦で補い、撃墜していく。

「ハァッ!」

二刀流でネウロイを両断する芳佳。以前とは打って変わって『父との約束を果たすために、誰かを守るために戦う』事を座右の銘とし、刀を振るう。紫電改は芳佳の要求によく答え、時速680キロと空戦フラップの効果を用いた小回りで速度が緩んだ敵を討つ。この光景に、この一年で芳佳が腕を上げたのを実感した坂本は嬉しそうに笑うと、自身も突貫する。嫌がった紫電系列のストライカーユニットであるが、いざ使ってみると紫電改は確かに紫電の欠陥が改善されているのを実感する。

(この性能……欠陥が改善され、未来人から受けがいいのも分かる。だが、やはり編隊戦が花形になるのは寂しいな……)

坂本は空戦の様相が単騎巴戦主体から編隊での集団戦に移り変わっていくことに一抹の寂しさを滲ませる。坂本は編隊空戦の重要性を若いうちから見てきた。それ故に理解はしてはいるが、大戦初期までの単騎空戦でエースと持て囃された先輩達のような活躍に憧れていたためと、海軍航空隊が長らく巴戦重視のドクトリンだった影響で自身も巴戦技量を磨いてきた。だが、それだけでは敵に勝てなくなったために徐々に編隊空戦を取り入れてきた。それがここ一年で性急とさえ思えるスピードで軍全体に普及してきた。それへの反感があったのは事実だ。過剰に集団戦に傾倒すれば、個人単位ではそれほど戦力にならなくなってしまう危険性があるのを危惧したからだ。

「でやあ!」

坂本の刀の輝きは一年前と比べてさえ、明らかに鈍かった。これは急激に坂本の魔力が衰えている証でもあった。刀の切れ味も芳佳のそれと比べると明らかに劣る。坂本はこの時、自分が老兵であることを強く自覚した。しかしながら鍛え上げた空戦技術は一級品である。荒い戦法である菅野や未熟さがある芳佳に比べると、ベテランらしい成熟した戦術を取れている。

「重爆には編隊で当たれ!単機でやれば落とされるぞ!」

「了解!宮藤、オレに続け!」

「了解!」

黒江が指示を飛ばし、菅野と芳佳が一番槍で編隊先頭に突っ込む。高度10000から8000への逆落し戦法で攻める。これは343空でも新撰組との通称を持つ戦闘301が最も多用している対重爆戦法で、敵ネウロイのビームの弾幕の間隙を縫うように機関砲を当て、ダメージを与えてコアを露出させ、倒すという危険度の高い戦法である。(これは黒江達も逆行した扶桑海事変にて用いた戦法なため、この改変後の記録では、『陸軍三羽烏が最初に実行し、考案した』のをアレンジしたとされている)久しぶりに芳佳達の実戦を見るペリーヌやリーネはその危険性から驚いているが、扶桑人の勇猛さを知るもの達は思わず舌を巻く。

「落ちやがれ!」

菅野の持つ九九式二〇粍二号機銃五型(昨年後半期以後、扶桑のウィッチ用機銃の通常口径は重爆&重装甲ネウロイへの迎撃目的、ジェット機への対抗などで20ミリへ差し戻された。20ミリ砲が再度脚光を浴びたのが、皮肉にも本土空襲という局面であった。13ミリ銃では重爆及びジェット機迎撃に不向きであるという現実的問題がのしかかったためである)が火を噴く。銃の形態はドラムマガジン式では無く、ボックスマガジン式になっているため、一見するとアサルトライフルに見える。だが、扱うのは20ミリ砲である。威力は推して知るべし。(基礎初速が初期型より遥かに上がっているために、大戦初期に指摘された『弾がすぐションベンのように落ちる』という問題は解決された事を示している)装甲を見る見るうちに削り、コアを露出させる。

「頼むぜ宮藤!」

「はいっ!でぇぇりゃあ!」

菅野が離脱したすぐ後を芳佳が刀でとどめを刺す。343空で幾度か訓練していたこの連携は実戦でも効果を発揮する事が確認された。これに触発されたか、ハルトマンもシャーリーの援護を受けつつ、二番機に取り付く。そして……


「シュトゥルム!!」

未来世界で確立させたハルトマンの格闘戦術。暴風を以ってコアを装甲ごと潰すのだが、一部メンバーを除き、501の皆に披露したのはこの時が初めてである。バルクホルンは唸り、ペリーヌは唖然とする。エイラやニパ(今回は出撃できた)、サーニャにその他502の面々も感心したりである。

