外伝その171『戦況報告』


――宮藤芳佳はダイ・アナザー・デイ中に前史で夫であった宮菱重工業の技師と再会。芳佳は『今は年齢が若すぎるから、結婚するにも数年は待ってほしい』と、後の夫に返し、婚約した。10代半ばである当時の年齢は、平成の世でも、当時から見ても若すぎるからだ。

「やっぱ震電は無理ー?」

「無理だよ、芳佳。アレは横須賀航空隊が領収している。私は宮菱の技師だし、筑柴飛行機にはコネがない」

「ちぇー」

「紫電改は限界までチューンしたが、君の魔力から言えば、そろそろ旭光に乗り換える準備を始めるべきだな」」

「旭光の手配は?」

「開戦までには間に合わせる。君には私の調整が必要だしね」

数年後に芳佳の夫となるこの技師、宮藤一郎技師の最後の愛弟子であった。当時新進気鋭の若き秀才と評判で、第二世代宮藤理論の立役者である。当然、黒江達とも付き合いがあり、ダイ・アナザー・デイでは、彼が出張という形で、真501のストライカーユニットの整備を統率していた。

「先輩たちが未来で使ったストライカーユニットが不調だった原因わかったー?」

「分かりましたよ、黒田大尉。エンジンが鋳造の段階で型くずれ起こしてたんです。あれじゃ規定出力の7割も出せませんよ」

「先輩たち、キの100に乗り換えたんだけど、正解だったって事?」

「あれはウチの金星を使ってますからね。あれは改良しまくったんで、出力上昇自体は限界なんですが、熟れてますから。長島の誉とはワケが違う」

「戦線全体の稼働率は?」

「部隊練度にバラツキがあるので、今、集計し終えたところによれば、キ84は良くて四割、悪くて一割というところですね」

「良くて四割ぃ?何それ」

「誉エンジンタイプの部品供給が止まったので、リベリオンのエンジンの部品で賄うんですが、リベリオンの分裂でそれも潰えたんで」

「マ43に載せ替えは?」

「長島の強度試験がまだなんです。現地で載せ替えはできますが、メーカー保証がつかないと」

「うーん。主力のうちらのストライカーユニットがこのザマたぁ、参ったね」

「キ100を回せないの?」

「陸軍が84の方を重点整備してたから、100は数がまだ用意できていないんだ。レイブンズの皆さんに回せたのは奇跡に近い。あの方達だからって、本来は244Fが領収するはずの個体が回されたから、彼女らは怒ったようだが、レイブンズ用と分かると、引き下がったそうだ」

「そうだよねぇ」

「あれ、そこって黒江さんの後輩がいるところじゃ?」

「大林だよ。大林照子。先輩の何期か後輩で、あたしの士官学校での後輩。244Fの戦隊長」

黒江が最近、使いっ走りにしている若手(当時)ウィッチの大林照子。13歳にして大尉という、若手のポープで、黒江、黒田の士官学校での後輩である。この時点では244Fを率いる軍最年少の大尉で、その美貌もあり、『扶桑のマルセイユ』と言われている。黒江の通った航空士官学校の出である事から、黒江と黒田に目をつけられ、最近は使いっ走りである。無論、黒江と黒田は同隊に便宜を図ってやっており、それで大林の心を掴んだ。(バルキリーも回してやるなど、二人は機材の優遇措置を244に与えるように便宜を図っており、それも事変未経験の彼女を心酔させた)

「あいつにはVFを回してやった。飛燕の稼働率に悩んでたしね」

「何を回したんです」

「11EX。あいつは初心者だが、自衛隊に行ってるから、11でいいだろと先輩が」

「やりますね」

「11も悪い機体じゃないぞ?やられ役の量産機だが、下手にVF-5000やVF-4を渡すよりは安定してるし」

「特徴がないのが特徴って聞きましたよ?」

「コウさんみたいな事言うなよ。安定して、初心者でも扱えるってことだから」

「なるほど」

「11はそれこそ、ティターンズも簡単に手に入れられるくらいありふれてるからな。バンキッシュレースでリーグあるし。パーツも容易に手に入る」

「そーいえば、あれで腕を磨いたんですよね、皆さん」

「まー、19や25が出てきて、練習機に回され始めてるからな。あたしや先輩はそこから乗り換えたけど」

11は練習機として、ウィッチ達の入門機としても縁深い。黒江の場合はそこから17を一時使ったが、イサム・ダイソンと懇意になったこともあり、19へ鞍替えしている。同時期にフェイトはそのまま22へ順当に乗り換えているので、人それぞれである。

