外伝その129『覚醒めの時』


――連邦軍は『ミンメイアタック』を作戦に組み込んでの攻勢に出た。連邦軍はおおよそ兵器の質で勝っており、一部のエース以外は腕の差を兵器の質で埋められる場面もみられた。特に、連邦軍はティターンズ残党掃討のため、比較的新しいMSを掻き集めており、最旧式のジム系でも、ジェガンR型と、大盤振る舞いであった――



燃料補給を終えた黒江達は、帰還途中でドダイUに乗ったジェガン部隊とすれ違った。ジェガンは数が多い事から、ミドルサイズMSが現れても未だに現役機である。特にジェガンR型の最終ロット機は、現場の要望でジェネレーターの更なる交換、24世紀相当の技術の導入で小型機への弱点が消えており、本国仕様のジェガンはこの仕様にパワーアップしている。従って、中身は『ジェガンの革を被ったνガンダム』に等しい。この仕様より圧倒的に強いジェガンが『ジェスタ』なので、連邦軍のジェガン愛は相当と、MS系雑誌では評されている。

「ジェガンか。あれも古いが、数が多いから、とうとう近代化改修計画が再始動したもんなぁ。派生も多いし、最終型のR型の改修が再開されて、100年後の技術ぶっこんで魔改造するんだものなぁ。あれじゃマン・マシーンだぜ」

黒江は、モビルスーツがいずれ『マンマシーン』と呼ばれるようになる進化の道を辿るのを知っている。ジェガンの改修にその技術を使い、実質的にマンマシーン化しているため、自力飛行が可能だが、パイロットの疲労や効率の問題で、サブフライトシステムの運用は続けられている。

「今回はハーロックが技術を提供してくれたから、ジェガンでさえ空飛ぶからな。敵も泡を食うだろうな」

「確かに、あんなものが空を飛ぶとは思ってないでしょうね」

「モビルスーツは地上だと、陸戦兵器だったしな。アムロさんが化物と言われたのは、空中戦をやらかしたからだが、今回は全部の機体に適応したからな。ビームシールドは大型機だと目立つから取りやめになったけど」

ビームシールドはメリットも多いが、エンジンに負担がかかるという難点があるのと、大型機では隠密行動に支障があるためや、センサー系の影響も鑑み、搭載改修は取りやめになった。その代わりに、ルナツーから回収されたデータとデスティニーやインパルスから得られたデータで『トランスフェイズ装甲』の実用化が行われた。シールドにコンデンサを搭載し、物理攻撃ではスーパーロボットでもなければ破壊できないほどになり、生存率も上がった。そのため、今回の作戦において、MS隊の生存率はそれまでより格段に向上し、一年戦争の実体弾主体の頃よりもマシになった。

「敵のは新しくてもネオ・ジオンの第一次の頃の機体だ。こっちは波動エンジンも小型化されてるくらいに技術が上がってる。普通に行けば勝てるが、奴らには地球至上主義者共のシンパがいるからな。マークXは向こうに渡っているし…」

「マークX?」

「ガンダムmk-X。うちらのガンダムと対等に戦えるガンダムだよ。年式はZと同時期で、比較的シンプルな構造だよ」

「ガンダム、多すぎません?どれがどれだか」

「ガンダムは連邦のシンボルだからな。当然、奴らも持っている。ティターンズがZに対抗するために作っていた機体で、開発は間に合わなかったが、スペック上はSガンダムにも対抗できる水準の化物だ」

「間に合わなかった?」

「ティターンズが崩壊した段階で機体がロールアウトするかしないかだったって聞いてる。一機はネオ・ジオンに手土産になって、ドーベンウルフの母体になって、一機は反乱の際に失われて、残ってた最後の一機が横流しされたんだ」

「なるほど」

「帰ったら、タブレットから連邦軍のデータベースにアクセスして確認しておけ。前史じゃ、グレートマジンガーと対等に渡り合って、グレートマジンガーの陳腐化を明らかにした実績もあるからな」

「あのグレートマジンガーと互角?」

「グレートがGブースターU使って逆転したが、かなり追い込まれてた。今回は先手を売ってカイザーにしたんだが、ZEROが来ちまったから、持ち込むのをエンペラーに切り替えざるを得なかった」

「あの化物はそんなに?」

「純粋なマジンガーじゃ勝てねぇ化物さ。ニューZαも溶かしちまうからな」

黒江は、作戦の裏を話した。ZEROが来なければ、グレートマジンカイザーを投入させる計画であったと。ZEROは既に『何者かにマジンカイザーがボロボロにされた世界線』を観測しており、その世界線からの因果を現出させる事で、マジンカイザーやGカイザーを倒せる。それが分かったZ神は鉄也用にエンペラーを急がせたと。ZEROと反転した性質と同位の存在であるゴッドでは最悪、相打ちが懸念されたために、エンペラーが早期に完成され、投入の運びとなったと話す。

「同位にして、反転した存在とは?」

「傲慢不遜で、完全悪に染まったのがZEROなら、ゴッドは完成された善性にして、将来にZマジンガーに進化する運命の個体。だが、今の段階じゃ赤子だ。ゴッドは開放と融合を司るが、ZEROは拒絶と分解を司る。正反対だろ?今の段階ではZEROが上回る可能性が高かったんだよ」

「デウス・エクス・マキナみたいな話ですね」

「スーパーロボットはデウス・エクス・マキナの現代版の『機神』だ。人々が贅を尽くして作った現在の守護神みたいな存在なんだ。エンペラーはゲッターの血も持つ『因果を断ち切る剣にして、ゴッドの守護者』なんだ」

