外伝その144『鋼鉄のDreamer』


――日本は『戦争』というものを忘れて久しかった。それが結果的に日本連邦の政治的足並みの乱れとなり、扶桑軍に自分から多大な軍事的な枷を嵌めているも同然だった。ダイ・アナザー・デイ作戦でも、日本政府の一部と国会が、ロマーニャ政府と軍隊の提案した『先制攻撃』を嫌い、あくまで防衛行動にすべきとし、押し切った弊害により、早々にロマーニャ軍は大ダメージを被り、日本政府にロマーニャ公から抗議がいく事態になっていた。その大損害に加え、東二号作戦の取り消しに伴うパニックである。安倍シンゾーは防衛省の背広組の思い込みからの独走と、政府内にいるハト派議員の工作、日本連邦によって、経済が持ち直し始めた事の自覚がない野党議員らの国会工作などに頭を抱えた。扶桑の戦争は自分達に関係がないし、扶桑を完膚なきまでに敗北させたほうが却って発展する。自分達のように。そう考える者が日本には多かった。これは黒江達ならば、何度か見た日本の中枢における権力闘争と派閥抗争である。特に『扶桑軍という旧軍の亡霊が現在に蘇り、自衛隊を乗っ取るのは許さないし、俺達が押さえ込む』という妙に使命感を持つ警察系官僚の動きを抑えるため、日本連邦軍の組織を日本にて、正式に始動させた――



――2018年の秋――

「本日、日本連邦軍の正式発足に伴う所定の手続きが完了し、日本連邦の軍事組織、日本連邦軍が正式に発足致します。これは日本国の軍事組織ではなく……」

官房長官による定例会見で何気に重大な事項が国民へ伝えられる。日本政府は憲法の抜本的な改正は無理と悟り、自衛隊の合憲化からの日本連邦軍の設立による自衛隊の日本連邦軍固有部隊化という形と、回りくどいやり方での再軍備がなされた。これは日本国民に根付いた軍事政策への反発を鑑み、扶桑との軍事的な合意事項をスムーズに履行するため、日本連邦軍は『日本国の軍事組織ではない』という位置づけにすることで、従来の『国防』という思考のの鎖から自衛隊を解き放つ狙いがあり、この既存の枠組みが硬直したため、それに囚われないような組織を作ろうとする思考が、後の時代におけるアースフリート設立にも関係してくるのである。(定期的に政府が腐敗するお約束もついて回るが)この時に至り、自衛隊は完全なる軍事組織として新生し、組織が消える事もなく、扶桑軍に取り込まれるわけでもなく、ほぼそのままの形で存続する。自衛隊の法的規制が日本連邦法に変わり、戦艦や攻撃型空母と言った装備の保有が正式に認められた。そのため、扶桑からそれらを融通してもらう方法が取られた事もあり、扶桑は固有装備扱いの空母の増勢を突貫工事で行った。その第一陣が八八艦隊戦艦の放置されていた竜骨を修繕、そこから組み上げる空母であった。今回もミッドウェイ相当の大きさの空母として建造されたが、格納庫の天井高はフォレスタル級以降の水準の高さになっており、ジェット機の運用でも狭さを感じさせない作りとされ、竣工は1950年予定と遅めである。日本連邦は1950年代に、来たるべき太平洋戦争を勝利するため、各種兵器の更新やインフラの整備が完全となる1950年代に大攻勢をかけ、一時的にハワイから西海岸、そしてニューヨークとワシントンを占領し、和平のテーブルにつかせるという戦略はダイ・アナザー・デイの頃には青写真が出来ていたのだが、そのことの部内徹底がなされなかった事による混乱があちらこちらで起き、扶桑軍は不幸にも、日本の内部で起こる派閥抗争や権力闘争に、数年後の太平洋戦争でも振り回される羽目となる。

