外伝その75『英雄達の叫び』


――スーパーロボットらの来援もあり、連合軍はジリジリと戦局を優位にさせつつあった。

「おーし!これで敵巡洋艦はすべて落伍させたぞ!」

大和の松田艦長が歓喜の声を挙げる。撃ちまくったおかげもあい、敵艦隊の護衛艦のほぼ全てを落伍させたのだ。 だが、それと引き換えに、砲身命数をほぼ使いきるほどの砲撃回数を数えていた。

「艦長、砲身が限界です」

「くそ、後は富士に任すしかないな」

大和の主砲塔の砲身は摩耗仕切っていた。大和型の主砲塔の砲身内筒の寿命は、200発程度。未来世界の技術が入っていないのもあり、そこは以前と変わっていない点だった。(この時期の改大和型の主砲身は純正の扶桑製であったため)装填時間が短くなり、即応力が増した代わりに、旧来の製品では、摩耗が早いのである。後日、大和型の主砲身は、交換のおりに、ショックカノン規格のモノに本格的にバージョンアップされ、ミッド動乱からテスト中の強制冷却システム一式が導入されるのだった。


――富士は、56cm砲の打撃力で、リベリオンのサウスダコタ級・アイオワ級・モンタナ級を向こうに回して、撃ちまくっていた。同艦の砲弾が艦首に当たれば、その箇所は派手に破壊され、バイタルパートに当たれば、衝撃で装甲板にヒビが入るほどの打撃を与える。大きさゆえ、モンタナ級戦艦のようにはいかないが、大きさの割に機敏な動きで、この時代の船の機動の常識を超える動きを見せる。もちろん、防御力は折り紙つきであり、サウスダコタ級2隻、アイオワ級、モンタナ級戦艦2隻の猛攻を受けても平然とする。

「ええい、ゴジラの好きにさせるな!撃ちまくれ!!」

三笠型の強固な装甲は、大和型でも耐えられない量の集中砲火を浴びてもびくともしないほど頑丈であり、モンタナ級戦艦、アイオワ級戦艦、サウスダコタ級の16インチ砲弾を全て弾いてみせる。ヴァイタル・パートに命中した弾が砕ける現象すら出現し、それは上空のウィッチ達も唖然とするほどだった。

「あれが、連邦の造った移動要塞の威力なのか……!」

上空で戦っていた、旧502のグンドゥラ・ラルは、富士の大きさに見合わぬ機敏さ、戦艦らしからぬ横這いの動きに唖然とする。彼女の頭の常識が脆くも崩れ去った瞬間だった。

「クソ、ここ最近は未来兵器に翻弄されっぱなしだぞ……しっかりしろ、私」

頭を抱えるラル。ウィッチ同士の戦闘も割り切る、サバサバした性格であるが、三笠型の機敏な動きには顎がはずれかかったらしい。そして。

「ッ!やはり、今の体だと、ミサイルの回避はキツイか」

彼女の古傷が痛みだしたのである。ウィッチ同士の戦闘で、腰に負担を強いたせいである。ウィッチ不足と、重大な戦故、ここ最近では珍しく、第一線に出向いた(ラルは過去に撃墜された際、背骨骨折の重傷を負っており、その後遺症で、腰に強い負担を、長時間かけられないのだ)のだが、相応の戦果を上げた代わりに、限界が来たのだ。(ハイマニューバミサイルの処理の際に、無理な体勢を取ったため)

「こちら、グンドゥラ・ラル。サクヤへ。これよりそちらに着艦する」

「了解。着艦を許可する」

砲撃戦の最中ながら、腰の古傷の痛みが限界を迎えたため、ラルは富士へ着艦する。無論、その後は医務室へ直行した。魔法繊維のコルセットで保護していると言っても、ジェット時代の、時速800キロからの亜音速〜遷音速の高Gが頻繁にかかるエネルギー空戦を遂行する上では、ラルの腰の古傷はハンデと言わざるを得ない。

「少佐、今日はこの辺でドクターストップだ。いいね?」

「は、はい。くぅ〜、腰の痛みさえなければ、あと20機は落とせたものを……」

ラルは、怪我の前の蓄積もあり、背骨に負担がかかっており、戦闘可能時間が短いという弱点がある。それでも、短時間で戦闘機を20、ウィッチを6人撃墜する戦果を挙げた。だが、持ち合わせの火器の都合、VFは損傷させる程度だった。

