外伝その62


――ウィッチ達はそれぞれの思いを持って、戦った。雲霞のごとく湧いて出る敵機に苦戦しつつつも、運良く、一人の落伍者も出してはいなかった。これは参戦していたウィッチの誰もが、一流と呼ぶに相応しい者達(別働隊に配された者達も、スオムスいらん子中隊出身のビューリングだったり、赤ズボン隊だったりする)だったおかげである。だが、機材の損耗率は高く、50%を超えていた。連邦軍空母に、スピットファイアをズタボロにされたビューリングが着艦する。ユニットは外装をほぼ破損し、飛んでいるのが不思議なくらいだった。

「クソ、やられた……!」

歯噛みして悔しがるビューリング。別働隊に配されており、智子達の露払い役を買ってでていたが、愛機を大破判定されたのは、おおよそ久しぶりである。

「ビューリング、貴方が機体を失うなんて」

「敵のミサイル、それとバルカン砲は思ったより厄介という事だ。スピットはもう使えん。F-86を借りるぞ」

「大丈夫なの?」

「向こうで、何回か使った事はある。武器もやられたから、IS用の武器を借りて行く」

ビューリングはブリタニア人ながら、闘争心旺盛である。愛機を大破させられても、めげずに機体を取り替えての再出撃をする意志を見せた。空では、コスモタイガーやVF隊が必死の防戦を行っており、目の前で、VF-11が敵のF-14の機銃でエンジンを損傷、放棄されたり、コスモタイガーがF8Fをパルスレーザーで血祭りに挙げるのが見えた。

「戦争も随分と変わったものだ。二年あまりで、800キロ以上の速度でかっ飛ぶのが当たり前になるなんて。しかも、人同士で殺しあうとは」

「裏じゃ普通に行われていたし、近代になるまでは普通に殺しあってた。その状態に戻っただけとも言えるわ。ウィッチに求められている心構えも当然、大きく変わる。人を殺してでも仲間を守れるか、よ」

「お前も変わったな」

「向こうにいたら、そりゃ倫理観も変わるわよ。向こうじゃ、そうでもしないと何も守れないもの」

「ああ……そうだな」

智子の倫理観は完全に地球連邦の人間としてのそれに変化している。これは未来世界で『人を殺すこと』を否応無く行ったため、良くも悪くも、それに適応してしまったことが分かる。ビューリングも少なからず、この世界の倫理観から離れてきているのを自覚しているため、智子の言葉を否定はしなかった。

「若い連中はこの光景を見たら、どう思うだろうな」

「亡命リベリオンの子達の中には、『ウィッチの力は人を殺すための力ではない』っていう子もいるわ。だけど……こうでもしないと、国を、故郷を、仲間を守れない。私はそれに気づいた。例え、この手が仲間だった子たちの血で汚れても、守るべきものがあるってね」

智子は既に、歴史改変時に同じ扶桑皇国軍人達を殺してきているし、未来世界ではジオン残党、ティターンズ残党を始めとする者達の残党狩りの一端を担っている。(ロンド・ベルの本来の任務の一つでもある)辿り着いた答えは、ウィッチの力を自分の信念に基づいて行使する事。信念を貫くため、未来世界の武術を収めた。

「あなたの次の出撃は?」

「今からだと、魔力の回復込みで数時間後だな。今は赤ズボン隊が上がっているはずだ」

「わかったわ。次は一緒に飛んでくれる?」

「いいだろう」

智子は先程の佐々木勇子との一戦で疲労していた。魔力を全開にして、『覚醒』発動状態の勇子と戦ったのだから、当然だった。


――20分前

「はあああああああっ!!」

「おおおおおっ!」

二人の刀が鍔競り合いでぶつかり合う。双方の魔力が迸り、空気を震わす。

「勇子ぉぉぉぉ!」

智子は怒りに燃え、横薙ぎからの一閃を見舞う。蒼き光と炎が走り、愛刀の備前長船の刀身を覆った上での一撃だ。智子が元来、持ち合わせていなかった性質なため、さしもの勇子も驚愕する。

