外伝その84『望んだ歴史改変』

――A世界でのロマーニャ決戦は、最終的には『スーパーヒーロー大戦』の様相を呈して決着した。その事は、A世界のウィッチたちに多大な罪悪感と責任感を与えた。それはグレートマジンガー達に加え、仮面ライダー達を筆頭にした歴代のスーパーヒーローの介入でようやく勝利したという事実は、黒江達のやり直しの際の501隊員の教育にも大きな影響を与えた。二度目では、一度目と違う経緯を辿った出来事も多かった。502との合流がすんなりと出来た事、黒田が一度目で愚痴っていた『出撃』の手当も、ミーナを坂本が説き伏せて許可させるなど、主に坂本のファインプレー率が増加した。これは坂本も、娘のための『逆行』を行っている事を早期にカミングアウトした事で双方の連携が取れた事、記憶がある事で、ミーナへの対応がやりやすくなったからであった。その賜物、坂本とスリーレイブンズは『同じ釜の飯を食う』ようになった日以後、隊員の教育を重視した。A世界で問題になったのが、ウィッチ特有の倫理観から来る『争い事への嫌悪感』であるのは知っており、『グレートマジンガーや仮面ライダー達に助けられておきながら、恩知らずな言葉を吐く』ような事態を避けるため、黒田、芳佳、菅野、ハルトマン、バルクホルン、シャーリーの6人の協力を得て、ウィッチらの『再教育』を課していた。二度目においては、黒田がド・ゴールを恫喝する形で許可させて、ノーブルウィッチーズを呼び寄せたため、名実ともに『航空軍編成』が実現した。A世界の最終的な『歴史』は、この二度目の改変に寄るものである。そのため、指揮系統が一度目より複雑になったが、作戦会議はロザリーも交えた合議制となり、更に艦娘達が当初から後見のポジションについている(上層部への後ろ盾)ため、円滑な補給が可能となった事、一度目と違い、508からの出向という形で、孝美が属していた事で、508との連携と508の参陣が可能となった事が挙げられる。黒江達はこの二度目の改変で生まれた統合戦闘航空軍を『真・501統合戦闘航空軍』と日誌に書き記している。一度目からの編成の変化は、坂本が一歩引いた『飛行教官』に下がった代わりに、スリーレイブンズが明確に『先任飛行中隊長』になっている。これは坂本の発案で、芳佳や菅野、黒田などの『次世代』に後を託す一方、『スリーレイブンズ伝説の再来』を自らが望んだため、それと自らが発端であった、スリーレイブンズとミーナとの軋轢を避けるためであった。それと、『前回』は空母の指揮管制が軍人としての後半生の仕事だったため、その技能を活かすためだった――


「先輩、黒田先輩から聞きました。その、その、なんて言ったら……ぜ、前世ではご迷惑を……」

「その事か。なーに、こっちも良い教訓を得られたし、まっつぁんが今回もどうにかしてやると豪語しとる。そんなに気にするな」

「は、はぁ。でも、なんだか不思議ですね。先輩が数百年生きてるなんて」

孝美が黒江の部屋に、着任の挨拶しにやって来た。事のあらましは黒田がネタバレしたらしく、なんとも気まずそうだった。シスコンもバレている事もあり、前回と違って、黒江に好意的であるのが分かる。