「まー、日本が空自を大規模に派遣することを露骨に渋ってるからってこともあるよ、バルキリー渡したのは」

「なんで露骨に渋ってるんです?」

「日本の非戦の風潮が原因だよ。今回の12機も条約違反だと脅されたから、渋々、国民が認めたようなもんだしね」

「どういう理由です?」

「ああ、2018年になるかならないかくらいの国会でこういうやりとりがあってさ――」



――2017年の年末から2018年の年始――

「扶桑の海外派兵に何故、我々の航空自衛隊を付き合わせるのか」

「これは日本連邦憲章に則った派遣であり、扶桑は現地の国際連盟の常任理事国であり、要請に従って派兵しているのです。そうでなければ、連合艦隊主力が出るはずはありません」

当時、日本の野党は日本連邦での恩恵で、日本の経済が持ち直し始めたため、自らの存在意義の喪失を恐れており、何から何までイチャモンをつけるのが常套手段だった。

「憲章に従って、空自の部隊を派遣する事は当然であり、連邦構成国の義務なのですよ、義務」

与党側と防衛省は日本連邦という、強力な錦の御旗を手に入れたため、軍事に関しては野党の干渉の殆どを防いでいた。彼らは政権を握っていた時期に『軍事の素人』である事を露呈しており、与党への攻撃材料を殆ど失っていた。しかし、彼らのイチャモンも時には効果があった。空自の派遣規模の抑制を国民が望んでおり、それもあって、12機という必要最小限の機数しか作戦機は送れなかった。しかしローテーションを理由に、パイロットのみはその三倍送り込んでいた。機材は現用機の派遣が部内で疑問視されたので、消耗したとしても惜しくない『F-4EJ改』の装備部隊から出された。(後に、米軍がデモンストレーションでF-22を使用したので、赤っ恥となったが)陸自と違い、空自は邀撃に特化している軍隊であるので、侵攻作戦に向いていないという事情もあったものの、機材については嫌々出した感も強く、部内では米軍と比較して、俺達は赤っ恥だと嘆く声もあった。

「しかし、第二次世界大戦の時代に最新鋭機を持っていく意義がどこにあるのか?」

それはもっともな疑問である。第二次世界大戦中のレベルであれば、朝鮮戦争で使用された初期型ジェットさえあれば充分なのだ。

「それは最もですが、我々の持つ機材で最も旧型のF-4EJでも、大戦から10年後の初飛行と、朝鮮戦争後の開発なのです。F-104Jはすべて標的機になり、消費し尽くしました。F-86に至っては、アメリカの現存機を探すのも一苦労です。我々の現用機のF-15JやF-2がだめというなら、F-4EJ改を使用せねばなりませんが?」

自衛隊は退役した機体は標的機にするか、スクラップにするか、返還するかの三つ通りの道であったので、扶桑に持っていけそうな機体はF-4EJ改しかない。しかも同機は21世紀も18年になった時代においては、老朽化がのしかかっている。

「いいですか?相手は現地の軍隊だけでなく、異次元の超科学を有する軍隊です。学園都市の装備すら問題外の技術力を誇る軍隊が裏で糸を引いているのですよ?現用機ですら相手できるか怪しいというのに、貴方方は隊員に死ねと?」

