外伝その124『山本五十六の遺言』


――レイブンズと親しい関係にあった山本五十六は、この時期に遺言を書き残こしていた。山本五十六は本来であれば、1943年に死んだはずであり、1944年以降に自分が生きている事自体がおまけである事を知り、自分に何かあった時のため、遺言を残そうとしていた。その遺言が後のY委員会設立の理由であり、扶桑を影でコントロールする彼ら『Y委員会』の暗躍のきっかけであった。Y委員会の構想のきっかけは『今回』においては、1945年度中と早期であり、山本五十六の存命中には構想があった事になった。これはウィッチが兵器の急速な進歩についていけなくなり、何かかしらの特殊技能を備えていなければ、『お払い箱』にされてしまうという事実を重く見た竹井退役少将(竹井の祖父)の提言により、軍ウィッチとは別に、『平凡』な(雁渕ひかりのような)ウィッチの受け皿となり、軍を補完する組織を設立すべきという論が天皇陛下に上奏された。

「ウィッチの受け皿となる新組織と?」

「はっ、陛下。今、軍の兵器は革新を遂げ、ウィッチは従来通りの役目を果たさなくとも良くなりました。ですが、ウィッチの大半は、レイブンズのように『万能の天才』ではありません。そのための受け皿が今後必要になりましょう」

レイブンズは通常兵科の将校としても高い能力を持つが、それは極稀なケースでしかなく、多くはウィッチとしての能力は高くとも、それ以外はてんでダメか、ウィッチとしても、通常兵士としても平凡でしかないなど、何らかの尖った点がある。稀代の逸材と言われる者は、レイブンズ、クロウズなどいくつかの事例があるが、それらの影で苦しむ平凡なウィッチの受け皿を作らなくては、ウィッチの職業という意味での存在意義は無くなる。山本五十六と竹井少将はその旨を上奏し、その上奏がきっかけとなり、芳佳はリーネを誘う形で、構想作りに入った。その構想は10年後、有事即応という名目でのウィッチの受け皿の一つ、『ウィッチによる自主防衛組織』の『自衛隊』を生み出す。設立直後に入隊したウィッチの多くは、太平洋戦争の中途で自主退役したり、44年から47年度に適齢期を迎えたものの、志願しなかったり、できなかった者、第二次事変には参加したものの、太平洋戦争従軍組との対立で、軍を事変終結時に離れたウィッチらであった。その結果、太平洋戦争を最前線で戦った世代のウィッチが職業軍人として、長らく軍組織を支える事になる。これが『山本五十六がレイブンズ達や山口多聞、小沢治三郎らに遺した遺言』の全容だった。




――その遺言を知る者は、45年当時にはごく少数であった。ウィッチという存在の意義を『進歩してゆく兵器』から守るために『自衛隊』という軍に匹敵する組織を設立する事は、軍の既得権益を侵すことでもある。準備は10年かけて行われ、Y委員会が扶桑のフィクサー組織になるのを待ってからの設立であった。今度は軍ウィッチをどうにかせねばならぬようになるため、レイブンズは何れにせよ、戦い続ける宿命にあった――




――1945年。艦隊戦は最高潮に達していた。扶桑『連合艦隊』としては、実質的に最後になる戦となった。(海軍艦隊に組織改編される予定であるため)都合、何度かの史上最強の艨艟の宴は始まった。連合艦隊主力(大和型戦艦、播磨型戦艦と三笠型戦艦を主力にする戦艦部隊)は、ブリタニアの新旧の艨艟の護衛を受けつつ、リベリオン本国軍=ドイツ大海連合艦隊と対峙した――



小沢治三郎の号令のもと、連合艦隊の新旧の艦艇が砲火を上げる。艦隊はリベリオン艦隊に肉薄する形で航行し、かつてのネルソン提督が行ったような、『ネルソンタッチ』を敢行、リベリオン艦隊の脇腹を突いた。

