外伝その161『日本のギャフン』


――扶桑皇国はダイ・アナザー・デイを主導する立場にあり、最も兵力の負担が大きかった。日本が最終的に陸自主体の部隊を出したのも、日本連邦としての義務を果たすため、日本として出せる範囲内での戦力を出したという政治的判斷だ。これにも野党は反対したが、扶桑へかけた迷惑や自分たちの保身から、派遣法に反対しなかった。経緯としては、毎度おなじみと言えるトンチンカンな反対論を振りかざしたが、法務大臣の『日本連邦憲章に照らし合わせまして…』でしぼみ始め、『警察庁連邦外事部長』のの扶桑が逮捕したテロリストの処遇などの答弁が完全に与党の優位にした。更に、リベリオン本国の侵略の意図が明らかであると、来日していた山本五十六の答弁が決定打となった。山本の『日本海軍英雄』のネームバリューが効いたのだ。山本五十六は軍略の才が無いことは明らかだが、軍政家としては一級であるので、『軍略家としては信用がないので、元・国防大臣・山本五十六として申します』と前置きして見解を述べた。山本は軍政分野では間違いなく当代屈指の実力者であり、また、彼は『大将』だが、日本側では戦死時の称号である『元帥』と呼ばれるので、扶桑が階級『元帥』の運用再開する理由の一つとされた。(日本の元帥はあくまで称号であったが、戦後日本からは階級と誤解されており、その説明がややこしいので、階級の復活がなされた)――











――2018年の冬――

2018年も冬を迎えていた日、山本五十六は秘書に長門と大和と言った、自身が連合艦隊司令長官在任中に座乗した艦の艦娘を引き連れ、日本を訪れていた。彼は国防大臣就任前は海軍大将であったが、日本側の報道では『元帥』と言われるのが常であり、彼を元帥府廃止前に元帥府に列すこととなった。(要は日本側の認識に合わせた)

『作戦への協力を渋るのは連邦など、どうでも良いという態度と取りますが、問題ありませんね、そういう事で有れば即座に帰国して連邦の解消とゲートの撤去を奏上せねばなりませんな』

山本は開戦時の指導層世代の人間である。(日露戦争時の少尉候補生に相当する世代)孫かひ孫に当たる世代の日本の並み居る国会議員など敵ではない。海軍指導層のほぼ頂点にいた人物であり、失敗は多いが、日本海軍緒戦の栄光の立役者。そのネームバリューと、山本の連合艦隊司令長官経験者としての威厳は国会議員らを沈黙させた。政治嫌いの山本だが、立場上、日本に連邦の自覚を持たせるために立ち振る舞うことが求められたため、当人としては『水商売の気分だ』と嫌々であった。しかし、政治家を合法的にギャフンと言わせられるるいい機会であるので、国会の場に現役当時と変わらぬ海軍第二種軍装姿で現れ、答弁するというインパクトはかなりのモノだった。

『そんな身勝手が許されるか!』

『連邦の取り決めを守らないそちらも身勝手でしょう? 私はその有り様を報告して御前会議にかけ、御上の裁下を待つと言っているのです』

山本は自身から見ればひ孫でいい年齢の野党のある議員の野次に答える。連合艦隊司令長官の時を超えた帰還と言える国会中継に、当時まで生存していた元・海軍関係者は一様にTVへかじりついた。日本での存命中に仕えていた年代の軍人は時代的に80%以上の確率で死に絶えていたが、それでも極一部は存命中(当時の尉官以下)であり、ある元・大尉の老人などは、ボケが山本の軍服姿を見た効果で寛解したという。日本での存命中と変わりない(死亡時の姿より多少加齢しているが)軍服姿は日本の元海軍軍人の有志が東京へ集まるという副次的効果をもたらした。一兵卒から尉官までの若めの層だが、2010年代後半では貴重な従軍経験者であった。ただし、山本は甘党であるのが災いし、加齢停止時には糖尿病の入り口であったが。山本を乗せた車が彼ら従軍経験者のいる地点の道路を通過する際、彼らは一斉に敬礼したという。山本は昭和天皇から『山本、日本の国会が揉めている様だから、様子を見てきてくれ。 発言を求められたら好きに言って構わぬ。連邦存続の踏み絵になるかも知れないから、大きな爆弾を落としちゃってくれ』という内容の電話で激励されており、答弁に気力が漲っていた。山本の投下した爆弾は例えるなら、トールボーイかグランドスラムにも匹敵するもので、日本連邦軍へ自衛隊を参加させることの障害になる要素を一撃で粉砕した。だが、非戦の風潮が根付いていた国民が大規模なウィッチ世界への派兵に歯止めをかけたため、空自はわずか12機の旧式な作戦機と早期警戒機を一機のみの編成で、空中給油は米軍頼りという状況であった。『約束は守っている』という体裁を整えるため、『現用機が運用できるか不明だから…』と、お茶を濁した形になってしまった。それは米軍が持ち前の能力でF-22を持ち込める設備を整えてしまった事から、日本は赤っ恥をかく事になった。その為、黒江が23世紀のレプリカで置いていたF-2を、黒江が個人的に持ち込んだと思い込み、『増勢したい』と、後から言ってくる有様であった。仕方がないので、黒江は連邦軍からとりあえず操縦が簡便なVF-1EXを借りるように言うなど、戦闘中に指示を飛ばす羽目になった。最も、米軍機の燃料も日本連邦が負担はしているので、アメリカがまさか、F-22をこれ見よがしに投入してくるなど思いもよらなかったからだろう。また、オジロワシと通称される自衛隊の航空隊のパイロットはF-2の訓練は受けていないので、そこも日本の事務方の上層部の軍事的無知のしわ寄せが現場に来たと言える。