「何故、日本連邦軍なのです?」

「日本連邦の軍隊としたのは、我が国の軍事組織ではなく、連邦の組織として円滑に相互の防衛を行うためです」

日本連邦軍は自衛隊と扶桑軍の共同組織という体裁だが、扶桑が亡命リベリオンを内に抱えているため、実質的には三カ国連合と言える。自衛隊は着実に扶桑軍人の存在で実戦のノウハウを蓄積しつつあったが、扶桑軍軍人出身の自衛官を組織中枢から排除した。だが、戦功でどんどん出世する扶桑軍人出身者の処遇も問題視された。自衛官は戦時昇進も戦時階級も想定外であり、叙爵は身分が消滅していたため、これも論外であった。軍人出身者は昇進が早いので、生え抜き自衛官達の感じる不公平感を無くす意図も、日本連邦軍の組織の始動には含まれていた。従って、ウィッチ出身軍人の階級調整が一番の難儀であったと言える。軍人として扱うには、最年長級でもギリギリの年齢と言える19歳前後。R化しなければ、21世紀での成人と言える20歳超えの軍人で現役者はいない。現役バリバリの盛りである世代は13〜17歳。しかも年齢不相応に階級の高い者も多かった。そのため、15歳を超えていない層は軍属の相当官で処理し、15〜17歳の層も軍学校に再入学の措置が取られた他、実階級調整が行われた。(1945年で既に成人を迎えていた黒江達は階級の維持のための試験を受け、合格して階級の維持に成功していた)芳佳が1946年に海軍軍医学校に入ったのも、その施策との兼ね合いである。(卒業直後に空軍に移籍したので、海軍軍医としての勤務実績はない)ウィッチは最前線での勤務年数がどう頑張っても10年以内であったための特権階層的な扱いを受けていたが、日本連邦軍により、それらの『特権が無くなる』(給金の維持は現地の貨幣価値の算定、日本での自衛官の給金額との兼ね合い、危険手当という形で維持が決定されたが、不手際でそれが遅れたのがクーデター事件の一因である)と考えた者たちが多く、太平洋戦争を前にして、ウィッチ要員が減ってしまうという惨事も起こる。また、R化で可能になった定年の延長をネガティブに捉える者も多く、農村出身者を中心に、労働力を欲しがった親が強引に19歳で退役させた(後に、戦時になったことでの世間体から、子を再志願させる例が続出するが)。クーデター後になるが、『結婚して子育てしたあとに再志願というのも受け付ける、子育てしながらでも勤務調整しながら軍務に復帰というのもできるぞ、自衛隊の様に産休や保育所も完備することが決定したから安心してくれ』という通達を出す。その第一号が戦時中に挙式を挙げた宮藤芳佳であった。芳佳は第一子、第二子の妊娠と出産が太平洋戦争の長期化で戦時中に行われたので、その制度を使い、勤務日数の調整で軍務を続ける。その間の子供達の面倒は夫や黒江達が見ており、第二子の剴子が軍人としての後継者になったのは必然であった。黒江も、ダイ・アナザー・デイ時から髪の毛の手入れをする暇が無くなったため、素の姿での髪形がアホ毛のあるショートボブからセミロングヘアへ変化する。これは前史での戦間期と同じだが、時期が早まった。調の容姿を取るに必要な時間が縮まったりしている恩恵があったためか、当面はセミロングヘアを通すのだった。




――ダイ・アナザー・デイ作戦は徐々にクライマックスを迎えていた。ドラえもんは野比家で休憩中のアルトリアを呼び戻しに向かった。ついた時には、ちょうどアルトリアはのび太の部屋でおやつタイムであった。

「アルトリアさん、何してるんですか」

「い、いや、クッキーが美味しいもので…」

「食っとる場合ですか!そろそろ出番ですよ!」

「この一枚を食べたら用意しますので、待ってください」

「やれやれ。ルーラー(ジャンヌ・ダルク)に美味しいとこ持ってかれますよ?」

「チョコチップとこの柔らかさが…」

「良いから早く!

