外伝その95『メンタルモデル』


――黒江が潜入捜査に行ったのと入れ違いに智子が戻ってきた。

「おい、お前。どこに行ってたんだ?」

「トイレ。大の方が長引いてね」

「なるほど。で、お前は知っていたのか?」

「当事者だし、あの子を迎えに行って、水瓶座の神聖衣着て参戦したわよ。敵が錬金術師だったから、黄金聖闘士としての使命にも合致してたし」

智子は圭子と迎えに行き、そこで『水瓶座の黄金聖闘士』として参陣、闘技を披露したと語る。黒江が正体を正式に明かしたのも、キャロル・マールス・ディーンハイムが魔法少女事変を引き起こし、その目的が世界の破界であったために黄金聖闘士としての正式な参陣に条件が合致したからだ。智子もその条件が揃ったため、参陣した。キャロル・マールス・ディーンハイムが強大と言っても、人としての領域に留まるため、神聖衣を纏う黄金聖闘士が二人と言うのはオーバーキルのようだが、そうでもなかった。キャロルが邪神『エリス』の依代とされたためだ。これは奏者が限定解除を行ったとしても対抗は不可能である。これは黒江も予想外の出来事であり、立ち向かえたのは黒江だけであった。奏者達はギアの限定解除モードでもまるで歯が立たず、逆にその力でギアを分解させられるという始末。迎えに行っていた智子が、そのまま援軍という形で参陣したのも肯けた。黄金聖闘士が二人がかりで封印するあたり、エリスの力の強大さがわかる。

「二人がかりで光速戦闘、か。奴さんは腰抜かしてたろう?」

「自分達の最高の奇跡を以ても、神には抗えないって突きつけられて絶望しかけてたわよ。あの子が神聖衣で対抗しなければ死んでたと思うわ」

智子と黒江は、聖闘士としての訓練を積んだため、神レベルの相手でも立ち向かえるが、奏者達はそうではない。神という存在との隔絶した力の差に打ちのめされたのだ。束になろうとも傷一つ入れられないという事実に。それと、二人はアテナの従神というポジションであるので、黄金神聖衣であれば対抗できる。封印は単独では無理なので、二人がかりで行った。結果として、エリス覚醒のあたりからは『黄金聖闘士対邪神』の様相となり、奏者達は蚊帳の外に置かれた。封印後、城戸沙織が『アテナとして』黒江達の上位者という形で来訪し、奏者達に黒江の正体を神として明かした。オリンポス十二神が一柱。そのネームバリューのインパクトは大きく、あの雪音クリスでさえ、沙織の前では大人しくしたほどだ。クリスは自らの辿って来た経緯故か、『オリンポス十二神がいるのなら……なんで……』と不満も覗かせた。死んだ両親の事があったからだが、阿頼耶識に目覚めている二人は冥界に行けるので、『言葉を伝えられる』事が教えられた。阿頼耶識というものの存在を知った事で、生死の境が薄れたような感覚を覚えたらしく、複雑な表情だった。

「神様って言っても、神話みたいに全知全能でもないし、祈りにも自分の権能の範囲で助力してやる位しか出来ないし、状況の打破は人の意思が無いと出来ないんだ。 だから神には祈っても願ってはならないんだ。大事なのは人の意志なんだよ、クリス」

「人の意思……」

黒江のこの言葉は、『神と言えども、全知全能ではないし、最後は人の意思が運命を切り開く』事を教えたかったのだ。クリスは響の起こした奇跡を見てきたため、否定はしなかった。

「じゃ、なんだよ。あたし達『人』に何が出来るんだよ!?教えてくれよ!」

「『神を超え、悪魔を滅ぼす』事です。人は人である故に、神や悪魔にも成りえますし、それを超えられます。アプローチは異なります。この二人のように、生身で神々に近づく事を目指す道、極限まで進んだ科学技術で、神にも悪魔にもなれるスーパーロボットを創造する道もあります」

沙織はアプローチの違いこそあれぞ、『神殺し』は人が主体になって、初めてなし得る所業であると、神として明言する。聖闘士として善神に仕え、邪神を倒すか、科学技術でスーパーロボットを作り、神にも悪魔にもなる道を選ぶか。マジンガーの存在を意識した言葉だった。