「このままでは、君は引退待ったなしだよ、少佐」

「そんなにひどいんですか」

「これまでの蓄積もあり、背骨の付近に損傷が蓄積している。このままでは、腰の曲がった老婆コースだ。神経に当たると、麻痺が出るかもしれん」

「……!そ、そんな馬鹿な!?なんとかならないんですか!?」

「23世紀医療を以ても、普通の医者なら、まず引退を勧めるだろう。だが、連合軍は君の才覚を高く買っている。引退させんだろう。ましてや、君は旧502の隊長で、『人類トップ3』なのだからな。いよいよ、君も受ける時がきたようだな、少佐」

「例の処置ですか。やるんだったら、さっさとして下さい」

「では、希望の年齢を聞いておこう」

「13歳から14歳当時で。負傷が41年なので、その前に」

「あい分かった。様子見ながら段階的にやろう。 黒江君みたいに小学生まで戻ったら、事だしな」

「聞いてます。それはなんでです?」

「担当医がロリコンだったのだ…」

「な、なるほど」

タイムふろしきをかぶせる軍医。今回は段階的に行い、まずは負傷したての15歳当時に戻り、そこから更に、段階的に戻す手法を取った。第一段階で三年、第二段階で半年、第三段階で数ヶ月と、ふろしきを取ったり、かぶせたりが数回続いた。その結果、背丈は縮んだ(13歳の頃に戻ったため、10cm前後縮んでいる)が、腰の痛みは綺麗さっぱり消えている。

「い、イヤッホー!!痛くない、痛くないぞ〜!」

ラルらしらぬ、はしゃぎっぷりだが、ここ数年の懸案が消えたのだから、当然だった。腰の保護のため、これまで通りにコルセットをつける事にはしたが、サイズが合わないのだ」

「ノイエ・カールスラントのこの住所に連絡取ってください。そこに私の知り合いの医療ウィッチがいるので」

メモを軍医に渡すラル。

「コルセットは要らないよ?若返ってるんだし」

「うーん。また同じ事起こるとも限らないからなぁ」

若返ったため、声色が高くなり、御坂美琴と瓜二つになっているラル。だが、腰の保護が課題であり、やはり、知り合いのウィッチに頼み、未来世界から伝えられた、ハイウェストガードルを魔法繊維で作ることにし、軍医に頼んで、連絡を取ってもらう。ラルは、この後、富士で療養した後、若返った姿を披露。若返ったラルに困惑するサーシャとロイマンが見られたとか。



――さて、ヒーロー達の超メカやグレートマジンガー、グレンダイザーの参陣により、ティターンズの動員した兵力は目に見えて減って来ていた。航空機は既に1500機を失い、海軍艦艇も、ヴェネツィア海軍主力が丸ごと失われる大惨事のティターンズは、残存兵力をブリタニア海軍への攻撃に振り分けた。その結果、ブリタニア空・海軍は予想以上の損害を負っていた。

「ライオン、第3主砲塔、損壊!!」

ルイジアナの徹甲弾が、ライオンの主砲塔付近に命中、同砲塔を爆発で損壊させる。ライオン級の主砲塔天蓋装甲は150ミリ程度。モンタナ級戦艦の16インチ徹甲弾が当たって、弾けるほどの厚さでは無かったのだ。

「よーし、これでブリタニアの新鋭艦の半数の攻撃力を半減させたぞ!」

彼らティターンズは、大和型の砲弾をモンタナ級で引き受け、代わりにブリタニア艦から狙う方法を取るようになった。その為、ブリタニア艦の損害が急増していた。扶桑軍は、改修艦と新鋭艦が入り交じる状況なため、新鋭艦にはミサイル装備がある、戦後型ミサイル駆逐艦もおり、それがリベリオン軍の誤算だった。

