外伝その139『舞台裏3』


――圭子は歌った後の休憩中はレヴィになっていた。そのほうが本心をさらけ出しやすいと前置きし、黒田に語った――

「先輩、最近はコロコロ変わりますねぇ」

「この方がバカやれるからな。アタシは事変時で18だ。バカやるには年を食いすぎてたし、上の連中からは年下の保護者求められてたしなぁ」

圭子(レヴィ)は大笑いしつつ、喉の薬を吸う。外見もあり、妙に似合う。

「転生前は目立ちたくって最後のチャンスにバカやって大失敗したゼ。 無茶やるにしても勝算が無きゃやっちゃダメだよなぁ」

「先輩は欧州行き自体にはこだわってなかったんですね」

「どーせ、行っても数ヶ月くらいで上がるのは分かってたし、ベットで無様に腐ってる間に上がったのが後悔だっただけだ。花道飾りたかったのは事実だぜ。マルセイユとその後も飛んだが、戦闘要員じゃなかったし、絶頂期の力さえあれば援護できたかもしんねー局面も多かったし、歯がゆかったぜ?当時は」

「で、転生したと?」

「綾香が精神崩壊してたのが分かったからだ。そうでなきゃ、してなかった。あいつとの接点は薄かったしな、転生前」

「そう言えば、黒江先輩は転生前は途中で」

「そうだ。転生前は、昔に一緒だったってだけしか接点なかったから、未来で会った時、驚いたぜ。キャラがガキっぽくなってたからな」

黒江の変化は圭子がもっとも覚えている。転生前の記憶であるが、黒江はテスト畑に上がり後は転じていたので、互いの接点はなく、偶に同窓会で会っていたのみだ。なので、未来で子供子供している黒江を見た時には面食らったと、黒田に言った。

「ロンド・ベルに配属になって、若返ってってばかりで、まだガキの背丈だったあいつを心療内科に連れて行った時だな。医者からそれを知らされたの」

「ショックでした?」

「あいつは本来は豪放な性格で通ってたから、それがキャラ変わるほど精神的に痛手被ってたのは、流石にな」

圭子が黒江の身柄を正式に引き受けたのは、精神崩壊の事が知らされ、それを不憫に思ったのがきっかけだった。それで一度目の転生で、未来行き以降のキャラが個人としての素である事を理解し、黒江の願いに応えた。

「今回はな。ゲッター線の使者だし、実はいなくなろうかと思ったんだよ、転生した瞬間はな。だけどな、あいつが大好きホールドしながら抱きつくわ、竜馬さんには忠告されるわ。それでやめた」

「先輩、転生してからは子供っぽさ残ってますからね」

「おかげで江藤隊長に査問される羽目になったんだぜ?ったく、あいつ、なのはに似やがって」

「どの辺が?」

「大好きホールドを全力でやるとこ。あいつのバカ力でやられたらスッポンだからな。あばら骨折られるかとヒヤヒヤしたぜ、あン時は」」

「で、お前を幼年学校から指名して配属させたろ?あいつ」

「ええ。一度目から組んでましたから」



「今回は江藤隊長にトラブルメーカー扱いでしたね、先輩方」

「今回はいい加減に良い子ぶるのやめたかったから、このキャラで通したからなー。江藤隊長から『お前、いい加減に落ち着いたらどうなんだ?』と何度か愚痴られたぜ。アンときゃ、まだ高校生くらいだったんだがな」

「未来の基準じゃ、ね」

「隊長には、『中学生みたいなバカやる年でもないだろ』とか言われたけど、未来の高校生見せてやりたかったぜ」

「確かに」

「で、血と硝煙の匂いに滾るとか言ったらよ、ドン引きされた。人も怪異も変わんね―ろうに」

「まぁ、この世界の近代以降の倫理観的意味で言うなら、あたし達は異端ですから、しゃーないですって。バギー乗ってモヒカンで、『イャッハ―!!』とか「ヒャッハー!』言ってる世界の人は普通の世界じゃ、単に危ない人でしょ」

「だよなぁ」

「そもそも転生前はあたしも人殺しなんて馬鹿らしいって思ってたクチなんで言いますが、普通に殺し合いに慣れてると、ウィッチの間で爪弾きですよ。あたし達は戦局変えたからそういう事はめったにない。今回で先輩達が疎んじられたのは転生者だからですよ」

「そう言えば、今回の戦間期にあったろ?あいつがいじめられたってスキャンダル」

「ええ。それはそれですよ。先輩はテスト畑に最適な魔法だったでしょ?当時に審査部と交流あった部隊の一つに幼年学校の同期がいたんで、聞いてみたんですよ。そうしたら……」

「そうしたら、あるウィッチのグループが『『エリートのエースさんがなんでこんな後方の仕事に居んねん。しかも自分等の仕事のハードルまで上げやがる、ムカつく!』っていう、21世紀の高校生や中学生並の理由で先輩をいびってたの自慢してたって言うんですよ。あたし、呆れて物が言えませんでしたよ。あたしは今回、記憶封印があまりなかったんで、五十六のおっちゃんに伝えていきました」