「別の世界では、スーパーロボットという『機械仕掛けの神』が作られ、邪神にも、善神にもなっているのです。ですが、それらを律するのは全て『人の頭脳』なのですよ」

沙織は神である故に、兜十蔵が行き着いた答えを知っていた。人の頭脳が神にも悪魔にもなり得るのに重要な要素を備えていると。それ故、十蔵は自らの邪悪な側面の塊である二柱の魔神の出現を恐れ、息子の剣造宛てに、ゴッドマジンガーの概念図と基礎設計図を遺し、ゼウスにマジンエンペラーGのアイデアを託したのだ。ゼウスは十蔵の遺志を汲み取り、剣造にマジンエンペラーGの建造を託し、剣造はそれを形とした。その経緯からか、沙織=アテナも人の頭脳の大切さを説いたのだろう。

「人の頭脳……」

「つまり、どれほど科学技術が発達しても、最後は人の心が左右するという事だ。あなたは神話の時代から人の争いを見、助力してきた。だからこそだ」

風鳴弦十郎が美味しい場面を持っていく。未来世界でもそうだが、人の心が通わない戦闘マシーンの行う戦争は『ゲーム』でしかない。だからこそモビルドールは否定され、アンドロメダは沈んだのだ。

「アテナ、あなたの存在は我々の胸の内に秘めておきます。オリンポス十二神の実在が公表されたら、世界は泥沼の宗教戦争に突入するのは目に見えていますから」

「ええ。私は神である以前に、城戸沙織という一人の人間でもあります。オリンポスの存在が宗教戦争の温床になるのは、十二神、ひいては原初の神々も望んではおりません」

21世紀は宗教/民族戦争が激しい時代でもある。弦十郎はその情勢を鑑み、アテナの存在の秘匿を選んだ。それが宗教的にも相応しいと考えたのだろう。


「――それで、その世界とは?」

「要請があれば、協力するって事で決着したわ。こっちにはそれほど旨味は無かったけど、エリスのこともあるし」

「なるほどな。それであの姿をあいつは使ってるわけだな」

「タイムパラドックスとかが絡むけど、とにかくその子と入れ替わって、代理をやらされたから、その交換条件ね。あまりシャルシャガナは好んでないけど」

「あれは確か、鋸だしな」

――黒江がどの程度、シンフォギア世界にいたのか。おおよそ一年ほどであろうと思われるが、調は主であるオリヴィエの死まで付き添ったため、少なくとも10年以上であった。調が黒江のシャルシャガナのコピーによる保有を認めたのは、『自分の役目を、住む世界が異なる人物に押し付けてしまい、容姿までも借用せざるを得なかった』という負い目からだろう。

「あの、大尉。お客さんが来てます」

「リーネ。客って?」

「タカオさんって知ってますか?」

「あー、連れてきてー。金剛の同族だから、
あなたの上官よ」

「えぇ!?」

「あいつ、メンタルモデルモードで来たな?」

「あんのツンデレ重巡。何の用かしら」

リーネが驚くのも無理はないが、艦娘は容姿を使い分ける事があり、高雄の場合はタカオとしての青髪の少女の姿を持ち、普段の姿より、こちらのほうがウケが良い。タカオとしてのツンデレな姿のほうが人気があるので、黒江らの転生後は、こちらでいる事が多い。

「玄関ホールにタカオが居たからつれて来たヨー!」

「コンゴウ。口調切り替え忘れてるぞー」

「SHIT!私とした事が……これで良いか」

「OK」

金剛もコンゴウとして来たが、口調の切り替えを忘れていた。金剛はよくやることだ。ただし、金剛は普段の姿のほうが人気がある事もあり、あまりメンタルモデルにはならない。

