外伝その133『連邦軍の残党狩り3』


――扶桑皇国軍と連合国は足を引っ張る要素に苦労させられていた。連邦を組んだ日本のマスメディア、Gウィッチらの出現によって、自分達の立場を奪われ、ウィッチの倫理観から逸脱した異端者であると早合点した通常ウィッチらの反発であった――


――前線司令部――

「美緒。報告が上がってきたけれど、やはり貴方達『G』と『F』への反発が凄いわよ」

「我々は『一度死んだ』人間だ。反発があるのは折り込み済みだ。しかし……改めてみると、我々は自分の力を過信していたのかが、よく分かるよ」

「美緒……」

「前史で私はあいつらに迷惑をかけたからな。それに、私はやらなくてはならない仕事があるからな。前線からは今回でおさらばだ」

「美緒。貴方、まさか」

「勉強は始めているんだ。私は前史で取った道をそのまま歩む。実は指揮統制官になるつもりでな、連邦軍大学校で講義も取っているんだ」

「いつから決めていたの?」

「転生前からだ。お前を欺くつもりはなかった。だが、私はあいつらにはなれなんだと言ったろう。そういう事だ。だから、自分なりに道を見つけたんだ」

「あなたはどう思うの。報告書の事項」

「あれらは一過性の反発に過ぎんよ。私も前史で経験している。要は既得権益化していたんだ。扶桑海で七勇士が活躍して、派閥がかってにできただけの事。ウィッチの力だけでなく、人としての引き出しを増やせばどんな事にも立ち向かえる、人の可能性こそ無限の力なのだ。 だからと言ってウィッチの力も可能性の一つ、そこから拡がる可能性だって有るからウィッチとしての研鑽は無駄では無いぞ。 加えて他の事も研鑽を積むべきだ。解散の時の訓示にでも言おうと思う一文だ」

「七勇士?」

「そうか。お前が軍に入ったのは、それらプロパガンダが一段落した段階だったな」

「私が志願したのは、オストマルクが落ちた段階だから。前史では反発してしまったのよね。実感ないけれど…」

「大多数にとっては、『前史』などはそういうものさ」

「でも、ある意味では、彼女達自身の活躍で勃興した派閥を自分の手で葬るのよね?」

「レイブンズはウィッチの枠の外で力を振るってたのに気が付かず、ウィッチの力と思い込んだ前史の自分も陥った勘違いが原因だからな。 勘違いを正すつもりでしか無いのさ。聖闘士とかは完全にウィッチではないからな。あいつらが気づいたのは、今回になってからだし、長い年月かかったんだよ」

「長い年月?」

「あいつらは300年近く生きたからな。私は60年とちょっとでしかないが。そのために今回は手加減無しで扶桑海を戦い抜いていた」

「それが今回における『神話』なのね」

「正に、小宇宙の奇跡だよ、あれは」

「当時の記録は残ってないの?」

「公式にはな。江藤さんが現実的なスコアで発表していたのも原因だが、後で大先輩に脅されたそうだけど」

「ああ、その事か」

「大先輩」

「江藤のガキには悪いが、儂が躾けておいたから、ボウズ達のスコアは全て認めさせたぞ」

「さすがですね」

「ボウズとケイが詳細記録や映像資料を纏めていたし、江藤のガキは当時のノートを保存していたから、現役復帰の時に、若の奴を行かせて、積尸気冥界波で脅して出させた」

「ハハ、随分とエグい脅し方ですね…」

「そうでもせんと、あいつはノートを物置から出さんからな。儂が電話しても、首を縦にふらんかったから、若のやつをけしかけた」

赤松は、陸軍系ウィッチのトップに君臨する若松をけしかけ、江藤を積尸気冥界波で脅したとハッキリ述べた。

「積尸気鬼蒼焔とか積尸気魂葬破でないだけ、マシかなぁ?」

そうとしか言えない坂本。積尸気鬼蒼焔、積尸気魂葬破などの聞きなれぬ名の大技は魂そのものを燃やす大技であり、生前のデスマスクは未習得に終わった秘技である(デスマスクは序の口しか身に着けていない若造だった事でもある)。若松は先々代の蟹座の黄金聖闘士『デストール』とチャネリングすることで習得し、デスマスクが到達しなかった領域に到達している。従って、蟹座の黄金聖闘士に叙任しており、もちろんGウィッチである。

