外伝その117『最強の大海獣の宴(V)』


――ウィッチ世界では、日本の政治的策略もあり、退潮の様相を強めるウィッチ閥。その一方で、レイブンズや赤松など、多方面に優秀な者達が立場を守るため、奮闘している事実もある。扶桑はこの頃、パニックの渦中にあった。外務省で杉浦千畝外務官を史実で迫害した者達は、如何に扶桑で功績があろうとも、理由をでっち上げてでも懲戒免職処分、あるいは閑職行きという粛清の提案が日本左派からの圧力で行われた。既に、大島大使や松岡洋右などは網走刑務所に送られ、職も麻薬中毒などを理由に解職されており、カールスラントやオラーシャからは困惑の談話が出されるほどだった。日本左派は軍部にも当時の元大陸駐留軍の幹部らを全員、アリューシャン送りにせよとも圧力をかけており、陸軍の規模縮小に対しての圧力を全力でかけた。これは大陸駐留軍の最終時の幹部のメンツが関東軍のそれと同一だからで、史実の悪行を理由に、軍籍剥奪させよとまで叫んだ。『聖上の意思に反した国賊」とレッテルを貼って。これが、この年の9月のクーデターが予想外に大きく膨れ上がった理由の一つである。大陸駐留軍の在籍経験者やその親族の青年将校たちが扶桑国内の同志をまとめ上げ、一斉にクーデターを起こした。その数、ウィッチ部隊を入れて、当時の本土駐留部隊の半数以上に登り、海軍の一部艦隊も加わる。鎮圧後、責任者はウィッチであろうとも問答無用で極刑に処され、構成員も多くが禁固刑に処され、機能不全に陥った部隊が多かった。太平洋戦争での本土駐留部隊の多くは、このクーデターの後に自衛隊/米軍式教育を受けた再編か新編の部隊である。数年後、64Fが大きく膨れ上がるのも、この時の煽りで解散したウィッチ部隊の高練度かつ思想がまともな人員を引き受けたからだ。――



――扶桑本土――

「今回の『クーデター』は大事になるわね。本土の部隊の過半数じゃない。224Fとの連携はどうなの?」

「完璧です、お姉さま。50F、47Fには関東近辺への集結を演習名目で出しておます。大林少佐は指揮下に入ると明言しておりますが」

「そう、ご苦労様。孫娘から機材が届けられたことだし、あとは暴発を待つのみね」

腹心の一人で、実家のメイドでもある檜少尉からの報告を受ける武子。

「姉様。お上のお側に何人出します?」

「選りすぐりを数人送っておきなさい。近衛師団からもクーデターに加わるのが出るから」

檜少尉は武子の実家のメイドを努めている。今は亡き姉に仕えていたエクスウィッチの娘に当たり、武子にかなり長く仕えているが、年齢は1945年で14歳と若い。これは姉妹同然に育った関係であり、ウィッチ能力発現後も武子に仕え、武子第一の腹心として名が知られている。その都合、仕事場でも武子を『姉様』と呼んでおり、武子もそれを良しとしている。武子の孫である美奈子の時代にも存命で、加藤家を支えている。無論、黒江ともかなり親しく、グランウィッチでもあるので、未来の加藤家との仲介は彼女が担当している。彼女自身も『義足のエース』の異名を取っており、手練である。黒江はその義足の原因が、記憶が封印状態の時の自分にあるため、償いとして、義足の費用を肩代わりしていたりする。

「姉様、源田大佐からお電話です」

「繋いで」

「はい」

「源田大佐、今日はどのようなご用件で?」

「うむ。赤松の同期に当たる、君と同じ陸軍の若松を知っているな?」

「若松大先輩ですか?彼女が何か」

「積尸気を覚えたとかで、叙任を願い出たいと言ってきとるのだ」

「せ、積尸気冥界波でも覚えたんですか!?」

「どうもそうらしい。黒江のほうから推薦してもらえんか?作戦が終わったらで良い」

「分かりました。リアルタイムで通信できるので、知らせますので」

「それでは頼む」


欧州で、シュルシャガナを纏い、戦闘中の(変身済み)の黒江にその事が伝えられると、黒江は思わず、『若松の姐さんがあじゃぱ〜枠かよ!?』と素っ頓狂な声をあげた。

「ええ。積尸気冥界波覚えたみたいで」

「どうせなら積尸気鬼蒼焔とか、積尸気魂葬波とかの上位技をだな…積尸気転霊波とか?」

それらはデスマスクの数倍の実力であった先代らが用いた奥義の一つ。元教皇であるシオンも、師である彼から見ての先代のジャミールの長が若き日に蟹座の黄金であり、祭壇星座であった都合、使用可能である。彼もまた教皇であり、シオンと童虎が黄金になったのに前後して死去、これまたパニックを引き起こしている。

