外伝その113『神と皇帝』


――黒江はゼウスからの知らせで、『またも平行世界の自分らが犠牲になった』事を知らされ、甲児の前では、その意味を知る者であるため、その悲しみを見せる。

「アイツはこの兜甲児が倒してみせるさ……。それがあいつを生み出す思いを抱いたであろう俺の責任さ…!」

と、変身した黒江を慰めるため、優しい顔を見せ、肩をポンと叩いて、頭を撫でる。甲児は『黒江は、変身した状態では素が出る』事を知っており、前史と違い、今回は年上として接していた。ZEROを邪神たらしめた思念こそ、自分の『マジンガーZは無敵のスーパーロボットである』という思いである事を理解した甲児は、『Zの魂から生まれしマジンガーZを超えるためのマジンガー』たるグレートマジンガーやマジンカイザーを否定するZEROに制裁を与えたいが、グレートマジンガーとマジンカイザーでは『因果律兵器』の効力により、敗北してしまう。ゼウスはそれを打ち破るため、反陽子エネルギーとゲッター線、光子力の複合エネルギーを兜剣造にもたらした。ZEROの弱点をゼウスは知っているからだ。それは盲点。『対マジンガー』に特化しすぎたため、マジンガーへの認識が光子力で動くと固定されているのがZEROの弱点であり、反陽子エネルギーで動く『光子力で駆動しない』マジンガーの存在を認知できない。それがゴッドマジンガーとマジンエンペラーGがZEROに太刀打ちできる所以であり、ZEROへの最終兵器なのだ。

「ZEROは全てを否定する。だけど、そんなものは俺もおじいちゃんも望んじゃいない。あいつは俺と鉄也さん、大介さんとで叩きのめしてやるさ。次元世界で死んでいった、別の綾ちゃん達のためにも」

甲児は前史と違い、黒江を内面的意味で『妹分』と見ていた。ゼウスの登場により、前史の記憶を有したからか、黒江の内面を『純真な少女』と知った甲児は『妹分』と認識し、そういう関係となった。ある意味で言えば、前史の晩年期、智子も圭子も世を去り、塞ぎ込んでいた黒江を慰めていたのが赤松と甲児達であるので、黒江の転生前の寂しさや悲しみを最も理解する一人と言える。黒江が調の容姿に変身できるようになったのは、その時の悲しみと寂しさが能力に反映されたからかもしれない。

「さて、ゴットスクランダーのテストがあるからもう行くね」

「う、うん。がんばって」

「綾ちゃんも、ローマ周辺の陸戦怪異の掃討の要請来てるよ」

「本当。怪異相手なら、シュルシャガナの良い訓練になりそうだ。本来の装者のあいつはまだこないし」

「仮面ライダー達はバダンの押さえ込みにかかり始めた。当分は動かないようにしてくるってさ」

「よっしゃ、これで当面はティターンズだけ気にしてればいいな。」

二人は別れ、それぞれの仕事を始める。甲児はゴッドマジンガーとゴッドスクランダー二号機のマッチングテスト、黒江はローマ周辺部に現れた陸戦怪異の掃討。甲児はゴッドマジンガーを起動させ、格納庫のから外へ出て跳躍し、ゴットスクランダーを装着する。Z用のそれより大型化しつつ、形状に多少の違いはあるが、ゴッドマジンガーはそこから変形を始める。ビッグバンパンチの試し撃ちだ。巨大な黄金のロケットパンチに変形したゴッドは空高く舞い上がり……。


『輝くZ神の名のもとに!!全てを原子に打ち砕けぇぇぇぇ!』


甲児は叫ぶ。Zがとある世界でたどり着いた『最強最大のロケットパンチ』の名を。これこそがマジンガー究極のロケットパンチ。

『ビィィックバァァァンパァァァンチッ!!』

高度数万メートルで炸裂したビッグバンパンチは、衝撃波で周りの雲を散らすどころか、あまりの威力で次元境界線を突破した。その瞬間、次元の狭間で、傷を負い、不安定化したZEROを発見する。ZEROはゼウスブレードで切られたキズがうずくようで、大まかにZEROとしての姿に戻ってはいたが、所々でZのままだったりする。魔神パワーの根源たるブラックボックスが傷ついたためか、フルパワーではないのがよく分かる。甲児はその様子を観測できた事により、襲来が予想よりも遅くなると直感し、ゼウスに感謝したのだった。



