外伝その155『空爆機械獣対連合軍』


――マジンガーはスーパーロボットながら、リアルロボとの共通事項も多い。兜十蔵は基本コンセプトを考える役、息子の剣造とその妻(甲児とシローの母)はマジンガーの可能性を追求する役目を負っていた。兜十蔵が死に際に『あのロボットは完全だ。もうなにひとつ修正するとことも調整するところもない』と言ったのは、息子(兜剣造)にグレートマジンガーを既に開発させていたからだろうと、甲児は推測している。デビルマン/不動明が言った『オレなら、マジンガーZを空から攻めるね』は仲間からも、その言葉へのツッコミのお約束として定着している。これは後知恵で言うなら、兜十蔵はあくまで、マジンガーZは人間の拡大が設計コンセプトの機体と考え、空中戦などは息子に造らせている兄弟機(後のグレートマジンガー)に託すつもりだったとも言える。兜(十蔵)は大学時代から、物事の基本コンセプトを考えるのは上手いが、そこからの発展は意外に不得手だったとは、大学時代は親友であった地獄大元帥/Dr.ヘルの言。そのためか、子の剣造は父と違い、父の補佐をしている内に『物事を膨らせる才能に覚醒めたのではないか』とも言っている。実際、グレートマジンガーのコンセプトは『兵器』としての側面からのマジンガーとしては完成と言って良い出来で、地獄大元帥となったヘルもグレートマジンガーの完成度を評価している。



――地下のミケーネ帝国本拠――

「如何なされたのです、地獄大元帥様」

デビルマジンガーのボディを得ている地獄大元帥は兜十蔵の才能のこと、その子の剣造との違いを回想していた。

「兜十蔵と剣造の親子の事を考えておったのだ、あしゅらよ」

「兜一族を?」

「うむ。十蔵とワシは同じ大学の同じ学科でしのぎを削りあった仲じゃった。十蔵は万能の天才と当時から言われておった。その時の容姿は孫の甲児によく似ておったよ」

青年期のDr.ヘルと兜十蔵は地球連邦大学始まって以来の俊英と謳われており、将来を嘱望されていた。ただし、Dr.ヘルはその風貌もあり、兜十蔵以外に友と呼べる人間もいなかった上、親からも忌み嫌われていたが。言わば、人生で何から何までケチがつきっぱなしのDr.ヘルにとって、人生で最も最良の日々が大学時代だったのだろう。Dr.ヘルも兜十蔵も機械工学が専門ではあったが、マルチな才能があった。Dr.ヘルが地下帝国やミケーネ帝国で将帥として君臨出来た理由も、元々のマルチな才能のおかげだ。Dr.ヘルが悪の道に走った理由は、両親からの育児放棄に等しい冷遇へのコンプレックス、甲児の祖母に当たる十蔵の妻への失恋であったりと、意外に人間臭い。青春時代の色々なコンプレックスと挫折が悪の科学者/帝王に変貌する動機なのも同情を誘うスパイスだ。尚、死ぬ間際の十蔵の隻眼の理由をDr.ヘルは知らないのだが、ヘルが野望を抱く前の青年期、実験の事故から庇った際の負傷の後遺症で最終的に失明したのだ。その時の実験の事故が『憐れみをかけられ、態々庇われた』と、ヘルのコンプレックスを誘発したのが、後の野望のトリガーであった。十蔵は老年期になった後の再会時にそれを気づき、止めるための力として、光子力、それを動力に動くスーパーロボットを考えたのだろう。

「十蔵はワシの唯一と言って良い友であった。剣造はあ奴が生まれて間もない頃に遊んでやった事もある。二人の違いはどこにあると思うか、あしゅら」

「は…?」

「ヤツは発見とヒラメキの男だ、膨大な知識に裏打ちされたヒラメキは驚異的だ、ヒラメキを形にして他人に教授したら次の興味の先へ意識が持っていかれるのが難点だった。その息子の剣造だが、父親ほど閃き型ではなく、むしろアイデアを広げる事に才があった。子供の頃から剣造はそうだった。その集大成がグレートマジンガーだ。ただし、剣造の個人の才能には限界があるのを十蔵は分かっていた。サイボーグ化した剣造の体に高性能電子頭脳を仕込んだのも、息子への十蔵なりの気づかいだろう」