「で、あの大スキャンダルか?」

「ええ。あたしが大きくしたんですよ。先輩が不憫だったんで」

「ああ、黒幕はテメーか。通りでお上も動いたはずだ」

「あたし、こう見えても黒田の人間ですからね。陛下に会う機会あるんですよ。それで五十六のおっちゃんや岡田の爺さんに頼んで……」

「で、空軍にテスト部隊置かないのって、もしかしてあれか?」

「日本のネチネチと、先輩いじめが日本側にスキャンダルで報じられたせいですね。先輩、自衛隊でも人気者でしょ?それを小学生がクラスの一人をハブにするみたいな理由で、いい年こいたウィッチがやったんですから」

日本側の週刊誌にスキャンダルとして報じられた、過去の黒江へのいじめ。扶桑の航空部隊の者は大慌てだった。それと史実での局地戦闘機軽視(横空)、水エタノール噴射装置の軽視(海軍)などをスキャンダラスに報じられたので、陸海を問わず、航空部隊畑の者は大慌てだった。旧横空出身者はこう愚痴っている。『扶桑ウィッチは事変を経験してるから、乙戦むしろほしがってたのに!それと、水エタノール噴射装置ったって、ブリタニア経由でターボチャージャーが手に入ったし…オクタン価も高いし』と困惑している。扶桑は『事変で乙戦の重要性は理解したし、水エタノールはターボチャージャーあるし、エンジン痛めるし……』ということだが、日本側の義勇兵は水エタノールを部隊単位で改造して取り付けていたので、扶桑テスト畑を困惑させた。最も、これは隼と零式の延命策という面も大きく、日本陸海軍搭乗員らの少数派のベテラン級の要望であった。これはターボチャージャーを積んでる機種が紫電改や烈風、五式戦などの新鋭機のみであった事、ターボチャージャーの信頼性を疑問視し、記憶から信頼できる水エタノールを積ませた者も存在した故、扶桑の輜重兵を泣かせたという。整備に混乱を齎すが、戦場での安心感が得られれば安いものと、義勇兵らが零式と隼の生産機を消耗させていく事になる。実質、日本帝国軍出身者は零式と隼しか搭乗経験がないという者も珍しくなく、旧式機にターボチャージャーを使うより、水エタノールを使い、予備部品を多く確保して回すという思考があった。仕方がない事だが、戦争後期の志願者は新鋭機に乗れた人数が多くなく、機種転換も時間がない。しょうがないので、零式と隼の多くは彼らが推奨する改造を受けた。ただし、343空で紫電改に搭乗していた者や厚木で雷電、本土で五式に乗れる機会があった者はそちらを使用している。烈風については、義勇兵はあまり使っていない。配備されていない未成機だったからだ。しかしながら、零式と隼もファインチューンと高オクタン価ガソリン、推力式排気管のおかげで、F6F相手にも渡り合えるだけの空戦を行えるため、日本のマスコミが危惧したような事態は起きていない。また烈風は、零式32型の経験者曰く、『思ったよりズブ(にぶ)いわ、ロールがちょっと重い感じだわ。2200馬力の割にはちょっと…』と酷評で、紫電改の主生産機の紫電二二型(ハ43搭載機を新たに分類し直した)は好評である。

「日本の連中は混乱させておいて、紫電改と烈風はどっちが強いか、なんて言ってるんですから、現金なもんです」

「海軍系は紫電改一択じゃねーの?」

「戦闘機同士ではね。烈風はむしろ乙戦か戦闘爆撃機ですから、開発目的と運用が逆転してますけど」

開発目的で言うなら、紫電改は乙戦、烈風は甲戦であるべきだが、実際はその逆で、烈風は和製コルセアと言われるほど、対地攻撃で名を馳せている。日本向けのスナップでは、『和製コルセア』との煽り文句とともに、烈風の紹介付きである。逆ガル翼の縁か、紫電改はジェット機の配備が進むに連れ、その役目を次第に終えていくが、烈風は長命を保ったという。

「そうなると、ファントムとイーグルは宮菱だから、トム猫はどこが?」

「長島が名乗り上げてます。海軍向けは久しぶりだけど、ライセンス生産なんで」

「他の国の反応は?」

「亡命リベリオンは『うちにも寄越してくれるの?やったー!』ブリタニアは『純正のファントムおくれ』、カールスラントは『ずるいー!』だそうです。ガリアは『み、ミラージュあるし!』です」

「カールスラントは涙目みたいだな」

「奴さん、シュワルベ量産して、これで世界最先端とか喜んでたら、こっちは超音速、しかもあたしらは極超音速ですからねー。泣きますよ」

「ウルスラはどーした?」

「智子先輩がマルヨンの空自の記録映像見せたんで、固定観念壊れたみたいです。しばらく固まってました」

「まー、奴さんも超音速飛行やらかす機体がすぐに出てくるなんて思わんだろ。しかも、ジェット機同士ならドッグファイト起きるからな。M粒子で何発かは外れるけど、ミサイル撃った後」

