外伝その109『僕らの戦場2』


ティターンズやジオンは、マジンガーZEROの脅威に手を出すのは控え、むしろ、ZEROが倒されるタイミングを見計らい、501基地を強襲する案を練っていた。その計画は更に連邦軍が察知しており、その迎撃準備も進められていた。



――501 基地――

「んー、ネオ・ジオンとティターンズは多分、こっちが弱った隙をついてくるだろうね―」

「艦隊の到着はどうだ?」

「あと一週間で中間地点をすぎるってさ」

「予定より遅くない?」

「しゃーない。燃料補給のタンカーの確保が遅れてるっていうし、パナマ運河の占領に時間がかかってるからね」

「空挺降下と、政府のクーデターを煽ったからなー。リベリオン本国の増援と一戦交えてるし、パナマの確保にゃ、もう少し時間がかかりそうだよー」

「流星改二型はどうだって?」

「試しに魚雷廃して、外部兵装を強化したんだけど、外部からは『スカイレーダーを素直に買え』って声が大きいってさ」

流星はこの時期、2200馬力エンジンを積んだ後期生産型に移行していた。外部兵装を強化し、レーダーを積んだ単座型であったが、外部兵装に切り替えても、スカイレーダーほど搭載量は無いので、効果を疑問視されていた。レシプロ機の性能向上策としては、キ100に、金星より大馬力である『BMW801』を積んだ局地戦闘機型なども試験された。これはレシプロ機の延命措置の一環だが、ジェットは必然的に高性能化と大型化は、ある世代まで比例するため、空母艦載機にしても、空母そのものを大型化しなければならないため、旧来の日本型空母では作り変えが必要なため、地球連邦の援助がなければ、大鳳/翔鶴/瑞鶴の三隻を同時に改装し、予想される決戦に間に合わせる事はできなかった。連邦から提供された超大型空母とを合わせた機動部隊とされたのも、ジェット化での艦載機数減少を補うためだ。途中、パナマの攻略を下令され、その作戦に参加したため、欧州への到着はずれる事になったと言うことなので、連邦が部隊を増員していた。

「パナマを政治的・物理的に落とすのはいいとして、レシプロ機をノイエカールスラント経由で投入するのは冒険してるよねー、ハルトマンさん」

「しゃーない。南洋島から行くと、パナマ運河を分捕って行ったほうが早いんだ。マラッカ海峡のコースだと時間がかかりすぎる。艦隊に指令が行ったの、出港してからだよ?慌てて、三笠型まで全部持っていって、パナマにいる敵艦隊を根こそぎ撃沈して、リバティーやモンタナの戦線への登場を遅らせる作戦を急に思いついたーとかで、てんやわんやなんだよ。どの道、連合軍はZEROとの戦いにゃ出番はないしね。同じマジンガーでも、ゴッドとエンペラーしかまともに戦えないような戦場だし、今度の戦」

「確か、因果律兵器って言うのが最大の難敵なんですよね?」

「ああ。超合金ニューZαだろうと、破壊された因果を出現させられる兵器だ。だけど、ただ一つ。超合金ゴッドZだけは破壊できない。出来た因果が一つしかない上、マジンガーの根幹の光子力で強化されたわけじゃないしな」

「そうか、反陽子を浴びせて、超合金Zを硬化した奴だから、光子力が強化に関係したニューZαと違って、ZEROの因果律操作能力の対象から外れるんだ!」

「アイツはマジンガー=光子力の法則に囚われてる。エンペラーにゲッター線を入れたのはそういう事だよ。」

マジンガーZEROが因果律兵器で破壊できない唯一無二の超合金Zの一族。それの理由は、ZEROの元の姿のマジンガーZの後身がゴッドマジンガーであるのに由来する。反陽子エネルギーで生まれた超合金。それが超合金ゴッドZである。Z自身が改装された姿がゴッドマジンガーであるため、ZEROがZである時に対面していない。半身の後身であるので、ゴッドを傷つける事は自分の半身を傷つける事になる。さしものZEROもそのジレンマに陥るため、ゴッドへの因果律操作は出来ない。マジンガー以外の可能性を閉じたZEROは、ゲッター線を用いたハイブリッドマジンガーへも、因果を紡ぐ事もしない。それが勝機と言える可能性だった。マジンエンペラーGとゴッドマジンガーこそが『マジンガーZEROに当たり負けしない唯一の同族』なのだ。ZEROは『神を凌駕したが、所詮は傲慢不遜な悪魔』でしかない。その悪魔は神を超え、悪魔も倒す『大神』が倒さなければならない宿命である。ZEROはゴッドによって倒されなくてはならない。その作戦には連合軍はお呼びでないため、軍の見せ場を作るため、パナマ攻略作戦を実行したのだろう。