「前の時は妹のことでお前と揉めたが、今回は今回でよろしくな。前の時の記憶はあるけど、それは『今とは』関係のない事だしな。それと、お前のシスコンだが……」

「黒田先輩のおかげで知れ渡りましたよ、すっかり。綺麗サッパリと。これはこれで清々しい気分ですよ」

と、逆に晴れ晴れとした気分らしく、清々しい笑顔であった。黒江は『お、おう』としか返せなかった。

「先輩、着任間もないのに、部屋を随分とカスタマイズしてるんですね」

「高い給料をもらってるし、この頃には自衛隊の給金も勘定に入れてるから、バイクとかの分割支払いとか以外は自由度高いからな。それと中隊長室は個室だしな」

黒江は二度目においては、基地の自室に随分と手を入れており、釣り用具入れの棚、映像メディアのラック、漫画や小説の本棚、なのはがアルバイトでしている『プラモ製作代行の手伝いのやりかけ品』が置かれている。なのはは黒江がロマーニャに着任した時間軸では、高校卒業間もない時期で、防衛大学校志望生であった。小遣い稼ぎに、『プラモ部書記』だった技能を活かして、プラモ製作代行をしていた。なのはは職業柄、ミリタリー系プラモやガンプラ製作に定評があり、高校卒業の年にはその界隈で『プラモコンテスト荒らし』と知られている。(本物を見ているし、動かしているので当然だが)なのははスリーレイブンズの弟子である都合、ミリタリーでは『日本軍/ドイツ軍』を得意とし、中学2年の年には、本人監修で『ルーデル搭乗のスーツカG型』を製作している。ルーデルはプラモ製作でも妥協しないらしく、ガーデルマンの指定席の後部銃座まで作り込ませたという。また、なのは自身がダブルゼータ乗り/Sガンダム乗り志望であるので、やけにスタイリッシュなダブルゼータを作り、小学生時代の同級生(男子)に「ダブルゼータがこんなスタイリッシュなワケがない!」と言われ、しょげた事もある。(実際のダブルゼータは、空間機動性のポテンシャルはゼータよりも高いのだが)棚に置かれているのは、そのアルバイトで製作途中のプラモで、『ザク』、『ドム』、『グフ』など、なのはに取っては『残党狩り』で対峙した機種が多く、当人に取っては複雑である。黒江にとっても、敵として戦った機種が多いので、なんとも言えない。ちなみに、なのははその元同級生に『フルアーマー素体はスタイリッシュじゃん!』と言い返したとのこと。

「先輩、若い子らの教育はどうするつもりですか?」

「ここ最近、ウィッチ部隊は陸も空も敗退続きだ。一昔前みたいな『高慢な態度』は取れなくなってきてるし、ウチは近々、戦争だしな」


「向こうの軍隊流のスパルタで行くと?」

「それは奴等が承服しないさ。今のウィッチは戦争は怪異との戦いを指すモノだって思ってる。だから、今の状況を一過性の流行病としか思っちゃいねぇ。こんなんじゃ、国家総力戦から爪弾きにされる。私らが恐れているのは、ウィッチ兵科そのものの存亡だよ」

黒江達が逆行で重視したのが、『ウィッチの意識改革』である。特に二度目においては、『ウィッチも国家組織の歯車である』事を教育することに心血を注いだ。そして、その範囲内で、上層部から了承をあらゆる手段で取り付けて『合法的に』行動する。ロンド・ベルで培った手法である。黒田がド・ゴールを脅したのも、ロンド・ベルでのノウハウの活用である。

「ウィッチ兵科がめぼしい戦果を挙げないで、今度の戦を終えてみろ。たちまちに軍から居場所は消える。だから、竹井のじー様はスリーレイブンズだった私らの復活に全てを託した。だから、ウィッチはどうしても戦果を挙げないといかんのだ」

それが、スリーレイブンズがこの時期から背負わされた宿命だった。かつて、ウィッチとして『戦局を変えた』唯一無二の存在として。だから、スリーレイブンズの言うことであれば、軍上層部、国家首脳に至るまで言うことを聞く。ISなどの未来兵器導入は、スリーレイブンズの提言によるものだ。ウィッチとして『最強』だった三人が『駄目』と言えば、国家首脳も駄目と判断する。それほどの影響力がレイブンズにはあるのだ。




――孝美と黒江が話しているのと同じ頃、坂本はこの日、ミーナにレイブンズの事を話していた。前回が前回であるので、今回は自分から切り出すほうが良いと踏んだからだ。坂本は今回、三人が1937年当時に『世界最強』を謳われた伝説の三人である事を告白したが、今回も駄目であった。つまり、当時の三人の年齢から、『あり得ない!』とミーナが一蹴したのだ。

(こりゃ、今回も三将軍事件は避けられんな。ケイに言うか)