「よし!このまま敵の脇腹を突き、正面突破だ!突破次第、同航戦に移行し、体力勝負と行くぞ!」

ネルソンタッチで正面突破に打って出る、小沢治三郎率いる連合艦隊。それを阻止せんと砲火を集中させるリベリオン艦隊。双方ともに、小艦艇から脱落艦が生じる。

「ド・ヘイヴン、轟沈!ビール、落伍!!」

「敵ブリタニア駆逐艦を複数、撃破に成功!!」

今回は旗艦ではなく、ラ級改造前の最後のご奉公になったモンタナのCICには、近代化で敵艦艇と、友軍の状況を知らせる戦況表示モニターが備え付けられており、それによると、大型・中型艦の周りの小艦艇が十字砲火に耐えられずに双方ともに撃沈していく。それらの屍を踏み越える形で、双方は砲撃戦を行う。魚雷を放つ者もいるが、一、二発で参る大型艦は敵味方共にいないため、無駄な努力に終わる。

「よし!弱いブリタニア艦から海の藻屑にしてやれ!弾種は徹甲!!撃てェー!」

彼らは火力がある大和型戦艦や、モンスターと恐れている『三笠型』を後回しにし、ブリタニア艦から狙った。これはブリタニア艦は新鋭艦でも、自分らの徹甲弾を防ぎきれないと踏んだからで、それは的中していた。

「よーし、まずは先頭のR級からやるぞ!撃てぇ!!」

彼らは連合艦隊主力の先頭にいる『リヴェンジ』を狙い撃った。幸い、ネルソンタッチの要領で突っ込んでくるので、狙いがつけやすかった。上空にいるウィッチ達はその様子を『今回』も目撃する事になった。今回はドイツ海軍の弾除けにリベリオン軍が利用されているため、ある種の同情さえある。


「リヴェンジが!」

竹井が悲鳴を上げる。モンタナ級戦艦二隻が放った40cm徹甲弾は、一発がリヴェンジの第一主砲塔に命中する。近距離での命中であるので、防盾は役に立たなかった。同砲塔を粉砕し、更に角度が浅い都合上、同艦の甲板に大穴を穿って爆発した。

「次に同じところに当たれば、轟沈するわね。今ので轟沈したっておかしくないダメージなんだけど」

「戦艦がそう易易と沈むんですか?」

「主砲弾薬庫が爆発すればねな。だから、弾薬庫はいざというときのために注水とか出来るようになってるのよ。お前、いくら航空兵だからって、それくらいは知ってるかと思ったけど」

「美緒も私も、戦艦に関してはそれほど……」


「お前らなぁ……。こんなの、未来じゃ小学生でも分かるわよ。戦艦乗り組みがなかったわけでもないでしょう?ったく、私のほうが詳しいって、どーいうこと?お前のほうが本職でしょう?これ、黒江ちゃんが前史で坂本に言ってた事なんだけど。」

圭子はゲッターロボ斬越しに頭を抱え、ため息をついた。黒江が前史で坂本に叫びまくっていた理由が分かったのか、ため息つきまくりである。(前史では事後、坂本の艦艇への無知に呆れた黒江は、特訓で覚えさせていた)

「(これだから促成組は……)」

「皆さん、艦隊が同航戦に持ち込むつもりですよ!」

孝美の一声で、空にいるウィッチ一同は海上を注目する。艦隊はいよいよ、同航戦に移り、砲撃戦を行い始めた。わずか数分、目を離しただけであるが、駆逐艦の数がだいぶ減っていた。大口径砲が行き交う戦場なので、至近弾でも船体に亀裂が入るのが当たり前であったためだ。双方で無事な駆逐艦は、装備云々は関係なく、練度が特に高い艦が中心だった。これは前史と同じ流れである。