――山本五十六が答弁している頃、戦場では――

「統括官、いいんですか?VFなんて、俺達に与えて。21世紀の俺達にはオーバースペックですよ」

「お前らに通常戦闘機のセイバーフィッシュを与えても、慣れる前に戦闘が終わっちまうからな。セイバーフィッシュより高性能だぞ。未改修の11より性能いいんだし。それに、こいつらは空自の登録番号付の機体だ、こんなこともあろうかと仕込んで置いて、正解だったな」

「初代がまだ現役で?」

「11を置き換えた171が19に再置き換えされた影響と、ダブルプラスが老朽化したから新造したんだよ」

「えーと、つまりフロンティアに出てきた17の廉価版がアレで、19が再生産に?」

「アップデートした19の方が激戦地の地球には合ってるんだよ」

「そりゃ、ガミラスとゼントラーディと、ガトランティス、これからデザリアムと、ヤマトの戦歴を地で行く歴史じゃ、あんな自動化された機体は」

「171も平時のコストパフォマンスはいいんだが、戦時の戦闘機じゃねぇしな」

VF-171はコストパフォマンスに優れるものの、エースパイロットがごちゃまんといる、地球本星のアースフリートからはAVFの再評価の機運を醸成したやられ役という評価しかない。激戦で鍛えられたエースパイロット達はとにかく、マニュアルの介入が効く機体を求める。それがAVFのアップデートの採用と再生産として結実した。地球そのものが標的になるため、必然的にハードの限界に人間が慣れろという思考にアースフリートは走り、とにかくVFを一新した。また、空軍新司令官の起こした騒動もあり、アースフリートの練度の高さは異常なものである。『アースフリートの若手の19Aが移民船団にいるS.M.Sのエースが乗るVF-25を倒せる』とされるほどで、移民船団のS.M.Sの質を正規軍が激戦で超えてしまった事になる。空軍司令官の起こした騒動で、ある時期に引き抜いたエースパイロットが現役復帰指令を出され、S.M.Sの手に人事権が完全には行かなくなってしまった事による強化の失敗と、今以上のエースパイロットの引き抜きに、政府のハト派が法的措置を取ったからでもある。その為、S.M.Sがイサム・ダイソンを引き込むことは不完全に終わったのと、高練度部隊を軍の予備役に登録するという、民間軍事会社として痛手を被った。だが、デザリアムの侵略が控えている故、イサム・ダイソンの素行を不問にしてでも、備えたかったという事はS.M.Sも理解はしている。その為に政府が出した示談の条件を呑んだのだ。(イサムはこのことに憤慨したが、ロンド・ベルへの配属により、機材の調達権などの裁量が無制限化したことには満足したらしいが)

「通信中に割り込んですまねーが、オレだ」

「イサムさん。どーしたんすか」

「S.M.Sから無理矢理呼び戻されちまった。おりゃ猛抗議したんだが、ロンド・ベルで機材の使用権を無制限にして、剥奪した勲章は再授与するとかでよ」

イサム・ダイソンが不機嫌な声で通信に割り込んできた。どうやら、S.M.Sにかなりの条件で移籍したと思ったら、空軍司令が宇宙軍の人事課に圧力をかけ、現役復帰扱いにしてしまった事を今更知らされたらしい。その為、剥奪されたロイ・フォッカー勲章も再授与がされたので、半ダースに溜まってしまったらしい。