と、部屋を出ていって、苦笑する。知らされた圭子は大笑し、三将軍に連絡を取る。どの道、ミッド動乱での容疑があるのは同じなので、早々に晴らした方が良いだろうという事で、孝美着任の翌日、三将軍が視察の名目で現れた。


――翌日――

「ごめんなさいね、ロンメル。前線から呼んじゃって」

「なーに、久しぶりにマミの飯が食べたかったところだし、丁度いい」

「パットンの親父、入院先から直接来たのかよ」

「おう。マミの飯は世界最高だからな〜ガハハ」

「モンティもごめんなさいね」

「いや、マミの作る食事のためならば、たとえ南極からでも……」

「あんたたちねぇ…」

「美味い食事のおかげで生き残ろうって気力が生まれるんだ、なのにウチの国は効率ばかり考えて美味い飯を忘れてしまった。全く嘆かわしい事だ」

「だから、アンタの国は『味覚死んでる』とか言われんのよ」

「かといってド・ゴールの所みたいに常に美味いもの食ってると腑抜けてしまうが」

「ド・ゴールの野郎はどうにか出来たの?」

「ああ。クニカとケイからのメタ情報で脅してやった。イソロク大臣の応援を頼み、博打でヤツの小遣いを巻き上げてやった」


真美のご飯につられてやって来た、ロンメル、パットン、モントゴメリーの三将軍。それを思い切り口にだすので、智子は呆れている。三将軍とタメ口を聞いても許される立場にあり、暴走気味の彼らを逆に諌められるというビジュアルは、隊員らに衝撃を与えた。ミーナへは、自分らの立場の明示だった。モンティ達はド・ゴールの小遣いをポーカーで巻き上げたらしく、山本五十六の博打打ちを利用したとの事。

「その後はすんなり行ったぜ。ノーブルウィッチーズの組み込みに判を押させたよ。次女のアンヌにバラすぞ〜とか言って」

「うわーお、パットン、あなた達もエグいわね」

「俺は攻め口見付けたら、徹底攻撃して粉砕するのが信条だ」

「叩ける時に叩かんと後で攻め処が無くなってしまってはたまらんだろう?」

ド・ゴールは余命いくばくもない次女を溺愛している。23世紀の最先端医療を以ても、『30までは持たないだろう』という病状にド・ゴールは打ちのめされていた。そこをパットンは突き、ド・ゴールに判を押させた。23世紀医療を紹介したという恩も売っておいて。ド・ゴールの次女のアンヌは知的障害を負っていたとも言われているが、史実では20ちょうどで死去している。次女の名誉のため、ド・ゴールが口をつぐんだ事もあり、ウィッチ世界でも詳細は不明だが、アンヌの病を治せる最後の希望を23世紀医療に託し、その微かな希望が打ち砕かれたのは確かだ。ただし、ダメ元で行った24世紀相当新技術(新型タイムふろしき併用)での彼女の延命そのものには奇跡的に成功したという。それが教会に毎日通いつめて、十字教に心の救いを求めたド・ゴールにもたらされた、ささやかな奇跡だった。そのこともあり、ド・ゴールはノーブルウィッチーズの501合流に同意したのだろう。(その医療技術を提供したハーロック曰く、銀河100年戦争に入る頃に使われていた医療技術で、彼から見れば古い技術とのこと)



――その後は前回と同じような会話が行われた。今回はミーナが自分の非を認めて謝罪。黒江が村雨良(仮面ライダーZX)を呼んでいた事もあり、当人に謝る事が出来た。ZXが簡単な身の上話をし、ミーナが彼の立場を知ったのも、大きな決め手だった。村雨がバダンに姉のしずかと自分の記憶を奪われ、それが彼の戦いの原点であることを理解したのだ。これ以後、ミーナはスリーレイブンズの事も知ったため、スリーレイブンズに助言を乞うことも増えていく。戦後の再研修こそ避けられはしなかったが、ミーナが明確にスリーレイブンズに敬意を払うようになったので、圭子と黒江の作戦勝ちだった。また、黒江が驚いたのは、元バルイーグルの大鷲からの連絡で、501の防空航空隊に、地球連邦軍航空隊のホープで、山本明の従姉妹の玲が着任してきたというのが判明したからであった。山本明に恩義がある黒江は、さっそく孝美を引き連れ、連邦軍管轄下のエリアに足を踏み入れた。