「味方は?」

「リヴェンジは落伍しました。あれはもう、長くは持たないでしょう」

「蜂の巣にされたからな。今回も戦没するか」

リヴェンジは蜂の巣にされ、艦上構造物を破壊し尽くされ、艦隊から落伍した直後に、転覆し始める。各部の被弾で出来た破孔から浸水しており、もはやその運命は明らかであった。その敵を討たんと、意気軒昂なのが『ウォースパイト』(クイーンエリザベス級)であった。同艦は今回も高練度であり、格上であるサウスダコタ級に連続で命中弾を与える。艦娘の加護でもあるのか、圭子も目を見張る活躍だった。

「リヴェンジの敵を取る!総員奮起せよ!」

ウォースパイトの奮戦は、英国(ブリタニア)海軍魂の発露と言わんばかりのもので、サウスダコタ級を叩く。

「通常弾だ!徹甲は弾かれるから、炸薬で甲板より上を焼くんだ!!」

彼らは榴弾を見舞い、サウスダコタ級『サウスダコタ』を痛撃する。榴弾の特性を活かし、サウスダコタの甲板より上を焼き払う。だが、彼らも無傷でない。お返しの砲弾で8連装ポンポン砲が何個か吹き飛ぶ。

「被弾!」

「消火急げ!……奴らもいい砲手がいるな。いきなり命中弾がでるとは」

「ええ。ですが、敵は頑丈ですな」

「仕方がない。我が艦隊はライオン級と一部のKJ級しか16インチは積んでいないのだ。我々の役目は、扶桑艦隊の露払いだ。撃滅ではない。照準が狂うのは大目に見るしかあるまい」

ウォースパイトは火災を起こしつつも、砲戦を続行するが、火災で照準が甘くなる。それを承知の上だ。だが、彼らに女神は微笑んだ。火災が起きる前に放った砲弾が、Mk12『5インチ砲』を吹き飛ばす事に成功し、彼らを歓喜させる。

「砲撃手!敵艦の艦橋に一発叩き込め!これだけ近づいとるのだ!最悪、直接照準でもいいから、やり給え!」

お互いの艦隊が向き合う距離は15000を切っていた。ウォースパイトは高練度兵と熟練の艦長の操艦により、ブリタニア海軍の意地を見せつけていた。が、損害も増えていく。


「キングジョージX、大きく速度を落として落伍していきます!朝潮、夕雲の機関停止、行き足が止まります!!巡洋艦『愛宕』、主砲塔全壊、沈黙!!」

――大口径砲が飛び交う戦場で、無傷で生き残れる巡洋艦以下の艦艇は少数だった。戦艦でさえも。数発で轟沈が普通に起き得る戦場では、巡洋艦以下の艦艇は『大破』状態で残れたら大バンザイだった。ブリタニア艦隊は数が多いので、前衛を努めていた。その分、グロースドイッチュラントやヒンデンブルク号らの猛攻を浴びる事になり、落伍艦も増えていく――


――富士では――


「敵艦隊の損害は?」

「あ、今、播磨の20インチで、ノースカロライナ級が吹き飛びました!」

播磨の20インチ砲は、大和型戦艦を含めた従来艦のバイタルパートをも貫通せしめる威力がある。ノースカロライナ程度の装甲では51cm徹甲弾を防げず、史実のフッドよろしく、一瞬で轟沈する。弾薬庫に命中、爆発したのだ。ノースカロライナ級は上空からも確認できるほどの爆煙と共に海に没してゆく。