「先々代とチャネリングして覚えるとか?」

「その手があったか!これで黄金の内の9つは埋まるな。あ、聖域なんだが、沙織さんとシオンが相談して、教皇は数代続いて混乱の原因になったから、アテナが行動的である時代は置かないと決まってな。私が沙織さんとシオン、老師に推薦するよ」

「頼むわ」

シオンが『死していた頃、再会した先々代教皇から聞いた』とし、城戸沙織に語った『三代前の教皇であった、童虎の先代にあたる天秤座の黄金聖闘士『イティア』の反乱。サガの悪人格が、自身の反乱の際に教皇代行の権限で『小宇宙を剥奪できる権限を持つ』祭壇星座の聖闘士を謀殺していた事。祭壇星座の聖衣はサガの謀殺の際に失われ、その残されていた権限もアテナ(沙織)が反乱防止のため、停止した事に伴い、名誉職扱いになっている。

「聖域の教皇ってのは、自分の治世が300年くらい続くからな。シオンの先々代も270年間変わらない人間に絶望した挙句に反乱に至ったっていうからな。実際に戦った経験があるが、教皇経験者は違うよ、一味も二味もな」

イティアというシオンの二代前の教皇は天秤座であり、現役の黄金聖闘士だった当時は『誰よりも強大でありながら公平・調和を尊ぶ』とされたが、臨死体験の際に負の感情をハーデスの側近の双子神に利用され、死後は冥闘士に身を崩し、黒江は前史で交戦経験がある。

「教皇の治世が長過ぎるんじゃ?」

「神話の頃から決まってる事なんだが、反乱の主原因な事が多くてな。それで置かれないことに決まったわけだ」

「なるほどね」

「若松の姐さんの事は私がなんとかしとく。親父さんに知らせてやれ。今、こっちも大変なんだよ、宮藤が陸戦やらかしてんから、その援護だ」

「それでギアを?」

「聖衣使うと加減が効かねーしな。勢い余ってエクスカリバーであいつら斬っちまうよ」

黒江はデリケートな戦の場合、シュルシャガナを力のリミッター代わりにして戦うようになっていた。シュルシャガナのギアは黒江の神としての力に追従しようとするので、ロックは外れており、ギアはリミッター解除状態である。人の身では奇跡でしか纏えないギアのモードを『神の身』であるが故、気楽に使っているのだが、それでも黒江にとっては抑制された力である。この姿でも闘技は問題なく扱えるが、ギアの防御力が攻撃力に追いついていないため、防御面では白銀聖衣と同等程度である。問題は『加減しないと、ギアのギミックを壊す』という点で、その重大事もあり、ギアの機能はあまり使わないのである。

「で、それのオリジナル版を纏ってる子から文句は?」

「出たよ。なにせ、今の私のギアの姿はリミッター解除モードだしな。ギアのギミックが私の求める強度に追いつかねーから、一〇〇式機関短銃を武器庫から引っ張ってきて使ってるとこだ」

「自衛隊の62式じゃないのね?」

「あんな言うこと機関銃なんてよ、自衛隊にいる身としては使いたくねーし!