「おい、玲!お前がここに来るなんて聞いてねぇぞ」

「明兄さんにいったら、あなたのとこにすぐに連絡が行くから、黙ってたんですよ。兄さん、心配性だし」

玲は実兄の山本明生をガミラス戦で失った後、血縁が最も近く、本家筋の従兄弟の『明』に引き取られた。奇しくも、明も軍人で、根っからの戦闘機乗り。加藤三郎亡き後の数少ないガミラス戦トップエースである。加藤家とは両名ともに加藤三郎存命中から付き合いがあり、現在のホープ筆頭であり、三郎の正統後継者の四郎と玲が同世代である。加藤四郎は兄より冷静な空戦を行う事で知られており、二重銀河からの帰還後は正式に、ヤマト第三代艦載機隊長を拝命している。古代に見込まれてのもので、血縁で選ばれたわけではない。

「お前の『兄貴』にゃ恩義があるしな」

「そちらの方は?」

「私の部下で、後輩。空軍が出来れば、海軍から移籍予定の奴だ」

「雁渕孝美大尉です、よろしく」

「山本玲中尉です」

二人は挨拶を交わす。住んでいる時代は数百年は違い、世界も違う。だが、航空関係者という点は同じなため、なんとなくシンパシーは感じたらしい。

「玲、お前、何に乗ってるんだ」

「新ゼロです」

「新タイガーの試作機か?よくもらえたな」

「ちょうど、新ゼロのデータでコスモ・ゼロの改修型を作る話になったんで、そのデータ取りですね」

「コクピットはゼロと同じなんだっけ?」

「ええ。タイガーとはちょっと違います」

「見せてもらえるか?」

「ちょうど整備中なので、いいですよ」

格納庫に行くと、オレンジ色の尾翼とエンブレムが入った新コスモ・ゼロが置かれていた。整備中なので、コックピットは開いている。見てみると、外装はコスモタイガーそのものだが、ゼロのコクピット周りが流用されたのか、コスモ・ゼロのコクピットである。コスモタイガーに比べると、玄人向けであるのが一目瞭然のアビオニクスである。

「タイガーに比べると、洗練されてないな?」

「ゼロのを乗っけてますからね。指揮通信や偵察用のコンソールがどっちゃりついてます」

「それでも、私達の時代と基本構成は同じなんですね」

「飛行機は宇宙に出ても、基本構成は変りません。ですが、ボタン一つで切り替え出来るので、楽にはなってます」

「へぇ」

「HOTAS概念だよ。今度教えるつもりだったが、ちょうどいいや」

「M粒子が濃い環境対策でアナログメーターがバックアップでついてますが、基本構成は21世紀と同じです」

「操縦桿にボタンが色々ついてますね」

「HOTASと言って、第4世代ジェットの頃から普及した『操縦桿から手を離さずに操作出来る』概念です。操縦桿に色々な切り替えスイッチがあるので、この時代のレシプロより随分と楽ですよ」

「そう言えば、先輩。ウチの海軍機、どうしてスロットルにトリガーがついてたんですか?」

「あー、それか。玲、その辺詳しいだろ」

「いきなり振らないでくださいよ」

――と、いきなり話を振る黒江。玲はとりあえず、孝美に日本海軍機がスロットルに機銃発射レバーを取り付けていたかを説明する。実はこれも、21世紀日本人からの槍玉に挙げられる事項であった。日本海軍機は基本的に太平洋戦争中はスロットルにトリガーをつけていたが、戦争後期の練度低下の要因として、九六式と零式で機構が違い、パイロット育成を阻害したと評されている。いきなり、矢どころかガトリング砲の掃射のような批判の嵐に晒された空技廠や各軍需メーカー、海軍航空本部は困惑した。本音としては『んじゃ、どないしろつーねん!』である。45年当時、海軍航空本部は史実の失敗をこれでもかと連日連夜批判されまくり、鬱病状態に陥る者が続出した。そして、各軍需メーカーも批判されまくった。若い頃の坂本が荒れたのも、宮藤設計機の低い量産性などを批判されたからだ。二度目の逆行で、坂本が苦労したのも、この後始末である。