「今のはノースカロライナか?ワシントンか?」

「多分、ワシントンでは?ノースカロライナは本艦の砲撃で沈んでます」

「そうか。これで敵はサウスダコタ級以降のみになったな。それと……。あの艦は?」

「データ照合。アルザスです」

砲撃戦を行う、ガリアの象徴となるはずであった『アルザス級』。同艦はアイオワ級の砲を備え付けられて参陣しており、その高性能でブリタニア製新鋭艦に優位に立つ。

「あれがそうか……。全長は250mくらいか。主砲はリベリオン製のに変えられているようだが、船体はオリジナルか?」

「おそらく」

鹵獲されたアルザス級、艦橋構造物などの上層構造物の殆どはオリジナルだが、射撃指揮装置はリベリオン製になっており、幾分か、オリジナル設計と趣を異にする。この時期は一番艦『アルザス』が実戦投入され、二番艦『ノルマンディー』は艤装途中であった。自由ガリア、ひいてはガリア共和国に残された同級三番艦『フランドル』、四番艦『ブルゴーニュ』を独力で完成させる余力はなく、『ブルゴーニュ』級として、連邦軍の有償援助枠で1953年に完成するに至る。だが、その頃にはガリアそのものが衰退しており、同級はそれを誤魔化すための政治的道具に使われたため、『ド・ゴールのおもちゃ』と揶揄される事になる。


「提督、デューク・オブ・ヨークを見てください!」

「ぬう、何故撃たん?」

「故障のようです」

「これだからブリタニアの四連装は…」

デューク・オブ・ヨークは主砲故障により、大きく火力を減じた状態で戦ったため、アルザスに傷めつけられ、もはや主砲火力は半減していた。更に最悪な事に、彼女らの見ている前で艦橋に被弾してしまったのだ。元々、設計的に艦橋の装甲が駆逐艦並という艦であったので、その難点が露呈したのだ。この戦訓は、後に完成する、チャーチル肝いりの『セントジョージ級』以降の新戦艦に反映され、司令塔の重装甲が復活したのだった。

「煙幕だ!煙幕を張って、退避しろ!」

デューク・オブ・ヨークは辛うじて難を逃れた者達の手で操艦され、ヨロヨロと退避していく。海戦の様子を首相会談中も連邦軍から逐一、報告されていたチャーチルはデューク・オブ・ヨークの醜態っぷりに激怒し、『何たるザマだ!!栄光の大ブリタニアの戦艦にあるまじき……』と首脳会談の途中にもかかわらず、葉巻を吸いまくるほど憤慨したとか。一方、ウォースパイトの奮戦には大喜びで、『勲章ものだ!』と歓声を上げ、ド・ゴールとアイゼンハワーが苦言を呈したという。


「あ、小沢さん、今回も東郷ターンする!どこかでやるとは思ってたけど」

―圭子の言う通り、小沢治三郎は富士と護衛艦らを率いて、腹を見せての撃ち合いへ移行させる。史実で東郷平八郎の用いた東郷ターンを見せる。今回の敵総司令であるドイツ海軍提督は、『流石は東郷の後裔。ここで東郷ターンを入れてくるか』と唸り、小沢治三郎に挑戦する。それは史実で一度きりしか起きなかった『日本の近代戦艦の艦隊戦』を行わせた神の悪戯かもしれない。