「聖域、何人いるんですか?ウィッチ出身の聖闘士」

「聖戦直後で、88人の定員の過半数が空き状態だったから、素養さえあれば、どこでも」

赤松はミーナに答えた。80人を超えた聖闘士は、ハーデスとの聖戦で過半数が死に、その欠員を他世界出身者、蘇りし者達で埋める緊急事態となっている。古い星座も復活させたため、定数は増えたが、黄金聖闘士そのものは黒江、智子、若松、箒、フェイトなどが現役で、蘇った先代達の複数で回している。

「いや、古い星座も蘇らせるから、90の大台には行くな。それに、アベルの『コロナの聖闘士』は死んでいて、いないしな」

聖闘士の端数には、アテナ配下ではない『闇に葬られた太陽神』の配下の聖闘士がいたが、星矢達、一度目の黄泉がえりを体験したサガによって葬られ、その枠は自然消滅した。それを埋める形で、古い星座が当てられたのだ。従って、聖闘士の数は流動的である。また、黒江達は『神格でありながら、アテナに忠誠を誓う立場』であるので、ある意味ではハーデス配下の双子神のような立場である。そのため、次世代の黄金聖闘士では最高位級の実力と目されている。

「大先輩も聖闘士ですよね?」

「ワシはパーヴォ、階級は白銀だ。先代が戦死したので、受け継いだ。まぁ、階級は白銀だが、黄金に匹敵する力はあるぞい」

大笑する赤松。赤松の星座は黄金聖闘士に匹敵する実力者を、代々輩出してきた強豪星座。ある意味では、赤松にお似合いの星座である。

「しかし、今回は予定外でしたな」

「Fの連中の事か?ゼウスの考えることだからのぉ。儂らの管轄外だ」

「確かに」

「あ、あの?」

「英霊は他にもいる。ペリーヌはモードレッドだし、ハインリーケ少佐はアーサー王だろ、ジャンヌ・ダルク。あと一人くらい来そうだな、坂本よ」

「一応、候補リストは作っておきました」

「ご苦労」

「ふむ。そうなると、アストルフォが来そうだな」

「ですね。恐らく依代はあの子でしょう」

「あり得るな。モードレッドに伝えておけ」

「ハッ」

「あ、あの?」

「ああ、英霊の次に来そうな連中の候補リストを作らせておいたんですわ。それで」

「ゼウスが関係しているの?」

「恐らく。あの女たらしの善神、色々しますし」

赤松もゼウスが女たらしだと明言する。オリンポスの最高神にそう言えるあたり、聖闘士としてかなりの実力を持つのが窺える。ゼウスはオリンポス最高神だが、その実体はZマジンガー。究極に到達した魔神である。その彼に一撃を与えられるだけの実力を備えているのだ。

「貴方達って本当に規格外だわ。そういうことを言えるなんて」

「神殺し行うのも、仕事の内ですから」

微笑む赤松。実際、神の軍団は軍団のみならず、神を滅する事も仕事の内であり、戦死率も高い。そのため、並外れた素養が必要とされ、アテナへの忠誠は人の戦争よりも過酷な戦いになるのが常である。

「恐らく、並の英霊より強いですよ、今の儂らは」

聖闘士は神の軍団である以上、下手な英霊が霞むほど強い。それは聖衣を着ていない状態の黒江がアルトリア/モードレッド親子をほぼ圧倒したことで証明している。ジャンヌもその強さを認め、モードレッドがすっかり感服している事が聖闘士のポテンシャルの証明となっている。

「坂本の言うように、派閥なんてものはこの戦いで消え失せるものですぜ。儂らの威光を都合のいいように利用していたにすぎない連中は、本来ならば意に介さずと言いたいところですが、儂らとて、ウィッチの居場所の消滅は望んではいない」

「そうだ、ミーナ。だからこその我々なのだ。我々はウィッチの枠に囚われない『人の可能性』の具現化だ。神の力を持つスーパーロボットが跳梁跋扈し、視界外戦闘を可能にした通常兵器が大量投入されてるこの戦場で、ウィッチの出る幕は殆ど無い。我々が元来いるべき戦場はもう……我々のいる『世界』からは消え失せているんだ」

坂本は本来、ウィッチのいるべき戦場は少なくとも、様々な世界の介入を受けた『世界』においては消え失せたと認識しており、『Gウィッチである自分達が参加し、ウィッチの存在理由の守護、ウィッチが軍にいる大義を得る』事をしなければ、ウィッチは近代兵器群に存在意義を奪われる未来が遅かれ早かれ、招来するだけだという事を示唆する。