「仕方ありませんね、では」

「あれ?甲冑着ても、リリィの姿のままでいいんですか?」

「生前の最終的な格好も良いんですが、ハインリーケに『断り』をまだ入れてないし、今はブリタニア王というわけではないですので」

アルトリアはハインリーケへの断りを入れたいが、黒田の実験の結果、この時点では互いの存在は認識出来ても、ハインリーケの意思がアルトリアの行動に指図出来るわけではないし、アルトリアが泥酔していないと、ハインリーケの意思が表に出ないという、ハインリーケの意志力の弱さも問題だった。これはハインリーケは単に、貴族の義務感やウィッチとしての使命感で戦っていた故にアルトリアの融合の際に自分の意思を強く持つ理由が見出だせなかったためだろう。これは自然な融合のジャンヌと違う点であり、ハインリーケとしての悲劇と言えた。

「ハインリーケ少佐の意思は?」

「おそらくはそう遠くない未来、私の意思に飲み込まれて消えるでしょうね。ペリーヌにはガリアへの強い愛国心があり、それを拠り所にして、自らの意思を保ちましたが、彼女はノブレス・オブリージュだけで戦っていました。彼女の一族もほとんどが死に絶えた以上、彼女の『意思の死』は遅かれ早かれ、訪れるでしょう」

「ノブレス・オブリージュ、ですか」

「日本語では、高貴なる者に伴う義務とも、貴族の矜持とも言われる概念です。彼女は私が王であった故に持つ意思の大きさに屈伏し、いずれ一体になるのを選んだのでしょう。私は彼女の遺すモノを受け継ぎますが、それは彼女への恩返しでもあります」


「恩返し、ですか」

「彼女から感じるのは私と一体になることで共に生きるのが最善と考えているのでしょう」

既に意思が擦り合わされてきているのが分かる。また、肉体を提供してくれたハインリーケへの恩返しに、王位について『アルトリア・ペンドラゴン』と名乗っていた時期の容姿と甲冑ではなく、一人の少女騎士『アルトリア』として研鑽を重ねていた時期の容姿と甲冑を通すらしい。この作戦中は『セイバー・リリィ』の容姿で、約束された勝利の剣を使うことを通す事を意味する。ハインリーケの意思はしばらく混在するが、いずれ自分の意思に飲み込まれて消えることを予期するからこその自分なりの手向け。それが王位についた時期の甲冑と騎士服を主用しないという事だろう。

「行きましょう、戦場へ」

アルトリアは白のドレスを思わせる騎士服と甲冑姿でタイムマシンに乗り込み、ドラえもんと共に戦場に舞い戻る。その戦場では、のび太がヒーロー達に劣らぬ獅子奮迅ぶりを見せていた。





――戦場――


銃口を上に向け銃身下のレバー操作に合わせてグリップした右手の親指でシリンダーを回しながら排莢し、真下に銃口を向けてシリンダーを勢い良く回してローディングゲートから弾丸を落とし込む。のび太はこれらリロード作業を2秒で終える。訓練を受けていない少年時代の時点で、である。これはリロードが存在しないシンフォギアのアームドギアを使うクリスも驚くほどの速さであり、実際に『真昼の決闘』や『夕陽のガンマン』もかくやの活躍を残したのび太の面目躍如だった。これは歴戦の勇者であるアカレンジャーも手放しで賞賛する。