「要件はこれだ」

「モンタナの工事?」

「ああ。タカオ、アタゴ、ユキカゼに調べさせたが、かなり進んでいる。ドリルの建造もかなり早まってるようだ」

「念のため、ラ號を呼び寄せればならんな」

「リバティーはどう?」

「タカオ、報告しろ」

「わかってるって!船体の改造は30%。武装の改造と波動エンジン取り付けが40%。進捗状況が前史より相当早いわよ」

「誰かが作業を効率化したな?ロキか」

「ありえるわね。アイクにニューレインボープランの早期発動は具申した?」

「承認された。今日は、その事をミーナ中佐に伝える事も兼ねているのだ」

「南洋島地下のドックを作り初めて、間に合うのか?」

「今からなら、数年間の時間はある。前回のような『重慶』のチョンボを奴等がやらかすまでにあそこの地下都市化も進めるそうだ」

「かなりの予算ぶっこむわね」

「だから、新ラ級の素体が旧型だったりするんだろう。新型を回す余裕はない」

ニューレインボープランの要として新造される『新ラ級』の素体の多くは旧型空母(元戦艦)だったり、型落ちモデルだった。その不安があるため、議長国の扶桑とブリタニアのみは最新艦型がベースになっている。能力の平均値は条約明けに建造された45000トン級新戦艦の数値が主流である。その第一陣がレキシントンだった。空母としての利用価値が消え、かと言って、ウィッチ部隊を編成出来るほどの稼働率は無い。選んだのはラ級への再改造であった。亡命リベリオンへの新鋭空母の加入などでレキシントンの旧式化が顕著となった事によるものだ。他国の中では、唯一、最新型の改装となったインペロが際立っている。同艦は未来世界でのオリジナルのラ級としても建造されていたが、未来世界では未完成に終わっている。イタリアが早期に屈服した事、戦後の政権がラ級の完成に興味を示さず、完成していた部品をソ連に売却したなどの理由だ。その経緯から、ロマーニャはインペロの完成に執念を燃やし、繋留されていた船体を回収し、提供した。改ヴィットリオ・ヴェネト級となるはずであったため、ラ級用に提供出来る素材は持っており、急ぎガルダ級、ミデアなどの空輸で運べる艤装品で回収出来るものは空輸で、主砲塔などは樫野などの輸送船と、主力戦艦改空母で扶桑に運び入れている。ロマーニャは外洋海軍では無い故、船体設計には不備も多いため、船体構造の見直しが入り、かなりの長丁場となる。

「インペロは時間がかかりそうだ。なにせ、フリッツXで轟沈した唯一無二の艦型だしな」

「あれねぇ。前に綾香がなのはのバイトの手伝いで模型作ってたけど、欠陥が多いとか?」

「いや、設計は不備が多いが、ロマーニャ最高の戦艦であるのは確かだ」

「コンゴウ、どの辺が不備なのよ」

「燃料タンク容量が小さかったんだよ。航続距離が4000海里もあればいいほうでな……」

「4000海里ぃ!?なにそれ、ウチの駆逐艦より短くない!?」

「仕方がない。ロマーニャとヴェネツィアは元々、地中海世界の海を守れれば事足りたからな。もっとも、ラ級になれば元の欠陥は余り意味はなくなる。大和型の副砲くらいだよ、残ったのは」