「確か、異名が62式言うこと聞かん銃」「無い方がマシンガン」、「ボルトアクション機関銃」だったわね」

「某アンサ○クロペディアに恥晒してる銃なんて誰が使うかよ、バーロー。」

「74式車載機銃は?」

「この姿で理由言って、陸自に探してもらったんだけど、在庫がないって言われた。しょうがないから99式軽機と迷って、一〇〇式に」

なんともすごい光景であるが、黒江はギアを展開し、調の姿に変身した姿で、一〇〇式機関短銃をサイドアームに選んで使っていた。ギア姿で現地派遣の陸自の駐屯地に行き、理由を話して探してもらった(応対した陸自の幹部自衛官はかなり張り切っていた)のだが、74式車載機銃の在庫は無く、仕方なく『旧軍の中で比較的まともな兵器』である一〇〇式を選んだわけだ。有効射程は短いが、ウィッチである黒江が持てば、射程はある程度延長できる。なお、連射時の銃口の安定のため、黒江は三〇式銃剣を重し代わりに着剣しており、命中率を上げていた。

「あのねぇ。そうだったらブレン軽機関銃使ったら?」

「あれ、ブリタニアの管轄だし、ウチにゃリーネとかパティの分しか在庫がないんだよ。ビューリングは違うのだし」

「ペリーヌは?」

「あいつに融通を頼んだんだが、ミーナに差止めくらってな」

「んじゃ、親父さんによろしく」

合流したビューリングはHS.404を使用しており、黒江にあげられるほどの予備もなく、携行銃器はかなりカツカツであった。そのため、ギアでの出撃時にはかなり困り、防大同期で、2015年時点で二佐であり、ウィッチ世界にいる幹部自衛官に連絡を取り、探してもらったというわけだ。それも虚しく、幹部自衛官に自軍の武器庫を漁ってもらい、選んだのが一〇〇式なのだ。実に不釣り合いな姿だが、軍人である黒江は、不慣れで強度に不安があるギアのギミックよりも『扱い慣れた』銃器を選ぶ傾向にある。その姿を後方の駐屯地でモニター中継を通して視聴した、雪音クリスは己が目を疑い、切歌は涙目になり、マリアは『き、機関銃!?』、翼は『ギアを纏っているというのに、何故、女史はアームドギアでもない通常兵器を?』と首を傾げたという。ともあれ、黒江はローラー機動にこの時に慣熟し、調と比較しても遜色ないほどに上達した。独自の機動も編み出した(ボト○スがヒント)ので、陸戦で相対した敵は対応に追われた。芳佳とバルクホルンのヤークトパンターの攻撃でM4に予想外の大損害が出ており、更に黒江のシュルシャガナで兵士に多数の負傷者が生じていた。三人は時速50キロ前後で、陸上を疾駆し、本来は畑違いの分野でも戦果を上げていた。芳佳は機甲学校に入るため、どうしても華々しい戦果を必要としたのか、意外と攻撃は苛烈だった。M4はどんどんスクラップになっていき、戦車駆逐車のM36ジャクソンに至っては、ド派手に吹っ飛んだり、砲塔がおもちゃのように吹き飛ぶモノが続出した。そのため、それに耐えられる戦車の救援を兵士らが無電でがなり立て、ついに虎の子のM26が登場した。ティーガーのアハト・アハトに耐えられる戦車の登場は、芳佳と黒江を驚かせた。

「お!黒江さん、あれって!」

「パーシングだ!お前らは側面に回り込め!私が注意を引きつける!」

「あの戦車はそれほどのものなのですか?」

「アンチティーガーTとして造られた戦車だ。ヤークトパンターの砲なら正面撃破が可能だが、場合によれば弾くかもしれん。ヤークトパンターはケーニッヒティーガーと同じ砲だが、安全策を取る。」

バルクホルンの担いでいるアハト・アハトはティーガーTと同型であるため、パーシングの正面装甲を貫徹できない。それに耐えるのが開発目的だからだ。芳佳のヤークトパンターや自分のシュルシャガナなら正面撃破はできるが、それが目的ではない。芳佳と黒江は戦車戦のイロハを知るため、相手の側面を取ることを選び、黒江が囮となり、芳佳とバルクホルンは回り込む。

「バルクホルンさん、今です!」

「わかった!」

アハト・アハトの側面への攻撃により、さしものパーシングも貫徹され、沈黙する。黒江はそれを見届けると、突撃してくる兵士らを負傷させるため、ヘッドギアのホルダーを展開し、小型鋸を一斉に発射する。調が面制圧のために用いていた技『α式・百輪廻』だが、黒江はそれを対人で使用し、兵を負傷させるために使用するという『エグい運用』をした。小型の円形鋸が無数にかっ飛んでくるため、兵士にはたまったものではない。腕が飛ぶのは幸運なほうで、首が飛んだりし、黒江も『やってること、クロスボーンの鉄仮面みたいだな』と引いた。兵士達の『目が、目がぁ!』、『腕がぁ、腕がぁ!』、『足がぁ!』などの哀れな悲鳴は、使った黒江自身も気が引けたらしく、その後、この技を対人で使うのを止めたという。