「――まぁ、こんな感じです。あなた達の海軍は大抵の場合、完膚なきまでに負けるので、悪く言われる事の方が多いですね。特に、航空行政では」

「知り合いに航空本部の人がいるんですけど、アツタとハ40の事で『馬鹿、間抜け、ノータリン』呼ばわりされて死にたくなったとか言ってましたけど、負けたからって、当事者の事情を考えないで言うのは違う気が……」

「メーカーの生産力の都合でしたね」

「ええ。本当は海軍の液冷と、陸軍の液冷。双方のメーカーが単独で需要を満たせるか心配で、カールスラントに別個にライセンスを取らせただけなんですけど。おかげでパニックですよ。ハ40は供給ストップされて、アツタに絞ろうとかなったら、飛燕には乗らないし」

「微妙に設計が違ってたしな」

「それで空冷式エンジン乗っけたら、大受け。工場の人達が泣いてましたよ」

「仕方がない。アツタは史実でも飛燕に載っけようとしたら無理で、それで金星に変えたら大受けだったって経緯があるしな。ドイツのオリジナルエンジン乗っけられるのはウチが日本帝国に勝ってる点だが、あれも生産数が減ってるしな」

当時、液冷エンジンはカールスラントと扶桑では需要が減っていた。扶桑はジェットとターボプロップエンジンに次期主力エンジンを決定し、カールスラントはフラックウルフの空冷エンジンが思いの外、稼働率が良好だったからである。そのため、扶桑ではP-51Hには興味を示さず、F-86セイバーのライセンスをアメリカから取得し、生産とストライカーへのスピンオフに全力である。これはアメリカにとっては『大昔の機体であり、出しても問題のない』ライセンスと技術情報だったからで、リベリオンはこれに大いに困惑した。アメリカがその次までを一気にライセンスを提供し、日本の三菱重工業が生産を支援したからだ。これが扶桑が一気に、『F-104J』までを短期間で配備したカラクリだった。これは逐次、ライセンスの範囲が拡大され、遂には第4世代機のライセンスにまで到達してしまう。アメリカが外貨獲得のため、スウェーデンへの対抗で、扶桑の軍用機市場に積極的に売り込んだ結果だった。リベリオンはこれにショックを受け、アメリカに自国生産のためのライセンス取得の交渉をする羽目になったのは言うまでもない。が、幸運にも扶桑が生産機を供給する密約を結んでいた事で問題の解決には成功したが、その発端を作る事となった航空関係者は辞表を提出したという。

「今後はジェットの時代ですよね?パイロットはどうするんですか?」

「育成と、向こうに行った経験がある奴がパイロットを兼任して確保するそうだ。私らは当然の事だけど」

「先輩、大丈夫なんですか」

「失礼な、ウイングマークを三回も取得してるんだぞー」

黒江のように、任務の都合で、空自/地球連邦宇宙軍/扶桑皇国軍の三つの組織でウイングマークを取っている者は多い。特に、扶桑陸軍は早くからジェット時代の到来を見抜いていたために、レイブンズを含め、空軍設立寸前の時間軸ではかなりの人数のエース/古参兵らがその三つの組織での飛行資格を保有していた。逆に、海軍は基地航空隊の多さから楽観視していた者が多く、派遣経験があるウィッチや高官抜擢予定の佐官将校を除くと、むしろウィッチのウイングマーク取得率は少なかった。が、この日に内示された組織予定概要では、源田や佐薙毅、小園と言った有力な航空関係者が抜擢された一方、実務者の多くは旧陸軍系の人材で占められていた。特に佐官(45年当時)将校の目玉がスリーレイブンズとその前後世代である事が、海軍系ウィッチを憤慨させ、その内示が面白くない海軍は、ジェットのウイングマーク取得を急がせた。空軍の主導権争いであった。しかしながら、陸軍航空は空自と密に連携を取っており、組織だってのウイングマーク取得を推進している。黒江のように、空自で佐官に登りつめる者も出始めており、事実上、勝負はついていた。だが、今度は空母航空隊の練度維持が急務となり、今度はウィッチの流出阻止を行う羽目になるなど、まさに踏んだり蹴ったりである。