「それならもっと早く……」

「今からでは間に合いません。現地にいる黒江統括官の裁量で、同じ異次元の軍隊から装備を借用できないか取り計らせますが…」

「アメリカはF-22を実戦テストも兼ねて運用しています。我々が50年前の旧式機では、出し惜しみと非難されます。英国もタイフーンを出しているというのに」

「……何故です」

「だから言ったでしょう。現地にいる異次元の軍隊との交戦が考慮されていると」

――ティターンズの有する自前の戦闘機は21世紀の戦闘機と比べても、概ね、性能に顕著な差は無いが、一部の核融合炉搭載機は比較にならない性能を持つ。それはアメリカ軍も見ており、F-22を持ち込んだのだ――

「その彼らが本腰を入れた場合、ゼロ戦や隼で超音速ジェット戦闘機に立ち向かうような場面が表れるのは時間の問題かと」

「……」

「では、黒江統括官にそのように命令を発しても問題は無いですな?」

「げ、現用機の派遣を、い、今からでも」

「貴方方が世論を煽ってくれたおかげで無理になりましたよ」

「まさかそんな相手が裏にいるとは…!」

「我々は何度もご説明しましたが、議員?」

この答弁は、黒江にVFの調達の大義名分を与え、自衛隊の中からも、選抜者にVF-1EXの訓練を受けさせられるようになり、却って良かったと部内では評判である。アメリカ軍は可変戦闘機に整備の煩わしさを理由に、自衛隊で行われる可変戦闘機の運用を疑問視していたので、デストロイドを要求してきたほど、デストロイドに傾倒した。この傾倒が後の日米戦争敗戦後の大慌てに繋がるのである。(可変戦闘機を反統合同盟が実用化したため)ともあれ、アメリカ軍はデストロイドを得、自衛隊は可変戦闘機を得ることとなり、これが歴史的には『VF-0』からの可変戦闘機の隆盛に大きく関わるのである。日本はこの時の試験運用で可変戦闘機の可能性に気づき、自前で基礎研究を開始する。それはマクロスの落下後一気に具現化し、VF-0として実現する。帳尻合わせという奴だが、この時に黒江がYF-29、VF-31までを使用したことが、それらの実現に間接的に効果をもたらしたのかも知れない(のび太が桃太郎のモデルになったように)。



「――って感じ。多分、今のこの作戦でVFを見た連中の子孫が、後々にVFの基礎研究を推進させたんじゃないかな?マクロス落下前にタイガーキャットっていうトムキャットのエンジンがVFになっただけの機体があったらしいから」

「ありそうですねぇ」

「技術的に造れなくても、いい刺激になるのさ。今は造れなくても、遠い未来には当たり前になると分かれば、予算も得られるのさ。私とお義父さんの震電改二のように」

「いつできる?」

「ジェットエンジンの仕様策定次第。前史よりは伸びるだろうね」

彼はこう述べたが、今回はクーデターの余波の焼却事件で原型機が失われ、エンジンの図面も失われたため、一から再設計したため、性能は飛躍するものの、登場が遅延することになる。これが次元震パニックの際、マ43ル特の補給部品がそもそも調達不能と言わざるを得ない理由に繋がる。旭光のエンジンである『J47-GE-27』が早期に完成、旭光の生産が低率生産であるが、始まったので、旧来のレシプロエンジンの改良型にすぎないマ43ル特を採用する意義はなかったのだ。そのため、既に領収された試作エンジンしか存在せず、しかも図面も燃やされたので、再現不能になった。横須賀航空隊出身者が戦後に再建されたテスト部署に関わりを持たなかったのは、この事件が出身者の心に尾を引いていたためだと、後世には伝えられている。この事件の際の源田実の激怒は相当なもので、『貴様らは宮藤博士最後の遺産を無にしたのだぞ!!』と剣幕でまくしたてるほどであったとされる。その結果、横須賀航空隊出身者はテスト部署との関わりを絶ち、前線で散っていった者も多く、それもそれを止めることが出来なかった志賀を苦しめたのかもしれない。彼女が軍で最後の仕事として関わったのが震電の関連資料の焼け残りの復元や、九州飛行機の工場跡地から掘り起こされ、復元された震電の調査であったのは、横須賀航空隊の隊員であった者としての罪滅ぼしだったのかもしれない。実際、大戦中には退役の意思を固め、黒江に詫びる機会を探っていたが、黒江は第二次扶桑海事変まで、志賀と会えずじまいであるので、この時間軸からは10年以上待つ事になる。