「こりゃ俺達も負けてらんねーな……」

「ユニット壊さないでくださいよ」

「そうそう。私達はすぐ壊すし」

「るせぇ〜!」

502のメンバーはこの日の機材状況の都合上、菅野、ニパ、ジョゼ、クルピンスキーの4人が空戦に参加していた。502勢は501の支援を主に担当していたために目立った戦果は無かったものの、いけどん体質となった数名の援護に活躍した。黒江や智子の采配もあり、ローマ上空のネウロイは瞬く間に駆逐されていった。それを基地の管制室で確認するミーナやラル、サーシャ、醇子などの司令部待機組。未来世界の援助で機械化された管制室で作戦会議を行っていた。(コンピュータ操作などはフェイトが担当)

――基地 管制室

「うーむ。ローマを襲える位置にまで敵が進出してきたか……」

「敵がローマに侵攻してきた方角を予測すると、おおよそヴェネツィア方面か、地中海方面に巣があると思われます。エネルギー反応が分散している事から、巣を分散して撃破のリスクを減らしたものと思われます」


「敵もこちらの戦術を学習してきたと考えるべきか」

「ネウロイには自己進化の傾向があります。大戦初期と比べると速度向上も恐ろしい勢いで進んでいます」

「ついに亜音速から遷音速機型が現れた以上、半年もあれば超音速型が常態化するだろう。ジェットの実用化を急がせんとな」

「ええ……速度差がありすぎると攻撃もかけられないですから」


「……え?は、はい。了解です」

「どうしたのフェイトさん」

「今、連絡が入りました。ティターンズのMS中隊がローマに接近中とのことです」

「敵の機種は?」

「問い合わせた所、エネルギー反応から言ってマラサイが二個小隊、それとガンダムタイプが一機との事です」

「ガンダムタイプ?」

「元々、ティターンズは連邦軍内の特殊部隊です。元が連邦軍である以上、ガンダムタイプを保有していても不思議はないのですが……そのガンダムが問題なのです」

「というと?」

「彼らが組織として存在していた時期には完成すらしていないはずの機体だそうです」

フェイトは告げる。そのガンダムの名を。かつて連邦軍に対して牙を抜き、恐怖のどん底へ叩き込んだ忌むべき悪魔の名を。

「その機体の名は?」

「ガンダムMK-Xです」

――ガンダムmk-X。それはかつてのグリプス戦役終結前後のニューディサイズの反乱の際に地球至上主義者によってニューディサイズのフラッグシップ機とされたガンダムである。開発系統的には複雑で、サイコガンダム系列とmk-U〜mk-W系列の血を受け継ぐ機体で、機体性能面では凄まじい高性能で、エースパイロットが駆ればSガンダムをも追い詰められるポテンシャルがある。確認のため、その戦歴を映像付きで見せる。タイムテレビでの実際の映像だ。


「こ、これは……!」

一同は思わず息を呑む。月面を凄まじい速度で月面を疾駆する青のガンダムタイプ。ビームライフルとサーベル、インコムなどの武装を駆使して、対向側のジム系MS(ネロ)を撫切りしたり撃ちぬいて倒していき、EX-Sガンダムと対峙し、銃撃戦に入っていく様を映し出す。

「これはガンダムに強力なエースパイロットが乗り込んだ場合の事例ですが、カタログスペック上でもガンダムタイプは量産型とは格が違う戦闘能力を有します。増してやティターンズは元々はエリート部隊とも目されていました。入手先はおそらく連邦政府からでしょう。あの政府も一枚板ではないので」

「政府の方針に異を唱える勢力の差し金だと?」

「ええ。地球連邦政府は戦争を経て改革派と改革派寄りの主流派が議会会派の3分の2を獲得して主導権を握ったんですが、ジオン公国というコロニー国家との大戦で地球至上主義という考えが北米や仏を中心に根付いてしまい、軍のかなりの装備が反政府組織に横流しされていたと調査結果が出ています」

「反政府か……気に入らないからと言って、自分達が属している国を転覆させるなんて、どういうつもりだ?」

ラルが言う。地球連邦政府に燻る融和姿勢への反発と至上主義者の暗躍を揶揄する。地球連邦政府は数多の血が流されてできたはずの政権であるとされるが、それも世代を経ると内部抗争に明け暮れるようになる様に呆れたようだが、国というものが長く続いていると、大きくなりすぎた既得権益を守ろうとする勢力と改革派が衝突しあう定めがある。地球連邦政府内の勢力争いで、この世界ををかき回さないでほしいと言わんばかりの声色だ。

「アースノイドの過激な連中の根本的感情は『地球を蔑ろにするスペースノイドに鉄槌を』です。パリやシドニーなどをジオンがぶっ飛ばしてからは特に先鋭化して、ジャミトフ・ハイマンという男の台頭を招いたそうです」