「我々が戦い、近代兵器相手に燦然と輝く戦果を残す。そうでなければ、あいつらのみならず、私達の次世代にまで影響を及ぼす。もちろん、お前の子や孫も。だからこそ、我々『Gウィッチ』と『Fウィッチ』は戦い抜かなければならぬのだ。ウィッチ全体の未来を守り、我々の居場所を創るためにも」

「居場所……」

「転生者というのは、日本でもなければ、理解を得られんものだ。ましてや、老いもせず、死すら起きなくなった者も多い。そんな体になったのが真っ当に故郷で100年も暮らせると思うか?」

「……無理でしょうね」

「ある年代になれば、我々は故郷には帰れなくなる。人としての寿命が尽きるだろう、80歳から100歳だろうか?軍は60で定年、80を超えれば、家の主導権は孫か曾孫世代のものになる。そうなれば、家にも居場所はない。同年代もその頃には殆ど死に、子も老い始め、孫や曾孫が主導権を握る。そこまでは居たくないよ、私はな」

坂本は黒江達が直面しただろう問題を伝える。自らは早期に『亡くなった』が、黒江達は数百年近く生きた。その苦しみの程はGになった今であれば、理解できる。坂本は80歳か90歳を超えた辺りで、扶桑を去る決意なのだ。黒江達も恐らくはその辺りで、扶桑を子孫に託すだろうという推測もあっての事だが、実際、覚醒者達は『不老不死』の属性を手に入れた者も多いので、真っ当に人として暮らせるのは、あと数十年ほどである。23世紀の世界であれば、神様であろうと普通に問題ないが、この世界では無理だろうという坂本の考えだ。

「貴方は故郷を出るの?」

「数十年は先の話だがな。私や黒江の今の年齢から言えば、60数年後だよ。大丈夫、お前の最期は看取ってからいなくなるさ」

「なんだか妙な気分ね……」

「私だって、前史だと65か70くらいで死んだから、お互い様さ」

「ところで、今、加東大佐が歌ってるこの曲は?」

「ああ、『約束の土地へ』か。私達の心境に合ってる曲選んだな、あいつ」


坂本は、圭子のチョイスが自分達の境遇や心境を表していると評した。G/Fウィッチは人としての存在すら超えている故に、『孤独』である。下原が原隊で異端視され、いじめにあったように。圭子は意外にも、歌唱力では黒江に次ぐモノを持っているため、高めのキーで歌い上げている。そのためか、ミーナは少し羨ましそうだが、歌で戦線を鼓舞する事に些か複雑な気持ちを覗かせた。

「そもそも、リン・ミンメイからして、星間戦争のど真ん中で歌っていたし、時代が変われば、歌の役目も変わる。そういうものさ」

「歌のエネルギーを戦闘に使うエネルギーにして戦う連中もいるし、それにブリタニアのハイランダー見てみろ、アイツら戦闘になるとすぐバグパイプならし始める。 奴らには戦争と音楽はセットなんだぜ、お嬢ちゃん」

シンフォギア装者などについて触れる赤松。ミーナは平和な時代に生まれたが故に、未来世界が大々的に歌を軍事利用することに不快感を示すが、古来、歌が軍事利用されていないわけではない。そして、歌エネルギーを媒介に、脅威と戦う術とした者達の事を伝える。

「サーニャさんの事は聞いたわ。サーシャ大尉が荒れたようね?」

「ケイがある手段でぶっ飛ばしたから、作戦中はおとなしいだろう」

「お嬢ちゃん、音楽で市民を味方につけるのは音楽隊の平時の仕事だが、シャロン・アップルってのは一歩悪辣に音楽で市民の洗脳という戦いを仕掛けてきた」

「シャロン・アップル?」

「22世紀の終わりに事件を起こしたバーチャルアイドルさ」

「シャロン・アップルの当事者が来とるのに、聞いておらんのか?」

「どんな事件なの?」

「儂らもボウズからの又聞きだが、22世紀が終わりに近づいた頃、つまりはメカトピア戦役が始まるよりは前の頃に、バーチャルアイドルという触れ込みで、一つの機械が造られた。それがシャロン・アップルだ。性別が女性であるという以外、年齢・経歴・人種などは特に設定されていない。歌声や容姿も自由自在、楽曲により妖艶な美女、コケティッシュな少女、人魚、天使などに変化し、大衆がその時々で望んどる『偶像』を変幻自在に演じられるというバーチャルシンガーっていった方が良いな」