「と、おっしゃいますと?」

「ヤツのグレートマジンガーは確かに『偉大な勇者』だ。だが、その設計は先鋭化されすぎておる。あしゅらよ、かつての日本のゼロ戦が太平洋戦争で直面した問題を知っておるな?」

「ハッ。拡張性の乏しさ、ですな」

「うむ。兵器は拡張性もモデル寿命を引き伸ばす要素となるのじゃが、兜剣造はグレートマジンガーを完全にしようとするあまりに設計を洗練しすぎたのだ。そこが十蔵のZに劣る点じゃ」

地獄大元帥は剣鉄也の愛機であるグレートマジンガーの隠れた問題点を鋭く指摘してみせた。グレートマジンガーが苦戦させられたのも頷ける推察だ。

「だからこそ、十蔵は死ぬ間際、いや、お前に襲わせた日、後輩の早乙女にゲッターエネルギーと光子力の複合効果を探るように依頼しておったのだろう。その早乙女も今は冥府に行ったが…」

兜十蔵は息子の設計したグレートマジンガーも『機神』として完全とはならないだろうと考えており、弓弦之助の知らぬところで、第七格納庫に眠っていたエネルガーにゲッターエネルギーを高濃度で浴びさせていたのだろう。兜十蔵の孫達への愛をゲッターエネルギーは聞き届け、甲児への十蔵の真なる最後の遺産として、デビルマシンたる『マジンカイザー(魔神皇帝)』を生み出したのだ。

「ヤツはZを究極、完璧と称したそうだが、武装や機能の追加はされたものの駆動系や基本構造はほとんど改造されていないと聞く、人形(ヒトガタ)の機械として究極の構造をZとして完成していたのだ。グレートマジンガーはあくまで、Zの派生系に過ぎん。マジンガーZEROがグレートマジンガーを忌み嫌うのはそこの点だと、ワシは思う」

ヘルはZEROの意思を『肉体』の感応でそう解釈したらしい。デビルとZEROが近しい存在である証である。デビルも元々、Zの試作型として設計されていたが、十蔵が失敗作と断じたものであるし、ZEROは数多のZに蓄積された邪の意思が具現化した存在であるからだろう。いずれも兜一族に存在を否定されたという、似たもの同士だからだ。十蔵はゴッドのコンセプトと基本設計を息子に託す一方、エネルガーが『神をも超え、悪魔も倒す』存在に転生する事も望んでいた。その願いは最高の形で叶った。だが、魔神皇帝を否定するため、ZEROはいくつもの平行時空を滅ぼしつつ進化し、遂に純粋なマジンガーとしてはマジンカイザーすら捻り潰せるレベルの能力を得た。甲児、ひいてはゼウスはその事を知り、ZEROを滅ぼすにはゲッターエネルギーの存在が必要との考えに至った。ゲッターエネルギーと光子力、あるいは陽子エネルギーの複合による力こそが『ZERO、ひいてはデビルを滅ぼす最後の切り札』であると。それがマジンカイザーの更なるパワーアップ、マジンエンペラーGとゴッドマジンガーの誕生理由だ。甲児は『本当は陽子エネルギーより安定しているエネルギー、グレンダイザーの光量子エネルギーと組み合わせたかった』とも言っていた。しかし光量子エネルギーは23世紀の技術ではエネルギーの収集が困難である事で見送られ、陽子エネルギーが選定されたのだ。(光量子は光子力の10倍のエネルギーを安定して引き出せる上に安定しているため、甲児もその使用を望んでいた)また、光子力とて、甲児の母の死因がそうであったように、制御に失敗した場合は最悪の事態を招く。その事を弓弦之助は知っているので、甲児の提案に難色を示し続けたのだろう。弓教授(引退後は日本州知事)は甲児の母の死、娘が度々危機に陥った事から、堅実路線で行く男になったのだろう。光量子の制御成功は23世紀からも300年以上は後の限定戦争時代での出来事なので、光量子の技術難度はゲッターエネルギーやモノポール以上なのだ。それを地球で言う22世紀中に成功し、グレンダイザーを造り上げたフリード星はその時点での宇宙有数の技術を誇っていたのは疑う余地はない。