『基本押さえてりゃ、東郷元帥で無くても、此処はターンして鼻面押さえるところだろう?』

『無線使って言います?それ』

『な〜に、艦隊戦は海軍軍人の誉だ。東郷元帥みたいな芸当はしたくなるものだ』

小沢は無線で圭子にそう言う。その余裕がある事は連合艦隊は大丈夫という事だ。


「あ、敵のウィッチ部隊だ。だけど、今回は味方の駆逐艦に譲りましょう」

「どうしてですか、先輩」

「せっかく、未来からこんごう型護衛艦の設計図もらって作ったんだし、性能実証は必要でしょう?」

「はぁ」

扶桑海軍は軍備の戦後型兵器への更新途上であり、その中での虎の子と言えるのが、『こんごう型ミサイル駆逐艦』だった。名の通りに、海上自衛隊のこんごう型護衛艦のコピーだが、流石にENIACの時代に、極小集積回路は作れないので、その部分は連邦軍の既成品だ。艦載砲がオート・メラーラの127mm砲一門だけの同艦は扶桑海軍砲術閥からは『海防艦以下の砲門数』、水雷閥からも『これでは雷撃戦は生き残れない』と不評だった。だが、同艦の能力は、その旧海軍駆逐艦の数倍の砲撃能力があるのだ。また、同艦の戦闘の真価は防空能力と、ミサイル戦にあり、ミサイル駆逐艦(結局、排水量の問題で甲巡扱いになった)としての能力を見せつけ、Mk41垂直発射器から次々にミサイルが放たれ、レシプロ機のみならず、ジェット機やウィッチすら寄せ付けない。これはミサイルが対空キャニスター弾(対ウィッチ用散弾)使用の弾頭が使われたためで、多数の散弾が襲いかかるので、ウィッチでも防げない。(芳佳クラスならば可能だが)その為、果敢に雷撃及び、爆撃に挑んだウィッチらは、ミサイルの精密誘導の餌食になるという事態に直面した。(ちなみに、輸入の際に改こんごう型として、煙突の丸めは廃止、マストを塔形ステルスマストにしている)

「チクショウ、チクショウ!なんで私がこんな目に……う、うわああああ!?」

「死にたくない、死にたくない、死にたく……ぎゃあああああ!?」

と、ミサイルから逃れられず、手に持つ250キロ爆弾ごと潰されるウィッチもいれば、機体が急激な機動に耐えられずに空中分解、そのまま放り出されて海中に没する者も生じる。吹き飛ばしを重視し、爆圧が強めであったのも災いし、爆弾や魚雷が誘爆し、死亡する者も多く、十数名の艦爆・艦攻ウィッチ隊の内、帰艦したのは、僅か二名のみだったという。他には、捕虜になった者が複数生じた。このため、ウィッチ隊による爆撃と雷撃は危険と判断され、以後に衰退の様相を強める。艦艇への急降下爆撃も同様で、皮肉にも、イージス艦が彼女らの戦技を時代遅れにしたのだった。イージス艦の防空能力の証明は、同時に海軍急降下爆撃ウィッチ、雷撃ウィッチの双方を時代遅れにしてしまう皮肉な結果となった。後に、カノーネンウィッチが被害が最も小さい事が分かり、リベリオン軍では同ウィッチに力を入れるのだった。





――ジリジリと戦局を優位にさせつつある連合艦隊。ヒンデンブルク号とグロースドイッチュラント達さえ気をつければいいので、艦隊戦は順調だった――

「おーし!これで敵巡洋艦はすべて落伍させたぞ!」

大和の松田艦長が歓喜の声を挙げる。とりあえず主砲を撃ちまくったおかげもあい、敵艦隊の護衛艦のほぼ全てを落伍させたのだ。 だが、それと引き換えに、砲身命数をほぼ使いきるほどの砲撃回数を数えていた。

「艦長、砲身が限界です」

「くそ、後は富士らに任すしかないな」

大和の主砲塔の砲身は摩耗仕切っていた。大和型の主砲塔の砲身内筒の寿命は、200発程度。未来世界の技術が入っていないのもあり、そこは以前と変わっていない点だった。(この時の大和の主砲身は純正の扶桑製であったためと、強制冷却機構の調整が間に合わなかった。)装填時間が短くなり、即応力が増した代わりに、旧来の製品では、摩耗が早いのである。二日後、小休止の内に、大和型の主砲は全面的にショックカノン規格かつ、強制冷却機能付きの砲へバージョンアップされるのだった。


――富士は僚艦の越後、播磨と共に、50cm超えの大口径砲の打撃力で、リベリオンのサウスダコタ級・アイオワ級・モンタナ級、ヒンデンブルク号、グロースドイッチュラントなどを向こうに回しての大立ち回りを演じている。それらの砲弾が艦首に当たれば、その箇所は派手に破壊され、56cm砲弾がバイタルパートに当たれば、衝撃で装甲板にヒビが入るほどの打撃を与える。大きさゆえ、モンタナ級戦艦のようにはいかないが、大きさの割に機敏な動きで、この時代の船の機動の常識を超える動きを見せる。もちろん、防御力は折り紙つきであり、リベリオンのサウスダコタ級2隻、アイオワ級、モンタナ級戦艦2隻、ドイツ戦艦の猛攻を受けても平然と撃ち返していく。

