外伝その51


――501が航空軍編成となり、名だたるウィッチの多くが所属するようになった1945年以後の時勢は芳しくなかった。リベリオンの連合国からの離脱と分裂、アフリカ戦線の敗北、ブリタリアの補給線の途絶の心配、ロマーニャ戦線の激戦、太平洋戦線勃発の危惧など……どれもが各国を震撼させるに値する情報だった。だが、そんな中でも希望はあった。

『合体!グランドクロス!!』

ある日、501の哨戒小隊(編成はエイラ、ニパ、サーニャ)が強力なネウロイと遭遇し、苦戦していたのだが、太陽戦隊サンバルカンがサンバルカンロボを引っさげて救援に駆けつけ、その勇姿を見せたのだ。これには三人もびっくり。

「お、おい!合体して、ロボットになったぞイッル(エイラは本国では、イッルという愛称で呼ばれている)!」

「あんた達か、私達をピンチの時に助けてくれるっていうのは……!」

『そうだ。この星がどうしようのない危機に陥った時が俺達の出番だ。それは平行世界でも同じだ』

グランドクロスを終え、その勇姿を見せつけるサンバルカンロボ。スピーカーの声はバルイーグルのそれだ。サンバルカンロボはすぐに必殺技である太陽剣・オーロラプラズマ返しを発動、ネウロイを十文字に粉砕して見せる。瘴気も何もあったもんではない速攻ぶりだ。三人は呆気にとられてしまう。

「つ、強い……!」

「あんたらのメカ、どういう破壊力してるんだ!?」

『俺達のロボは比較的初期の建造だから、まだ可愛いほうさ。時代が進むとスーパー合体や要塞ロボまでいるからね』

「よ、要塞って……?」

『基地がそのまま戦闘態勢に入って、ロボになれるから、要塞ロボと言われるのさ。確か、ターボレンジャーとファイブマンが持っていたな。いや、ファイブマンのは再建造中で、参戦が遅れてると聞いたな……』

バルイーグルが言及した、『ファイブマン』とは、ターボレンジャーが活動を終えた直後に地球を守備していたスーパー戦隊で、正式名は『地球戦隊ファイブマン』という。この時期には交渉に成功し、参戦の確約を得ていたが、要塞ロボ『マックスマグマ』の大破による戦力低下を看破できなかった彼らは、再建造作業に入っており、予定より参戦が遅延していたのである。

「再建造って?」

『ああ、彼らのメカが最終決戦で大損害を受けてね、要塞が大破したんだよ。その再建造に時間がかかっているらしい』

――スーパー戦隊の巨大戦力は、1986年の超新星フラッシュマン以後、一回は敗北するというジンクスがあり、特に1990年代初頭の時期は激戦で、要塞ロボやスーパー合体ロボを以ても歯がたたなかったケースがあった。それがファイブマンのマックスマグマ(要塞ロボ)であり、彼らの後を引き継いだ『鳥人戦隊ジェットマン』のグレートイカロス(スーパー合体)である。ファイブマンは戦隊としての活動を終えた後も、解散したわけではないため(ファイブマンは元々、小学校教諭な上に、全員が兄弟姉妹である)に、活動を終えた後の年代を探しても問題なかったという。

「へえ……そんな事あるんですね」

『敵が強くなったって事だろうな。俺達の頃はサンバルカンロボ一体で事足りたしね』

サーニャにバルイーグルはこう答えた。80年代中期までのスーパー戦隊は巨大戦力は一体であった。基本的にロボが一体あれば、事足りた時代だったのだ。ダイナマンなど、ロボの剣で敵の居城を叩き斬ったほどである。だが、1986年。超新星フラッシュマンの『フラッシュキング』が破れ去り、タイタンボーイ及び、グレートタイタンを手に入れたのを発端に、マスクマンのギャラクシーロボ、ライブマンのライブボクサーなど、二号ロボが何らかの理由で入手されるケースが当たり前になり、ライブマン以降はスーパー合体も普及した。サーニャはそれを聞き、敵との果て無き競争を戦っているのは自分たちだけではないことを知り、複雑そうな表情を見せた。

『お、そうだ。エイラちゃん、君の姉さんがスオムスから正式に転属になったそうだよ』

「ええ〜〜!あ、アウロラねーちゃんが!?」

『荷物は運び終えていたんだが、書類処理に時間がかかったそうだ。例の処理を受けたそうだから、外見年齢は今の君とそんなに変わらないという事だ』

「う、嘘だろ……ねーちゃんまで狩り出すなんて。人材不足なのかよ」

エイラ・イルマタル・ユーティライネンには、年の離れた姉が一人いる。その名もアウロラ・E・ユーティライネン。『姉貴』との諢名を持つ伝説的な陸戦ウィッチであった。1945年時には22歳を超えており、無論、とっくに『あがり』を迎えていた。だが、事態の切迫によって、ロマーニャ戦線に駆り出される形となり、現役復帰した。扱いは501の陸戦部隊長兼、ストライカーユニット回収班長である。エイラとニパが顔を見合わせてパニック状態になるのを理解できないサーニャだが、その理由は既に基地で明らかだった。