「先輩、メタ情報で言いますけど、海軍はなんで、私をあの手この手で慰留していたんですか?」

「空母航空団が弱体化したんだよ。海軍の高官は喪失リスクを恐れて、基地航空隊を重視したんだが、史実だと裏目に出たから、槍玉だ。それに加えて、空母航空団を補助戦力扱いした戦略だから、井上さんがかなり憤慨してな。それで空軍に行ったんだ、あのおっちゃん」

井上成美は当時、海軍の空軍化を推進した事が槍玉に挙げられ、大いに憤慨しており、空軍に移籍する腹づもりを固めていた。同位体の『陸上航空基地は絶対に沈まない航空母艦である。航空母艦は運動力を有するから使用上便利ではあるが、極めて脆弱である。故に海軍航空兵力の主力は基地航空兵力であるべきである。』の提言を『学者の戯言』、『朝鮮戦争以降の戦乱を見ろ』と言われまくり、井上はこれを比叡に大いに愚痴っており、『そんなに批判されるのなら、海軍の地位など惜しくはない』とまで漏らした。史実で海軍士官だった事をこだわったのとは対照的な選択だった。彼は『良かれと思って提言したはいいが、結局はボロクソに負けたじゃないか』との批判に怒り狂っていたが、戦上手ではない事を自覚しており、また、『航空主兵なら空軍ではないか』という批判が移籍の動機だった。

「で、海軍はこれから受難だぞ〜。マリアナ沖海戦の戦訓で、最低飛行時間が800時間に定められるけど、今いる連中は600時間も行けば良い方で、実戦経験もない若僧ばかりだ」

「つまり、飛行時間が800超えないと空母に搭乗資格がないと?」

「マリアナ沖海戦の情報に萎縮してるんだよ。あれで帝国の命運は決した上、496機の九割が空の塵になったしな」

「あれはそもそも、航空隊のソフト面が劣化していたし、ハードウェア面でも世代が違うほどの差がついてたのと、相手方が1000機と、倍以上も差がありましたけど」

扶桑皇国軍が空母航空団の搭乗員を空軍ウィッチで賄うようになる要因の一つが、空母航空団の搭乗員資格の厳格化で、当時の実働要員の過半数がその資格を満たさないという本末転倒と、日本左派の過激なテロで育成に多大な支障を来した結果、自前の搭乗員は練度不足とされてしまい、その埋め合わせが64Fの数年後における酷使だった。

「先輩、それで私達、数年後に酷使されるんですよね……」

「言うな……。あれはフジも愚痴ってたからな。あいつらのせいでなー」

ネタ情報を言い合い、落ち込む二人。日本の左派の傍迷惑さは吉田茂が孫にクレームをつけるほどである。当時、政府指導層、華族、軍の青年将校らを狙った暴行事件は、連邦軍からのが通達と訓示で収まったと思ったら、日本の左派のほうが陰険で悪質であったというオチがついた。記憶が連邦軍よりも鮮明であるのが彼らの暴走の一因で、特に親独派の外交官や政府高官らが暴行を受けやすかった。特に、日独伊三国同盟を主導した大島浩大使や、松岡洋右などは凄まじい迫害を双方から受け(連邦軍からは物理的に、日本左派からは精神的に)、人間不信に陥り、大島大使に至っては網走刑務所から釈放されたその日にトラックに轢かれて病院送りにされている。親独派が中枢から色々な濡れ衣やスキャンダルをでっち上げられて『排除』され、その後に居座ったのが親英米派であった。また、知露派の主流派も杉原千畝外交官への迫害を理由に『排除』されたため、扶桑外交に大きな変化をもたらした。松岡洋右は『同位体のした事はあくまで同位体の責任。なぜ私が責を負わなくてはならないのか!?』と襲撃された際に述べ、その時に非人道的に罵倒され、『国家を破滅させた国賊』と罵倒された事が精神を病む原因だった。この一連の暴行事件でカールスラントは扶桑とのコネクションの多くを失い、扶桑への影響力を大きく損ねてしまう。逆に、リベリオン/ブリタニアとの蜜月が醸成される事で、ブリタニアは衰退速度を緩める事に成功する。これは扶桑と日本から多くの富がもたらされる事により、財政が改善し始めたからで、最盛期の大英帝国ではなくなるのは決定事項とは言え、少なくとも、1930年代当時の状態の維持には成功する。怪異のこともあり、ブリタニアが大国であり続けなくては周囲の国々が困るという政治的状況も絡んでの事であったが、チャーチルが望んだ『大英帝国に日がまた登る』未来がリベリオンの分裂によって叶ったのだ。