「ほう。凄いものだ。再装填に二秒ほどとは。SAAの設計の近代化であるから、リロードは五秒ほどかかるものだが」

「手慣れてますから。いやあ、アカレンジャーさんに褒められるなんて。嬉しいなぁ」

「おい!どっからどう見ても、日本の冴えねぇガキンチョのお前がどうしてそんなに手慣れてんだよぉ!」

「ドラえもんの事は調ちゃんか響さんに聞いたでしょ、クリスちゃん」

「つーか、なんであたしも、ちゃんづけなんだよ!あの馬鹿はさんづけだってのに!」

「なんとなく、かな?」

「はぁ!?」

『んな事にこだわってるほど暇な時か?』

「その声はケイ、いや、レヴィのばーちゃん!?」

「よう。久しぶりだな、ガキンチョ共」

建物の上にレヴィ(圭子)がいた。サーシャをぶっ飛ばした帰りにそのまま来たらしく、江藤を連れてきている。江藤が頭を抱えている事から、愛銃の『ソードカトラス』を両手に持ち、かなり荒っぽい手口でぶっ飛ばしたのが見え見えだ。

「レヴィさん。江藤参謀が頭を抱えてるってことは、サーシャ大尉をシメたんですね?」

呆れ顔の調。江藤が三脚付きのM2を粗え付け、射撃態勢を取りながら答える。

「こいつがドアを蹴り破って大尉をシメたんだよ。人間砲弾過ぎて、先方がビビってたし、三白眼で脅すから、失禁寸前だったぞ、大尉」

「取り合えず死なない程度にシメてきた、ちょっと神経使ったから、憂さ晴らしと洒落込むかねぇ、ハハッ」

「とてもそれに見えませ〜ん!」

「仕方ない、付き合ってやるから後ろは気にしないで良いぞ、ハァ…」

「サンキュ、隊長。さあて、踊るぜ」

「てきの字が的になったかも……」

と、これから起きるスプラッタを予想し、乾いた笑いが起きる調。それで事は終わらない。甲冑のブーツ独特の足音とともにアルトリアが姿を見せる。これに休憩中のモードレッドがコメントする。

「あ。やっと戻ってきたんスか、母上?」

「ああ、遅くなったが、ここからは私も復帰する」

モードレッドに母親らしい顔を見せると、約束された勝利の剣をバダンの怪人軍団の指揮官である。ゾル大佐/黄金狼男に向け、騎士としての戦いを挑むに当たって、古風な形式を取った。

「問おう。貴方が私の(エネミー)か?」

「如何にも。我が名はバカラシン・イイノデビッチ・ゾル。元ドイツ陸軍大佐。お嬢さん(フロイライン)の目的と名を聞いておこう」

「『地球の騎士』、アルトリア」

それだけいうと、約束された勝利の剣の全容を敢えて見せる。その剣にゾル大佐は高笑いしながら狂喜する。

「これは、これは!かの、名高きアーサー王と一戦を交えられるとは!黄泉から舞い戻った甲斐があった。これほど誉というものはないな!」

ゾル大佐/黄金狼男は吠える。その異形の姿は正に『異形と人を行き交う』改造人間そのものである。

「あの人がアーサー王!?」

「アーサーって言うのは、後世が面白おかしく書いた伝記や伝説で塗り固められた虚飾にすぎない。あの人は正真正銘の元・円卓の騎士の長にして、ブリタニア王、アルトリアだよ、マリア」

マリアに説明する調。円卓の騎士を束め、聖剣を扱えた『選定の剣の騎士王』こそ、アルトリアなのだと。つまりは歴史上の英霊がいるという事である。しかもモードレッドをその位で上回る。一国の王であり、逸話のいくつかが後世による虚飾にしろ、輝かしい円卓の騎士の長として、その存在が言い伝えられてきた程の騎士。アルトリアはエクスカリバーを以てして、戦線に復帰した。

選定の剣(カリバーン)は精霊に返された!我が剣は命有る者の守護の剣、祈る者との約定の剣、約束されし勝利の剣!… エクス!!カリバーだぁっ!!」

エクスカリバーを発動させ、ゲルショッカー怪人のおよそ七割を射程内に収めて一刀両断する。容姿が修行時代の可愛らしいものであるが、精神状態は王位についていた時の落ち着いたものであるので、若干のギャップはある。