「ZEROとドンパチして生き残れるウィッチはあたし達、グランウィッチだけだ。因果から解き放たれてるからな。他の連中は絶対に出させるなよ、ミヤフジ。平行世界で死んだ因果を紡いで、チリ一つ残さずに殺されるからな?」

「分かってます。問題は隊長ですよ、隊長」

「最悪、腹パンしてでも、こっちに従ってもらうよ。連帯感を持たせたいとか、そういう次元の問題じゃないんだからな」

ハルトマンは対ZERO戦には、自分達以外を参加させない事を強調する。神化と神使化で因果から解き放たれたグランウィッチではないウィッチは全員が既に他世界で攻略されている。それを知るため、『私達は家族でしょう?』と言い、部隊全体の連帯感を最重要と考え、そう公言するミーナを、この時ばかりは疎んじるような言動を見せた。ミーナが聞いたら激怒モノだが、ZERO相手にはこうするしか道はないのだ。

「隊長が聞いたらビンタされますよ?」

「綾香さんが帰ってきたら、言い出しっぺで言ってもらう。因果律兵器があって、それはグランウィッチ以外の全員に適応されるって。最悪、ゼウスのおっちゃんに言ってもらうようになるな。切れると薔薇乙女みたいに荒れて、流血の惨事にしかねないし、あいつ」

「隊長、切れると変なところで理性がぶっ飛ぶからなぁ。だから、前史で研修になったってのに」

芳佳は、前世で角谷杏でもあったためか、次第に宮藤芳佳と角谷杏の双方が混じり合ったような口調や態度を見せ始めていた。従って、今の芳佳は宮藤芳佳でも、角谷杏でもある状態となる。芳佳かしらぬ落ち着いた態度を見せ始めた理由は、杏としての記憶に目覚めたためだろう。喋り方が芳佳のそれではなく、杏寄りになっているので、芳佳として聞くと違和感がある。

「ミヤフジ、大洗の生徒会長だねぇ。その喋り方だと。あいつになってた期間が?」

「ええ。前世がそうだったんで。黒江さんが一番最初に気づきましてね」

「ほんなら、今度、あたし向けにいい機材持って来てくれる?」

「最終型のフォッケとか?」

「そそ。頼むわ」

「りょーかい〜」

芳佳はこれ以後、交渉力を武器に、機材や物資調達に奔走するようになる。金子主計中尉のコネを使い、未来世界に至るまでの交渉力で名を轟かせ、戦闘で無敵、豪腕の交渉力を両立させる恐るべきウィッチとなってゆくのだった。





――グランウィッチらが自らの目的に基づいての独自の動きを始めているのを、ミーナは黙認した。坂本が転生者と知った事、前史での失敗を聞かされた事により、レイブンズらに寛容に振る舞ったほうが精神的に楽だと学んだからだ。坂本もそれを薦め、レイブンズの統制は赤松に投げていた。

『ミーナはどっしり構えていれば良い、レイブンズに任せておけば問題点は勝手に解決する。暴走に見えても無策では無いからな。それに、今回は赤松大先輩が三人を統率してくれているから、前史のような軋轢は起きんだろう』

……と。赤松は扶桑ウィッチ最年長であり、白銀聖闘士最強格の一角という立場により、レイブンズを統率し、若手との軋轢を和らげる役目を果たしており、黒江を『ボウズ』、智子を『お嬢』、あるいは『穴拭のお嬢ちゃん』、圭子を『おケイ』と呼んでいる。