「お父さんの最後の遺産か……でも、なんで筑柴の機体にお父さんが?」

「ウチが烈風にかかりきりだから、筑柴に持ち込まれたみたいでね。不採用通知が来てすぐにジェット化の研究が始まったんだが、試作エンジンを載っけて横空に納入したらしいんだ」

「それがお父さんの」

「最後の遺産。坂本少佐が君の機体に欲しがったが、空技廠が拒んでね」

この時、彼が言ったのは本当で、性能はレシプロとしては高いが、今後のジェット機の登場の妨げとなるのを恐れた空技廠が出さなかったのだ。実際、欧州に専用部品も多い機体やエンジンの部品を補給できるか不安があり、彼がチューンナップした紫電改が芳佳に宛てがわれた経緯がある。しかし、横須賀航空隊の若手がクーデター失敗に悲観して燃やしたので、その性能は永久に分からずじまい。横須賀航空隊出身者が罪滅ぼしとして、前線で散っていった事情は震電が宮藤一郎最後の遺産であると知ったショックも関係していた。

「空技廠が権利を?」

「今は横須賀が持っている。だが、君を前提にしたエンジンはあそこのウィッチの手に余るだろうから、死蔵されるだろうな」

「あたしの力が前提じゃ、レイブンズしか起動できなさそうだしねぇ」

「恐らく、発案者の鶴田敬子少佐も例外ではないだろう。それが量産がゴーサインされなかった要因だ。量産化改修をした場合、性能が下がる試算がされたのもあるだろう」

「まー、性能が下がるのは扶桑軍嫌うしね」

「うむ。試作エンジンの予備部品が作れれば、君が使えたかもしれんが…」

震電。後に現れる『B』にとっては新たな翼だが、この場にいるAにとっては、様々な理由で彼女の手に渡らなかった愛機。その点はアムロ・レイのアレックスのようなポジションであった。彼は『キャパシタを組み込めば、そのままの仕様で量産化できる』と進言したが、既に、より高い性能と簡単な工程で生産可能な旭光に傾倒していた軍部の興味を惹かず、立ち消えとなっている。なお、B世界のものを『テスト』と称し、使用する機会はあり、『旭光がもうちょい遅ければね』と残念がったらしい。なお、震電改二そのものはエンジンが想定よりも遥かに強大な推力のものになった事、翼形状の調整の妙で、なんと第三世代戦闘機相当の、当時としては異常な高性能を双方の分野で発揮し、旭光を退役させるに至り、扶桑の意地を見せたという。(ストライカーユニットとしても同様)なお、戦争中、マイナーチェンジで改良型アドーアエンジンを積んだモデルも造られ、これはアドーアエンジンの汚名を雪ぐ結果を残したという。(アドーアエンジンが巷で欠陥品扱いされた経緯を知ったチャーチルが21世紀ロールスロイスに激怒し、同社に怒鳴り込んだという嘘か真かの話もあるのだとか)


「やぁ、技術談義で盛り上がってるね」

「カミーユさん。ヒスパニア方面の戦況は?」

「MSはヒスパニア方面に多く投入されている。旧ジオンのも使っている。恐らく数合わせだな」

カミーユがやってきた。Zの整備のためだろう。

「数合わせ?」

「ティターンズは自前のMSはあまり多くはない。アナハイムやシンパから補充するにも、数は限られるから、一年戦争で連邦軍が鹵獲したジオン系の機体も使って来ている。イフリートやケンプファーは強敵だよ」