「さて、吹き飛んでもらうぜ、兵隊さんよぉ!ケイロンズライトインパルス!!」

闘技にファイトスタイルを切り替え、拳圧で金色の風を起こし、対象を吹き飛ばす。ギアを纏っていても、聖闘士のほうが性にあっているらしく、芳佳らの道を切り開くため、闘技を使う。それは主に射手座と獅子座だ。ギアを使っていながら、背中に一〇〇式機関短銃を担いでいる姿はシュールだが、元々、軍人である黒江にとっては、自分の姿など、それほどのことではないのだから。




――なお、正規のシンフォギア装者の中では、唯一、先に黒江と合流していたため、調が参戦しており、ドラえもんとのび太の警護についていた。黒江の能力の基になった少女という事や、調自身が人当たりがよくなった事もあり、二人と会話を普通に行えていた。黒江からのフィードバックで『エクスカリバー』を発現させた恩恵で、ギアの展開時間の時間制限が消えたため、ドラえもん達やドラえもんズの前でも、ギアを解いていない。

「あの、のび太君、王ドラ君……、どうしたの」

「あー、気にしないでいいよ。単に君にメロメロなだけだから。王ドラのやつ、女の子に弱いから」

「そうそう。こいつは美人の前になると、まともに会話もできねぇんだ」

キッドは呆れる。無論、お得意のどら焼きにマスタードをぶっかけながら。これはあまりにもありえない組み合わせなため、箒や美琴がそうであったように、調も思い切り引いている。

「のび太くん、あれ、突っ込んでいいのかな……。どら焼きにマスタードなんて…」

「あれはね、みんなつっこむポイントなんだ。これまでつっこんだ人達は大勢いるよ」

ドラえもんズは皆、どら焼きに様々な物をかけて食うため、美琴、箒、なのはの三人が近年ではツッコミを入れており、特に、こだわりがあったらしい箒が大いに憤慨しており、『ありえん!!どら焼きを冒涜している!!!』と激怒している。(なお、箒はドラリーニョのタバスコぶっかけどら焼きを見た瞬間、堪忍袋の尾が切れて、思わず、ドラリーニョにギャラクシアンエクスプロージョンを放った事がある)

「あれなんか、まだいい方さ。ドラリーニョを見てよ」

「なっ、た、タバスコ!?」

「ドラリーニョのやつ、ブラジル在住だから」

「いやいやいや!?それ絶対おかしいよ!?」

タバスコぶっかけてドラリーニョがどら焼きを食べるという光景は、調が思わずツッコミを入れるほどのものだった。彼女たちは戦闘地域から比較的離れたところにいるが、敵軍の偵察部隊が来るので、それを襲い、武装解除させる事を数回繰り返したが、ドラえもんが拾った銃にはM100があり、その珍兵器ぶりにのび太が酷評している。

「のび太、ドラえもんは?」

「キャリコを改造しに行った。あのままだと装弾不良起こりまくりだしね」

「バダンって、変な武器ハマってる人多くないか?」

「キャリコでも、改良型のM950じゃなくM100ってあたりがなんとも。ミスターク○スの殺し屋ナポレオンじゃあるまいし」

「のび太くん、なんで銃にそんなに詳しいの?小学生だよね?」

「西暦2000年前後での、ね。君が元いる時代じゃ30間近の大人だよ、ぼくは」

「え…!?と、いう事は…」

「ぼくは昭和63年生まれさ。君から見たら、ぼくはおじさんになるね、調ちゃん」

調は2015年時点での15歳前後。つまり、のび太とは有に12歳を超える年齢差がある。調はのび太が小学高学年の頃に赤子という事になる。

「それにぼくの今の知識は、2~3年ミリタリー系か銃専門誌読んでれば自然と身につくものだよ。大人になれば、ガンスミスとの人脈持てるけど、それは2008年を過ぎた後のことだしね」