「おケイ、若い連中の飛行時間を見たが、これなら『ヒーロー大戦の制空』には使える。機材は宮藤に融通させろ」

「分かりました。どうします?戦闘能力に個人差がありますが」

「ZEROを倒さんことにゃ、今後の予定は立てられん。今は練度の維持に重点を置くしかあるまい。リネット・ビショップはのび太に鍛えさせよう。素養はあるが、胆力に欠けとるからの。ペリーヌ・クロステルマンは電気の使い方でも講義を受けさせろ。固有魔法のトネールも、今となっては色褪せた代物だからな」

「黒江ちゃんとフェイトが、ライトニング系統の闘技を使えますしね」

ペリーヌ・クロステルマンはウィッチでは珍しい『攻撃系の固有魔法』の持ち主だった。しかし、その電撃の威力は寡少と言えるもので、フェイトの雷撃系魔法や、黒江のライトニングプラズマやボルト系の闘技に比べれば、お遊戯も同然である。黒江はサンダーボルトブレイカーを、智子もトールハンマーブレイカーを放てるため、今回においては、電撃使いのアイデンティティがますます脅かされる事態となっていた。

「どうなんだ?ペリーヌの様子は」

「はっきり言って、トネールがお遊戯に見える雷撃を撃てるのが何人もいるんで、しばらくは放心状態でしたね。特に、サンダーボルトブレイカーは、黒江ちゃんじゃないとできませんからね」

「口で言うのは簡単だが、あれは複雑な行程を挟むからな」

「圧縮した雷を光芒として撃ち出して、遠隔爆破しますからね。あれが黒江ちゃんの望んだ力の象徴なんでしょう」

「ボウズはグレートマジンガーやマジンエンペラー、それと仮面ライダーストロンガーに憧れておったからな。しかし、良かったと思うぞ?仮の姿を手に入れられて。ボウズは改変後、扶桑で一番を争う有名人だからの。あの映画を見おった世代には」

「あの映画、話がかなり変わりましたしね」

「ボウズの奴、直接出たからの。前史のような代役でなく、お嬢ちゃんの相方として。それが決定的だったな。だから、あの姿を持てた事は良かったのかもしれん。素が出せるから」

「確かに」

赤松も、黒江が『有名になったからプライベートを楽しみにくくなった』とぼやいていたのを知っており、月詠調の姿を得たことを喜んでいる黒江の心情を理解していた。黒江はプライベートを楽しみたいため、得た能力を積極的に使用している。調の姿を取っていると普段の緊張が解れるらしく、普段より外見相応の立ち振る舞いが多い。あーやになっていた場合はより可愛くなるため、それも兵からの人気の理由である。

「で、ボウズはああ見えて、妹属性持ちだからの。意外に可愛がられとるしな。もしかしたら、この関係性と、お前らという親友を持ちたかった事が『ボウズの本心』かも知れんな」

「ええ。実は今回、転生した時に、黒江ちゃんに『自爆した』事で泣かれまして。しょうがないから、数日は添い寝してあげましたよ。あれは自分の責任でしたから」

「ボウズは強がっていても、心の奥底は子どものように純真なところがある。おケイ。お前の自爆を止めたかったと、儂に泣いて言っとた事がある。前史では、儂しか話相手がいなくなってしまったからな、最終的には。儂がボウズを看取ったよ」

赤松は前史では、黒江よりも長命を保ったらしく、その最期を黒江の子孫達と共に看取った事を告げた。圭子はそれを聞き、気まずそうな顔を見せた。前史ではゲッターロボで自爆し、黒江に多大な精神的ショックと喪失感を与えてしまい、最後の親友であった智子の死が黒江の気力を急激に削き、それが黒江にいずれやって来るであろう死を予感させ、赤松はその瞬間を看取った。今回はレイブンズの三人とも、『死』という概念から開放された『神』になっているが、人間らしい生活を望む面を依然として持つ。

「そうですか……。ご迷惑をおかけしました」

「それは構わんさ。儂達は今や、死から開放された。しかし、他の連中はそうではない。あの魔神と戦うには、不死身が最低条件だ。あの御仁、見かけより強情な印象を受けたが……」

「あの子は坂本にご執心ですから。それと上を信用しないのが玉に瑕で」

「ふむ。あの御仁の取り扱いには、上層部も苦労しているようだな?」

「マロニー大将のせいで、上を信用しない思考が醸成されちゃってるんで、ガランド閣下へも時たま反抗的で。早めにカード切りましたよ。あの三人を呼んで」

「それで?」

「今回のことも骨が折れそうですよ?あの子、ZEROを全員で迎撃するつもりなのか、訓練を一部の者に重点的にさせているのを撤回させて、全員にやらせ始めさせます。あのメニューは対ZERO用だから、グランウィッチが前提だってのに」