「なんで、ヒスパニアにMSが?」

「戦車の運用が難しい、ヒスパニアの地形を考えたんだろうな。機甲師団は山だと進軍速度が遅くなるからな」

「MSは足やスラスターがありますからねぇ」

「ああ。設営にも旧式機の転用重機は使われてるしな。ジムとか」

「初代ジム?」

「いや、ジムVにできるほどの状態じゃないUだ。初代は博物館行きだよ」

「なんでです?」

「Vになると、ムーバブルフレームの構造が一部入るんだが、改修よりヌーベルを作ったほうが性能が良いからね。有事続きだから、ヌーベルのほうが今は残ってると思うな」

「ヌーベルジムVって、スペック自体はジェガンよりも低かったような?」

「スペックはな。でも、ヌーベルのほうが改修タイプより精度がいいから、熟練兵が乗ってるんだよ。だから、陸軍にはまだ残ってると思う」

実際、少数ながら、ヌーベルジムVはダイ・アナザー・デイで動員されており、確認できる限りでは、この戦が最後のご奉公であった。既にジェガンの後継機達が使用されているからだが、堅牢性により、ダイ・アナザー・デイに残存する多くの個体が使用されていた。

「陸軍も相乗りして参加してるから、こっちの方面だと、意外に見る。まぁ、海軍のアクア・ジムよりずっとマシだけど」

「あれ、どうにかならないんですかね」

「ジェガンを改修する話もある。水陸両用機自体、一年戦争で存在意義が失われたしな。それにVA-3M使えば事足りるんで、アクア・ジムの後継機はジェガンの改修で落ち着くそうだ」

「ジェガンのバリエーション増えすぎですよ」

「大型MSとしては、あれが一種の到達点だからな。扱いやすいのさ。多分、戦線で一番動いてるの、今でもジェガンだよ」

「小型機に駆逐されないんですね」

「部隊によっては一撃離脱で対抗できたし、漫画みたいにビームシールドも万能じゃないからな」

アニメでは鉄壁に描かれるビームシールドだが、実際はZ系のライフルやハイメガランチャーなどの大火力火器は防ぎきれないと明言するカミーユ。実際、部隊によってはZ系用ビームライフルを火力強化兼狙撃用に運用し、小型機狩りをする手練も多い。また、シールド発振器を破壊すれば、むしろ被弾に脆い(装甲の厚さそのものはガンダムタイプでもなければ、旧来の機種よりも薄い機種も多い。クロスボーン・バンガードの機種は特に顕著であった)弱点が判明したのも、普及の妨げとなった。その事が連邦軍がアナザーガンダムのミドルサイズを模索する理由であった。(最も、アナザーガンダムの圧倒的強さはガンダニュウム合金という高価なマテリアルの採用あってのことだが…)

「そうなんですか」

「小型機はビームシールド発振器さえ壊せば、歩兵の対戦車ミサイル一発で壊れかねないから、特務じゃ嫌われ者なんだ。ジェスタはそのための機体さ。ユニコーンの護衛は方便さ」

ジェスタは特務部隊がジェガンでは対応出来ないが、ガンダムタイプを持ち出す程ではない任務に対応するため、要求に答えるため、νガンダムの素体と同等にまで基礎スペックを引き上げて開発された。ロンド・ベルも受領しているように、そういうコマンド任務向けの高級なジェガンだ。

「そいつらがヒスパニアを山狩りして、ティターンズの橋頭堡を潰しにかかってるが、ティターンズも手練が多いから、俺のようなZ乗りは重宝されるのさ」

ティターンズは元々がエリートの集団であったので、当時の平均的な特務部隊よりも強い場合もあり、そういう手練をガンダムで始末するのが、アムロ達ガンダム乗りの仕事であった。

「つまり…クマ退治のマタギみたいな?」

「例えが古いが、そうだな」

芳佳の古い例え方に苦笑するカミーユ。

「スイーパーとかって、言って欲しかったけどな。要は掃除屋に近いさ、俺達ガンダム乗りは」

「いつからそんな風に使われだしたんです、ガンダム」

「古くは一年戦争の時、ジムで対抗出来ない相手に、ガンダムタイプを使用したのが最初って言われてる。あと、新しいところだと、アナザーガンダムのスーパーロボットみたいな強さが決定的になったな」

ヒスパニアでは、ティターンズの手練がバーザムやTMSを持ち出すので、必然的にガンダムタイプで対応することも多い。アムロはその筆頭で、既にアッシマー12機を一分で撃破する活躍を見せている。