「ええ。ウルスラの思ってるような一撃離脱は今の条件下でしか成立しませんしね。マルヨンでACM(空中格闘戦)やらかすの、空自くらいなもんですけど」

「それがなー、自衛隊の短距離AAMな、M粒子下で当たるのよ、不思議なことに」

「嘘ぉん!」

「聞いた話によると、統合戦争で失われた誘導技術が使われてたらしくてな。23世紀のハイマニューバーミサイルより当たるんだわ」

「学園都市あったせいかな?」

「かもしれん。地球連邦軍も驚いて、問い合わせたら、『どうして外れるのか?』と返されたそうだ」

「技術的には23世紀から見れば単純なはずですよね?」

「らしい。たぶん、ミサイル内部への粒子侵入さえ防げば、周波数変調アルゴリズムで通りやすい周波数に切り替えて誘導するから、あたるんだろう。ただし、23世紀の戦闘機はミサイル一発じゃ参らんから、そこが時代の差だよ」

「まー、エネルギー転換装甲、空自連中が欲しがってますからね」

「22世紀で実用化にこぎ着けた技術だ。21世紀日本じゃ作れないぜ。それに、21世紀日本の風潮じゃ熱核タービン嫌がってるしな」

「しょうがないですよ。日本は核技術を嫌う風潮があったんですから。ウチにもユキヲ政権ん時に非核三原則当てはめようとしてたし」

「ああ、それ見たよ。まるで聖典でも拝んでるみたいだったが、気持ちはわからんでもない。なんか恐怖で凝り固まってる印象あるぞ?第三者から見れば」

「日本は被爆国でしたしね。まー、放射能さえ出なけりゃいいんですよ。熱核タービンは純粋核融合だから、放射線ないし。放射線は原子炉だから出るんであって、核融合反応炉は出ませんし」


「リベリオンの亡命した原子力科学者達がぶーたれる気持ちわかるぜ?広島と長崎の事言われても、そういう目的でこっちのマンハッタン計画はなされてないし」

「アインシュタインとか、オッペンハイマーとかこっちに亡命してたんですね」

「ああ。リトルボーイを手土産にしたら、日本側に汚いものを見る目で見られたって抗議してな。しょうがないから、反応炉技術の研究させてるそうだ」

「そりゃ、手土産にしたら『忌々しいものを造りおって』とか言われるんだぜ?そりゃ怒るぜ。日本側のエゴだったしな、ぶっちゃけいって」

原子力技術者は悪用を防ぐため、必死にリトルボーイを運んできたのに、日本に『人でなし』扱いされるので、当然ながら怒る。ガンバレル式の原爆は当時の最高の原子力技術の発露なのに、それを悪魔との契約も同然に罵られれば、当事者らの憤慨はもっともだ。いくら広島と長崎を吹き飛ばしたと言っても、ウィッチ世界にとっては、瘴気による土地の半永久的汚染が伸し掛かっているため、原爆の汚染は軽く見られていた。マンハッタン計画の発案当時、予想破壊力が魅力的であったのは確かだ。その究極進化系と言えるものををリベリオンが二発も浴びたのは、平行世界の皮肉だと言える。核兵器の大都市を一瞬でクレーターに変える破壊力がアトミックバズーカで示されたわけだが、日本連邦の方針としては反応兵器の使用は避ける方針である。日本の倫理観は戦後の平和などで醸成された『事なかれ主義』とも取られるものであるので、1945年当時の倫理観と共通点が多いウィッチ世界にとっては首を傾げる事も多い。交流開始時に懸念された『悪影響』が扶桑の有事突入で次第に表面化してきている。

「まー、分かってたことだけど、日本はなんて言おうか、自分たちの論理や思い込みで事が進むと思ってねーか?」

「平和が100年近い上、反戦の風潮が強かったんですよ?自衛隊なんて『バカが行くところ』なんて言われてた時代もあったんですよ?それと作った当事者の政治家達も『旧軍人におまんま与えるための場所』の認識でしかなかったし、負けると居場所ないんですよ、軍人は」

戦後社会からのけ者扱いされるケースはベトナム帰還兵、旧日本軍の職業軍人、ドイツ帝国軍人など、枚挙に暇がない。地球連邦軍も軍縮で大量の失業軍人を出し、慌ててガトランティス戦役で再雇用する羽目になるなど、軍事関連政策の舵取りを間違えると、派遣先の治安維持にも長期的に悪影響を与える。アメリカの21世紀以後からの失策はこれに相当する。仕方がないが、日本は旧軍人達がほとんど死に絶えつつある時代に突入していたし、有事がなんなのかさえ理解できないものが多数派である。戦時体制構築に反対したり、軍人を冷遇しようという風潮が革新政党ににあるのも、平和な時代が長いのに起因する。ウィッチの給金引き下げを彼らが叫んだ背景には、その思考が関係している。表向きは『ジェンダーフリーの観点からの引き下げ案だ』だが、実際は『自衛隊員と合わせろ』である。しかしウィッチの不満がなんとか暴発せずに収まってるのは、実階級の引き下げでも、それまでの給金は手当名目で保証しているからだ。

「おまけに、野党の大物が『高い金額を子供に出す必要はない。せめて基本給は同じにしたらどうか』ってのたまってるんですから。あれじゃ殺されますよ」

「飛行時間が多いから相対的に多くなってるだけ。しかも高給に見えて年功給が少ねーから、士官でも中堅下士官より少ないし、物価指数換算したら、日本の最低給与を基本給は割り込んでるんだがな。それを指摘したら、その議員どうした?」