「え、そうなの?」

「ああ。ラ級になっても、元の設計の都合上、大和型の系譜は副砲がウィークポイントなんだ。だから投棄可能なように改修されている」

「そなの」

「私や長門の世代までのケースメイト式も一長一短だしな。そうそう、タカオはデモインにライバル心を持っているぞ?」

「ああ、あの甲巡としては完成形って言われてる弩級戦艦まがいのバケモン巡洋艦」

「そうよ。あいつのせいで、あたしはポンコツって言われてんのよ!ったく、条約型巡洋艦じゃ最有力って言われてたっつーのに」

「今じゃカンケー無いじゃん、それ。メンタルモデルなんだし」

「そりゃそうだけど、なんかこう、ムカツクのよ」

タカオは確かに艦娘/メンタルモデルであり、艤装を『超兵器』として再構築できるので、今ではデモインなど無問題だが、自分が旧式と言われるのは我慢ならないらしい。

「超甲巡が実現してんだし、それを使えばいいじゃんー。ギャフンと言わせられるし」

「あれだと、ミニ大和の巡洋戦艦になっちゃうじゃないー!」

と、智子と子供のようなやり取りを交わすタカオ。それにため息を付く坂本とコンゴウ。

「あのなぁ、タカオ。よく考えてみろ。お前、1920年度の建艦だろ?条約型初期建造艦じゃないか。それが条約明けの第二次大戦戦中型に勝てるか?」

坂本がタカオの肩をポンと叩く。コンゴウも同意する。

「ぐぬぬぬ……」

「そうだ、タカオ。車で言えば、マスタングとカウンタックくらいの差があるんだぞ、性能」

「はぁ!?何よ、その妙にマニアックな例え!」

「待て待て、マスタングとカウンタックじゃジャンルが違う。ここはAE-86カローラとR32スカイラインのほうが適当だぞ」

「そうか」

「あ、あんたらねぇ……。つーか、なんでスカイラインが出てくんのよ!」

「前史で50代終わり頃に乗ってたからだ!」

「アンタの趣味かー!」

坂本は前史でスカイラインを愛車にしていた時期がある。そのため、スカイライン推しらしい。

「今回も乗るのか?」

「日本から個人輸入して乗るつもりだが、今は道路網が整ってる南洋島用だな。前史じゃ、病気する前の90年代の始め頃だから、晩年に入った時期、後輩の一人に誘われて、峠攻めにいったら、パンダトレノに下りでちぎられてなー」

「アンタ、病気する前は相当走ってたわね?」

「前史は娘と不仲だったし、それがストレス解消法でもあったからな」

坂本は前史の晩年期に入るまで、スポーツカーを乗り回して、ストレス解消をするのが日課だった。90年前後に、トレノにぶっちぎられた思い出を語る。転生後は『若い内から乗り回そう』と野望を持っていて、ミーナに慌てられていたりする。

「つか、アンタ。今じゃ肉体の老いは無いじゃないの」

「そりゃそうなんだが、前史じゃ色々なしがらみがあって、スポーツカーは退役せんと買えなくてなー。今なら日本から個人輸入で買うって考えが浮かぶしな」

「「今度は宮菱と縁が深い三菱のランサーにしてみようかと。四駆でラリーの種車だから路外走行もいけるし」

坂本がスポーツカーを買うのが前史で退役後になったのは、青年期の頃は、智子達が1950年代のうちから乗り回し、広告塔になっていた事に坂本の両親、特に昔ながらの扶桑撫子を指向していた父親が『リベリオンの真似などしおって、軽々しい』と怒り、自家用車を『贅沢品』と認識していたことで、強引にファミリーカーを買わせていたからで、坂本が車を自由に選択できるのは、父が亡くなった60年代頃を待たねばならなかった。そのため、スポーツカーを買えたのは、坂本自身が退役した1970年代からである。この事から、坂本の父親が自家用車には、贅沢品であった昭和初期の価値観を50年代を超えても持っていたのが分かる。今回はそれを逆手に取って、パジェロやインプレッサ、ランサーを考えていた。

「穴拭、黒江に後で伝言頼む。三菱やスバルの車のカタログ欲しいから」

「メールしとく。あたしは先方から送られて来てるのよ、2000GT」

「お、おまっ……トヨタとヤマハじゃないか、それ」

「この間、サーニャとエイラがパーソナリティしてるラジオ番組に出てさ。スポーツカーほしーって言ったのよ。そうしたらリスナーにトヨタの重役がいてさ…」

ラジオ番組に出たら、トヨタの重役がリスナーで、なんと、かの名車『2000GT』を送ってきたのだ。これに黒江は大興奮であった。南洋島にある別荘のガレージにそれが納車されたのを写メールで目にするなり、『レプリカじゃないよな!?ホイール見せろ、ホイール!』と返事を打つなど大興奮であった。しかも、後世に有名な白の2000GTだったので、感激のあまりに思わず変身してしまうほどの興奮ぶりであった。

「で、カーマニアでもある黒江の反応は?」

「感激のあまり、変身しちゃうほど興奮してたわよ。あの子、和製スポーツカーの金字塔の2000GTに憧れてたのよ。それでね。あの子ったら、すぐに向こうの1967年のトヨタいって、ボ○ドカー仕様をゲットしてきたわ」

「あいつ、イアン・フレミングの小説読んでたっけ?」

「映画の方はファンよ、あの子」

「で、こっちの当人の反応は?」

「『二度死ぬ』にゃ苦笑いだったって、邦佳が。なんか、未来世界の新作に原作者として意見しようかなとか」

「ああ、この時間軸だと、NIDにいたスパイだっけ」

「ええ」

イアン・フレミングは、ウィッチ世界では黒田らノーブルウィッチーズと浅からぬ因縁があり、自分が後に全世界でヒットするスパイアクション映画シリーズの原作者であるという事実には苦笑いだったが、原作者という事で、次の映画に口出ししようかと冗談めかして、黒田に語っている。そのため、若い彼自身が老年に差し掛かるところで死んだ別の自分の稼業を引き継ぐという現象を間接的に手助けした黒田。