「アムロさんはアッシマーを一分で12機落としたよ。アムロさんにガンダムは鬼に金棒だな」

パイロットとしては、アムロとジュドーに劣ると評されるカミーユ。自分はそう行かないと謙遜する。

「いやだなあ、ヤザン・ゲーブルとかと戦って勝ってるじゃないですか」

「あの時は火事場のクソ力みたいなブーストで斬っただけだからなー」

カミーユもパイロットとして実力は高いが、天才であるアムロやジュドーと比べると、判断力などは落ちる。そこが二番手と言われる所以だが、Zでハンブラビやジ・オとチャンバラを出来ていたので、特務部隊のパイロットからは『あいつはおかしいよ』』と高く評価されていたりする。(Zでチャンバラをできるというのは、連邦軍ではエースパイロットの証とされる)

「いやいやいや、Zガンダムでチャンバラできる時点で……」

「そうか?俺はそう思った事ないが…」

キョトンとするカミーユだが、Zは彼のアイデアが使用された機体であるので、チャンバラできて当たり前だ。しかし、アムロ、ジュドー、はたまた、コウ・ウラキのようなガンダムタイプ経験者でなければ、チャンバラは出来ない操縦特性なので、メタスの血が入ったゼッツー系統の機体を除いた純粋なZ系でチャンバラすることはステータスなのだ。

「パイロットの間でステータスなってますよ?Zでのチャンバラ」

「そうか……考えたことなかったな…」

「ゼータ系は先輩も言ってたけど、手練しか資格もらえないそうですから」

「ああ、あの子か。最初会った時は小さかったから、子供だと思ったよ」

「見かけを操作してたから、そうでしたけどね。今は大きくなってますよ」

「ああ、ニナさんから聞いたよ。プルトニウスをもらったそうだね?」

「ええ。良ければ見ます?先輩が出てるんで、整備中ですよ」

「頼む」

カミーユは芳佳とその婚約者、黒田といった一行に連れられ、駐屯地で整備中のZプルトニウスを見学する。MSZ-006PL1という型式番号が与えられ、生産態勢に入ったプルトニウス。リ・ガズィよりよほど高価だが、この世界においては、YF-29よりは安価とされ、第二世代Zタイプとして増産が決定されている。黒江が得た個体は二号機で、Iフィールドの作用で駆動不能に陥る時のためのバックアップの駆動方式を組み込む改良が施されたプロダクトモデルと言えるものだ。これは戦線参加後にアナハイム・エレクトロニクス社がオーバーホールの際に施した改良であり、一号機より安定性は上であるらしい。機体の色は黒江がVFで用いているのと同じ、扶桑軍用機の配色であるが、MSらしい関節部などの塗装剥げや汚れが見られ、如何にもと言えるカラーリングで、自衛隊員に好評らしい。

「日本軍の軍用機の配色か。自衛隊にもいるんなら、ネイビーブルーにしそうなものだけど」

「カミーユさん、それ、イギリス海軍の色だったような」

「そ、そうか」

「えーと、ロービジ迷彩って言うんじゃなかったかな。23世紀じゃZプラスがしてましたよ」

「すまん、勉強不足だった」

「まー、青系はF-2がしてるんで、合ってますよ。23世紀じゃ珍しくなりましたからね」

「宇宙でM粒子の戦闘だと、目立つ色が好まれるしな」

「まー、地上での文化ですよ。先輩はウチの標準塗装をしてますけど」

「なるほどなぁ」

「義勇兵に受けるらしいですよ、このカラーリング。空自の連中は洋上迷彩に塗ってくれって頼んだらしいですけど」

「ウェーブライダーだと、ステルスとかは関係ないしな」

「空自の連中は記念写真取りたがってますよ。Z系は人気ですからね」

よく見て見ると、アナログ式フィルムカメラで勇姿を撮ろうとする自衛隊員の姿が遠目に見える。プルトニウスともなると、コアな機種なためか、全体図を撮ろうと奮闘する者もいる。黒江のプルトニウスは意外に人気者だった。



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