「今回のことはブリタニアには願ったり叶ったりかも知れないぞ。リベリオンが東西冷戦の当事国になって、分かれるだろ?そうしたら」

「ブリタニアが世界の工場に返り咲くのを望む国際世論が欧州で生まれますね」

「どういう事ですか」

「つまりだ、ガリアは死に体、ロマーニャは東西冷戦でヴェネツィアと対峙する、ヒスパニアは雑魚くて、役にたたん。カールスラントは実質、新大陸の国家。そうなると、必然的にブリタニアが矢面に立つ事を望むようになるってわけだ」

「なるほど」

「それに、あのじっちゃんには願ったり叶ったりだ。ほら、あのじっちゃんは海軍卿だった事もあるから、大艦巨砲主義者だろ?」

「もしかして、例の『セント・ジョージ』と『アイアン・デューク』ですか」

「そうだ。あれを揃えるために空母削ったから、海軍から、軍事予算の使いすぎで王室からも睨まれてんだ」

チャーチルは戦車開発の推進者でもあり、海では大艦巨砲主義者である。黒江らの改変で、ブリタニアは『扶桑海で大和型戦艦を投入した』と信じ込んでいるのと、戦後の大和型のプロパガンダの効果がてきめんだった事から、ブリタニアの旧態依然とした戦艦戦力の更新を持論にしていた。ミッド動乱での大和型とH級の対峙に羨望を覚えた彼は、強固に新標準艦隊計画での戦艦戦力の増強完遂を指向し、ジェット機化による『これまでの規格空母の陳腐化』を理由に、空母増強を犠牲にしてまで推し進めた。これには戦艦の更なる大型化でドック整備を含めての多大な費用がかかってしまい、王室からの不況をも買うことになる。まさに日本からの富はチャーチルの救世主と言えよう。こうして、チャーチルが自らの評価を犠牲にしてでも揃えた7隻の新戦艦は『ブリタニアのビック7』とプロパガンダされ、国威発揚の道具となる。

「空母はどうなったんですか?」

「大型空母を四隻で決着したよ。バルバス・バウ採用で。さすがのブリタニアもジェット機時代を迎えて、新技術入れないと無理なのは理解したようだ」

ブリタニアは、『CVA-01級航空母艦』を『ジブラルタル級航空母艦』として作る事で空母増強を決着させた。これは空母を多数作っても、ジェット化で空母として早晩に陳腐化する事を指摘したチャーチルは、5万トンか60000トン空母を20年使ったほうがコストパフォマンスが良いと力弁。これがブリタニアの戦艦戦力が戦後に過剰(扶桑は時期によって、戦艦戦力の5割を予備役に入れるなどして、財政をコントロールしている)と揶揄されるようになる要因であった。戦後の平時においては政府に『金食い虫』と揶揄される存在に堕ちるが、後のベトナム戦争では『現役戦艦』としての存在感を誇示し、80年代半ばに後継者達にそのバトンを託す。最後まで現役だったヴァンガードが後継にバトン託して引退をしたのはフォークランド紛争後の事で、その寿命は大和型には及ばなかったが、40年間、ブリタニアの『剣』であり続けた七隻はその全てが保存され、90年代以後は観光資源になり、ブリタニアになおも貢献したという。