「あの人、綾香が自分の書いた小説のファンって聞いたら大笑いしたらしくて、自分で自分の続編を書く、なんて息巻いてるわよ」

「ファンには朗報だな」

「で、向こうのプロダクションとかが嗅ぎつけて、キャラテーマオムニバス方式で出すらしいわ」

「ルパン三世みたいな」

「しょうがない。後継者がもう何人もいたしね。イアン・フレミング全集。未来世界で買ったものだけど、彼には邦佳を通して、渡してあるわ。近いうちに書いてくるでしょうね」

「分厚いな」

「いくつかを纏めたからね。この巻はカジノ・ロワイヤルからムーンレイカーまでを収録してるわ」

こうして、黒田がイアン・フレミングと知り合いであったのを良いことに、彼自身が原作者のシリーズの続きを書くように仕向けた智子。彼、イアン・フレミング(ウィッチ世界)は、二度目のこの歴史においては、数年後の1947年、未来世界との同時発売の小説を出版した。別の自分の構想を自分で形にしたという触れ込みで、オムニバス形式の本の目玉を飾り、あとがきに『別の自分の稼業を自分自身で引き継ぐ。これほど奇妙なことはない』と述懐し、読者を感心させたとか。ちなみに、扶桑でのマネージメントは当主就任後の黒田が、自家の出資している出版社にやらせ、多額を儲けたとか



――と、一同が平和な会話を繰り広げているのをよそに、着々と工事が進む敵味方のラ級戦艦。レキシントンの生まれ変わり『レ號』が既に改造段階に入り、ブリタニアの最新型『アイアンデューク級』の改型として『ドレッドノート』の名を持つ『ド號』などが工事に入っていたが、敵のモンタナ/リバティーのほうが進捗状況は良かった。そのため、ラ級戦艦の個体数増加は必然と言えた。英国が貸与した、既存のラ級『インビィンシブル』の存在から、ブリタニアの追加建艦に文句が出たが、インビィンシブルは正面防御力は抜きん出ていたが、火力と装甲が並程度である事から、戦力的に不安視された。その事から、46cm砲戦艦としてのラ級を欲したのだ。リベリオンはレキシントンに、船体装甲版の取っ替えと、装甲バルジの追加を行った。試算ではアイオワ級と同等の防御を持てるとされたが、実際はサウスダコタ級と同程度であったという。もっともサウスダコタ級とアイオワ級の防御力に差は殆ど無く、誤差程度であった。結果、元から46cm対応防御のリバティーよりは劣る艦となった。(基礎設計年度の差があるため、仕方がない点である)

――連合軍最高司令部――

「Gヤマトとラ號。この二隻は頼もしいが、敵の生産力は凄まじい。他の全ての国の数倍とは……」

「これが我が国のフルポテンシャルだよ。本来はな。だから我が連合軍が一気に弱体化したのだ」

アイゼンハワーは深刻な趣を見せた。戦時体制に入ったリベリオンは本気になれば、雲霞の如く兵器を生み出せる。従って、大幅に減退した兵站能力では、各地の統合戦闘航空団が維持できないのも当然だった。弱体化した連合軍が取り得る手段は戦略爆撃機とラ號、Gヤマトによる造船所と工場の破壊のみ。それが最善だった。富嶽ファミリーやラ號達により、工場と造船所を減らす戦略爆撃と艦砲射撃。ウィッチ達が嫌う『大量破壊』だが、こうでしか、リベリオンを弱体化させられないのだ。しかも未来兵器の補助を入れて、やっとである事が、連合軍の弱体化の表れだった。連合軍は実質、未来世界で言えば、日独英の三カ国が支えているも同然にまで落ち込み、兵力の殆どはその三国の戦力となっていた。

「どうするのだ、アイク」

「これらでレインボープランの完遂までの時間を稼ぐ。リバティーとモンタナが完成してしまえば、我が軍はジ・エンドだ。実質的には三カ国で回しとるようなものだし、日本からの扶桑への内政干渉は近々、連名で抗議を入れる。奴等はカールスラントをナチス帝国、扶桑を大日本帝国と同一視しているからな」

「それほどひどいのか?」

「扶桑の青年将校と中堅どころの半分以上は人事干渉で僻地に飛ばされ、ウィッチを少年兵とみなし、その排除を狙っている。ウィッチは若年層では13歳以下も多いからな……。おかげで扶桑は新規志願数がガタ落ちで、リウィッチの増加は避けられん」