「無知は恐ろしいな……下手すると自殺幇助になるぞ?」

「あの子は私達の動きを警戒してますからね。坂本が抑えにかかってますが、どれだけ効果があるか」

――ミーナは今回も、これまでの経緯が醸成した思考により、グランウィッチの独走を押さえ込もうとしていた。ミーナはZEROの脅威を『そんなロボットがいるのなら、全員でかかった方がいい』と捉え、グランウィッチが行っていた訓練を全員にやらせるよう、職権で坂本に命令する始末だった。これはZEROの脅威に全員で立ち向かう事を『隊を纏める機会』と考えたためだが、ミーナにはサーシャも賛同しているため、坂本はロザリーとラルを味方につけての説得を図っていた。フレデリカは竹井が説得したので、坂本はゼウスに助力を依頼し、ミーナに世界滅亡のビジョンを見せた。無論、観測できた3つの世界での彼女自身の死に様も。

「あ、どうだった?坂本」

「刺激が強すぎたようで、伸びてしまった。ものはついでに、あいつがZEROにどうやって殺されたか、も見せたんだが…。サザンクロスナイフで串刺しだろ、ブレストファイヤーで半島ごと焼け死ぬ、アイアンカッターで空母ごとまっ二つ……。あいつには刺激が強すぎる結末だよ」

ミーナはZEROの攻撃の凄まじさのショックで卒倒してしまったと明言する坂本。ZEROの前には、まともな交戦が出来た機会でさえ一回。あとは待機中に母艦や基地ごと有象無象のごとく掃除されたという事実が掲示され、視覚と聴覚だけの体験とは言え、あまりの衝撃で卒倒してしまった。

「幸いな事は、Z神が力を貸してくれます。本来の姿で」


ZERO戦にはZ神も本来の姿で参加すると明言し、サーシャとフレデリカの前に本来の『Z神』。あるいはZマジンガーと呼称する本来の姿を見せた事を語った坂本。黄金の甲冑を身にまとい、顔に人間らしい皮膚がついている以外はマジンガーZのアッパーバージョンらしき姿の片鱗を覗かせるZ神。そのサイズは巨大で、マジンカイザーよりも長身のボディと、黄金の槍を持つ神としての本来の姿。フレデリカとサーシャは唖然としながら、ゼウスを見上げるばかりだった。

『我が名はゼウス。しかして、その実態はZマジンガー!!』

ゼウスのボディは進化したマジンガーZそのものであり、昇神前はZマジンガーと呼ばれていた。黄金の甲冑を脱げば、Zマジンガーであった頃のボディが現れる。その能力は歴代マジンガーでナンバー1で、元は兜剣造が23世紀で新造した『ニューZ製のマジンガーZ』がその大本の姿である。そこから長い年月でマジンガーとして究極に至り、オリンポス十二神の長に収まり、ゼウスを名乗った。アテナは彼の娘であるが、人間の肉体で生まれている。また、ゼウスは兜甲児の要素を持つため、ミケーネ帝国最後の王『ギャラハン』を元々の姿とし、闇の帝王を名乗ったハーデスとは不倶戴天の敵同士である。また、人間としての肉体は星矢によって滅ぼされている。神としての本来の肉体は禍々しい風体のものだが、星矢の世界で見せた美青年の姿も持ち、それが生前のミケーネ王としての姿である。元々は神話の通りに慈悲深い人間だったが、何かの要因で邪悪な神となった。Dr.ヘルが関係しているのではないか、とは、ゼウスの推測だ。