「えぇ!?」

「参ったぜ。S.M.Sの最初の給料貰った途端に現役復帰扱いになってた上に、勲章の再授与とか」

「勲章なんて重石にしかならんし、要らねーっつーの、自由に飛ばせろっての!」

「アンタ、剥奪しても自動的に取っちまうから、再授与っていう形でこれ以上対象にならなくしたんじゃ」

「こうなったら、ヤンにカワイコちゃんのフルチューンさせっぞ!」

「もう弄るとこないっしょ?」

「25のエンジンに載せ替えちまう手がある」

「強度足ります?」

「ヤンの話だと、エンジン周りはアップデートを見越した構造にしてあるから、理論上は27のエンジンも載るそうだ」

イサム・ダイソンのチューンはヤン・ノイマンの協力で凄まじい方向にぶっ飛んできた。ステージU熱核タービンというのは、第二世代バーストタービンエンジンの事を指す。その為、普通に考えると無謀だが。

「ゼロと19と25はエンジンベイのサイズがほぼ一緒で、ゼロのバンキッシュレーサーで25のエンジンや19のエンジン積んでるゼロが飛んでるんだから大丈夫だろ?」

「ああ、そう言えば」

「オレ、再就職したらそっちもやる予定だったんだぜ?オレの腕がありゃレコード更新は間違いなしだ」

「そう言えば。ん?ガルドさんの命日って?」

「作戦が終わったら、エデンにオレとミュンが買った墓地に飛行機の模型でも手向けてくれ。あの野郎は模型飛行機をガキン時は買う方だったしな」

作戦中にガルドの命日を迎えてしまうため、黒江に『模型飛行機でも手向けてくれ』と頼むイサム・ダイソン。親友は今でも大破した21と共に『飛んでいる』。イサムは経緯を知っているので、墓地を買うのには難色を示したが、ミュンが『ガルドを弔う場所くらいはあっていいでしょ?』と説得したため、折半で買ったらしい。ガルドは仕事には誇りを持っていたし、基本的には人当たりは良好だったため、慕う者は意外に多い。イサムもなんだかんだでガルドとの思い出を忘れたくないのか、ミュンの提案を受け入れ、墓地を買ったわけだ。(後に、ゼネラル・ギャラクシーがYF-21とガルドを回収し、大破した機体は研究資料として復元されており、ガルドの遺体そのものは丁重に保存されているが、ゼネラル・ギャラクシーの開発用コンピュータの生体部品として、脳だけ蘇生されていたことが分かるが…)

「YF-21の模型を作っといたんで、仏壇においていいですかね」

「いいぜ。エデンに行ったらオレの自宅の仏壇にでも置いとけ」

と、しみじみした会話を繰り広げる黒江とイサム・ダイソン。黒江と自衛隊の通信中に割り込んだ都合上、自衛隊に筒抜けであった。

「統括官、凄い人と知り合いなんですね…」

「聞いてたの?お前ら」

「はい。全部」

「ハハハ、別に隠すようなことでもねぇだろ。オジロワシの皆さん?」

「本物のイサム・ダイソン中尉で?」

「今は少佐だけどな。こいつに19に乗り換えるように言ったのオレだし」

「「「「「ガルドさんの供養参加させて下さい!!」」」」

「おわっ!いっぺんにいうなって。わーった。オレが手配するから、作戦が終わったら23世紀のエデン行きだ」

イサムはシャロン・アップル事件の中心人物であり、YF-19のパイロットであった事は、21世紀日本では有名である。

「「「「「イーヤッフーゥゥゥ!!」」」」

「うるせぇぞ、ABCD愚連隊め!」

「はーい」

イサム・ダイソンは航空機バカを地でいくのと、早乙女アルトの父親の親友でもあるという美味しいポジションにあるので、空自でも人気者らしい。イサムはロイ・フォッカー、ジーナス夫妻、エイジス・フォッカーなどと並び称される腕前を持つので、いつの時代の飛行機でも大丈夫である。

「手作り飛行機で飛んでたオレに、いくら空自の伝説のオジロワシでも勝てねぇだろうがな」

「貴方の飛び方はコブラの連中が見たら腰抜かしますよ。」

「綾香のガキンチョに腰抜かしたらしいしな」

イサム・ダイソンが宇宙軍航空士官学校にいた頃、連邦宇宙軍の源流が空自にある事から、『オジロワシ』の事を習っていたらしい。一時は黒江が在籍していた記録は時空融合を経ても残っていたのか、その時期は伝説とされている。イサムが言ったのは、再接触で復元された、そのあたりの記録がソースである