「う!?」

勇子の刀がへし折れ、刀身が弾け飛ぶ。智子の横からの一撃に耐えられなかったのだ。すぐに小太刀に持ち替え、智子の攻勢に対応する。

「くっ!」

頬が切られるが、それを敢えて承知で、智子は勇子の懐深く入り込む。こうなれば刀は意味をなさないため、戦いは自然と殴り合いに移行する。殴り合いは経験値やカンがモノを言うが、智子はこの頃には、殴り合いにある程度は熟練していたため、現役時に『50戦隊きっての鉄砲玉』と言われていた勇子とも互角に渡り合う。

「はあああああっ!」

「でえええええい!」

双方の拳がぶつかり合う。そうなると、耐久力の差も大いに影響してくる。ストライカーで助走をつけて、思い切りストレートパンチを見舞う。また、優子はお返しに脇腹にボディブローを見舞う。赤ズボン隊は、この激しい殴り合いに息を呑み、呆然と見つめる事しかできなかった。だが、その驚きは更に驚天動地の粋に達した。

「勇子!あたしは……貴方を絶対に止める!」

智子は魔力を飛行に必要な必要最低限にまで落とし、メディテーション(瞑想)で気を高め、それが明鏡止水の境地になる。黄金の光を発し、黄金の輝きを発しながら、必殺技の態勢に入る。そして、智子は叫ぶ!

『あんたのその拳が赤い拳なら、私は黄金の指ぃ!……あたしのこの手が光って唸る!アンタを倒せと輝き叫ぶぅ!喰らいなさい!シャイニングフィンガーァアアアア!!』

シャイニングフィンガーを発動させ、そのまま勇子の顔を鷲掴みにし、自らの気を送り込む。通常なら鷲掴みにしただけで、相手は気が遠くなるのだが、使い魔との同調率が飛躍的に高まっている状態の勇子は耐えてみせる。

「うおおおおおおおおおお……穴拭ィィィィィィ!」

「勇子ォオオオオオオオオオォ!!」

絶叫しつつも、シャイニングフィンガーを引き剥がそうとする勇子。それに構わず、気を送り続ける智子。ここまで行くと、完全にウィッチとしての戦いからはかけ離れているため、赤ズボン隊は言葉もなかった。かろうじて、隊長のフェルが『何よこれ………』と絞りだすように一言、付近にいたルッキーニも『うじゅ……何がなんだかわかんないよ……』と呟くので精一杯だったという。





――黒江の方は、敵方ウィッチに対し、情け容赦なく攻撃を加えていた。

「おどれら皆殺しじゃあ!!国を、故郷を、仲間を裏切ったテメーらにかける慈悲はねー!」

と、対峙したブリタニア人ウィッチの腕を切り落としながら宣言する。黒江は、仲間を裏切った悪には、とことん容赦しない苛烈な一面ができており、敵ウィッチの腕を躊躇なく切り落とし、更に突きで心臓を一突きする。その辺りは、以前に出会った、元・新選組三番隊組長の斎藤一の影響があった。

「でぇええええい!!」

刀を振るい、相手に致命傷を与え、落とす。阿修羅の如き強さで、『自分の短絡的な損得で裏切った者には死を』と言わんばかりの姿を見せ、諢名の『魔のクロエ』の名に違わない強さを見せる。この時、相手方からは黄金のオーラが視認され、後に会得する技能の片鱗を垣間見せた。

「なんだこいつ、強いぞ!?」

「いや、待て!こいつは……扶桑海の功労者と言われる『魔のクロエ』だ!まさか現役に戻っていたとは……!」

相手方は、自らが対峙しているウィッチの正体に気づき、畏怖する。黒江が自然と発している黄金のオーラも、威圧感たっぷりに演出していた。『魔のクロエ』という諢名が、今一度、鳴り響いたのである。爆撃機迎撃を行っていた坂本も魔眼でその様子を目撃し、かつての仲間達へも情け容赦しない阿修羅の如き姿に、思わず恐怖し、体の奥底から身震いするのであった。

――黒江はティターンズに教え子を殺されてからは、仲間や自分を自らの意志で裏切って、敵になった者などには『無慈悲』である。腕を落とす程度なら幸運、最悪、首を撥ねられる。ティターンズに降った各国ウィッチ混成部隊は黒江一人によって、早くも損害を出すが、これは相手が悪かったとしか言いようがなかった。この時、ミーナは再出撃準備に入っていたが、黒江が大暴れしているという内容の連邦軍兵士からの報告に、こちらも畏怖を覚えるのであった。