「そうか、兄さんも動いたか。後は銀河連邦警察へ要請だな」

「フェイトがコム教官に直接、依頼してます。近日中に回答があるでしょう」

「日本警察には?」

「ジバンと、ウインスペクターの元隊長を派遣してくれるように、番場壮吉さんが動いています。親戚に警視監がいるそうで」

「日本警察は軍隊と仲が悪いからの。旧日本軍の同位組織である我らの要請を警察庁が黙殺しなければいいが」

「それは番場さんと正木警視監がどうにかするでしょう。警察は警察が呼んだほうが感触はいいでしょうし。さて、どうします?」

「おケイの娘っ子の澪や、ボウズの娘に頼んで、Su-35とF-15を持って来させる。それでクルビット(同一高度でバック転しながら前進)しながらの射撃が出来る事を条件にするしかないだろう。これでグランウィッチしか残らんだろう。若手ウィッチは、いきなりジェットだと飛ばすのがやっとで基本機動で精一杯、飛行時間ジェットのみで200は飛ばないと無理だからな。おケイ、連絡取れ」

「今、やってます。……澪?私よ。今から機材を持って来てくれる?そう。あのマジンガーよ。Su-35とF-15を使いたいから、大至急。501の全員分を頼むわ」

圭子の連絡で、数時間後、二代目レイブンズがその二つの機体を持ってきた。武装もセットで。

「母さん、この時代の若手じゃ、いきなりこいつを使いこなせないと思うけど?」

「いいのいいの。ふるいにかけるから。どうせこいつはグランウィッチ以外は使いこなせないだろうしね」

圭子の義理の娘にして、大姪の澪。圭子との姿の違いは、ヘアピンと巫女装束の階級章くらいなものだ。あとは圭子の生き写しである。圭子の転生後は融合前の『A』寄りの好戦的なところを持つ。

「あれ?加東さん、澪ちゃん呼んだんですか?」

「ええ。こいつを頼んでね」

「どうも。宮藤先生」

「Su-35かぁ。どうやって調達したのさ?」

「サーシャさんの孫娘がオラーシャ空軍の方面軍司令でして。それと、サーニャさんの同期が退役後にはメーカーの元重役で。その方面から融通してもらいました」

「なるほど」

「宮藤先生、母さんは?」

「翼ちゃん、お母さんは多分、今はマラッカ海峡を超えた辺りだと思うよ。途中まで民間機で飛んでるから」

黒江の義理の娘(血縁関係は大姪)『翼』。転生後の綾香が子供っぽい面があるのとは対照的に、大人びている。黒江に酷似した容貌だが、シニヨンヘアであったり、この時点ではスエズでの戦いで負った戦傷として、頬に傷がある。黒江が風鳴翼に語った通り、彼女の名は風鳴翼が由来だ。

「ケイおばさん、私らを呼んだのは?」

「ZEROとやりあう時の後詰めよ。貴方達にしか頼めないしね」

「任せておいて、ケイおばさん。私達『二代目』が来たからにゃ、マジンガーZEROを倒してやるわ」

智子の義理の娘(こちらも大姪)『麗子』。二代目レイブンズの中では、最も初代に近い容貌を持つ。違いは、智子と黒江の亡き後、射手座の黄金聖闘士に星矢の後任という形で叙任したため、正式な射手座の黄金聖闘士になっている点だ。そのため、彼女は星矢らの世代が全員引退した後の時代に於いての後任に当たる。

「君らを紹介するのは、少し日を置いたほうがいいな。ミーナにこれ以上ショックを与えたら、泡拭いて心臓麻痺を起こしかねないからな」

「ボウズたちが自分の子孫を連れてきたなんて言ったら、あの御仁は白目抜くやも知れんしな。それに2006年時点の空軍制式の巫女装束は、この時代と違い、階級章がついておるからな」

赤松が言うように、翼や麗子達の住んでいるウィッチ世界の21世紀時点では、ウィッチによる自主防衛組織として『自衛隊』が発足して久しいため、職業軍人ウィッチ、特に空軍は、陸軍飛行戦隊時代からの伝統の巫女装束を纏う際には、軍の階級章をつける事が規則となっている。そこが最大の違いだからだ。

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐って、そんなに耐性無いんですか?」

「君らの母上方と違って、あいつは未来世界に長期滞在するのが、この戦の後だからな。煽り耐性がないんだ、ミーナの奴は。かと言って、怒ると怖い。今となっては、仕事では付き合いにくいよ」