「そりゃ、統括官は実戦経験ありましたし、防大での授業や飛行訓練の段階で目立ってましたからね。私の先輩が統括官のTACネームの名付け親でして」

黒江は防大時代から目立っており、シゴキが効かない、飛行訓練では教官より上手い、整備の方面にも興味を持っていて、自習もものすごい事から『自習室の皇帝』とも渾名されていた。二年目に源田実からの通達がされると、空自がパイロット制限を任官に合わせるようにして撤回するように動くなど、政治的に影響も及ぼしている。旧軍のトップエースの一人なら、技能的には教習する意味がなくね?という意見さえ出た。実際、黒江の同位体が元空将補であることが判明すると、『技量レベル的に、私が教える自信は…』と言う教官も多かった。実戦で既に1000時間を超えた飛行時間を誇り、既に扶桑の英雄である将校。それが通達された事で、防大教官達は大いに戸惑った。送り込んだ張本人の源田へ、『幕僚長、いえ、大佐。黒江少佐ほどの経歴なら、ウチより幹部学校に行かせたほうが…』と愚痴ったほどだ。防大相当の教育課程は陸士で既に終えていた事も判明したためだ。当時、黒江は『同位体って言っても、この通りの若造だから、それなりにしごいてくれて構わんのですがねぇ、やりにくいでしょうが』と言ったが、防大側は『貴方は既に現役の空中勤務者で、しかも、部隊を率いる立場になれる将校だ。それが分かった以上は、手荒に扱う訳にはいきません』と返した。校長も『現役将校であることが分かったので、こちらで教育できることはあまりありません。在学中に自衛官の心構えさえ覚えてくれればいい』としたが、他の学生への体面上、表向きだけはしごくという黒江と防大の間で密約がなされた。黒江は『密約』以降は防大が『お客様』と裏で扱ったのを抜きに考えても、優秀な成績を納め、表向きの『20代』の内に指揮幕僚課程にも一発で合格している。その為、今回の試験は免除されていた。しかし、扶桑の後輩への体面の問題もあり、レイブンズの三人で試験を受け、同時に合格している。試験の不合格者は、兵学校が一年未満の期間に短縮され、速成が顕著であった海軍に多かった。特に扶桑海以降の短縮課程になってからの世代に顕著に見られ、純粋培養の訓練校出身の佐官や大尉の合格率は50%を割り込んだ。角田覚治や山口多聞は、合格率の惨状に目を覆った。七勇士の代からのノウハウ継承が上手く行っていなかったことの証明になってしまったからだ。

「統括官、試験の第一次結果発表ですが、合格率は平均で五割に届きません」

「なにィ!そこまで短縮してたのかよ!」

「海軍の古参ウィッチでも、合格率はおおよそ四割ほど。統括官、こうなると覚悟を決めた方がいいかと」

「うーむ。いよいよオレンジが赤になってくるな」

「上は2.26と騒いでますが、海軍が主体なら、第二の5.15と言うべきですな」

「近衛師団の連隊への縮小、キ99の不採用で、陸軍も現場に不満が溜まっているのと、紀伊型戦艦の練習戦艦化の内示への不満がここ数ヶ月以内に爆発しそうだなぁ」

黒江が坂本のラインで聞き取った本土の様子では、史実で言うところの血気に逸る青年将校がむしろ海軍に多い。これはウィッチ世界では、扶桑海事変でのレイブンズの活躍以降、何かと国民から小馬鹿にされる日々である上、機密のはずの大和型をバラされる、戦後に授与された金鵄勲章はレイブンズの方が高位だった、クロウズはパッとしない、未来からの横槍がむしろ自分たちのほうが多いという現状が不満だったのだ。

「海軍の青年将校達は何故、統括官達を目の仇に?」

「政府や軍が、私らを最大限にプロパガンダしたのが原因だ。まっつぁんが怒ったのも無理ねぇ。あの時に200くらい落としたのに、上官が無確認にしちまったせいで、この有様だ」