「敵の『こんごう型』らしき駆逐艦から、対艦ミサイルが!」

「奴らめ、オーパーツを使ってきたな!」

扶桑軍は軍備の多くを戦後型兵器に更新を急いでおり、その虎の子が『こんごう型ミサイル駆逐艦』だった。自衛隊のこんごう型護衛艦のコピーだが、流石にENIACの時代に集積回路は作れないので、その部分は連邦軍の既成品だ。そのため、砲がオート・メラーラの127mm砲一門だけの同艦は扶桑海軍砲術閥からは『海防艦以下の砲門数』、水雷閥からも『これでは雷撃戦は生き残れない』と不評だった。だが、同艦の能力は、その旧海軍駆逐艦の数倍の砲撃能力があるのだ。また、同艦の戦闘の真価は防空能力と、ミサイル戦にあり、ミサイル駆逐艦(その後、扶桑では、排水量の問題で甲巡扱いになった)としての能力を見せつけ、Mk41垂直発射器から次々にミサイルが放たれ、レシプロ機のみならず、ジェット機、ウィッチすら寄せ付けない。これはミサイルが対空キャニスター弾(対ウィッチ用散弾)使用の弾頭が使われたためで、多数の散弾が襲いかかるので、ウィッチでも防げない。(芳佳クラスならば可能だが)その為、果敢に雷撃及び、爆撃に挑んだウィッチらは、ミサイルの精密誘導の餌食になるという事態に直面した。

「チクショウ、チクショウ!なんで私がこんな目に……う、うわああああ!?」

「死にたくない、死にたくない、死にたく……ぎゃあああああ!?」

と、ミサイルから逃れられず、手に持つ250キロ爆弾ごと潰されるウィッチもいれば、機体が急激な機動に耐えられずに空中分解、そのまま海中に没する者も生じる。また、吹き飛ばしを重視し、爆圧が強めであったのも災いし、爆弾や魚雷が誘爆し、死亡する者も多く、十数名の艦爆・艦攻ウィッチ隊の内、帰艦したのは、僅か三名のみだった。他には、捕虜になったのが半数生じた。このため、ウィッチ隊による雷撃は危険と判断され、以後に衰退の様相を強める。艦艇への急降下爆撃も同様で、皮肉にも、イージス艦が彼女らの戦技を時代遅れにしたのだった。イージス艦の防空能力の証明は、同時に海軍急降下爆撃ウィッチ、雷撃ウィッチを時代遅れにしてしまう皮肉な結果を産んだのだった。







――グレートマジンガーとG-Xの死闘は、双方が譲らなかったが、地力で勝るグレートが逆転し始める。グレートマジンガーは、マジンパワーでブーストがかかっていたおかげもあり、G-Xを初めて押し始める。

『うぉおおおお!!』

ブースターソードを振るい、G-Xのシールドブースターを破壊するグレートマジンガー(GBU装備)。だが、マジンパワーによる出力増強の影響もあり、エネルギー消耗が激しく、この時、残量は30%であった。

(エネルギーはあと30%。もうサンダーブレークは撃てん)

そう。エネルギー消耗が激しい武器の使用はできなくなったのだ。現状、撃てるのは、パンチにブーメラン、グレートブーメラン、キック系の技のみとなった。

『くらえ!!バックスピンキック!』

鉄也はバックスピンキックで、G-Xの腕を払いのけ、そこからブースターソードを見舞う。

「うっ!」

『でぇええい!』

G-Xも、遂にグレートマジンガーの前に屈する時がやって来た。左腕を払われ、隙が生じた。その際に、アスカロンを持つ肩口から、ブースターソードで斬られ、そのまま海中へ没していった。だが、それと同時にグレートもまた、エネルギー切れで落下する。だが、それは駆けつけたグレンダイザーが救出する。

『大丈夫か、鉄也くん』

『大介君か。君まで来るとは』

『ダブルスペイザーのテストでね。甲児くんも来てるぞ』

『よっ。エネルギー切れたぁ、鉄也さんにしては珍しいこった』

『敵が手ごわかったもんでな。グレートを手近な空母まで運んでくれ』

『分かった』

グレートは、グレンダイザーに肩を借され、空母まで運ばれる。そこで鉄也は、ハインリーケや黒田と出会う。

――空母

「ほう。君が那佳ちゃんのバディか」

「か、勘違いするでない!妾は……」

「またまた、少佐ったら」

「そなたという奴は〜!」

ハインリーケと黒田はコンビを組む事も多かった。そのため、なんだかんだで仲が良かった。鉄也からバディと言われたのが恥ずかしいのか、赤面するハインリーケ。

「ハッハッハ、若い子は元気があってよろしい」

「鉄也さん、もう20代でしたっけ?」

「これでも、成人式終えたばかりだよ」

20であると強調する鉄也。老け顔なため、これまで、なのは・フェイト、ドラえもんらによってかかって『どう見ても30くらいにしか……』と宣告され、地味に堪えていた。

「お主が、あのスーパーロボットの搭乗者なのか?」

「そうだ。グレートマジンガーの搭乗者、剣鉄也。俺は戦闘のプロだぜ」

お馴染みの台詞を決める鉄也だが、一応は職業軍人であるハインリーケはムッときた。

「聞き捨てならぬな。軍人である妾を差し置いて、戦闘のプロと?自惚れではないのか?」

「自惚れじゃあない。俺は物心ついてから、ずっと戦闘訓練を施されてきた。戦術や戦略ではなく前線で戦う『戦闘のプロ』だ、作戦とかは軍人にはかなわないが、戦技なら俺は負けん」