「フリード星の守護神、UFOロボグレンダイザーは手強いが、闇の帝王様のお力なら対抗できるだろう。ワシは二体の魔神皇帝と、『鉄の神』の攻略にこの体で挑むまでよ」

Dr.ヘルはグレンダイザーとデューク・フリードを侮れない強敵と見ていた。デューク・フリードは一国の王位継承者であったので、甲児と鉄也が持つ心の弱点が殆どない大人である(ダイ・アナザー・デイ作戦時点で22歳)事もあり、総合的にはデューク・フリードを最も恐れている。それほどにグレンダイザーとデューク・フリードは宇宙の王者なのだ。妹のグレース・マリア・フリードはダイ・アナザー・デイ作戦時点でも、15歳にもなっていないので、かなり年が離れた兄妹である。

「大元帥は何故、そこまでグレンダイザーを恐れるのですか」

「グレンダイザーのスペックそのものはカイザーやエンペラーには劣る。だが、むしろワシはその動力に惹かれるのだ」

Dr.ヘル/地獄大元帥が科学者である事実を思い出させる一言である。彼は光量子に未来を見たのだ。その先見の明は兜十蔵に遜色ないほどの素晴らしいものであるのは間違いない。十蔵はその点を知っていたからこそ、青年期からずっとヘルへ友情を持ち続けたのだろう。

「ダイ・アナザー・デイが行われておる世界へ送り込んだ機械獣軍団のモニターはどうか」

「ハッ。滞りなく。それと、異世界のスーパーロボットの設計図を盗み出し、作り出した『空爆機械獣』の使用許可を」

「ああ、グロイザーか。良かろう!」

空爆機械獣。とある世界の空爆ロボ(スーパーロボット)を盗み出し、そこからリバースエンジニアリングで量産した機械獣の事である。量産されたコピーには、設計図の通りに可変機構があるものと、それを省き、完全に爆撃に特化し、自爆機能を持たせた廉価版が存在する。空爆機械獣はそのうちの後者で、前者の機能再現版は空爆ロボと区別している。彼らは空爆ロボのオリジナル版は秘匿し、作戦には空爆機械獣としての『グロイザーX10』タイプの廉価版を使用する戦術を取った。そのため、基になった『空爆ロボ・グロイザーX』は正義のスーパーロボットとしてよりも、新型機械獣として先に有名になるという屈辱に塗れてしまうのだった。(元々、異星人の新型メカではあったが)




――戦場――

なのは達は戦場に新たに飛来した敵機の姿に驚く。それはのび太が持つ『不滅!スーパーロボット大全』で見た空爆ロボとデザインが酷似していたからだ。

「グ、グロイザーXぅ!!マニアック過ぎて、今の子供分かんないんだけど!?」

なのはの第一声からして、これだ。変形機構は省いているとは言え、グロイザーX10はオリジナルに当たる『空爆ロボ・グロイザーX』の飛行形態とほぼ同一のカラーリング、フォルムを有している。流石にタキオン粒子動力のロボの量産はミケーネも無理と踏んだのか、量産されたコピーはタキオン粒子では動いていない。それでも、当時のリベリオン軍主力爆撃機のB-29より圧倒的に強力である。三人は飛び上がり、爆弾の雨を回避する。その瞬間、グロイザーの横合いからロマーニャ軍の一般航空ウィッチが空戦を仕掛ける。それはあまりに無謀な行為だ。

「なっ、ロマーニャ軍!?馬鹿、やめろ!こいつは怪異じゃないんだぞ!」

なのはの絶叫も虚しく、グロイザーの両翼部の兵器パイロンに当たる箇所がウィッチ達へ狙いを定め、そこからミサイルが発射される。オリジナルと違い、実弾系武装が多めらしい。ミサイルはロマーニャ軍部隊の必死の迎撃を潜り抜け、見事に命中、ウィッチ達を防御の間なく散華させた。

「言わんこっちゃない……!」

グロイザー(仮)の全体像が空中に上がった事で判明した。オリジナルの空爆ロボとは違いも多く、対空防御砲座が通常爆撃機の如く追加されており、完全に爆撃機として特化している機体となっているが、頭部に当たるデザインはそのまんまである。

「くっ、正義のスーパーロボットをコピーして悪事に使うなんざ、號や量産型グレートやドラゴンでお腹いっぱいだっつーの!!」

なのはの本音がポロリであった。カラーリングまで同じという点でも、なのはを逆撫でた。ゲッター號の事がトラウマになっていたからだろう。そのため、口調が荒れている。完全に頭に血が上ってきている。

「落ち着け!あいつは偽物だぞ!いくら姿形を真似ようが、正義の心には勝てねぇって、相場が決まってるんだ!!我が敵を断ち切れ、『如くもの無しの剣(デュランダル)』!!」