黒江達の事変での正確なスコアは、江藤がまとめておいた日誌によれば、空戦型で170、陸戦型が300体と、現時点でも燦然と輝くものだ。江藤は自宅を半壊された際、若松に『小童、部下の慢心への戒めのつもりだったのだろうが、おかげでクーデター勃発は確実だ!どうしてくれる!』と怒鳴られ、そのあまりの剣幕に、赤松に『助けてください!!』と本気ですがっている。顔から出る物が全て出ており、赤松にも『見苦しいぞ!』と冷たい態度を取られている。仮にも元・中佐の取る振る舞いではない。若松が怒気全開で黒江達が501でトラブルになった事を告げると、江藤はますます混乱。『若、やめとけ。これ以上やると壊れるぞい』と赤松がストップをかけた際には、ショックで一時的な幼児退行まで起こしていた。赤松が落ち着かせて、日記を出させるように促し、その際に現役復帰の正式な同意もさせている。黒江達のスコアが全て公認されたのは、江藤の現役復帰と同時であり、黒江達が一度目の査問を受けていた頃に相当する。江藤は現役復帰前、ドラえもんが新見薫のもとへ連れてきて、カウンセリングを受けている。(新見はこの際に若松を諌めたとの事)カウンセリングが完了した後は精神的に概ね落ち着いたが、若松を怖がるようになる副作用が残った。その為、江藤は黒江が気に入られている理由をしきりに聞いてくるのだ。

「統括官の元・上官は江藤参謀ですよね?」

「以前は遠慮してたが、今回は転生して二回目だから遠慮はしねぇよ」

「お前には負けるよ。転生者と分かってれば、スコアを最初から認めてたさ」

「隊長、若さんに怒られたからって、愚痴っすか?」

「本当に殺されるかと思ったんだぞ。しかも今回で二回目だと?全く、それが分かってれば、あの時点で協力してやったのに」

「だって、当時の私はペーペーの少尉ですよ?戦後直後の拝謁でさえ、差し出がましいって言われてたし」

「愚痴くらいいいじゃないか、お前のせいでもあるんだし。先輩達から全て聞いた。転生者なら、どうして私を立てたんだ」

「隊長、最初の時は散々な経緯で退役ですからね。花道を飾ってあげたかったんですよ」

黒江は最初の生の時の江藤の退役理由に納得ができず、前回からは『64Fの初代隊長』の箔を与えている。そのため、新・64Fの結成に深く関わっている。書類上で復活とされていたり、初代隊長が江藤とされるのは、編成上は全くの同一である故、別扱いではないからだ。

「まさか、64を自分で建て直す事になるとはな。中核メンバーはあの時の連中に後輩を数人入れたくらいか?」

「親父さんが既に、編成案を了承してます。だけど、誤算が」

「誤算?」

「飛行長に343空からそのまま、志賀のガキを充てる予定が、あの野郎、横空に行くとかで辞退しやがったんですよ」

この時、志賀は坂本に任務を押し付けた格好であったため、黒江から睨まれていた。志賀は『海軍にエースといった称号なく、全て共同戦果として考えるのが伝統』とする思考をしていたため、黒江達の64Fに自隊を吸収させる源田の施策に反対するなど、坂本や雁渕からも、かなり不快感を持たれていた。頼りの赤松や坂本からも不興を買った事を契機に、343空を異動の形で去り、直接の後輩の孝美へ置き手紙を残している。『俺のこの気持ちは貴様には分かるだろう…』という前置きで書かれていた置き手紙は、志賀世代の海軍ウィッチがレイブンズのプロパガンダへ個人的に反感を持っていた事を赤裸々に記すもので、黒江は『親父さんに迷惑かけやがって!直接指名で343空に呼んだのに!』とお冠である。志賀はこの異動の選択を戦後の退役前、『若気の至りだった』と悔やみ、黒江のもとを訪れて直接、謝罪をしている。先輩である坂本に戦中の過酷な戦を押し付けたことが彼女の罪悪感を煽っていたのだ。『みんなで名のない英雄になりたかったんです。先輩方は自分の力だけで成り上がったようにしか……』と、45年当時の自分を振り返った上で、黒江に土下座している。志賀は『大戦』を通して後方にいたが、64がハワイ戦線からのリベリオン大陸戦線と、終始、最前線の最前線にに投入され、引退していたはずの坂本でさえも駆り出されていた事に終始、罪悪感を抱いていた。志賀は343空を去る日、『名の無い英雄は市民に知られないから英雄と認められない、英雄の居ない軍には市民の力が及ぶ政府は力を与えない、そして個人の努力を認めない世界はソ連の様に人々の魂を腐らせる。皆が切磋琢磨するには目標を作ること、エースとはその目標として目指されるものとして自己鍛練し、皆を引っ張り強くするために必要なのだ』と訓示された事を、ワシントンDCに旭日旗を立てるため、血みどろになりながらも、旗をホワイトハウスに立てたレイブンズの姿を衛星中継で見る事で、ようやく意味を悟るのだ。(いくら黒江達が一騎当千といえど、死をも覚悟して突っ込んでくる軍団との対峙は骨が折れるもので、最後の一人を打ち倒す時には血塗れの状態になっており、旭日旗を血で染めていた)リベリオン軍は文字通りに最後の一兵まで抵抗し、レイブンズにも相応の負傷を負わせた(圭子で最終的に肋骨にヒビ、片目を負傷。智子で上半身裸と愛刀の損失、更に片足骨折。黒江でも、右腕をへし折られ、乖離剣を使用せざるをえない状況に追い込まれている)。神格化している三人に、これほどの負傷を与えた例はない。デルザー軍団でさえもなし得ていない事だ。つまるところ、リベリオン軍は史実の日本軍が本土決戦でやろうとしていたことを自分たちが図らずも再現し、リベリオン軍は壊滅と引き換えに、レイブンズを病院送りに追い込んだのだ。つまり、扶桑軍は文字通りにリベリオン決戦で大陸領奪還作戦用に育成していた兵力を全て使い果たし、勝利は得たものの、まともな軍事行動を数年は封殺されるほどの犠牲が出たのだ。志賀が気に病んだのは、『刀折れ矢尽きる』状況まで戦い抜くことを本当に実践し、勝利をもぎ取った姿に対しての自分の温室ぶりに恥ずかしさが芽生えたからだろう。