それは真実だ。鉄也は戦術単位での戦技では、デューク・フリードも超える水準を誇る。甲児が閃き型なら、鉄也は『テクニック型』に分類される。鉄也は戦略は苦手だが、戦闘に勝つためのあらゆる訓練を受けたため、戦技では、下手な軍人を凌駕していた。

「ふむ……ならば、それを証明してもらいたいものだ」

「いいだろう。活目して、俺とグレートの強さをよく見るんだな、ハインリーケちゃん」

「な、なっ!?ちゃんづけとな!?」

ちゃんづけで呼ばれたのは、おおよそ初めてだったらしく、大いに狼狽えるハインリーケ。鉄也にはそれが可笑しかった。黒田も大笑いである。周りの506ウィッチは恐怖で固まる者が多かった。イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデールもその一人。補給に訪れ、黒田を見かけ、声をかけようとしたのだが……」

「く、黒田さん……今、その人、姫さまをちゃんづけって……」

「うーん。まぁ、しょうがないですよ。鉄也さんですから」

ハインリーケは欧州に影響力のある名家の出で、いわゆる貴族であるが、ユンカーではない。これはハインリーケからそう遠くない先祖がカールスラントへ移民してきたからである。だが、元々の血筋が名門であるため、ハインリーケは貴族としての使命感が強い。今の地位は実力で勝ち取ったものだが、家柄で獲得したという陰口もある。無自覚に、自分に出来る事を他人に要求するので、反感を持つ者も多いが、自己にも厳しく、カリスマ性がある事から、整備班が親衛隊を称するほどの人気がある。

「妾についてこられるのじゃな?」

「この俺を舐めるなよ?お嬢ちゃん」

「お、お、お嬢……!?」

鉄也のフランクさに当惑するハインリーケ。フランクに接しられた事はあまり経験がないハインリーケは、鉄也という『どこか職人気質な人間』に、自分にはないものを見出したらしく、これ以後、鉄也と連絡を取り合うようになったという。

「姫さま」

「なんじゃ、イザベル少尉か」

「彼が、あのグレートマジンガーの?」

「そうじゃ。妾はさっきから弄ばれておるわ……」

ハインリーケは、鉄也に弄ばれている事を告げる。姫様と呼ばれた事に、鉄也はキョトンとする。

「姫さまだって?」

「あ、鉄也さん。ハインリーケ少佐は、貴族なんです」

「ほう。珍しいな。俺の時代じゃ、貴族は有名無実みたいなもので、慣例や慣習で存在するものだからな」

そう。コスモ貴族主義滅亡後の地球連邦に存在する旧貴族・華族は血筋や家柄を頼りに存続しているに過ぎない存在であった。過去、貴族主義を否定したセシリーとシーブックだが、それはコスモ貴族主義の否定であり、けして、地球圏に過去から存在した貴族達の存在を否定する訳ではない事を説明するのに、四苦八苦したという。有名無実化していたとは言え、旧王家・皇室は維持されていたし、昔からの貴族社会もそれなりに維持されていたからだ。

「地球連邦政府がありますからね、そっちだと」

「ああ。昔からの慣習みたいなものさ、貴族の維持は。旧各国の王族や皇室がある以上は、な」

「こう見えても、このハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン、れっきとした貴族じゃぞ」

「バカみたいに長い、舌噛むな。それに、『フォン』はつかないのか?」

「妾の一族は元を辿れば、純粋なカールスラント人ではない。それで、フォンはつかんのじゃ」

そう。ハインリーケの一族は、純粋なカールスラント貴族ではない。オラーシャ起源の移民である。だが、現在ではカールスラント人と見なされるため、カールスラント貴族と扱われている。これは一族が欧州に影響を持つようになったためだ。