「なんと。内政干渉ではないか」

「ヤマモトも悩んでいた。おまけに良心的兵役拒否や中途退役も勢いを増しておる。仕方がないから、通常兵器を近代化させて補うが、急にパイロットや運転手のの増員はできん」

「なんとかできんのか、フソウに離脱されれば」

「一計を案じている。パットン、君は日本に行き、声明を出してくれ。あそこはアメリカの属国だ。政府はこれで言うことを聞く」

「なぜ俺なのだ」

「君は欧州戦線の英雄だ。言動に問題がある以外はな。日本は江戸時代から外圧に弱い。楔を打ち込んでくれ」

――連合軍首脳は戦後日本を『アメリカの属国』と見なしている一幕だった。戦後日本は大日本帝国を否定するが、大日本帝国は、『物質はなかったが、独立国の気概を持っていた』事は確かだ。皮肉な事に、大日本帝国を史実で滅ぼした米軍人達が『自分たちの同位国』がメークした戦後日本に苦しられるという構図は、日本の主流を占めていた左派の溜飲を下げるものであった。結果、日本が本格的に戦争で連合軍支持を表明するのは、重慶へのマスドライバー攻撃の後であり、日本の政権が保守中道に戻った後の時間軸のことだ。それまでは日本の政権はリベリオン本国寄りの左派であり、日本へ条約無視の内政干渉で、内務省の警察勢力の拡大(海上保安局の設立の試み、内務省の近代化と検閲の形骸化)、軍勢力の粛清(ウィッチという異物の排除と近代化)などを行っていく。結果、日本の政権交代まで存続した空戦ウィッチ部隊は三つのみ。そして、旧343空/64Fを統合して生まれる「新64F」のみ。64が『源田の独断で熟練者だらけになった』とそしられる要因は、日本の干渉で解散させられた部隊のウィッチや、現役復帰したリウィッチの受け皿として機能する故、必然的にメンバーが熟練者ばかりになったという経緯を知らない故の無知だった。――


パットンやアイゼンハワーも憂いたように、日本の左派の独善的かつ、傲慢不遜な内政干渉は、扶桑皇国空軍の設立時のウィッチ部隊の少なさという結果を招き、開戦後にいくつかが復活するものの、44年以前の隆盛時とは程遠い数でしかなく、ウィッチの新規志願の落ち込みが続いた事もあり、ウィッチ部隊の精鋭部隊化を促進する。兵力の少人数化を補う目的で、64F幹部は聖闘士の資格を習得する事が推奨され、レイブンズの信頼を勝ち得たトップ10人は黄金聖闘士か、それに匹敵する白銀聖闘士、または青銅聖闘士を兼任したという。(黒江はある意味、シンフォギア奏者でもある)黒江と智子は黄金、雁渕孝美は鷲星座(魔鈴の代理を当初は兼ねていたが、アクイラとして独立)などがプロパガンダによく使われた聖闘士である。黒江と智子を除いた場合で抜きん出た実力の赤松貞子は、聖戦で空位になった孔雀座(パーヴォ)の白銀聖闘士となり、黒江達に匹敵する実力者となったという。そのため、64Fの幹部になるには、小宇宙技能必須の冗談まで生まれたという。その赤松は江藤の説得に駆り出され、伏見宮でも不安を覚えた黒江の要請で、孔雀座の白銀聖闘士となった姿で、伏見宮に随行し、江藤を納得させた。

『おう、江藤。儂に恥をかかせんでくれよ?』

「は、はい、大先輩…」

流石の江藤も伏見宮殿下と赤松のハイパーコンボには冷や汗タラタラであったとか。黒江は根本的に江藤には頭が上がらないが、その江藤も陸海空軍最長老の一角の赤松には頭が上がらない。それが黒江や米内光政、岡田啓介の考えついた最高の役満だった。赤松はこうした『参謀と現場の仲介役』を買って出る事が多く、空戦ウィッチ全体の父親的役目を担っている。更に聖闘士としても覚醒し、黒江達に匹敵するほどの実力者。黒江の懸念は、赤松の聖闘士叙任という思わぬ出来事で払拭されたのである。黒江自身の前史で得た『変身能力』の活用の選択は、赤松にも影響を与えたのだった



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