「黒江、志賀は生え抜きの戦後の海軍ウィッチだ。お前らのプロパガンダに反発して育っている以上、お前達が一騎当千をもう一回しないと、折れんぞ」

「ちぇ、面倒くさい世代だぜ、あのガキャ。ニューヨークかワシントンDCでも落とさねぇと無理っぽいな」

黒江は愚痴る。後の戦争で本当にそうなってしまうわけであるが、さすがの黒江もそれは知る由もない。実際、そうなるまで重度の負傷は数える程度しか負わなかったので、リベリオン軍の決死の覚悟は黒江達に届いたと言える。デルザー軍団でさえもなし得ていない事を可能にしたのは、『可能性の力』かもしれない。人であり、神でもある黒江達は、神としての力と人の可能性の大きさを両立させた存在であることの証明でもあった。

「しかし、お前達がエクスカリバーを持つとはな。信じられん…あの時のアレもまさか」

「ええ。正真正銘の約束された勝利の剣。私はアルトリアと違い、宝具そのものではないですけどね」

「もっと言えば、私なんて、同調で持てたようなものですよ、参謀。本当はシュルシャガナなんですけどね、私」

調は本来、シュルシャガナの力を持つが、宝具としての本質とは変質しているため、エクスカリバーの力にシュルシャガナ本来の力である炎の力を加える事で、本質に近づける努力をしている。

「お前、そういやぁ引っ張られてるな、ギアに」

「ええ。本当は『万海灼き祓う暁の水平』というのが力だし、本当は剣のはずなんですよ。グングニル以上の力さえありそうな」

調は切歌への幻滅から間もない頃であるので、切歌の手は取るが、手は貸さないという選択を意識していた。その事が皮肉にも、シュルシャガナの本質の覚醒のトリガーだった。シュルシャガナは鋸ではなく、万海灼き祓う剣なのだ。その力を手にするため、調は黒江の紹介で戸隠流・正統・磁雷矢に弟子入りするなど、師に似て、なんでもやるタイプになった。そもそも、本来辿るはずの歴史においては、実は先祖代々の忍者である緒川慎次に稽古をつけてもらう事もあるので、習う相手が磁雷矢になったか程度の違いではある。最も、磁雷矢は世界忍者戦を戦い抜いた実戦派なので、実戦派の忍術(カクレンジャーより古来の忍術に即しているので、黒江が紹介したのも頷ける)を教えられている。なお、その磁雷矢も現役時代からそれほど経っていない青年時代の姿で参陣しているが、別の時間術の自分自身の記憶が磁光真空剣の力で共有されている。その奇跡により、調や黒江とは別の自分自身同様、師と弟子の関係である。調は修行の成果か、身のこなしが別人と言えるほどに身軽になっている。戦国時代で忍者の実戦を経験したり(のび太の協力で、甲賀や雑賀衆の忍者になってみたり、江戸期のお庭番になってみたり)している事で、足腰が鍛えられた結果が数々の足技である。