ガイちゃんはなのはを制し、普段使いの聖剣を使う。ローランの持っていた『デュランダル』である。シンフォギア世界では対消滅でこの世から消えたが、本来は不滅の剣であるので、アストルフォの親友であったローランの手を離れた後、紆余曲折を経て、ガイちゃんに与えられたという経緯がある。その霊格をガイちゃんは得た。一説には、ヘクトールの使った『不毀の極剣』(ドゥリンダナ・スパーダ)の後身ともされるが、諸説ある。デュランダルとしては、バルキリーがそうであるように、『聖ピエール(聖ペテロ)の歯、聖バジル(バシリウス)の血、パリ市の守護聖人である聖ドニ(ディオニュシウス)の毛髪、聖母マリアの衣服の一部とされる聖遺物が柄に収められているので、ヘクトールの使った『不毀の極剣』からは独立した存在とも言える。

「どっかの英雄王のコレクションにありそうだけどね、これっ!」

ガイちゃんはGウイングを全開にし、手にもつデュランダルでグロイザーを解体してみせる。デュランダルの威力の賜物だ。アストルフォもデュランダルを扱うに足ると、ガイちゃんを評価していたので、ガイちゃんも聖剣使いに数えられる。

「見たろー?偽モンヤローはこうやって懲らしめないとな」

ガイちゃんも黄金の剣を持つため、聖剣使いは意外に多い事になる。剣のグレードはモードレッドが一番低いが、生前の経緯故に仕方がない。黒江とガイちゃんのように、二拳二刀を誇るのは極めて珍しく、歴代山羊座の黄金聖闘士の例を見ても類を見ない。増してや、エクスカリバーすら凌ぐ『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)の使用権を持つ事は、二人を聖剣使いとして高みに至らしめている。これはガイちゃんも黒江も、何度かの転生の際に共通して、先々代黄金聖闘士の一人、『山羊座の以蔵』の魂魄のどちらかの一部を持った影響だろう。

「さっきのアレで切歌が反発してるけど、のび太とドラえもんにフォローを頼んだ。管理局教導隊の慣習と形式に一応は則ったけど、傍から見りゃ、イジメなのには変わりねぇからね」

「ああ、助かった。ちと、やりすぎたかなーって思ったんだよね」

「まー、最後のやつは世界残酷物語なのは否定しないけどなー」

「あの映画、亀のとこと『モア』って曲しかいいとこないやん?」

「あの映画は曲で歴史に名を残したけど、内容はなー」

ガイちゃんが引き合いに出したのは、グァルティエロ・ヤコペッティ監督の代表作『世界残酷物語』である。映画としては印象に残るかと言われたら疑問符だが、ガイちゃんでさえ、テーマソングだった『モア』は覚えているらしい。


「まー、きっちりぶちのめすのは軍隊式だけど、お前も不器用だし、ましてやあれだ。切歌には調が説明してるけどさ、あとはのび太とドラえもんに上手くやってもらおう」

ガイちゃんも口が上手い方ではないので、真意の説明はのび太とドラえもんに丸投げしている。だが、なのはや調の二人が就いている職業柄、軍人や戦士の気質になっているのに比べれば、良心が咎めているらしい。そういう点でも、今回の出来事の当事者では比較的であるが、常識人なのが分かる。なのはや調は良くも悪くも軍人や戦士であるが故、事後のフォローが苦手である。なのはについては、黒江から『お前、教導官ならフォローのことまで考えとけよな、ド阿呆』と苦言を呈されているほど不器用である。教導分野で、後に黒江やハルトマンが『一級』と称されてゆくのは、フォローのことまで考えに入れているからだ。今回の転生で無くても、なのははティアナの一件で、天才肌であった故に、凡人の思考回路を理解できないので、教導官としては優秀とはいい難いとされていたが、今回の響への一件でも教導隊の教えを愚直に守りすぎた感がある。いくら赤松の決定とは言え、やりすぎの感は否めない。その場で一番の年長であった事もあり、後で黒江、ドラえもん、智子の叱責を受けたのは言うまでもない。更に話が伝わった本郷猛からも『やりすぎだぞ』と諌められ、キツ〜イお叱りを受けたのだった。(もちろん、ガイちゃんと調も、後でのび太が口頭で注意したという。このように本郷猛/仮面ライダー一号は、Gウィッチを叱る時は叱る父親役を担っている)