「単なる兵器ではないのですね?」

「真ドラゴンを考えてみろ。無機物が有機生命体みたいに進化やらかしたんだぜ?」

「話には聞きましたが、信じがたい事ですよ、そんな事」

「私も前史でそう思ったさ。だが……ドラゴンは進化した。真ゲッターすらもゴミに見えるような圧倒的な存在としてな」

「なるほど。貴方方『G』は何故、もう一度……」

「私は二度目だ。一回目は失敗しちまった事が多すぎてな…」

「二度!?」

「だから、数百年分以上の経験や別れの記憶があるんだ。今回は、どうしてもやり直したい事があったんだ、どうしても、な。」


黒江達はGウィッチの元祖である。その中でも、精神的な理由で二度目のやり直しを選んだのが黒江である。そのため、圭子は二度目に付き合う意思は当初はなく、竜馬の差し金で付き合う事になった。竜馬の忠告なので、粗野な面が出来ていた圭子も従い、今回のやり直しと相成った。レヴィとしての粗野さは今回においては地である。

「一度目だって、ドラえもんの伝でタイムマシン入手して十回以上細かい修正入れても、どうにもならない事が有ったんでな。坂本の事とか……」

黒江は坂本の喧嘩別れ(前史)に錯乱しかける(そのため、坂本は激昂した菅野に殴打される羽目になったが)ほどのショックを受け、退役後に何回も修正を入れた経験がある。今回の覚醒後、坂本は『すまん!!若気の至りだった!!』と土下座している。坂本は改めて詫びてからは黒江に献身的になり、江藤の前で黒江を立てるなどの行為を事変中に行っている。それが坂本なりの、黒江が自分を探した20年近くの歳月への償いだった。

「坂本は、前史で20年近く音信不通だった事があってな。それがよりによって晩年期。あいつの子供が馬鹿げた幼稚な思想にかぶれたまま大人になったのが原因だった。私はあいつが死んでから、20回は修正したが、結果は変えられなかった。だから、あいつを転生に巻き込んだ。あいつとは……20年近くの時間を過ごせなかった悔いがあるからな」

黒江は二度目の転生に、坂本を巻きこんだと明言した。そして、実際に事変中には坂本は覚醒し、前史におけるリバウ当時に匹敵するスコアを挙げている。当然ながら、性格が青年期以降の性格に変貌したので、北郷は大いに戸惑った。強さが桁違いになったのもそうだが、魔眼を使いこなし、秘剣『雲耀』を使いこなす姿に、それまでとの共通点が見いだせなかったからだ。

「それで、当時の報告書に坂本少佐の変貌の事が書かれていたのですね」

「私達もそうだけど、事変の時からやり直したから、今の性格と過去の性格が一致しねぇことなんて当たり前なんだ。コーラ飲んでたら、覚醒してない武子に奇異の目で見られた事もあったし」

「査問が終わってから、事変中の報告書を取り寄せて頂きましたが、貴方方のやらかしが記されてましたよ。ミーナの要請でヒアリングも行ったのですが、相当のものだったのですね」

「それでも抑えられてるほうだ。実際の事はまっつぁんに教えてもらえ」

黒江達は今回、報告書に書けないほどに事変の歴史を変えた。特に黒江、智子、赤松は聖闘士としての力をフル活用したため、扶桑軍の特秘事項に位置づけられた出来事も多い。また、今回のやり直しにおいては、黒江は武子を名前呼びしたため、『熱はないわよね』とおでこに手を当てられた事がある。黒江は前史における武子の死後は名前呼びになっており、それを通しただけだが、未覚醒(現在は覚醒済み)当時の武子にとっては驚くべき出来事だったのだ。また、その際に『あるわきゃねーだろ、アホ』と返したので、これまた驚かれ、半泣きされた事もあり、事変中は大変だったのだ。

「事変中は大変だった。口調が今の調子だから、あっちこっちから突っ込まれたし、智子とつるんでたら『珍しい』とか言われるし、口調はラジオ聞いてて感染ったことにして誤魔化したんだけど、強さは隠さなかったしな」

「やりすぎです。ストライカー無しで陸戦ウィッチより圧倒的に強いんじゃ、陸戦ウィッチの存在意義が問われてしまいます」

「どの道、ティターンズのMBT連中に圧倒されて、存在意義が薄れちまうのは分かってたし、チハじゃ対抗できねぇのは目に見えてたしな。私らが全力だして撃退した戦線も多いぜ」

「それじゃ、戦間期に迫害されるのは当然ですよ」

「まっつぁんと違って、私らは10代だったからな。体を守るために記憶が封印されたんだよ。あとは報告書の通りだ」

黒江もそうだが、戦間期にレイブンズは迫害された。大戦勃発で送られたが、封印状態なため、時間軸本来のポテンシャルしか出ず、伝説も過去のものとされていた。後は未来世界行きで記憶が戻り、Gウィッチの完全体となり、不老不死となったというわけだ。Gウィッチの完全体になるには、条件が揃わないといけない。黒江らの場合は、三人が同じ場所に集うのが完全覚醒の条件だったのだ。(例えば、他の例では、ハインリーケの場合はエクスカリバーの黄金の光、坂本は『現在の黒江』を見ることになる)