「あ、アイザックくん」

「黒田さん、初めの人は混乱するって。僕はイザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール。階級は少尉。黒田さんが言った、『アイザック』ってのは、僕は男の子として育てられたんで、その時に両親がつけた名前なんだ」

イザベルは、両親が『子供がウィッチとバレたら国有財産にされる』と勘違いした両親によって、少年として育てられた時期がある。その際の名がアイザックなのだ。そのため、両親は彼女を軟禁状態に置いた事さえある。当人が嫌気が差して、家出して、軍に入隊した事、両親が『そんなことはない』とわかり、反省した(勿論、後に相応の社会的な罰は受けた)事もあり、今は毒舌系スナイパーである。

「剣鉄也だ。宜しく」

握手を交わす両者。

「あなたが未来のスーパーロボットのパイロットなんですね?黒田さんからの手紙でよく」

「おお、そうか。なら、話は早いな」

黒田がロンド・ベル隊の事を、元ノーブルウィッチーズの同僚に手紙で書いていた事が、ここでイザベルの口から語られた。黒田は、ノーブルウィッチーズの事実上の解散後、手すきの状態であり、黒江が501及び、ロンド・ベルに呼び寄せるまで、手当てがつかなかった事を愚痴ったりしている。因みに、プリンツェシンは、かつての大公の家系である事を示しており、ウィトゲンシュタイン家は、元を辿ると、オラーシャのナポレオン時代の陸軍元帥『ペーター・フリスチャノヴィチ・ツー・ザイン=ヴィトゲンシュタイン・バーレブルク』の末裔であるという、不思議な巡り合わせだったりする。

「黒田さん、凄い愚痴ってたんですよ?手当がもらえないとか」

「あ〜アイザック君、ずるい〜!」

「ハッハッハ。こっちでも言ってるよ、それ」

黒田は、生家が名ばかりの華族であった都合上、中流家庭に生まれ育った。これが某有名スペースオペラ小説なら、主人公格であるほど、一応はその資格がある。

「那佳ちゃんは境遇的には主人公格なんだけど、守銭奴だからなぁ」

「そりゃ、あのスペースオペラなら、王朝おっ立てられるくらいの境遇ですけど」

そう。そのスペースオペラは20世紀の後半に書かれた小説で、二人の主人公の数奇な人生などが人気を博した。黒田の境遇は、ちょうど帝国側の主人公に似ているのだ。(名ばかりの貴族など)

「何じゃ、何の話をしておる」

「この漫画ですよ」

黒田は読んでいた、その漫画をハインリーケに渡す。タイトルは『銀○英雄伝説』である。

「何々……ふーむ、ふーむ……」

「黒田さん、どこ渡したの?」

「序盤だよ、序盤」

「大丈夫かなあ」

その漫画の出処は黒江で、そこからSF好きのウィッチ達へ広まっているものだった。菅野が意外にも真っ先に飛びつき、そこから何人かを経て、黒田に行ったものだ。ハインリーケは、そのスペースオペラに圧倒されたようで、先程から『ふーむ』としか言わない。

「黒田中尉、この続きはどこにあるのじゃ!」

「え、えーと……私の上官の黒江中佐の私物なんで、許可取らないと。それより、少佐も買ったらどうです?ネット通販で」

「ね、ネット通販?」

「23世紀には、色々と便利なものがあるんですよ」

そう。ミノフスキー粒子が出たとは言え、タキオン通信技術などの実用化で、インターネットは維持されたので、ネットショッピング文化は23世紀でも健在で、黒江達は共同アカウントで、買い物をしていたりする。なので、漫画は全巻セットだったりする。未来デパートのそれはカタログが次元通信端末機器でもあるので、注文したその場にすぐ届く。

「えーと、あったあった。代金は加東先輩にツケてっと」

『おまちどう〜』

空中から声が聞こえたと思えば、伝票付きの箱がその場に届く。ハインリーケは何がなんだか分からず、呆然とする。

「さっすが、未来デパート。やること早い」

箱を開けると、中には外伝込みの全巻セットが入っていた。未来デパート独自のもので、売れ筋商品である。

「だ、代金はいいのか?」

「先輩にツケておいたから、大丈夫ですよ」

「誰につけたんだい」

「加東先輩です」

「ケイちゃんは綾ちゃんほど、金遣いは荒くないから、良い判断だ。綾ちゃん、今月はオケラとか言ってたしな」

「え、先輩、また何か釣り用品を?」

「いや、今月はバイクの代金だそうだ。ストロンガーさんの店に払ったら、給金の殆どが消えたとか」

この時、黒江は城茂に、買ったバイクの代金を支払ったのだが、この月の給金の8割がそれに消えた。黒田は内心、それを聞いて安心した。

「趣味人だなあ、先輩は」

黒江は金があれば、趣味にぶっこむタイプの人間である。守銭奴である黒田は、黒江の荒い金遣いにちょっと引き気味だが、その使い方がケチらないため、憧れてもいた。なので、双方の気持ちが入り混じったコメントだ。