「なのは、あーやから伝言。後で智子やドラえもんと一緒に、お前を叱るってさ」

「うぁ……、本当」

「三人共、かなり怒ってるから、修正は覚悟しとけ」

「はぁーい……」

ガイちゃんはなのはにその事を伝える。流石にフィンガースナップでの精神攻撃はやりすぎと見做されたようだ。ガイちゃんと調も、のび太からの口頭注意があるので、けして処分に無縁でもない。

「あそこから説明会始める予定だったんだけど思いの外落ちるのが早かった、もう少し前から説教しながら殴るんだったな」

「お前、そこの見定め下手だぞ?作戦終わったら、あーやに絞られるのは覚悟しとけ。あたしと調はのび太から口頭注意だけど、お前は立場的な問題もあるからな」

『このド阿呆!!使いもんにならなくしてどーする!!』

と、ガイちゃんが言い終えた瞬間、黒江が念話で割り込んできた。マリアから話が伝わったのだ。

「うわぁ!?念話で怒鳴らないでください!」

『だってもヘチマもあるか!!ギアは壊せとは言ったが、精神叩き折っちまえば、何時ぞやのティアナみてーになるぞ!!』

「ごめんなさいー!!反省してるのー!」

『ガキん時の口調で言い訳するな!響のことはどうにかするが、罰としてロンド・ベル名物の修正、二週間のラー・カイラムの甲板掃除は覚悟しとけ!!それと本郷さんにも叱ってもらうからな!』

黒江はなのはの上官兼地球連邦での身元引受人として、なのはに厳罰を加えた。訓告がつくと、地球連邦軍では昇進速度を遅くする規定がある。イサム・ダイソンがS.M.Sに引き抜かれた(軍からの出向に落ち着いたが)際の階級が少佐なのもそれが理由だ。なのははロンド・ベル在籍の隊員として、この作戦で訓告処分になったことで、時空管理局での二佐、地球連邦軍での中佐昇進が伸ばされる事になった。そのため、訓告処分が下されつつ、類稀なる戦功を挙げたという点では、訓告処分後にGウィッチ化したミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと共通している。(人事的失点を戦功で打ち消した)なのはは少女期の口調に戻るほど、黒江を怖がっているが、やんちゃ盛りの少女期の頃の名残だろう。



――黒江はこの問題に頭を抱え、『あんだけエラソーな事言ってこの体たらくか、面倒な…』と、なのはの教導隊員としての素養には疑問を投げかけており、かなり辛辣な愚痴を一号ライダーに零す。一号ライダーも『あの子は大人になり切れてないからな。父親の士郎さんが自分が家族に迷惑かけたって事で、末娘のなのはちゃんの事は相当に甘やかしてたみたいだから、変なところで子供のままだ。フェイトちゃんと正反対になったようだな』と返し、なのはの性質は年相応の面と子供のまま残ったところが変に入り混じっていると評する。フェイトはアイオリアに前史で憑依された名残りで、精神的にはすっかり成熟した大人になっているので、なのはの子供子供のした部分が悪目立ちする面はあるだろう。が、なのはのフィンガースナップで響の精神は相当に痛めつけられた事は容易に想像できる。ドラえもんは新見薫に連絡を取って、こういう時の対処法を聞いているところだと、メールしてきたので、なのはは黒江の想像を、思いっきり悪い意味で上回ってしまった事になる。

「つぁー!あの馬鹿!匙加減が分からないのかよ……面倒を引き起こしてくれるぜ…」

なのはのバカ正直さに頭痛がする黒江。なのはは『言葉の通りに』教導隊の慣習を受け取ってしまっていたらしい。時空管理局航空隊の教導隊は人間的教育はしていないのか、と大いに愚痴る黒江。精神面での教育は士官候補生や訓練学校在籍中に行うものだが、なのははあいにく、時空管理局での訓練学校と士官学校の在籍期間は促成コースであった事もあり、昨今の速成ウィッチのことを笑えないくらいの短さではあった。なのはを弁護するなら、『超合金』級の信念を持つ響と、一回折れる事を学んだ軍人/管理局魔導師では反応がまるで違って、勘所を掴むのが難しいという点は考慮されるべきだ。だが、ガングニールを空中元素固定で作ってみせたのはやり過ぎである。恐らく、響はガングニールを自分が天羽奏やマリアから継承した『オンリーワン』である事で、ガングニールへの依存心があっても、心のバランスが取れていたのだ。それを、なのはが手のひらにバラバラと作ってばら撒いて消したため、精神バランスが崩れてしまったのだと推測する黒江。