「ハインリーケ少佐はアルトリア王に覚醒したとなると、どうなるのですか?」

「前世は前世だが、日本に行ったらあいつ、人気者だぞ?歴史上の偉人を題材にしたメディアミックスの作品があってな。それのヒロインと瓜二つなんだよ、あの姿」

「……通りで、自衛隊の連中に人気なのですね」

「これでますます人気出るぞ。ある意味、本物なんだし」

「確かに」

「ジャンヌ・ダルクもなんかこの流れだといそうでこえーな。信心深いウィッチの誰かを依代にして覚醒とかありそうでよ」

「ハインリーケ少佐を見ていると、ありそうですね」

「もっともあいつ自身は、不義の子供だったモードレッドがペリーヌじゃないかって疑ってるけどな」

「それじゃややこしくありません?」

「うむ。頼まれて、ペリーヌの兆候は監視しているんだが、今のところは見られない。最も、モードレッドがペリーヌだったら、あいつ泣くかもな。モードレッドは円卓の騎士の裏切り者だし。あいつ、救国の英雄とかで、ジャンヌ・ダルクとかに祭り上げられてるし」

ハインリーケ(現時点ではアルトリアと呼ぶべきか)に頼まれ、モードレッドの転生体の可能性が高いと見なされているペリーヌ。もっとも、肉体的親和性があれば、誰にでも可能性はある。例えば。アメリー・プランシャールにジャンヌ・ダルクが宿る可能性もあり得るし、地球連邦軍のとある軍人が憑依されて復活する可能性もある。黒江はそれを考えている。

「ジャンヌ・ダルクは未来世界だと、呪詛の言葉を残して死んでいったらしき民間伝承が残っているから、未来世界のは間違いなく、死後に闇落ちしてるが、ここのジャンヌ・ダルクはまさしく聖女だ。その点は安心だな」

「つまり、色々な可能性が?」

「そうだ。ジャンヌ・ダルクは最期が最期だ。神を信じた結果があれじゃ、闇落ちしたって不思議じゃねぇ。フランスがジャンヌを否定しておきながら、後になって手のひら返ししてるからな。アルトリアの出現を傍受してたド・ゴールには釘刺しておいたよ」

黒江はド・ゴールに『ジャンヌ・ダルクが来ても、政治的に利用するなよ?最期をよーく考えてみやがれ』と釘を指した事を告げた。ド・ゴールはペリーヌを政治的に利用せんとして失敗しており、ジャンヌ・ダルクが復活した場合、乗り気で行うことは目に見えているからだ。

「あの将軍、将来、ウチとアルジェリア戦争かますの分かってるから、将軍の娘のこと以外には協力しねぇことにしてるんだ。それに内部の王党派を統制できなかったって失点もあるしな」

「あの将軍は何を考えているのでしょうか?」

「自国の国威発揚だろ?ああいうのを愛国キ◯ガイっつーんだよ」

黒江はド・ゴールの政治的姿勢には共感は抱くものの、やり方が姑息であったためか、嫌っている節を見せた。機体を基地に着陸させ、休憩に入り、自室で休んでると、この時には同僚の関係であったカミーユ・ビダンから連絡が入った。

「カミーユさん?どうしたんすか?」

「シンから連絡が入ったが、君に報告することがある。ルナマリアという、あいつの彼女がいるだろう?」

「ええ。確かこの時間軸だと、フォン・ブラウン在住のはずですよね」

「その子がジャンヌ・ダルクの闇落ちバージョンで覚醒した」

「なんだって――!オルタ状態で!?」

「シンが会いに行ったら覚醒してたらしい。で、恨みが故郷のプラントに行ってるらしく、その場の勢いで連邦軍に志願してたらしい」

「なんすか、それ」

「俺に聞かないでくれよ。とにかく、シンが会いに行ったら、現地の連邦軍に志願届け出してて、変身してたから最初は見分けられなかったとか」

カミーユも電話口でため息をついている。シンから『助けてください!!』と言われても、『俺にも対処のしようがない』としか返せなかったと告げる。

「で、今は?」

「元が元だから、無難に兵士してるようだよ。元々、ザフトの赤服だった記憶はあるから、その辺はなんとかしたようだ。憑依だから、彼女の知識を使えるようだしな、ジャンヌ・ダルク・オルタは」

「わーお……。で、シンは?」

「あいつらとは別の世界から来たステラをファが面倒見ている関係で、まだ北米だ。それが分かった時、ちょうど俺はロンド・ベルへの復帰の辞令受けて、Zのオーバーホールと近代化でフォン・ブラウンにいたんだが…」

「だが?」

「工場に控えてた都合で、様子の確認に行けなくてね。シンから伝え聞いた通りにしか伝えられないんだ」

「分かりました、ありがとうございます」

「そろそろ俺も任務でアムロさんと組むから、切るよ」

「貴方達に立ち向かえるのは、赤い人だけですよ」

カミーユから『ルナマリアがジャンヌ・オルタに覚醒した』と告げられた黒江。考えてみると、ルナマリアの中にあったプラントへの疑念がその原因であろうと推測した。ルナツー帰還の副産物である次元間通信の確立後も、シン達は『代わりがいる』と言わんばかりの扱いだった。『コーディネートで代わりはいくらでも作り出せる』と言わんばかりの姿勢は、プラントの日和った態度の表れであった。人的資源がジオン以下であるのに、慢心しているその態度に、星間連邦政府の関係者も『プラントはアホか?』と言わんばかりの態度である。逆に、機材の返還は要求してきたが、連邦軍は技術的にはあまり見るべきものがないので、機材については、『こちらの戦争が終わり次第、返還する』という返事でお茶を濁している。その辺りの疑念をジャンヌ・オルタの依代として利用されたのだろうと見当をつける。