「公には自我を持つ人工知能と説明されたが、実際は感情プログラムが未完成だったがな」

「感情プログラム?」

「ああ。ドラえもんらの人工知能の製造技術は統合戦争で失われていたんだ。再研究も行われていたが、旧米国系の妨害でうまくいっていなかった」

「それで代用策として、名目上、音楽プロデューサーとされていた『ミュン・ファン・ローン』という歌手の感情情報を読み取らせていたが、そこからが事件の始まりだった」

シャロン・アップルは当初、実際には自立的に双方向情報交換が可能なVEプログラムに過ぎなかったが、マージ・グルドアという科学者のある行為がシャロン・アップルを変えてしまった。そこからが事件の始まりで、イサム・ダイソンが関わっていた『スーパーノヴァ計画』の中止、ミュンの感情をマージ・グルドアが非合法的に入手、元来のチップと交換した新しいチップで保存していたシャロン・アップルの自我の覚醒、地球連邦のマクロスシティ成立X周年式典。全てが絡み合い、遂には初代マクロスとゴーストX-9を乗っ取るに至るが、イサム・ダイソンらが阻止した。おおよその経緯はこのようなものだ。

「ゴーストの研究も、人工知能の研究もこれで停滞する。規制派がこれで一気に勢力を確立していたからな。ドラえもんが来て、人工知能については解除されたが、無人兵器はBC兵器と同義の扱いだしな」

「確か、モビルドールも同時期に開発自体が規制されたんだったか?」

「ええ。旧OZトレーズ派がそのように法で規制したから、無人兵器には厳しい規制がかけられているはず」

未来世界で、無人兵器は厳しく規制され、無人兵器研究分野の科学者の多くは、非人道的研究者のレッテルを張られ、多くが地下に潜った。その後、一部はメカトピア戦役の際に呼び戻されたが、多くはテロリストに堕ちてしまい、火種をばらまくことになってしまった。地球連邦が日本と扶桑の交渉で圧力を陰ながらかけたのは、自らの反省からである。(実は、国連の名で日本側に軍事組織の統合交渉などで圧力をかけていた)

「これがシャロン・アップル事件のおおよその経緯だ。色々と影響が大きかったが、不祥事でもあるから、ゴーストは嫌われてるのさ」

「当初、規制派は開発されていた事実も抹消しようとしたんだが、移民船団と移民星から猛抗議が来てな。仕方なく、基準の厳格化で元々の指揮システムの元で使う邀撃機や護衛機としての運用のみ認められ、その扱いに留めた。ファンネルの戦闘機版だな」

「で、そのシャロン・アップルの遺産はティターンズ残党にも伝えられてるはずだから、こっちが取ってる手を使われる可能性は充分にある。だから警戒してるのだ」

「無人戦闘機……人工知能の発達はそんなものを」

「アメリカの手で歪められた進化だがな。統合戦争でドラえもんの人工知能の技術が断絶しなければ、もっと穏やかに無人戦闘機も生まれただろうに」

「あの技術はそれほどに高度なの?」

「そうだ。あれほどの出来の頭脳は23世紀序盤時点の技術では偶発的な誕生でなければならない」

「再現できたのはハーロックの話だと、30世紀くらいだとか」

「ずいぶん遅いですね」

「ドラえもんの時代の復活を欧米系が嫌がったせいだと聞いた」

人工知能関連技術で絶頂を極めたドラえもんの時代だが、その再来は歓迎されておらず、結局、ドラえもん時代の遺産の再利用を除くと、自発的に同等の人工知能搭載ロボットを製造できるようになるには、30世紀以降になるなど、23世紀から700年を超える歳月を必要とする。兵器という方向で進化してしまったのを、同等の水準に戻すのに、それだけの時間がかかったのも、統合戦争に全てが根ざしている。

「どうして、統合戦争で自らの技術を後退させるような真似を?」

「時空融合の余波で人々の思考がロボットとの共生から『支配される恐怖』にすり替わってしまったのもあるかもしれない」

「特に、欧米人は十字教的理由で元々、ドラえもんらの技術を禁忌と恐れていたというしのぉ」

ドラえもんらのような、一個の新たな『生命』と化したロボットは統合戦争を悪化させた原因にもなったが、人の作り出した可能性の一つである。シャロン・アップルも暴走はしたが、元々は快楽を人々に与えるための機械だったのだ。赤松と坂本の言うことに感服するミーナだった。