「逃げましたよ。発言濁して」

「これだから、思い込みで言いやがる政治屋連中は。翁が怒鳴り込むのもわかる」

「私達でようやくってところだから、基本給の元を取るには、上がっても軍人でいないと釣り合い取れなかったんだぜ?全く。綾香の野郎も、今月は分割支払でオケラなんだぜ」

「ストロンガーさんにまだ払ってるんですか」

「無理して買うからだ。あいつ曰く、『釣り道具でからっけつだったけど思わず買っちまったからなー。 茂さんもセールス上手すぎるよ』だとよ」

「先輩やあたしら古参でようやくだし、芳佳たちなんて、年功給は無きに等しいから、日本の最低給より基本給割り込んでるからなー。おまけにあの子、実家に仕送りしてるし」

「あいつ、財テク始めるとか言ってるぜ。今回は大洗女子を裏からサポートしたいとも言ってるし」

「あの子は生徒会長の魄を持ってたんですね」

「そうだ。綾香が腰抜かしてた」

「あの子、大洗女子の制服着そうですね」

「やりそうだろ?」

「そうなると、ミーナは姉だな」

「でしょうね。さっきのあの態度、どう見ても西住まほでしたもの」

「今はどうしてる?」

「紅海で一緒だった奴が写メール送ってくれたんですが、見てくださいよ、このパンツァージャケット」

「目つきも変わってやがる。こりゃ本物だな」

ミーナは温和な目つきだったが、ティーガー搭乗時は完全に試合時の西住まほと同じ凛々しい顔になっていた。恐らく声色も変化しているのは想像が付く。ロンメルも面食らっているだろう。

「あ、ルーデル大佐、ジャンヌ呼んで、『約束はいらない』歌わせ始めましたよ?」

「エスカ○ローネかよ、ラー○フォンかと思ったが」

「カードキャ○ターかと思いましたよ、あたしは」

「英霊に歌わせるには、あれはキツイだろ」

「いや、通信で聞いたらノリノリでしたよ?」

「依代になったルナマリアの影響だな」

「よし、あたしは『愛を眠らせないで』でも行くか」

「先輩、パト○イバー見てたんですか?」

「綾香がコンプリートソングアルバム持ってるんだよ」

「ああ、なるほど。黒江先輩も多趣味ですね」

「事変の時、基地の敷地で歌ったことあったろ?あン時、江藤隊長にどやされた。コンサートしとる場合かってよ」

「確かに。でも、歌唱力は関心してましたよ?江藤隊長」

「綾香とあたしは、歌のレベルがプロ級だしな」

圭子と黒江はシンフォギアを起動させられるほどのチバソング値を叩き出せる歌唱力を誇る。そのため、仲間内でカラオケ大会をやっていたのだが、流石に事変の時に基地の敷地でやったのは咎められたが、江藤を制止した赤松の鶴の一声で『レクリエーション』として認められた。曲がロック/ポップソング主体の1930年代には影も形もないジャンルだったのは突っ込まれたが、赤松が誤魔化してくれた。江藤は北郷に『敏子よ。赤松がああ言ってるんだ。引き下がったほうがいい。半殺しにされるぞ?』と笑いながら言われたが、赤松はまだ寛容だが、赤松より厳格な若松に知られたら困るので、引き下がった。江藤も同じ陸軍の長老である若松の前では畏まるだけである。江藤は実際に参謀就任時に『童よ、政治屋を嫌うような発言は避けろ。いいな?』と釘を刺されて、冷や汗かいたとのことなので、若松は赤松よりは厳格な態度を取るのがわかる。若松は、赤松が『若は堅物じゃからのぉ』というほどの厳格な性格で、蟹座の黄金聖闘士としては珍しいくらいの生真面目なタイプになる。だが、彼女を素直に先輩と慕ってくる黒江のことは『江藤のところの童(わっぱ)』と呼んで可愛がっている。曰く、故郷にいる歳の離れた妹に似ているからとのこと。黒江は長老たちに『ボウズ』、『童』とそれぞれ呼ばれ、可愛がられている事になる。黒江は赤松のほうが付き合いやすいので、赤松を頼る事が多いが、同じ黄金聖闘士仲間なので、若松ともそれなりに付き合っており、事変中、黒江がその戦果を認めてもらえず、江藤の虫の居所が悪く、怒鳴られた時には若松を呼んで調停してもらったりしている。江藤は黒江のこの『奥の手』に参り、北郷に愚痴る日もあったとか。『あいつ、先輩達にどうやって気に入られたんだ?電話一本で来てくれるなんて、ズルいぞ〜〜…』とは、当時、江藤が北郷と浦塩のバーで深酒した際の愚痴だ。江藤は若手時代から喧嘩っ早く、問題を起こすことで有名だったので、中佐になっても敵が多く、古参からも受けの良い方ではなかったが、黒江は対照的に、若松がわざわざ側車付きのオートバイで乗り付けて怒鳴り込みに来るほど気に入られている。その差は黒江の元からの人徳が大きく作用している。江藤はライバルを蹴落とす形で出世し、1937年次までに中佐になっていたので、周りに反感を持たれやすいが、黒江は経験則で、波風立てずにライバルを立てられる術を知っているのと、江藤にはない高官や華族、皇族のコネがある。しかも、40年代に有力者になる事が確定している者達がずらりである。それが黒江が持ち越した強力な武器だった。江藤は政治的立ち回りは下手であるので、第一次現役時代においては、黒江と圭子のコネを活用すれば、問題を起こさなかったのに、と嘆かれる事になる。