「……ったく!フォローに回るこっちの身になれよな、あいつ!作戦終わったら、インフィニティ・ブレイクかギャラクシアンエクスプロージョン食らわしてやる」

「加減はしてやれ。君が本気出したら、なのはちゃんでも、五体満足ではいられないからな」

「わーってますって」

ロンド・ベルはエゥーゴが母体の部隊なので、旧日本帝国軍から伝わった『修正』という慣習が引き継がれていた。ブライトは平手打ちで修正をするのが常態であるが、これは旧エゥーゴの時代の修正は拳を痛める者が続出したため、『拳、手刀は禁止』になったのと、ブライトも一年戦争の若かりし頃、アムロを殴ったら痛めたため、平手打ちにしたという経緯がある。これは一年戦争以前の地球連邦軍の士官学校卒の将校が部下をシメるためにする、ある種の慣習であった。だが、当時から殴り慣れないものが形だけ真似て、怪我が多発したため、平手打ちで片手を添えて頬を正確に打ち抜くスタイルのみ許される懲罰となった。なのははそれを受ける事が確定したわけである。ロンド・ベルでは、それに甲板かトイレ掃除を選択する事になっていて、なのはは本隊から借りたラー・カイラムの甲板掃除を選んだのだ。黒江としては、なんとも頭の痛い問題であった。

「あ、あいつら、グロイザーXをコピって機械獣にしやがった!クソ、あいつらにパテント料でも請求してやりてぇ!」

『それ、別の侵略者が潤うだけだから、アウトだぞ、綾ちゃん』

「あ、マジ?」

黒江達のもとへもグロイザーX〜シリーズが飛来し、マジンカイザーを空爆せんと爆撃コースに入るが、そこは歴戦の勇士、甲児。キングダークを巴投げで投げ飛ばし、その瞬間にターボスマッシャーパンチを放った。ターボスマッシャーパンチは見事、グロイザーX15(対地掃射型空爆機械獣。グロイザーシリーズの一つ。カラーリングは緑)をぶち抜いて破壊する。更に襲い掛かってくるキングダンX10、アブドラU6などの機械獣に甲児はカイザーの武器を披露する。

『光子力ビーム!!ギガントミサイル!!冷凍ビーム!』

3つの武器を同時に放つ。マジンカイザーの高出力とウエポンセレクト制御装置の高性能さで可能とした。Zやグレートは武器の同時使用はほぼ無理だった(切り替えつつの連続攻撃は出来た。甲児がアイアンカッター、サザンクロスナイフ、光子力ビームを同時に放つ際はマニュアルで行っていたが、それは甲児の音声入力の巧みさなどで実現させた)が、カイザーにもなると、一斉攻撃も可能になっている。マジンカイザーはシンクロシステムが操縦系統に使用されているのも、武器の同時使用が容易な理由である。

『おととい来やがれ!!ファイヤーブラスタ――ッ!!』

そして、ファイヤーブラスターを放ち、怪人軍団諸共に、襲い来る機械獣を焼き尽くす。マジンカイザーの胸のエンブレムが一瞬、神や魔に変わるようになっているのは、ファイヤーブラスターの必要チャージタイムを以前より短くするため、Zモードから状況に応じて切り換わるようになり、モードの切り替えや境界線が緩くなったためだろう。エネルギー量も以前から更に上がり、チャージされる一瞬、放熱板周辺にプラズマが散るようになっている。今では光子力にゲッターエネルギーも混じっており、その威力は超合金Zであれば、機械獣の超鋼鉄同様に一瞬で熔解してしまうだろう。以前の威力とも比較にならない超パワーだ。

『見たかキングダーク!神をも超え、悪魔を倒す魔神の中の魔神、王の中の王の力を!!』


マジンカイザーは魔神の中の魔神、王の中の王と称えられる戦闘力を有している。マジンガーZEROが躍起になっていたのも、Zとカイザーとでは、スペックが違いすぎるからだ。Zの全ての武器を物ともせず、パンチ一発でマジンガーZの胸部光子力エンジン付近の重要装甲を叩き割れるのがマジンカイザーだ。カイザーパイルダーで吠える甲児。すっかり昔のテンションに戻っているが、学者として落ち着いた態度は不評であるので、宇宙科学研究所の悪目立ちするパイロットスーツではなく、光子力研究所でのお馴染みのものを着用している。これは宇宙科学研究所のものがダサいと不評なので、自分がマジンガーに乗る時は昔のスーツを着るようにしているためだった。