「ええい、『ゴジラ』の好きにさせるな!撃ちまくれ!!」

三笠型の強固な装甲はドイツ海軍やリベリオン群を震撼させた。ドイツ海軍司令が『ゴジラ』と恐れるのもそこだった。大和型でも耐えられない量の集中砲火を浴びてもびくともしないほど頑丈であり、16インチ〜19インチ砲弾を全て弾いてみせ、ヴァイタル・パートに命中した弾が砕ける現象すら出現する。上空で戦っていたグンドゥラ・ラルは、富士の大きさに見合わぬ機敏さ、戦艦らしからぬ横這いの動きに唖然とする。


「前史でもそうだが、未来兵器に翻弄されっぱなしだな、私は」

驚きのラル。サバサバした性格であるが、三笠型の機敏な動きはどうにも信じられない。いくら転生しても、これは驚きに値する。そして、ルイジアナに56cm砲が命中したと思ったその時。

「ん、敵艦隊が引き始める?ブリタニア艦隊に打撃を与えたのを良しとしたのか?」

敵艦が撃ち合いを止め、変針して引き上げ始める。一回の艦隊戦では決着がつかないと踏んだのだろう。味方が受けた損害は駆逐艦や巡洋艦が中心だが、ブリタニアの旧式戦艦が一回の海戦で複数が沈没し、(リヴェンジ、バーラムなど)したのは、チャーチルに代替艦建造の大義名分を与えるだろう。それが7隻の新造戦艦なのだ。アイアン・デューク級の三番艦は工期の遅れと太平洋戦争終結を理由に空母化され、アイアン・デューク級は結果として、一隻が未成となっている。アイアン・デューク級(二代)は三隻が戦艦として完成し、一隻が空母となった。この一隻の予定艦名が後世のマニアたちに予想されるのだが、今回は空母改装が決定された後に命名がされたのが本当のところだ。



――この第一回の海戦の模様は、『映画作りの参考になる』と日本が喜ぶほどにドラマティックだった。大和型の設計が砲撃戦では堅実である事が証明されたため、大和型の設計陣が戦後に批判されていた事項が的外れであると示された。改装されたとは言え、戦艦部隊の中核としての役割を果たし、その防御で空母の弾除けになった事や、モンタナとの撃ち合いで副砲付近の防御も問題とされなかった(大和は副砲除去が遅れていた)事などで、大和型が正真正銘の世界最精鋭の戦艦と証明された事で、砲撃戦という戦艦本来の役割で言えば大成功であると太鼓判を押された。反対論者は『速度が……』、『レーダーが……』と見苦しい言い訳をしたが、改大和型はフェーズドアレイレーダーを積んでおり、速度も改善されていた。更に主砲塔も強化されるため、弱点は存在しない。『第二次世界大戦型の艦艇のほうが直接戦闘を想定しているため、直接的な被弾への生存性に富む』という事実は日本に『装甲を有する近代艦艇の研究』へと邁進させ、この研究の妥当性は統合戦争以後で証明される事になる。大和は戦艦ルイジアナの主砲弾を副砲に食らったが、弾薬庫までの二枚の装甲で誘爆に至らず、21世紀日本の一部マニアは『そんな馬鹿な!?』と愕然としたというエピソードが出来たという。



――とある基地――

「よ、お二人さん」

「中佐、その姿で戦闘機を?」

「姿はどうって事はないさ。坂本、ミーナ大佐の面倒見ろよ」

「Okだ。とは言うものの、栄光は数十年ぶりだしな」

「自転車だって乗りゃ、段々と思い出すだろ。そういうもんだ。よし、出るぞ」

三人はそれぞれ、日の丸マークのF-104に乗り込む。黒江(容姿は月詠調にしたまま)が単座型、坂本とミーナは複座型だ。複座型は『F-104DJ』である。これはライセンスと設計が日本向けの機体の流用だったためだ。黒江はギアをそのまま耐Gスーツ代わりにして乗り込み、坂本は飛行服から正式の耐Gスーツに着替え、ミーナも同様だ。