「肉体的相似もそうだろうけど、あいつはコーディネーターだったはず。と、なると、コーディネートした遺伝子にジャンヌ・ダルクと同質の遺伝子でもあったのか?うーむ…」

悩んでいてもしょうがないので、待機も兼ねているので、ギア姿のまま(ひいては調の容姿のまま)で寝た。一時間ほど経過した後、レヴィに起こされた。

「おい、起きやがれ」

「なんだよ、歌ってたんじゃねーのかよ、レヴィ?」

「出番が来たんだよ、出番が」

「出番??」

「今回は私が護衛を担当します、先輩」

「なんだ、シスコン姉のほーか」

雁渕姉には開口一番にこれである。孝美は本質を突かれ、がっくりしている。

「うぅ……。前史のことは無しにしてくださいよ、先輩ぃ……反省してますから」

孝美はシスコンをこじらせたせいで、前史では一騒動を起こした。また、B世界では、妹に誤解されてパニックに陥るなど、シスコンのためにろくな目にあわない。

「愛ゆえにだから今更だ、気にすんな、シスコン!」

「だぁからぁ〜!!」

孝美はGへの覚醒後はシスコンであることを公言する事で、妹との軋轢になり得る要素を潰しつつ、今回は妹に寛容であり続ける事を選択した。前史では結局、一騒動の後に『しこり』となってしまったため、いきなり厳しい態度を取ったら、黒江と坂本がそうであるように、悲劇的な最後になりかねないと考えたためだろう。

「別に度を越さなきゃ良いじゃねーか、シスコン、羨ましいぜ?私ゃ男兄弟の一番下だしな。それに私には姉妹はいないしな」

「あたしもだが、兄貴達はいても、妹なんてのはいない。いるのは智子だけだし、武子は戦間期に死んでるから、下の面倒みてるし」

レイブンズは意外な事に、姉妹を現在進行系で持つのは智子だけで、黒江とレヴィ(圭子)は一番下だが、男兄弟だけしかいない。武子は姉がいたが、戦間期に肺炎で没し、実質的に一番上となっている。そのため、黒江とレヴィ(圭子)は意外な事に、妹属性を持つのだ。

「先輩方、妙なところを自慢しないでくださいよ」

「事実だぜ、事実。ペリーヌの様子がおかしいとアメリー・プランシャールから連絡が入ったから、行くぞ」

「来たのか?」

「おそらくな」

「何がおそらくなんですか?」

「行きながら話す。お前、運転頼む」

「え〜〜!?」

自衛隊から『高機動車』(要は日本版ハンディー)借用して、現地に向かう。黒江はギア姿、レヴィは荒すぎて壊す可能性大なので、必然的に孝美が運転をやらされた。アメリーと連絡を取ってみると、『ペリーヌさんが突然赤い光に包まれて、光が晴れたら全身が甲冑姿に……』と半泣きであり、間違いなかった。

「間違いねぇ。あいつ、モードレッドに覚醒めやがった!さあ、これで大変だぞ〜。色んな意味で」

「モードレッドって、確か、円卓の騎士の裏切り者ですよね!?」

「ああ、そうだ。寝る前、私の同僚から、私の知り合いが『ジャンヌ・ダルクに憑依された』って連絡が入ったから、来るとは思ったが、いきなりだな、オイ」

「ペリーヌ中尉の声質と相容れないような?」

「その辺はわからねー。魂の問題だしな。とにかく行ってみるしかねぇ」

レヴィもこれである。現地に行ってみると、へたりこんだアメリー、物々しい甲冑に身をまとった騎士が戦っている。ペリーヌだった誰かだ。

『おい、そこの円卓の騎士!面貸せ、面!』

ド直球なところはレヴィらしい。その騎士も気づいたようで、甲冑のフェイスパーツを解除し、怒鳴り返した。

『なんだってぇの!んな暇あるか!!テメェら手伝え!!後で説明してやる!』

『今の一言、テメーの親に筒抜けだぞ、ダホ!』

と、すごいやりとりである。

『んだってんだ、オイ。なに始めンつもりだ?』

『こういうこった。おい、アルトリア。テメー、子供の教育どうしてたんだ、あぁん?』

『……す、すみません。我が子ながら……私の教育が、い、至らぬばかりに』

『ち、父上ぇ!?』

インカムで状況を掴んでいたアルトリアは、インカム越しに話に加わった。そのため、ペリーヌが覚醒で変身した『モードレッド』は『父』の声に驚いた。

『って、お前。教育も何も、してねぇじゃねぇか。嘘ついてんじゃねーぞ?』

『す、すみません…』

『これはどーいうこった?ネーちゃんよぉ』

『聞いての通り、お前の親とリアルタイム通信してんだよ。科学の発達バンザイだ…どうなんだ?アルトリア』

『……き、騎士の教育はしました…』

『アホ――ッ!!んなんだから、ガキがやさぐれなんだってーぇの!』

レヴィは通信で怒鳴る。やさぐれ度合いは自分と似ているが、モードレッドの場合は『アルトリアが子と認めなかった』事に事の発端があるため、本質では異なる。そのため、モードレッドはどこか子供である。