――こちらは黒江。ローマ周辺部に現れた陸戦怪異をシュルシャガナの訓練も兼ねて蹴散らしていく。元来、シュルシャガナは鋸だが、黒江の心象が強く反映され、アームドギアが剣になっている。これは雪音クリスのイチイバルの場合と同じで、元は弓であるイチイバルのアームドギアが銃になるように、鋸が剣になる。最近は、ギアが体に馴染んだ事により、アームドギアの意匠が『らしくなった』が、それ以外はエンペラーブレードである。そのためか、やっている事は鉄也と一緒であったりする。そこがオリジナルのシュルシャガナを持つ調にはない、黒江が剣を持つと発露する攻撃性と言えた。最も、伝承ではシャムシールであり、剣である。鋸としてのシュルシャガナは伝承から変化したもので、むしろこちらが伝説の通りである。そこは箒のアガートラームと同じだ。調が接近戦に持ち込まれるとほぼ無力であるのに対し、黒江は接近戦闘こそが本領であるため、黒江が纏う場合は、シンフォギアの機能も伝承の原点に帰っていると考えられる。二人で共通の機能もあるが、ファイトスタイルが真逆であるため、細かい機能は差異が生じ始めていた。剣を収納するために両腰周りが翼の天羽々斬と似通った意匠になっているなどの固有の意匠も生じている。――

「あらよっと!」

黒江は今回、シンフォギアの機能で形成したエンペラーブレードを使用した。配色はシュルシャガナに合わせたモノだが、形状はエンペラーブレードである。それで乱舞を行う。黒江は示現流の猛者として知られたが、転生後は示現流に拘らず、剣鉄也が得意とする乱舞を自前で習得し、最近は好んで行う。長く生きた事で、一つの流派にこだわる意義は無くなったと考えているらしく、剣の乱舞もその一つである。鉄也曰く、中国武術を参考にしたとの事で、黒江も負けじと中国武術を習い、その流れで習得した。そのため、ファイティングポーズにリュウレンジャーの影響がある。元々が負けずぎらいの性分であるため、転生した事で『思い立ったが吉日』な行動原理になっているのも大きいだろう。転生した後も技能向上には余念がなく、智子が『強さカンストしたし』と言い、訓練は技能の維持に留めているのと対照的に、今回も色々と手を出していた。気質の違いだろう。

(ゲームしてても思うけど、智子の奴、ステータスMAXで満足しちゃうんだよなー。レベルカンストするようになったら、ステータスよりスキルだろー?)

黒江はスキル重視であり、それに伴い、肩書きも増えている。智子がステータス重視で、聖闘士と剣士、ウィッチ以外のスキルに手を出さないのに対し、黒江はオートレーサー、カーレーサー、拳法家などにも手を伸ばし、ガイちゃんに誘われ、ジャイアンズに混じったりしている。ガイちゃんと黒江はジャイアンに誘われ、地元のリトルシニアリーグに助っ人で参加していて、ジャイアン達が中学生となった2001年夏時点での打率は三割五部(黒江)、四割(ガイちゃん)、防御率もかなり良い。黒江は普段の姿ではコーチ、変身して『選手』を兼任しており、その際には調の名を使っている。これはこの時点では、調当人に知らされていて、調は思わず、『わ、私の名前を勝手に使わないでくださぁぁい〜!』と涙目になって抗議したとのこと。(調の方はアームドギアの関係でヨーヨーが得意であり、ヨーヨー大会に出てみたら優勝してしまったとのこと)

「ふう。これで一体。次はっと……ん?来たか」

「師匠、私の姿で何してるんですか?」

「な〜に、ほんの肩慣らしだ。ギアの訓練もしないとな。他の連中は?」

「師匠の事が気になったから、私が先に来ました。……って、なんで私の姿でギアを使うんです?本当の姿でもできますよ?」

「それはそうなんだが、本当の姿でやると、『コスプレ感』が否めなくてな。それに、お前の姿は使い勝手良くてな」

「確かに」

合流したは良いが、いきなりのこの一言に苦笑混じりの調。黒江は故郷では超が二個つくほどの有名人であり、普段の姿では、アイドルか映画スターさながらの事態になる事が考えられるため、自分の姿を仮の姿として使うのは理にかなっているが、ギアを纏うときまで自分の姿である理由はないように思えるため、指摘した。いわく、自分の本当の姿でギアを纏うと、『コスプレ感』感が否めないために、調の容姿を使っているとのこと。傍から見れば、まるで姉妹のように見えるが、この状態でも、黒江のほうが長身なのには変わりはなく、21世紀人にしては、調が小柄であるのが際立つ。(調は152cm)