――圭子は坂本とリーネの護衛についていた。レシプロストライカーを使う二人(坂本はそもそもジェットを起動させられる程の魔力が残っておらず、この時点では紫電改を全力運転させられるギリギリの魔力量でしかないため。リーネはミーティアに慣熟していないため)を守りつつ、獅子奮迅の戦闘を見せる。

「御庭番式小太刀二刀流『呉鉤十字』!!」

元々の得物がナイフであった都合、御庭番式小太刀二刀流との相性は良く、習得は三羽烏中、最も早かった。襲撃してきた敵ウィッチを、小太刀を十字に交差させ、鋏のごとく頸動脈を斬り裂き、倒す。

「こ、殺したんですか……?」

「貴方が気にする必要はないわ、リーネ。あいつらは自らの意志で敵に降った。自業自得って奴よ。ましてや、貴方達が手を汚す価値も無い輩よ」

圭子は淡々と言う。表情が冷静だったため、それが却って、リーネに薄ら寒さを感じさせた。後に、最盛期501の在籍経験者では最も早い時期に軍を離れた形となったため、この時のウィッチ同士の殺し合いに恐ろしさを感じたためではないかという噂が、まことしやかに囁かれる事になる。(この世代までのウィッチの多くは職業軍人として、『人を殺す』ことに抵抗感が強く、1950年代までに軍を去った人数が多いため)坂本も、後の時代に回想録で『この時の加東には、恐ろしさすら感じた……』と記すほどに衝撃だったとするほどだった。







――智子がこれほどまでに徒手空拳の戦闘の熟練度を上げた影には、タイムマシンの存在があり、かつての武芸者であり、二天一流の創始者でもある『宮本武蔵』に教えを請いたためだった。ドラえもんとのび太は宮本武蔵と知己であり、ひょんな事から、若かりし頃、臆病者だった武蔵に勇気をつけさせた経緯がある。それを聞いた智子と黒江は大興奮、黒田も巻き込んで、ドラえもんに無理を言って、タイムマシンを借り、武蔵のいる時代に行き、ドラえもんとのび太の名を出し、二天一流を教えてもらったのだ。後世の相伝でなく、直伝の二天一流を、だ。その過程でオーラパワーを目覚めさせ、更にドモン・カッシュの教えで、流派東方不敗の心得をも得た。そのため、シャイニングフィンガーを放てたのだ。三羽烏の戦闘練度が異常なほどに高いのは、宮本武蔵やドモン・カッシュ、光戦隊マスクマン、太陽戦隊サンバルカンなどの古今東西の猛者の教えが大きかったのだ。

――また、この時に三羽烏が見せた対人戦闘ぶりはウィッチ全体に波紋を呼んだ。亡命リベリオン軍に合流した、旧506『ノーブルウィッチーズ』B部隊隊長のジーナ・プレディ中佐は、『人同士で殺しあうことは間違っている。だが、カエサル以前の状態こそが、人類が『かくあるべき』姿だというのか……!?国を守ることが軍人の勤めとは言え……酷い事だ』と嘆き、同じく、カーラ・J・ルクシック中尉は『こんなのおかしい!!なんで人同士で殺しあうんだよ!?』と声を荒げるなど、ティターンズが引き起こす状況に適応出来ない様が浮き彫りになった。亡命リベリオン軍は人材こそ、各方面撃墜王が過半数を占め、額面上は優秀だが、心構え面で『職業軍人』として、殺しを割り切れない者が多く、地球連邦軍への留学枠を亡命リベリオンが長年、他国より多く取る事になっていく事になる。


――同時刻 パリ 連合軍総司令部

パリに設置された連合軍総司令部に入ってくる『大海戦』の戦局。三羽烏の鬼神の如き働きに満足する扶桑の山本五十六、源田実。

「さすがはあいつらだ。期待に違わない働きを見せてくれます」

「あの子達の配属の理由はどうなっているのかね、源田君」

「ハッ。504に送るはずであった諏訪天姫と中島錦の代替要員という名目です。本来はその両名を送り込むはずでしたが、練度不足なのが大きな不安要素でして。そこで、ブリタニアでの事もあったので、政治的に手腕がある、あの三人を代替措置という名目で配属させたのです。黒田の転属は意外でしたが」