――戦場――

戦場の一つ。ここでは、突出した調を援護する形でモードレッドが介入していた。宝具は心象の変化で再度の変質を起こしていて、黒江に従う子分のような事になったが、甲冑と剣姿で介入した。

「よー、『姉御』の頼みだ。来てやったぜ」

「モードレッドさん!」

「ほー、あいつらがお前の元の世界での仲間か?青ちょろいガキ共が雁首揃えてやがるぜ」

モードレッドは装者らを一目見て、『青ちょろいガキ共』と評した。しかし、彼女も生前の年齢は17歳前後なので、説得力はまるでない。

「お前だって、生前はあいつらと変わんね―だろ?」

「昔の話はやめてくれよ、ストロンガーさんよぉ」

「すみません、その人誰ですか?」

「ああ、円卓の騎士様だよ。その転生体」

「なんですか、それ」

「た、立花……。それはいくらなんでも恥ずかしいぞ…。」

「ええっ!?」

翼にズバリと言われて落ち込む響。RXが解説する。

「円卓の騎士というのは、アーサー王伝説の騎士団の事だ。円卓を囲んでいた事から、その名がついた。その騎士団の一人だ、彼女は」

「なっ!?ど、どういうことなの!?」

「こまけー解説は後だ後!いっちょ蹂躙すっか!」

驚くマリアをよそに、モードレッドは『燦然と輝く王剣』を赤い稲妻で煌めさせ、波動を発する。今回は兜はしていないので、がっちりした甲冑に不釣り合いな線の細い少女とには大きなギャップがあるが、騎士である事は素人目にも分かる。

「あいつ、赤い稲妻を剣から出してやがる!?」

「あれが『燦然と輝く王剣』か。本来の力を発揮しているようだな」

RXは見抜く。モードレッドから憎悪が消え、アルトリアと真に和解した事により、剣の機能を本来の通りに発揮していると。モードレッドは剣士として、アルトリアのような流麗さはなく、どちらかというと実戦本位で、実はアルトリアより、剣では黒江に善戦している。モードレッドのほうが若干ながら、実戦形剣士として洗練されていると言えよう。

「あれが円卓の騎士……誰なのですか?」

「サー・モードレッドだ」

「裏切り者の騎士で、アーサー王の子じゃないですか!?女だったのですか!?」

「伝承は歪められたものだからね。ここの世界では『女性』だ。アーサー王もだが」

「!?」

翼は固まってしまった。そうなると色々と説明がつかない事が多すぎる。そのため、事もあろうに、戦場でパニックに陥るという、翼にしては珍しい姿を見せた。

「どういうことなんですか?」

「俺達も調べて分かった事だが、どうも魔術によるハイブリッドクローン、コーディネーターみたいなモノらしい。そのような言い伝えが民間伝承で残っている。その結果、産まれたのがサー・モードレッド。彼女はアーサー王のクローンなんだ。」

マリアが聞き直し、RXが答える。モードレッドは魔術的な方法で生まれしものだと。それ故、アルトリアにモードレッドへの愛情など無く、アルトリアは王という偶像をひたすら追っていたため、人心掌握に失敗し、国を滅ぼしてしまった。転生後は人心掌握に心を砕いているのも、以前の反省であろう。また、ハインリーケが父親を尊敬していたのが影響したのか、モードレッドに情愛を持った。それがモードレッドに力を与えた。それはモードレッドが生前に求め、アルトリアが今回の生で目指す『一人の親』としての姿だろう。どこかの世界で、彼女に辛辣な一言を発した征服王は『騎士どもの誉れたる王よ。たしかに貴様が掲げた正義と理想は、ひとたび国を救い、臣民を救済したやも知れぬ。それは貴様の名を伝説に刻むだけの偉業であったことだろう。だがな、ただ救われただけの連中がどういう末路を辿ったか、それを知らぬ貴様ではあるまい。貴様は臣下を“救う”ばかりで“導く”ことをしなかった』と断じたが、アルトリアはハインリーケと融合したことで、その事を強く意識していた。Fウィッチとしての彼女は王では無いが、『貴族』ではある。それ故、人を導く事は何なのかという思いを強く抱いていた。ある意味では、『強き王』、『清廉潔白な騎士王』の虚像に振り回され、一人の人間としては不幸な人生を送ったアルトリアが真に求めたのは、人としての愛だったのだろう。

「サー・モードレッドも、アーサー王も結局、王という偶像に振り回されて、不幸な一生を送った英霊だ。それを思うと、転生してやり直したかったのかもしれない。一人の人間としての生を」