『お腹を痛めて産んだわけでも無いので、子供とは意識してなかったんです、申し訳ないが……』

『お前なぁ。それが一国の王だった者の台詞かよ。後で教育してやる』

『うぅ……』

『は、腹痛めたって。父上が女みたいに……聞こえんだけど。オレの聞き間違いか?』

『女だが?』

『エェェェーーッ!?1000年近く経って初めて知った……それ。今更過ぎて、アリかよぉ!!』

モードレッドは、ペリーヌの記憶から、今、自分のいる時代が1945年であるのは分かっているようで、ショックの受け方が妙に具体的であった。

『おい。正確には2000年近くだぞ、2000年』

『1000年単位の時間が経ってるんだから、1000年も2000年も、んな変わんね―だろ!……ち、父上……』

『父上ではないと言っているでしょう!?』

『どわぁ!?怒鳴んなよ!』

『済まぬ、わが子よ。だが、父上と呼ばれる訳にはいかぬ!何故なら、我が身は女であるから、父ではなく母と呼べ!!』

『ハァ!?すげぇ今更過ぎて……。チックショウ……涙が止まんね―……』

モードレッドは直感的に、親が自分を『子』と認めたのを悟ったか、感涙にむせいでいた。そのため、その証であった甲冑は消えていた。元々、反逆のために使用したものなので、ある意味では浄化されたと言うべきか。そのため、代わりに現れた騎士服は母親に似たものになっていた。

『こ、こりゃ……!?』

『お前の中にあった歪みが浄化されたための変化だな。円卓の騎士に戻ったんだよ、えぇ、モードレッドさんよぉ』

『いいのか、オレは……ブリタニアにとどめを刺した格好になったし、母親の望んだ子でもなかったし、手前勝手な理由で……』

『クロステルマン中尉の記憶で知ったな?お主』

『……』

アルトリアからの指摘に気まずそうに頷く。ペリーヌの記憶で知ったらしい。自分が後世でなんと言われているのか。円卓の騎士の裏切り者とそしりを受けている立場であると。ペリーヌの影響を受けたため、良心が咎めているのが分かる。ペリーヌは良心の塊のような人物だからだろう。これは融合覚醒の際に、ペリーヌの善性が強く影響したせいであり、モードレッドが反逆で失っていた『良心』を復活させるほどのものだった。

『終わった一生を悔いても意味は無い、今のペリーヌとしての生を思う存分生きよ!必要なら出来る限り助けてもやる、我が娘よ』

『女扱いは……』

『……って、女であろう?魂も体も?」

『ウワァァン!(大泣き)』

『母の胸で泣いても良いぞ?』

『チックショウ、後でアッパー食らわせてやる……グスン』

『さて、母娘の感動話はそこまでだ。円卓の騎士さんよぉ、現代の戦ってもんを教えてやるぜ』

レヴィは戦闘モードに入る。モードレッドすらも視認が出来ないほどの早さでガンフーをおっ始める。ベレッタの発砲音と、薬莢が落ちる音が響きわたる。レヴィの真骨頂は、銃撃における異常なまでのガンクレイジーぶりで、モードレッドですらも戦慄するほどの目をしていた。

「あー!テメー!!オレを差し置いて、目立ってんじゃねーぞぉ!」

モードレッドも動くが、レヴィはゲッター線に当てられているため、彼女を凌ぐ動きと闘争本能を見せ、敵戦闘員の頭をぶちぬきまくる。そして、彼女を驚かせたのが。

『さて、私も肩慣らしといくか。勝利を約定せし聖剣!!エクスカリバー!!』

エクスカリバーの斬撃を飛ばす黒江。当然ながら、アルトリアの子であるモードレッドは驚愕する。

「なにィ!?なんでテメーが母上の剣を……、いや、剣の力を持ってんだよ!?」

「オリンポス十二神公認だもーん」

正確に言えば、黒江はオリンポス十二神から授かった聖剣の霊格を腕に宿した状態にあり、エクスカリバーとエアの霊格を有する存在である。そのため、さしものモードレッドも驚愕するだけだった。

「なんだよ、なんだよ!!円卓の騎士より強い奴がこの世にいたってのかよぉ」

「そりゃ、オリンポス十二神の守護戦士だしなぁ。神様に仕えてんだから、とーぜんだろ」

モードレッドは円卓の騎士なのと、ペリーヌが元々、それなりに強かったので、生前と遜色ない強さを持って転生したが、それより上の次元が上の戦士がいることに半泣きで、ぐずっている。

「お前も上がって来るか?人を超えたところまで?」

煽る黒江。同時にライトニングプラズマを放った。円卓の騎士である自分さえも見れぬ攻撃と、母の誇りであった剣の力を有する者。モードレッドは無性にイライラする。

「テメェ、後でオレとやれ!!無性にイライラしやがる!」

「お子ちゃまだな、モードレッド?」

「何をぉ!?」

「転生間もないお前に負けるほど耄碌してねーし、神々との戦いを生き残ってきたんでね。それに、エクスカリバーは勝利の象徴として、それだけリスペクトされた結果、聖闘士の聖剣闘技に名付けられてるんだ、誇れ、モードレッド」