――基地

「ぷっはー!暑い時にゃビールに限る!そうですな、中佐殿」

「そうだな、大尉。君もいい飲みっぷりだ」

と、真っ昼間から酒を飲んでいるのが、件のアウロラ・E・ユーティライネン。エイラの実姉である。年齢的には黒江より一歳下であるため、隣でトロピカルドリンクを飲み干している黒江には、年齢的にも、階級的にも下なので敬語を使っている。黒江はこの日には中佐へ進級していたため、階級章が変わっている。

「妹がお世話になっています、中佐殿。まさか一線から退いてた自分まで呼び戻されるとは、思いませんでしたがね」

「それほど事態が切迫しているということだ、大尉。アフリカ戦線は堕ち、ガリアも侵食され始め、リベリオンとヴェネツィアは向こうについた。もう後はない。だから、一部は『彼ら』に任せるしかない」

黒江は状況を説明する。彼らとは、もちろん、スーパー戦隊の事だ。スーパー戦隊は各地に散り、戦線の綻びを埋め、よく奮戦している。だが、それは裏を返せば『ネウロイの大攻勢が起きた場合、スーパー戦隊や地球連邦軍無しには持ちこたえられない』事の証明でしかないのだ。兵站能力、人員共に大きな打撃を受けた連合軍が若返り作戦を実行したのも無理かしらぬ情勢なのだ。

「今の若い連中の多くは『危険に命を張る』事も知らない。少しは彼らを見習えと言いたいよ、私は」

黒江は自主退役をして『逃げる』動きを蔑視しているらしき発言をした。これは危険に命を張っている自分達に陰口を叩きながら、前線勤務を避ける若手に憤っている故でもあった。ウィッチたるもの、『危険に命を張り、この手に未来を』というのが使命ではないのかと。黒江は『異世界であろうが、命を燃やして地球を守る』スーパーヒーローを見てきた分、憤りも激しいのが窺える。

「黒江さん、報告です。現在、ローマにネウロイが再度出現するも、鳥人戦隊ジェットマンが参戦して、これを撃破したそうです」

「何、ジェットマンが!?こりゃ驚いた……嵐山長官や鉄山将軍は『呼びにくい』と嘆いてたし……」

「呼びにくいとは?」

「聞いた話だと、鳥人戦隊ジェットマンは偶発的に生まれた戦隊で、レーダーのレッド以外は民間人なんだと。それで数年後にブラックだった青年がひったくりに刺されて死亡したから、活動時期が1991年から1994年頃までの短い間で、どの時期から呼べばいいのか悩みどころだったそうな。リーネ。観測写真は届いたのか?」

「はい、これです」

「グレートイカロスだ……ということは、ジェットガルーダが稼動状態だな……テトラボーイはいないか。整備中か?」

写真に写っていたのは、鳥人戦隊ジェットマンの最強ロボ『グレートイカロス』だった。ジェットイカロスと二号ロボのジェットガルーダが分離・再合体する事で生まれるスーパー合体ロボで、相性の問題で天敵であった『ラゲム』と『ベロニカ』以外には無敗の戦績である。スーパー合体ロボといえど、ジェットマンとファイブマンの頃は敗北する事がままあったので、戦績は特段悪いわけではない。かなりの大型ロボな故か、ローマの町並みが霞んでいる。黒江が知っているのは、飛羽高之=二代目バルイーグルから資料を渡されていたためだ。

「随分派手なロボットですね。兵器とは思えない」

「スーパーロボットはリアルロボットとは根本的に違う設計思想で作られている。見栄え良くないと敵が狙ってくれんからな」

アウロラはグレートイカロスの外観が派手(胸に鳥のレリーフが輝いている)な事に怪訝そうだが、スーパーロボットは根本的に運用思想が違うので、外観が派手などの事項は『お約束』である。黒江の補足に頷く。

「噂をすれば彼らが来たな」

「あ、ほんと……す、すげえ……か、かっこいい!」

豪雨とともに、基地上空に現れたのは、件の鳥人戦隊ジェットマンのメカ群である。一号ロボのジェットイカロスが変形した『イカロスハーケン』と、ジェットガルーダの巡航形態『バードガルーダ』だ。その勇姿は、見上げるアウロラを魅了する。グレートイカロスから分離し、巡航形態で基地に帰投するのだ。海上にせり出したスーパーバルカンベースに着陸していく姿は圧巻であった。

「まさか、ジェットマンがファイブマンより先になるとは思わなかったな。よっほど修復が大変なんだな……。大尉、後で資料に目を通すように。これからは彼らとの共同戦線も多くなるから、連携訓練も行う。後でミーナ『大佐』と協議するように」

「了解」

「リーネ。お前は明日がローテーションだ。体調を整えるように」

「はいっ」

501は人数の増加によって、出撃ローテーションを組んでおり、編隊の組み合わせはなるべく同機種で固められる様になっており、リーネは芳佳と組むことは少なくなっていた。だが、隊員の体調や整備の関係上、他小隊のウィッチが臨時でローテーション小隊に組み込まれる事はよくあり、次のローテーションでは、久しぶりに芳佳と組む事になっている。ただし、一つ問題が発生した。智子の僚機だ。黒江は昇進に伴い、地上での指揮管制も任務に加わり、毎回、出撃できるとは限らなくなった。かと言って、圭子や坂本といった、地上からの指揮管制分野も優秀な者を毎回宛がうのも問題があるし、黒田は秘書の方で多忙だ。そこでミーナは一人のウィッチを招聘する。エリザベス・F・ビューリングである。