「これからどうなるんでしょうか?この戦い」

「さーな。歴史改変の引き金を引いた以上、何が起こるか分からん。歴史改変が上手くいく保証もねぇからな。『前回』は納得いく結果にゃなんなかったしよ。お前がここにいる時点で変わってるしな、雁渕」

「そうだ。前回は妹が来てたが、今回はお前がいる。この時点でかなり変わってるんだし、細かい予測は出来ねー」

「先輩、話に聞いてたよりフランクですね」

「綾香さんはこんな感じですよ。若返った後、見かけがミドルティーンから齢を取らなくなったらしいから、前より言動が相応に若くなってますよ。初めてお会いした時はローティーンの姿でした」

「おい、それは言うなって!」

「いいじゃないですか、減るものでもないし」

「ぐぬぬ」

と、見かけ相応の精神状態になっているのが態度からも伺える。スリーレイブンズは見かけがミドルティーンの段階で、存在の昇神が起こったため、全員の肉体は単なる器となったので、事実上の『不老』となった。戸籍上で歳は重ねるが、肉体と精神は若いままである。(そのため、黒江は晩年期の長兄に『お前もいい年なんだから、もうちょっと老けた服装をしろ』と苦言を呈される羽目となる)

(玲さん。わかりますか?先輩がなんで以前より子供っぽくなったと言おうか、元気っ子になった原因。前はもっと落ち着いた雰囲気の方だったんですけど)

(綾香さんがそれを望んだんですよ。綾香さんは本当に身を預けられる相棒を持てなかったし、教え子を守れなかったって言う傷を負っています。だから歴史改変をしてまで、智子さんと親友になりたかったんでしょう)

(相棒を?)

(そうです。綾香さんは輪の中心になれるカリスマ性を持つけれど、誰かの輪に入る事はできなかった。『前回』ではね。それで教え子を失った事で負った心の傷が幼少期のトラウマを蘇らせた。その悲しみや無力感を癒やしてくれる人を求めた。それが再会した智子さんでした。智子さんもそれを受け入れ、そのように振る舞ったし、立場を変えた。今じゃ、智子さんのほうが『年上』っぽく見えますよ)

(確かに)

玲の観察眼は鋭く、黒江の人物像を的確に伝えた。黒江が負った心の傷、その傷が現在の振る舞いに影響を与えている(流石に、黒江が二重人格になっている事だけは伏せた)事も伝える。黒江は二重人格化した影響もあり、智子をいつしか『おねーちゃん』と深層意識で意識するようになっていた。智子はそれを渋々ながらも受け入れ、この二度目の時点では『スリーレイブンズの二番手』を公言している。黒江の子供っぽさは直接には、『あーや』の影響によるものだが、若返った直後に仮面ライダーストロンガーに助けられた事も関係している。玲は士官候補生時代から見てきたので、その変化の過程を良く知っている。(ちなみに、黒江の主治医となった(御坂美琴のツテで紹介された)『冥土返し』(ヘブンキャンセラー)の診断によれば、『大元の精神がバラけて再構成した現行の人格には、彼女自身の幼い頃の部分が強く作用している。仮面ライダーストロンガーとの出会いは、本来であれば成長で見せなくなった純真な部分を呼び覚ましたんだろう』とのこと)



――孝美はこれ以後、黒江という人物に興味を抱き、積極的に交流を図るようになる。この二度目においては、最終的に『スリーレイブンズの腹心の一人』としてのポジションを得る事になり、後の飛行64Fでは第六席として君臨し、後輩らからは『南洋島の桃太郎』の諢名で慕われたという。(64Fの暗黙のルールとして後世に知られる、『スリーレイブンズに信頼される事が隊内での立場向上になる』というものも空軍設立過程で醸成される。)二度目における、501の新メンバーとしても中間世代(ハルトマン、シャーリーと同世代)としての存在感を発揮。長老格のスリーレイブンズと若手の緩衝役を担ったという――



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