「隊長、喫茶店してからは落ち着きましたよね?」

「客商売だしな。恩給とかで店はなんとか回せるし、武子のコネで豆は安く入るとか言ってたし、智子のおかげで店は売れてたから、大人になったんだろうよ」

江藤が精神的に大人になるには、喫茶店を経営する過程を辿る必要があったのだと、圭子(レヴィ)は説明した。江藤は親友の北郷のように、『武門の名門』の箔を持たないので、北郷にコンプレックスを持っていたのだろうと推測する。

「あの人は北郷さんみたいな箔はなかったし、戦間期の人だったから、あたしらみたいな実戦経験もなかった。そこがあたしらや北郷さんへのコンプレックスになってたんだろう。綾香が『教則通りの指揮だから、実戦だと意外に脆い』って山下のおっちゃんに話してるの見ちまった時には落ち込んでたし」

「仕方がないとは言え、あの時はあたし達以外は実戦経験者いませんでしたし、それをネタバレしたの、後期くらいでしたしね」

「北郷さんのアイデアでネタバレしたからな。あれで綾香、相当に絞られたものな」

「先輩、復帰した後も、電話でさんざ愚痴られてましたからねー」

「で、隊長が復帰したら、まっちゃんと若さんから電話で『ボウズ(童)達の未確認戦果を公認しろ』って突き上げだろ?隊長、電話されまくって、ハゲができたそうだ」

「転生者って分かったのそれでですよね、隊長」

「そうだ。梅津参謀総長直々の通告も効いたがな。綾香が怒られてたが、あいつは主犯に見られやすいし、我慢しろと言ってある」

「まー、のけ者みたいな形でしたし、隊長も『教えてくれれば、もっとうまくできたのにぃ』なんでしょうね。先輩達を吶喊させれば、未然に防げた被害もあったって考えてるんでしょう」

「聖剣持ちだしな。でも、エクスカリバーを連発してみろ、ブリタニアと揉めるぞ」

「ストライクエアだけでも違うでしょ」

「あれな。あんときの空戦ユニットじゃ、全力の攻撃だと、魔力を受け止められなくなって過負荷で壊れちまうからな。空中で全力で撃つ時、IS使ったんだよ、あいつ。演習のは加減してたしな」

「で、アルトリアさんの登場で解禁ってヤツですね」

「アーサー王の黄泉がえりだしな。ブリタニアとカールスラントの間で揉めてるぞ、取り扱いで」

「カールスラントに軍籍ありますしね。ハインリーケさんとして」

「生まれ変わったら前世の義理はカンケーねーだろ?」

「そうなんです。ブリタニアは国民より政府が『復位』も許すとか」

「カールスラントの帝位につける立場だからって、あからさま過ぎる。今の王家はスチュワート朝の流れじゃねーか」

「アルトリアさんも大変ですよ。ブリタニア政府が揉めてるんですから」

「卿の意見じゃねぇだろ?」

「政党の連中の戯言ですよ」

ブリタニア政府や政党には、アーサー王の転生であるとされるアルトリアがカールスラント帝位につくのを恐れる論調があった。チャーチル内閣の内務大臣や軍需大臣などは、存在が明らかになった彼女の身柄を『ブリタニアに移民させた上で高位の爵位を与えて、我が国で預かるべきだ』と宣っており、チャーチルの頭痛の種となった。チャーチルはアルトリアに頼み、『今更、王位がなんだと言うのです? 前世の記憶が有ったとしても、ここに居る私はプリンツェン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインの当主であり、それ以外の何者でも有りません。 それとも方々は私がカールスラントなりブリタニアなりを征服しろとでも言うのでしょうか?』という声明を出してもらいたいと伝えており、作戦完了時に発表予定だ。英霊の復活はウィッチ世界の各国に衝撃を与えており、カールスラントは彼女に侯爵との爵位を新たに授与し、大佐に特進させる事で褒賞とする予定だ。」

「皇帝が金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章でも用意するんだろうな。ご機嫌だって話だし」

「少なくとも、三人は受賞対象ですからね」

「こっちの金鵄勲章と偉い違いだぜ。こっちは存続させるのに揉めまくったのによ」

「日本はそもそも、戦後に自国の武官が戦功の勲章を授与されることがなかったですからね。黒江先輩がジャラジャラつけて観閲式出ただけで国会追求に使おうとしてたし。戦後に軍人たちは叙勲されてた記録あるんですけどね」

「あれなー。それがきっかけだっけ?叙勲制度で扶桑軍人が別枠になったのは」

「ええ。その辺りにかんでたんで言いますけど、軍人を自衛官枠に入れて扱って、得られるはずの利益を、杯と21世紀基準の一時金で埋め合わせして瑞宝章を代替にする案が、ユキヲ内閣の時は強く推されてたんですよ」