「こいつらが私の本当の敵なんだが、今となっては害虫駆除と同じ感覚だ。ギアの攻撃力なら問題はない。ノイズと同じ感覚で行けるはずだ」

「分かりました。でも、師匠。なんでアームドギアが剣なんです?」

「伝承に従えば、これのほうが正しいぞ?鋸は多分、伝承が伝わる内に変化した末のものじゃないか?」

黒江のアームドギアは剣であり、シュルシャガナの伝承を紐解くと、こちらのほうが正しい。黒江は憶測として、『遺された欠片がギザギザに欠けており、鋸刃に見える欠片だった。それが鋸として具現化した要因だろう。(鋸そのものの機嫌は紀元前1500年の頃で、シュメール神話と合致しない。切歌のイガリマが鎌なのは、切歌の心象もあるが、ベースの欠片が、刃が潰れて峰側の方が鋭かったからという理由もあり、シンフォギア化する過程でそうなったと思われる。)

「私達はシンフォギア化した後のモノを渡されただけですし…、そこまでは……。でも、確か昔に聞いた話だと、アガートラーム、イガリマ、シュルシャガナの3つは、英国がまだ大英帝国だった時代に発掘して見つけたモノが英国の衰退でアメリカに流れたモノって感じだと」

「大英帝国だった頃の英国、『日が沈まない帝国』だったしな。ありえるな」

シンフォギア世界では、聖遺物の発掘が時たまあり、ナチス・ドイツがイチイバルとグングニルの欠片、大日本帝国が天羽々斬の欠片を見つけたように、旧連合国はその3つを見つけていた。シンフォギア化で伝承と異なるものに変容したものも多い。それは装者の心象、シンフォギアとして加工する者が欠片をどう解釈したかにも寄るが、立花響は強い心象から、徒手空拳を主にしているし、雪音クリスは弓を媒介にした力ながら、近代的な銃火器になっている。調が発現させたアームドギアであるヨーヨーも、フィードバックした記憶により、『超電磁ヨーヨー』、『スピンソーサー』の二つに変形させられるようになり、調は80年代の人気漫画原作のドラマでも見たのか、前者を好む。

「はぁッ!」

両手にヨーヨーを持ち、それを投げて操り、装甲を抉り、むきだしとなったコアを砕く『初陣』としては上出来だ。二人は協力して怪異を叩くが、思わぬ援軍も加わる。

「この戦い、俺も力を貸そう!」

「その声は!」

『超獣戦隊ライブマン、レッドファルコン!!』

ライブマンのリーダーであるレッドファルコンだった。彼は武子の頼みもあり、黒江を補助するように頼まれていて、レッドファルコンこと、天宮勇介はそれを守り、二人の前に姿を見せた。

「ファルコンさん、どうしてここに!?」

「武子ちゃんから、君を手助けするように頼まれていてね。俺の他に、もう一人来てもらった」

「もう一人?」

『戸隠流正統、磁雷矢!!』

「じ、磁雷矢さんまで!?」

「俺はエーリカちゃんから連絡が入ってね。それで同行してきたのさ」

「わーお……すげえ。同年代の二大ヒーロー揃い踏みかよ」

磁雷矢、それとレッドファルコン(超獣戦隊ライブマン)はヒーローとして同期にあたる。活躍した年が同じ1988年だからで、黒江が同年代と言ったのもそれが理由だ。二人はヒーローとしての名声に違わぬ圧倒的な強さを見せる。磁雷矢は磁光真空剣を(未来の地球の危機に当たり、手元に戻った)、レッドファルコンはファルコンセイバーを抜き、それぞれの力と技を見せつける。磁光真空剣も、ファルコンセイバーも、それぞれが超技術で(磁光真空剣は遥かな過去に宇宙から飛来した隕石から採取された物質でできており、意志がある)できているため、怪異も普通に切り裂ける。そのため、派手な見かけとは裏腹の圧倒的な強さにより、調も思わず見とれてしまうほどに鮮やかなだった。

「私がいうのもなんなんですけど、師匠。あの人達、あんな格好で凄く……強いですね…」

「あの人たちは、マジでヒーローからんなー。つか、磁雷矢さん、本当に忍者だぞ」

「忍者って……」

「いや、本当なんだって。戸隠流の35代宗家だし」

「さ、さんじゅう……」

「戦国時代からあるんだし、そんなもんだろ?話せば長いが、忍者って、何故か世界にゲテモノみたいなのがいてだな。それと戦ったとか」

「なんで、忍者が世界にいるんですか!?」

「私に聞くなよ。こっちのほうが聞きたいわ!」

黒江のいう通り、世界忍者はゲテモノのような外見の者が多く、修行したエーリカとハルトマンも写真で見て、『こいつら忍者ちゃうで!?』とツッコミを入れたくなったほどだ。そして、磁雷矢必殺の磁光真空剣が唸る。