のび太は歳の割にはミリタリーに詳しいが、玉子からは快く思われておらず、家では読めず、本屋でその種の本を立ち読みして得たりしたものだったりする。のび太とドラえもんは西部劇を好んでいるためと、スネ夫の従兄弟のスネ吉は従兄弟が絡まないところでは好青年であるため、のび太に雑誌をプレゼントするなど、見えないところでスネ夫に加担した償いはしており、その方面で知識をつけている。

「師匠は私の姿を使ってるけど、私も師匠からエクスカリバーをもらったんだ。だけど、使い所が分からなくて……。私、ガチンコのファイトスタイルじゃ無かったから…」

「君は君なりのファイトスタイルを見つければいいよ。綾香さんが君から得た力をどう使うか、考えていってるみたいに、君の腕に宿った聖剣をどう使うか。それは君次第だよ、調ちゃん」

のび太は既に大冒険を幾度も経ているため、そういうところでは青年期以降の片鱗を垣間見せる。

「う、うん」

「接近戦が苦手なら、綾香さんが前に手刀の斬撃飛ばしてたから、それならってみたら?」

「手刀?」

「うん。エクスカリバーはむしろそれが正統派で、綾香さんみたいに武器を媒介にするのは珍しいんだ」

黒江は、主に実体剣を媒介にエクスカリバーやエアを使うが、それはむしろ珍しく、歴代の山羊座の聖闘士では、黒江は異色の存在である。

「君が護りたい人がいるなら、それが君の力だよ。ヴィヴィオちゃんのオリジナルに当たるオリヴィエって『最後のゆりかごの女王』と約束したのなら、ね」

「私の……力」

「ボウズやワシらの強味であり弱点かもしれん闘技の胆は純粋な『聖闘士』では無いと言う点じゃな」

「やぁ、赤松少尉」

「おう、のび太。ボウズが拾ってきた娘っ子というのはお前か?」

「は、はい!」

「フム。なるほど、いい目をしている。ガキンチョの頃のボウズと同じ目だ」

調は若き日の黒江と共通点を持つ。それは大事な者のためなら、自らの危険を顧みずとも、死地へ飛び込むというところで、オリヴィエを守れなかったという点も、現在の黒江に似ている。それを感じ取った赤松。

「赤松少尉はこう見えて、この時代で30近いお人で、綾香さんが新兵だった頃に、もう古参だった人だよ」

「それじゃ、師匠の?」

「更に大先輩だ、儂は。そうか、ボウズも、とうとう、師匠ぶるの始めおったか。ガッハッハ。ボウズの妹弟子の宮藤の嬢ちゃんが言っとった、『わたしにできることを一つずつやって行けば、必ず目指す場所に届くから』とな。先ずは自分の出来ることを見定める事じゃな」

「わたしにできること……」

「そうだ」

「その力……師匠と同じ……?」

「儂は白銀である孔雀座じゃが、ボウズに7対3で勝ち越しておるぞ」

「元々、扶桑最強だし、少尉」

のび太が補足を入れる。赤松は相撲に至るまでの殆どの格闘技や弓道でも達人の腕前で、黒江が転生を挟んでも『勝てる気がしない』と言わしめている猛者。小宇宙を滾らせているため、黒江と同種の力を持つと感じ取った。

「私にできるんでしょうか……仲間になった子の言葉を、一度は『偽善』って言ってしまった私に」

「過去の行いは過ぎたことと考え、未来への糧にすればいい。ボウズもそれをモチベーションにしている。確かにボウズも、人には言いにくいトラウマを抱えているが、それを乗り越えようとしている。お嬢ちゃんが『正義』、『善』と言う物を考えあぐねておるのなら、この戦いで見つければ良い。老師もそれを望まれておる」

赤松はそう告げる。この戦いは、調が聖闘士になるに当たっての試練であるとも暗示して。


――こうして、月詠調は『シンフォギア装者』の殻を突き破り、聖闘士への道を歩み始める。黒江と出会った事で、黒江の力の一端を得たこと、ヴィヴィオのオリジナル『オリヴィエ・ゼーゲブレヒト』に忠誠を誓っていた事で、騎士としての誇りに目覚めたなどの複合的要因により、聖闘士になる道は開けてゆく。この戦いで覚醒への道に至る調。それに多大な危惧を持つ切歌。切歌は置いてけぼりになる事を危惧しているが、多大なハンデを抱えている。それがエクスカリバーであるのだ――



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