「聖闘士……」

「アテナの守護戦士の名だ。その証を見せよう!星々の輝きと共に砕けろ!!ギャラクシアンエクスプロージョン!!」

黒江は自分の力を見せるため、ギャラクシアンエクスプロージョンを放った。その破壊力はアンドロメダ銀河を木っ端微塵に吹き飛ばすほどのエネルギー。

「今の力に慢心している様なら生き残れんからな?似た経験がある身として言っとく」

「おいおい、ギャラクシアンエクスプロージョンを全力でやるなって。次元が歪んで、敵の一団が飲み込まれたぜ」

「あ、やっぱり」

「すっげぇ……なんだ今の!?」

「ギャラクシアンエクスプロージョン。銀河破砕とも言い、文字通りに星々を砕く大技だ。今ので次元がちっと歪んだが、治る」

「じ、次元!?」

「まあ、ちっと本気出しすぎた。抑えて……ライトニングフレイム!!」

アーク放電のライトニングプラズマを放つ。如何にショッカーの改造人間でも、塵になる威力の高速の雷と炎。神の如き所業。何が起こったのか、英雄である彼女ですら何が何だか分からない。超光速のパンチの乱打であると説明されても、『パンチでこんな凄い現象起こせるかよぉ!』と涙目だ。

「お前、宝具で超常現象起こしとるくせにぃ」

「こ、こんな事起こせねーし!!」

「修行次第でいけるぞ?」

「なぁ!?」

「二度目の人生を始めたんなら、修行してみろ?お前程度の剣技なら、私の敵じゃねーし」

「くっそぉぉぉ!!円卓の騎士のオレが何たるザマだぁ!!」

と、モードレッドは転生していきなりのカルチャーショックに叫ばずにはいられない。円卓の騎士は確かに強いが、人としての次元の話であるので、黄金聖闘士、それも歴代でもかなり上位に食い込んだ後の、転生後の黒江からすれば、円卓の騎士の末席だったモードレッドなど、青二才だ。ペリーヌの場合はモードレッドとしての人格とペリーヌ・クロステルマンとしての人格が共存したことが後に判明。互いの人格は副人格を認識しており、主導権を取っている人格の姿を取るらしく、この時点では正しく、モードレッドである。その辺りは、互いに融合した『母親』とは違うタイプと言える。そのため、副人格となったペリーヌは、モードレッドという裏切りの騎士が自分の前世である事に憤慨していたりする。

――どうして、どうして私の前世が円卓の騎士の裏切り者なんですのぉ〜〜!――

副人格となったペリーヌはモードレッドが自分の前世である事に半泣きであった。『現代のジャンヌ・ダルク』とも言われた自分の前世が円卓の騎士の裏切り者と知られるモードレッドだったからだ。体の主導権を握られている以上、文句も言えない。元々、軍人である以上、ある一定の水準までは鍛えてはいたが、1944年以前の常識の範囲内。円卓の騎士の求める水準の動きに応えられるだけでも奇跡である。だが、持久力ではやはり、甲冑を着て戦っていたモードレッドの求める水準には及ばず、肉体が疲労で膝をつく。

「クソッタレ、もうバテてやがるぜ……この体」

「元々の持ち主の体力の限界に達したようだな。鍛えるしかないな」

「クソッ!!体が悲鳴上げてやがる!この時代の連中はこーなのか?」

「甲冑着てドンパチする時代でもないし、今は私達みたいな例でもないと、体力は普通の人よりマシ程度だし、お前は猪突猛進だから、元々の持ち主の体に負担かけすぎだ。魔力を持つ体なんだし、体のアシストに使えよな、モーさん?」

「モーさんはやめろ」

「いいじゃん。敬意払ってやってんだぜ?」

「ぐぬぬぬ……」

黒江達はGウィッチ+聖闘士属性ありの者が二名なので、超常現象もお手の物。孝美もアクイラ(鷲座)の聖闘士となっていた記憶が戻っており、技を連発しまくる。

『ディバイントルネェェド!!』

キックから旋風を起こす。孝美は魔鈴とは違い、足技主体の鷲座の聖闘士となり、イーグルとは独立した『アクイラ』の聖衣を与えられていた。その記憶が蘇ったので、何気に彼女も聖闘士しての位は低いが、セブンセンシズに到達している。

「お、そっか、お前。アクイラだったっけ」

「先輩には及びませんが、セブンセンシズには覚醒めてますよ」

孝美はGに目覚めてからは、前史と違い、姉バカ率が高いが、聖衣のデザイン的意味で、10代半ばの年齢に戻っている。これはデザインが新規製造に近いため、『プリ◯ュア』に近い現在的デザインだったからだ。

「それはいいが、聖衣着てね〜のな」

「あ、あれはちょっと……ひかりに見られたくないですよぉ、17歳であれは…」

「私を見ろ、私を」

「実用性兼ねてるじゃないですか、先輩のそれは」

黒江は趣味と実用性を兼ねて、シュルシャガナを纏っている。聖衣ではないが、それに近いため、リミッターも兼ねている。黒江が全力で戦闘すると、次元の境界線すら壊すため、シンフォギアでリミッターをかけている事が多い。そのため、真の力は更なる次元である。

「リミッターだよ。全力でやったら世界が壊れるからな。これでも力抑えてるんだぜ?何%かに」

「どの位です?」

「30%以上だ。おおよそ70%以下に抑えてるが、時々、ギアが私の力を抑えきれずに、ギアのリミッターが外れるからな」

「先輩、強すぎです」

「しゃーねーだろ?黄金で、従神だぜ?人用に造られてるのが壊れないだけでも頑丈だぜ」

「なんだよ、お前!神様って奴かよ!?」

「存在の位、お前より上だぜ、モーさん」

「だからそれやめろよ!」

「お前位、私のデコピンで地球一周させられるぜ?それに、お前の剣もエアで斬れるしな」

「エアだとぉ!?」

「天地乖離する開闢の星、って言えば分かるか?お前の親のエクスカリバーを上回る最強レベルの神剣だ」

「お前……!?どうしてそんなたいそれた剣の力を!?」

「霊格を宿したと言ったろう?個人差があるんだよ、個人差が」

モードレッドも、黒江がエアの力を有する事に驚いた。エアは天地乖離す開闢の星とも言われ、本気になれば、世界すら斬り裂く。黒江の左腕の手刀はその力を有しており、その気になれば神も葬れる事を示唆する。