『磁光真空剣!!真っ向両断ッ!』

縦と横の十文字に相手を切り裂く真っ向両断。磁雷矢の得意中の得意技だ。黒江にも伝授されているが、やはり本物は桁違いである。これで多くの世界忍者を屠ってきたのだ。技の発動時に印を結ぶルーティンと、背後に浮かび上がる炎は実にカッコイイので、二人は見とれてしまう。

『ファルコンブレイク!!』

レッドファルコンも必殺のファルコンブレイクを放ち、最後の一体を屠る。鮮やかな一撃であり、これで怪異は駆除された。

「これでこの辺りの怪異は駆逐した。これでローマは安心だが、甲児くんから伝言だ。ZEROの顕現は思ったよりは早くないが、そう遠くはないと」

「分かりました。ありがとうございます、ファルコンさん。お武の奴はなんて?」

「孫娘越しで良いから連絡入れろ、だ。綾ちゃん、手紙も送ってなかっただろう」

「はぁ。ここ最近は忙しくて……。後で、あいつの孫娘に伝言頼んでおきます」

武子は転生後はグランウィッチであるものの、501には関わっていないため、ミーナへ電話するなど、間接的にその影響力を行使しているが、欧州戦線には関わず、新64F成立に向けての準備を本土の343空で行っていた。空軍設立と同時に部隊を始動させるため、メンバーを予め集めているところであった。志賀少佐が抜けた穴埋めとして、元下士官の赤松以外の海軍三大変人の全員の復帰を依頼するなど、前史ではいない人員も集めていた。343空の最終編成がそのまま64Fの大まかな輪郭になると言え、今回の飛行長は横空から復帰する坂本、それと圭子が就任する。今回は孝美がレイブンズへ好意的であるのもあり、予め343空に移籍しておくなどの手伝いをし、武子を間接的に補佐している。そのため、この時点で、新64Fの編成(編成書類上は扶桑海での64Fの復活)は80%完了済みだったと言える。書類上は陸軍の64Fに343空を組み込むとされているが、64Fは動乱時に書類上で復活したのみであるので、実質的には343空が隊の中核となり、343空色が濃い。名こそ栄光ある64だが、内実は343空である。源田実の直接の配下である点も同じ為、スリーレイブンズが属する部隊という事で64戦隊の名を継いだが、実質的には『空の新撰組』の異名を343空から引き継ぐ。これは加藤隼戦闘隊よりも、343空の方が日本に受けが良い事情も含まれたプロパガンダが入ったものだが、日本向けのプロパガンダも重要なので、そのあたりは陸軍側が折れた。黒江らも書類上は343空に出向扱いになっており、空軍設立と同時に新64Fの幹部になる手筈であり、エーリカやマルセイユも、ルーデルの指示で同隊内の外人中隊『魔弾隊』への合流を水面下で同胞達へ打診している。グランウィッチは同隊の設立に殆どが動いており、太平洋戦争への布石を打つ目的で動いていた。

「ん?あれは……」

「グレートブースターUだ。鉄也さんも飛ばしてるなぁ。ボルテスZと模擬戦始めてる」

「あれが師匠の言ってた『偉大なる皇』?」

「正確には『偉大なる魔神皇帝』だな。Gカイザーと別系統の機体だし。お、天空剣とエンペラーソードで斬り合ってる」

「ん?相手のボルテスって、あのフィリピンで人気だっていう?」

「そうだけど、お前の年代、あれ知らないだろ?」

「ゲームによく出てきましたから……」

「ああ。なるほ……って、お前やってるのかよ!?」

「元はクラスメートから薦められたんですけど、いつの間にか」

調は妙なところで、黒江の記憶のフィードバックが役立ち、帰還後の学園ライフを楽しんでいるようだった。黒江から得たモノはかなり多く、それとオリヴィエとの交流で人当たりがすっかり良くなったらしく、某有名ロボットシミュレーションRPGをやりこんでいると告白した。その実物が実際に戦っている時代では、ある意味それは新鮮な感想で、レッドファルコンと磁雷矢の微笑ましい笑いを誘った。同じ姿ながら、取る態度は全く違い、ギアの意匠にも差があるため、両者の区別は簡単で、二人はすぐにどちらがどちらかを覚えたようだ。


――最悪の魔神を迎え撃つための準備は進む。マジンエンペラーGとグレートブースターU、ゴッドスクランダーとゴッドマジンガー。その二大魔神を中心にZEROの迎撃態勢を整え始めるスーパーロボット軍団。その動きは現役世代ウィッチ達が関われない領域の問題であり、現役ウィッチ達の焦燥を掻き立てるが、ミーナはそれを押さえ込みにかかるのだった――



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