――ジャミトフ・ハイマン。その男はティターンズを地球環境浄化の尖兵として使おうと、ジオン残党掃討の方便で設立した。手腕そのものは有能で、ライバル格のジョン・コーウェンを閉職に追い込む政治力を発揮。しかし彼の不幸は部下を見る目が絶望的で、アレクセイなどの有能な将校が心酔した一方、ジャミトフも『責任を押し付ける』目的でバスク・オムら過激かつ無能な者を腹心に添えた事がティターンズを滅亡させてしまう原因となった。ジャミトフの思想は共感できるところもある。しかし異なる時代、異なる世界でやろうとすれば無理が生じるはずだが、それがアレクセイら当時の若手将校らによってアフリカや欧州、中東の一部で実際に実践されてしまっている事を考えると、複雑な気持ちになる一同であった。











――実質的に新生501の初陣となったこの戦いは旧501+502+αな陣容にネウロイは太刀打ちできず、瞬く間に制空権を確保したかに見えたが、サーニャの全方位広域探査が久しぶりに敵を感知し、IS保有組のレーダーがMS級のエネルギー反応を捉えたのであった。これは基地に通達が届くのと同時であった。

「この反応は……!」

「待て、エネルギー反応が普通の戦闘機とは桁違いだ!こりゃMSか!?」

「反応は6つから7つ前後……だいたいは量産機だけど、一つだけ桁違いの大きさの反応ががあります!」

「……まさか!?」

黒江やシャーリーなどが思わず青ざめ、彼女らかしらぬ動揺を見せる。量産機とは桁違いのエネルギー反応といえば、ワンオフの超高性能機。ティターンズが地球連邦軍から派生した集団である事を考えれば、自ずと答えは出る。


――地球連邦軍の『勝利と抵抗の象徴』として君臨する最強の機種『ガンダム』――。

歴代のガンダムタイプの中には『悪』の道に使われたモノも存在した。後に体制側についたアナザーガンダム達を除けば、デラーズ・フリートによって『連邦の欺瞞の象徴』と糾弾されたGP02A『サイサリス』、地球至上主義者の反乱で象徴として猛威を振るったORX-013『ガンダムmk-X』などが代表例である。彼女らの前に現れたのは後者であった。


――熱核エンジンの轟音とともにローマの市街地に現れた純白のその巨体は他のガンダムタイプとは異質の迫力を身にまとっていた。ドーベンウルフの前身である事を示す巨体とシールドブースター、ガンダムタイプであることを誇示するツインアイの織りなす威圧感に思わず全員が息を呑む。

「黒江さん、このガンダムは……!?前に連邦の現在戦史で見た……」

「嘘……なんでコイツがティターンズの手にあるのよ……あり得ないわよ…」

「まさか、まさか……コイツが奴らの手にあるだと……!?反則だぞおい……ORX-013『ガンダムmk-X』……!』」

芳佳と智子の言葉に黒江も続ける。彼女らは動揺を隠せず、戦慄する。そのガンダムタイプを睨む。歴戦の勇士である黒江と智子をして、恐れさせるガンダムの名は『mK-X』。かつてニューディサイズのフラッグシップ機として、α任務部隊を恐怖のどん底へ落とした存在。30m級の巨体も相なって、凄まじい迫力である。




――ガンダムmk-Xはローマの市民にその巨体を見けつけるかのように仁王立ちをしている。動きだせばマラサイなど問題外の性能を発揮するであろう存在。物言わぬ巨人は501の動きを封じ込め、ロマーニャの国民にその姿を誇示するかのように佇む。戦闘技能に優れるはずの黒江と智子が攻撃を仕掛けようとしないのも相なって、底知れない大物感を醸し出す。そしてmk-Xはその巨体から伺えぬ機動力を見せた。付近にロマーニャ陸軍が展開しているのを見ぬいたか、mk-Xからパイロットの声が響く。

『ロマーニャ公国の全国民及び、501統合戦闘航空団に告げる!我がティターンズは本日を以って、ロマーニャ公国に対し宣戦を布告する!繰り返す……』

それはTV演説で聞いた声。紛れも無く、残党軍の首魁であるアレクセイの声であった。全員が驚愕し、動揺する中、彼は宣言する。ロマーニャへの戦争を。ガンダムタイプを持ちだしてまで戦場で宣言する事か、というナンセンスな行為ではあるが、ティターンズ残党軍の軍事力の誇示と同時に、正式な国際法に則った宣戦布告による大義名分の確保をするあたりは彼なりのジオン残党との差別化であるかもしれなかった。



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