「ちょっと待て。試算はしたのか?」

「自分達の基準で考えてたから、将官だけ対象で四桁で人数が済むとか思ってたみたいで。実際は一兵卒も授与資格あるんで、目を回したそうですよ」

「だろうな」

「外国軍人がメダルやリボンをジャラジャラつけるのに、こっちだけ記念章だけってのも問題だし、元々は別の国の勲章だから、内政干渉に当たると言われるから慌てただろうし、確か授与資格者、今の時点で約62万人だろ?一時金の財源、兆あっても追いつかねぇよ。それに、瑞光章の価値が下がる」

「それが問題になって、内閣の交代で議論が萎んで行きましたよ。30万都市二個分の人数に一時金出す事に財務省が怒ったとかないとか」

「年金上乗せしたほうがマシじゃねぇか」

「それに気づいたの、次の内閣の時ですよ?だから、次第にフェードアウトですよ。引っ掻き回しておいて、詫びも殆ど無かったんですから。あいつら革新政権は何考えてたんですかね?」

「ハトポッポだから首突っ込んでヤバそうなら逃げるって寸法だろ?一郎翁も不肖の孫持ったもんだ。アレじゃ血管切れるぜ」

「同情しますよ。最有力と目されてたのに、次期総理の椅子」

「ウチがカールスラントと深い関係なのに口出しして、親独系外務官僚を強引に失脚させるし。本当、泣いてるしな。外務省や軍の諜報部」

「元からブリタニアと同盟なのに、親独派の伸長は国の破滅なんてキャンペーン貼られましたしね。一部は保護できましたけど、パイプを絶たれたのは痛手だと言ってましたよ、吉田のおっちゃん。カールスラント帝政を破滅させてやるなんて言う野党議員見た時は外交問題もんですよ、まったく」

「帝政ドイツであって、ナチじゃねぇんだぜ?制服は同じでも、鉄血宰相のドイツ帝国のままなんだぞ?あいつらはナチスでも台頭させたいのかね?」

「その考えのおかげで、オラーシャはむこう150年は大国に戻れませんよ。人口減る、領土減る、軍隊は機能不全ですよ?」

「報いかもな、ソ連の起こしたいくつかの事件のな」

「可哀想に。連邦が介入しなけりゃ、あそこはソ連になって、粛清の嵐でしょうから……」

「日本人は揺るぎないモノがあるからだろうが、考えがひっくり返った時の混乱が分からないんだろう。ソ連が滅んだ時の軍人の首切りやアフガン、イラクを見りゃ分かるだろうに」

オラーシャは国の中枢を担っていた人材が扶桑にかなり流れてしまっている。軍人や貴族もかなりが扶桑に亡命していった。オラーシャに残されたモノは雀の涙ほどの人数のウィッチと見る影もない軍隊だけだ。

「いや、見てないと思いますよ。日本人は他国の出来事に無関心で、自分が生きていければいいって考えがありますから」

「村意識なのか?」

「先輩、外国が長いでしょ?日本も扶桑も村意識強いから、分家筋の私が本家継承をしようとするだけで、お上入れないとどうにもならなかったように、良くも悪くもそうなんですよ」

圭子(レヴィ)は外国暮らしが長いので、日本(扶桑)が持つ民族的問題に鈍感になっているところを見せた。日本人は村単位の意識が強い故に、自分たちの秩序を維持するため、『出る杭は打たれる』考えが強く、扶桑も少なからずその傾向がある。黒田が当主を継承するだけでも、大事になったのがその証明で、黒江家でも、綾香の持つ秘密が三男に伝えられたのみである事が、長男系の家族から問題視されるお家騒動が後に起こってしまう事になる。

「黒江先輩の家も揉めると思いますよ。加東先輩、黒江先輩のお父さんに秘密をバラしたでしょ?翼ちゃんの関係で、三番目のお兄さんに秘密を継承させると言ってたから、長兄の流れが問題視するのありそうだし」

「あいつ、今回も上の兄貴のガキ共で悩む羽目になるのかよ」

「おそらく。本来なら『嫡流である自分たちが言い伝えを継承すべき』なんて言いそうですし、あのボンクラ甥っ子達なら」

黒江は、長兄の流れの甥っ子達の素行の悪さに悩むのが規定の流れでもあるのか、長兄が多忙な仕事人だったのもあり、転生前、一度目の転生の二回、甥達の素行に悩んでいる。長兄の教育が厳格なのと、長兄の子達に必ず不肖の子が存在する故だろう。黒江は軍務・家庭共に、一回は苦労するイベントが待ち受けている事になる。