「君の名前は?」

「本名は分からないんです。物心付く前に米国に拉致られたんで。その時につけられた仮名は月詠調。それを今は名乗ってます」

調は実家らしい場所こそ、黒江や圭子のその後の調査で『調神社の亡くなった宮司の息子夫婦の間に出来た第一子ではないか』という事が判明している。実際にシンフォギアと関わりがない世界では、彼女は別の名前で、その暮らしをしていた。調当人は古代ベルカ生活で『騎士』としての生活に慣れてしまったため、その生活に今更戻れる気がしないとしている。その意識の変化も、元のシンフォギア世界に馴染めなかった原因だろう。そして、切歌が自分の姿に狂気の刃を何度も向けるのを幻視し、それまでの愛が幻滅に変わり、のび太のもとへ出奔している。

「あの切歌って子は、君の?」

「仲間だった子です。私は切ちゃんに依存してたんです。どうしようもないくらい。でも、人智を超えた力で引き剥がされた事で、ふと周りを見ると、如何に私自身が頼ってたか、分かったんです。だから、行く先は同じだけども、別の道を歩くべきだって思ったんです、江藤参謀」

マリアや切歌と同じ道を歩むことばかりが友情ではない。レイブンズの三人が21世紀でそれぞれ違う副業をしているように、自分も、のび太やドラえもんの歩む道を歩む事で、自己を確立したい。それが調がのび太の家で居候することで得た答えだった。(野比家の居候中はギア姿を通しており、それに付き合った箒もアガートラームを使用している)切歌も、別れから旅立ち、銀河の中心の手前で、『歌』の本質を、ある男との出会いで知る事になる。

「さあて。よーく見ててくださいよ、参謀。私達の持つ聖剣を!」

調、黒江、アルトリアが一斉に風、雷、炎をいっぺんに巻き起こしながら、聖剣を手に持つ。三振のエクスカリバーが揃った事で起こせた共鳴現象だった。

『束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流!!』

『三振の勝利の剣がありし限り、我らに!』

『勝利は約束される!』

三人が一斉に天に掲げる、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。

『風、炎を巻き上げ雷を纏う、敵をただ打ち砕かんがため!!』

三人は一斉に詠唱を行い、エクスカリバーの力をフルチャージする。この光景は体内洗浄を済ませたばかりのマリア、切歌、そしてショックでの昏倒から起きたばかりの響も同室のモニターで見ていた。

「あれは……!?」

「黒江綾香が度々見せていた、約束された勝利の剣……!」

「私が何回か斬られたおっそろしい剣デス……!調の力はシュルシャガナじゃ……」

「私も実は一回食らってるよ、切歌ちゃん。私のガングニールの力で繋ぎ止めて分散させられなかった、ただ一つの攻撃…。綾香さんが最強の聖剣の一つだって言ってた。哲学兵装も通じない、人の願いが生み出した力だって」

響の語尾は震えていた。ガングニールの力を以ても『繋ぎ止め、分散させることすらできなかった』唯一無二の力こそがエクスカリバーのエネルギーだった。それすら超える『天地乖離す開闢の星』を見せつけられ、なのはに辛辣な言葉を叩きつけられた直後だが、『正義を信じて、握り締める』事をやめてしまえば、自分が自分でなくなると昏倒している内に自問自答したか、『折れる事で得られる強さもある』と学んだらしい。その辺では、黒江の心配は杞憂だったらしい。

「大丈夫なのデスカ?あの人達に酷いことをされた後デスよ?私が抗議しておいたデス!」

切歌は調を含めた三者へ猛抗議している。珍しく、調へも怒気を孕んでの抗議をしているほど、大いに憤慨している。三人は黒江に怒られ、黒江が保護者として詫びを入れて来たが、黒江にも抗議せずにいられなかった。黒江はなのはの真意を、覚醒めた響に、『折れても構わない、ただし、しなやかに、曲がっても届く所へ手を伸ばせ!壁を這い上がる蔦の様に、大木を絞め殺せるが柔らかくしなやかに曲がっても太陽に届こうと足掻く蔦の強さを身に付けるんだ!って言いたかったらしいんだ。あいつも不器用だからなー。今回の事は私に免じて、許してくれるか?』と詫びを入れている。ガングニールを復元した上で。また『強くしなやかに、全てを飲み込む恐ろしさってものを仕込んであげる』と、お見舞いに来たなのはから直接伝えられている。

「綾香さんが謝ってきたよ。私にも非はあるのは確かだよ。私は自分なりに正義を信じて、握り締めていきたいって言ったよ。あの人、調ちゃんの姿になってたけど、すごく優しい顔だったよ」