「坂本、こうしてお前と、飛行機で飛ぶのはいつ以来だ?」

「大阪万博の時以来だから、もう何十年だな」

「私にとっちゃ数百年さ。お前より長く生きたしな」

「海戦は小休止に入ったそうだぞ?」

「空戦は続いてるさ。航続距離短いから、補給は適宜しろ。栄光はミサイルも少ないしな」

「ハイドラとミサイル、それとバルカン撃ち尽くしたら戻るさ」

「さて、久しぶりに『最後の有人戦闘機』の飛行を楽しむか」

「美緒、それに中佐。二人だけで盛り上がらないでくれるかしら」

「スマンスマン。何分、私達は栄光は『久しぶり』なんでな」

「私はこれより二世代後のイーグルのドライバーが副業だし、栄光はここでしか乗ってなかったしな」

黒江はイーグルドライバーが副業であるので、時代的にマルヨンには乗っていない。扶桑へ配備された際も、前史ではマルヨンへの搭乗時間は案外短い。だが、ロック岩崎が搭乗した機体なので、数度は使っていた。

「さて、ロックにあやかりに行くぞ!」

ロック岩崎。かつて、航空自衛隊で凄腕を謳われたパイロットである。黒江は彼の存在を当然ながら知っており、彼が2005年に事故で亡くなる数年前、自分が自衛官として任官したての時にエアショーを見に行った際、偶然にも対面しており、『自衛隊時代の後輩から君の噂は聞いとるよ』と言われ、黒江の武勇伝は、彼のもとにも鳴り響いていたのがわかる。彼に正体を明かす機会はとうとう来なかったが、防衛大学校時代や初任地でのやらかしから、当時は『ロック岩崎の再来』と言われていた。正体を公表してからは『現在に蘇った魔のクロエ』と、自分の本来の渾名で呼ばれている。2005年頃に正体を明かしたら、明かしたで空自の各部隊に引っ張りだこにされ、エリートコースを左派政権時代以外は辿った。ブルーインパルスにも2009年から11年に属しており、自衛官としても超エリートである。黒江が不遇をかこったのは11年からの一時期だが、学園都市の戦争にも時々混ざっていたため、自衛官としても学園都市に要注意人物扱いされている。そんな黒江だが、元上官の江藤に一つだけ忠告していた。

『隊長、政治屋の前で政治家なんて水商売だ、なんて言わないでくださいよ』

黒江が心配したのは事変の際の出来事から、復帰しても、江藤は『政治家を水商売と同レベルと見なし、嫌っている』事だった。軍国主義者と取られかねないからだ。江藤は皇室の国家緊急権の権利を内閣が取得することにも激しく抵抗し、赤松が伏見宮殿下の許可をもらい、『絢翼天舞翔』という技を叩き込んで制裁を加えている。江藤はこういうところが頑固であるため、赤松も荒療治をするしかなく、『ボウズのほうがよほど物分りいいぞ!!』と怒鳴ってみせ、『国の意思を無視する軍なんざ野盗と一緒だ、バカめが!!』と言い放ち、孔雀座代々の継承奥義『絢翼天舞翔』(鳳翼天翔の孔雀座版)を放ち、江藤の店を半壊させるという形で江藤に罰を与えている。そのエピソードを聞いた黒江は、江藤に同情しつつも、自業自得的なところがあるため、微妙な気持ちであった。赤松の絢翼天舞翔は、黒江が黄金聖衣を使っていてもノックアウトされると恐れる技である。テイクオフする一瞬、それを考え、ちょっと顔を曇らせる黒江だった。



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