RXはモードレッドとアルトリアの境遇に共感したようだった。彼もまた、世紀王であったからだ。アルトリア親子は転生しても、戦いの場に身を置くことになったが、それについては微塵の後悔もない辺りは、二人が生粋の騎士である表れだろう。



――そして、調は黒江との同調と、ガイちゃんからの教えにより得た技を使い、モードレッドを援護する。それは元来の調の属性からは想像だにも出来ない技だった――

『モードレッドさん、援護します!!ハァァアッ!』

「なッ!?調、何を!?」

「炎を胸から起こして、それをボールの形にしたデス!?」

『真龍!!ハイドロォォォブレイザァァァ!!』

真龍ハイドロブレイザー。強化された火の玉魔球である。ガイちゃんから伝授され、それを小宇宙の応用で形成し、おおきく振りかぶるモーションでそれをぶん投げたのだ。ハイドロブレイザーは魔球独特のモーションで怪人軍団のド真ん前に命中し、大爆発を引き起こす。

「お、なかなか面白ぇ事しやがる、ガキンチョ。こっちも本気出すか!!」

「『我が麗しき母への憧憬』(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

『我が麗しき父への叛逆』は、アルトリアがモードレッドを認めたことや、黒江がエアでそれを打ち破ったことで変質し、機能が純粋に『燦然と輝く王剣』の機能増幅となり、読み方は同じでも、姿は王剣本来のものとなり、エクスカリバーに近い光となって放たれた。それはモードレッドの憎しみが浄化された事で、王剣本来の力に立ち還ったためだった。モードレッドも生前と異なり、ペリーヌという純真なな人間に転生した事で、唆かれる前の純粋さを取り戻し、『母親』とは違う形の騎士になることを目指している。それがペリーヌ・クロステルマンに宿るという形で転生した彼女の選んだ道だった。

「ハッハー!見たかぁ!一つ目野郎!円卓の騎士は伊達じゃねーんだよ!!」

モードレッドはアルトリアと違い、口調は粗野である。騎士からは程遠い態度を見せる事もあり、ガテゾーンに逆ピースをするあたりはお愛嬌の範疇に入る。手の甲を向けたVサインは西の島国では新大陸の中指立てたポーズと同じ意味が有る『下品』なジェスチャーである。そのため、マリアと翼は唖然とする。騎士のやることでは無いし、イギリス人のやることではないからだ。ガテゾーンがすぐさま銃を向けるが、銃は何者かにより、弾き飛ばされる。

「ふう。間に合ったようだね」

「のび太くん!」

「美味しい場面には間に合ったようだね、調ちゃん」

のび太はアルトリアを自分の家に送ってすぐにとんぼ返りし、タイムマシンの出入り口から出るとすぐに、愛銃のスーパーレッドホークを構え、ガテゾーンに一発見舞った。鮮やかな早打ちである。服装はイタリアだからかなのか、マカロニ・ウェスタンよろしく、ポンチョとテンガロン・ハット姿である。スネ夫に頼んで、それらしい格好を書いてもらい、着せ替えカメラで着たらしい。のび太は調に微笑み、調ものび太に精一杯の笑顔を見せるので、切歌は『ぐぬぬぬ…』とジェラシーを抱く。のび太はスーパーレッドホークを片手に戦闘を開始し、見事なウエスタン・ガンアクションを披露し、銃だけで道を切り開き、合流した。

「うおおおっ!なんだよお前、ギャグ漫画の主人公みてーな顔してて、なんだってんだ、今のアクションはよぉ!?」

「ははん、君が雪音クリスちゃんか。話は聞いてる。だけど、駄目だね」

「なぁ!?あたしのどこが……」

「こういうことさ」

蜘蛛男の頭を特殊弾頭の一発で砕き、涼しい顔を見せるのび太。そしてこういった。

「弾は少なめ、狙いは正確に」

「何度も撃ってたら見つかるからね」

のび太はリボルバーを愛用しているので、大冒険をし始めてからは、残弾に気を使う事も増えた。その為、空気ピストルで『拳銃王コンテスト』をした時に発したこの台詞回しが生きてくる。クリスは乱射タイプなため、のび太のような正確なガンアクションと対極に位置する。のび太の一言が胸に突き刺さるクリス。直ぐ様、のび太に寄り添い、側に並び立つ調だが、のび太の何が調を惹きつけたのか?それが分からず、パートナーとして苦悩する切歌。モードレッドはその様子に気づき、何かを考えるのだった。



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