「聖闘士は神の守護であり、その本質は神殺しだからな」

「神殺しだと……!?」

「英雄殺しはいつの時代でもいるが、神殺しはいないだろう?」

「神話の頃に見る程度だ……。くっそぉ、これじゃ、まるで小物じゃねーか!」

「仕方がない。お前は英雄殺しで名が残ったが、私らは神殺しをしている。格が違って当たり前だ。中には『全ては遠い理想郷』の防御も貫ける化物いるし」

「馬鹿な!?」

「理に干渉する力があれば、簡単な事だ。この世のものなら、それを凌駕する理を用意すれば済むしな」

「あれは母上が誇る最強の盾だぞ!?お前の言うエアでも……!?」

「世の中にはな、因果律すら変えられる機械の神がいるんだよ。デウス・エクス・マキナを地で行く恐ろしい連中が」

因果律。それすら児戯のように弄ぶ者達。ゲッターエンペラー、Zマジンガー……。それらの域の力であれば、たとえ『全ては遠い理想郷』の防御であろうとも、理すら書き換え、強引に突破できる事になる。マジンガーZEROは不完全とは言え、因果律を操作することであの超合金ニューZαすらも破壊せしめる力を持った。この世最強の守りなら、それ以外の世の理をぶつける。それが神々の力なのだと。

「嘘だろ……」

「それが神々の力だ」

「ち……いや、母上!?」

「このような形でまた会おうとは……」

「なんだ、来たのか」

「我が子の様子が気になりまして」

「それでは、母上……オレのことを認め……!」

「過去は過去、今は今……ということだ」

アルトリアはモードレッドとの確執を転生した事で吹っ切ったらしい。ハインリーケと融合することも大きかったらしい。一同がほっこりしたところに、上空から不意打ちが行われた。

「なにィ!?伏せろ!!」

一筋の光が地面に降り注ぎ、黒江が慌てて指示を出し、地面に伏せる。大爆発が起こり、爆発の光と煙が晴れた時、上空にいたのは一機のMSだった。

「馬鹿な……なぜ、あれがここに……シナンジュ……!」

黒江も畏怖するその赤い機体。ネオ・ジオンの増援だとでも言うのか。『赤い彗星』シャア・アズナブルの駆る機体。νガンダムに似たフォルムであり、元は連邦系の機体を改造した事から、『ガーベラ・テトラ』と同じ経緯を持つ機体。

『なるほど……。ロンド・ベルの様子を確認しに訪れたが……、面白いものを見られた』

「こんなところにわざわざアンタが敵情視察か?シャア・アズナブル。ネオ・ジオンの総帥さん」

『ネオ・ジオンも人手不足、ということだ。君らの会話は傍受させてもらったよ』

「しかし、どうやってここに?ZEROが来た時に鏡面世界に入れ替えたはずだが」

『予め、私を含めた部隊が侵入しておいたのだよ』

「あんたがティターンズに肩入れか?クワトロ・バジーナん時にぶっ潰したのアンタだろ?」

シャアはクワトロ・バジーナとして、ティターンズを潰す急先鋒だった。そこを攻めてみる黒江。すると、シャアはこう返す。

『私は肩入れしているつもりは無いよ。ギブ&テイクさ。 今回も視察だけで手は出さんよ。このシナンジュの慣らし運転も兼ねているのでね』

シャアの声は若き日同様に颯爽としている。英雄と謳われし一人とされるのがわかる。

「なら、どうしてシャア・アズナブルとして舞い戻ったんだ!?クワトロ・バジーナに戻れたはずだろ、アムロさんに負けたんだぞ、アンタ!」

『私にはやらなければならぬ事があるのでね。私を頼る者達が居て、私が望む決着を得る機会がそこに有ったからでもある。それにクワトロは最初から戻る場所ではない。仮初めの場所だったのでね』

『カミーユさんの辿った道を知らないわけがないでしょうに!』

『以前、アムロ・レイに言ったが、カミーユは繊細すぎたのだ。彼の才能は愚民どもに利用され、潰された。大衆は自分達さえ良ければいいとばかりに、可能性ある才能を摘むのだ。それがよく分かった!』

『あの人を見出したのは、アンタ自身でしょうに!』

シャアはカミーユが精神崩壊したのを理由に、ネオ・ジオンの復活に走り出した。カミーユの才能が戦争で『散った』のを理由に、否定したはずのハマーン・カーンと同じような道を選んだ。その辺りはグリプス戦役を知っていれば、誰もがシャアに反感を持つだろう。

『コスモリバースシステムを持ったとて、地球に住む者達は自分達のことしか考えず、また地球を汚す!!だから抹殺すると宣言した!』

『民草を犠牲にして、国が成り立つものか!貴方の言うことは貴方のエゴにすぎません!』

アルトリアも思わず口を挟む。シャアの言うことは、当人のエゴにしか思えないからだった。

『この星もそうだが、人は際限ない欲望で星を汚してゆく。イナゴのように。ならば自分らの手で自分を裁き、贖罪せねばならぬのだよ!』

『人が人に罰を与えるなど、それは貴方の身勝手だ!』

『地球が持たん時が来ているのだ!』

シャアはあくまで、地球の人々を地球から追い出し、核の冬を再度起こすつもりだった。それは奇しくも、かつてのエレズムに似ていた。

『馬鹿な事を!今は色々な叡智が貴方の世界にはある!わざわざそんな真似をしなくても、人の革新を待てばいいはずだ!クワトロ・バジーナとしての貴方はハマーン・カーンにそう言ったはず!』