坂本は、ミーナをそう評した。坂本にしては評価が辛辣だが、レイブンズ周りのことでの前史の経緯から、ミーナの感情の揺らぎを『厄介』と見ているのがよく分かる。最も、ミーナは年齢相応の感情を持ち、更に坂本に強い好意を持っている事が、坂本がレイブンズに頼ることに妬みを感じている理由であるため、年相応の青臭さなのだが、坂本はそれを厄介だと感じている。感性の違いだが、これは坂本が根っからの職業軍人であるが故に、芸術畑から軍人になったミーナの感情を完全には理解できない事の表れでもあった。






――黒江はシンフォギア世界で好き勝手したのだが、その内の一つがスーパーロボットのいくつかの技の再現である。その内の一つが、何回かの特異災害対策機動部二課側の奏者(装者)との戦闘での『遊び』であった。

「――でも、ばーちゃんの奴、随分と遊んでたんだな。あたしらと戦ってるってのに、他の世界のSFアニメみてーなロボの技を真似するなんて」

「女史は太平洋戦争時代の日本軍の軍人だ。例え、太平洋戦争が起きていなくても、その代替となる戦には赴いている。だからこそだろうな。あの余裕は。更にオリンポス十二神を守護せし闘士なのなら……」

「あの技は確か、グレートマジンガーっていうスーパーロボットの……」

「そうらしいな。私はその技の試し打ちの標的にされたと考えると……」

風鳴翼は黒江のシンフォギア世界滞在中、サンダーブレークとサンダーボルトブレイカーの試し打ちのターゲットにされ、合計で三回ほど実戦で敗北を喫していた。その内の初めてのケースが響らにバイト中に見つかる前、ギア姿で街を彷徨いているところを、翼に見つかり、リベンジマッチと言わんばかりの勢いで、二課の臨時本部になっている潜水艦の甲板で戦いを挑んだが、黒江が『バイトのシフトが近い。嬢ちゃんと遊んでる余裕は無くなった』と、時間を聞いた直後、招雷を起こし、サンダーブレークを放った。

『この雷がお前を討つ!!必殺パワー!サンダーブレェェェク!!』

グレートマジンガーのそれと同等の威力のサンダーブレークは、臨時本部の電子機器をダウンさせ、翼に3日昏倒の大ダメージを負わせた。シンフォギア越しでとは言え、サンダーブレークは凄まじい威力であり、もし、照射時間が実際より数秒でも長ければ、天羽々斬のギアが威力を受け止めきれなくなって自壊していたと評された。これは黒江当人の固有能力の応用であり、序の口だった。剣術でも自分がとうとう勝ちを拾えぬままで去られたのは、なんとも悔しいらしく、彼女にしては珍しくぼやいた。

「珍しーな。センパイがボヤくなんて」

雪音クリスが物珍しそうに言うほど、翼は黒江に強烈なライバル意識を持っているのか、黒江の闘技に羨望を感じているらしい。シュルシャガナのギアも、黒江にとっては力を加減するための『リミッター』であり、神すら滅ぼす神聖衣を切り札として持っているという事実。黒江が纏った場合は、イガリマとの同時運用により、力が相互に増幅されるという本来のユニゾン特性とは別の属性『雷の力を増幅する』属性が与えられた事も分かっている。

「女史は強かった。だが、女史に言わせれば、『自分は若輩者だ』との事だ。月詠、あの老師はどれだけ強いのだ?」

「老師は88人の聖闘士のうち、86人が死んだ300年近く前の聖戦を生き延びた二人の聖闘士の片割れですよ?ゼウスがわざわざ蘇生させるほどの力を持つ猛者。師匠も若輩者って言うのはそれが理由です」

「……!聖戦、か……。神話はあながち嘘ではないということだな……」

「神様でも、争ったり憎み合うなんて……」

「神と言えど、神話のように全知全能ではないという事だろう、立花。女史も言っておられたろう?他力本願ではいかんと」

「だからこそ、人は願いを何かに託し、力と成して戦える。師匠は、私にそれを教えてくれた。騎士として」

調はすっかり聖闘士としての使命に目覚めたようで、明確に強い意思を見せた。それは響が戦いのたびに見せたものと同じであった。黒江とのフィードバックが起こったがため、黒江の求道者としての面や使命感が調の自我に自然な形でプラスに作用したのだ。オリヴィエと交わした最後の約束を果たすという使命感、聖闘士志願という求道者のような行動、エクスカリバーの発現という現象。黒江と調の共鳴は双方に大きな影響を与えていた――



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