「オイオイ!私の獲物が無くなんだろうが!ちったぁ加減しやがれ」

レヴィがここで文句を言う。アルトリアがいきなりエクスカリバーをぶっ放ったため、怪人軍団の二割が塵になったからだ。

「早い者勝ちです、とっとと終わらせてお茶の時間を再開したいので」

「お前、こんな時に茶しばきてぇのかよ。これだからレディ・ジョンブルは。……行くぜ!」

ガトラスの銃口に魔力とゲッターエネルギーを集め、銃撃と共に打ち出す。言わば、銃撃を媒体にストナーサンシャインを撃ったのだ。

「我流ストナーサンシャインだ!ぶっ飛びやがれ!」

と、レヴィ(圭子)も決める時は決める。

「私の前世は、お茶そのものがありませんでしたが」

「そんな昔かよ、お前のいた時代」

「千年とちょっとは昔ですから……。私にとっては、転生まで後世の食べ物は滅多に目にする機会もありませんでしたが」

「なるほどな。で、どうなんだ?黄泉還りの気分てのはよ」

「変則な形でしたから、多少は罪悪感があります。ハインリーケの肉体を乗っ取るような形でしたので」

生前は150cm台前半と、21世紀以降の基準で見れば、小柄な部類に入る背丈のアルトリアだが、転生後はハインリーケの肉体が依代になったので、身長は160cm台と、21世紀の基準に追いついている。ハインリーケは元々、その完璧主義者ぶり、年功と階級を振りかざす事から、『指揮官・将校の器ではない我儘な王女』と評され、陰口を叩かれていたが、アルトリアは人柄が誠実なので、その変貌ぶりを周囲から驚かれているが、対外的には『ハインリーケ』として生活している故の苦労もある。ハインリーケは我儘で傲慢なところが問題視され、ゲーリングも扱いに窮していた。だが、現在のアルトリアが主導権を取った後の生真面目で丁寧、凛とした性格は上層部からも歓迎されている。この急激な変化は元上官のロザリーが不審に思うほどだったので、作戦中にラルの口から、アルトリアの存在が伝えられる事になる。

「ロザリーには、ラルの口から言うように頼んであります。私が言うと、ややこしい事になるし、彼女は今のブリタニア王家の王位継承権も持つので、私が伝説の王と知れば、狼狽するでしょうから」

アルトリアはラル達の前で一度、自分がかつてのブリタニア王である事は示しているが、ロザリーが信じたという保証はない。そのため、ラルの口から自分のことを告げるように頼んでいたのだ。

「まったく、あの年頃のガキには苦労させられるぜ。サーシャはサーニャの亡命でヒステリーになりやがったからよ…」

『こいつが銃口を突きつけながら、三白眼で脅すもんだから、サーシャ大尉は失禁寸前に怯えてな。私が取り持ってなきゃ、サーシャ大尉は蜂の巣だ』

江藤が通信越しに、元部下の扱いに困ったような声で言う。レヴィを制するのに相当に苦労したらしく、声に疲れが見え隠れしている。サーシャの心を、レヴィが容赦なく折りに来るので、江藤は『使い物にならなくするな』と注意している。レヴィもそうだが、レイブンズは転生を既に繰り返した身であるので、奔放に振る舞うように見えて、他人を冷静に観察する面を持つ。レヴィ(圭子)も事変時には江藤へ辛辣な評価を下していたので、従順なように振る舞っていたのは、直属の上官だったのが理由だ。江藤も事変の際に、黒江達が『実戦経験がない教則通りの指揮だから、いざという時は命令を無視してでも最善策を取る』と話しているのを偶然にも聞いており、落ち込んだ事がある。

『お前らが種明かししたから、事が全て理解出来たが、お前、どうしてそういうぶっ飛んだキャラを通すことにしたんだ?かと…、いや、レヴィ』

『どっちでも良いぜ、これは気分転換と思いの外このスタイルの居心地が良いから、かな?隊長。綾香を見なって。あいつなんて、素の性格が出るようになったから、一番ガキっぽいだろ?」