――智子の自室

「あんたまで呼ばれるなんてね、ビューリング」

「智子と隊列組めるウィッチで、手空きなのが私くらいしかないからな。ハルカは507で忙しいし、他の連中もバラバラだ。となると私くらいしかいないというわけだ」

「あんたとまたこうして翔ぶなんて、引退する時には考えもしなかったわよ」

「私もだ。未来で一度組んだが、あれっきりと思ってたからな。一度は引退した身だ。お前と飛んで、この地獄のような戦線を戦い抜いてやるさ」

ビューリングはサバサバしており、若返り作戦も否定していない。事態の切迫が自分を戦線に呼び戻した事も受け入れているのが窺える態度だった。智子はなんとなくバツが悪そうであったが、元々が元々だけに、気にしていないとばかりに煙草を吸う。

「歴史を変えても、私達のことを選んでくれたのは聞いた。そのことに礼を言いたかったから、この仕事を引き受けたんだ」

ビューリングは智子が歴史改変後もスオムス行きを選び、(と、いうよりは事が終わる前に武子に言付けしといたのが功を奏した)自分たちを仲間だと考えてくれていた事が地味に嬉しいようだった。実際はちょっと違うが、ビューリングの感謝の気持ちを尊重し、真実を心の中にしまう智子だった。



基地の部屋割りはここで完全に決まり、ミーナや黒江、坂本、圭子と言った幹部級人員は個室になり、隊員は二人部屋となった。智子は戦闘隊長の一人であるが、部屋空きの問題でビューリングと同室になった。そして、ある日、食糧調達のために、隊員がローマ市へ買い足しに出かける事になったのである。シャーリー、ルッキーニ、芳佳、菅野、ニパ、そのお守りで智子、更にその智子の保護者として、ビューリングが選ばれた。トラックは二台用意され、それぞれ別ルートでローマ市へ向かった。道中、シャーリーはトラックでコーナーを攻めるわ、大ジャンプかますなどの漫画よろしく、危ない運転をしまくる。

「あの子、なんでトラックでイニシ◯ルDまがいのことすんのよ……あれじゃサスが死ぬわよ、サスが」

「噂は聞いていたが、ボンネビルフラッツで優勝したのは伊達じゃないという事か……!!」

「えぇ―――ッ!あんたまで感心してどーすんのよ!!」

智子は『ガビーン』というギャグ顔を浮かべて突っ込む。ビューリングは基本的にクールだが、いらん子中隊にいた故に、ギャグテイストにも対応可能である。シャーリーの運転テクニックに冷や汗を出しつつも、感心するあたりは旧・いらん子中隊在籍経験者の片鱗を垣間見せる。その様子を密かに監視する者がいた。クライシス帝国の患部の一人『マリバロン』である。彼女はジャーク将軍が進めている複数の計画を現場で指揮しており、ある計画のため、ウィッチ達を捕獲する計画を立てていた。

「おのれ南光太郎、それとスーパー戦隊共……今度こそは目に物見せてくれる!」

息巻くマリバロン。そのために怪魔大隊の新戦士、それと過去に倒された者達の再生体を動員しており、準備を進めていた。だが、その不穏な気配はいつもの如く、ヒーローたちにバレバレであり、既に複数のヒーローたちが阻止に動いていた。もちろん、智子たちの行動はスーパーヒーロー側にも通達されており、動ける者達がすぐに出動し、陰ながら護衛任務に当たる。ミーナは自分たちの頭上で繰り広げられる、ヒーローたちと悪の組織の暗闘にため息をつく。だが、彼女達の力だけでは、もはや戦線維持も覚束ないという現実とウィッチの当初の理想との差に、最も落胆しているのは彼女かもしれない。彼女は後に、空軍将官となった1950年代に、この時期の事を自嘲混じりに手記として残している。

――自分たちの力ではどうにもできない強大な存在にも臆さずに命を張るという選択を選べるだろうか――

ミーナはスーパー戦隊と出会った事で、あることを自覚した。『危険に命を張り、この手に未来を掴む』事の困難さを自覚した。過去に幼馴染であり、恋人であった『クルト・フラッハフェルト』を失った事をトラウマにしており、愛する者、大切な者が傷つくことを嫌い、一時はクルトとの関係を思い出すからか、頑なに整備員と隊員の交流すら禁じるほどだった。スーパー戦隊や仮面ライダーは皆、いつでも地球のために命を張れる覚悟がある。時には体当たりすら辞さない彼らの精神を理解せんとするミーナ。何かを守るという事の重さ。ミーナは必死にもがいていたのだ。クルト・フラッハフェルトの幻影と戦い、自分は愛する者の屍を踏み超えて、今、生きているのかを自らに問いかけながら。



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