「本当、ウチの国も、あいつも振り回されるよな」

「日本だけじゃありませんよ。世界各国がそれぞれの思惑で動いてるし、23世紀と21世紀で揉める事もある。日本に頭悩ませるの、地球連邦軍ですよ」

「やれやれだぜ。あたしらの世界は連中の思考実験場になっちまったな」

「先輩達も相当ですけどね。しかも今回はオリンポスまで巻き込んでるし」

「ZEROのことあったしな。オリンポスにも一枚噛んでもらった。あたしらの内の『数人』は野郎にぶっ飛ばされてるしな」

「Zちゃんの教育はどうします?」

「奴はカイザーのほうに引っ張るように、甲児に言っとく。ZEROの根源にあるの、グレートマジンガーへの負の感情だしな」

「鉄也さんが自爆した世界線は?」

「伝えた。立ち往生する世界線もな。あいつ、気まずそうだったよ。それもあるから、「あえてグレちゃんと組ませるのもいいかもな。全く方向性違うの理解できるだろうから」

「グレちゃんは今、エンペラー化で大人になってますよ」

「あいつ、ダウナー系のくせに、エンペラーかカイザーになると、鉄也さんのキャラになりやがるから面白いぜ。『オレはゲームのプロだぜ』とかな」

「どこのゲームセンターあ○しですか」

「多分、自信がつくんだろう。圧倒的に強くなるし」

「なるほど。それと、黒江先輩は今回、あの子を引き込みましたね?」

「ああ、調か。あいつが望んだことだ。あいつは綾香との同調で、元の世界よりもこちら側で戦う道を選んだ。あいつのダチにはわりぃが、そういうことだろう」

調は元の世界の日常よりも、黒江達と共に戦う道を選んでいる。もっとも、調は黒江との同調で、リディアン音楽院での生活に馴染めなかったらしく、黒江の呼び寄せに、二つ返事で応じている。これは元々、確実に咎人になる道を知らず知らずの内に歩いていただろう事実に、騎士として嫌気が刺していたこと、切歌の歪んだ愛に幻滅したところがあったからである。切歌は後のデザリアム戦役まで、調との関係が微妙なままとなるので、調への距離感に戸惑っている。圭子は、調が切歌へ幻滅する一方で、のび太を兄のように慕うようになっている事は、切歌の自業自得であるために、第三者として冷静に見ている。



――切歌は調の姿を取っていた黒江へ躊躇なく刃を向けた。黒江は『何故わからない、知ろうとしない!!』と、調の声で疑問を投げかけたが、切歌は耳を貸さなかったし、イガリマの絶唱を向けている。これはもはや歪んだ愛以外の何物でもない。調は黒江との同調でその光景を見、敬愛する師に刃を向けたという事実から、切歌に幻滅し、距離を置いている。切歌は『調が乗っ取られたと思ったから、思ったから……。分かってればッ…』と弁明しているが、調はそのショックのあまり、切歌の前から姿を消し、黒江の戦友であるのび太に、自分の帰るべき場所と切歌に代わる拠り所を求めたのが事の真相である――

「あいつは一度、独力で事件を解決せんと駄目だろう。切歌はあいつに依存しすぎている。そんなんだから、綾香が成り代わってた事実を受け入れられずにイカれちまうのさ。バサラさんとも出逢えば、話は別だがな」

「調はのび太と一緒にいることが、変わる最大のきっかけだったけど、あの子はどうなんでしょうね」

「わからねーな。ただ、バサラさんみてーな突き抜けてる人と会うとかしねーと、完全にはトラウマってのは払拭できねぇさ。昔のあたしみてぇにな」

「そう上手く行きますかね?」

黒田は、黒江が以前、フロンティア船団にいた時、バサラを探していたガムリン木崎と知り合っていた事を思い出し、黒江が彼からもらったという、熱気バサラの写真を取り出す。ライブのスナップ写真である。ガムリン木崎はイサム・ダイソンと並び、黒江に多大な影響を及ぼしたVF乗りであり、船団を離れても、黒江がVF乗りとして成功する要因の一つが彼だ。その彼が探していた熱気バサラ。彼が切歌に影響を及ぼす事になるが、それは別の話。

「おっと。そろそろバトンタッチの時間だな。行ってくる」

瞬時に変身を解き、元の姿で所定の場所に向かう圭子。

「んじゃあたしは、先輩の護衛をジャンヌから引き継ぐんで、格納庫に」

黒田は武子からの連絡が入り、連絡機でラー・カイラムに行き、そこでライトニングZを借りて、黒江の護衛をジャンヌから引き継ぐ事になる。

――戦いが白熱してゆく。調が天秤座を纏って突撃し、ラ號が戦闘を開始する中、圭子はジャンヌとバトンタッチし、歌を歌い始める。『愛を眠らせないで』である。圭子は黒江に次ぐ歌唱力を誇るため、チバソング値も相当な数値を叩き出す。圭子の歌に触発され、連邦軍の戦闘能力は一気にブーストされる。

「ああ、ケイの歌か。……あいつほどじゃないが、いい歌だな」

VFのコックピットで、イサムはケイの歌へそのような感想を述べる。あいつというのは、ミュン・ファン・ローンのことだ。彼女ほどでないというのは、彼なりのミュンへの想いだろう。イサムは黒江との縁でレイブンズ全員と面識があり、黒江と智子にVFの扱いを仕込んだ。そのため、ケイの歌唱力を評価している。

「イーヤッホゥ!!」

YF-29という史上最強の翼を持った彼と互角に戦えるパイロットは連邦軍でも指折り数え低度、腕自慢が流れたSMSでもそうはいない。調達のいる地域の上空を飛び、VF-19以上の異常な機動性を見せ、一同を驚かせる。