『うーむ。あいつ、前は大人っぽいとか言われてたんだが、あの時の『年より若め』の振る舞いが素なのか?』

『ああ。あいつ、見かけは大人っぽいが、あの惨劇の後からは精神的ショックもあって、精神年齢がガキに戻っちまったんだ。これは今でも同じだ。今は安定してるが、二重人格になっちまってるしな』

黒江は精神年齢が505の壊滅のショックで逆行を起こし、44年当時の実年齢から−6歳前後の15歳前後にまで精神年齢が逆行し、二重人格にもなった。これは一度目の頃に精神崩壊した後の再構築の結果でもある。

『二重人格だと!?』

『あいつは取り繕うのが上手いから、上手く隠してはいるけど、そういう事だ。アイツの件も有るし、一回ぶっ壊しちまった方が良かったかなぁ?サーシャも』

『お前、ぶっそうな発言だぞ』

『でもよ、綾香に関しては、今の性格のほうが好かれてるのは事実だぜ、隊長。あいつ、前は堅物だったが、今はいたずら小僧みてぇな人格で、姉御達も可愛がってるんだしよ』

黒江の人格は転生前の生真面目なそれよりも、現在の子供っぽいほうが皆に好かれていると、レヴィは明言した。実際、黒江は転生後はその純真な面で多くの人脈を築き上げ、仮面ライダー達などのヒーロー達を純真に信じる可愛い面は、調に強く影響を及ぼしている。黒江は敵と判断した者へは冷酷残忍な行為を働く一方、一途に坂本を数十年も探し続けるなど、双子座の黄金聖闘士に推されたこともあるほどの二面性を持つ事も明言される。これは求道者的なところもあれば、敵へはスカーレットニードルで拷問する事も躊躇しない冷酷非情な面がある事からの勘案だ。

『あいつ、双子座の黄金聖闘士に推された事もあるくらいに冷酷非情な面もあるんだよ。心にダメージあるからかなんだろうが』

『あの子は良くも悪くも純粋なんだ、レヴィちゃん』

『一号さん』

ライダー一号が戦いながら、江藤とレヴィの通信に入ってきた。前史以来の縁である黒江には思うところがあるらしい。

『貴方がレヴィ、いや、加東、穴拭、黒江が慕っているという、未来世界の伝説のヒーロー,仮面ライダー一号か』

『如何にも。今は三人の父親代わりをさせてもらっている』

一号は自分が三人の『父親代わり』だと、はっきり述べる。これはRXや、元の世界で組織を押さえ込んでいる仮面ライダーJの力による奇跡でもあり、黒江が一番喜んだ出来事の一つでもある。

『父親?』

『私は20世紀後半のある時期に冷凍睡眠についていてね。それから目覚めた22世紀の終わり頃には、また戦う事を躊躇していた事がある』

一号は『私』という一人称を度々使う。これは初期の仮面ライダー達によく見られた傾向だ。

『綾ちゃんと出会ったのは、そんな時だった。あの子はまだR化を受けて間もない頃だったから、子供の姿だったが。奴ら相手に必死に食い下がる姿に発奮させられ、私は戦いにまた身を投じる事を選んだ。私に戦う事の意義を問い直してくれたのだ、あの子は』

黒江は仮面ライダーストロンガーに助けられ、組織の存在を知った後は、組織との果てなき戦いに身を投じ、仮面ライダー一号に戦う事の意義を結果として問いかけ、一号の戦線復帰を後押しした。一号はその事を覚えていたのだ。黒江は現在では、一号/本郷猛を父親のように慕い、ショックを受けた時は本郷に抱きついたりしており、一文字からは度々冷やかされたり、からかいの対象にされている。一号は懐かしそうに言う。その時の黒江の純真な眼差しに心を打たれた事が戦線復帰の理由なのだと。一号は他のライダーと違い、仲間達がいなくなった後の時代に『生きる』事に恐怖を感じていたが、黒江が当時の小さい体で必死に食い下がる姿に発奮させられ、黒江の前で新一号となり、自分が『最初の仮面ライダー』であると告げた。その時の出来事は本郷にとっては久しぶりに見た人間賛歌だったのだ。今回はお互いに記憶を引き継いでいたので、黒江の方が抱きついてきた。