「その先輩とは誰じゃ?」

「『扶桑のスリーレイブンズ』の筆頭格ですよ、少佐」

「す、スリーレイブンズじゃと!?あの伝説の!?」

そう。扶桑で三羽烏の名を持つ者は戦場を支配するという伝説が、いつしか出来上がっていた。これは各国駐在武官や観戦武官が扶桑海事変の様子を語る内に、尾ひれがついて誇張されたものの、大筋はその通りである。陸軍三羽烏の面々が、戦後に閑職か左遷に追い込まれた(実質的に、参謀本部と軍令部が、その力を自分に向けられるのを恐れたための処置)事も手伝って、余計に伝説味が増していた。

「ええ。私の直接の先輩方なんですよ」

「扶桑のウィッチはどうなっておるのじゃ!?あの者達の実力は、世界を見回しても……」

「爆撃魔王いるそっちだって、大概ですって」

「あれは人外じゃ、人外!」

ルーデルは、ハインリーケから見ても人外扱いなようで、黒田は大いに笑う。だが、扶桑三羽烏の実力はルーデルも認めるところである。世界を見回しても、三羽烏に匹敵する、あるいは凌駕する者はルーデルや、赤松貞子などのごく少数の人外級のエースのみに限られる。

『ゲッターロボG、出撃準備急げ!繰り返す……』

「あ、先輩達、呼ばれてる」

「何!?」

「先輩達、ゲッターロボも操縦できるんですよ」

「ゲッターロボだとぉ!?」

そう。この時はケイ、シャーリー、ティアナの組み合わせで、ゲッターGに乗り込んだが、ウィッチでありながら、スーパーロボットの操縦技能がある者も出てきていた。これは、事実上の解散状態にある初代ゲッターチーム、錬成途上に有る新ゲッターチームの穴埋めを求めたメイサーの思惑も絡んだものであったが、大成功であった。

『ドラゴン、発進準備よし!』

『ライガー、発進準備完了!』

『ポセイドン、発進準備終わり!』

『ゲッターロボG、発進!!』

カタパルトを使い、撃ちだされるニューゲットマシン。その勇姿は空で戦う、リーネやミーナからも確認できた。

「あれが、ゲッターロボGのマシン……」

「もう、扶桑は、扶桑人はどうなってるのぉ〜!」

ミーナが思わず叫ぶ。溜まりに溜まった鬱憤が表に出たのだ。これはいつの間にか隊の主導権を三羽烏に握られ、細かい決済に目を通さないでいた自分の落ち度、さらに未来世界のヒーローが、よってかかって日本発である事、扶桑海の終結に大きな役割を果たした三人のウィッチが三羽烏であったという事実が判明したため、扶桑は魔窟という認識を強める。

『チェェンジ!!ドラゴンッ!スイッチ・オン!!』

ゲッタードラゴンとなり、空を駆ける。更にグレートマジンガー、グレンダイザーも続き、編隊を組んで、ミーナとリーネの前に姿を見せた。

「あれが、未来世界の誇るスーパーロボット軍団……」

リーネはスーパーロボット軍団の一角を担う、グレートマジンガー、グレンダイザー、ゲッターロボGを目の当たりにし、目を丸くする。科学が生み出した人造の神とも言えるスーパーロボットは、不思議とミーナとリーネの心を熱くさせる。

――自分達がどんなに望んでも手に入れられない、揺るぎない力を持ち、かざした剣は勝利の証であるスーパーロボット軍団に羨望を感じるミーナ。

(あれが未来世界の人々の希望だというのなら、私達に力を与えて!そう。大切な『ナニカ』を守れる力を!)

自然と機銃を握る力を強める。ヒロイックな姿のスーパーロボットに、何か特別な力の加護を感じ取るのだった。――



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