「なんだあの戦闘機!?すげえ動きでミサイル避けてんぞ!!あ、変形しやがった!」

「ん、イサムさん、デュランダルを手足みたいに動かしてるね、流石」

「おい、メガネ!あのジェット機の事知ってるのかよ」

「ウチで管理してた試作機だからね。YF-29『デュランダル』。バルキリーの中でも最高性能を叩き出せる化物だよ。乗ってるのが宇宙でも指折りのエースパイロット。綾香さんが教えを請いたくらいの大人物だよ、クリスちゃん」

「うー、外見がガキンチョのお前に言われると、どうも妙だぜ」

イサム・ダイソンの手にかかれば、性能でVF-19すら圧倒するYF-29もお手の物。むしろ彼曰く『機体特性が素直だから、若いやつでも訓練すりゃ動かせる』との事。29はエース用とは言え、19ほどには『暴れ馬』ではない事の表れである。これは高練度部隊の多い本星部隊以外であまり普及していない19の反省に基づく進化だ。しかし、その超高性能はフォールドクォーツの贅沢な使用で成り立つので、イサムなどの超エースパイロットにしか配備されていない。

「あのヒコーキ、ワタシ達の常識から外れた動きしてるデス……」

「そりゃ可変戦闘機だしね、あれ。それに、あれに乗ってる『イサム・ダイソン』少佐は世代差あっても落としに行けるジャイアントキリング属性の人だよ。確か、ポンコツの11で27を軽く撃墜したとか」

イサムは華麗にミサイルを避けていく。敵のVF-11の背後をファイター形態だけで取り、落として見せる。

『ハン、ガウォーク使うまでもねーぜ、ダホ』

イサムは常人が霞むようなG耐性を持ち合わせる。それがEXギアで底上げされているため、29の全力を制御できるのだ。その機動性は、シンフォギア装者の想像を絶していた。

「あの戦闘機、光ってるよ!?」

「オーバードライブ状態だよ。ああなると、神がかり的な動きをするから、手がつけられないよ。ましてや型落ちの11じゃ」

驚く響へ、のび太は説明する。29の全力はもはや常軌を逸したものであり、イサム・ダイソンの常識はずれの操縦と合わさり、もはや何が何だか分からない疾さになり、ティターンズカラーのVF-11が次々と爆散、あるいは墜落して不時着していく。

「まるで研ぎ澄まれた剣……!のび太、あの戦闘機はいったい……?」

マリアに答える。その答えを。

「23世紀の人達が別の星の希少な鉱物を組み入れて生み出した最強の翼ですよ。聖剣の名前を持つ二番目のバルキリー。デュランダルバルキリーです」

「私が前に使った完全聖遺物の剣と同じ名前だよ!それ!?」

「デュランダルかー。ローランが持ってた宝具だね。それの名前を持ってるのか。いやー、年月は恐ろしいねー」

響は驚き、アストルフォは微笑う。戦友の宝具の名は、いつしか、人類を守る翼に冠された。アルトリアの宝具の名を持つ機種の流れを汲む戦闘機(元々、YF-24の系譜は、19/22の後継を担うことを目的に開発されている)の中でも頂点に君臨する機種に友人の宝具の名が冠された事が嬉しいのか、誇らしげだ。

「この歌……レヴィ、いや、ケイ!?」

「あのばーちゃんも歌えたのかよ!?かー、どうなってやがるんだよ、綾香ばーちゃんのダチ連中は!」

クリスは、黒江達が自分たちの世代から見て、曾祖母と言っていいほどの年齢差があるので、『ばーちゃん』と呼んでいる。これは黒江と始めて会話を交わした際の出来事に由来する。黒江や圭子が装者である自分たちに劣らないフォニックゲイン(歌エネルギー指数を示すシンフォギア世界での用語)を発揮できることに驚く。

「ああ。確か、ケイさんもその気になれば、シンフォギア起動は簡単だって」

「なんだよぉ!?簡単に適合しやがって!いくら神様だからって、あたしらの立場がねーよッ!」

クリスは、黒江達が神の位の存在に到達しているのを良いことに、シンフォギアをホイホイ扱えることを愚痴る。存在の位が聖遺物を超えているからこそ可能な芸当だが、シンフォギアは聖遺物の『欠片』の力を媒介にしている道具であるため、完全な形で存在する宝具には及ばない。そのため、聖闘士である黒江が『手頃な力のリミッター』と称して纏うことには複雑な気持ちを持つ。また、調が野比家でシュルシャガナを日常生活で纏っていた事にも苛つきを覚えてもいる。これは調が学校の先輩である自分でなく、いくら成り代わっていたとは言え、直接の関係がないはずの黒江を師と仰ぎ、ついていった事が悔しかったからでもある。(調は、いくぶんか黒江に染まったと、当人が述べているように、黒江とは存在単位で深い繋がりを持つ)その苛つきはクリスの精神的幼さも原因である。先輩風を吹かせたいクリスだが、のび太が年上と分かったりし、精神的フラストレーションがたまるのだった。



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