『王の中の王か。終焉の魔神を超えるために、進化のエネルギーを取り込むとは思わんだ』

終焉の魔神。マジンガーZEROが数多の世界を焼き尽くした事から、彼ら『組織』はそう呼んでいる。Gウィッチにとっても浅からぬ因縁があったマジンガー。ZEROはカイザーを超えることに執着したが、それはマジンガーZこそが原初にして究極なのだとする妄執でもある。マジンカイザーはゲッターエネルギーを得ることで、ZEROに対抗する存在としての魔神皇帝となった。キングダークの言う通り、ゲッターエネルギーは因果すら進化で断ち切るエネルギーである。体躯は自分より小さくとも、カイザーの秘める実力を正しく評価しているのは、呪博士の人格をコピーしつつも、微妙に正々堂々としている様子を窺える。

『あれこそがDr.ヘルの作り出した空爆機械獣、グロイザー・イクスシリーズだ。さて、どう出る。兜甲児よ」

『笑わせるぜ!あんなグロイザーXのパチモン持ち出したところで、この俺とカイザーは止められないぜ!カイザーの新しい力を見せてやるぜ!!』

『何?」

甲児はショルダースライサーを天に掲げ、そのままトールハンマーブレイカーの要領でエネルギーをフル充電し、そのエネルギーを全方位への雷として放射する。その名も。

『ゴッドスパーク!!』

本来はゴッド・マジンガーの技であるゴッドスパークだが、マジンカイザーも改良で撃てるようになったのだ。トールハンマーブレーカーが対単機用であるのに対し、こちらは対軍用の武装で、ゴッドサンダーとサンダーブレークの中間の特性を持つ。マジンガーの武装はゼウスが雷神であるのを反映してか、グレートマジンガーからは雷系の武装が増加している。ZEROはそれを恐れてもいる。自身の力も及ばぬZ神の力の象徴だからだろう。

「甲児、わたしらの分も残しておくれ。なのはが馬鹿やりやがった。言ってねぇことまでやりやがってな」

『そのことでアムロさんに言ったら、ブライト艦長から往復でやっとけって伝言があったよ』

「わかった。あんにゃろ、作戦終わったらスナップ効かせた平手打ちだ」

黒江はなのはの行き過ぎに頭が痛いようだ。あの中で一番、外見的に年長だから任せたら、そのなのはがやりすぎて、響を壊す寸前にしてしまったので、思わぬ誤算となった。なのはとしては『教導隊の教え』である『細かい事で叱ったり怒鳴り付けてる暇があれば、模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげる方が教えられる側も学ぶことが多い〜』を実践しただけだが、これについては黒江やバルクホルンは『全てがそうだと限らん』と苦言を呈している。黒江もバルクホルンも、前史でのベトナム戦争までの戦間期に訓練学校で教官をしていた経験があり、『大器晩成型には大器晩成型なりの育て方をせんと、潰れる』という見識を経験で得ている。そのため、黒江は今回はなのはの育成にかなり早い段階で参加していたが…。