アルトリア(ハインリーケ)も、シャアがハマーン・カーンを否定しておきながら、同じことを選んだのを記録として見ており、一国の王であった者として、否定せねばならないと考えていた。

『叡知など、もはや関係はない、心の奥底に灯る魂の欲した結果なのだ!もう、後戻りはせん!』


――そう、私は納得できる決着のために、ネオジオンを利用しているだけなのさ……。アムロ、この世界にいるなら、私を感じてみせろ…――

シャアは心の中でそう独白した。ネオ・ジオンすら自分の満足行く決着、つまりアムロ・レイとの決着のための道具としてしか考えていないことを。シャアがネオ・ジオンの総帥を続けているのは、自分のアムロへの対抗心を満足させるためなのだ。

『ならば私は、貴方を否定してみせる!!かつて王であった者として。アルトリアとして、シャア・アズナブル!貴方を討つ!!』

アルトリアはエクスカリバーを構える。必殺の剣。これを防げるものはそういない。だが、その時、シャアの心の欲望にサイコフレームが感応し、光とともにシナンジュを包み込む。かつての英雄の力の象徴たるエクスカリバー。それに反応するかのように、サイコフレームも眩い光を放つ。それはジオンの大義を信じ、死んでいった者達の思念がシナンジュに集まって起こった奇跡だった。

『エクス!!』

「ま、待て!アルトリア!」

『カリバァアアアア!!』

黒江の制止も間に合わず、アルトリアはエクスカリバーを放った。如何な敵を斬り裂く勝利の剣。だが、シナンジュの周りに発生したサイコフィールドはエクスカリバーの斬撃エネルギーすら受け止めた。モードレッドも、黒江も、孝美も、レヴィも、なにより、アルトリア当人が驚愕し、その光景を疑った。そして、サイコフィールドはエクスカリバーのエネルギーを拡散させて弾いた。約束された勝利の剣をサイコフレームの奇跡が凌いだのだ。

『私は王者と相討つ器では無いのでね。役者不足な私は退場するとしよう』

と、余裕を見せてシナンジュは悠々と去ってゆく。衝撃の光景に、アルトリアはショックのあまり、青ざめた表情でエクスカリバーを持ったまま、へたり込んだ。

「は、母上!」

「エクスカリバーが……弾かれた……!?馬鹿な……約束された勝利の剣だぞ……!?」

モードレッドが思わず心配して駆け寄るほど、アルトリアが受けたショックは甚大で、切り札と言える聖剣を真っ向から防がれたという事実に打ちのめされ、うわ言をつぶやくほどだった。子であるモードレッドすら見たことがない姿だ。実際、サイコフィールドはコロニーレーザーでも防ぐほどのパワーが予測されていたので、エクスカリバーのエネルギーであっても弾くのは科学的根拠がある。

「ンだよ、あれは!?母上の約束された勝利の剣を弾くなんて、そんなの同格かそれ以上の聖剣でしかできねーはずだぞ!?」

「いや、『可能』だよ。その辺の解説は弓教授にしてもらう。ZEROやZちゃんの解析に呼ばれたみたいで、来てたらしいからな」

黒江は話を強引に進め、弓教授と回線を繋いだ。

『サイコフレームの光は人の意志の光、人が成しうることならば、そのすべてを跳ね返す事も不可能ではない。エクスカリバーも人が為し得たもの、なら、サイコフィールドは弾ける。シャア・アズナブルをジオンの意思の体現者と信ずる者たちの意思が介入し、エクスカリバーを防いだのだ』

「人の意思……だと…!?」

「時代を経ると、王権も絶対じゃなくなり、民達が王達を打倒したり、共和制だった国が合法的に独裁になったりする。人の意思は聖剣の因果律操作にも勝てる。それが人の歴史だ」

『だが、革命は何時もインテリが始める。夢みたいな目標を持ってやるから何時も過激なことしかやらないのも事実だ』

「アムロさん…!」

『一歩遅かったか…』

アムロのHI-νガンダムが一歩遅れて到着した。騎士のような佇まいの機体と、ガンダムタイプ特有のツインアイは独特の存在感を醸し出している。HI-νガンダムのサイコフレームが淡い光を発している。

『ヤツはインテリとも少し違うとは思うんだが、どうにも色々企んでて良く解らん。君たちのやり取りは聞かせてもらったよ。奴を止めるのは、この俺の役目だよ』

「教えてください、少佐。奴に勝てる手立てはあるのですか…?」

意気消沈したアルトリアが声を絞り出すように問う。エクスカリバーを防がれたのがよほどショックだったのか、その表情は暗い。

『アクシズでお互い死にきれなかったから、勝負を着けたいのかと思っているかも知れんな。だが、HI-νガンダムは伊達じゃない。奴が新型で来ようが倒すまでさ』

アムロは、アルトリアを気遣い、この一言を告げる。HI-νガンダムは伊達じゃない、と。アムロは自身が基礎設計を行ったνガンダム系列、その究極点である同機に信頼を寄せていた。そのため、自信に満ち溢れていた。サイコフレームの淡い優しい光もあり、アルトリア『親子』には何よりの慰めとなった。



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