『一文字さんがよくからかってるよな、それ』

『君も、一文字にいい写真とって貰え。一文字はプロだぞ』

『お、おいっ!』

一号も日頃のお返しとばかりに、レヴィをからかう。お互いに敵を倒しつつ。レヴィ(圭子)はお見合い話にうんざりしているため、近頃はライダー2号/一文字隼人に好意を持つようになっている。それを知らない本郷ではない。

『お、そうだ。レヴィ。綾香に今月のオートバイの分割金の振り込み終わってるから安心しろって言っとけや』

『茂、なぜレヴィに言う?』

『あいつ、今月は振り込みが銀行が休みになる直前だったらしくてさ。すんげオドオドしてたんだ』

黒江はダイ・アナザー・デイ作戦の前の段階で、城茂の店からオートバイを大枚はたいて購入していたが、分割払いだったのと、遊び人なため、毎月の銀行振り込みの日を忘れそうになる。この作戦の月は銀行が休みになる寸前に間に合ったが、本人は気が気じゃないらしく、オドオドする様子を見せていた。それに言及する。

『智子がさ。ダチにオートバイ送りたいけど、どれがいいか聞いてきたし、今月は忙しいんだよ、俺』

『言っとくよ。茂さん、紹介しとく。あたしらの元上官で、今は統合幕僚会議の参謀、江藤敏子大佐』

『ああ。アンタがこいつらの元隊長さんかい。話は聞いてるぜ。中間管理職の悲哀出てるぜ、声から』

『本当ですか?あーあ、せっかく復帰したのに参謀なんて。ガラじゃないのに』

江藤は上からの要請もあり、隠居しての喫茶店経営から、軍に復帰した。黒江達の復帰に伴い、押さえ込める参謀が必要とされたからだ。そのため、参謀はガラじゃないとぼやいている。元が北郷と違い、熱しやすい性格だからで、現役時代は敵も多かった。それを自覚しているためか、参謀という職にいる自分を卑下するような口ぶりである。

『まー、こいつらの上官ってことは、似た傾向を持ってるってことだろう?アンタも出ればいいだろ?ストレス解消によ』

『そうしたいのは山々なんですが、こいつらと違って、ブランクが長いのがちょっと。飛べますがね。空戦機動が今でもできるかどうか』

『それはこいつらも似たようなもんさ。やろうとする意思が大事なんだぜ?』

『そうですかね?』

『アンタは将来、源田実の後継ぎになる運命が待ってるんだぜ?その時の授業料って思えばいいだろうさ』

『え!?私が?!なんで!?』

『おいおい。それ、まだ言ってなかったんだぜ?』

『あ、本当』

『どういう事だ、レヴィ!?』

『本当だよ。多少の誤差があるだろうけど、隊長は親父さんから数えて、三代後の空軍総司令官になる運命が待ってるんだ。その次が武子だ』

ここで、ストロンガーの口から、江藤がそう遠くない未来、源田路線を継承する『空軍中興の祖』として長く君臨する事が伝えられる。メタ情報であるが、江藤に自分が参謀職である事を卑下させないように言ったのである。

『年月が進みゃ、今の上の連中は続々と隠居していく。そうすりゃお前らの代が中枢に登り詰める。その時のことを考えりゃ、今の苦労は買ってでもしとけ』

親心からの一言だが、これで江藤も自分が今、上にどのように見られているかを考え直すきっかけを与え、江藤が人間的に一歩大人になる事を補助する形になったのだった。



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