「そりゃ、私も空自の教導にゃ、一、二回目は罵倒されたが、三回目でねじ伏せてやった事もある。向こうはションベン漏らしそうにブルってたけど」

黒江は教導群の洗礼を受けた時、三回目で本気を出し、空自の教導群連中を小の方が漏れるレベルで怯えさせた事を甲児に漏らす。黒江は教導群のパイロット相手でも、機体に慣れれば圧倒できるだけの戦技と、目視で敵機をいち早く発見できるだけの視力がある。その本領で教導群の鼻を明かしてやった事は、自衛隊員としての任官間もない頃から幾度となくある。旧軍のエースと判明した後は逆に彼らから数回の勧誘があったが、ブルーインパルス行きたいからパス!と断った事もある。2000年代半ば以降はアラート任務部隊、飛行開発実験団を渡り歩き、ブルーインパルスに行ったので、教導群に在籍したのは、ブルーインパルスを離れ、統括官としての任務を任じられるまでの数年間になる。教導群は自衛隊の中でも選りすぐりのパイロットというのが謳い文句だが、黒江や赤松などが実戦経験者として、所属した部隊の練度を教導の必要性がないほど高めてしまうという珍事が度々起こった上、黒江が旧軍のトップエースの一人で、異名持ちクラスであった事が判明したため、野党から教導群の規模縮小さえ議題に挙げられてしまう事もあった。政権交代前の2006年から2008年までの事だ。防衛庁(2007年から防衛省)の官僚の答弁は数回ほどあったが、一番人々の記憶に残る痛快な答弁がなされたのは、麻生タローの総理就任期の頃の話である。その頃には、野党側に話題性がある女性議員が複数台頭してきていた。黒江達が所属部隊を幾度となく鍛えた結果、教導群の隊員をして『開店休業』と揶揄するほど、アラート担当部隊が精強になっていると専門誌の記事にされた事がある。彼女たちはそれを防衛省への攻撃材料にした。黒江達が所属した部隊に限る話だが、教導群以上に精強になってしまった部隊が複数生じており、教導群はその要因と言える黒江と赤松の一本釣りを2006年から幾度となく試みた。最も、教導群一強でない現場の実情を理解できない女性議員らは教導群の『体たらく』を罵る。そこに麻生タローが防衛省と示し合わせた痛快な答弁をしたのだ。黒江と赤松が旧日本軍の最強クラスの撃墜王の同位体である事も添えて、教導群を擁護したのである。

「教導隊は各隊の教官の教育機関でもある。 教導隊から各飛行隊に移勤した教官がいて、操縦技術ではなく編隊による戦術行動の教導を行うのが教導隊の任務であり、教導が終了した時点で教導を受けた側が教導隊に模擬空戦で勝利する事は稀ではないとのことであります。それと、黒江一佐や赤松一尉(当時)は扶桑皇国軍の中でも有数のトップエースの一人であります。付け加える事があるとすれば、件の黒江一佐は元空将補で、加藤隼戦闘隊のトップエースの一人でもあった黒江保彦氏の、赤松一尉は海軍最強を謳われた赤松貞明氏の同位体であります。彼女たちが強いのは当然のことであります」

黒江と赤松は太平洋戦争で戦史に名を残す日本軍の至宝とされた逸材の同位体。それが公にされたのである。これは黒江達が年齢的にありえない速さで昇任してゆく事の理由の正当性の担保の意味も込められていた。当時、黒江は既に一佐(扶桑で大佐になっていたため)になっており、その昇任速度に批判も多い。その答弁で赤っ恥をかいた野党は政権交代で冷遇したが、学園都市を統制出来ないこと、地震という天災での無力、領土問題の深刻化などで再度の政権交代が起こった後、黒江は戦功で叙爵をされる。その話が持ち上がった当時の防衛省は興味を示さなかった。当時は華族という制度が日本から消滅していた(日本連邦の条文で扶桑華族の取扱が明記されるまで、華族という単語が日本でニュースになることはなかった)ためと、扶桑側の時代背景が昭和期であったため、勲功華族という存在の新規出現を考慮していなかったからだ。こうした新華族は旧大名などの旧い華族からは侮蔑されたとされるが、扶桑では昭和期になっても、元ウイッチが現役時代の戦功で成り上がる事も多く、昭和期では逆に羨望の的だった。ウイッチが最後に手にできる名誉とされたからだ。レイブンズへの叙爵も昭和天皇は現役復帰の挨拶のため、三人が未来世界から戻って、拝謁してきた際に口にしている。上機嫌で。お付きの武官達の反対は私が説得するから、とまで言って。将官への特進も『大元帥たる私の勅諭で以て、少将の地位と騎士爵を与えても良い』とまで明言している。この時に天皇陛下が少将への昇進を約束した事が、天皇陛下のお気に入りたる黒江らへの反感を持つ海軍中堅・古参ウィッチ(とは言うものの、黒江達の後輩世代であるが)らが聞きつけて、嶋田繁太郎などの冷遇されていた高官を担ぎ上げてのクーデターを画策するに至る。この話に反感を持つ兵学校/陸士の教官達も多く、後に二校の統廃合の大義名分に利用されたほか、天皇陛下が『………以上の勲功に対して扶桑海三羽烏の騎士爵の授与、そして皇室軍事参与の任を与え職責に合わせて将官としたい』と公式に述べた事がクーデター事件のトリガーとなる。これは天皇陛下にとっては衝撃となったが、ウィッチ組織の歪さが顕になる出来事でもあったので、Y委員会のメンバーに予め選定された者達に取っては『天佑』となるのだった。



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