ここで、源田は三羽烏が501に集まった理由の一つを山本に説明した。本来は将来有望とされる若手を送り込むはずであったのを、ブリタニア、ガリアの強硬派の動きを牽制する意図のもと、501が504(アルダーウィッチーズ)を取り込む過程で確保された枠を三羽烏を当てたのだと。

「あの三人は現状、扶桑軍最強の『ケッテ』だ。それに黒田くんも加わればシュヴァルムになる。いいことだ。これでティターンズやバダンへの内通者も割り出せるというものだ」

「黒田からは『グレーテ・M・ゴロプ少佐がバダンに内通している』という調査報告が上がってきました。どうやら、熱狂的な愛国者であったせいと、カールスラントの文化と技術の狂信者なのに、皇帝陛下の寵愛を受けられない事、ガランド中将が皇帝陛下のお気入りである事に耐えられなかったんでしょう」

「褐色の狂気に飲まれたか……哀れなものだな」

「この事は本日の議題に上がりましょう。カールスラントは顔面蒼白に陥るのは間違いありません」

「大海戦の様子は奴らにも知れているだろうな。この先暫くは迂闊に動かぬように。誰が敵で、誰が味方かはっきりさせぬ事には、動きも取れん。」

「ハッ。歴代のヒーロー達に非公式に依頼し、動いてもらいます。他に内通者がいないか、裏付け調査を依頼します」

源田は山本に注意され、同意する。以後は表立っての行動を空軍設立まで控えるようになり、歴代のヒーローたちへ非公式に依頼し、連合軍内の内通者を探し出す考えらしかった。黒田の調査報告は連合軍を大いに震撼させ、各国の憲兵が内偵調査を行う事になる他、既に改造人間となっていた者達は仮面ライダー達やスーパー戦隊に『処理』してもらう事になる。


――この日、アイゼンハワー大統領兼連合軍最高司令官は内通者を議題にし、各国の憲兵などを動員しての調査を決議した。同時に使命を忘れ、人類に仇なす者達は許さぬと発言。徹底的に燻り出し、血祭りに挙げよとの通達を各国に発した。だが、ウィッチが人を殺すようになる事に反発したり、自分の才能を過大視し、出世できないのを妬んだ者は多く、憲兵が逆に血祭りに挙げられ、それを手土産にし、敵に降る例も多かった。結果、各国の中で離反者が多いのが、分裂前のリベリオン、カールスラント、ガリアであり、戦乱で中央の統制が緩み、軍内の人心掌握が上手くいっていない証拠になってしまった。特にガリアは内部の政治的対立が招いたと言っていいくらいの状況だったため、ノーブルウィッチーズにペリーヌが行かなかった事への恨み節が高官から出たという。(ガリアの政治的混乱と衰退は、ペリーヌがノーブルウィッチーズの隊長就任を固辞した事が原因の一つなため)この恨み節のように、1947年に顕現したガリアの政治的・軍事的衰退が、間接的に原因となったペリーヌに、自らの行為への後ろめたさを感じさせたのかは定かではないが、太平洋戦争中に名目上とは言え、編成は存続していた506の第二代隊長に就任し、ティターンズ政権の施策に翻弄され、影響力を減じていくガリアの心の拠り所となるのである。

――この時に名が上がったグレーテ・M・ゴロプ少佐とは、黒江の直近の上官であった人物である。熱狂的なカールスラント至上主義・皇帝至上主義者であり、他国ウィッチを見下し、全く信用していない。それ故、ライバル視する先輩のアドルフィーネ・ガランドが最年少で中将に登りつめ、しかも皇帝の寵愛が深い事に嫉妬していた。彼女は愛国者でありすぎるために、他国との協調を嫌う。しかしそのせいで少佐から出世が出来ないという悪循環に陥った。その闇をバダン大首領『JUDO』に増幅され、バダンの下部組織の構成員(即ち、別世界のドイツ軍残党の一員)となっていたのだ。後に黒江は、事を知らされた後、505の上官がバダンに内通し、仲間達を裏切っていた事、部下達を何とも思っていない冷酷非情な発言を自身が兄のように慕うライダー達へ公言し、遂には教え子の名誉を傷つけ、無能共と嘲笑ったと知ると、あのライダー一号=本郷猛が慌てて諌めるほどに激昂し、「野郎は私が八つ裂きにして、必ずぶち殺す!見敵必殺、悪即斬だ!」とまで公言するようになるが、それはまだ先の事である。



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