「うぅ。かってに調の姿を使わないでほしいデス……」

調の姿を黒江がまたも使いまくる事に愚痴る切歌。それと同時に三人の聖剣が発動された。それはヒーロー達も目を見張る『最強の幻想』だった。

約束された(エクス)―――』

勝利の剣(カリバー)――!!』

その瞬間、風、雷、炎。三つの力を持つ黄金の瞬きが戦場を奔った。その光景にあっけらかんとする一同。

「な〜にボケっと突っ立っていやがる?ガキ共」

「あ、圭子さん」

「レヴィ、弾薬の補給に?」

「補給しねぇと、戦できねーからな。ん?クリスってガキはどーした?」

「あー、クリスちゃんは今、浴室です」

「あれくらいの事でブルったのか。ったく、半端な覚悟じゃ死ぬだけだっつーの」

圭子は変身しているので、言葉づかいが荒々しいの一言。口にタバコ型の薬を咥えている事もあり、どう見てもカタギには思えない。なお、響だけは『圭子さん』と変身していても呼ぶのは、響の前には、最初に素の姿で現れたからだろう。

「あのー、圭子さんはどうして、そのヤサグレのアウトローみたいな姿でいるんですか?」

「こう見えても、あたしは国家の英雄だ。素の姿じゃ隠密行動できねーから、元と似ても似つかねぇ姿を取ってるんだよ。おぅ、大丈夫か?お前、正義云々言ってたみてぇだが、正義ってのは誰もが持っていて、誰もが同じ正義とは限らねぇんだ。だからお前の正義はお前の胸に入れとけ、人に押し付けるな。 あたしらはお前の正義を否定しねぇ、誰かに押し付けない限りは。それに正義は普遍じゃなく変わっても良いんだ、むしろ変われない正義はどっかで行き詰まるからな。それに今の姿はあたしの正義が変わった結果だ。優しさだけじゃ、行き詰まっちまったからな」

圭子は黒江を生き残らすため、ゲッターロボで自爆を敢行した前史のことに触れる。その優しさが黒江を却って、傷つけてしまったからあろう。圭子の二度目の転生の心理はまさしく『レヴィ』だった。

「レヴィ、貴方…」

「人間、誰にでも失敗はあるぜ、ガキンチョ。特にあたしらは何回も転生してるから、余計に失敗が多くてな」

レヴィとしての圭子はどこかアウトローで、ニヒルな近寄り難さを醸し出すが、心を許した者には優しさを見せる。その点も自衛官に人気で、ガンスモーク、ガンスリンガーと渾名されている。

「ガキ共。これだけは覚えとけ。自分自身を勝ち取るにゃ、それだけの覚悟がいる。あたしらは戦場にいる事で自分自身を勝ち取った。お前らもせいぜい頑張って、自分自身を勝ち取ることだな」

圭子は言葉づかいはアレだが、その場にいる三人を激励する。タトゥー、二丁拳銃など、どこから見ても将校には見えない要素満載であるが、仕事はしっかりする。

「レヴィ、それって励ましでいいのかしら?」

「好きに取ってくれよ、んなもん」

圭子の照れ隠しでもあるが、レヴィとして言うと、そんな言葉でも威厳がある。そのため、マルセイユも近頃はようやく慣れてきたと言っている。言葉づかいが荒々しくなった事、元の姿だと、優しそうな風貌と言葉づかいのギャップが埋めがたいらしく、なんとかしろとロンメルから言われたのが、変身した最初である。

「言葉なんてのは、口から出た瞬間に意味が半分に、聞いた側は発言者の意図を聞き理解できるのは発言者の頭に浮かんだ物の1/10くらいらしいからな」

「はいはい」

マリアは最年長である(21歳)であるので、圭子の言葉を上手く流せる。元々の圭子に近い性格であるのがわかる(苦労人という属性も同じだが、箒と同じで、ギャグに弱い)が、苦労人体質も似ている。箒と双子のような側面もあり、それが箒がアガートラームをいきなり使用しても、フルポテンシャルを引きだした理由でもあったりする。この後すぐ、マリアに箒から『すまないが、アガートラームを使わせてもらった事を事後報告していいか』と言われると、『黒江綾香といい、あなたといい、どうして聖遺物をポンポン使えるのよ〜!』と爆発してしまうが、箒は『いや、私は黄金聖闘士だし…』と困った様子を返し、聞いていた四人を呆れさせたという。



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